日本共産党参議院議員 紙智子
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紙 智子参議院議員に聞く

農地法「改正」で問われる農業再生の課題
紙 智子参議院議員に聞く
 前国会で農地法が「一部改正」されました(六月一七日)。一九五二年の農地法制定以来の大転換であり、大企業を含む国内外の法人に利用権を認め、日本農業のあり方に関わる重大問題です。この審議で論戦に立たれた、紙智子・日本共産党参議院議員に、国会審議で明らかになった問題点、これからの農政・農業で、求められる課題を聞きました。(聞き手は編集部)

日本の農業危機と農地法「改正」

 ・・日本の食料・農業をめぐって、食の安心・安全が国民の関心の的になっています。

 ◎農業を「雇用の受け皿に」と言うが…
  そうですね。この間、毒入り中国餃子問題や汚染米の不正規流通事件、食品の偽装表示問題など、食の安全をめぐる問題は国民の安全な食料確保への関心を高めました。
 また気候変動のもとで世界的な食料危機がすすむ一方、投機による穀物価格の高騰が起こり、とくに昨年秋のアメリカ発の金融危機以降、食料、農業のあり方が重要な国政の争点になりました。それは内閣府の世論調査でも、・食料自給率を向上すべき」が九三%、食品は「国産を選ぶ」と八九%が答えていることでも明らかです。
 また、・年越し派遣村」など、雇用問題が深刻になると、・今こそ農業分野を、受け皿として見直すときだ」と、・農業のすすめ」・儲かる農業ビジネスの始め方」といったタイトルの雑誌が書店に並びました。
 しかし、バラ色に描かれている農業と現実のギャップはとても大きいものです。多くの現業の農業者は必死で働いても、生産費をまかなえない経営状況にあるのが現実です。昨年の燃油、穀物、資材、飼料高騰で大きな打撃を受け、借金を拡大したり、やむなく離農を決断する農家が増えています。・子どもに後を継いでほしいとはいえない」という現実は今も改善されていないのです。
 北海道では規模拡大路線が進められて来ましたが、大規模な経営ほど価格下落の打撃も大きく、稲作では生産費を下回る米価のもと、家族の労賃も払えない。北海道で一九六〇年に二三万戸あった農家数は、現在六万戸を割る状態です。
 ・・その食料・農業の問題は、政治的にも大きな焦点になっていますね。
  食卓を通じて日本政治の問題点が浮き彫りにされ、政府も手直しをせざるを得なくなり、先の通常国会では、・米三法」(食糧法案、米トレーサビリティ法案、米粉・エサ米法案)など、一定の是正のための法を出してきました。汚染米の問題一つとっても、国民の毎日の食事に関わる最も切実な問題です。しかし提出された法案の中には、そうした食への不安の世論を逆手にとって、中身は財界の要求にこたえる方向での「改革」になっていることが大きな問題です。その具体的な現れが、今国会で、わずかな審議で採決、成立させてしまった「農地法等の一部改正」でした。
 農地法というのは、一九五二年に制定された農政における基本的な法律の一つです。農業経営と農業生産の担い手のあり方を規定するとともに、多くの小作農民を貧困にさらしてきた地主制度を取り除いて、戦後の農業農村の民主化と、その維持に重要な役割を果たしてきました。その後一九六二年の改正をはじめ、数度の規制緩和がされ、賃貸(借)を中心にした農地の流動化が図られました。その下でも、農地法は、耕作する者を基本とする、いわゆる「耕作者主義」が維持されてきました。これは、農作業に従事する者にのみ、農地に関する権利を認めるという原則であり、これがあったからこそ、農業と農業経営は地域に根ざした主体によって担われる経済活動であり続けたし、農村社会の安定性も維持されてきたといえるのです。今回の農地法「改正」は、大企業を含む企業に農地の利用権を全面的に認めるという、戦後農地制度の根幹に関わる大問題でした。

農地法「改正」は耕作放棄地解消にならない―大臣も認める

 ・・今回の農地法「改正」はどこが問題ですか。
  当初、与党から出された「改正」案の最大の問題点は、農地法の「農地は耕作者のもの」という原則を解体することにありました。・改正」案は、第一条・目的にあった「耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整し、もつて耕作者の地位の安定と農業生産力の増進を図ることを目的とする」を削除しました。代わりに、原案では「農地を効率的に利用する者による農地についての権利の取得を促進し」と置き換えました。
 つまり、・耕作者」という文言をいっさい削除し、・効率的な利用」が図れれば農外企業でも誰でもいいという考え方への転換を示すものでした。さらに政府は、今回自由化するのは農地の「貸借」に限っており、・所有権」については従来の規制を維持すると強調しましたが、耕作者主義を放棄した下では、次には大企業を含む国内外の企業に農地の所有権まで認めることにならざるをえません。
 私たち日本共産党は、国会議員団として「農地法等『改正』についての見解」(四月二一日付)を発表しました。そこでは「耕作者主義の原則を放棄して農地は守れない、もうけ本位の農外企業に農地を委ねるわけには行かない」と批判しています。
 衆議院では、わが党の農林水産委員がいないため、民主党と自民党だけの修正論議でしたが、その中で第一条の目的について、削除した「耕作者の権利」は復活しましたが、・効率的に利用する者」という規定はそのままです。農業生産法人への農商工連携企業の出資割合を五〇%未満まで認め、農地の所有権を持つ農業生産法人に対する農外企業の支配をいっそうやりやすくするなど、法改正の当初の目的は変わっていません。また、参議院の議論では、自民党の議員からも、外国企業の規制がないのは問題との指摘が出されました。
 しかし国会の審議は、衆議院でわずか一七時間の審議で採決。参議院では一回の現地調査を行い、六月九、一一日の参考人質疑と政府質疑、そして一六日のたった三回、計一五時間の審議で可決してしまいました(六月一七日、参院本会議、自民、民主、公明の賛成多数)。

 ◎企業の農業撤退でさらに耕作放棄地が
 ・・実際の国会審議や参考人質疑を通じて、どんな問題点が明らかになりましたか。
  一番大きなポイントは、耕作放棄地をなくすという改正の論拠とされていた点が、審議の中で見事に崩れてしまったことです。
 政府の提案理由では、・農業が深刻な危機的な現状にある。特に農村は高齢化し、耕作放棄地が広がっている。若い担い手が育っていないために、このままでは農業はなくなってしまう・、だから「意欲」ある担い手に農地利用を広げるのだと説明していました。農地の荒廃は、国民の多くが感じていることですが、そのことを口実に、農業に企業が参入すれば解決できる、そのためには「農地法」を変え、・貸借」で株式会社でも誰でも農地を利用できるように自由化するという論立てだったのです。
 そこで私は、石破農水大臣に対し、そもそもなぜ今、担い手が減って、耕作放棄地が増えているのかについて、質しました(六月九日、参院・農林水産委員会)。すると石破大臣は、・(耕作放棄の)一番の理由は、儲からないからだろうということは、よく承知している」とあっさり答えたのです。合わせて、耕作放棄地解消のために、・自己負担の軽減等々、補正予算の本予算等々で図っておる……法律、予算、事業で支援をしていかねばならない」と言うのです。私は、であるならば農業で採算が成り立たない問題を解決するのが先であり、農地法を変える理由はないと指摘しました。
 加えて私は、北海道・千歳市で電機機器メーカーの「オムロン」が参入したトマト栽培工場の撤退の例を示して聞きました。このトマト工場に行ってみると、広さが東京ドームの一・五倍という、端が見渡せないほど広大な温室です。それが儲からないとして、わずか三年で撤退し、三五万本のトマトが枯れたまま残されました。現在、新しい引取り手が見つからず、逆に広大な耕作放棄地を広げているではないかと追及しました。
 すると石破大臣は、・このケース(オムロン)は示唆的だ。販売単価が折り合わない、たぶん安定供給が難しかったのだろう」と述べたうえ、・農業はそんなに甘いものではありません」とか、・これから先、企業の農業経営は相当に慎重であらねばならないと、経営者にご理解いただけたのではないか」などと、まるで人ごとです。私が聞いた、大企業の撤退による耕作放棄地をどう防ぐのかという点は、まったく答えませんでした。
 この企業参入が、耕作放棄地対策につながらない問題は、続く参議院の参考人質疑などでも、より鮮明になりました。
 居酒屋で有名なワタミ関連会社、(株)・ワタミファーム」の代表取締役社長の武内智氏が参考人の一人でした。武内氏は、あるインタビュー記事で、千葉県で後継者がいない農地を構造改善整備で町が借り上げる制度を使ったが、・この土地に三〇〇〇万円投入したがまったく生産できず。私たちはこれで昨年赤字になった。今後、耕作放棄地などでは私たちはやらないことにした」と書いているのです。これを紹介して、企業の側でも優良農地がほしいのであり、結局、資本力の大きい企業が地域の農業者を追い出していくことにつながるのではないか、と大臣に質問しました。
 大臣の答弁は、・所有権の取得は限定される・、・家族経営を中心とする農業の取り組みを阻害するような権利取得は排除する」と一般的に述べるだけでした。
 そして武内氏は、六月一一日の参考人質疑で私の質問に、次のように証言しました。・悪い土のところはやらない。JAでさえもたぶんできないだろう。それをどうして民間企業が赤字を自分たちのお金を出してやらなければならないのか・。さらに「いい農地でやってもそう簡単に利益が出るものではありません。企業は利益追求というが、農業の事業については、どうやったら利益が出るか教えてほしい」と。

 ◎経済界の長年の要求に沿って
 こんな発言をされて、石破大臣の答弁も少し変化しました。民主党議員から、・何のために一般の企業の参入ができるように法改正を行う必要があるのか」と質問され、大臣は「要は、多様な担い手多様な主体が入るべきだ。それによって耕作放棄地が解消されるとも思っていないし、企業の側が耕作放棄地に喜んでやってくるとは思っていない」というのです。これは本当に驚くべき答弁です。・改正」の目的に掲げた耕作放棄地解消を、自分から否定したわけで、こんな無責任な話はありません。
 私の次の質問(六月一六日)で、その矛盾をつくと、・いろんな政策を総動員しながら耕作放棄地を解消する。農地法の改正はその中の重要な一つ」と言い訳に終始しました。結局、・耕作放棄地対策」というのは、口実であって、本当の狙いは、長年、財界が要求してきた、企業による農地支配を可能にする道を開くことにあったわけです。
 経済財政諮問会議の「平成の農地改革」は「骨太方針二〇〇八」(〇八年七月)に盛り込まれましたが、その中で「『所有』と『利用』を分離し、効率的な農地利用」を進め、・企業型の農業経営」の重要性を説いています。さらにさかのぼれば、一九九七年九月に経団連が出した「農業基本法の見直しに関する提言」の中身と重なっています。そこでは、・株式会社形態による農業経営の導入」として、株式会社の農地取得を段階的に進めていく。そのため第一段階で、・農業生産法人への株式会社の出資要件を大幅に緩和」し、第二段階で「借地方式による株式会社の営農を認め・、最終的に「一定の条件の下で株式会社の農地取得を認める」と、株式会社の農地取得解禁への方式が、細かく提案されていたわけです。まさに、これまでの農地法の緩和の経緯は、この財界の長年にわたる要求に沿ったものと言わざるをえません。

 ◎農業関係者、自治体から批判の広がり
 ・・一方、国会外では、農地法「改正」へ農業関係者・諸団体、研究者などの批判、取り組みが広がりましたね。
  まず、最初の政府案に対しては、大学教授・研究者や農業団体から異論が出され、衆議院の参考人質疑で出た問題点を受けて、民主党が修正を検討せざるをえなくなりました。自民党は、その修正案を基本的には丸飲みし、衆議院を通過させましたが、農地法「改正」に対する懸念の大きさの反映です。
 その後も、各界著名人一五人による共同アピール「私たちは、農地法『改正』に反対です」(五月一一日)が発表され、修正されても「やがて大企業の農地所有に道を開くことになりかねないという懸念を払拭できません」と指摘しました。農民連・全国食健連を先頭に取り組まれた法改正反対署名は・多数の農業委員を含む二〇〇〇団体近くに広がりました。
 地方自治体からは、一県一二市七町、計二〇自治体から、意見書が出されています。・農地取得の規制緩和に反対し優良農地の確保と有効利用を求める・、・農水省の農政改革プランではなく農業再生に役立つ農地制度を求める」といった内容です。こうした意見表明は、今後、法律が施行されていけば、さらに多くの関係者が現実問題として直面し、その矛盾が噴き出すことになるでしょう。これからの農地法をめぐる動きに重要な意義をもつと考えています。

食料・農業を守る農政へ転換しよう

 ・・今回の農地法をめぐる事態をみても、農業政策の転換が緊急の課題となっていると思います。
  それは日々、痛感されます。今、耕作放棄地問題を取り上げましたが、政府は、そもそも今日の現状を生み出した自らの農政の責任には、フタをしたままです。
 食料自給率の回復が待ったなしのわが国で、耕作放棄地の解消や農地の有効利用が不可欠であることは言うまでもありません。従来の農地法でも、本人が耕作するなら農地の賃貸借も自由に行われ、標準小作料など借地農業者の権利を擁護する条項も含まれていました。実際に、外から企業を入れる発想ではなくて、地域に根ざして耕作放棄地を農地に再生させようとの試みが広がっている地域もあります。こういう動きを、政府・自治体が支援するし、また地域に密着した食品企業などの協力・共同を強めることも必要です。

 ◎価格保障・所得補償制度がカギに
 しかし今、国として最も先に行うべきなのは、条件不利地域を含めて大中小多様な農家が、そこで暮らし続け安心して農業に励める条件を抜本的に整えることです。それと地域の努力が結びついてこそ耕作放棄の解消も進みます。
 たとえば農水省の推計によると、二〇〇五〜〇九年度の中山間直接支払いによって、農地七万六〇〇〇GG・・2F47が保全されています。また農用地の減少を防げたことによる多面的機能の評価額は、洪水防止、水源の涵養、土壌侵食防止などの効果を加え、年間で一五八七億円に上ることも明らかにしています。これも営農の継続によってこそ、農地の多面的機能を維持することができるということを示すものです。
 この点で、改めて、わが党が発表した「農業再生プラン」(食料自給率の向上を真剣にめざし、安心して農業にはげめる農政への転換を、〇八年三月)の方向での実践が重要になっています。
 現に農業者が営農を続けられるためには、再生産可能な価格保障、所得補償制度がどうしても必要です。価格保障制度の要求を出すと、それはWTO協定上できないとの思い込みも多いのですが、各国の国内価格支持については、一定の枠が許されています。実際に、各国ともそれを活用して農業を守ってきたわけで、日本でも現行の枠内で可能なことは、国会論戦で「理論的には可能」と政府答弁されている通りです。要は政府にその気がないことが問題であり、これは国民の運動で迫っていく必要があります。
 農業の担い手政策でも、大本には、農業では生活できないという問題があります。そのためにも生活の見通しが持てる価格保障制度が欠かせません。
 農地法の議論でも明らかになったように、日本農業の担い手は、大企業に解禁するのではなく、現在も将来も、自ら耕作に従事する人と地域に基盤をもつその共同組織を基本にすることが、まず大切です。家族経営を軸とした日本型農業の再生をはかることによって、農村社会や文化、国土や環境の保全という観点からも現在の農家戸数を減らさず、維持することができます。
 その上で、集落営農や農業生産法人、農作業の受委託組織、NPO法人、農協など、さまざまな形で生産や作業を担っている組織も支援していく。合わせて、地場農産物を販売し、または原材料とし、住民の雇用、地域経済の振興にもつながる食品企業など、農業の補完的担い手として位置づけていくことも大事です。
 ・・今度の総選挙では、農業分野でどのような選択が問われているでしょうか。
  今、お話しした農業分野をはじめ、自公政権のゆきづまりは、政治・経済のいたる分野で極限状態です。総選挙では、この自公政権をきっぱり終わらせる審判を下す必要があります。
 今日、国際的にも食料と農業をめぐる情勢は、地球環境の変化、経済危機の影響下で、ますます深刻さを増しています。途上国などの深刻な経済状況、世界の栄養不足人口の増大など、課題は山積です。この中で、WTO農業交渉で、公平公正な国際ルールを確立することはいよいよ切実です。・食料主権」という世界の大道に立って、日本でも農業を基幹的産業と位置づけ、当面、食料自給率が五〇%を超えるように、農政の転換が切実に求められています。ぜひ今度の総選挙で、自公政治に代わる新しい日本の進路を切り開きたいと思います。
 政府は、この間の国民の批判を受けて、部分的な手直しはしますが、輸入自由化拡大を前提とし、国内対策も大規模経営のみ対象にした経営安定対策の枠組みは変わりません。市場原理で外国産農作物との競争で勝ち抜ける「農業構造の改革」路線に固執していては、日本農業再生はできません。
 また民主党の政策には、食料輸入自由化推進・企業の農業参入など、日本農業を守る上で、相いれない主張もあります。共産党は、一致点では協力し、国民の利益にはならない点は、きっぱり反対し行動するという立場です。そのために幅広い国民との共同を広げるとともに、総選挙で、農民や国民の願いを正面から取り上げる日本共産党の前進を、全力で訴えたいと思います。
 ・・どうもありがとうございました。
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