<第217回国会 本会議 2025年5月30日>


◇価格形成法案(食品流通取引法改正案)/いま問題になっている米価高騰をめぐる危機打開のため、ゆとりある需給計画で米の増産に踏み切るべきだと強く迫りました。

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。会派を代表して、食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律等改正案について質問いたします。
 農政の焦点になっている米価の高騰についてお聞きします。
 昨年の春先から、米不足が発生していると町のお米屋さんから訴えられました。私は昨年の六月に農水省に備蓄米の放出を求めましたが、米はあると言って応じませんでした。七月から深刻化しても、新米が出てくれば落ち着くと言い続けました。米価高騰に苦しむ国民の世論に押されて、備蓄米の放出を決めたのは今年に入って一月です。それでもスーパーや米穀店に出たのは三月末で、放出量の僅か一%、米価の高止まりは続いたままです。
 政府に余りにも危機感がなかったと言わざるを得ません。小泉農林水産大臣の認識をお聞きします。
 新たな政府備蓄米の売渡し方式についてお聞きします。
 農林水産大臣は、米価を五キロ二千円に下げると宣言し、競争入札から随意契約に変えて、六月初旬には店頭に並べると発言しました。暮らしが悪化する下で、店頭価格の引下げは国民の願いに応えることであると思います。しかし、米穀店や業者から話を聞くと、疑問や不安が出されました。
 一つは、公平感が保たれるかということです。既に入札で政府備蓄米を買った卸や小売店は自分たちでトラックを確保して配送していますが、随意契約の場合、輸送料は国が負担する、物流を無料にするといいます。不公平をどう克服するのでしょうか。
 二つ目は、備蓄米をいかに消費者にスムーズに届けるのかという問題です。通常の物流に新たに備蓄米を流すための物流が必要になりますので、トラックと運転手を確保する必要があります。米のカビ検査や玄米を精米するための精米機の確保、新たなパッケージ作りが必要となります。こうした新たな負担が生まれます。競争入札で購入した場合も含めて、これ支援するべきではありませんか。
 三つ目は、随意契約米を二千円で出すことで全体の米価の高騰を抑えることができるのですか。農林水産大臣にお答えいただきたいと思います。
 同時に、今必要なのは、米価の高騰に苦しむ経済的困窮者、子供食堂やフードバンク、さらには病院、高齢者施設、保育園など、社会福祉施設や学校給食に米を確実に届ける支援を求めます。文科大臣、農林水産大臣、お答えください。
 次に、農政の根本問題で農林水産大臣に質問します。
 なぜ米価が高止まりしたのでしょうか。昨年の夏以来、米の業者は、米不足の不安に駆られ、直接農家の庭先に高値で買い付けに行き、集荷競争が起こりました。米価が安定しないのは、流通を自由化した上、米価は市場で決まる、政府は価格に介入しないという考え方に固執したからです。
 農業で生活できない状態に追い込んだことも問題です。
 生産者の年間所得は一万円、時給十円が続きました。農業で生活できないので、二〇一〇年から二〇二〇年に農家戸数は四十六万戸も減少しました。農地もこの十年間で二十六万ヘクタール減少、米の生産量は十年間で百三十五万トンも減少しました。生産者には減反を押し付けて、供給量の不足を招いたことが米価の高騰につながったのではありませんか。
 政府の需給見通しにも問題があります。
 生産者には主食用の米が余らないようにぎりぎりの生産を求め、備蓄もぎりぎりの水準です。今の需給計画では、異常気象、温暖化や経済状況などの影響による僅かな需給の変動で米不足や価格高騰が起こる、そのことが今回明らかになりました。
 米をめぐる危機的な状況を打開するには、ぎりぎりの需給計画から、ゆとりある需給計画に変えるべきです。そのためには、米の増産に踏み切るべきです。明言いただきたいと思います。今の備蓄量は一・八か月分、百万トンです。公的備蓄こそ増やすべきではありませんか。
 生産者と消費者が安心できる政策が必要です。
 生産者をめぐる状況は厳しいままです。資材費が高騰し、米価が上がっても長年の赤字を埋める水準には至っていません。二千円が独り歩きしないか不安の声が上がっています。生産者にとって再生産可能な米価が保障され、消費者にとっても負担が重くならないようにするべきです。安定供給と価格の安定は国の役割だと考えます。そのためにも、農家が安心して増産に励めるように価格保障、所得補償を抜本的に充実すべきです。農業所得に占める補助金の割合は欧米並みに拡充すべきです。農林水産大臣、答弁を求めます。
 トランプ関税について聞きます。
 アメリカは、ミニマムアクセス米の輸入枠の拡大、大豆、トウモロコシなど、輸入拡大を求めていると報道されています。米通商代表部、USTRは、日本に農産物の更なる市場開放を迫っています。日本の農業を犠牲にしてはなりません。江藤拓前農水大臣は、日米貿易協定の交渉が乾いた雑巾を絞るようなものだった、これ以上の輸入自由化はできないと述べました。小泉大臣も同じ認識なのか、お聞きします。
 日本政府は、これまで牛肉・オレンジの輸入自由化や米輸入などの圧力に屈して自由化を進めてきました。安心、安全な食料は日本の大地から。圧力に屈せず食料主権を守ることを求めます。
 法案について、以下、農林水産大臣に質問します。
 生産者は、農作物の価格を自分でコントロールできません。高騰する飼料、資材などの生産コストを販売価格に転嫁することを願っています。しかし、本法案は、農家経営の持続性ではなく、食品等の持続的な供給になりました。これで農家経営の持続性は保たれるのでしょうか。
 政府が参考にしたというフランスの法律には明記されている農民の労働報酬の保護の文言が、本法案にはありません。昨年、岸田文雄首相は、人件費等のコストに配慮をした価格形成の仕組みの法制化をすると答弁をしました。ならば、そう明記すべきではありませんか。
 農作物の買いたたきを防ぐことが必要です。法文の文言は、適正な費用ではなく、合理的な費用となっています。これで買いたたきは防げるのでしょうか。
 生産コストは、品目や時期、地域によって変動します。生産コストはきめ細かく把握することが必要です。その役割を担う人員、特に減らされ続けた公的統計の人員を増やして体制を強化すべきではありませんか。
 一方、加工、流通、販売に関わるコストは企業秘密もあって明らかになりません。流通、販売業者は生産側より相対的に力が強いのが実態です。適正な価格形成を目指すには、法案で設置が明記されたコスト指標作成団体の役割が重要です。高い専門性や独立性を持たせる必要があるのではありませんか。
 コスト指標作成団体の実効性を確保するためには、変動する生産コストを自動的に販売価格に反映させる仕組みが必要ではありませんか。
 以上、お答えください。
 日本共産党は、生産者に自己責任を迫る新自由主義的農政ではなく、人と環境に優しい農政の転換が必要だと考えます。農業を日本の基幹的産業と位置付け、食料自給率を高め、軍事費の拡大ではなく農業予算を増やすように求めて、質問といたします。(拍手)

   〔国務大臣小泉進次郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 小泉進次郎君) 紙智子議員の御質問にお答えいたします。
 米の現状認識についてお尋ねがありました。
 令和六年産米の生産量が前年よりも十八万トン多かった一方、流通の幹となっている集荷業者への出荷数量が三十一万トン減少しました。このため、これまでの入札で三十一万トン売り渡しましたが、残念ながら、流通関係者の間では引き続き強い不足感があり、スーパーでの店頭価格は依然として高止まったままです。
 現在、昨年の二倍にもなっている米価は引き下げなければなりません。まずは八月までの緊急的な措置として、スピード感ときめ細やかな目配りを持って今回の随意契約による売渡しを行い、市場を落ち着かせて、消費者の米離れを防ぐことが重要だと考えています。
 次に、備蓄米について、輸送量、精米や物流への課題、米価の高騰への効果、子供食堂等への支援についてのお尋ねがありました。
 輸送量については、随意契約による政府備蓄米の売渡しにおいては多数の買受け者がいることから、円滑に倉庫からの出庫、輸送等が行えるよう取り組み、国が一元的に対応しているところです。
 また、精米や物流への課題に対しては、今週、国土交通大臣や、精米等の機能を持つ卸売業者の団体の方々に私が直接お会いし、スピーディーな備蓄米の流通について協力の要請を行っており、よく連携して進めていきます。
 さらに、町の米穀店の方々の精米機能も活用いただく観点から、本日から開始の随意契約による売渡しにおいては、町のお米屋さんなどを対象とすることとしています。
 米の価格については、まずは八月までの緊急的な措置として、今回の随意契約による売渡しを行い、市場の価格を落ち着かせ、消費者の米離れを防ぐことが重要であることから、スピード感を持って引き続き対応していきます。
 また、子供食堂等への支援については、農林水産省では、子供食堂等に対し、食育を目的として政府備蓄米の無償交付を行っています。さらに、政府備蓄米の売渡しに当たっては、集荷業者、卸売業者、小売業者の方々にも、病院や学校給食等への備蓄米の円滑な供給に配慮いただくようお願いしてきたところです。
 引き続き、こうした施設等への備蓄米の供給については、よく目配りをしながら対応していきたいと考えております。
 次に、米の増産と公的備蓄の増加についてのお尋ねがありました。
 七年産の主食用米は、買入れを当面中止している備蓄米と合わせ百三十三・四万ヘクタールとなっており、昨年から四十万トン増の七百十九万トンが主食用として供給される見込みです。この百三十三・四万ヘクタールは、過去五年間で最大の生産面積となる見込みです。
 さらに、産地に向けて、主食用米の作付けについて前向きになれるメッセージを発信するとともに、消費者の皆様にもこのような増産の見通しをしっかり伝えていきます。
 また、政府備蓄米の備蓄水準については、十年に一度の不作等の事態等があっても不足分を補って国産米で一年間供給できる水準として、百万トン程度としています。その水準については、参議院農林水産委員会の決議において、「今後検討される新たな水田政策の下においても、米の生産・流通・備蓄政策全般について必要な検証を行うこと。」とされたことを踏まえ、よく検討してまいります。
 次に、価格保障、所得補償の抜本的充実と、農業所得に占める補助金の割合を欧米並みに拡充すべきとのお尋ねがありました。
 各国で比較可能な最新の二〇二一年のデータにおける農業所得に占める直接支払の割合は、日本五七%、EU六三%、アメリカ一二%であり、我が国の直接支払の水準が欧米と比べて低いとは考えておりません。
 今後の農業者への支援の在り方やその水準については、新たな食料・農業・農村基本計画に即して、令和九年度に向けた新たな水田政策の在り方を検討していく中で、与野党の垣根を越えて議論を深めてまいります。
 次に、日米協議に対するスタンスについて、江藤前大臣と同じかというお尋ねがありました。
 今後のアメリカとの協議に当たっては、日本の農業、生産者のためにならないものは認められないとの立場で、政府一丸となって取り組んでまいります。その思いは江藤大臣と同じです。
 次に、法案の目的についてのお尋ねがありました。
 生産資材などの価格が高騰する中で、生産、製造、加工、流通、販売、消費の各段階を含め、特定の方にしわ寄せが生じる仕組みでは、食料の持続的な供給、ひいては食料安全保障を確保することはできません。このため、この法案では、農業経営の持続性を目的とするのではなく、食料システム全体で食料の持続的な供給を実現していくこととしています。
 次に、農民の労働報酬の保護についてのお尋ねがありました。
 食料の生産から販売の各段階では、人件費のみならず、肥料、飼料などの資材費、光熱費、輸送費などの様々な費用が掛かっています。このため、この法案では、御指摘の農民の労働報酬を特記するのではなく、食料システム全体を通じて、食料の持続的な供給に要する様々な費用を対象とし、これらを考慮した価格形成を促すこととしています。
 次に、合理的な費用についてのお尋ねがありました。
 この法案では、生産などの段階ごとに着目するのではなく、生産から販売に至る食料システム全体に着目して、食料の持続的な供給を図ることとしています。このため、考慮すべき費用についても、食料システムの関係者が相互に納得する合理的な費用を考慮することとしています。食料の持続的な供給を実現するためには関係者の理解と協調が不可欠であり、誠実な協議を通じて、買いたたきによる一方的な取引を抑止できるものと考えています。
 次に、生産コストを把握する体制の強化についてお尋ねがありました。
 費用を考慮した価格形成を進めるためには、何よりも消費者の理解が重要であり、消費者の手元に届くまでにどれだけのコストが掛かっているかを明確にすることが必要です。このため、コスト指標の作成に当たっては、公的統計だけでなく、業界データなど、生産から販売に至る各段階の関係者が把握し得る様々なコスト把握の充実に努めていくこととしています。
 なお、生産段階のコスト把握などの統計調査を担う農林水産省の統計職員については、行政機関のスリム化の中で定員合理化が進められてきたところでありますが、持続的な統計調査の実施のため、統計職員に加え、統計職員のOBや農業者などを専門調査員として確保しており、今後とも、正確な調査結果の提供に努めていく考えです。
 次に、コスト指標作成団体の専門性、独立性についてお尋ねがありました。
 コスト指標は、生産から販売に至る多くの関係者が活用するほか、消費者の理解を得る上で重要なものであるため、公正で正確であることが求められます。このため、この法案では、コスト指標作成団体の公正な運営がなされるよう、生産、製造、加工、流通、販売のうち、少なくとも複数の段階の事業者、事業者団体が参画するほか、正確な情報提供を受けることができるよう、その役職員に対して秘密保持義務を課すこととしています。こうした措置を通じて、コスト指標作成団体の専門性と独立性を確保してまいります。
 次に、生産コストを自動的に販売価格に反映させる仕組みについてのお尋ねがありました。
 農林水産省では、令和五年八月以降、生産、製造、流通、販売、消費などの食料システムの関係者が参画した協議会を開催し、費用を考慮した価格形成について協議してきましたが、関係者からは、価格決定はあくまでも取引当事者間で行うべき、価格が自動的に改定されるような強制的な価格決定方式では需給が考慮されなくなるなどの意見が示されたところです。
 こうした意見も踏まえ、この法案では、取引条件は取引当事者間で決定することとした上で、生産から販売までの各段階で誠実な協議が行われるよう求め、合理的な価格形成を促すこととしています。(拍手)

   〔国務大臣あべ俊子君登壇、拍手〕

○国務大臣(文部科学大臣 あべ俊子君) 紙智子議員にお答えいたします。
 学校給食に米を届ける支援についてお尋ねがありました。
 文部科学省では、全国学校給食推進連合会を通じて今般の物価高騰などの影響を聞いたところ、主食である米については、各学校設置者において年間使用量を契約していることが多く、基本的には学校給食に必要な量が確保されていると伺っているところです。
 文部科学省としては、現下の食材費の高騰が続く中でも学校給食が安定的に実施されるよう、教育委員会等に対して重点支援地方交付金の積極的な活用を促してきたところであり、引き続き、本交付金の活用を促すなど、学校給食用食材の調達に支障が生じないよう努めてまいります。(拍手)