<第217回国会 農林水産委員会 2025年5月20日>


◇改正森林経営管理法に対する反対討論

○紙智子君 森林経営管理法一部改正案に対する反対討論を行います。
 本法は、二〇一七年に規制改革推進会議と未来投資会議の提言を受けて、低迷する木材価格の議論がないまま、安価な木材の確保を求める大手の木材産業やメーカーの要望に応えて提出されました。今世紀に入り、世界各地で環境保全や自国の産業を育成するために丸太を禁輸する国が広がり、輸入木材に依存していた木材産業は、建材やバイオマス用木材等を国産材に求めていました。本法はこの意向に沿うものになりました。
 しかし、その手法は森林所有者を置き去りにして進みました。なぜなら、林野庁の調査で七一%の森林所有者が現状維持を望んでいたにもかかわらず、拡大意欲が低いことだけを殊更問題にし、森林所有者に適時に伐採、造林及び保育する責務を負わせ、その責務が果たせないなら市町村が介入し、木材を供給する仕組みにしたからです。
 森林所有者が市町村の集積計画に反対しても、市町村が計画に同意すべしと勧告を出して森林所有者が従わない場合は都道府県が介入すれば集積できるというもので、森林所有者の財産権や経営の自由を奪うものでもありました。林業の担い手は、森林を育て保全する森林所有者ではなく、伐採、搬出を行う素材生産者を初めて森林経営の担い手に位置付け、選別するものでもありました。しかも、職員不足に苦しむ職員の手当てを保障するものでもありませんでした。これでは、林野庁の調査でも明らかなように、林業経営体への再委託がうまく進むはずはありません。
 改定、改正案は、多くの問題を抱えた法律の再検証をするのではなく、地域経営管理集約化構想や経営管理支援法人制度をつくり、林業経営体への集積、集約化の迅速化とするものです。しかも、林業経営体が集約化構想を提案し、支援法人になることができることから、木を切りたい林業経営体に有利なシステムづくりになる危険性はますます強まることとなります。
 災害が多発し、森林の持つ多面的機能の発揮が求められているのに、地方議会の関与や地域住民の理解を得るものとはなっていません。本法案は、森林経営管理法が持つ問題の本質を変えるものではないので、反対です。
 また、森林法の改正は、林地開発許可制度において規制を強化するもので、必要です。
 以上を述べて、討論とします。

○委員長(舞立昇治君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより採決に入ります。
 森林経営管理法及び森林法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕

○委員長(舞立昇治君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、田名部さんから発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代さん。

○田名部匡代君 私は、ただいま可決されました森林経営管理法及び森林法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党、立憲民主・社民・無所属、公明党、日本維新の会及び国民民主党・新緑風会の各派並びに各派に属しない議員寺田静さんの共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    森林経営管理法及び森林法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  我が国の森林・林業は、木材価格の低迷、森林所有者の世代交代等により、森林所有者の経営意欲の低下や所有者不明森林が増加するなど、依然として厳しい状況にある。
  こうした中、人工林の六割超が利用可能な段階を迎えるとともに、二〇五〇年ネット・ゼロの実現等に向け、森林資源の循環利用を進める必要性が高まっており、再造林等に責任を持って取り組む林業経営体の確保と森林の集積・集約化を進めることが重要である。また、林地開発許可制度においても森林の公益的機能の確保が不可欠であることから、太陽光発電設備の設置等に係る不適正な林地開発に対しては厳正に対処する必要がある。
  よって政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 集約化構想及び権利集積配分一括計画を内容とする新たな仕組みが現場に浸透し、林業経営の効率化及び森林管理の適正化の一体的促進が円滑に進むよう、市町村及び都道府県と協力して、森林所有者、森林組合、民間事業者など、地域の森林・林業関係者に新たな仕組みの周知を徹底すること。
 二 集約化構想の前提となる協議の場の設置に当たっては、川上から川下までの事業者などの幅広い地域の関係者の参加を求めるとともに、デジタル技術を活用した森林資源情報の共有等を通じ、集約化構想の策定に向け、市町村や都道府県とこれらの地域の関係者が効果的に連携できるよう支援すること。
 三 新たな仕組みを含む森林経営管理制度により経営管理実施権又は所有権を取得した林業経営体による適切な森林の経営管理を確保するため、これらの林業経営体の経営管理の実施状況について、市町村と都道府県が的確に把握し必要な対応を行うことができるよう、適切な助言等を行うこと。
 四 市町村が、集約化構想や権利集積配分一括計画の作成等の新たな業務を円滑に実施することができるよう、市町村の林業部門担当職員の確保・育成を図る仕組みの確立、林業技術者等の活用に必要な支援の実施及び体制の整備を図ること。
 五 再造林等に責任を持って取り組む林業経営体を確保するためには、林業労働力の育成を図ることが不可欠である。中小事業者を含む地域の林業経営体の事業量の拡大や立木価格の適正化等による林業就業者の所得の向上、労働安全対策をはじめとする就業条件改善に向けた対策の強化を図ること。林業分野における外国人材の受け入れについては、労働災害発生率が国内他産業に比して非常に高い現状に鑑み、労働安全確保に向け、万全を期すよう、対策の強化を図ること。
 六 集約化構想を通じた集積・集約化に必要な条件整備が効果的に進むよう、デジタル技術を活用した境界明確化等の取組に対する支援を一層強化すること。
 七 路網は、主伐等による木材の安定供給や、森林の有する多面的機能の持続的な発揮に必要な造林、保育、間伐等の施業を効率的に行うために不可欠な生産基盤であり、災害時の代替路など地域のインフラとしても活用できることから、路網整備に対する支援を一層強化すること。
 八 我が国の住宅市場が縮小する中、森林資源の循環利用を図るため、住宅分野において輸入材の割合が高い横架材等の国産材への転換や、中高層建築分野における木材需要の創出など、国産材需要の拡大を図るとともに、これらの需要に対応した川上から川下までの安定的・効率的な供給体制を構築すること。
 九 木材の安定供給体制の確立に向けては、中継拠点としての中間土場等の整備、安全かつ円滑に運搬できる林道整備の推進を通じて、原木輸送の効率化を図るとともに、トラック運転手の育成や丸太を運搬する事業者への支援を一層強化すること。
 十 新たな仕組みを含む森林経営管理制度において中心的な役割を果たす市町村の負担軽減を図るべく、都道府県に対し市町村と積極的に連携し、集約化構想等の策定等に取り組むよう促すとともに、新設する経営管理支援法人制度による市町村事務のアウトソーシング、地域林政アドバイザー制度の活用などに対する支援を一層強化すること。
 十一 地域の実情に即した林業経営の低コスト化等に向けた先駆的な技術の開発・普及と民有林との連携の更なる推進のため、森林管理局等の地方組織の職員の人材育成、適正配置など、国有林野事業の実施体制を強化すること。
 十二 林地開発に係る命令違反者の公表制度の運用に当たっては、命令違反に係る情報を容易に把握できるよう、各都道府県において情報を収集・共有する仕組みを設けるなど、必要な措置を講ずること。
 十三 森林環境税及び森林環境譲与税について、集約化構想等の新たな仕組みへの活用を含め、市町村及び都道府県における一層の有効活用を促すとともに、地方公共団体の取組状況や制度創設の趣旨等を踏まえ、必要がある場合には、森林環境譲与税の使途や譲与基準を始め、適時適切に所要の対応を検討すること。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○委員長(舞立昇治君) ただいま田名部さんから提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(舞立昇治君) 多数と認めます。よって、田名部さん提出の附帯決議案は多数をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。