◇アイヌ墓地から無断で盗掘した遺骨は、今も大学や博物館、民族共生象徴空間(ウポポイ)に1921体保管されている。アイヌの遺骨をコタン(集落)に返還するよう求める/日本軍「慰安婦」、「河野洋平官房長官談話」(1993年)に反して、民間研究者が発見した関連資料を受け取り拒否・排除していたことが明らかになる。
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
今日はアイヌの遺骨返還について質問いたします。
アイヌは、明治以降、研究者によって研究目的に無断で墓地からこの遺骨が掘り出されて持ち去られました。二〇二四年の十二月現在でも、北海道大学には百五十一体、京都大学に六十一体など、全国十二大学に二百四十七体の遺骨があります。また、北海道博物館など、博物館には二十三体の遺骨が保管されています。北海道白老町の民族共生象徴空間、ウポポイ、ここの慰霊施設には千六百五十一体の遺骨が保管されています。分かっているだけで千九百二十一体の遺骨がアイヌのふるさとに返還されていません。
国連が二〇〇七年に採択をした先住民族の権利に関する国際連合宣言第十二条は、先住民族は遺骨の返還について権利を有すると書かれています。アイヌにはこの権利があるわけです。日本では二〇一九年に閣議決定された基本方針で返還方法を定めました。しかし、いまだに千九百二十一体もの遺骨の返還が進んでいません。なぜ返還が遅々として進まないんでしょうか。返還の手続を定めたガイドライン、大学が保管するアイヌの遺骨等の出土地域への返還手続に関するガイドライン、この要件が厳し過ぎるのだと思います。
地域への返還を希望する者は、自らが地域返還対象団体であることを確認するために書類を提出して申請するとあります。アイヌ自身が判断するならともかく、なぜ国が返還するにふさわしい人かどうかを判断するんでしょうか。伊東大臣、お願いします。
○国務大臣(アイヌ担当相 伊東良孝君) 紙智子議員の質問にお答えいたします。
ただいまお話にありましたように、大学の保管するアイヌ遺骨の返還につきましては、アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針を踏まえ、御指摘のガイドラインに基づき、一つ、御遺骨等の慰霊、埋葬を行う上で適切な者であること、また、慰霊、埋葬等を行う慰霊施設、納骨堂、墓地等を確保していること、三つ目に、慰霊、埋葬等の後に御遺骨等を継続的、適切に維持管理すること、これを出土地域への返還の要件としているものと承知をしているところであります。
いずれにいたしましても、詳細につきましては、本ガイドラインに基づき大学の保管するアイヌ遺骨の返還手続を所管官庁として実際に行う文部科学省及び国土交通省にお尋ねをいただきたいと思う次第であります。
○紙智子君 文部科学省にと言うんですけど、やっぱりアイヌ担当大臣ということで設定されたわけですから。かつては官房長官が責任者で答えていたんですね。それはアイヌ担当大臣というふうに決まったわけですから、省庁間を含めて是非解決に当たっていただきたいというように思うんですよ。
それで、アイヌは何々家の墓というようなお墓を作るわけではないんですね。元々はコタン、アイヌの集落の土に返すというのが習慣です。これ、大臣も釧路の市長さんやられていましたから、アイヌの皆さんの関係はよく分かっていると思うんですよ。それで、しかも返還にはこれ確実な慰霊等と求めていて、返還後、祭祀、供養方法などを決めた書類を提出するように求めています。これ負担が重過ぎるという意見が出ているんですね。
三月二十五日付けの北海道新聞では、アイヌの遺骨、遠い帰郷というふうに題して、えりも町の状況を報道しています。えりも町のアイヌ協会は、高齢化ということもあって、国が返還条件としているこの慰霊儀式を続けるということ自体がとても困難になっていると、それで遺骨の受入れを断念したというふうに言っているんですね。
申請する際の負担が重過ぎるというように思うんですけど、これいかがでしょうか。
○政府参考人(文部科学省審議官 松浦重和君) お答えします。
大学が保管しておりましたアイヌの御遺骨につきましては、アイヌ政策推進会議等における議論を踏まえまして、国が定めたガイドラインに基づきアイヌの方々への返還を進めております。
このガイドラインに基づく返還手続につきましては、申請するアイヌの方々の負担が軽減されるよう、文部科学省におきましても必要に応じて関係自治体、大学等との連絡調整や必要な情報の補完を行うなど、丁寧にフォローを行っております。
引き続き、アイヌの方々の声を十分に伺いながら、尊厳ある慰霊の実現のために内閣官房と連携いたしまして御遺骨の返還に真摯に取り組んでまいります。
○紙智子君 丁寧に対応されていると言うんですけど、実際上は、ウポポイに慰霊施設から返還申請があったのは恵庭市と小樽市、二つだけなんですよね。
それで、ちょっと今日、その小樽のことについてもお聞きするんですけれども、小樽はオタルナイというアイヌ語由来ですよね、地名の名前ですけれども。アイヌの方々が元々多く住んでいた。で、明治のときには最も早く強制移住が強いられて、コタンがなくなって、アイヌを名のる人がいなくなりました。
で、今、返還手続が進んでいるんですけれども、これ、今なぜ返還が進んでいるのか、そして返還される遺体は何体あって、返還に係る搬送費などは誰が負担するのかということを教えていただきたいと思います。
○政府参考人(国土交通省審議官 田村公一君) お答え申し上げます。
委員お尋ねのウポポイから小樽市の団体へのアイヌの御遺骨の地域返還につきましては、小樽を出土地域といたします十九体の御遺骨等の返還手続を進めているところでございます。
また、お尋ねの御遺骨等の返還に係る費用の負担につきましては、先ほどから御議論のありましたガイドラインにおきまして、関係大学と地域返還対象団体との間で協議することとし、原則として関係大学が負担すると定められております。
今回の返還における運送費等の負担につきましては、現在、関係大学、地域返還対象団体及び小樽市との間で調整が進められているものと承知しております。
○紙智子君 小樽では、返還のときのみ慰霊の儀式であるイチャルパというのを行うと、その後は市営墓地に埋葬する予定であるというふうに聞いております。
それで、国連宣言は、遺骨の帰還は先住民の権利であると定めていますから、これ実効性のある対策を求めたいというふうに思います。
そもそも、このアイヌの遺骨は研究者によって無断で掘り出されて持ち去られました。人間の尊厳を傷つける許されない行為だと思います。十二大学で謝罪した大学というのはあるんでしょうか。
○政府参考人(文部科学省審議官 松浦重和君) お答えいたします。
御遺骨を保管していた十二大学におきまして、アイヌの方々の御遺骨の収集について、少なくとも札幌医科大学につきましては謝罪したということを承知しております。
○紙智子君 そうなんですよね。たった一つだけなんですよ。十一大学は謝罪もしていません。
それから、ガイドラインはこれ申請主義なんですよね。それで、大学の研究者が勝手に掘って持ち帰ったのに、なぜアイヌの側から返還してほしいと申請しなければならないのかと思うんです。
先祖の遺骨が北海道大学にあるので大学に面会を求めて行っても入室を拒否された方がいて、母親からは、北大病院の医者たちが黙って、エカシ、長老ですね、フチ、それから祖母ですね、アチャ、父、ハボ、母らのお墓を掘り出して穴だらけにした、情けない、死に切れないと言われたということなんです。
大学が勝手に掘り出して持ち帰ったものだから、本来は大学自ら調べて返還するのが大学の責任の取り方ではないかというふうに私は思うんですけど、これ、伊東大臣、いかがですか。
○国務大臣(アイヌ担当相 伊東良孝君) たくさんの大学で遺骨を無断で持ち出した。で、今日に至るまでまだそれが返還されていないというのは事実として私も認識しているところであります。
これからその大学側からガイドラインに沿って返還を求めてくる、あるいはその活動がなされる、このように思うところでありまして、私もアイヌの皆さんとのお付き合いが深いものでありますから、これらのお話を聞くわけでありますので、できるだけ皆さんのお考えをしっかり伺って考えていきたいと思っております。
○紙智子君 やはり、私もずうっとこの問題、どうして大学側は全く謝罪しないまま来ているのかというのは、これちゃんと議論しなきゃいけないことじゃないかというように思っているんです。
それと、今ガイドラインの話があって、やっぱりアイヌの皆さんの声に基づいて柔軟な対応していくというふうにやっていかないと、返してほしいけど返してもらえないという状況になると思うんですよ。国連宣言以降、各国でも遺骨の返還が進んでいます。オーストラリアは、二〇一一年に先住民の返還政策を策定して、国内外のアボリジニの遺骨返還のために政府に諮問機関を設置して具体化をしているとかあるわけです。
今日、ちょっと外務省にも来ていただいたんですけれども、時間の関係で、申し訳ありません、こちらの方で答えを言わさせてもらうんですけど、アイヌ施策推進法の見直しが行われているんですけれども、海外で進んでいる遺骨返還の動向を把握する必要があるんじゃないかと思って外務省に聞いたところ、特に内閣府の方からは要望がないということを答えられたので、これも是非、伊東大臣に、各国の動向を把握するように外務省に要請していただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○国務大臣(アイヌ担当相 伊東良孝君) 大学の保管するアイヌ遺骨の返還手続につきましては、議員御指摘のガイドラインに基づき、所管官庁であります文部科学省において実施されているものと承知しております。
そのため、御指摘の返還手続の一層の推進に向けた海外の先住民族の遺骨返還に関する情報の収集につきましても、所管官庁として実際に手続を行う文部科学省において検討するのが適切であろうと考えております。
以上であります。
○紙智子君 そこを大臣からも押していただきたいという趣旨なんですよ。大臣からも是非、よく知る人としても、全国の中でアイヌのことをやっぱり身近に知っている方でもありますから、是非押してほしいと思うんですけれども、一言どうぞ。
○国務大臣(アイヌ担当相 伊東良孝君) この問題につきましては、少し研究をさせていただきたいというふうに思います。
いずれにしても、遺骨の海外からの収集そして埋葬というのは相当大きな事業であろうというふうに思うところでありまして、所管省庁と相談してまいりたいと思います。
○紙智子君 もちろん海外からのもそうなんだけれども、国内において、やっぱり各国の動向をつかんで、国内でもそれをやっぱり生かしながらやっていくという趣旨で是非協力いただきたいと思います。
長年、遺骨の返還を求める活動にずっと取り組んでこられて、亡くなられた北海道の浦幌のラポロアイヌネイションで活動されてきた差間正樹さんは、遺骨を返してもらったと、返してもらったが、お祈りして、先祖供養をして、初めて先祖の魂は安らぐと、それはアイヌの集団が主体となることだというふうに言われているんですね。アイヌの施策のこの推進法をちょうど見直す時期にもなっていますので、是非アイヌの皆さんの意向に沿った見直しを求めていただきたいということ、見直しをするように求めたいと思います。
続きまして、日本軍慰安婦について質問します。
今年は戦後八十年ということです。一九九三年の八月四日に慰安婦関係調査結果発表に関する談話、いわゆる河野談話が発表されました。
配付しております河野談話を御覧いただきたいんですけれども、この黄色の部分、「慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」とあります。また、「政府としても、今後とも民間の研究を含め、十分に関心を払って参りたい。」というふうにされています。
石破政権においても、この河野談話を継承する立場であるのか、そしてまた、そのために実際に民間研究の資料なども集めてこられましたか。これは官房長官にお聞きしたいと思います。
○国務大臣(内閣官房長官 林芳正君) 平成五年八月四日の内閣官房長官談話、いわゆる河野談話でございますが、慰安婦問題について、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、政府として、その出身地のいかんを問わず、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やし難い傷を負われた全ての方々に対して心からおわびと反省の気持ちを申し上げたものでございます。
慰安婦問題に関する政府の基本的立場はこの内閣官房長官談話を継承しているというものであり、石破内閣においても変更はないということでございます。
また、慰安婦問題の調査につきましては、政府としては、これまで平成四年七月六日と平成五年八月四日の二度にわたりその結果を発表しております。これは、政府として全力を挙げて誠実に調査した結果を全体的に取りまとめたものでございまして、一つの区切りをなすものでありますが、事柄の性質上、その後も新しい資料が発見される可能性はあることから、そのような場合には、関係省庁等に対して内閣官房に報告をするよう求めているところでございます。
○紙智子君 事柄の性格上という話があって、関係省庁からということなんですけど、この河野談話の最後の方に言っているのは、民間研究資料等も含めて関心を持っていくということが書かれているわけなんです。
それで、昨年、陸軍衛生史第六巻の慰安所設置基準というのが防衛省から官房補室に送付されました。ちょっと紹介しますと、戦時花柳病の増加するは幾多戦史の数ふるところなりという前置きをして、花柳病、いわゆる性病ですね、性病の予防目的として、利用料、女性の性病検査、外出の許可制度などを日本軍が規定しています。
もう一つ、国立国会図書館に所蔵されていた国外移送誘拐被告事件大審院判決というのがあります。これは、長崎県で甘言、虚言によって女性の意に反して慰安婦として誘拐された事件の最高裁の判決です。
国会図書館が内閣官房に送付したんですけれども、その理由についてお尋ねをしたいと思います。
○国立国会図書館副館長(山地康志君) お答えいたします。
国立国会図書館が所蔵している当該資料について、一般利用者の方から、いわゆる平林通知により内閣官房への報告が求められている従軍慰安婦問題に関連する資料に該当するのではないかとの情報提供がございました。
これを受けて確認、検討を行った結果、これまでの国立国会図書館による内閣官房における調査への協力の実績や、平林通知に基づく各省庁による報告の実績の範囲内にあると認められましたので、従軍慰安婦問題に関連する資料に該当するものとして内閣官房へ報告いたしました。
以上でございます。
○紙智子君 それぞれ慰安所、それから慰安婦の実情を示す大変重要なこれ資料だというふうに思うんです。
長崎の判決文はとりわけ強制性を示す判決文です。国立国会図書館は、一般の利用者、つまり民間からの情報提供をきっかけにして、この慰安婦資料ということで判断をして送付してきたわけです。
ところが、二〇一四年、慰安婦の問題の民間研究団体から、今日持ってきたんですけど、これだけの資料、これが、実はファイル三冊あるんですけれども、提出されているんですよね。(資料提示)それで、提出したんですけれども、数か月後にこれは破棄するという連絡があったと。で、どうしますかということだったようなんですよ。
これ、実際、受け取った方は読まれたのか、そして、なぜそれを拒否したのかということについて伺いたいと思います。
○政府参考人(内閣官房内閣参事官 清野晃平君) お答えいたします。
先ほど官房長官からも御答弁ございましたとおり、内閣官房においては、慰安婦問題に関する調査結果の発表後も関係省庁等から新しい資料が発見される可能性があることから、そのような場合には、関係省庁等に対して内閣官房に報告をするよう求めており、関係省庁等から報告を受けた資料を保管しているところでございます。
一方で、内閣官房では、二〇一四年六月に民間団体からの資料を受け取ったことがございましたが、当該資料は、今申し上げましたとおり、関係省庁等から報告を受けたものではなかったことから、行政文書管理規則に基づき、保存期間について、一定の期間を経過すると廃棄される旨を当該民間団体にお伝えし、その後返却になったものと承知しております。
○紙智子君 河野談話では民間からのいろんなことについても関心を持っていくというふうに言っているわけですよね。
各省庁、関連省庁からのものでないから、だから受け取らないという理由なんですか。
○政府参考人(内閣官房内閣参事官 清野晃平君) お答えいたします。
先ほども答弁させていただきましたとおり、政府としては、事柄の性質上、慰安婦問題の調査結果の発表後も新しい資料が発見される可能性があることから、そのような場合に関係省庁等に対して内閣官房に報告をするよう求めております。
このため、内閣官房では、関係省庁等の国立国会図書館からの資料については報告を受けた一方で、民間研究機関からの資料は受け取らないということにしております。
○紙智子君 それはやっぱり河野談話に基づかないと思うんですよ。
それで、この民間研究団体のファイルは、当時、公文書館にも所蔵されていた資料もあるんですよ。これ、後に内閣官房補室にも送付されていると。行政機関が判断すれば受け取るけれども、公文書を含む民間の方の提供の資料は全てを受取を拒否すると、破棄すると、そういう判断をしているわけですよね。河野談話で言っているところの民間の研究に関心を払う、これに反しているんじゃないかというふうに私は思うんです。
宛先が省庁、国会図書館に限られた平林通知というのは、結局これ民間の研究を排除しているんじゃないかと。これ、官房大臣、おかしくないですか。
○国務大臣(内閣官房長官 林芳正君) 今事務方から御答弁させていただきましたように、この事柄の性質上、慰安婦問題の調査結果の発表後も新しい資料が発見される可能性はあるということから、そのような場合には関係省庁等に対して内閣官房に報告をするよう求めているところでございます。
この資料でございますが、関係省庁等において内閣官房に報告すべき関係資料に該当するか否かを適切に判断した上で報告を受けると、先ほどの国会図書館のケースもその図書館において判断をしていただいたと、その旨の御答弁があったところでございますが、この当時、内閣官房は民間研究団体からの資料を受け取らなかったものと承知をしておるところでございます。
○紙智子君 全然納得できないんですよね。
これやっぱり、河野談話で言っていることというのは民間も含めてということなので、それはただ決意としてお題目で言っているわけじゃないわけですよ。ずっとやっぱり続けてそういうことの努力しなきゃいけないという中身であって、それをやっぱり河野談話の中では排除していないわけだから、平林通知でもって狭めてしまっているんじゃないのかというふうに言わざるを得ないんですよね。
それで、ここにある資料には性暴力それから性被害の実態が書いてあります。三回妊娠させられて流産したとか、それで、その後も毎晩たくさんの人たちの男性客の相手を強制されて、そして何とか生きて村に帰ってきたけれども、汚らわしいと、そういう存在だということで一生を踏みにじられた女性の悲痛な証言も入っているわけです。これ、明らかに戦時性暴力そのものだと。
昨年のCEDAWの報告では、戦争犯罪及び人道に関する罪、これに時効はないと、国際人権法の義務であるということを指摘しています。
それで、多くの女性たちに対するこの人権じゅうりんの性暴力であるということを是非認めるべきだと、そして、この河野談話を後退させることなく、民間資料も含めて調査を続けるべきだということを強く申し上げまして、質問を終わりたいと思います。