<第213回国会 農林水産委員会 2024年6月18日>


◇漁業法及び特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する一部改正案 クロマグロ漁の漁獲枠は、漁業者になんの相談もなく決定され、苦境に立たされた漁師がいる。それなのに今度は、漁獲量を報告しなかったら罰金刑を強化しようとしている。紙議員は、罰則強化ではなく、漁業者との話し合いから始めるべきだと主張

○漁業法及び特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 漁業法の改正案について質問します。
 今回の改正案は、クロマグロ漁をめぐって多くの課題が山積する中で、非常に難しい改正案だなというふうに思うんですね。
 クロマグロに漁業規制が導入されたのが二〇一五年です。二〇一八年から沖合漁業、沿岸漁業にTAC資源の管理が求められて、都道府県別に大型の魚、小型の魚の漁獲枠を当てはめるTAC制度が始まりました。
 沿岸漁業者はクロマグロの扱いに困る日々を送っています。
 今年の岩手日報二〇二四年の二月二日付けは、定置網に入るクロマグロが水揚げされず大量に放出されている、資源管理のために漁獲量が制限されているのが理由で、二〇二二年に逃がした量は推定七百三十九トン、漁獲枠の五倍だというふうに書いています。北海道新聞も、放流で生じたクロマグロ以外の漁獲の損失額が約二億五千万円に上ると書きました。定置網に入るクロマグロを放流せざるを得ないという問題は、これ各地で起きていますよね。
 京都府の西脇隆俊知事は、網からクロマグロを逃がしている現状を、漁業者の身体的負担になり、経営意欲の減退につながるというふうに指摘しています。
 定置網に入ったクロマグロを放流せざるを得ない問題というのは、これ、ほかの漁獲の損失、これではやっぱり現場に不満が鬱積するというのは当然ではないかというふうに思うんですけども、大臣のお考えを伺います。

○国務大臣(農林水産大臣 坂本哲志君) 定置網におきまして、クロマグロを放流する際に、その他の魚種も逃げてしまう場合があることは承知をしております。このため、その他の魚種の流出を最小限にするために定置網での放流手法に関する技術開発に取り組んだ結果、例えば、クロマグロが入網していた場合に網の外に出すための操業方法の工夫、そして定置網への入網状況を陸上から確認することにより混獲を回避しやすくするための定置用魚群探知機が開発される、こういったものは既に実証実験で一定の成果が得られております。現在は、放流技術や機器等の普及に努めているところでございます。
 また、漁獲枠を遵守するためにクロマグロの放流等を行わなければならない状況を最小限度にするために、都道府県等の間の漁獲枠の融通の促進にも取り組んできているところであります。
 今後とも、これらの対策によりまして、定置漁業の操業への支障が可能な限り少なくなるよう努めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 一方で、巻き網漁への批判も出ているんですよね。定置網は、まあ待ちの漁ですよね。待っている、魚を待っていて、そういう漁ですけれども、巻き網漁は魚を追いかけて囲み捕る漁です。漁師からは、いや、巻き網がいなくなると魚が増えるんだという声や、漁の様子を映像で残していないので不法投棄しても分からないという声や、それから大臣が許可している巻き網が優遇されているんじゃないかという意見があるんですけれども、これに対しての、大臣、どうお答えになりますか。

○国務大臣(農林水産大臣 坂本哲志君) 太平洋クロマグロの漁獲枠につきましては、水産政策審議会の下に設置をされました、沿岸漁業者を代表する複数の委員も構成員となりまして、くろまぐろ部会において取りまとめました配分の考え方におきまして、沿岸漁業へ配慮する考えが示されているところです。
 例えば、令和六年管理年度の大中型巻き網の小型魚の枠につきましては、基準年である二〇〇二年から二〇〇四年の平均漁獲実績の五分の一にまで減少させているなど、沿岸に配慮した考え方に基づきましてこれまで配分してきたところであります。

○紙智子君 そこで、今回の大間の問題です。TAC報告義務に違反した、これは問題だというふうに思うんですよ。しかし、問題があったからといって罰則を強化するということが妥当なんだろうかというふうに思うんですよね。
 大間の漁師の方はこう言っているんです。中西部太平洋まぐろ類委員会で規制が強化されるときに、何の相談もなくクロマグロの数量は決められたと、これでは生活できないから違反者が出るぞと言ってきたんだと、今の漁獲量は一人一・五トンだから、単純計算すると六百七十八万円にしかならない、そこから委託販売の手数料や燃料費や船の維持費を引くとこれ生活できないんだと、で、以前は若い人が入ってきたけれども、この今の枠では入ってこないというふうに言われるんですね。
 政府や都道府県が決めた漁獲枠で生活できるかどうかと、こういう実態、実情については把握されているんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 森健君) お答えいたします。
 太平洋クロマグロに関しましては、WCPFCにおいて国際的に決定された漁獲枠を遵守するために、漁業者の皆様に厳格な資源管理に取り組んでいただいております。その結果、資源は回復してきておりますけれども、その過程において放流や混獲回避等の取組にも御苦労をいただいているというふうに承知をしているところでございます。
 WCPFCの場におきましては、これまで大型魚枠の一五%の増枠ですとか、小型魚枠の一定部分を一・四七倍して大型魚枠へ振り替える仕組みの導入拡大など、漁獲枠を増やすことに取り組んできたところでございますけれども、それでもなお更に増枠を実現してほしいとの声が現場では大変強いというふうに承知しているところでございます。

○紙智子君 そういう声が強いということは、生活できないからなんですよね。そういうことをちゃんと把握されているのかどうかというところが、私は求めたいわけですよ、政府に対して。
 改正案は、漁獲量の報告義務違反の罰則を六か月以下から一年以下の禁錮刑にすると、新たに個体数などの報告等も求めているわけです。
 しかし、マグロ漁師の生活実態見たときに、これ罰則を強化する前にもっとやることがあるんじゃないのかなと思うんですけれども、大臣、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 坂本哲志君) まず、最初の質問にお答えいたしますけれども、増枠の可能性が出てくる場合には、水産政策審議会の下に設置をいたしましたくろまぐろ部会を開催します。そして、配分の考え方の見直しを行うことになります。
 そういうことで、今後も沿岸漁業への配慮等も行いながら、適切な資源管理に努めてまいりたいというふうに思っております。

○紙智子君 生活できないというのは大間だけではないんですよね。北海道新聞にも同様の実情が報道されました。二〇二一年の十二月の道新ですけれども、道南沿岸の漁協の一本釣り部会は、一人当たりの漁獲枠が約二百キロ、四十キロのマグロでいうと五本で枠が埋まっちゃうと、マグロでは食べていけないというふうにここでも言っています。
 クロマグロの漁獲枠を漁師が生活できる枠に見直すべきではないかと思うんですけれども、いかがですか。

○政府参考人(水産庁長官 森健君) まずは、先ほど申し上げましたとおり、増枠に関する強い要望が漁業関係者の間にあるということは承知をしているというところでございます。
 そういったことも踏まえまして、新しい資源評価結果を受けて、我が国としてこの増枠提案の方をWCPFCにおいて行うこととしております。この是非増枠が実現するように努力をしていきたいというふうに考えております。

○紙智子君 漁業者が生活できる枠に増量を求めていくというふうに趣旨としては捉えておきたいと思います。
 漁業者の生活を守る漁業法が、やっぱり資源管理にのみ重点を置いて、なりわいを営む漁業者のための法律になっていないんじゃないかというふうに思うんですよね。
 漁業法で問題だと思うのは、TAC報告義務に違反したら六か月以下の懲役又は三十万円以下の罰金だということです。義務違反があれば、行政手続として指導、勧告、改善命令をこれ出せばいいんじゃないかと思うんですけど、いかがですか。

○政府参考人(水産庁長官 森健君) お答えいたします。
 TAC報告義務違反につきましては、旧TAC法、いわゆる海洋生物資源の保存及び管理に関する法律の時代から、今の漁業法改正の前のこのTACの関係の法律でございますが、この時代から、TAC報告はTAC管理の根幹を成すものであって、適正に行わなければ行政が全体の漁獲状況を正確に把握ができないと、的確な資源管理措置を迅速に講ずることができないということから、違反に対して直接罰則を適用できるという仕組みになっておりました。
 さらに、今般の法改正によりまして罰則が強化されることになります特別管理特定水産資源につきましては、非常に厳格な漁獲量の管理を行う必要があるものを指定をするということでございまして、的確な資源管理措置をより迅速に講ずるという観点から、この再発、違反事案の再発防止のための抑止力を高める必要があると考えております。
 こうしたことから、特別管理特定水産資源の報告義務違反については、従来のTAC報告義務違反と同様に直接罰則を適用できるとした上で、法定刑を引き上げるというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 私、やっぱり問題だと思うのは、国が枠を決めて、関係者の理解も納得も得ていないのにその枠に従うように求めていく、報告義務に違反したら刑事罰を科すというやり方です。クロマグロ以外のこのTAC資源にも拡大されていく可能性もあると。
 考えなければいけないと思うのは、漁業法を漁師の経営と生活を守る法律にすることだと思うんですよ。戦後、新漁業法ができたときには、漁業権が確保することができて、漁で生活できる展望が見えて、浜が喜びに沸いたという話を以前聞いたことがありました。ところが、二〇一八年の改正漁業法というのは、それができたときから浜に不満と不安を置き去りにしたまま成立してきていると思うんですよ。
 今の漁業法が漁師の経営と生活を苦しめているということであれば、やっぱり漁業法自身を見直すべきであって、新たな規制を強化することではないと思うんですけれども、大臣の見解、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 坂本哲志君) クロマグロにつきましては、WCPFCで決定されました管理措置に基づきまして、平成二十七年以降、我が国の漁獲枠は決定されています。
 これを受けまして、国内におきましては、平成二十七年一月から通知に基づく自主的な管理に取り組みました。そして、平成三十年一月からは、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律、旧TAC法に基づきまして、漁獲可能量、TACによる管理が開始をされました。
 このように、クロマグロの漁獲枠の設定は、平成三十年十二月の漁業法改正以前から実施されておりまして、これらを関連させて論じることは適切とは考えておりません。

○紙智子君 まあ二〇一八年の漁業法をめぐっては、私たち強く反対をしたということもあります。本当にこれが現場の役に立っているのかというふうに思うわけです。
 それから、もう一つのこの水産流通適正化法ですね、これは元々アワビやナマコの密漁対策として、手間とコストを掛けないやり方として制定をされたと思うんです。
 ところが、今回、規制改革推進会議がこれにも関与していて、地域産業活性化ワーキング・グループ、ここでは、漁獲量未報告事案を捉えて、凍結されたマグロにタグ付けをしている大西洋クロマグロと、それから、小規模漁業者を含めて生鮮が主体で流通時間が非常に短い太平洋クロマグロと、全く条件が違うのにイコールフッティングを求めたり、流通の監視を強化する議論を踏まえて、答申、昨年ですけれども、これ出していると。
 漁業者の生活がどうなっているのかということにまともに目を向けているとは思えない答申なんですよ。なのに、なぜこの規制改革会議の答申に応じて、規制改革実施計画の閣議決定に、大臣、同意されたんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 森健君) 事実関係を御紹介をさせていただきたいと思います。
 御指摘の規制改革推進会議の地域産業活性化ワーキング・グループというものは、令和五年の五月でグループが開催され、また、規制改革実施計画は令和五年六月に決定をされたと承知しておりますが、今般の私どもの法改正に当たりましては、まさに漁獲量報告義務違反の案件が、事案が生じたことを踏まえ、農水省として再発防止、管理強化が図ることが必要だということで、令和五年四月の水産政策審議会において、太平洋クロマグロに係る事案の概要と今後の対応方向について、再発防止や管理の強化を検討するという報告を行っているところでございます。
 先ほど言及させていただきました規制改革実施計画、これは令和五年六月でございます。今回の法案のような制度検討を行う旨が記載されておりますが、以上のような認識が計画として位置付けられたものというふうに考えております。
 以上です。

○紙智子君 まあそういう答弁されるのかなと思いましたけれども、そのとおりやりましたなんて言わないだろうとは思いましたけれども、やっぱり、でも、少なからず影響を受けているんじゃないかと思うんですよ。漁業者や流通業者に、このやり方というか、新たな負担が生じることは明らかだし、TAC資源の対象が拡大されかねない問題もあると思います。
 資源管理についてもお聞きします。
 北海道日本海沿岸漁業振興会議とそれから道漁連が国に対して行った、ホッケやマダラの新たな資源管理の導入などについての要請をお聞きをしました。要請は、具体的な対策が国から示されなければTAC管理の導入を決して認めるわけにはいかないと、道総研と漁業者が共同で推進する自主的な資源管理を基本とした、北海道スタイルと言ってきましたけれども、北海道スタイルを認めるようにという、などが書かれているものです。当時、これ質問したときに、野村農水大臣だったんですけれども、積極的に職員を派遣して、丁寧な説明に心掛けたいというふうに述べられていたと思います。
 それで、ホッケとかマダラ、この現状についてどうなっているか御報告いただきたいと思います。

○政府参考人(水産庁次長 藤田仁司君) 今委員御指摘のとおり、新たな資源管理の推進につきましては、丁寧な説明ということで、これまで何度も説明を重ねてまいりました。北海道の説明会におきましては、私自身も何度も赴いて説明をしてきたところでございます。
 その結果、このマダラにつきましては、北海道太平洋、北海道日本海につきまして、本年一月と三月に札幌で開催をいたしましたステークホルダー会合でTAC管理のステップ一に入るということが合意されていまして、本年七月からTAC管理を開始するという運びになってございます。
 ステークホルダー会合等で幾つかの課題について御意見をいただいておりますが、これらの課題につきましては、TAC管理のステップを進めていく中で対応していくということでございます。
 一方、ホッケの道北系群につきましては、漁獲量も多く、地域の水産業におきまして重要な位置付けを有している上、MSYベースの資源評価が可能であるなど十分な科学的知見が蓄積されていることから、TAC管理の導入に向けた議論の対象としているところでございます。
 同資源につきましては、資源評価結果の説明会は札幌で行っておりまして、今後、資源管理手法検討部会などを通じまして、まずはTAC管理に係る論点や課題の整理を行いたいというふうに考えてございます。
 引き続き、北海道漁業の実態を踏まえつつ、関係者と意見交換を行いまして、理解と協力を得ながら、現在行われております自主的な管理と組み合わせた管理など、ホッケ、マダラ等の資源管理の取組を推進してまいりたいと考えてございます。

○紙智子君 北海道においては、今のことも含めてですけれども、やっぱり資源管理ということを本当に大事に考えて、自主的な管理で相当努力をしてやられてきたという経緯があって、それにいろいろと変えるようなことを言われるというのは、本当にこれまでの努力が無駄になっちゃうということもあって、こういう強い主張というか意見が続いてきたと思うんです。
 それで、大臣、確認しますけれども、国が枠を決めて漁業者に押し付けるということはないということでよろしいですね。

○国務大臣(農林水産大臣 坂本哲志君) 私たちは、あくまでも漁業者の声を聞く会をまず設けます。そして、資源管理手法検討部会、あるいは先ほど事務方から言いましたステークホルダーの会合、これは漁業関係者の会を開催いたしまして、その上で水産政策審議会の諮問を経まして資源管理基本方針等を改正することにしておりますので、二重、三重に関係者の意見を聞きながら丁寧に手続を進めているところでございますので、これからもその方針に変わりはありません。

○紙智子君 TACを決めるのであれば、やっぱりこの漁業者等の理解と納得の下に進めていただきたいということを申し上げまして、質問を終わります。