◇食料供給困難事態対策法案、農振法等改正案、スマート農業技術法案 食料供給困難事態対策法案は、「生産者に作付けや増産、生産転換を強要するのは、憲法22条の職業選択の自由、営業の自由に制限をかけるのではないか」と聞くと、近畿大学の池上甲一名誉教授は「営業の自由を侵害するのは明白だ」と指摘。東京大学の谷口信和名誉教授は、最大の問題は農業者が普段からいかに尊敬されるかだと強調。 食料の備蓄制度について、資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は、現状のコメ備蓄は多い時で2カ月分、大豆、トウモロコシ、小麦は1カ月分程度だと指摘し、「これはやはり少なすぎる。数カ月分くらいが安心できる水準だ」と述べました。 笠原尚美(かさはら なおみ)参考人は、農地を守る立場として、「地域未来投資促進法等の地域整備法」に懸念を語る。
○食料供給困難事態対策法案(内閣提出、衆議院送付)
○食料の安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
参考人 丸紅株式会社代表取締役副社長執行役員 寺川彰君
阿賀野市農業委員会会長職務代理 笠原尚美君
株式会社資源・食糧問題研究所代表取締役 柴田明夫君
東京大学名誉教授 谷口信和君
近畿大学名誉教授 池上甲一君
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○参考人(寺川彰君) おはようございます。丸紅の寺川でございます。
食料の輸入業務を担当する民間業者の観点で、実務面を中心にいたしまして食料供給困難事態対策法案についての意見を述べさせていただきたいと思います。適宜、お手元の資料を御参考にしていただければと思います。
本法案で、不測の事態となりますが、食料供給困難事態の定義が明確化されておりますが、その兆候を把握する上でも、国民生活の安定、国民経済に大きな影響を与える特定食料として米穀、米、小麦、大豆等が今後政令指定されるものと了解しています。
どの国におきましても、まず必要不可欠なものとして最初に立ち上がる食品事業は、粉、製粉、そして油、搾油、そして砂糖事業だと理解しております。また、不測時に必要なカロリー、そして、炭水化物、たんぱく、脂質という三大栄養素を考えた場合、穀物、油に加えまして畜産物が国民生活にとって重要な役割を果たすものであり、特定食料として検討すべきではないかと考えます。
その中でも、我が国が自給できる米を除きますと、主食となる小麦、国内生産のための畜産飼料、油脂原料にもなる穀物が最重要であります。国内農業の生産資材に必須であります肥料ですが、資源の偏在がありまして、地政学的なリスクも大きく、肥料につきましては経済安全保障推進法でも対応していくものだと理解しています。
お手元の資料では穀物における日本の現状をお示ししておりますが、主要穀物の輸入先は米国、カナダ、豪州、ブラジル、この四か国が大宗を占めております。各国の生産量、また輸出能力、政治、経済の安定性、ロジスティックス、こういう観点で考えましても、我が国が頼れる生産国はこの四か国が中心にならざるを得ないと思います。
一方で、我が国のプレゼンスですが、小麦、大豆におきましては存在感が小さく、穀物では中国がプライスリーダーとして大きな位置を占めており、年々その地位は強くなっております。中国の穀物買い付けの動向は穀物相場に大きなインパクトを与えています。
昨今の状況を踏まえまして、食料自給率の低い各国におきましても食料安全保障問題が提起されている模様で、様々な国で食料の安定供給対策に乗り出してきたのではないかとビジネスを通じても感じているところであります。
過去、穀物におきましては、輸出余力のある国が北半球、南半球に存在し、生産時期の違いもあるため、同時に連続して大不作に陥ることはまれではありましたが、異常気象の頻度やその規模、年々増加しておりまして、これら自然災害により穀物相場が非常にボラタイルな状態となり、食料ビジネスをめぐる情勢が不安定化しているということは事実であります。
食料供給を不安定化させる具体的リスクとして、今述べました異常気象、自然災害、それらの大規模化、これが最大の要因ではありますが、そのほかに、感染症発生による物流の混乱、家畜伝染病の多発化、脱炭素の流れを受けまして、コーン、大豆などにおいて燃料需要の増加、これが顕著になっていること、そしてロシア、ウクライナで経験したような地政学リスクが挙げられます。
また、食料が国家間の戦略物資として用いられることにより、需給バランスの崩れも近年では見られます。究極的には、世界人口の増加に対しまして温暖化、地球環境問題を加味した上での耕作可能面積はどの程度あるのか、またその食料供給量はいかほどか、そしてその供給量が世界需要にバランスするかということになろうかと思います。まさしく、人類は地球規模での大きな課題に直面しているように思います。
現時点、穀物以外の様々な食料、農産物におきましても、先ほど述べましたようなリスクが毎年その品を変えるような形で具現化しております。また、複数のリスクが同時に起きて複雑化するという想定も必要になってまいりました。
昨今の我が国の現状を見ましても、穀物においては、高値相場が続く中で、円安により輸入価格は上昇、エネルギーコストを含むもろもろの製造、物流のコストも増加する中で、加工食品、外食産業での値上げは不可避の状態にあります。
また、飼料、搾油関連のみならず、各食品企業においても、コスト削減のため、従来利用していなかった産地、品質の原料の利用も今模索しているところだと承知しています。
畜産業では、昨年、我が国で鳥インフルが多発し、突発的な鶏卵不足が起きたことは御理解のとおりです。家畜の疫病、伝染病関連は大変予測しづらく、供給不足が突然起きます。国内での鳥獣対策なども必要ですが、その囲い込みは難しく、現場は対応策に大変苦労していると理解しています。鳥は生育速度も比較的速く、そのリカバリーという点では早い畜種だと思いますが、万一、豚、牛という大動物になってくれば、母豚、母牛からの肥育期間が必要となってきますので、大規模な疫病が発生した場合は一定期間の供給不足が続くものだと考えられます。
我が国におきまして食料供給困難な兆候が認められた場合ですが、まず想定しておかねばならないこととして、我が国だけが何も特別に困難になるという状況ではなくて、他国も同様の状況に置かれる可能性が非常に高いということです。市場経済の中で大きく国際価格が高騰する、その可能性があります。穀物を緊急に買い付ける場合、他国も同様の動きになること、輸出国側でも、自国優先の立場から輸出の制限、また輸出国の生産者自身が国際相場をにらんで売惜しみをするなども十分に想定されます。迅速に商品を確保することが大切で、待ったなしの対応が必要となります。
民間業者としては、過去より、契約に基づく安定供給をとにかく果たすことに専念しています。過去において、タイミング次第でも起きたことがありますが、経済合理性に合わない状況も当然生まれるかと思います。代替産地を含めました商品のみならず、サイロを含む保管場所の確保、輸出ターミナル、船腹、ロジの融通、また従来とは異なる品種の原料、品質の調整なども必要になってくるかと思います。
特に、日本向けは、非遺伝子組換え品、分別生産物流管理など、他国に比べまして従来より非常にきめ細かな対応が要求されております。当社でも、産地の集荷能力を上げ、米国、ブラジルにおいては自前の輸出ターミナルを保有し、品質管理なども行っていますが、これら対応も、緊急事態で輸入量を増やす中、どのように調整していくのか、民間企業だけの判断では難しい側面もあり、官民で十分に意見のすり合わせが必要になってくるものだと思います。
また、何よりも大切な備えですが、民間の緊急買い付けなどで対応する前に、平時の時点から、穀物の輸出能力がある国々、また現在の主力の輸出国については、政府間ベースでの大きな食料確保の枠組み、協力関係などを構築していただくことが大変重要であると考えます。緊急時の円滑なオペレーションのためにも、是非これはお願いしたいところであります。
本来的には、我が国の自給率ですが、この我が国の自給率を上げ、食料安全保障を確保することが第一義だと思います。米以外の穀物のために水田から畑地への転用なども進めていくべきですが、現実的には、湿地改良は大変難しく、農家側の採算も考えますと、穀物の生産は収益性の点では魅力に乏しいものだと思います。穀物で収益を上げるためには、大規模化、機械化、DXなど含めまして、効率、収率を徹底して上げる必要がありまして、これら大きな負担を考えますと、法人化のような大規模経営、経営管理能力を持った農家の育成、これが必要になるかと思います。
また、農業が若者にとって他産業に比べて魅力の乏しい産業になっているのではないかと思います。まず、もうかる農業に変革しない限り、担い手を大きく増やすことはできませんし、輸入依存の構造はなかなか変わらないのかなと私は思います。
本法案では、不測の事態における政府意思決定の体制が明確化したこと、兆候段階からの具体的な措置の流れ、また食料供給困難事態のトリガーとして特定した食料供給量の大幅な減少、その目安が明確化になっており、民間から見れば少し分かりやすくなったなという感じはしています。
一方で、不幸にして食料供給困難事態に陥った場合、計画経済への移行期間だとも言えますが、原料を使用する各食品加工業者、企業にとっては、自分の属する業界の優先順位はどうなるかなど、企業経営にとっては死活問題になることもあります。その時点になってみないとどんな混乱が生じるかは今の時点では分からないと思います。
不測時の兆候を正確に確認するためには情報収集しかないわけですが、市場経済の中で、顧客、契約、在庫などについては、各企業にとっては相当センシティブな情報でありまして、本来、開示のハードルが高いものであります。正確な判断、予測のためにも、国際市場の情報も含めまして、かなりの情報収集が平時から必要と思いますが、具体的な情報収集の内容、その方法につきましては今後検討すべき点であると思います。
そして、国民生活の混乱を生じさせないためにも、食料供給困難な兆候が出た場合、農業生産者、企業、民間側の自主的な取組の具体的な運用、さらには計画変更が要請した場合の実際の運用、これをどうするのか、また財政の支援を含めまして、その負担、そして手間を最小限にするにはどうすべきなのか、これらにつきましては種々検討が必要になるかと思います。官民で平時の今から意見交換を行いながら可能な限り準備をしていくことがまず第一歩ではないかと思います。
また、食料供給困難の兆候が認められ、本部の実施方針が出た場合ですが、国民がパニックに陥る可能性も十分に検討しておく必要があります。SNSなどを通じて様々な情報が拡散する可能性があります。現時点から、国民には、我が国の食料構造の現状、そして国内農業の重要性を理解してもらい、産業としての農業にもっと関心を持ってもらう必要があるかと思います。そして、職業としても魅力ある農業にしていくことが何よりも重要でないかと私は思います。
民間企業の実務中心の意見となりましたが、以上であります。
○委員長(滝波宏文君) ありがとうございました。
次に、笠原参考人、お願いします。笠原参考人。
○参考人(笠原尚美君) 新潟県阿賀野市農業委員会会長職務代理の笠原尚美と申します。
本日は、参考人として意見を述べる機会をいただき、誠にありがとうございます。
私は、農業委員会の関係者ですので、三つの法案のうち、農振法等の改正を図る法律案について意見を述べさせていただきます。
私は、令和四年五月に行われた農業経営基盤強化促進法と農山漁村活性化法の改正の際にも農林水産委員会で意見を述べさせていただきました。
法律の改正後、農業委員会は地域計画の基となる目標地図の素案作りに向けて奮闘していますが、多くの集落で話合いをする中で、あのとき改正された基盤強化法はこんな形で現場に生かされていくんだ、活性化法はこんなふうに考えられているんだと、二年を経過した今になって感じることが多くあります。
お手元にお配りした資料は、今回申し述べさせていただく私の意見の要旨と、その後にあるものは、今年三月に開催された第十九回女性の農業委員会活動推進シンポジウムで事例報告をした際の資料となっています。
阿賀野市農業委員会では、昨年七月末から、十五名の農業委員と十一名の農地利用最適化推進委員が集落に入り、目標地図の素案作りの話合いを進めています。事務局体制は専任職員七名と会計年度職員一名ですが、農林部局から農業経営基盤強化促進法の手続を行う会計年度職員一名が常駐し、合計九名と、大変恵まれた体制となっております。
当委員会の特徴を、地域計画の策定、目標地図の素案作りの観点から幾つか挙げさせていただきます。
阿賀野市の地域計画は十八の旧小学校区で策定されますが、目標地図の素案作りのための話合いは、市内二百十三ある全集落に農業委員、農地利用最適化推進委員がペアとなって入り、話合いのコーディネートを行っています。この際には、土地持ち非農家の皆さんにも出席いただいて、制度説明や農地バンクの仕組み、今後の農地の貸し借りの契約がどう変わっていくのかを説明し、理解を得ています。
また、話合いに使用する資料や説明のシナリオ、どんなふうに話合いをコーディネートしたらいいかをまとめた目標地図作成のための委員心得などを委員と事務局が一緒に作成し、活用しています。事務局任せにせず、委員が農業者としての視点を織り込むことで、地域計画の必要性を分かりやすくお伝えし、その集落に合った形で話合いを進めています。
それでは、今回提出された三つの法律案について意見を述べさせていただきたいと思います。
農業生産の基盤となる農地を確保し、適正、効率的に利用する者による農地利用を促進するため、農地の総量確保をうたうことは重要と考えます。しかし、国が考える総量目標と現在策定が進んでいる地域計画で明らかになる面積にそごが生じる可能性は否定できません。国が考える目標面積と地域が守るべきと考える農地の面積の違いをどう埋めていくかについては、地域特性も鑑みながら、国、都道府県、市町村が一緒になって考えていかなければいけないと考えています。
また、農用地区域の変更に国が関与することは評価いたしますが、農地転用が自治体の税収や就労などに大きく寄与する場合も多くある中、地域未来投資促進等の地域整備法に基づく計画については、農地を守る立場の者として、関係省庁との連携等を取っていただきたいと考えております。
さらに、第十三条第五項を新設されたことを評価しております。都道府県知事が、市町村から農用地区域の除外の協議があった際、都道府県の面積目標に影響があると認めた際に、市町村にその影響を緩和するための措置を記載した書面を求めることが明らかになりました。この影響緩和等の措置に、荒廃農地を解消し、農用地区域に編入することを財源の裏付けも含めて対応することも選択肢の一つに明確に位置付け、運用することが大事であると考えます。
一旦荒廃した農地は、耕作できる状態に戻すには膨大な時間と費用が掛かります。いわゆるA分類の農地が解消されたとしても、あくまで生い茂っていた雑木などを刈り払い、撤去したものであり、作付けできる状態ではありません。荒れないように管理されている農地です。この管理されている状態を耕作可能な状態にしなければ、農用地区域に編入しても無意味な編入となってしまいます。こうした農地再編のための措置等については、政省令などに明記することでより強く必要性を知らしめ、しっかりした予算確保をしていただきたいと思います。
続いて、農地法の改正について申し上げます。
不適切な転用を防止するため、農地転用の許可を受ける者が事業計画中に定期報告を行う仕組みの構築並びに違反転用を行い原状回復等の措置命令を受けた者が期限までに回復の措置を行わなかった場合公表する仕組みの創設については評価しております。
当委員会では、過去に違反転用等を行った者に対して許可を与える際に申請に基づいた転用を行うよう申し添えるとともに、農業委員、農地利用最適化推進委員が日々の見回りの中で注視し、場合によっては農業委員会会長などから指導を行っております。しかし、法的な後ろ盾がないため、その場さえしのげればいいと思っている事業者もあり、歯がゆい思いをしてきました。
また、転用の許可を受けた者には、事業完了後、事業完了届の提出をお願いしていますが、転用許可が下りてもなかなか転用作業に入らないケースや事業完了届の提出を忘れていることもあり、事務局の負担となっているのも事実です。
こうしたことを防止し、適正に転用がなされていることを把握するためにも、また違法転用を防止する観点からも定期報告を行う仕組みは有効と考えます。
このほか、原状回復の措置命令に応じない者の公表や関係機関との共有は必要ですが、命令を発するための詳細なガイドラインなどの整備も同時に行っていただきたいと思います。
こうした確認業務については農業委員会が担うことになりますが、農業委員会の業務は年々増加しており、事務局体制に恵まれている当委員会でもその傾向は顕著です。農林部局のみならず、ほかとの兼務やごく少人数の農業委員会事務局も多くあります。事務局体制の脆弱さは、様々な農地、農業施策を実施する際の遅延にもつながり、農業者への不利益になる場合もあることから、事務局体制の強化に特段の御配慮をお願いいたします。
続いて、農業経営基盤強化法について申し上げます。
地域計画区域内の遊休農地を担い手に権利設定する際、その手続を迅速化、義務化することは、遊休農地の更なる荒廃を防ぎ、使える農地を再生するために必要なことと考えます。
先ほども申し上げましたが、遊休農地を解消しても、使える農地にするには更なる時間とお金、労力が掛かります。できることであれば、こうした農地を引き受けてくれる担い手に対して何らかのインセンティブをお考えいただきたいと思います。
農地所有適格法人が、農業経営を発展させるため食品事業者との連携措置を行うことについては、実感が伴わないことをお断りして申し上げれば、そもそもの資本力が違う食品事業者などに対して、決定権の担保だけでは農業経営者の不安を拭い切れないのではないかと考えます。この不安を払拭するため、懸念払拭措置を規定し、様々な条件を付し、計画認定後も農林水産大臣が監督するなど、現場の懸念を受け止めていることは評価すべき点であり、その実効性に期待するものです。
以上でありますが、農地を守る上で大切にしなければならないのは、集落や地域での共同作業による農地保全の役割です。私どもが目標地図の話合いに集落に入って必ず出てくる話題の一つがこの共同作業の話であり、農業従事者の減少や高齢化、さらには農地所有適格法人が広範囲での農地を賃借するため出役できなくなっているなど、保全活動が成り立たなくなる集落が増加しており、この先も増加し続けると思われます。
現在でも、多面的機能支払交付金などで手当てがされているものの、お金ではなく人員の問題だとおっしゃる集落も多く、今ある農地を農地として使い続けるためのアプローチを多様化させる必要があるのではないかと感じているところです。
現在、地域計画の策定に向けた話合いが全国で行われております。初めて話合いを行った地域もあり、試行錯誤しながら進めているところも多くあります。地域農業に関する方針や農地の利用の在り方を地域の話合いに基づいて進める地域計画は現場を出発点とした取組であり、大変やりがいを感じております。この取組を地域計画策定後も続け、計画の実現に向けて、農業委員会、市町村、また、今後取扱いが大幅に増加することが見込まれている農地中間管理機構など、地域が一丸となれるよう、令和七年度以降もしっかりとした予算措置をお願いいたします。
また、先ほどから何度も申し上げますが、農業委員会事務局や農林部局の人員の問題は喫緊の課題と考えます。私が、昨年の農業委員としての年間活動日数は、目標地図の作成のための集落の話合いもあり、二百九十七日でした。これだけの活動ができるのは当委員会事務局の支えがあってこそのことです。私たち農業委員、農地利用最適化推進委員が農地や農業者に寄り添った活動をするためにも、人員に恵まれた農業委員会に在籍している私から是非とも特段の御配慮をお願いして、私からの意見陳述を終わらせていただきます。
大変貴重な機会を二度もいただけたことに感謝しております。ありがとうございました。
○委員長(滝波宏文君) ありがとうございました。
次に、柴田参考人、お願いいたします。柴田参考人。
○参考人(柴田明夫君) 今日は、この意見発表の場、いただきまして、大変ありがとうございます。
私は、このお手元の資料に沿って意見を述べさせていただきます。
本日申し上げたい点でありますけれども、現在起こっているこの食料価格の上昇というのは一過性の話ではなくて、価格体系全体が上方にシフトしてきていると、こういうふうに考えております。右側にシカゴの穀物相場の五十年の推移がありますけれども、左半分と右半分では価格体系が全然違ってきて、大きく上昇してきているということです。したがって、価格を一時的に抑えるということは余り根本解決にはならないというふうに見ています。なぜならば、背景には、足下は供給ショック、様々な供給コストの上昇があるからと見ております。
この過去二十年間のグレートモデレーションというか、低金利、低インフレの心地よい時代というのは、やはりロシア・ウクライナ戦争を契機に変わってしまったと。世界がもう分断される中で、あるいはコロナパンデミックによるサプライチェーンの寸断とか、こういうものもありまして、世界は今や価格大調整の時代に入ったと認識しております。このあらゆる資源、食料を含めた資源、それからサービス、人件費、コストが掛かる時代に入っております。高インフレ、高金利の時代かなと思っております。
二番目の点で、食料安全保障の定義として、良質な食料が合理的な価格で安定的に供給され云々とありますけれども、この確保が難しくなっていると見ております。食料というのは極めて地域限定的な資源であって、地産地消、これが基本であります。有事を考える前に、まずはこの平時の対応というところを見ていただきたいと思います。
ウクライナ・ロシア戦争ですけれども、これは、この食料危機の問題から、ロシアとかあるいは中国含めますと、あらゆる資源を保有していると、大きな出し手でもありまして、化学肥料を含めましてこういうものの供給が滞ってくる、あるいは友好国に優先されて供給されるということになりますと、単に食料危機ではなくて、農業生産危機、農業危機に至る可能性もあると。
中国は、こういう面でいち早く将来の食料不足に備えて、転ばぬ先のつえを五年先、十年先についていると。日本はどうも転ばぬ先のつえを後ろについているなという気がしてならないんですね。
グローバリゼーション下で経済合理的な考えを持てばいいということで、極限まで農業の外部化を進めてきた。すなわち、食料の輸入依存度、逆に言えば自給率でありますけれども、三七、八%まで落ちている。外部依存度は、これ、逆に言えば六割以上を外部に依存するという、こういう構図は非常に危ういということで、まさにその転換を図るべきだと。食料生産の増大、そして在庫、安心できるレベルへの在庫の引上げ、こういうところに向けて予算も技術も人も制度も集中させていただきたいと思います。
今申し上げた、次のページがその五十年間のグラフですが、相場つきが全然変わってしまったと。二〇〇七年、八年の頃はアグフレーションと言われまして、価格が、農産物インフレは長期化するというふうな見方がなされました。背景には、中国などの途上国の経済発展に伴う不可逆的な食生活の変化、すなわち肉の消費が増えていくと。肉が増えれば、これ乗数、七倍の乗数を掛けて穀物の需要の拡大につながるわけですね。そういう需要ショックが起きたと見ております。
価格が上がれば供給も増えて、需給が若干緩んで価格は落ち着くんですけれども、現状は、その後も、下がったとはいえ、昔の高値が安値に変わったという変わり方であります。ここにコロナパンデミックとかウクライナ戦争が起こったというわけであります。今回は、供給サイドのボトルネックがいろいろな分野で起こって上がっているというところで、たちが悪いなと思います。
次のページですね。
世界の食料生産、足下、二十八億トンを超えて過去最高なんですね。最高にもかかわらず、不安な要因がたくさんあるんです。生産以上に消費も増えてきている。で、在庫がじわりじわりと取り崩されてきている。過去、年間消費量に対して在庫が二か月を切る、一五%ぐらいまでなると、大きな世界的な食料危機が起こりました。七三年、私、学生時代の頃ですね。それから、二〇〇七年、八年、食料サミットの行われた、世界的な食料危機のところです。現在は二七%あって、十分じゃないかと思われますけれども、この半分以上は中国での在庫です。これを取り除くと非常に危ういことになります。
それから、消費が増えている背景は何かというと、肉の消費が増えている。半分ぐらいは家畜の餌として使われている。例えばトウモロコシの場合、十三億トン近い生産量ありますけれども、そのうちの六割、七億トン、七億六千万トンとかですね、これが餌に使われてきているということであります。
右側ですね。コストが上がっているという話で見ると、世界の農業市場というのは長期的に見て成長市場で、おいしい市場なんですね。ここに多国籍アグリビジネスの市場支配が高まっているということであります。
種と農薬で見ると、種の場合は、バイエル、コルテバ、ケムチャイナ、三社で半分ぐらいのシェアを持つんですね。それから、農薬にいきますと、四社で六割近いシェアを持つということであります。それで、表の方で、化学肥料、農業機械もこの大手の市場支配が進んでいる。大体その四割ぐらいのシェアを三社で持てば、価格は下がっていかないんですね。種の値段でも化学肥料の値段でも余り下がらないということで、これがまたコストアップにつながって、食料価格の上昇につながると。
次の四番目は、生産が増えた結果、国際貿易量も五億トンのレベルに増えてきています。しかし、安心ができない。プレーヤーが限られているということですね。トウモロコシでいえばアメリカ、ブラジル、アルゼンチン、ウクライナですけれども、非常に不安定化してきています。一方で、輸入国は、中国が世界最大の輸入国となってきているということで、戦略物資化してもおかしくないということであります。
それから、緊急、非常事態、食料供給困難事態に備えて海外の農産物輸出国と仲よくしたらどうかというのもありますけれども、しかし、世界の穀物に限らず、食料全体の貿易金額、一兆三千三百億ドルとありますけれども、この市場の四割はフードメジャーあるいは穀物メジャーが握っていて、中身が非常に不透明であります。彼らはやはりもうかると思えばそちらに食料の輸出を向けるわけでありまして、日本を優先して供給してくれるという保証は全くありません。
次の五番目でありますけれども、食料だけではなくて、窒素、リン酸、カリ、これも、ロシア、中国、ベラルーシ、こういったところが握っているというところであります。
中国は、次のページ、食料生産も、七億トン近い食料の生産量に増えているんだけれども、将来の不安が拭えないということで、七番目のように、二〇〇四年以降、中央一号文書、最も重要なこの報告文書を年頭に発表するわけですけれども、これが二十年連続してこの農業問題に充てられていると。農業強国の建設ということを昨年はうたって、今年はその具体化ということで千万プログラムというのを設けてきていると。輸入能力を高めるだけではなくて国内の生産も増やしていくということをうたっています。
次のページが、そういう中で世界の在庫を見ると半分が中国の在庫ということで、例えば左のトウモロコシを見ると、三億トンの在庫のうちの二億トンは中国、七割近い在庫を持っているわけであります。右の表は、中国は一体年間消費量の何か月分を持っているのかというので見ると、八か月から十一か月ぐらいの在庫を持っています。日本は米で多くて二か月ぐらいで、非常に寂しい感じでもありますけれども。
日本の、右が、食料生産の拡大に向けて基本法の見直しということを期待していたんですけれども、残念ながら何かそういうところに力こぶが入っていないなという気がします。
十番目を見ていただくと、農業をめぐる情勢変化というのなんですね。この二十年間で左のようにあらゆるものが減少したと、政府予算は増えているけれども農業予算はむしろ減っているという構図になっています。
日本が追求してきた三つの安定、あるいは享受してきた安い価格で良質の食料を、良質ですから、食料の安全、安心、フードセーフティーは得られたわけですね。それから、幾らでも輸入できたというフードセキュリティーの問題もクリアできたということであります。
しかし、それが今脅かされているというところで、十二番目で見ると、エンゲル係数が、御承知のように四十年来の高い水準まで上がっている。物資の値段、農業関連資材の値段が上がり、そして食品価格も上がった結果、実質賃金が増えないというところでエンゲル係数が上がっている。
農家の経営は、非常にこの経営が悪化しています。自分の生産物が安くて、コストが高まっているということで、いわゆるはさみ状の価格差が生じて、農家の所得というのは惨たんたるものであります。
正しい価格転嫁、十四番のところですね、が必要でありますけれども、もう安値競争というのは無理であります。この条文の方には、良質の食料を合理的な価格で供給すると言っていますが、合理的って誰の立場からの合理的なのか、消費者ですよね。いわゆる生産者から見ると、合理的というのは市場価格になってきて、なかなか価格転嫁が難しい。これはやっぱり、価格は市場で達成するにしても、生産者にとっては政策でその生産者価格というのを達成すると、所得はですね、こういうふうに見ております。
基本法の見直しというのは、どうも、何というか、循環論法じゃないかというような気がいたします。
十六番のところで、その一人一人の食料安全保障についても……
○委員長(滝波宏文君) 参考人、時間が大分来ておりますので、おまとめの方にお願いします。
○参考人(柴田明夫君) はい。
これがやっぱり、緊急事態にどう備えるかという話がすり替わってしまったなという気がいたします。
結局、大経営というのは必要なんですけれども、中小の農家の経営というのも非常に私は食料安全保障で考えてみると重要かと思います。
若干オーバーしまして、恐縮です。以上であります。
○委員長(滝波宏文君) ありがとうございました。
次に、谷口参考人、お願いいたします。谷口参考人。
○参考人(谷口信和君) 今日は、報告の機会をいただき、ありがとうございます。
私は、改正基本法と食料供給困難事態対策法案、長過ぎですけれども、これの関連という視点から報告したいと思います。
二ページのところを御覧ください。
この図は、右の方の図は、二〇一五年の安倍政権当時の基本計画の説明文書、基本計画に付随した文書です。そこにあるものをそのまま載せたものですけれども、食料安全保障と食料自給率及び食料自給力の関係が示されております。これを見ると、食料安保というのは、改正前の基本法に基づきまして、左側の下の方に不測時における食料安全保障と、ここにだけ単語が出ている。もう皆さん御承知のとおりだと思います。そして、それを示す指標として、このときの基本計画で初めて食料自給力という概念が持ち出されて、従来の自給率では不足すると、これを強めることによって課題達成に近づこうという方向が示されたということです。
この図のおかしなところが一か所あります、根本的におかしなところ。左側の下の方をよく見てください。不測時における食料安全保障の茶色っぽい四角の括弧の中に総合的な食料安全保障の確立が入っています。ところが、総合的な安全保障には条文の箇所が示されておりません。ないからです。そして、上の方の食料の安定供給の確保、これが基本法第二条第二項になっていますけれども、これがいわゆる通常でいうところの平時の食料安全保障に当たるものであるというふうに認識して対応してきたというのが実態だろうというふうに思います。
実は、二〇一〇年の民主党政権時の基本計画のときに、この総合的な食料安全保障という概念が提起されて文章に導入されたということです。なぜ入ったかといえば、その直前の二〇〇八年が世界的な食料危機だったということに対応して何とかせにゃいかぬということで、食料安全保障というもので全体をカバーしなきゃいけないという問題意識であったわけです。しかし、その後、この方向は採用されずに、政権が替わっていろんなことがあり、今日に至ったということです。
この図に@からNまでごちゃごちゃごちゃと丸で書いてありますけど、それは今回の改正基本法によって食料安全保障という箇所が広がっています。あちこちに食料安全保障という言葉がちりばめられている。これ自体はいいことです、いいことです。しかし、それがどの箇所に当たっているかということを前の図のまま落としてみたということです。
そうすると、一番上のアクセス@Gと書いてありますが、これは第二条の食料安全保障の確保の一番最初の定義のところですね。良質な食料への国民一人一人のアクセスというような箇所から始まって、アクセスは@とGで書かれています。それから、合理的な価格についてはAとDとLで書かれています。Lというのは、下の方の第二節食料安全保障の確保に関する施策のK、L番のところですね、食料の価格形成における食料云々かんぬんというものです。
その次、ずっと見ていくと、国内農業生産のことはありません。事実上ありません、事実上。前のままだから、変わっていないです。それから、備蓄、これもありません。そして、輸入のところ、H、I、J、Nと、つまり食料安全保障を強化するために輸入のことをしっかり考えようという姿勢が如実に示されております。
結局、私が申し上げたいのは、第一点目、食料安全保障を考える上で、国内生産、国内農業生産、自給率という問題をおいておいて、備蓄をおいておいて語れますかということなんですね。語り切れない状態になっているんじゃないか。これはやっぱり最大の基本法改正の問題だというふうに思います。
食料安全保障を掲げたこと自体は立派なことです。それを全然否定しません。しかし、何か一番大事なところが抜け落ちているんではないかなと。そのことに今回の困難対策法案もどこか引きずられているということを私は言わざるを得ないと思います。
結局、食料アクセス、合理的価格形成、輸入、輸出のみの議論になっていて、自給率向上という一番大事なところがほとんどされないまま事態が推移しているというのが問題だと思います。
次の三ページでありますけれども、三ページのところで書いたのは、その全体的な特徴をごく簡単に整理しました。結局、@二本立ての食料安全保障という形になっていたものを、二本立ての、食料安全保障になりました。というのは、かつては括弧付き、薄い括弧で書いていますが、平時の食料安定供給の確保と不測時のやつを今回まとめて安全保障と書いたために、平時の食料安全保障という言葉がなくなりました。つまり、食料安全保障一般になりました。そして、条文上は、後で述べますけど、二十四条のところで不測時における措置という単語が入って、ここも、不測時の食料安全保障、安全保障、落としました。全体が食料安全保障だからという趣旨です。それプラス困難対策法になっていますけれども、その結果、平時の食料安全保障という概念が事実上ふっと消えちゃったんですね、一般の中に流し込まれて。つまり、安全保障というのは、基本は平時の問題なんだと、食料に関しては。それが、やっぱり大事なところがちょっと落ちちゃったんじゃないかなというのが私の意見です。
二番目に、結局、輸出の問題です。これ重視しています。これも否定はしません。しかし、輸出言う前に国内生産でしょうというのが私の意見です。というのは、どこが倒錯かというと、輸出能力を持っていれば、輸出している分をやめて、国内生産の代わりに、国内生産していますから、それを輸出の代わりに国内の不足している分に充てれば足らない分が補えるんじゃないかという発想なんですね。
つまり、輸出をやめてということになると、相手の輸入国はどうなるんだ。実は、日本は、WTOで一貫して主張してきたことは、食料輸入国の立場として、輸出国が緊急事態のときに輸出禁止という措置をとることはおかしいと、それでは輸入国は困るじゃないかと、そういう片務的な関係では国際関係はうまくいかないよということで輸出禁止を否定したわけですね。今回のやろうとしていることは、大変になったときには日本も輸出禁止にしましょうということなんですね。そうすると、WTO上の外交対応というものがバッティングしてしまう。こういうダブルスタンダードの意見を国際関係の中で言うということはまずいんじゃないかなと思います。
三番目、そして、これは国内農業生産、備蓄に対してじゃないんですけれども、一番ポイントになっていることは、このこと以上に大事なのは、誰が担うかというと、国民が入っていないんですね、ほとんど。業者だけの話なんです。生産者から最後の消費者に行く直前までの加工業者や流通業者もある、あらゆる業者の話です。しかし、食料安全保障がスイスで議論されたときに、国民の問題なんですね、スイスでは。国民が、みんながどれだけ備蓄をちゃんと持つかということも含めて考えられているんであって、業者さん、持っていてくださいねと、いざというときに買えばいいですか、それではないでしょうと。これは国防の問題も同じですよね。国民全体が日本の国を守るという意識に立つかどうかということを抜きにして、自衛隊に任せておけばいいと。そうではないと思うんですよね。同じことなんです、食料の問題も。国民一人一人が、じゃ、自分のうちでは日常的にどのぐらいちゃんと備蓄を持っておく必要があるのかないのか、どういうものを持たなきゃいけないのか、こういうことを考えることが大事だと。そういう問題提起が著しく不足している。つまり、業者問題になっていて国民の問題になっていない。
つまり、農業問題、食料問題というのは、実は業者の問題ではなくて消費者と国民の問題なんですね。この大事なことが基本法において十分に訴えかけられていないというところに問題があると思います。
そして、実は農業生産の担い手に関してはほとんど変化がなくて、余り議論されなかった、先ほど触れていませんよね。実は、この前の二〇二〇年の基本法、ごめんなさい、基本計画のときに、従来の効率的で安定的な経営体に加えて、その他の多様な農業者というのが入りました。入ったことはいいんですけど、私はそのときも批判しました。入ったけど、やりますか、本当にそれを農水省は実践しますか。実は、それから今四年たっています。四年たった去年から今年の議論のときに、再び効率的、安定的でない経営体をどう考えるんですかと議論しているんですよ。今、議論ではなくて実践されたかどうかを問わなきゃいけないときに、入れるか入れないかの議論をしているんです。
つまり、文言として幾ら入っても、やるという気がなければ全く絵空事になってしまっているという現実が僕はあるんだろうと。これは現場の農業者が一番見ていることです。まあ所詮そういったって、俺らの味方になってくれないのだなという諦め、絶望に似たような気持ちが蔓延していると思います。これが一番まずいというふうに私は思っております。
ですから、この点で、今度の基本計画でもそうですし、今回のこの後の対策法案でもそうですけれども、こういう多様な農業生産の担い手に対してどの辺まで視野、視線ですね、目を配っているかということがあるかないかが大事だということです。
で、逐条的な指摘、四ページになりますけれども、これ一個一個細かいこと言うと切りがありませんので、二十四条のところだけちょっともう一回触れます。
これは、基本法の方で議論しておいた上で対策法案ができているということを考えなきゃいけないということです。ここでは、不測の事態が発生するおそれが認められたときからいろんな対策を図りましょうと、おそれが認められたとき。そして、これが食料供給困難事態対策法案制定の根拠付けになっています。
その上で何が書いてあるかというと、ほとんど主要な内容は、ポイントが基本法自体に書かれています、改正基本法に書かれています。その点で重要な点は、説明文書であったんですけれども、異常気象の兆候を捉えることで供給不足を事前に予測可能だと書いてあったんですね。うそでしょうと、誰ができますかと、私の意見です。できません、できていません、現実問題として。なぜならば、これ後で言います。ちょっと飛ばしますね、一回。
六ページ行ってください。今のことは、七ページですか、ごめんなさい、七ページですね、七ページで、不測の事態が予測可能性というパラドックスが現行の法案の問題だというふうに申し上げたいんですが、どういうことかというと、下の方の図を見てほしいんですが、左から三番目の図です。これ、BBCが出した図を翻訳したものをコピーしただけ、五月十日、もうつい最近の図です。現在の気候危機は、@、A、Bに書いたように、世界と日本の二〇二三年の気温が過去最高になっていると、去年が過去最高。それから、CO2濃度、これも過去最高なんですね。
で、この左から二番目の図は、実はCO2濃度を日本でも三か所測っていて、大船渡にある綾里というところと、与那国島と、それから南鳥島です。この三か所の図が、これ見えないですけど、三本の線が真ん中の黄色いところにあるんですけど、並んでいるんですけれども、陸上から遠いところほどCO2濃度低いんですね。南鳥島が一番低い、そして次に高いのが与那国、そして綾里は高い。
つまり、人間の活動に近いところはCO2濃度が高い。空気ですから、その上だけに空気があるわけじゃないんですよ。動いているんですから。にもかかわらず、人が住んでいる、経済活動が行われている場所はやっぱり高いということが如実にその島との距離関係でもって示されちゃう。
そういう状況の下で、B番、海水温は、海面水温は、二〇二三年五月四日から過去最高値を更新し続けている。これ、すごく重要な点で、初めて、私もこれ、ここまで明確な図を見たのは初めてです。
何かというと、この図は、一月から十二月までの毎月の気温を、気温、平均気温ですね、これをプロットしたものです。そして、この下の方にある灰色のぼやぼやぼやっとしたものが、毎年違う年がだあっと並んでいます。ところが、この赤い線で書いてある、これが、二〇二三年と上の方にある二〇二四年、今ですね、今年、これだけが飛び出しています、上に。つまり、どの年とも異なって、去年から今年にかけて違う。しかも、ここに書いてあるように、五月四日、去年の五月四日からは、一切過去のところに交わらない、はるかに上の状態がずうっと続いています。ここまで来ているということは大変なことになるという予兆、僕はあったと思います。ですから、今年の冬から春、夏にかけて物すごいですよね。
私、実は、余り細かく言いませんけれども、那須塩原市というところで牧場のコンサルというか、仕事をずっとしていて、八年になるんですけれども、やはり、気温ずうっと調べてきて、やっぱり去年、今年は異常です。今年の牧草の作は、実は五月のときに一番草を取るんですけれども、七月の段階でした。つまり、二番草を取って終わっちゃう段階のときがもう五月に生じた。あり得ないです。去年の九月、十月、播種しているんですけれども、異常です。そして、何が起きたかというと、はやて、なかて、おくてといって、牧草ってそういう順番があります。これ、全部同じになっちゃった。まいた時期違うんだけれども、取る時期一緒、みんなもう最高になっちゃった。これは尋常じゃないんです。それで、私は、今年の夏はまた大変なこと起きるから、とにかく暑熱対策取ろうと去年からずっと言ってきてはいたんですけれども、もうこの三月、四月、五月、毎月一回ずつ行くんですが、対策を取ろうということでまた議論したばかりです。
こういうことがあるとすると、今、対策法案によると、もう本部つくる段階ですか、そういうことを聞きたいんですよ。つまり、こういうリアリティーがないか、あるかという問題なんです。ということは、逆に言うと、分からないんだから平時の問題をもっとしっかりやりなさいという単純なことなんですよ。無理なんですよ、幾ら予測ばかりやっても。そのときの対応を取ることはすごく大事ですけど、それ以前の問題を抜きにして、そこをいかに精緻にやってみても、残念ながら無理ではないか。
まして戦争の話、全く我々は予知していません。十月七日のことを予知した日本の社会科学者、国際政治学者、何人いたでしょうか。そして、ここで終わるという話も、一年以内に終わる、ウクライナ戦争、二年、三年、十年、もう分からなくなっています。こういうことがずっと続いているのに、そういうことは予知可能だみたいなですね。予知することは反対じゃないんですよ。しかし、可能だということよりも、できないという想定に基づいて、いかにふだんからしっかりやるかということに力を注ぐことが大事かというのが私の基本的な見方です。
以下、たくさん述べてありますけれども、もうあちこちで皆さんが言っていることと重なっていますので省略します。とにかく、平時と不測時の関係では、五ページに戻っていただくと、とにかく平時が大事だということです。日本について言えば、仮に、仮に海外からの輸入途絶があって、輸入途絶があって、国内生産は全く普通というふうになったとしても、在庫と備蓄を合わせて穀物については五か月分しかないんですね。ところが、アメリカの場合には、輸出していますから、しかも輸出していながら在庫持っているんですね。ですから、この部分をやめるだけで一年間ずうっと食えるんです。まして平常作でいけば、余っちゃうんですよ、そもそも。そういう国が一方であるのに、日本は全然違うところに行って、問題じゃないかなと思います。
中国のことについては、非常に熱心にやっているということは、先ほど柴田さんのお話のとおりだと思います。日本はもうちょっと学んだ方がいいかなと思います。
そして、最後、ちょっと簡単に触れて終わりにします。
十三ページ。まず一番目に、三のところですね、特定食料、特定資材の範囲、これがはっきり言って狭いと思います。なぜ狭いか。九三年の平成の米騒動の経験が踏まえられていません。お米が足りないからタイ米を輸入した、しかし、庶民はタイ米を食べないで、うどん、そば、ラーメン、小麦製品食べちゃったんです。つまり、今の食生活を前提にしてやらなきゃいけないのに、ただ芋だ何だという話ばっかりしてもリアリティーがないんです。そういう議論をすればするほど国民は、まあどこかでやっていますねという、自分の問題にならないんですね。自分の問題として捉えようとしなきゃいけないなというのが私の意見です。
それから、需給状況の報告徴収等々について、衆議院でも、参議院、こちらからもそうだと思いますが、懲罰の規定ですね、様々な義務に対しての懲罰規定が全部載っています。それも非常に重要だと思うんですが、それ以前に、実は、効率的な、安定的な経営体ということを一方で言っておきながら、どの範囲まで広げるかということをですね、このこちら側の多様な生産者について位置付けしないまま、曖昧なまま、呼びかける相手をはっきりしないままでできるんですかと。つまり、そこのところを、基本法の本体とこちらの困難法案、整合性取っていくことはすごく大事だと。そうしないと、おかしくなっちゃう、実現できないんじゃないかと思います。
そして、最後のところです。のうてんきな……
○委員長(滝波宏文君) 時間ですので、意見をおまとめください。
○参考人(谷口信和君) はい。
総合的な備蓄論に関しては、私は、フェーズフリーの備蓄論ということで、これを重視したいというふうに思っております。
最後、二点だけ加えて、一分以内に終わります。
九ページです。九ページのところに書きましたのは、農地所有適格法人の議決権の緩和の問題ですけれども、これは、私は基本的には反対ではないんですが、二点厳しい対応があると。
一つは、地銀ファンドについては余り賛成しません。なぜならば、私自身が今関係しているところも銀行の管理下にあるような会社なんですけれども、銀行マンの、今銀行の置かれている状態というのは、昔の銀行じゃないんですよね。株式を対応するような、証券会社とほとんど変わらない、ユニバーサルバンク化しています。そこでの利潤やもうけの指標というのは、こんな五%、三%なんてものじゃないんです。はるかに高いんです、二〇だ、三〇だ、五〇%だという。そういうところの基準を持って経営参画している、あるいは経営を中心となってやるようなものという農業は成り立ちません。
かつて北海道でオムロンが施設園芸に進出してやめたときの、彼らの上げていた利潤率は七%です。七%よりも電子機器の方がはるかに高い二〇%以上利潤率上げているから撤退だったんですね。そういうものにやっぱりなかなか任せにくい。頑張ってやってくれればいいです。そうならないということが問題だろうと思います。
それから、スマート農業技術については、技術そのものは賛成なんですよ。これ、誰が、どういう経営体の、どういう規模のやつが、どういう技術を受け入れるかと、その受皿の問題がないんですね。
そうすると、日本の場合で、簡単に言いますよ、一番大きいトラクターでいってもせいぜい百五十馬力です。二百馬力ほとんどありません。しかし、ヨーロッパでは三百ですよ。三百馬力のトラクターを入れる圃場ってありますか、日本に。ないんですよ。トラクターとしてはその方が効率がいいんですよ。しかし、路上も走れません。
○委員長(滝波宏文君) 済みません、時間ですので、おまとめください。
○参考人(谷口信和君) そういうことで、受皿の問題をやっぱりしっかり議論して、いろんなことを考えなきゃいかぬということだけ申し上げて、終わります。
ちょっと超過しました。失礼しました。ありがとうございました。
○委員長(滝波宏文君) ありがとうございました。
次に、池上参考人、お願いいたします。池上参考人。
○参考人(池上甲一君) ただいま御紹介いただきました池上甲一でございます。
近畿大学名誉教授で、私は、NPO法人の西日本アグロエコロジー協会の共同代表、それから任意団体の家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンの常務理事を務めております。今日は、こういう機会をいただきまして、大変有り難く思っております。
お手元の資料、文書の資料に基づきまして説明をしていきたいと思います。
まず、食料供給困難事態対策法案についてでございます。
基本法の改定、基本法は成立いたしましたが、いろんな問題もありますが、評価すべき点もあるというふうに思っておりますけれども、この困難対策法案については極めて問題が大きいというふうに考えております。
本法案の提出理由では、米穀、小麦、大豆の国民の食生活上重要な食料の供給が大幅に不足し、又は不足するおそれが高い事態に対応するためと記しています。また、本法案第一条は、世界の食料の需給及び貿易が不安定な状況になっていることを認めています。この点につきましては、既に柴田さんですね、柴田参考人、それから一番最初の寺川参考人も触れておりますように、今や常識化していると言っていいと思います。とすれば、最優先されるべき食料政策というのは、谷口参考人も申し上げましたように、国内生産の維持、増強だということは論をまたないというふうに思います。この観点から判断すれば、本法案の必要性は極めて低いというふうに言わざるを得ないというふうに考えています。
それに加えて、本法案には幾つもの致命的な欠陥が存在しています。逐一述べていくことはできませんので、ここでは最も重要な点に絞って述べたいと思います。
最大の懸念は、日本国憲法第二十二条に規定されている職業選択の自由、その中に含まれるというふうに理解されている営業の自由ですね、これを侵害するおそれが極めて高いということでございます。
皆さん方は、委員の皆様方におかれましては、今オンライン上で本法案の廃棄を求めるオンライン署名が展開、広がっていることを御存じでございましょうか。これは、農民自身がその廃案を求めているというところにこの本法案の最大の特徴が表れているというふうに考えております。
この方は、このオンライン署名を展開、提案された方は、八年前に脱サラをして中山間地域にIターンした新規就農者の方です。この方、ユズを植えて六年たちました。今年ようやく収穫期を迎えたようですね。本法案が仮に成立して発動されたということになると、こういう方たちの努力、継続的な努力が無に帰すことになる、そういう危険性を持っております。というのは、食料供給が困難になったと政府が判断すれば、稲、麦、芋類のいわゆる特定重要作物ですかね、そちらへの転換を実質的に強制されかねないからであります。
条文上は、出荷、販売の調整の要請、出荷販売計画の作成指示、出荷販売計画の変更指示というふうにお願いしたり指示したりする体裁を取っています。農水省の事前の説明でも、そういうお願いをするんだということを強調しておりました。しかし、計画どおりに出荷、販売する法的義務が定められており、その義務に従わないと、氏名の公表と罰金刑がペナルティーとして科されてしまいます。営業の自由を貫くと前科が付いてしまうということになりかねないわけですね。この問題は、さらに、日本の、日本社会の特質を考えると、非常に深刻な問題も内包していると思います。それは、コロナ禍の下で営業自主規制が要請されたときに、営業を続けた飲食店が非国民というふうな形でそしられたことも念頭に置く必要があるというふうに考えています。
こうした一連の流れは、農民の営業の自由を著しく損なうおそれが高い。花卉作や果樹作、畜産の飼料作など、非食料作物の部門は専業農家が多く、日本農業の中核を担っています。ところが、外国の干ばつ、熱波、洪水、動植物の病虫害、あるいは紛争、戦争など、これとても予測できないというのは谷口参考人が強調されたとおりでございますけれども、いつ発生してもおかしくない、そういう状況の下では、本法案による生産指示の発動におびえながら経営するということになりかねません。そうすると、経営の継続性だけでなく、将来を見通した計画的な農業投資や営農意欲に悪影響を与えるというおそれもあります。そのことは、直接的な営業の自由の侵害だけではなく、間接的にも営業の自由を阻むおそれがあるというふうに思います。
さらに、本国会で成立した地方自治法の改正によって地方自治体に対する国の指示権が行使できるとされたことを踏まえると、食料の確保を前面に出す指示権運用の可能性ということも否定できないのではないかというふうに考えております、懸念しております。
以上のような法的な枠組みを考慮すると、本法案は明治末から大正期にかけて行われたいわゆるサーベル農政というものを想起させます。サーベル農政とは、生産力を上げるために農事改良を進めるということで、そのために、従わない農民に対しては罰金あるいは警察官による取締りもするというふうな形での強圧的な農政のことであります。サーベル農政の持っている暴力性というものは、明治政府の反農民的性格を示すものであったというふうに指摘をされております。つまり、本法案について決定的に欠けているのは、農民の立場、農家の視点というものが欠けているということだというふうに考えております。
本法案が想定している生産、流通、さらには消費、あるいは生産資材に至るまでの管理統制については、日本は戦前から戦後までの統制経済の歴史を持っています。それは大変息苦しい社会で、個人の自由がないがしろにされてきました。今改めて歴史に学ぶ重要性ということを強調したいというふうに思います。
次に、二番目に、農業の生産性の向上のためのスマート農業技術の活用の促進に関する法律案について説明したいと思います。
目下の日本にとって、社会経済政策にとっても国土政策にとっても、また防衛上の安全保障政策にとっても、農村に人を残すことが最大の課題であるというふうに考えております。国民国家として優先すべき課題が食料の提供であることを考慮すれば、農業に人を残すということも必須です。つまり、農業、農村に人を残すことが喫緊の課題だというふうに言えるかと思います。
それなのに、本法案は、今後二十年間で基幹的農業就業人口が百十六万人から三十万人に減るという予測を前提として、少人数に対応した高生産性農業を標榜しています。生産性が高い農業そのものに問題があるというわけではありませんけれども、その結果、農村はごく少数の農家しか住まなくなる。で、地域社会の弱体化がもたらされてしまう。そうすると、その農村を、いろんな形で重要な役割を持っている農村の弱体化に貢献する法案であるというふうに言わざるを得ないと思います。本法案は基本的に人減らし法案だというふうに極論することもできるかもしれません。
問題は、スマート農業が農業従事者の育成、確保や重労働の軽減といった農村、農業の要望に応えるのではなく、生産性向上の名目の下に人手不足を更に促し、コスト競争力を強化しようという狙いそのものにあるというふうに思います。ここでの生産性の向上とは、要するに作業時間の節減ですね。これは、企業経営であったら当然労賃の節約につながるわけですけれども、農家にとってみれば、労働時間が減ったらその分だけ労働報酬が減ってしまうわけですね。だから、決して農家にとってはプラスになるとは限らないという面もあります。本法案は、大多数の中小・家族経営ではなく、ごく少数の大規模企業農業を対象に考えているというふうに言わざるを得ないと思います。
しかも、本法案第四条によりますと、生産方式革新事業活動を行う農業者等及び開発供給事業を行う者に対して集中的かつ効果的に支援を行うと、大規模企業農業と開発事業者を優先する方針が明記されています。その大規模農業も、そのスマート農業技術というのはこの開発事業者から提供されるわけですから、本法案は、半分以上がスマート農業技術を開発する機械メーカーや情報企業、あるいはドローン作業などの請負業界を支援する法案だというふうに位置付けることもできるかと思います。つまり、開発ベンダー支援法なのではないかというふうに考えております。
このことは、みどりの食料システム戦略の予算配分を参照すれば一目瞭然になるかと思います。このみどり戦略のための予算枠として、二〇二四年度には技術開発・実証事業に六十八億円充てましたが、有機農業の推進に関わるみどり戦略推進総合対策はその半分の三十億円にしかすぎませんでした。ここの点に明確に見られるように、恐らくこのスマート農業法案の予算の大半はベンダー企業に流れるということになるというふうに懸念されます。
本法案が開発ベンダー支援法としての性格を持つため、農民の意思が技術開発に反映されず、農民は単なる利用者にとどまってしまっています。だから、スマート農業技術がブラックボックスになってしまうわけですね。スマート農業技術が農民を技術開発から排除していくメカニズムが生まれます。そうした性格を持つ本法案の下で、果たしてスマート農業技術が農民の要望に応えるとともに農法を変革する契機になるか、大変疑問に思います。
ちなみに、二〇一三年頃だったと思いますが、農水省自身が組織した研究会の報告書では、作業時間の節減のほかにも、労働強度の軽減とか消費者や実需者をつなぐユビキタスといったような点が、五つの分野が盛り込まれていました。本法案では、この労働強度の軽減というのは一か所しか出てきておりません。したがって、こういうこの当時の研究会の方向が一体どこに行ってしまったのかということについても疑問には思います。
それからもう一つ、最後の方になりますが、大変重要な点として指摘しておきたいのは、農民から提供されるデータの取扱いでございます。
本法案は、これについて何も規定していません。企業による農業経営向け情報サービスが進んでいるアメリカでは、情報を提供する農家が農地の情報利用について主導権を持つことを保障する必要があるというふうにアメリカ農業連合会は主張しています。本法案が成立すると、営農に関する様々な情報が、取扱いについての規制なしに情報サービス企業や国、都道府県の研究所に蓄積されていき、これらの情報が自由に使われる危険性が高まります。今必要なのは、情報主権の考え方を導入し、農民の関与をきちんと保障する仕組みを構築することだというふうに考えております。
最後に、やや文学的な表現になりますけれども、工学的なスマート農業技術によって農民は本当に幸せになれるのかという疑問が残ります。それは、農業労働の性格を基本的に転換させてしまうからであります。ドローン利用の水管理システムは確かに効率性は上げれますが、水田の周りを歩いて、稲の様子を見ながら涼しい風に身を委ねたり、アキアカネの群れに感動したり、畦畔の野草の花に感動したりすることがなくなってしまいます。スマート農業技術は、こうした農業労働の全体性を失わせることになるだろうというふうに私は懸念しております。
三番目のいわゆる農地法関連法については、阿賀野の農業委員会の方も御説明をされました。時間の制約上、ここでは意見陳述を省略させていただきます。
以上でございます。どうもありがとうございました。
─────────────(略)─────────────
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。今日は、五人の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見、ありがとうございます。
それで、私は、食料供給困難事態対策法ということで、そもそもこの法律をやっぱり発動しなくても済むように、本当に平時から対策を打っていくことが先決じゃないかと。そのためにも、国内での生産目標ですとか自給率目標を決めて、その達成に真剣に取り組むことが大事じゃないかというふうに思っているんです。その上で、幾つかちょっと懸念することもあるものですからお聞きをするんです。
それで、一つは、食料事態法でも最も懸念されているのが、強制力を持って増産とか生産転換を指示していくということです。それで、兆候が現れた段階で、出荷や販売対策は民間の自主的な取組に対して要請すると、まずは要請すると。そして、兆候から今度、困難事態に移ったときには、要請から指示に変わるということなんですね。指示というのは、合理的な理由なしに計画を出さない場合は懲罰という、罰則ですね、罰則ということがあって、強制力を持つことになると。
それで、生産者に対して作付けですとか増産ですとか生産転換を強要するということになると、これ、憲法の二十二条で言っている職業の選択の自由、内包する営業の自由ということに制限掛けることになるんじゃないかというふうに、それ聞こうと思っていたら、池上先生がさっきちょっと触れられましたので、そのことについてまずもう少しお話聞きたいのと、それから、同じことをめぐっては谷口参考人にもお聞きしたいと思います。
○参考人(池上甲一君) ありがとうございます。
まず、営業の自由という点を侵害するという点については、これはもう明確だと、明白だと思うんですよ。
これまで、私、今日はサーベル農政の例を出して説明いたしましたが、このサーベル農政は農事改良ということで、共同苗代とか、それから塩水選といういい種を選ぶ技術とか、そういうものをやりなさいという、その一つ一つは技術的に見たら合理的なんですよ、それ自身はね。なんだけれど、それを指示従わないと、もう、まず警官が来て、警察官が来て、そういうふうにやりなさいという強制的な指示をする、従わないと罰金もするというふうな自治体もあったということなので、これは、そこで自分が何を作っていくか、何を選んでいくかということに対するもう明白な侵害だというふうに言えると思います。同じような形で運用される危険性があり得るんだと思っています。
今日、フードセキュリティーの話が出ておりますので、日本もようやく、一人一人のアクセスということについて今回触れましたが、皆様方も御承知のように、FAOの四条件というのは、その二つ以外に、栄養ですね、栄養の確保ということと、それを安定的に確保できるかという四つの条件がありますね。これに今、二〇〇〇年ぐらいから、新しくエージェンシーということと、先ほど谷口参考人からもお話がありましたサステナビリティーという二つの側面を付け加えるという議論が展開しています。
そのエージェンシーというのは、まさに、自分たち、何を作って何を決めていくかという主権の問題です。エージェンシー自身は主体ということなんですけれども、その主体が何を作って何を食べていくかということを自らの意思で決めていくということですね。それを制約するということになってくる。だから、フードセキュリティーという国際的なその議論からもこれは逆の方向を向いているというふうに考えています。
今日はちょっと時間がなくて申し上げられませんでしたが、生産転換の指示を出して、畑作農家とかそれから果樹農家とかそういう農家に、これから米作れとか麦作れとか大豆作れとか言われて、すぐできるか。素人ですから無理です。種をどうするかという問題もあります。そういうことにもほとんど触れられていないという点に私はかなり強い危惧を感じています。
ありがとうございます。
○参考人(谷口信和君) ちょっと乱暴な意見言います、あえて、あえて。
一般企業のところに中小企業がいっぱいありますよね。これが現在のデジタルトランスフォーメーションの時代に対応できていなくて、いまだ昔のようなことやって、ゾンビ企業って悪口言われていますけれども、じゃ、そのゾンビ企業を良くするためにこの事態法案と同じものを適用したらどうなりますか、良くなりますか。状況、全部克明に情報出させて、監視して、毎日毎日文句言って、駄目だと思いますよ、やっぱり。
やっぱり究極は、技術革新でも何でもそうですけれども、現場にいる人が自主性を持って事態を把握して取り組んでいけるような雰囲気をどうつくるかということが基本なんですよね。トヨタだってどこだって、やっぱり末端のところでのカイゼンという努力をどうやって労働者から引き出すかということに対して物すごいやったんです、丁寧に。それはいいかどうかは別にして、そういうことがあって初めて自主性って引き出せる面があるんですね。
そうすると、農業の場合には特にそれが強いだろうと。ここで成り立っていることをここで当てはめたら、そのままいかないんですよ。圃場の状態一個一個違うし、日の当たり方も違うし、作物も違うし。
ですから、そういう点では、やっぱりその自主性をいかに引き出せるだけの努力をふだんから農民の側に培ってもらうかといったら、最大の問題は、ふだんから農民が、農業者が尊敬されることですよ。農業者はいい仕事ですね、頑張ってくれていますね、我々の食料供給してくれてありがとうという雰囲気が国の中にないところで幾らやれって言ってもやらないと思います。
ですから、そこのところの何か順番を履き違えちゃうと、この法案自体の元々の趣旨が適用できないと思います。ただし、ただし、取り上げるだけ考えたら、これが一番簡単ですから。でも、それは短期にしか続かないし、現実的にはワークしないプランだというふうに私は思います。
○紙智子君 ありがとうございます。
新たな農業基本法の目玉ということで、今回、食料の安全保障の確立ということを言われているんですけど、特に米、麦、大豆などの穀物が重要な作物になると。既に世界的に穀物の需要が不安定化しているということ、先ほどもお話がありましたけれども、考えると、穀物を国内で増産する本気度が問われているということとともに、今までの備蓄制度も考え直す必要があるんじゃないのかというふうに思うんです。
それで、米、麦、大豆などのこの備蓄水準をどうするのかということについてのお考えを柴田参考人、それから池上参考人、谷口参考人にお聞きします。
○参考人(柴田明夫君) 備蓄が今のところでいくと、米で多いときで二か月で、あと、大豆、トウモロコシ、小麦となると一か月、〇・八か月ぐらいなんですね。これはやっぱり低過ぎる。中国は八か月から十一か月分ぐらいの備蓄をしているんですね、戦略備蓄。これ、だから数か月分ぐらいは持つべきかなと思いますね。安心できるレベルというようなところで必要だと思います。
○参考人(池上甲一君) 日本はやっぱりこれまでいつでも輸入できるということが前提にあったと思うんですよね。そのために、本格的に備蓄政策というのを展開してこなかったんじゃないか、検討してこなかったんじゃないかなというふうに思っています。
今日、今、柴田参考人の資料見せていただいて、中国がこれほど大きな資金を使って、これほどの備蓄を、しかも世界の備蓄量の期末在庫の半分を占めるほどに、水準になっているという、そのこと自身が、やっぱり中国だからこそできるのかもしれませんけれども、その姿勢というものは日本も学ぶ必要があるかもしれない。
今日は平時の生産ということを非常に強調しましたが、もちろん平時の生産ができなくなることもあり得ますから、そうすると、どうするかというときに、何しろ備蓄はちゃんと確保しておかなきゃいけない。それをどういう方式でやるかということについてはまた別途の議論が必要かと思いますけれども、それは本格的に検討する、腰を据えた議論というか、腰を据えた政策、それから、余りころころ変わらない政策というものがこれまで余りなかったのではないかなと。それについての反省と、改めてそれも強調するということが非常に大事だろうというふうに思っています。
それからもう一つ、備蓄と直接関係するかどうか分かりませんが、地域の自給ということをもっと強調した方がいいなと思っております。
以上です。
○参考人(谷口信和君) 日本とヨーロッパの農業の差がやっぱりいまだに残っていて、その考え方がベースにあると思います。つまり、お米は連作できますから、毎年毎年米作っていますから、米やめるということもできますし、戻すことも簡単なんですね。ところが、ヨーロッパの場合には、昔から長い期間掛けて輪作体系組んでいます。現在、ヨーロッパの、EUの農業政策が大体七年から十二年ぐらい単位でもって動いているのは、七年から十二年輪作があるからなんです。今年は小麦作るけど、違うもの作っている、毎年毎年。それを七年、十二年やらないと、トータルでの所得や何かが分からない構造なんですよね。それでもってそれを支えるとなるから政策が長期化するんです。日本の場合には、はい、今年米余った、じゃ、転作だといって、そんなふうにできないんですよ、もう決まっていますから、順番がもう。だから、そういうふうに持っていかないと、もう無理なんですね。それが基本だと思います。
それから、備蓄に関しては、この間、オレオレ詐欺があちこちで話題になっていますけれども、あのとき、いつも私驚くことがあるんです。日本の貯蓄残高、日本人の貯蓄残高どれぐらいあるのかなということの統計の中にたんす預金って入っているのかなと。よく分からないんですけれども、多いですよね。この間は七千万円でしたね、現金で持っていかれたの、つい最近。七千万円持っているんですよね。千万、二千万普通ですよ、三千万、四千万。必要だと思うと持っているんですよ、みんな。銀行に預けないんですよ。何で預けないか分かりませんけれども、持っていますね。これは税金逃れなのか何か分かりませんけど。
同じように、備蓄が必要だとなるか、在庫が必要だと、ここが大事なんです。備蓄と在庫は違うと認識してもらわなきゃ。在庫というのは、所詮流通の間の、止まっているだけなんですね。そうではなくて、大変なときに備えておくから備なんですよ。在庫って余っているのを置いているだけだと、その思想をまず変えなきゃいかぬと思いますね。
そういう観点からすると、やっぱりそこも含めた教育が必要だし、それから、私はずっと言っていますけれども、既にスーパーはそういう在庫を持つような形での倉庫を消費者に持ってもらって、配達する作業も始めているんですよね。それに比べて国の政策は遅れているなというふうに思います。
少なくとも、家庭でもって二か月分ぐらい持っていてもいいと思いますよ。そうすると、食品の在り方は変わります。生のものばっかりじゃなくて、それこそお米じゃなくて、米じゃなくてレトルトになっている状態のお米ですね。つまり、すぐ開けて食べられる状態、もう水加えるだけとか温めなくてもいいとか、いろんなタイプがあると思いますけれども、そういう加工食品の多様な幅を広げることによって、生産現場の方も助かるんですよね、細かな規格要らないから、ばっ、ばっ、ばっと切ってしまえばいいんですから。
だから、そういう点で、構造全体を変えるということをしない限り、備蓄だけどうするか、生産どうするかというんじゃなくて、トータルでの農業の消費の在り方を変えてほしいと、こういうふうに思っております。
○紙智子君 農振法などの農地についてもお聞きします。
それで、笠原参考人にお聞きするんですけれども、私も、毎回、前回も参考人で来てこられて、そのときに本当に緻密な対応を現場でされていて、やっぱりよく話し合うということを基本にされているということで、とても感銘を受けていました。
それで、農業経営基盤強化法の改正によって、農地所有適格法人、ここへの食品事業者などの影響力も強くなってきているんじゃないかというふうに思うんですけれども、出資されているときにはいいんだけれども、もし撤退されたりとかということが出てきたときにどうするのかということでは、この食品事業者の農業への関わりというのがどうあるべきかなというふうに、御意見あればお聞きしたいと思うんですけれども。
○参考人(笠原尚美君) 御質問いただいたところが一番懸念しているところでして、出資はされました、ですけれども、やはり撤退しますというような状態になったときの適格法人の在り方を大変危惧しているところです。そちらについてもきちんと国の方で考えていただいて、既にそういった食品事業者が入った状態で農業経営をしているようなところもありますので、そういったところの御意見もしっかりと伺いながら、こういった方針で進めていきますという指針を見せていただきたいなというふうに思っています。
○紙智子君 時間ですね。
○委員長(滝波宏文君) はい。
○紙智子君 済みません。最後、ちょっと寺川参考人には聞けなくて済みません。
時間ですので、これで終わります。どうもありがとうございました。