<第213回国会 本会議 2024年5月29日>


◇食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案 食料自給率の向上「投げ捨て」、改定農基法に本会議で反対討論

○食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、政府提出の食料・農業・農村基本法改正案に反対の討論を行います。
 冒頭、坂本農林水産大臣の生産基盤は弱体化していないとの答弁について述べます。
 立憲民主党の徳永エリ議員が、なぜ生産基盤が弱体化したのかと質問しました。大臣は、生産基盤は弱体化していない、決め付けだという答弁をされました。私が、二〇一九年当時、安倍総理が弱体化を受け止めて改革を進めたいという答弁をしたことを紹介をしたら、弱体化しているから農業を自由化しなければいけない、競争にさらされなければいけないに続くなどと答弁をされました。
 五月二十三日の委員会の冒頭で大臣は、撤回をし、おわびをすると発言をし、基本法の改正案は、農業の生産基盤が弱体化していることなどを背景に提出をしたと修正をされたわけです。大臣の発言は、法案の提出理由をも否定するものです。
 これで大臣の責任を果たせるのでしょうか。資質が問われていることを指摘し、以下、反対理由を述べます。
 反対する第一の理由は、改正案が「食料自給率の目標」を「食料安全保障の確保に関する事項」に書き換え、最重要課題の食料自給率の向上を投げ捨てたことであります。
 現在の食料自給率は三八%、現行法ができてから食料自給率目標は一度も達成されておりません。そのまともな検証もないまま、「食料自給率の目標は、その向上を図ることを旨とし、国内の農業生産及び食料消費に関する指針」としていた文章を改善を図るに変えれば、これは目指すべき目標が見えなくなります。
 改正案は、安定的な輸入を確保するために、輸入相手国の多様化、相手国への投資の促進を位置付けました。自民党政権の下で、TPP、日米貿易協定、日EU・EPAなど、歯止めなき自由化が進み、安い農産物の大量輸入が続きました。世界的な食料情勢が不安定化する中で、自由化路線を変えるどころか、安定的な輸入といって相手国への投資まで行えば、国内生産の土台を掘り崩すことになりかねません。
 安全、安心な農産物を安定供給するためには、生産者が安心して営農できることが大切で、食料自給率の向上を国政の柱に据えるべきです。
 第二の理由は、生産者の所得を増やす規定がないからです。
 全国各地で、農業で生活できない、担い手がいないとの声が広がっています。二十一日の岩手県の公聴会で、私は、日本生活協同組合連合会が財政支出に基づく生産者への直接支払を求めていることを紹介しましたが、与野党から推薦された参考人全員がそれは賛成だと意見を表明されました。
 岸田総理は、人件費等の恒常的なコストに配慮した合理的な価格形成の仕組みについて、法制化を視野に検討を進めると言いました。昨日の質問で、人件費等の配慮とは生産者の所得を上げるものかと聞きましたら、坂本大臣は、賃金や所得を補償するものではないと答えました。
 生産者に対する直接支払をかたくなに拒否し、農業で生活できない現実を放置するなら、農業、農村の崩壊を招くことになりかねません。政治の責任で所得補償や価格保障で再生産を支える仕組みを創設することが必要です。
 第三は、兼業農家など多様な家族経営への支援が弱いということです。
 政府の担い手政策は、専業農家である効率的かつ安定的な経営体、農業で生計を立てる担い手を支援するものです。兼業農家や半農半Xなど多様な生産者は、専業農家の補助者と位置付けています。
 新規就農者は十年前の六万五千人が二〇二二年には四万五千人に減っているのに、政府は、県ごとの新規就農者を把握していないことから、有効な対策を打ち出せずにいます。今、人口減少が続く中で、施策の対象を効率的かつ安定的な経営体、法人に絞る必要はありません。農業生産に携わる多様な生産者への支援が必要です。
 第四は、生産基盤である農地を維持強化するものになっていないからです。
 一九五〇年代、昭和三十年代の耕地利用率は一三〇%を超えていました。一九六一年の旧基本法の選択的拡大政策は、麦、大豆などの政策を切り捨て、アメリカの農産物を受け入れるとともに、輸入飼料に依存した畜産政策を打ち出しました。耕地利用率は今や九一%です。自由化、規模拡大が進められた結果、採算の取れない農地が耕作放棄地になり、開発優先によって優良農地の転用が進みました。
 また、選択的拡大は麦などの品種改良を遅らせ、一九六一年当時、日本とフランス、ドイツの単収はほぼ同格だったのに、今や二から三倍もの開きが出ています。元農業試験場の技術者は、選択的拡大によって麦の研究室や研究員は半減したと語っています。
 輸入依存からの脱却に向けて麦、大豆、飼料作物の国内供給力を強化するというのであれば、耕地利用を高めて品種改良を進めるべきです。
 アジア・モンスーン地帯である日本の水田農業は、日本の風土に適した土地利用型農業です。自然災害が多発する中で、田んぼダムとしても水田の役割が強調されています。政府は畑地化を進めると言いますが、地域の特性に応じた土地利用型農業を進めて固定的に畑地化する必要はありません。
 第五は、農業生産活動における環境への負荷軽減が入りましたけれども、温室効果ガス、CO2削減の文言も有機農業の文言もありません。
 参考人質疑で意見陳述をされた農民運動全国連合会の長谷川敏郎会長は、化学肥料や農薬に依存し、商品を大量に作るやり方は環境に負荷を与える、生態系を大切にしながら化学肥料も農薬もやめたら、経営的にも合理的な循環が可能になったと言われました。
 自然の生態系に依存した農業政策や温暖化防止対策は全く不十分と言わざるを得ません。また、環境への負荷軽減をいうのであれば、輸出国における水資源の枯渇、森林の破壊など、海外に依存する食料政策の見直しが必要です。
 第六に、成長産業化には力を入れるけれども、農村の振興、地域間格差を是正するものになっていないからです。
 国は、農業生産の基盤の整備と交通、情報通信、衛生、教育、文化等の生活環境の整備その他の福祉の向上とを総合的に進めると言っていますけれども、人口の減少に歯止めが掛からず、集落の存続の危機が深まるばかりです。
 病院がなくなり、鉄道もバスも廃線になり、生活インフラの基盤が崩壊しつつあります。日本村落研究会は、平成の大合併によって過疎化の進展にブレーキが掛かった事例はない、旧村ごとに行っていた独自の農政を消滅させ、農政に特化した予算措置ができなくなったと指摘しています。
 一極集中を是正し、小さくても輝く農村政策、住み続けられる農村政策に本腰を入れるべきです。
 今必要なのは、新自由主義的な農政から、人と環境に優しい農政への転換です。農産物の自由化を進め、まともな所得対策がないまま、需要がある農産物を作れ、売れる農産物を作れと生産者に自己責任を迫る農政では、生産者も農地も減少し続けることになるではありませんか。
 食料と農業の危機を抜本的に打開するには、食料自給率の向上を国政の柱に据え、際限のない輸入自由化路線に歯止めを掛けるとともに、危機打開にふさわしく、農林水産予算を思い切って増額することです。
 以上を述べて、反対討論といたします。(拍手)

○議長(尾辻秀久君) これにて討論は終局いたしました。

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○議長(尾辻秀久君) これより採決をいたします。
 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

   〔賛成者起立〕

○議長(尾辻秀久君) 過半数と認めます。
 よって、本案は可決されました。(拍手)