<第213回国会 農林水産委員会 2024年5月28日>


◇食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付) 紙議員は反対討論で、現行法の食料自給率目標が一度も達成されていないのに、まともな検証もせず、改正案では、安定的な輸入確保のために輸入相手国への投資の促進を位置づけていると指摘。食料自給率向上を国政の柱にすえ、際限のない輸入自由化路線に歯止めをかけ、農業水産予算を思い切って増額することが必要だと主張した。

○食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○委員長(滝波宏文君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより原案及び修正案について討論に入ります。

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、政府提出の食料・農業・農村基本法改正案に反対の討論を行います。
 反対する第一の理由は、改正案が食料自給率の目標を食料安全保障の確保に関する事項の目標の一つに格下げしたからです。
 現在の食料自給率は三八%、現行法ができてから食料自給率目標は一度も達成されておりません。そのまともな検証もないまま、食料自給率の目標は、その向上を図ることを旨とし、国内の農業生産及び食料消費に関する指針としていた文言を改善を図るに変えました。それでは改善すればいいだけの話になってしまいます。
 また、改正案は、安定的な輸入を確保するために、輸入相手国の多様化、相手国への投資の促進を位置付けました。自民党政権の下で、TPP、日米貿易協定、日EU・EPAなど歯止めなき自由化が進み、安い農産物の大量輸入が続きました。世界的な食料危機の中で、輸入依存を脱却すると言いながら、自由化路線を変えるどころか、安定的な輸入といって相手国の投資まで行えば、更に国内生産を軽視することになりかねません。何よりも、安全、安心な農産物を安定供給するためには、生産者が安心して営農できることが大切で、食料自給率の向上を国政の柱に据えるべきです。
 第二の理由は、生産者の所得を増やす規定がないことです。
 全国各地で農業で生活できないとの声が広がっています。二十一日の岩手県の公聴会で、私は、日本生活協同組合連合会が財政支出に基づく生産者への直接支払を求めていることを紹介しましたが、与野党から推薦された参考人全員から賛成するとの意見が表明されました。政治の責任で価格保障や所得補償を抜本的に充実することが大切で、農村でも生活できる環境整備が必要です。
 第三に、農業の担い手は、効率的かつ安定的な経営体、農業で生計を立てる担い手への支援に偏り、兼業農家など農業以外で生計を立てる生産者は専業農家の補助者と位置付けているからです。
 大規模経営でも後継者不足が課題になる中、専業農家だけでなく、兼業農家、半農半Xなど多様な担い手の支援を強化することが必要です。
 今必要なのは、食料と農業の危機を抜本的に打開することです。そのためには、食料自給率の向上を国政の柱に据え、際限のない輸入自由化路線に歯止めを掛けるとともに、危機にふさわしく、農林水産予算を思い切って増額することです。
 なお、野党提出の修正案は、政府が進めた自由化政策への歯止めとはならないため、賛同できません。
 以上述べて、討論とします。

○委員長(滝波宏文君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 それでは、これより食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案について採決に入ります。
 まず、舟山君提出の修正案の採決を行います。
 本修正案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(滝波宏文君) 少数と認めます。よって、舟山君提出の修正案は否決されました。
 それでは、次に原案全部の採決を行います。
 本案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(滝波宏文君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、横沢君から発言を求められておりますので、これを許します。横沢高徳君。

○横沢高徳君 私は、ただいま可決されました食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党、立憲民主・社民、公明党、日本維新の会・教育無償化を実現する会及び国民民主党・新緑風会の各派並びに各派に属しない議員寺田静君の共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  地球規模での気候変動や国際情勢の不安定化、各国の人口動態や経済状況等に起因する食料需給の変動などにより、世界の食料事情は厳しさを増している。さらに、我が国においては、農業就業者数及び農地面積の減少に歯止めがかからず、農村人口の減少が進む中で、生産基盤が弱体化している。政府は、産業政策と地域政策を車の両輪として施策を講じてきたが、農村の中には集落機能の維持さえ懸念される所もあり、食料自給率は一度も目標が達成されたことがない。このような状況において、「農政の憲法」とされる食料・農業・農村基本法が果たすべき役割は極めて大きく、その改正により生産基盤の強化につながる理念と政策が構築されることへの期待が寄せられている。農業者の所得の向上、合理的な価格の形成、生産基盤の維持強化等の喫緊の課題への機動的かつ効果的な対処が求められる。
  よって、政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 食料安全保障の確保に関しては、国民一人一人が安全かつ十分な量の食料を入手できるようにすることが政府の責務であることを踏まえて施策を遂行すること。
 二 国民に対する食料の安定的な供給については、食料の供給能力の維持向上を図り、国内の農業生産の増大を基本として確保し、これを通じて食料自給率の向上に努めること。農業生産においては、麦、大豆、飼料作物等の国内生産の拡大、輸入に頼る農業資材から堆肥等の国内資源への代替の促進など、食料及び農業資材の過度な輸入依存からの脱却を図るための施策を強化すること。
 三 食料の価格に関しては、その持続的供給を支える国内農業の持続的な発展に資するよう、食料供給に必要な費用を考慮した合理的な価格の形成に向けた関係者の合意の醸成を図り、必要な制度の具体化を行うこと。
 四 農業の持続的な発展には、農業者の生活の安定と営農意欲の維持が不可欠であることから、農業経営の安定を図りつつ、農業所得の向上を図るとともに、生産基盤の維持強化に必要となる農業就業者を確保するため、新規就農支援等を積極的に推進すること。
 五 障害者が社会の構成員としてあらゆる分野の活動に参加する機会が確保されることが重要であることに鑑み、障害者である農業者の役割分担並びにその有する技術及び能力に応じて、生きがいを持って農業に関する活動を行うことを促進し、関係省庁一体となり、障害者の福祉の向上を図るとともに、農福連携を推進すること。また、次期食料・農業・農村基本計画において、障害者等も貴重な農業人材であることを明確にすること。
 六 食料消費に関する施策については、食品の安全性の確保を図る観点から、科学的知見に基づいて国民の健康への悪影響が未然に防止されるよう行うこと。また、食育は、食料自給率の向上等の食料安全保障の確保及び国内農業の振興に対する国民の理解醸成に重要なものであることから、その取組を強化すること。
 七 食料システムにおける人権の尊重、家畜にできる限り苦痛を与えないなどアニマルウェルフェアに配慮した飼養管理等を促進すること。
 八 備蓄食料については、各品目の特性に応じ、民間在庫・流通在庫や代替輸入・国内増産の可能性、品目ごとのバランスも考慮した上で、適正な備蓄水準を検討し、計画的かつ透明性の高い運用を図ること。
 九 望ましい農業構造の確立においては、地域における協議に基づき効率的かつ安定的な農業経営を営む者以外の多様な農業者が地域農業及び農地の確保並びに地域社会に果たす役割の重要性を十分に配慮すること。
 十 農地を確保し、農業の持続的発展に資するよう必要な支援措置を講ずるとともに、農業生産基盤に係る施設の維持管理などの費用の負担に対する支援措置を講ずること。水田は食料安全保障及び多面的機能の観点から優れた生産装置であることに鑑み、地域の判断も踏まえその活用を図ること。
 十一 農業生産活動は自然環境の保全等に大きく寄与する側面と環境に負荷を与える側面があることに鑑み、温室効果ガスの排出削減、生物多様性の保全、有機農業の推進等により、環境と調和のとれた食料システムの確立を図ること。
 十二 安定的な農業生産活動のためには安定的な種子の供給が重要であることに鑑み、その安定的な供給を確保するため地方公共団体等と連携して必要な取組を推進すること。
 十三 農村は、食料の安定的な供給を行う基盤であり、かつ、国土の保全、自然環境の保全等の多面的機能が発揮されるとともに、多様な産業を生み出す地域資源を有する場であり、農村における地域社会の維持が農業の持続的な発展に不可欠であることに鑑み、食品産業の振興その他の地域社会の維持に必要な施策を講じ、農村の総合的な振興を図ること。都市農業は、都市住民に地元産の新鮮な農産物を供給する機能のみならず、都市における防災、都市住民の農業に対する理解の醸成等の多様な機能を果たしていることに鑑み、その推進に一層取り組むこと。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○委員長(滝波宏文君) ただいま横沢君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(滝波宏文君) 全会一致と認めます。よって、横沢君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。