<第213回国会 農林水産委員会 2024年5月14日>


◇参考人質疑 農民運動全国連合会(農民連)の長谷川敏郎会長は改正案が「食料自給率向上そのものを投げ捨てる」ものだとして反対を表明。NPO法人中山間地域フォーラムの野中和雄副会長は、「政府が直接支払いという形でカバーしていくのが、国際的に見ても妥当」と答え、作山巧明治大学専任教授は「(担い手不足の中で)農業をしていただければありがたいという現実を踏まえた条文にすべきだ)「兼業農家は構造政策に逆行しているという考え方が今もある」と答える。

○食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

参考人  東京大学大学院農学生命科学研究科教授 中嶋康博君
     一般社団法人全国農業協同組合中央会専務理事 馬場利彦君
     明治大学農学部専任教授 作山巧君
     特定非営利活動法人中山間地域フォーラム副会長 野中和雄君
     農民運動全国連合会会長 長谷川敏郎君

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○参考人(東京大学大学院教授 中嶋康博君) ありがとうございます。東京大学の中嶋でございます。本日は、このような発言をさせていただく機会をいただきまして、ありがとうございます。
 私は、食料・農業・農村政策審議会の基本法検証部会の部会長を務めてまいりました。同部会では、委員の皆様から非常に多様な御意見をいただき、我が国の食料、農業、農村において直面する課題を多角的に検討する機会を得ることができました。
 そこでの議論は審議会の答申としてまとめることとなりましたが、今回の改正案を拝見して、部会で議論したこと、答申で提案した内容は漏れなく盛り込まれているように感じたことを初めに申し上げたいと存じます。
 この後のお話のアウトラインと、関連する図表を資料として用意いたしましたので、そちらも適宜御覧いただければ幸いに存じます。
 まず、お話の一番目のポイントは、基本法検証を行う上での前提でございます。
 私は、現行基本法の枠組みは非常によくできていて、現在の食料、農業、農村分野における課題と政策を体系的にうまく取りまとめていると評価しておりましたので、検証のやり方としては、枠組みを根本から変更するものではなく、時代にそぐわなくなった事項を外したり、必要になったものを付け加えたりすることで対応できるだろう、それゆえに、現行基本法が制定されたときのような基本問題調査会を立ち上げるようなスタイルは採用しなくてもよいと考えておりました。
 部会の開催は限られた回数でありましたが、地方意見交換会も含めれば、それでも一年近く時間を掛けて検討したところでございます。論点を的確に選んで、非常に効率かつ効果的に議論ができたと思っております。
 現行基本法は、一九九〇年代の社会経済情勢を背景にしたものとなっております。国内農業界では、九〇年代半ばに開始したWTO体制に身構えたところがございましたが、今振り返ってみますと、あの時期はひとときの安定期ではなかったかと言えそうでございます。
 しかし、その後、すぐに大きな転換期を迎えることとなり、現行基本法が制定された後の約四半世紀の間に社会情勢は非常に大きく変化していたことを検証作業を行ってみて認識いたしました。それは、国際的な食料や環境をめぐる課題や政策的な議論が大きく様変わりしていったこと、そして国内的には本格的な人口減少社会に突入したことから、食料、農業、農村分野に様々な課題が突き付けられることとなりました。
 また、この期間、景気の回復が遅れたことは我が国の国際的な経済力を低下させ、また、長くデフレから脱却できなかったことは、食料、農産物価格を低迷させてしまったところであります。
 そのような状況の中で、様々な課題が現れて、新たな施策が展開されてきました。それらは現行基本法の枠内に収まるものもございますが、やはりどうしてもはみ出てしまうものがあり、今回の改正で理念の変更や条文の追加が行われることになったと承知しております。これについては後半で触れようと思っております。
 このように、改正した内容が長く有効であり続けたために、今後二十年間に予想される課題は十分に考慮すべきとされました。それは、気候変動がもたらす食料需要をめぐる懸念、人口減少によって引き起こされる経済的課題、持続可能な社会を築くための国際的な要求事項などが指摘されたところでございます。
 続いて、お話の二番目のポイントは、食料安全保障をめぐる事情です。
 今回の改正に着手するきっかけは、我が国の食料安全保障に関して懸念が高まったことが背景にあるのは言うまでもないところでございます。二〇二〇年以降、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行、国際的に不安定な農産物の生産状況、ロシアのウクライナ侵攻という地政学的なリスクが引き金となった食料や農業資材の国際マーケットの変動など、断続的に重大な事案が次々に発生しております。
 ここでスライドの方を御覧いただきたいと思います。一枚めくっていただきますと、スライド一で、二〇二〇年以降に国際価格が急騰したことが確認できますが、そもそも二〇〇〇年代半ばには一九九〇年代と比べて価格が二倍ほどに上昇し、その後、それ以前の水準には決して戻っておりません。しかも、価格の乱高下が常態化していることが分かります。
 次のスライド二はちょっとミスして挿入してしまいましたので、これは飛ばしていただければと思います。
 スライド三に移りまして、このような情勢を引き起こした要因をここでは示しております。こちらには、世界の人口、穀物生産、そして輸入貿易量の推移を示しています。
 世界の人口はとどまることなく増え続けています。そのために、食料の需要が増えますし、また、ここには示しておりませんが、経済成長が同時に起こって食肉消費が増えることで餌の需要も上昇しております。それに応えるように、世界の生産量も着実に増えております。
 世界全体を見渡したときに、生産と消費の偏在は貿易を拡大することとなり、事実、このグラフのように、世界の輸入量、そしてそれは輸出量でもありますが、確実に増え続けていて、それが二〇〇〇年を越えてから急激に拡大していることが確認できます。このことが世界の穀物価格の動向に構造変化をもたらしていると言えます。食料自給率が低い我が国は、海外からの輸入に頼らなければならないので、このような状況は大きな脅威となります。
 スライド四は、少々見にくいグラフで申し訳ございませんが、主要国の穀物輸入量の推移を示したものです。
 このグラフから、日本は長い間世界で一番穀物を輸入し続けていたことが分かります。現在、これまでのように、好きなだけ輸入できるポジションは揺らいでおります。改めて、国内生産の振興に力を入れるべきであり、食料自給率の向上を目指すべきであります。
 このように海外に依存しなければならないような食料自給率の低下がなぜ起こったのかの説明にスライド五がよく利用されます。
 そこで示されているのは、国内で自給できる米は需要がどんどん減少する一方で、国内で自給が難しい畜産物や油脂類の需要が増え続けていることが理由とされます。
 もちろんそのような食料の構成の問題もあるのですが、歴史的に見てもっと大きく影響したのは、人口が成長し、必要とされる食料が増加したことであります。
 スライド六は、食料自給率がどのように低下してきたか、現在はどのように推移しているかを示しております。
 青色の折れ線グラフがカロリーベースの食料自給率を表しておりますが、かつては八〇%近くあったのが、現在四〇%ほど、半分程度の水準で低迷しております。自給率は分母を国内消費、分子を国内供給とする比率で計算されるところですが、こちらの図では、分母の国内消費は国内の一日当たりの総供給熱量とし、分子の国内供給は一日当たりの国産総供給熱量で把握しております。
 一九六〇年代から九〇年代にかけて自給率は急落していきますが、これは、人口が拡大して分母の国内消費が急激に増えたにもかかわらず、国産供給を向上させることができなかったからであります。なぜ食料生産を増やせなかったかといえば、国内の農地が限られているからです。
 スライド七は、国内農地面積では必要とされる食料は生産できないことを示しております。
 先ほどのスライド六を再度見ていただくと、現行基本法が制定された後の時期に自給率はしばらく維持されて、その後じりじりと低下しています。このような状況となったのは、分母の国内消費が減少し始めたからです。しかし、残念ながらこの時期に、分子の国内供給は増えませんでした。二〇〇〇年代当初は、消費が減少するのと同じような歩調で供給が減少し、自給率は変わりませんでしたけれども、その後はそれ以上に供給が減少したために自給率が減り始めたのです。
 スライド八では、自給率の減少率を生産要因と需要要因に分解して示しました。
 消費要因については、二〇〇〇年頃までは消費が伸びていたために自給率を引き下げるように作用しましたが、その後は、消費が縮んでいるために引き上げるように作用しております。一方、生産要因は、一九七〇年代半ばに一時的に自給率を引き上げるように作用しましたが、それ以外は一貫して引き下げてしまっております。特にこの数年は大きな下げ圧力を生み出してしまっています。
 スライド九に示すように、国内の農業生産構造は弾力的に大きく変化しています。需要に応じた生産が行われていることがかいま見られます。ただし、産出水準は実は一貫して低下しております。
 スライド十は、国内の農業産出額の推移を示しています。名目の産出額、売上額はここのところ増加していることが確認できますが、実は物価調整をして計算された実質の産出額は、一九八〇年代半ばからずっと低下傾向にあります。このことが先ほどの自給率の計算に係る分子を引き下げることになっています。なぜこのように産出が低下し続けるのでしょうか。
 それは、スライド十一にございますように、まず経営体が減っているからです。もちろん経営体が減っていてもそこで働く人らが増えていれば問題ないのですが、スライド十二のとおり、農業労働に従事する人は激減しております。それと同時に農地の利用度が低下し続けています。
 スライド十三にあるとおり、転用等で農地面積が減少するとともに、農地の稼働率を表す耕地利用率は一〇〇%を切って下がり続けています。
 スライド十四は、農業の投資動向を示しておりますが、信じられないほど投資が減り続けています。労働も土地も資本もこれだけ減り続けるならば、生産が伸びないのは当たり前です。
 その状況を数値化したのがスライド十五です。
 申し訳ございませんが、このグラフの基礎となるデータは農業だけではなく林業や水産業も含んでいるので、やや正確さを欠くところがありますけれども、およその動向を理解する手掛かりとはなります。詳しい説明は省きますが、このグラフからは、一九九〇年以降二〇一〇年頃まで確かに産出が下がっていたものの、実は労働や資本などのいわゆる投入はそれ以上に大きく減少していることが分かります。産出はなぜそこまで減少していなかったかというと、技術進歩によって少ない投入でより大きな産出を生み出すような生産性の向上があったからでございます。グラフでは、全要素生産性、TFPと書いてありますが、この程度が青い縦棒グラフで示されております。例えば労働は、人口減少社会において、今後増やすことはできないと思います。
 このように、人手不足が続く中で、この生産性の向上を今後も維持しなければ、日本農業の生産性は立ち行かなくなるのです。このためにスマート農業の推進が鍵となりますが、それには投資が必要となります。しかし、先ほどのスライド十四にも示しましたし、また次のスライド十六が表しているとおり、一九九〇年以降、投資が減少し続けています。何とかして投資を増やしてもらわなければなりませんが、そのためにはそれぞれの経営者が将来の見通しや期待を持てなければ実現しないと思います。そのために、将来を目指した新たな方針が基本法の改正に合わせて提案される必要があると思っております。
 お話の三番目のポイントは、今回の改正で加えられた事項です。恐れ入りますが、一枚目のアウトラインにお戻りいただければと思います。
 加えられた事項の一番目です。基本理念の変更で、食料の安定供給の確保が食料安全保障の確保へと変更されました。供給を確保するだけでは食料が届かない人がいるという現実を踏まえて、入手可能性という概念を導入し、改めて食料安全保障の概念と政策枠組みを提案されました。このことについて、国際的な観点を導入するという議論が検証部会でされたところです。また、不測時の食料安全保障措置を強化されています。
 二番目は、環境と調和の取れた食料システムの確立という五つ目の基本理念を新たに制定したことです。食料システムという概念も改正法案で提起されています。こちらも国際的な議論の枠組みを導入した結果であります。
 三番目は、本文中に明確に人口減少を前提とした政策を打ち出していくべきことが書き込まれました。
 四番目は、消費者の役割として、食料の持続的な供給に資する物の選択に努めることなどが書き込まれました。
 五番目は、価格形成の在り方について、先ほども述べた、環境と調和させるシステムを実現するために持続的な供給に要する合理的な費用へ配慮することが提案されております。
 六番目は、食料安全保障の評価指標目標として、食料自給率以外の指標を設けることが提案されています。
 七番目は、これまで農産物の貿易政策が輸出入一体的に定められていたのが、輸入と輸出を明確に分けることとなりました。
 八番目は人的資本形成への言及、九番目は新技術の活用、十番目は知財管理、そして、十一番目は農業資材政策の拡充を定めております。
 十二番目としては、保全に資する共同活動を農業施策の事項として新たに位置付けを行っております。
 十三番目は、この十年ぐらいの間に食料供給や農業活動に関わるようになってきた様々な主体を明確にしたところです。これは幾つもございます。第十二条では、新たに団体の努力という条文を定めて、食料、農業及び農村に関する団体の役割を明記しました。これは、第十九条でのフードバンクなどのNPOや、第四十五条での地域おこし活動をするRMOなどが想定されます。第二十六条では、地域の協議に基づきながら、農地の確保につながるような多様な生産活動への期待が示されています。第三十七条では、新技術を積極的に利活用するサービス事業体の活動を促進することとしています。第四十六条では、農福連携が地域農業の振興に資すると位置付けられました。
 最後、十四番目に、リスク対策として、伝染病や鳥獣害という脅威への対策を明確に政策体系に組み込むこととなりました。
 以上、駆け足となりましたが、今回の改正内容の背景と実際について述べさせていただいたところであります。社会が大きく転換するこの時代に、本改正により我が国の食料、農業、農村分野での新たな取組が強化されて、食料安全保障の確保を始めとした五つの基本理念がしっかりと達成されることを願っております。
 以上をもって私の陳述を終えたいと思います。どうもありがとうございました。

○参考人(全国農協中央会専務理事 馬場利彦君) おはようございます。JA全中で専務を務めております馬場と申します。本日は、貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
 お手元に資料をお配りしております。食料・農業・農村基本法改正についてということで、私の名前が入ったもので、横組みのものですが、時間も限られておりますので、早速この資料に基づき意見を述べさせていただきます。
 資料一ページを御覧ください。
 JAグループは、食料安全保障の強化を最重点課題として、食料・農業・農村基本法の改正を強く求めてまいりました。その背景にある情勢認識としては、食と農を取り巻く五つのリスクがあるというものであります。
 一つ目は、食料自給率、長きにわたって低迷しており、食料を多くの輸入に頼り続けております。
 二つ目は、生産基盤の弱体化でございます。農業生産基盤の弱体化ということで、農家の減少あるいは高齢化、農地の減少が進んでおります。
 三つ目は、自然災害の多発ということで、異常気象が常態化しており、日本もあるいは世界も農業への影響が拡大しておるところであります。
 四つ目は、国際化の進展です。TPP11や日米貿易協定など国際化は急速に進んでおります。一方、日本の経済的地位の低下等もあり、買い負けも懸念される状況であります。
 五つ目は、世界的な人口増加と更なる食料争奪あるいは食料不足が懸念されます。これに新型コロナウイルスやウクライナ情勢も加わり、国民に安定して食料を供給できなくなるリスクが非常に高まっております。
 こうした危機感の下、JAグループは、農政の憲法たる食料・農業・農村基本法の見直しを、食料安全保障の強化を最重点課題として訴えてまいりました。
 資料二ページを御覧ください。
 生産現場の農業者の声を届くべく、令和四年から節目ごとに三度にわたる組織討議を行い、政策提案を取りまとめ、政府に対して提案をしてまいりました。特に、ここにありますように、五つ、食料安全保障の強化と国産への切替え、再生産に配慮した適正な価格形成の実現、多様な農業者の位置付けと農地の適正利用、四つ目に経営安定対策の強化、さらに、五番目にJAなど関係団体の役割強化、この五つの点が、まさに農業所得の増大、農業生産の振興、地域の活性化を実現していく上で重要な点と考えており、特に反映を求めてきたところでございます。
 三ページを御覧ください。
 では、実際の政策提案とその背景について説明をさせていただきます。三ページの表は、左側にJAグループのこれまでの政策提案のポイントを抜粋しております。右側に基本法改正法案における記載内容を整理したものであります。時間の関係上、先ほどの五つのポイントに絞って説明をさせていただきます。
 まずは、食料安全保障の強化に向けて、現行法には不測時の措置しかなかったものを踏まえて、平時における食料安全保障を基本法の目的として明確に位置付けること、その状況を的確に定期的に評価し、施策に反映することなどを訴えてまいりました。その背景には、既に述べたとおり、食と農を取り巻くリスクが急速に高まったことを踏まえたものであります。
 この点について、基本法の改正法案の目的には食料安全保障が明確に位置付けられました。また、食料自給率等の目標も、その向上、改善を図るよう定めることに加え、少なくとも年に一回、目標の達成状況を調査、公表することが明記されました。
 資料四ページは時間の関係でちょっと省略させていただきます。
 五ページまで飛んでいただきまして、適正な価格形成についてであります。
 生産資材の価格が、飼料、肥料、燃油を始め、ここ数年で大きく急騰、高止まりをしております。急激に進む円安の動向等によってはまたじわりと高まることも想定されて、先行きが非常に不安、不透明でございます。一方で、世界的な物価高騰の中でも、国産農畜産物は取り残されており、適正な価格形成が進んでおらず、農業者の所得が急激に減少しております。国の様々な対策もあり、何とか営農は継続できておりますが、このままでは多くの地域で営農が継続できるかどうかという危機的な状況に立ち入っております。
 こうした中で、農業の再生産に配慮された適正な価格形成を位置付けることと併せて、その仕組みの具体化、さらに、事業者、消費者についても、食料システムを持続可能にする関係者として一定の責務、努力を負うよう提言をしてまいりました。
 改正基本法では、消費者において、食料の持続的な供給に資する物の選択に努めるということが新たに明記されるなど、生産者のみならず、消費者もまた事業者も、それぞれの役割、努力を果たすとされており、持続可能な農業の実現に向けて重要なことだというふうに考えております。
 続いて、六ページを御覧ください。
 多様な農業者の位置付け、役割であります。地域計画に位置付けられた多様な農業者を位置付けることや、農業サービス事業体の育成、確保を提言してまいりました。
 現行の基本法では、効率的かつ安定的な経営体である担い手を育成を重視し、それ以外の農業者の位置付けは不十分なものでありました。農地の受け手となる担い手の育成、確保は重要であることは言うまでもありませんが、生産現場では多様な農業者が共存することで地域の農業、農村が営まれております。農業者の急減により、担い手も農地を引き受け切れないケースも増えております。水路や農道の維持など地域のインフラを良好に保つ上でも、多様な農業者が役割を発揮しているのが現状であります。
 今回、望ましい農業構造として多様な農業者が位置付けられたことは、実態を捉えた重要な転換だと考えております。
 また、経営安定対策においても、農業生産資材価格の著しい変動、に及ぼす影響を緩和するために必要な施策を講じるものというふうに新たに明記されました。幅広い生産資材価格が高騰し、適正な価格形成が追い付いていないこの状況において大変重要な内容であり、厳しい状況に置かれている生産現場からすれば心強い内容であります。
 続いて、七ページの環境負荷低減やスマート農業、八ページの輸出や知財、知的財産、九ページの防災・減災や家畜伝染病、病害虫の対応、さらには十ページの農村の活性化については時間の関係上省略させていただきます。
 資料十一ページを御覧ください。
 JAなど関係団体についても、食料、農業、農村に関する団体の活動が基本理念の実現に重要な役割を果たすことということを新たに位置付けられ、相互の連携も促進するとされました。
 以上のように、現在審議されております食料・農業・農村基本法の改正案はJAグループがこれまで提案を行ってきた内容をかなりの部分反映をいただいているものというふうに考えており、その内容を評価いたしております。
 今後の課題としては、改正される基本法に基づき、新たな基本計画等を通じていかにして施策を具体化していくかであります。三点ほどそのポイントを、考えていることをお話をさせていただきたいと思います。
 資料十二ページでございます。
 一点目は、食料安全保障の確保に向けた基本政策の確立であります。
 基本法は理念法であり、その理念を実現するためには、必要な施策の具体化と万全な予算の確保が不可欠であります。
 ここにありますとおり、一九九九年の現行基本法の成立から現在まで農水省の予算の推移を見ますと、国全体の予算規模が拡大する中で、残念ながら右肩下がりの状況です。
 今後は、食と農に関するリスクが高まる中で、食料安全保障の確立に向けて必要な予算を、政策を具体化するかとともに、いかにして安定した予算額を確保するかが農業者が先を見通して営農する上で極めて重要であります。
 資料十三ページを御覧ください。
 二点目は、次期基本計画の実効性の確保であります。
 食料自給率を始め食料安全保障の確保に向けて、適切な目標設定と達成に必要な施策の着実な実行が重要というふうに考えております。
 基本法では、少なくとも年一回は目標の達成状況を調査、公表するものとされております。目標達成の状況を基に施策を不断に検証するとともに、必要に応じて機動的に施策を見直すことが必要であります。
 既に岸田総理の国会答弁においても、調査結果を踏まえ機動的にその改善を図る旨明言をいただきました。是非ともその方向で取り組み、次期基本計画の実効性を高めることが重要だと考えております。
 資料十四ページを御覧ください。
 三点目は、適正な価格形成と国民理解醸成、行動変容であります。
 国産農畜産物の価格はまさに農業者にとってみれば賃金であり所得であり、生産現場の危機的な状況を踏まえれば、適正な価格形成の実現に向けて速やかに法制化を図ることが必要であります。
 国産農畜産物においては、適正な価格形成を進めると需要が国産から輸入に流れるのではないかというような御意見もございますが、お金を出せばいつでも食料を輸入できるという環境ではなくなりつつある中で、価格を上げれば需要は減るというデフレマインドから一歩前に進むのは今しかないと考えております。
 政府の適正な価格形成に関する協議会も行われており、その中で、今後の検討方向として、適正な価格形成を新たな商習慣としてサプライチェーン全体で定着させることや、需給と品質を基本としつつ、合理的な費用が考慮される仕組みの法制化を視野に検討する旨記載されてございます。早期にこの適正な価格形成の具体化を図ることが重要だと考えております。
 一方で、食料システムの関係者、何よりも国民の理解を得ることが極めて重要です。
 残念ながら、そこにもありますが、割高でも国産を選ぶ方の割合減少しています。産地や生産者を意識して農林水産物・食品を選ぶ国民の割合や、環境に配慮した農畜産物、農林水産物・食品を選ぶ国民の割合も減少しております。
 政府が目指す、三十年余り続いたコストカット経済から所得増と成長の好循環による新たな経済へ移行するということはもちろんでありますが、改正基本法を踏まえて適正な価格形成に向けた理解の醸成、さらには、国産農畜産物を選択する行動変容につながる施策を抜本的に拡充することが必要だというふうに考えております。
 資料十五ページでございます。
 もちろん、JAグループとしても改正基本法の理念を踏まえて、その実現に向けてしっかりと取り組んでまいる所存であります。
 農業者の所得増大に向けて、販売力の強化や低コスト生産技術の普及、さらに、新規就農者の支援などはもちろん、農業者の高齢化や減少が進む中で、農作業の受託、あるいはスマート農業の導入なども増えております。また、環境負荷低減に関する社会の関心が高まる中で、三月には環境負荷に関する環境調和型農業に関する取組方針を定めたところでございます。
 十六ページを御覧ください。
 単純に環境負荷を低減すれば、生産、所得が確保できなければ取組は継続できません。また、消費者に対しても、安定供給ができなければ、食料安全保障の確保にもつながりません。
 JAグループとしても、責任を持って農業の持続性を確保する観点から、農業者の所得確保、増大を、食料安全保障を確保しつつ、自然環境への負荷の低減と適応を図る農業、これを環境調和型農業とし、位置付け、取り組んでいくこととしております。
 最後に、資料十七ページを御覧ください。
 国民理解の醸成と行動変容に向けたJAグループの取組です。食料安全保障のリスクが高まる中で、私たちの国で消費する食べ物はできるだけこの国で生産するという国消国産をJAグループ独自のキーメッセージを掲げて、JAグループ一体となった運動に取り組んでまいりました。
 地域では地産地消を基本とし、日本全体では国消国産に取り組むと、それが結果としてSDGsの達成にも貢献していくということで、昨年から取組を進めておりますけれども、今後とも、引き続き取組を継続して、国産の農畜産物の価値を知っていただき、また、それが持続可能な農業と社会につながることを発信してまいります。
 以上をもって、私からの意見陳述とさせていただきます。
 ありがとうございました。

○参考人(明治大学専任教授 作山巧君) ただいま御指名をいただきました明治大学の作山です。
 本日は、意見陳述の機会をいただき、光栄に存じます。
 私は、公募で明治大学に着任する以前は農林水産省に二十五年間勤務しておりまして、特に、一九九七年から一九九九年には、大臣官房企画室企画官として食料・農業・農村基本法の策定に従事をしました。農業の多面的機能、定量評価や中山間地域等直接支払の導入を担当しました。本日は、こうした行政経験も踏まえて意見を述べます。
 なお、意見陳述の際には随時配付資料に言及しますので、各スライドの右下に付したページ番号を御参照ください。
 まず、私の総論的な評価を述べますと、今回の改正案は検討期間が短く、過去の政策の検証や評価が十分ではないと、それから、条文の変更は多いのですが、中山間地域等直接支払制度のような生産基盤を強化するための新たな支援策が乏しいといったような問題があると考えています。
 こうした観点から、以下では食料安全保障と食料の合理的な価格形成を中心に意見を述べます。
 まず、食料安全保障についてです。
 配付資料の三ページを御覧ください。
 基本法における食料安全保障の捉え方を私なりに整理すれば、現行基本法の第二条第四項は有事における国家レベルの供給確保性に着目しているのに対しまして、改正案の第二条第一項は平時における個人レベルの入手可能性に着目しています。また、後者について農水省は、FAOと略称される国連食糧農業機関による国際的な定義に合わせたと説明しています。
 しかし、改正案には二つの問題があると考えます。
 配付資料の四ページを御覧ください。
 第一は、食料安全保障という用語の使い方です。大辞林によりますと、安全保障は、国外からの攻撃や侵略に対して国家の安全を保障することという有事を指す概念で、平時の入手可能性に食料安全保障という用語を当てるのは語意に矛盾があります。食料・農業・農村政策審議会の会長を務められた生源寺眞一先生を含む多くの有識者もFAOのフードセキュリティーは食料確保や食料保障を指すと述べており、FAO本部で勤務経験のある私も同意見です。
 第二は、食料安全保障に関する指標の不在です。FAOは、フードセキュリティーを平時における個人レベルの入手可能性と捉えているからこそ、それを満たさない世界の栄養不足人口を推計し、その削減を目指しています。改正案での定義がFAOと同じなら指標も同じになるはずですが、主に開発途上国を想定した指標が日本にとって妥当とは思えません。この点は改正案の第十七条に規定された基本計画で定めるのかもしれませんが、食料安全保障の新たな定義に即した指標の検討が不十分と考えます。
 これに関連して、改正案の第十七条第二項第三号に規定された食料自給率の目標について述べます。
 周知のように、基本計画で設定された供給熱量ベースを含む食料自給率の目標はこれまで一度も達成されたことがありません。
 配付資料の五ページを御覧ください。
 食料自給率は、食料の国内消費を分母、国内生産を分子とし、国内消費に占める国内生産の割合を表したものです。他方で、後述する食料自給力は分子のみに着目し、現在の農業資源で供給可能な熱量を表したものです。
 その上で配付資料の六ページを御覧ください。
 その左側に示したように、供給熱量ベースの食料自給率の分子は国産供給熱量、分母は総供給熱量で、これらは更に構成要素に分解することができます。このため、六ページの右側に示したように、分子の国産供給熱量は輸入品に代替する国内生産が増えれば増加し、食料自給率は上昇するのに対して、国内で自給できる品目の国内消費が減れば減少し、食料自給率は低下します。他方で、分母の総供給熱量は一人当たり供給熱量や人口が増えれば増加し、それによって食料自給率は低下します。
 これを踏まえて、配付資料の七ページを御覧ください。
 この図は、一九九八年度を基準に供給熱量ベースの食料自給率の変化要因を二〇二〇年度まで累積したものです。この図によれば、過去二十二年間で食料自給率が低下した主因は米のような自給品目の消費減少で、その大幅な低下を防いでいるのは高齢化による一人当たりの熱量減少という好ましくない要因です。他方で、小麦、大豆、新規需要米の生産増加の寄与は僅か一・二ポイントで、米の国産熱量の減少の四分の一にすぎません。つまり、食料自給率向上のために最も必要なのは消費者の輸入から国産食料へのシフトですが、実際に起こったのはその正反対で、今後もそれが変わる見込みはなく、改正案にも具体的な対策はありません。また、図では、二〇二〇年度に人口の減少が食料自給率の上昇に寄与したことが示すように、今後の人口減少は食料自給率の上昇に寄与しますが、それを抑制しようとする国家目標と矛盾する点も見逃せません。
 食料自給率の更なる問題について、配付資料の八ページを御覧ください。
 長期的に見ると、左側の軸に示した食料自給率は過去二十年間でほぼ横ばいなのに対して、右側の軸に示した芋類の消費を想定した食料自給力指標は、農業者や農地の減少、芋類の単収減少で低下し、二〇三〇年度には一人一日当たりのエネルギー必要量すら下回ると農水省は見込んでいます。つまり、輸入が途絶すれば日本人全員が生存できないほど生産基盤が弱体して、衰退しているにもかかわらず、分母も低下しているため、食料自給率には反映されません。このように、食料自給率は、有事における国家レベルの供給確保性を反映しない点でミスリーディングです。
 基本法の策定時に農水省の事務方は食料自給率の目標設定には反対で、配付資料七ページの分析は、その懸念が正しかったことを示しています。
 このため、今後定める基本計画では、有事における国家レベルの供給確保性の指標には食料自給力を用いた上で、それを担保する政策手段として直接支払を位置付けるべきというのが私の提案です。
 次に、食料の合理的な価格形成について述べます。配付資料の九ページを御覧ください。
 これは、食料の価格形成に関する改正案の条文を抜粋したものです。まず、新設の第十九条は、消費者の視点で、食料の円滑な入手の確保を定めています。また、新設の第二十三条は、生産者の視点で、食料の持続的な供給に関する費用の考慮を求めています。他方で、一部改正される第三十九条では、農産物の価格形成に関して、需給事情及び品質評価の反映という市場原理を規定しています。
 これら三つの相互関係を示したのが配付資料の十ページです。
 食料の価格は、消費者は安いほど良く、生産者は高いほど良い一方で、多くは市場原理で決定される点で相互に矛盾をはらんでいます。しかし、改正案はそれら三つを単に併記しただけで、矛盾の解消策を示していないように見えます。
 食料の価格形成の問題は、長期的にはデフレ、短期的には生産資材価格の高騰による農業の収益性の悪化に起因し、それには大きく分けて二つの対策があります。
 第一は、農産物への価格転嫁であり、改正案の第二十三条がそれに該当します。しかし、価格転嫁を強制することはできず、仮に実現すれば、食料価格が更に上昇し、特に低所得者が打撃を受けるという問題もあります。
 第二は、生産者に対する直接支払で、その一例として、民主党政権下で実施された米に対する戸別所得補償制度の効果を配付資料の十一ページに示しました。
 十一ページを御覧いただきますと、その制度は米の生産農家に十アール当たり一万五千円を払うもので、六十キロ当たりの単価は千六百八十九円になります。その上で、経済理論を用いると、手取り価格の上昇による生産者の利益は六十キログラム当たり六百七十一円なのに対して、市場価格の下落による消費者の利益は六十キログラム当たり千十八円になります。
 配付資料の十二ページは、その算出根拠となる経済理論を示したものです。
 技術的になりますのでその詳細は省きますが、重要なのは、生産者に対する直接支払は、その全てが生産者の取り分になるのではなく、市場価格の低下を通じて消費者にも利益が及ぶということです。
 その上で、実際の米価格の推移を配付資料の十三ページに示しました。
 左側の軸は水田作経営における十アール当たりの農業所得で、青色の線がその推移を示しています。また、右側の軸は二〇二〇年を一〇〇とした米の消費者物価指数で、オレンジ色の線がその推移を示しています。
 通常は、米が豊作になると価格が下落するため、生産者の所得は低下し、それを受けて翌年の米の消費者価格も低下するため、オレンジ色の線は青色の線より一年遅れて連動します。しかし、戸別所得補償制度が実施された二〇一〇年や二〇一一年には、米生産者の農業所得は上昇する一方で、米の消費者価格は低下しました。つまり、直接支払で市場価格が低下するのは経済理論にとっては当然の結果で、それによって消費者の実質所得の向上、米の消費拡大、輸出の拡大につながる点で、現行の政策より利点が多いことは明らかです。この点は、二〇〇九年に当時の石破茂農相が示した米政策に関する試算でも裏付けられています。
 食料価格の低下は、特に所得が低い世帯には朗報です。配付資料の十四ページを御覧ください。
 これは、消費支出額に占める食料支出額の割合であるエンゲル係数について、二〇二二年の数値を十段階の年間収入階層別に示したものです。右側の軸に示した折れ線グラフを見ると、エンゲル係数は、最も所得の低い階層では三二なのに対して、最も所得の高い階層では二二と一〇ポイントもの差があります。つまり、食料価格の上昇は特にエンゲル係数の高い所得層に打撃となるため、価格転嫁が無条件に肯定されるわけではありません。
 私が提案する相互矛盾の解消策は生産者への直接支払で、その仕組みは配付資料の十五ページのとおりです。
 ここで右側の図を御覧いただきますと、相続税、法人税、所得税のような累進構造を持つ税を引き上げると高所得者の消費支出額が減少する一方で、それを財源とした生産者の直接支払を実施すると、さきに説明した仕組みで消費者の食料価格が低下し、消費支出額が減少します。つまり、図の白抜き部分の金額が高所得者から低所得者に移転し、それによって高所得者のエンゲル係数は上昇する一方で低所得者のエンゲル係数は低下するため、その意味で格差は縮小します。なお、最近の円高による空前の利益を踏まえると、輸出企業への課税も有望な財源と考えます。こうした政策によって価格形成をめぐる相互矛盾は解消します。
 まず、消費者は、食料価格が低下し、特に低所得者が利益を受けます。また、生産者は、農業所得が上昇し、農業の収益性が改善します。さらに、直接支払は政府が価格に介入しないため、市場原理を損なうこともありません。市場で決定される価格が生産者にも消費者にも適当でない場合に、政府を介した納税者からの所得移転によって、市場原理を尊重しつつそれを補う政策ということになります。これまでの説明を要約したのが配付資料の十六ページです。
 私は、食料安全保障と食料の価格形成について意見を述べましたが、改正案の問題点は、食料安全保障では生産基盤の新たな強化策が示されず、食料の価格形成では相互矛盾を放置してその解消策が示されていないことにあると考えています。
 しかし、実際には、両者の解決策はリンクしています。つまり、累進課税を原資として生産者に対する本格的な直接支払を実施、導入すれば、生産者価格が上昇する一方で消費者価格は低下することから、生産者と消費者の実質的な所得が上昇し、生産基盤の強化と経済格差の是正を通じて、改正案の意味での食料安全保障が確保されます。換言すれば、直接支払は、食料安全保障と食料の価格形成に対する一挙両得の解決策だということです。こうした直接支払は世界標準の政策でありまして、その導入の検討を附則又は最低でも附帯決議に盛り込むべきと考えます。
 最後に、食料・農業・農村政策審議会の関与について付言します。
 現行法の第十四条に基づいて、食料、農業、農村の動向、講じられた施策、講じようとする施策が審議会での議論を経て国会に提出されてきました。しかし、第十六条に移動した改正案では審議会の関与は削除される一方で、基本計画を規定した第十七条第七項には食料安全保障の確保に関する事項の目標に関する達成状況の公表が追加されましたが、審議会の関与はありません。
 この結果、基本法に基づく審議会の関与は五年ごとに作成される基本計画のみとなり、政策の透明性や説明責任の低下が懸念されます。私としては、こうした審議会の関与を削除する改正は極めて疑問を持っています。
 私の意見陳述は以上です。御清聴ありがとうございました。

○参考人(野中和雄君) 本日は、こうした意見陳述の機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
 私は、農村政策について、中心に御説明を、意見を述べさせていただきます。
 といいますのも、今までの衆議院等の審議も通じましても、この食料、農業の部分につきましてはたくさんの議論が行われましたけれども、農村の部分につきましてはほとんどと言っていいほど議論が行われていなかったというふうに承知をしております。
 そして同時に、私どもの、私どもというか、私の目から見れば、この農村政策の部分には、ある意味、ちょっと法案に誤解というか誤りがあるのではないかというような感じもいたします。この感じというのは、農村政策に対する誤りではないかというような感じ、あるいは違和感というのは、これは単に私がここで申し上げるだけではなくて、多くの農村政策に関わる専門家の方々も同じように意見を表明されたり、そういう感じを持っていらっしゃるということをここで私はまず申し上げたいというふうに思います。
 それで、レジュメを作っておりますので、これを御覧をいただきたいと思います。
 皆様方は農村政策というふうに言いますと、どういうイメージをお持ちになりますでしょうか。
 農村政策というのは、もちろん農村に関する地域の政策、地域政策ということでございます。したがって、そこには地域に関するいろんなこと、仕事、暮らし、福祉とかですね、いろんなことがある。要するに、それを総合的に振興していくというのが地域政策であるわけでございまして、農村政策も同じでございます。
 ところが、この農村政策は、今はこの農林水産省が主管をしているわけでございますけれども、かつては農林水産省の所管ではありませんでした。国土庁がこの所管をしておりまして、総合的な政策の企画推進等につきましては、国土庁の、まあ言ってみれば地方振興局というのがありまして、そこで所管をしていたわけでございます。
 それが、一九九八年の中央省庁の改革の法案によりまして農林水産省に移ることになりました。その設置法によりますと、このレジュメにありますとおり、第四条の第三十七号に農山漁村及び中山間地域等の振興に関する総合的な政策の企画、立案、推進に関することというのが農林水産省の所管になりました。ちなみに、これと同じようなことが国土庁にあったわけでございます。それに伴いまして、農村振興局というのが設置をされました。
 実は、私は、この直前まで構造改善局長というのをやっておりまして、いろいろあったんですけど、その施策を進めるに当たって農村のことをやろうと思ったら、ほかから言われました、他省庁から言われましたのは、いや、農林省は農村は所管していないんじゃないのと、農村は国土庁の所管じゃないのと言われて、大変悔しかった思いをよく覚えております。
 ここで農林水産省が農村政策を所管をするということになったわけです。それに伴いまして、基本法でも、御存じのとおり、総合的な振興というのが書かれておりますし、それから基本法に、十七条に基づきます基本計画の中では、ここにも書いてありますように、農林水産省以外の府省の施策もみんな書き込んでいるわけで、農林省の政策が書いてあるだけじゃない、全部、だから総合的に書いてある。そして、その中で地域政策の総合化ということを新たにうたっております。
 この地域政策の総合化につきましては、この資料の後ろの方にですね、この二枚目、三枚目、三枚目のところにこの基本計画が掲げてございまして、それを御覧いただくと分かりますけれども、関係省庁が連携をして総合的に進めるということが書いてございます。
 そこで、その後、そういう状況から発足を、一九九九年発足したわけでございますけれども、その後、基本法、二十五年を経まして状況が大きく変わってきたわけでございますけれども、その変化というのは、皆さん御存じのとおりでございますが、一口に言ってこの地域政策の総合化というのを一層進めなければならないという状況に変化をしているというふうに考えます。
 一つは、農村の価値、魅力の再評価が進んだということで、いろんな人が農村に入ってきて、今いろいろ活躍するようになったということで、農村も自信を取り戻していきつつあるという状況ですね。
 それからもう一つは、農村の経済力ですね。これは、前は六次産業化というぐらいしかなかったんですけれども、今や再生可能エネルギーとかデジ活もありますけれども、いろんなことがありまして、農村でも経済が回っていくと、そしてその経済の実を中で循環していけば皆さんの所得につながるというような状況になったわけでございまして、地域政策の総合化というのは一層重要になっているということでございます。
 それでは、そういうことを受けまして、基本法というのも当然変わってくる、きてしかるべきでありますけれども、それにつきましては、どういう点が変わるべきかということにつきましては二枚目の資料で御説明をいたしたいと思います。
 食料・農業・農村基本法改正案に対する問題点というふうに書いておりまして、冒頭申し上げましたように、この法案に誤りがあるんじゃないかと私ちょっと申し上げましたけれども、そのことをちょっと具体的に申し上げて、皆さんに御審議をお願いしたいと思います。
 一番目は、第六条の規定でございます。これは、農村振興の目的として農業の持続的な発展ということを掲げているわけでございます。これだけを掲げているわけですね。しかしながら、現状の農村というのは、農業の基盤であることはもちろんではございますけれども、いわゆる多面的機能が発揮される場ということで、国民もいろいろ、福祉、教育の場、その他国民にとっても非常に重要な場になっているわけでございまして、言わば国民の資産、財産といったような状況になっていると思うわけでございまして、これが農村の方々はある意味自信を付けてこれからやっていこうということで、非常に重要なことになっているわけですよね。これは、したがって、私は基本理念にしっかり書くべきだと。何でこれが基本理念から落ちているのかということは理解できないところでございます。
 ちなみに、同じような地域振興立法でございます過疎法とか山村振興法とかは、棚田地域振興法も同様でございますけれども、昔の、以前の法律では非常に過疎地域、山村地域、ある意味遅れた地域というような規定が書いてございましたけれども、最近の、これが全部改正をされまして、最近に改正されました地域振興立法では全部、例えば過疎地域なり山村地域がその多面的機能を有して非常に国民にとってもかけがえのない価値のある地域だという規定をしっかり書き込んでいるわけでございますね。そういう意味では、農村についてなぜ書けないのかということを非常に疑問に持つ次第でございます。これが一点目でございますね。
 それから第二番目に、同じく第六条、それから第四十三条二項も同様でございます。農村振興の手段として、農業生産条件の整備と生活環境の整備その他福祉の向上ということが書いてございまして、これだけであります。しかしながら、農村振興には、先ほども申し上げましたように、最近いろいろ可能性が開けてまいりました。再生可能エネルギーだとか、地域で経済循環していけば所得が上がっていってみんなのこの農村地域経済全体が向上すると、で、それによって農家の方も副業所得が入る、それ以外の方々も副業所得が入る、地域全体が豊かになると。そういうことであれば、当然、まあ農業所得がちょっと足りなくてもそれで補ってみんながそこに住むということが可能になるわけでございまして、これは非常に重要な項目でございます。したがいまして、当然この地域資源を活用した所得と雇用の確保というのを農村振興施策として位置付けるべきであるというふうに考えております。
 ちなみに、これ三枚目を御覧いただきますと、現行の基本計画でも一番最初に、施策の一番重要項目として、地域の資源を活用した所得と雇用機会の確保というのを掲げているわけでございます。また同時に、EUの共通農業政策なんかでもこの地域経済の振興というのを掲げているわけでございまして、どうして日本の基本法ではこういうことを掲げないのかということは非常に疑問に思っておりまして、これも誤りではないかと思う第二点目でございます。
 それから第三番目に、第四十三条第二項と第四十五条に、農村と関わりを持つ者の増加を図るための施策として、産業の振興とか地域の資源を活用した事業活動の促進という規定をわざわざ新設してございます。ところが、今申し上げておりますように、農村におきましては、農業者であっても、あるいは既にもう住んでいる住民の方であっても、みんな農業を、例の水路整備とかで手伝ってくれたりしてやっているわけですね、一緒にね。そういう人たちの、農業者も含めて、そういう方々のために地域で産業を起こしたり、当然、地域資源を活用したいろんなその活動ですね、経済活動、例えば再生エネルギーを生産して経済力を高めてそこからみんな副業収入を得るとかということは、まさに農業者とかそこに住んでいる地域住民の方のために必要なので、どうしてこの関係人口の方、あるいはこれに企業も入ると思いますけど、関係人口、企業のためにだけにこういう規定を新設するのか、こういう活動を推進するのかということは、ここの部分なんかは私は特に間違いじゃないかというふうな気もするわけでございまして、十分な御議論をお願いしたいと思います。
 ちなみに、山村振興法では、基本理念に当然この産業の育成による就業機会の創出というのも掲げているわけでございます。当然でございますけどね。
 それから、第四番目でございますけれども、まあこれは間違いというほどではないとは思いますけれども、現在農村で一番問題なのは人口減少、それから過疎化の加速化ということでございますけれども、これは何が原因かというと、農業で食べていけないことが原因です。食べていけないことが原因ですね。
 それで、農業白書を見ると、農業白書を見ますと、個人経営体の農業所得の項目を見てください。百三万円ですよ、年間。年間百三万円の農業所得で食べていけるはずがないんですね、どんな施策を講じても。ですから、食べていけないということが人口が減って過疎化を進めている原因なんですね。であれば、やっぱり所得の確保というのを基本法としては中長期的な目標に絶対掲げるべきなんですね。何でこれを掲げないのかと思うわけでございます。
 ちなみに、これ国際的に引いてもあれですけれども、EUの共通農業政策、これは、今のお渡しをしております資料の後ろから二番目を御覧いただきたいと思いますけれども、CAPの政策目標というのはここに十個出てまいりますけれども、そのトップですね、第一に農業者の公正な所得の確保というのが掲げてあるわけでございまして、最重要項目に所得の確保というのが掲げられている。ですから、日本もやっぱりこの所得の確保というのが大事。
 それから、先ほど申し上げました基本計画ですね。基本計画の目次を先ほど御覧いただきましたけど、三ページです、もう一回御覧いただきますと、基本計画でも一番重要な項目として、地域資源を活用した所得及び雇用の確保と。ですから、所得が一番重要であるということは基本計画でも認識をしている。
 これを、もし所得を、多分政府が嫌がるのは、この所得と書いたら、何か農業所得、そこまで所得補償しなきゃいけないというふうに思うからいけないんです。そういうふうに思う必要はないわけですね。これ、基本法というのは、どなたかからもありましたように、宣言法でありますから、政府の姿勢を示すものであります。だから、政府の姿勢として、農業者を確保していくためには所得が大事なんだと、ただ、それは今すぐに何か予算で全部カバーするとか、それはできないから中長期的に頑張るけれども、所得の確保ということを目標に掲げて頑張ろうというこの姿勢を示すことが基本法の一番大事な点でありまして、当然そこには、農業所得だけではなくて、先ほど申し上げました地域の経済力全体を高めて、そこから副業収入でもってカバーしていくということがあってもいいわけなんで、所得の目標を掲げた以上、農業政策も頑張るけれども、農村施策のその全体的な経済力の向上でも頑張るということに当然つながってくるわけでございまして、所得の確保、持続可能な所得の確保というのを排除する理由というのは全くないというふうに私は考えているわけでございます。
 それから第五番目に、中山間地域政策でございますけれども、これ、残念ながら、現在、直接支払というようないい制度がこの基本法で入りましたけれども、成果を必ずしも十分に上げておりません。限界に来ているというふうに言われているわけでございまして、これはもう刷新をしていく必要があるのではないかというふうに考えます。
 この今回の法案を見てみますと、食料安全保障、都市住民の方から見れば食料安全保障というのは非常に重要な項目でございます。ただ、農業者とか農村に住んでいらっしゃる方から見れば、食料安全保障、もちろん重要ではありますけれども、その前に自分たちの仕事、暮らし、農業を続けてやっていけるのか、住み続けていけるのかということがもう一番重要でございまして、そういう意味では農村政策というのは非常に重要なんですね。
 そうすると、今回の法案を見ますと、食料、農業の部分は大変改正されて、立派に改正されて、いろんな規定が充実をされておりますけれども、農村の部分ではそうなっていないという、大変不十分な古いままの、時代遅れのままの基本法のままというのは大変残念でございまして、これでは農業者あるいは農村現場の方の失望を招くし、将来に禍根を残すものではないかと思いますので、皆様方の十分な御審議をお願いして、私の意見陳述を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

○参考人(長谷川敏郎君) 農民運動全国連合会、農民連の長谷川です。
 食料・農業・農村基本法改正案について意見陳述を行います。
 現行法の下で、基本計画で決めた食料自給率目標は一度も達成されず、その検証もないまま、食料自給率向上そのものを投げ捨てる改正案には反対です。
 農民連は、多くの団体と協力して、今国会に食料自給率向上を政府の法的義務とすることを求める署名を提出しています。
 今、食と農の危機はかつてなく深刻です。食料自給率は三八%ですが、種子、肥料、農薬、飼料、機械、燃油の全てが価格高騰し、そのほとんどを輸入に頼る中で、本当の自給率は一〇%あるかどうか、砂上の楼閣です。いざというときは世界で最初に飢えるのは日本人と言われ、国民の関心、不安はかつてないものがあります。
 私は、島根県の中山間地、邑南町で、繁殖和牛二頭、稲作一町二反の農家です。農村現場では、作り手が減り、耕作放棄で荒れる水田が広がっています。コロナ以後の生産者米価の暴落、資材高騰で、あそこもここもと、米作りをやめています。邑南町役場で調べてもらうと、米を作付けする農家はこのたった四年で一六%も減りました。作付けの筆数も一三%減少。こんな農村でいいのでしょうか。また、こんな農村になぜなったのでしょうか。
 農民連は、一昨年から、資材高騰対策や日本から酪農・畜産の灯を消すなの運動を取り組みました。米も野菜も果樹も、後継者がなく、経営は赤字。まさに日本から農業の灯が消えるかどうかの瀬戸際です。今こそ政治が本気で食料増産を掲げ、日本農業の再生で食料自給率の向上を目指す農業基本法を作り上げていただきたいと思います。
 基幹的農業従事者が二十五年で百二十万人も減りました。坂本農水大臣は、農水委員会で、高齢になって離農されたからだと答弁しました。高齢は誰にでも訪れることです。問題は、減少する担い手を補充する新規就農対策を政府はやらなかったことです。コロナ禍を経て、農業をやりたいという若者が増えています。しかし、農業で食べていけない、国の農業政策では将来が見通せないと言います。子供に農業を継いでくれとは言えない、自分で終わりだ、もう一年、もう一年と頑張ってきたけれど、と離農する農家の仲間がどれほど多いことか。
 ところが、改正案では新規就農対策はありません。基幹的農業従事者のうち五十歳以下はたった二十三万八千人。八十歳を超えてなお現役で頑張って生産を支えていただいている農民が二十三万六千人です。こんないびつな農業生産体制がいつまでもつでしょうか。
 大事なことは、規模の大小を問わず全ての家族農業を政策対象にし、家族経営の果たす役割を再評価し、農業再生の主人公にすることです。二〇二〇年の総農家数は百七十四万戸、うち自給的農家は七十二万戸です。この方々がいてこそ、地域農業、コミュニティーは支えられています。
 今年は、日本も提案国として賛成した国連家族農業の十年の折り返しの年です。農業基本法以来、一貫して進めてきた大規模化、法人化一辺倒を改めるべきです。半世紀近く制度や補助金を集中して育成してきたにもかかわらず、法人、団体は経営体数の三%、農地の三四%を担っているにすぎません。
 私は、規模拡大や農業法人を否定するわけではありません。家族農業を古い経営形態だ、丼勘定だなどと攻撃し、政策対象から排除してきたことが誤りだと指摘しているんです。
 今回の改正では、効率的でかつ安定的な農業経営を営む者とそれ以外の多様な農業者に分け、それ以外の農業者の任務は農地をお守りしろに限定です。それ以外とは何ですか。この分類は見直すべきです。
 皆さんの手元に資料を渡しましたが、私の二十年間の家族農業の経営データを島根大学の先生方が分析し、論文を発表されました。それによれば、小規模で限られた経営資源をどのように配分すれば生産性が高まり、効率的な農業経営ができるかを経営資料から判断し、所得の経営と家計の未分離という弱さを克服しているというのが結論です。
 税金申告でも、二〇一四年から全ての事業者の記帳義務が課せられました。農民連の会員は、農業収入・支出記帳簿で記帳し、自主申告を行っています。
 これまでの家族農業への不当な攻撃は、事実に反すると言わなければなりません。ヨーロッパでは、一九八四年、EC共通農業政策を転換し、それまでの専業大規模農家の育成から、兼業を再定義し、多重就業農家をきちんと位置付け直しています。
 家族農業は多彩な経営があり、経営の重点は、家族の暮らしとその基盤となる地域を大切にします。それは、そこに住み続けるからです。その結果、農業に不可欠な水と土と森、自然と生態系を守ることができます。
 家族経営の目標は、農業労働や農業生産の成果を享受し、家族で喜びを分かち合うこと。規模拡大や経営成長、それ自体が目標ではありません。また、家族の構成員の年齢構成の変化による家族周期に合わせて農業経営を伸縮することができます。企業的な農業経営は、雇用労働や多額の設備投資など、固定的な要素により柔軟性に乏しく、気象変動や災害、価格変動のリスクに対して脆弱です。農業法人の倒産が過去最大になっているのはその表れです。
 家族経営では、家族内部で労働、所得、財産を柔軟に伸縮、融通することで危機に対応します。こうした家族農業の特性を再評価し、支援することこそ、環境に優しく持続可能な農業経営体を増やしていく道だと考えています。
 次に、地球規模での気候変動など、世界の食料生産が不安定です。ところが、改正案は、更に輸入依存、安定的輸入を掲げています。大きな間違いです。お金を出せば幾らでも買える時代は終わり、中国に買い負けや、穀物がバイオエネルギーの原料として取り合いが起きています。国内で農産物を増産することが緊急の課題ではありませんか。
 食料輸入の困難さに異常な円安が加わり、農業経営の危機と食料供給の脆弱さが浮き彫りです。農民は作りたくても作れず、離農が進む一方で、貧困と格差の拡大で、食べたくても食べられない人々が急増しています。
 日本は、FAO、国連食糧農業機関のハンガーマップで飢餓国に認定されています。世界の食と農の危機は、短期的、一時的ではありません。二〇五八年には地球の人口が百億人と予想される中で、日本の穀物自給率は世界百八十五か国の中で百二十九位です。今、人口一億人以上の国は、穀物自給率一〇〇%を目指す国際的な責務があります。
 坂本大臣は、トウモロコシや麦や大豆を全て国内で生産すると現在の農地の三倍は必要だ、それは無理だから輸入と答弁しています。しかし、日本でも、一九六七年から六八年には二千百万トンの穀物を生産していました。米生産による人口扶養力は小麦の二倍から四倍、日本の農地一ヘクタール当たりの人口扶養力は抜群です。日本で作れるものは精いっぱい作り、どうしても足らない分を輸入する政策に転換すべきです。
 国土の七割を山地が占め、国民一人当たりの農地面積は三・七アールしかありません。その日本で、太陽エネルギーの変換率が高い水田は、アジア・モンスーン地帯の持続可能な農業の要として重要です。四十万キロの用水路、中山間地の棚田は洪水防止、水源涵養の役割を果たし、あぜの面積は十四万三千ヘクタール。単純に二メートルの幅とすれば七十二万キロ、地球十八周分になります。
 水田と里山は、農民の共同の労苦で作られた多様で豊かな生態系として将来に引き継ぐべき貴重な財産です。水田を水田として存続し、穀物自給率を向上させることを提案します。水田の畑地化を条文に書き込み、田んぼを潰す政策を推進するような暴挙は許されません。また、これまでの農業生産の在り方そのものも見直さなければなりません。
 一九六一年に定められた農業基本法は、小麦や大豆、飼料をアメリカからの輸入に依存させることを前提に選択的拡大を進め、規模拡大と効率主義を柱に、少品目大量生産、化学肥料、農薬の多用、輸入飼料に依存する畜産など、農業生産にひずみを広げました。現行法は、このひずんだ農業、日本農業に市場原理主義を持ち込み、更に農村と農業の破壊を加速させました。
 日本農業を再生させるには、これまでの政策の根本的な反省と転換が必要です。どんな方向が日本農業の再生の道なのか。農民連は、アグロエコロジーを対案として提案します。
 アグロエコロジーは、自然の生態系を活用した農業を軸に、地域を豊かにし、環境も社会も持続可能にするための、食と農の危機を変革する方針であり、実践です。循環型地域づくり、多様性ある公正な社会づくりを目指す運動としてFAOも推進し、世界の大きな流れです。
 私の三十年余りのアグロエコロジーの実践を資料として配付しました。有畜複合による経営内の資源循環で、化学肥料に頼らず、地力を維持し、殺虫剤をやめたことで様々な虫が増え、その結果として、ツバメやクモ、カエルやヘイケボタル、アカトンボなど、生物多様性が回復され、害虫を抑えています。
 また、それは資本の外部流出を防ぐ持続可能な農業経営です。中山間地域は、実に豊かな資源に恵まれた地域です。
 島根大学の先生方が、私の経営を多角的に分析されました。今年一月には中国の西北農林科技大学の先生と学生九人が、また、この七月には韓国から二十五人が視察に来る予定です。アグロエコロジーは日本農業の明るい未来を切り開く道しるべです。
 現行法制定でばっさり削除された一九六一年の農業基本法の前文を改めて振り返りたいと思います。
 我が国の農業は、長い歴史の試練を受けながら、国民食糧その他農産物の供給、資源の有効利用、国土の保全、国内市場の拡大等国民経済の発展と国民生活の安定に寄与してきた、我々は、このような農業及び農業従事者の使命が今後においても変わることはなく、民主的で文化的な国家の建設にとって極めて重要な意義を持ち続けると確信する、農業の自然的経済的社会的制約による不利を是正し、農業従事者が他の国民各層と均衡する健康で文化的な生活を営むことができるようにすることは、農業及び農業従事者の使命に応えるゆえんのものであるとともに、公共の福祉を念願する我ら国民の責務に属するものであると述べていました。
 農村政策の基本は、地域農業を再生することです。日本には農業と農村が必要という国民合意をつくり上げるような基本法改定の議論を強く要望し、私の陳述を終わります。

○委員長(滝波宏文君) ありがとうございました。
 以上で参考人の御意見の陳述は終わりました。これより参考人に対する質疑を行います。

─────────────(略)─────────────

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、参考人の皆さんの貴重な御意見、本当にありがとうございます。
 私は、最初に農民連の長谷川参考人からお聞きしたいと思います。
 それで、実は私、今年の三月にこの農水委員会で、農民連がアグロエコロジー宣言を出しましたといって、今日もお配りいただいているんですけれども、これを紹介したのと、それから、日本農業新聞が今年はアグロエコロジー元年ですということで論説を書いているということを取り上げさせていただいたんですね。
 それで、長谷川参考人には、じゃ、今なぜアグロエコロジーなのかということで、今日はもう一つの資料も配っていただいていて、ちらちら中身見ますと物すごい生き物がいっぱい出てきて、堆肥の中にミミズがいっぱいいたりとか、それからこれはツバメが虫を捕りにいっぱい来ているですとか、それから田んぼがクモの巣がすごい掛かっているんですよね。何でこんなにクモの巣が掛かるぐらい、私、クモ苦手なんですけれども、実は稲害虫の天敵だと、クモは、それで、害虫に余り襲われなくて済むというかね、そのクモが頑張っているということなんだと思うんですけど、とかカエルとかヘイケボタルも実は役割を果たしているということをもう初めてちょっと知ったんですけど、そういう生物が本当に生きていて全体で役割を果たしているということが改めてちょっと見ながら思ったんですけど、ちょっとその辺りのことを含めて、御自身の実践のところから紹介をお願いしたいと思います。

○参考人(長谷川敏郎君) なぜアグロエコロジーかというところで、今回の基本法の改正案も、農業は一方的に環境に負荷を与えるものとして改善を図るべきだ、減らすべきだという立場だけれども、本来、それはこれまでずっと続けてきた化学肥料や農薬に依存し、商品を大量に作る、産地形成をしていく、そういう農業のやり方であれば環境に負荷を与えるんだろうと。そうでない方向へ日本も切り替えないといけない時期に来ている、そして、その方向は具体的に私がこの資料で示したような、言わば生態系を大事にしていくことからすれば、それは非常に大きな可能性があるんだと。また、それが経営的にも、外部から化学肥料を買うんではなく、また、農薬を買うのもやめていますから、経営的にもそれが合理的な循環の可能性を見出すし、また、里山の手入れした間伐材や除伐材を燃料にしていること、それによって私の家はもう二十年以上灯油とかプロパンガスを買わないで基本的に家を暖房を含めて維持している。
 そういう意味では、再生可能エネルギーの使用も含めて合理的な形ができて、野中参考人がおっしゃるような、本当に中山間地が生かせる資源が多いし、それを生かす農業へ転換すること、ここがやっぱり必要だというふうに思っているところです。

○紙智子君 ありがとうございます。
 私、北海道の出身で、それで、私も農家の娘で生まれ育ったものですから非常に実感として思い出すことはあるんですけど、ただ、今、北海道というのは大農家が多いんですよ。かつては二十三万戸あったと言われていて、今は五万戸切るかという感じになっていますから、一つ一つが物すごく大規模で主業農家が多いですけれども、それはそれで景観もありますから大事にしなきゃいけないんだけれども、同時に、やっぱり中山間地域で果たしている役割というのもすごく大きいと思いますし、多様な農業を本当に大事にしていかなきゃいけないというふうに思うんですね。やっぱり、平たく言えば、人と環境に優しい農政の方向に行くべきだなというふうに思っています。
 それで次に、農政の今の課題ということでちょっとお聞きしたいんですけれども、多様な担い手というふうに言った場合に、家族農業であったり兼業農家、この役割が重要だと思っていて、元旦に能登半島で地震がありましたよね、あそこに行ってきたんですけど、大体兼業農家が地域支えてきたんだよというふうに言われたんです。
 それで、能登半島だけじゃなくて、こういう状況のところはほかにもいっぱいあるよというふうに思うんですけれども、そういうところで営んでいく上で家族農業や兼業農家の役割ってすごく大事だと思うんですけど、この点について、馬場参考人と、それから作山参考人と長谷川参考人にお聞きしたいと思います。

○参考人(全国農協中央会専務理事 馬場利彦君) 多様な農業者という規定が今回入れられたわけですけど、いずれにしても、今後も農業者の減少が続く中で、担い手である方と多様な担い手、多様な農業者が連携して地域農業を維持発展していくことが極めて重要だというふうに思います。改正基本法で新たに規定されております多様な農業者が長く農業を営めるよう、施策の拡充を図っていくことが必要だというふうに考えております。
 また、多くの担い手からはこれ以上農地を受け入れられないよといった声も上がってきているのも事実でありますし、農地の集約とか、あるいはJAも含めたサービス事業体を通じたスマート農業の技術普及と推進等も必要かと思っております。
 以上です。

○参考人(明治大学専任教授 作山巧君) 紙先生、御質問ありがとうございます。
 私も出身は岩手の兼業農家の息子でございまして、多様な農業とか兼業農家の重要性に全く異存はありません。
 特に、今回、基本法の議論で私が思いましたのは、多様な農業とかそういうことを言うと、構造政策に逆行するとかそういう議論があったんですけど、私は、それはもう全く時代遅れで、というのはやる人がいなくて困っているわけなので、逆行する農家って一体どこにいるんだというのが私の感じなんですよね。
 もう一つ言いたいのは、せっかく御発言の機会があったので、二十七条に専ら農業を営む者というのが出てきまして、これは基本法を作ったときから書いてあるんですけど、これも、実は農業だけ営んでいると非常にリスクが大きいので、むしろ経営はいろいろ農業以外も含めて多角化した方がリスクに強いという面もあるわけですよね。そういう面もあるので、この専ら農業を営む者というのはいかにも専業農家だけがいいような印象を与えるので、小規模な方とか兼業農家のやる気をそぐような規定なので私はやめた方がいいと思っているんですけど、そういう面を含めて、やっぱりもうやる人いないので、農業をやっていただけるだけで有り難いという現実を踏まえた条文にした方がいいと思っています。

○参考人(長谷川敏郎君) 多様な担い手を本当に多くつくっていくことが非常に大事だと思っています。
 元々、日本で農業センサスで専業と兼業というのを分類したのは、一九五一年のセンサスからです。私の家では、戦前の旧瑞穂、旧高原村時代の村民税賦課の議事録がありまして、それを見ると、全てが兼業農家なんですよ。つまり、専業、兼業と分けたのは政府のセンサスで分け、そして兼業も一種、二種に分け、さらに自給農家というような区分けもしてきた、まさにそれは政策なんですね。
 実際の現場は、ほとんどみんな兼業農家なんです。無理して専業農家を育てるやり方をやっぱり変えていくことで地域を守っていくことが当然できると思っていますし、そういう支援が必要だと。そういう意味では、今、小さい農家が農機具を更新したいとか耕運機を替えたいんだとか、小さな馬力のトラクターを買いたいんだとかっていっても、何の応援もないわけですよね。やっぱり認定農家だとか大規模だとか、規模拡大することが条件みたいな、やっぱりそこを変えてほしいなと。それをしないとやっぱり、そうすると、小さな農家も受け手がない農地を引き受けて応援することができるように変わっていくというふうに思っています。

○紙智子君 ありがとうございました。
 日本の農業の九割が一応家族農業というふうに言われていて、国連家族農業年の十年が設定されて、ちょうど折り返し点ということでもあるんですけれども、やっぱり持続可能な在り方、これ本当に追求しなきゃいけないというふうに思っていまして、そういう意味でもやっぱり基本法の中にその趣旨がちゃんと入らなきゃいけないなというふうに思っています。
 次に、農業で食っていけないと、農業で生活できないという意見もよく出されているわけですけど、日本生活協同組合連合会が基本法の見直しに関する意見書というのを出していて、その中に、財政支出に基づく生産者の直接支払というのがなきゃ続かないんじゃないかと求めておられるんですけれども、少なくとも、やっぱり再生産できるような所得を下支えできる仕組みというのは必要だと思うんですね。元はあったんですよね、いろいろいっても、下支えできるものあったのに、今もうほとんどなくなっている中で、この仕組みって必要じゃないかと思うんですけれども、これについて、ちょっと時間も迫ってきているので、野中参考人、それから作山参考人、長谷川参考人にお願いします。

○参考人(野中和雄君) おっしゃるとおり、農業で人口が減って、それで食べていけない、やっていけないということが明らかにあるわけでありまして、先ほど申し上げましたように、EU等でもそれに対して政策を取っておりまして、日本も、先ほど申し上げましたように、その財政所得だけでとか農業所得だけでとかいう必要はありませんけれども、所得の確保が重要であるということをはっきりやっぱり方針として示して、それを支援していくことが大事じゃないかなと思います。
 そのときに、先ほどから繰り返し私申し上げておりますけれども、残念ながら、地域で考えても、農業だけで完全に他産業並みの所得を上げていくということは非常に難しい地域がたくさんあるわけでございまして、一方で、農村ではいろんな可能性が広がってきて、せっかく広がってきているわけです。そういう方たちが農村に住んで、農業も支えてくれているわけですね、日本型直接支払とかいいながら。ですから、地域全体で経済力を上げる中で、農家にも所得が行くようにというような視点も踏まえて、それでなお足らざる点を政府がいろんな形で、直接支払という形でカバーしていくのが私はいいんじゃないか、国際的に見てもそれは妥当ではないかというふうに考えます。

○参考人(明治大学専任教授 作山巧君) 紙先生の御質問ですけど、私もこの生協の提言は非常に注目しております。要するに、消費者が財政負担をやってくれと言っているという意味で。
 あと、もう一つ関連してあるのは、私は農水省で長く貿易交渉などをやっていまして、TPPの参加協議などもやっていましたけれども、そのときは経済界も直接所得補償をやってくれということだったんですよ。というのは、貿易自由化をやったら工業製品の輸出が伸びますので経済界にとってはいいことだと、ただ、農家の方は困るでしょうから、それは所得補償で構わないということだったわけですよね。だから、消費者も所得補償をやってくれ、経済界もやってくれと言っているのに何でやらないのかなと。
 特に、実際は日米貿易協定とかTPPを進めたのは安倍政権ですけれども、やっぱりそういう大きな政策転換がないと、なかなか財政負担を伴う新しい政策というのはできないので、本当は私は安倍政権のときに直接所得補償を導入すればよかったと思っていて、そこのタイミングを逃したというのは非常に大きな政策的な誤りだと思っております。

○参考人(長谷川敏郎君) 農民連は皆さんの方にその提言というのも渡しておりますけれども、価格保障、直接支払、そして今回新しく価格転嫁の方向について、そしてもう一つ、どこも言われないんだけれども、食料支援制度をきちっとつくってほしいと。これが逆に、国がきちっと食料を買い支えて需要を増やしていく、自給率も高めていくということになっていくと思っています。
 これについて、そのフードバンクの云々みたいな形の、ちょっとお金を応援するみたいな話しか書いてありませんけれども、やっぱりもっともっと大規模にやっていくと。つい近いところで、アメリカの農業予算の研究を私どもでしていると、二十二兆円規模、国民の八千万人がそれを受けて、計算すれば月に五万円とか、先日農協の方が発表された分でいうと、月一人当たり七万円ぐらいの食料支援を積み上げていく、SNAPという制度でそれをやっていく、それで国内の需給を盛り上げていくという、そういう制度も今回必要だというふうに思っています。

○紙智子君 ありがとうございます。
 ちょっと時間がもうなくなってしまったので、中嶋参考人にお聞きできないんですけれども、ありがとうございました。生かして、生かせていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。