◇農政の基本方針を定める食料・農業・農村基本法改定案審議入り、1999年基本法は食料自給率の向上を定めたのに、自給率目標は一度も達成されず38%に低下する一方、米国の圧力と政府の経済財政政策によって自由化を進め自給率が低下したと指摘。生産者に自己責任を迫る新自由主義農政の転換し、食料自給率の向上を国政の柱に据えることを強く求めた。
○食料・農業・農村基本法の一部を改正する法律案
○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、食料・農業・農村基本法の一部改正について総理に質問いたします。
一九九九年の基本法制定から二十五年、四半世紀ぶりの改定です。国民は、食料自給率の低迷、農業者や農地の急激な減少、農村の存亡の危機を強く憂えています。
本改正案は、今後の日本の農政の方向を決める重要な法案であり、参議院において徹底審議を行い、地方と中央の公聴会を持つなど、関係者からも十分に意見を聞き取り、その意見を反映させたものとなるように強く求めます。
現行の基本法の原案には、農業生産という言葉はあっても増大という言葉がなく、食料自給率はあっても向上という言葉はありませんでした。
当時、世界の貿易がWTO体制に移行し、輸入自由化が進む中で、食料の国内生産を重視しようという運動と議論が展開されました。その結果、食料自給率の向上と農業生産の増大をセットで明記する修正がされたのです。この国会の意思を総理はどのように認識していますか。
食料自給率の向上を位置付けたにもかかわらず、二〇〇〇年に四〇%あった自給率は三八%に低下しました。食料自給率目標は一度も達成されたことがありません。総理、なぜ目標が達成できなかったのですか。その反省はあるのですか。
一九八〇年の四月に参議院は、食糧自給力強化に関する決議を採択しました。当時、ソ連によるアフガニスタン侵略によってアメリカが穀物などの対ソ禁輸措置をとったことから、世界で食糧需給が不安定化しました。決議案の提案者は、食糧が外交手段の一つとして用いられるなど、食糧輸入国である我が国にとって食糧問題は極めて重大な、重要な課題となっているとして、政府に国民生活の安全保障体制として食糧自給力の強化を求めたのです。
ところが、アメリカから農産物を買うように求められ、日本は、日米の首脳によって設置された日米諮問委員会が一九八四年に、日本の食糧安全保障政策は、構造調整を妨げ、真の食糧安全保障をも阻害しているとの報告書を出したんです。
その後、アメリカの圧力を受けて、牛肉・オレンジの自由化、WTO協定による自由化を進め、二〇一〇年代に入ると、安倍政権は、日豪EPAを締結し、環太平洋経済連携協定、TPPやメガFTAなど自由化を進めました。
国内では、二〇二二年十一月の財政制度審議会が自給率の向上には疑問と投げかけ、国際分業、国際貿易のメリットを無視しているという建議を出しました。アメリカの圧力と、そして政府の経済財政政策こそが食料自給率を低下させたのではありませんか。
ところが、本改正案には、自らの農政を反省するどころか、現行法にある、食料自給率の目標はその向上を図る指針という文言を、食料自給率の向上の改善が図られるという抽象的な表現に変えました。幾つかの目標の一つに格下げしたのではありませんか。
一方で、食料安全保障を確保するために、あえて輸入の頭に安定的という言葉を付け加えて、安定的な輸入に依存する条文に変えています。輸入を重視し、国内生産の増大を軽視するのではありませんか。
安倍晋三元総理は二〇一三年の日本再興戦略で、十年間で全農地面積の八割を担い手に集積すると掲げました。担い手が減っても大規模な農家に農地を集めれば耕作面積は維持できるという政策です。
ところが、二〇二〇年の農林業センサスでは、二〇一五年から農地面積は十七万ヘクタールも減少し、五年単位で見ると最も多く減少しました。主として農業で生計を立てる基幹的農業従事者も五十万人減少、担い手が減っても規模拡大すれば農地は維持される、食料の供給は保たれるというこの政策は破綻したのではありませんか。
農政審議会農業基本法検証部会で農業法人協会の会長は、若い人がなぜ定着しないかといえば、農業で食えないからだと発言しました。
今から三十年前、一九九〇年当時、約二万二千円を超えていた米価は、二〇二一年には全国平均で約一万二千円まで下がりました。米作って飯食えないという叫びが出て当然です。
全国平均の最低賃金は時給一千四円、一般労働者の平均賃金は二千百六十三円です。ところが、稲作農家の時間当たりの農業所得は、一戸当たり二〇二一年から二年連続して十円です。専業農家、主業経営体でも六百九十九円です。酪農は赤字です。総理、稲作農家で十円、酪農は赤字、これで生活できると思いますか。
一方、生産者には米は過剰だと、作るなと言いながら、ミニマムアクセス米、輸入米は毎年減らさずに七十七万トンも輸入しています。ミニマムアクセス米の赤字は累積で六千億円を上回り、税金で穴埋めしています。この赤字をどう解消するのですか。税金は生産者の所得を増やすために使い、アメリカなどのアグリビジネスのために使うべきではありません。答弁を求めます。
生産者の再生産を保障することは待ったなしの課題です。
二〇二一年の各国の農業関係予算に占める直接支払などは、イギリスで六八・三%、スイス七六・八%、フランス四八・四%、ドイツ三三・九%であるのに対して、日本は二八・〇%と余りにも低い水準です。
日本生活協同組合連合会が出した基本法見直しに関する意見書では、財政支出に基づく生産者への直接支払を求めています。今必要なのは、生産者の再生産を保障する直接支払に踏み出すことではありませんか。
担い手について聞きます。
農水省は、基幹的農業従事者が今後二十年で約四分の一の三十万人になると推定しています。JA全中も二〇五〇年に三十六万人に減少するとしています。
政府の担い手政策は、効率的かつ安定的な経営体である専業農家は支援するが、兼業農家など農業以外で生計を立てている生産者は専業農家の補助者という位置付けです。新規就農者は十年前の六万五千人が今や四万五千人に減っています。政府の担い手政策は、生産者の高齢化は強調しても、新規就農者を増やす点でも経営継承を進める点でも無策そのものではありませんか。
最後に、本改正案が食料安全保障について、国民一人一人がこれを入手できる状態であるとの定義を設けたことについてお聞きします。
FAO、国連食糧農業機関は、食料安全保障を十分で安全かつ栄養ある食料を物理的、社会的及び経済的にも入手可能であるときに達成されると定義しています。
農村の人口が減少し、飲食店が撤退し、買物難民が問題になり、コロナ禍、非正規で働く一人親家庭や学生が食料難に陥り、格差社会が言わば食料を手に入れることさえも困難にしました。一人一人の食料安全保障を確保するには、非正規雇用の増大といったこの格差社会を変えることが必要ではありませんか。
今必要なのは、生産者に自己責任を迫る新自由主義の農政の転換です。私たち日本共産党は、綱領で農業を国の基幹的生産部門に位置付けています。食料自給率の向上を国政の柱に据えることを強く求め、質問といたします。(拍手)
〔内閣総理大臣岸田文雄君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 紙智子議員の御質問にお答えいたします。
基本法制定時の議員修正に関する国会の意思についての認識についてお尋ねがありました。
現行の食料・農業・農村基本法の制定時は、衆議院において、共産党を除く各会派の共同提出で、国民に対する食料の安定供給については国内の農業生産の増大を図ることを基本として行われなければならないこと、そして、食料自給率の目標はその向上を図ることを旨として定めること、政府は基本計画を定めたときは遅滞なく国会に報告することを内容とした修正案が提出され、可決されたものと承知をしております。
こうした国会での修正内容については、政府としてこれまで対応を進めてきたところであり、今回の改正案においても基本的には規定を維持しているところであります。
食料自給率についてお尋ねがありました。
食料自給率については、米の消費の減少等による低下が想定より大きく、輸入に依存する小麦、大豆の国内生産拡大等による上昇を上回ってきたところ、これが目標未達の主因と分析をしています。
また、これまで幾多の農産物貿易交渉を重ねる中にあって、我が国の農業生産に重大な支障を招くことがないよう、必要な関税等の措置を確保してきたところです。実際、この二十年間の自給率の低下はFTA等による影響は大きくなく、また、国の政策としても自給率の向上に取り組んできたところであり、アメリカの圧力と政府の経済財政政策が自給率低下を招いたとの御指摘は当たらないと考えております。
食料自給率と国内の農業生産の増大についてお尋ねがありました。
食料自給率については、改正案では、基本計画の記載事項として、食料自給率の向上が図られるよう、農業者等の関係者が取り組むべき課題を明らかにして定める旨明記しており、格下げしているものではありません。また、現行の基本法において、国内の農業生産の増大を図ることを基本とする方針を明示しているところ、今回の改正に当たってもこの方針に変わりはありません。
その上で、食料安全保障をめぐって輸入リスクの増大も課題となる中、安定的な輸入と備蓄の確保を適切に行うことが重要であることから改正案にこの点を盛り込んだところであり、国内の農業生産の増大を後押ししつつ、輸入と備蓄を適切に組み合わせながら食料安全保障の確保を図ってまいります。
担い手の減少と農地の維持についてお尋ねがありました。
これまで、現行基本法に基づき、食料の安定供給において中心的な役割を果たす担い手について、経営規模が大規模か中小規模か、家族経営か法人経営かにかかわらず、その経営の安定、発展を後押ししてきたところです。
この二十年で農地面積は転用などにより約一割減少したものの、法人経営体の増加、生産性の向上などを背景に農業総産出額は九兆円前後を保ってきており、これまでの政策が破綻しているとは考えておりません。
農業所得についてお尋ねがありました。
将来にわたって食料の安定供給を確保するためには、収益性を確保し、農業が持続的に発展していくことが重要です。このため、改正基本法に基づき、生産性の向上や付加価値向上の後押し、適正な価格形成の推進などを基本に、収入保険制度等の経営安定対策を適切に講じながら、農業所得の向上を図ってまいります。
なお、御指摘の農家の収入の統計については、例えば稲作経営の年間収入は、自家消費を目的としたり、農外収入を主と、失礼、農外収入を主としたりしている小規模農家を含めた平均値であり、農業で生計を立てていく水田作経営体の所得に着目していく必要があると考えております。
ミニマムアクセス米についてお尋ねがありました。
ミニマムアクセス米については、我が国の国産米の保護措置を含む全体のパッケージであるガット・ウルグアイ・ラウンド合意を受けて、ミニマムアクセス米が国産米の需給に悪影響を与えないよう国家貿易で管理をしているところであります。これに伴う財政負担は売買差損や管理経費の増により増加していますが、財政負担をできる限り削減するために、新たな仕向け先の開拓や管理経費等の削減に努めつつ、この枠組みを維持してまいります。
他方、農業者の所得向上に向けては、改正基本法に基づき、生産性向上や付加価値向上の後押し、適正な価格形成の推進などを基本に、収入保険制度等の経営安定対策を適切に講じながら、しっかりと取り組んでまいります。
直接支払についてお尋ねがありました。
農業者への直接支払については、現在、農地等の保全管理のための多面的機能支払、中山間地域の農業生産条件の不利を補正するための中山間地域等直接支払など、我が国農業の課題と政策目的に応じた直接支払制度を講じているところです。
新しい基本法の下、直接支払制度と併せて、生産性向上や付加価値向上の後押し、また合理的な価格形成の推進、収入保険制度等の経営安定対策を適切に講ずることにより、農業者の所得の向上を図ってまいります。
担い手政策についてお尋ねがありました。
我が国農業の持続的発展に向け、新規就農者の確保や経営継承の実現は極めて重要な課題であり、現場の実態を踏まえながら、その推進を図ってきたところです。
具体的には、新規就農施策について、支援対象者が就農後の早い段階で所得を得られるよう、令和四年度から新たに機械導入等の初期投資への支援や就農後の技術サポートを含む総合的な支援施策を追加するなど、施策の改善等を行ってまいりました。
引き続き、現場の実態をよく踏まえながら、効果的な施策の展開に努めてまいります。
そして、一人一人の食料安全保障の確保等についてお尋ねがありました。
十分な食料を入手できない方々が足下で増えている現状に対応することは重要な課題であると認識をしております。このため、改正案において、新たに食料の円滑な入手の確保を位置付けたところであり、フードバンクや子供食堂等への未利用食品の提供体制づくりの支援、全国的な政府備蓄米の無償供与等の取組を進めてまいります。
また、非正規雇用労働者の雇用の安定や処遇改善に向けてリスキリングや正規化支援を進めるとともに、最低賃金の引上げや同一労働同一賃金の遵守の徹底、これらの施策に取り組んでまいります。(拍手)
○議長(尾辻秀久君) これにて質疑は終了いたしました。