◇作山巧明大教授は直接支払への転換が必要と指摘/参院予算委公聴会開く
○農業・地方・社会保障
公述人
遠藤久夫・習院大学経済学部教授・社会保障審議会会長
作山巧君・明治大学農学部専任教授
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
本日は、遠藤久夫公述人、そして作山巧公述人、本当にありがとうございます。
地方の経済や暮らしのことを考えるときに、やはり今日テーマになっている農業、地方、社会保障ってこれ本当に大事な役割だと思っていまして、日頃はこの都会で仕事をして暮らしていても出身は地方だったりということがあると思いますし、私自身も北海道が出身なんですけど、日頃からやっぱり一次産業がいかに地域経済の土台として大事な役割かということを実感します。それから、安心して暮らせるということでいうと、医療や介護や年金などの社会保障がすごく大事な位置を占めているというふうに痛感しています。
それで、最初に作山公述人からお聞きしたいと思うんですけれども、最初にあった予算の取り方の問題で、当初予算じゃなくて補正の方がずっと占める割合が多くなっていて、しかも恒常化しているという問題は私も全く同感で、本来だったらちゃんと当初予算にもっと増やすべきだというのが考え方であります。
それで、今度の国会では、食料・農業・農村基本法の見直しについても議論されていくことになるんですけれども、一九九五年にウルグアイ・ラウンドで農業交渉、WTO農業協定が結ばれて三十年に間もなくなろうとしています。なかなか、途中、新たな交渉が進まないという中で、FTAであったりEPAであったり日米の二国間だったり、それから環太平洋経済連携協定なども進められてきたわけなんですけど、関税率を下げていって最後はなくしていくということで、WTO協定よりもむしろ高い水準でそういう自由化のことが進められてきたと思うんです。
それで、そういうのを、日本も国境措置を受け入れてきたということなんですけれども、これらが日本農業にどういう影響を与えてきているのかということで、公述人の御意見を伺いたいと思います。
○公述人(作山巧君) 御質問ありがとうございます。
今の御質問、つまり、WTOやそれから自由貿易協定など、貿易自由化の日本農業への影響ということだと思いますけれども、そこは今回の私の資料でもカバーしているところでして、例えば十四ページの資料を改めて御覧いただきますと、日本の農業の支援額というのが、一九八七年は六・五兆円、二〇二〇年は四兆円なので、二・五兆円減っているというデータを示してございます。
実は、まさにこれが関税などの削減の効果も入っておりまして、それはどういうことかと申しますと、十四ページのその下に内訳がありますけれども、価格支持と直接支払というのが書いてあって、直接支払は政府が直接お金を払うものですけれども、この価格支持というのが、まさに関税を掛けますと輸入品の値段が上がって内外価格差が生じます。それに生産量を掛けたものがまさにこの価格支持なんですね。ですから、この二・五兆円減っているののほとんどはこの価格支持が減ったもので、それは要するに関税を下げたものですから、内外価格差が少なくなってその間接的な農業の支援額が減ったという効果がここに表れているということです。
ということで、数字を、こういう細かい数字を離れましても、基本的には輸入品がどんどん安くなって入ってくるという状況になっていまして、それは今の価格転嫁にも関係するんですけれども、要するに輸入品が、まあ野菜なんか典型ですけど、無関税で入ってくるものですから国内のコストが上がりますよね。すると、簡単に中国やアメリカからその代替になる野菜をすぐ輸入できるわけですから、価格転嫁が進まない一因というのは貿易自由化も一因になっているという構図だと思います。
○紙智子君 国内、国際相場の不安定化もこのところあるんですけれども、総じて低価格の農産物の輸入が増えて国内の農産物の価格を引き下げることになって、農家の経営に一定の打撃与えてきたというふうに思うんですよね。
先月、フランスの国民議会の野党の議員の方が来日した際にお話しする機会があったんですけれども、フランスでも新自由主義の振興の下でフランスの農家が苦境に陥って食べていけなくなっているという話を聞きました。それで、そういう中で、農業者と消費者の共通の利益というのはやっぱり安全な食料を生産することになると。そこの観点から、やっぱり農業を守っていく政策が必要なんだという話をされて、私も日本も共通するところがあるというふうに思ったわけです。
作山公述人は今度出されてくる農業基本法について別の資料で言われていましたけれども、農業生産基盤の強化策がないんじゃないかと、それから、効率的かつ安定的な農業経営に固執して農業者や農地の減少を止められなかった反省がないんじゃないかというようなことを指摘されているんですけれども、そのことについてちょっと端的に、もうちょっとどういうことかということをお話しいただきたいと思います。
○公述人(作山巧君) 御質問ありがとうございます。
まず、今、紙議員、フランスの例を出されましたけれども、今日私が提案したような直接支払というのは、別に私の発明でも何でもなくて、むしろフランスを始めとしたヨーロッパ諸国が始めたもので、それが世界標準になっているという認識だと思います。
その上で、今おっしゃいました食料・農業・農村基本法の改正案についてですけれども、私の印象は、いろんな要請を受け入れようとして結局余り新しいことが言えなかったなということだろうと思います。例えば、大規模な農業を盛んにしていきましょうというのは、それはそれで正論ですし、価格も市場で決めて余り高くならないようにしましょうというのも正論なんですけれども、結局それを全部一つのものに入れ込んでしまうと方向性がよく分からないというところが私の印象でございまして、その端的な問題が現れているのが、一方では、貧しい消費者が増えていますねと、もう一方では、生産コストが上がって農家が困っていますからどんどん価格転嫁をしましょうというところにその衝突、矛盾が端的に現れていると思っていまして、今回の答申には残念ながら出ていないんですけれども、それを解決する別な方策として、今日私が提言したようなことを申し上げているということでございます。
○紙智子君 もう一つお聞きしたいんですけれども、中山間地域直接支払をこの平地にもということで、この政策そのものは私は必要だったなというふうに思っているんですけれども、そこで農村振興をどうするかということを考えると、現在の農業基本法は、農村について、農業者を含めた地域住民の生活の場で農業が営まれているということが、言ってみれば持続的な発展の基盤の役割を果たしているということなどを含めてずっと述べているんですけど。あと三十四条のところでも、地域の特性に応じた農業生産の基盤の整備と交通や情報通信や衛生、教育、文化などの環境の整備その他というようなことで、こういうことを推進するように必要な政策を講ずる必要があるんだというようなことも述べています。
かなり網羅されて言っているんだなというように思うんですけれども、それで、全国町村会が以前から言っているんですけど、農村価値創生交付金のような、これ仮称ですけれども、というようなものを提唱しているんですけれども、地域レベルで独自性を持ってそこを担う人に着目している新たな交付金的なものを考えたらどうかということなんですけど、これ、農村振興というところでいうとどう思われますかということ、一言お願いします。
○公述人(作山巧君) 御質問ありがとうございました。
今言及いただきました実は食料・農業・農村基本法の農村部分は、私が二十五年前に基本法の策定に関与したときに私は農村の担当でしたので、まさに私に責任の一端もあるかもしれませんけれども、正直余り書き込めていないというのがあると思います。というのは、なかなか、農水省は農業に関わることでないと政策ができないということがありますのでちょっと狭く書いているというところがあると思いますので、そこをもうちょっと広げるところを期待したいと思います。
その上で、その全国町村会が提言されている交付金ですけれども、これは、私の同僚に小田切徳美先生という方がいらっしゃるんですけど、その方が元々提唱されているものでして、私は、やっぱり農村の多様性を考えるとそういう方向にしていくというのがいいだろうと思います。なかなか、要するに、国でやるとどうしても画一的になってしまいますので、今、実は交付金というのがもう既に少しはあるんですけれども、農水省の予算でも、そこを拡充していくというのが正しい方向だろうというふうに思っております。
○紙智子君 ありがとうございました。
最後に、遠藤公述人にお聞きします。
それで、いろいろ少子化の話を聞いて、人口減ということなども非常に深刻な状況が進んでいるということを改めて認識をしたところなんですけど、ちょっとそれも含めて、今、私、直面している問題として是非聞いておきたいと思ったんですけれども、北海道、私、出身ということを言いましたけれども、一つ一つの医療圏がすごく広いんですよね。すごく広いんですね。そこで医師、看護師不足というのは切実な問題で、つい最近も、ある町の話ですけど、病床数が百四十六床の病院の内科の医師が二〇二〇年に八名だったのが二三年になると三名に減って、二五年四月になると二名になるんだと。それで、このまま行ったら通常の診療などできないということで、結局、残った医師に重圧が掛かって長時間労働で、いつまで続くのか不安を感じながら仕事をするという状況で、これ一つの町だけの話じゃなくて、管内全体を影響する病院なものですから、これなくなられたら大変だということで、今必死に医師確保に奔走しているということなんですよね。
四月から医師の働き方改革が始まるんですけれども、この地域医療を支えるために、医師の確保ということでいうとどうしたらいいのかというのは、これは本当に、ちょっと一言お願いしたいと思います。
○公述人(遠藤久夫君) ありがとうございます。
非常に直球の難しい課題なわけですけれども、医師偏在対策ということなわけですけれども、この医師偏在というのは、医療保険制度、医療提供体制、強制的に保険料を取っていながらそばに医療提供サービスがないということは、これは制度としておかしいわけなので、これは提供体制は公平にしなければいけない。
ただ、問題は、特に医師、医療者ですね、この人たちは、どこで働こうかというのは基本的人権ですから、それを強制配置するというようなことはこれまた憲法違反になってしまうということで、そのバランスをどうするかということで様々なことが言われてきて、やられてきているんですけれども、一番効果があるのは、地域枠とか、要するに卒業してから九年間はそこが指定するようなところで働くと、その代わり試験は少し普通とは違う試験にする、入学試験ですね、大学の入学。それから、奨学金を与えるというようなことなわけですけれども、これについても様々な反論もあるんですけど、今のところはそれが一番有効ではあるということなわけです。
私は、さらに、例えばリタイアをしたドクターが少しトレーニングを受けて、そういうへき地みたいなところに行かれるというような仕組みをもっと制度的につくるとか、あるいは、今は地方の大学を出て、すぐに卒業して、国家資格を取れば、そのまま出身地である大都市に戻るというような流れがあるわけですけれども、それをやめるためには、一つは、そこの大学を出ればその地域でしか初期研修というか臨床研修、二年間やらなきゃいけないんですけれども、その地、例えば北海道の学校、大学を出れば、北海道のどこかでやらなきゃいけないようなこと、事前にそういう仕組みをつくっておくのであるならば、承知で受けるわけですから、そんなような仕組みをつくるとか、そういうようなことを進めていくことが一つ一つ解決になるんだろうと。
もう一つは、特に北海道のように距離が遠いところは、それこそDXの利用であって、専門の医師がいなくても、テレメディスンですね、遠隔医療によって適切なアドバイスをしかるべく大学病院から得るとか、そういうようなことをやることによって医師不足をできるだけカバーしていく、そういうことの総動員をしていく必要があるんじゃないかな、そんなふうに考えます。
以上です。
○紙智子君 どうもありがとうございます。参考にしてまた取り組んでいきたいと思います。 ありがとうございました。