<第210回国会 外交防衛委員会 2022年11月22日>


◇改正日米貿易協定による牛肉のセーフガードとアメリカの国益について/アメリカとTPP諸国からの輸入牛肉の数量について/セーフガードの無力化について/日米貿易協定とTPPが国内の畜産、酪農への影響について/日米貿易協定とTPPの見直しについて/ホルモン剤を使用した牛肉の輸入について/米、豪州産輸入牛肉の肥育ホルモンの残留値の公表について

○日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定を改正する議定書の締結について承認を求めるの件(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 日米貿易協定の経過を振り返りますと、最終合意が二〇一九年九月二十六日、国会承認は十二月四日でしたから、僅か六十九日というスピード承認でした。
 この僅かな審議でも、日本にとって屈辱的な協定であることが明らかになりました。特に、農業を犠牲にして自動車関税を先送りしたこと、農産物についてはアメリカが特恵的な待遇を追求することを認めたことです。
 協定の交換公文で、セーフガードについては発動水準を一層高いものにするため協議を開始するとなっています。昨年、二〇二一年の三月にセーフガードが発動されてから協議が開始されて、今年合意したわけです。
 新たな基準によって、アメリカは単独の発動水準を超えて日本に牛肉を輸出することが可能になります。発動水準は一層高いものにするという約束に沿ったもので、アメリカの利益にかなう改定になったんではありませんか、外務大臣。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) この議定書に基づく新たなセーフガードの枠組みの下で実際にセーフガード措置が発動されるか否かにつきましては、年々の各国からの輸入状況にもよるため、一概に評価することはできないと考えております。
 その上で、新たなセーフガードの枠組みの下では、三つの条件が全て満たされた場合にセーフガードが発動されるという意味で、日米貿易協定が元々定めていたセーフガード発動水準を超過した場合であっても、その他二つの要件を満たさなければセーフガードは発動されず、通常時の税率が適用されるということは、今おっしゃられたとおりでございます。
 他方、今回の合意内容、これは米国単独の発動水準を維持した上で、当初のTPP協定の発動水準、これを合計輸入数量に適用することによって、実質的に当初のTPP協定の下でのセーフガードと同様の効果を持つと言い得るものであるというふうに考えております。

○紙智子君 TPPの諸国からの輸入もあるわけですけれども、アメリカ単独の発動水準を超えて輸入することが可能になるということは間違いないと思うんです。
 その一方、新基準はTPP範囲内に収まったからよかったという見方もあるんですけれども、しかし、アメリカとTPP諸国からの牛肉の輸入量の総量はTPPの範囲内に収まるわけではないと思うんです。なぜなら、これ、日米貿易協定とTPP協定というのは別物であって、それぞれにセーフガードの基準があるからです。

配布資料 改正日米貿易協定による5年後(2027年度)のアメリカとTPP諸国からの低関税の牛肉輸入可能量

 それで、ちょっと配付した資料を御覧いただきたいと思うんですが、青字のAのところですね、TPP諸国とアメリカのセーフガードの基準、こんなふうに推移していくということです。
 Bは、二〇二七年度、五年先です、二七年度のアメリカとTPP諸国からの輸入可能量ということで試算したものです。
 セーフガードは年度ごとの基準ですから、アメリカからの輸入量が四月から九月にかけて三十万トンに達したとします。その時点でTPP諸国から三十九・六万トンの輸入があれば、合計輸入量は六十九・六万トンですから、新基準に基づく発動基準に達します。一方で、TPP諸国の基準六十九・九万トンは変わらないので、九月以降、年度内の二月と三月にかけて輸入量が三十万トンを超えないと、このTPP諸国に対してセーフガードは発動されません。
 つまり、アメリカとTPP諸国から合わせて九十九・六万トン、約百万トン近く牛肉の輸入が低関税で認められるということになるんじゃありませんか。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) この日米貿易協定におきましては、先ほど申し上げましたように、米国単独発動水準とCPTPP発動水準が併用されているということは事実でございますが、後者につきましては、当初のTPP協定の下で米国も含めて合意した枠組みと同様のものでございまして、米国単独発動水準の大幅な引上げ、これを求める米国側に対して約一年にわたり粘り強く協議をした結果、TPPの範囲内と言い得る内容で合意したものと考えております。
 CPTPPの牛肉セーフガード措置に係るCPTPP参加国との協議については、様々な機会を捉えてこれらの国々に対して我が国の考え方を伝えてきているところでございまして、引き続き関係国にしかるべく働きかけてまいりたいと考えております。

○紙智子君 CPTPPの参加国に話をしていくということなんだけど、結局それぞれ別物ですから、そういう意味では、それぞれがこういう形で想定でなったときには、百万トン近く入ってくるということは可能だと思うんですよね。
 それで、資料の@の方見てください。これは国産と輸入を合わせた国内の消費量なんですけど、二〇二一年度で八十八・七万トンです。多い年度でも九十三万トンだと。つまり、九十九・六万トンには届かないわけですよね。国内消費量以上に入ってくる可能性もあるわけです。
 約百万トンもの輸入が可能になったら、これ、アメリカにセーフガードが発動されたとしてもTPP諸国から低関税の輸入を抑えることはできません。輸入の急増を抑えて国内生産を守るセーフガードの意味がなくなるんじゃないでしょうか。いかがですか。

○政府参考人(外務省経済局長 鯰博行君) 委員の御指摘の二〇二七年度の例を取ってまいりますと、二〇二七年度にTPPのセーフガード発動水準が六十九・六万トン、アメリカ単独のセーフガード発動水準が二十七・六万トン、このとおりでございます。
 このことの意味するところは、アメリカからの牛肉の輸入数量とCPTPP諸国、オーストラリア等ですね、からの牛肉の輸入数量の合計が六十九・六万トンを超えた場合、かつアメリカからの輸入数量が二十七・六万トンを超えた場合、かつアメリカからの輸入数量が前年度を超えていた場合にはアメリカに対してセーフガードが発動されるというのが今回の改正議定書の内容でございます。
 それと、諸外国からの牛肉の輸入数量につきましては、当然ながらそれを買う側が国内にいてということですので、国内消費量にある種見合った、あるいはそれを見通した上での輸入量ということになるのではないかというふうに承知しております。

○紙智子君 今の答弁じゃ全然よく分からないなという感じなんですけれども、セーフガードが無力化されていくというふうに思うんですね。一番大きな影響を受けるのは、輸入肉と競合する国産の乳用種、交雑種です。
 そこで、農林水産省から、牛肉の部位で肩ロースの価格を出していただいたんですけど、それ紹介したいと思うんですが、今年は円安が進んだために、九月時点の輸入牛肉が一キロ当たりで千五百二十四円です。国産は、交雑種で二千六百九円、乳用肥育の雄牛で千九百五十七円ということで、円安が進んでいても輸入が安くなっているんですよね。コロナ前や円安になる前はどうだったかというと、もっとこの輸入と国産の差があったわけですよ。今は円安で輸入と国産の価格は縮まっているわけですけど、いずれにしても国産より輸入が安い状況には変わりないんですね。
 日米貿易協定とTPP協定で百万トン近くの低関税の牛肉の輸入が可能になるのに、TPPの範囲内だから畜産、酪農への新たな影響はないなんということを言えるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房審議官 伏見啓二君) お答え申し上げます。
 我が国の牛肉の輸入量は、為替、国内外の需給動向、現地価格等様々な要因に左右されますが、二〇二二年度の牛肉輸入量、四月から九月まででございますが、円安等の影響によりまして、日米貿易協定発効前、二〇一八年度と比べますと九五%と減少しております。農林水産省としては、セーフガードの発動いかんにかかわらず、引き続き牛肉の輸入動向や国内生産への影響を注視してまいります。
 国内生産への影響の観点からは、総合的なTPP等関連政策大綱に基づきまして、肉用牛の生産基盤の強化のための支援のほか、経営安定対策の充実などの対策を講じているところでございまして、今後も関税削減が進んでいくことを踏まえ、引き続き畜産農家をしっかりと支援してまいります。

○紙智子君 質問に答えていないですよね。影響ないなんて言えるんですかと聞いたんですよ。影響出てきますよ、絶対。
 北海道で、酪農経営は壊滅的だということを何人からも聞いているんですよ。酪農の経営というのは、餌代の高騰、畜産クラスターを活用した人は設備投資のために借りたお金の返済が今始まっていて、出費が増えているんですね。一方で、生乳の需給、需要が減少していて、生産抑制で収入が減っているために、これ資金繰りが困難になっていて、年越し、どう越せるかというんじゃなくて、今月をどうするかという危機的な状況にあるんですよ。だから、アメリカとの新しいセーフガードの基準というのは、TPPの範囲内だから影響ないなんて言っている場合じゃないというふうに思うんですね。
 今の国内の酪農や畜産経営の状況を見れば、これコロナや為替相場の影響を想定していない日米貿易協定やTPP協定の見直しこそ、今すべきじゃありませんか。外務大臣。

○国務大臣(外務大臣 林芳正君) この今般の日米貿易協定の改正は、協定に関連して作成された日米政府間の交換公文に基づきまして、米国産牛肉に対してセーフガード措置を発動するための条件について米国側と協議した結果を踏まえて行われたものでございます。
 委員御指摘がありましたように、為替変動による飼料価格を始めとする生産資材の高騰、また新型コロナ影響等によって、国内産業が大変厳しい状況にあるということは認識をしておるところでございます。
 この為替変動、またコロナの影響と、こういうものに対しては柔軟かつ迅速に対応していくことが必要であるということから、この既存の協定の改正、今回も一年掛かりましたけれども、時間も掛かるものでございますので、こういった改正で対応するというよりは、国内の関係者の皆様も聴取しながら国内対策等によってこの対応していくということが適切だというふうに考えております。

○紙智子君 コロナやウクライナの危機を受けて、経済連携協定の在り方そのものも問われていると思うんですよね。
 それから、次に行きますけれども、成長ホルモンを使用した牛肉の輸入についてです。
 アメリカやオーストラリアでは、成長ホルモン剤が使われています。成長の速度を一〇%から二〇%改善をして、牛肉の生産コストを五%から一〇%下げることができて、生産効率を高めるんだと言われています。TPPや日米貿易協定の国会審議では、人体への影響の懸念からEUでは輸入を禁止しているのに、なぜ日本は成長ホルモンを使用した牛肉の輸入を認めるのかということが議論になりました。
 既に、アメリカ国内でも、成長ホルモン剤不使用の肉をホルモンフリーと表示して、これ販売するスーパーや飲食店が増えています。アメリカ国内でもそうなんですよね。アメリカやオーストラリアで生産されている肉用牛の何割程度でホルモン、成長ホルモン剤が使用されているのかということで聞いたら、政府に確認しましたら、使用実態は把握していませんという回答でありました。
 それで、アメリカやオーストラリアはEUに輸出できませんから、アメリカでもホルモンフリーの販売店が増えれば、これ、ホルモン剤を使用した牛肉の行き先というのは、日本に来る可能性があるんじゃないでしょうか。厚生労働省にお聞きします。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 佐々木昌弘君) お答えいたします。
 まず、前提になりますEU以外の諸外国では、アメリカ、オーストラリア等といったところでは、残留基準値、肥育ホルモンの残留基準値が設定されております。よって、このことによって、仮に肥育ホルモンを使用した牛肉が国内に入っていても、そのことによる安全性については確保できているものと思っております。
 一方で、委員の今の直接の御指摘である、じゃ、国内に入ってくるのではないか、流通するのではないかという点については、流通のことですので、消費行動に関わることですので、厚生労働省としてはお答えいたしかねます。

○紙智子君 それで、その、厚生労働省は輸入牛肉の検査結果を公表しているんだけれども、しかし、公表しているのは違反件数だけなんですよね。違反件数は、その基準が下回っているからないと、ゼロですという公表になるんだけれども、やっぱりこれ、不検出だったり、ND含めて検出数値を公表すべきじゃないですか。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 佐々木昌弘君) お答えいたします。
 まず、海外から輸入される牛肉等に対するホルモン、肥育ホルモンの検査の実施状況につきましては、このことそのものは公表、厚生労働省のホームページで公表しております。
 一方で、この公表状況につきましては、これもまた今御指摘いただいたところですけれども、基準値を超える量の肥育ホルモンが仮に検出された場合については、これは速やかに公表をすることとしております。
 よって、この基準値を満たしているものまで、つまり基準値を下回っているものまで検出状況を公表するかという点については、そこまでは考えておりません。

○紙智子君 検査した数値を公表するということ、別に問題ないと思うんでやったらいいと思うんですよ。むしろ、消費者は情報提供求めています。成長ホルモン剤を使用した牛肉は食べたくないという動きは、ホルモンフリーの関心も高まっているわけですよね。
 それで、やっぱり成長ホルモン剤を使用した牛肉の輸入を拡大するんじゃなくて、やっぱり国産の牛肉の生産を増やす政策に力を入れるべきだということを強く求めて、質問終わりたいと思います。