<第208回国会 農林水産委員会 2022年4月14日>


◇環境と調和の取れた食料システムについて/法案の目的について/法案と飢餓や食糧問題など緊急的課題について/基盤確立事業について/ゲノム編集植物と生物の多様性への影響について/ゲノム編集技術への支援と国民的議論と合意形成について

○環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○植物防疫法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 環境と調和のとれた食料システム法案についてお聞きします。みどり法案がどういう社会像を目指すのかというところを聞きたいと思うんですね。
 まず、目的のところに、環境と調和の取れた食料システムの確立に関する基本理念等を定めるとあります。ということは、現在の食料システムは環境と調和していないということなんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 これまで、食料システムを構成しております農林漁業、食品産業は、環境と密接に関わる産業として成り立ってきたところであると認識をしております。
 一方で、近年、気候変動を始めとし、食料システムを取り巻く環境が刻々と変化し、その変化に対応していくことが必要となったところでございます。特に、国際的には食料システム全体を捉えてその環境負荷の低減に取り組むことが共通の認識となっており、欧米を中心にこれに向けた各国の動きが出ているほか、我が国においても、SDGs等の環境への意識が高まる中、消費者の理解と支持の下、農林漁業、食品産業を将来にわたり持続可能なものとしていく必要が生じております。
 こうしたことを受けて、本法律案では、環境と調和の取れた食料システムの確立を図るということにしたところでございます。

○紙智子君 同じく目標のところに、環境と調和の取れた食料システムの確立を図り、もって農林漁業及び食品産業の持続的な発展に資するとあるんですけど、この農林漁業を持続的に発展させるというのはどういうことでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 本法律案に定めております農林漁業及び食品産業の持続的な発展とは、環境への負荷の低減を通じまして自然循環機能を維持増進するとともに、農地等の生産資源や担い手が確保されることによりまして、農林漁業、食品産業が将来にわたり持続し、経済的、社会的にも発展していくことを意味しております。

○紙智子君 さらに、目的のところに、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会の構築に寄与すると書いてありますね。この社会の構築という言葉を使っているんですけれども、じゃ、どういう社会を目指しているんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 お尋ねの、環境への負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会につきましては、環境基本法第四条を踏まえまして、大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済社会の在り方を見直し、環境と関わり合いを有する活動の総体として社会全体がより良い方向に向かうことを指すことを意味しております。

○紙智子君 私はこの間、農業や酪農なんか、現地を歩いてきて、生産性を追求してこの規模拡大を進めてふん尿処理が限界に達する状況を見てきたり、あるいは、生産規模は拡大は進んだんだけれども、ずっと周りが離農が進んでしまって、集落の人がいなくなってきて、コミュニティーが維持できなくなったという地域の苦悩を見てきたんですね。そういう意味では、持続的に発展する社会の構築に寄与するというふうにありますから、そういうことからいえば、効率ばかりを求めてきた農政の在り方をこれ問い直すことになるということなんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 これまでも、食料自給率の向上等を旨として、足腰の強い農林漁業を実現するために生産基盤の強化に取り組んできたところでございます。
 近年の気候変動による農林漁業への影響が拡大する中で、農林漁業においても今から環境負荷の低減に取り組むことが必要となっているところでございます。こうした観点から、本法律案に基づいて行ってまいります健全な作物を育てる土づくりや省エネ対策等の取組は、これまでの農政が目指してきた農業の生産基盤の強化、ひいては食料の安定供給の確保にも資するものと考えております。
 今後も引き続き、担い手の育成確保ですとか農地の集積、集約化ですとか輸出の強化等は必要と考えておりますし、これらの従来の施策に併せて環境の取組も推進していきたいと考えているところでございます。

○紙智子君 これまでの農業の中で生み出している今紹介したようなマイナス面というのは見直さないんですか。そのこともちゃんと見直すということなんですか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) 環境に配慮した取組を始めていくということでございますので、ある意味見直す部分があると思っております。

○紙智子君 新自由主義的な政治が進んできた中で、格差と貧困、あるいは分断と対立が課題になっています。経済効率を優先する余り、環境や生態系のリスクが高まって、世界的に飢餓問題であったり食料問題が緊急の課題になっていると思うんですね。
 この法案はそういう課題に応える法案に、法律になっているのかということについて、これ大臣にお聞きします。

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) 本法律案は、環境と調和の取れた食料システムの確立を図るため、生産者、食品事業者、消費者等の取り組むべき視点を基本理念の形で共有するとともに、各種の支援措置を法的に位置付けることで環境負荷低減のための行動変容を促すこととしています。
 また、本法律案に基づく環境負荷低減の取組は、健全な作物を育てる土づくり、化学肥料や燃油等の輸入依存からの脱却など、持続的な農業の発展、さらには国民に対する食料の安定供給の確保を資することとなると考えております。我が国がこうした取組を先駆けて行うことで、世界のより良い食料システムの構築に向けて積極的な役割を果たしてまいりたいと考えております。
 こうした取組を地道に続けていく中、続けていくその先には、世界の食料不足や飢餓の問題の解決の糸口につながるものと考えております。

○紙智子君 解決の糸口につながるんだというお話だったと思うんですね。
 私は、本会議の質問のときに、国連の家族農業十年の取組を具体化しないんですかというふうに聞きました。大臣の答弁は、家族経営は重要な役割を担っており、国際社会の認識と共有するんだというふうに言われました。
 国連は、やっぱりリーマン・ショックのときの食料危機を経験をして、家族農業年ですとか、あるいは国際土壌年とか、それから国際協同組合年とか取り組んで、アグロエコロジーといって、生態系の機能を重視した取組をやってきているわけですよね。
 さらに、国連人権理事会は、二〇一八年に農民と農村で働く人々の権利宣言を採択をしています。この決議には、国は、適切な食料への権利、食料保障、それから食料主権、持続可能かつ公平な食料制度への権利を促進する政策を策定しなければならないというふうに書かれています。こうした国際社会の取組の到達を踏まえながら新しい社会を構築するように求めておきたいというふうに思います。
 さて、テーマは幾つかあるんですけれども、ここでは基盤確立事業についてお聞きをします。
 それで、新技術、先端技術の開発など基盤確立事業を行う者は、基盤確立事業計画を作成して大臣に申請し、認定されれば支援を受けることができるというふうになっているわけです。第二条の五のところで、基盤確立事業とは、環境負荷の低減を図るために行う取組の基盤を確立する事業であって、その一つに新品種の育成に関する事業というふうに書かれています。
 第四十二条のところで種苗法の特例というのを規定していて、規定の中で、新品種の出願料や登録料を軽減し、又は免除するというふうにあるんですけれども、現在の出願料と登録料は幾らなのか。そして、特例でどの程度これ軽減、免除されるんでしょうか。お願いします。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) 本法律案に基づく認定事業者が病害虫抵抗性を有する等の新品種を育成しまして種苗法に基づく品種登録を行う場合、国への納付費用を軽減又は免除することとしております。現在の出願料については一万四千円、登録料については、一年から六年目でございますけれども、毎年四千五百円でございます。今回の法律案に基づく政令では四分の一に減免することを予定しておりまして、一万四千円の出願料が三千五百円、四千五百円の毎年の登録料が千百二十五円となることを予定しております。

○紙智子君 十年以降で三万円でしたっけね。ですよね。

○委員長(長谷川岳君) 質問ですね。
 答弁求めます。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) 済みません、ちょっと今手元に正確な数字がございませんけれども、四分の一になる予定でございます。

○紙智子君 つまり、四分の一程度軽減されるということだと思うんです。
 さて、米などの新品種の開発は、これ、試験場なんか回ったときに、十年以上今まで掛かるというふうに言われました。それで、みどり戦略には新品種の工程表というのが、この緑の冊子の五十ページから五十一ページに書かれています。例えば、その中で、水田からメタン排出を抑制する低メタン稲品種、これも、耐暑性、暑いのに耐えるですね、耐暑性、それから耐湿性、湿度に耐えると、それから耐倒伏ですね、こういう性格、それから病虫害性及び収量性を向上させた高機能な品種改良も五年程度で研究開発を行い、二〇三〇年頃には社会実装するとあります。まあ応用できるようになるということだと思うんですけど。
 で、いや、そんなに早く新品種が開発できるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 現在、様々な機能を併せ持つ品種の育成を進めておりまして、例えば稲におきましては、令和七年度、二〇二五年までの計画としまして、ひとめぼれを基に耐暑性、耐倒伏性、耐病性、収量性を向上させた品種の開発を実施しているところでございます。
 あわせまして、画像解析やAI等を活用して品種開発の効率化を進める等の育種基盤技術の開発を行うことで品種開発の加速化を図りまして、みどり戦略の実現に取り組んでいきたいと考えております。

○紙智子君 ゲノムの編集技術なんかも活用すれば短縮できるというのはあるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) ゲノム編集技術も一つでございますけれども、ゲノム編集を使わなくても、画像解析やAI等を使うことによりましてかなりのスピードアップを図っていけるものと考えております。

○紙智子君 新品種の社会実装は二〇三〇年頃だとすると、ゲノム技術は使わなくてもという話もあったんですけど、それを使った新品種が開発されるんじゃないかということも想定してしまうんですけど、基盤確立事業というのはこのゲノムの品種の開発も含まれるんでしょうか、含まれないんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 本法律案に基づく基盤確立事業では病害虫抵抗性を有する新品種の育成等を促進しておりますけれども、その育種技術の在り方までを定めているわけではございませんので、ゲノム編集技術による品種開発も認定の対象となります。

○紙智子君 つまり、排除していないということだと思うんですね。
 それで、種苗会社と研究機関がゲノム技術で新品種を開発すると、これ出願料、登録料が軽減、免除されることにもなるんだと、排除していないからね。さらに、食品流通改善資金の特例規定がありますから、設備投資の資金の八〇%を借りることができることになるんですね。だから、一千万掛かる設備投資だったら八百万まではこの投資が受けられるということだと思うんです。
 それから、第十五条なんですけれども、国は基本方針を定めることになっています。この基本方針というのは、生物の多様性の保全を図るための施策に関する国の計画と調和が保たれたものでなければならないとなっています。
 そこで、今日、環境省来ていただいているんですけど、環境省にお聞きしますが、ゲノム技術で開発した植物などが生物の多様性に影響を与えるでしょうか。

○政府参考人(環境省大臣官房審議官 松本啓朗君) お答えいたします。
 ゲノム編集技術で得られた生物につきましては、生物の多様性を守るために遺伝子組換え生物の使用等を規制するいわゆるカルタヘナ法がございまして、同法に定める遺伝子組換え生物として規制の対象になるものとそうでないものがございます。
 まず、同法の対象となる遺伝子組換え生物につきましては、環境省及び農林水産省等の関係省庁におきまして、生物多様性への影響について専門家の意見をお伺いし、生物多様性への影響のおそれがないことを確認した上で承認を行ってございます。
 また、他方、同法の規制対象とならないゲノム編集技術で得られた生物に関しましても、予防的アプローチの観点に立ちまして、環境省及び関係省庁におきましては、生物多様性への影響に係る知見の蓄積と状況の把握を図ることとしております。
 具体的には、そうしたゲノム編集技術で得られた生物を作製する方等に対しまして、当該生物の使用に伴い生物多様性に影響が生ずる可能性に関する考察などにつきまして関係省庁に情報提供するよう依頼してございます。そして、もし提供いただいた情報に疑義がある場合には必要な追加情報を求めるということにしてございます。
 このように、カルタヘナ法の規制対象となる遺伝子組換え生物に該当するか否かにかかわらず、こうした対応を行うことで、ゲノム編集技術で得られた生物が生物多様性に影響を与えることのないよう、関係省庁と連携しつつしっかり対応していきたいと考えております。

○紙智子君 カルタヘナ法との関係でいうと、そこの対象になるかならないかという話が今されていて、どちらにしても情報提供はしてもらわなきゃいけないという話なんだけど、いや、情報提供だけでいいのかなというふうに思ったりもして、ちょっと農水省にも聞きたいんですけど、ゲノム作物が生物の多様性に影響を与えるということになったら、これ有機農家というのは困るんじゃないかと思うんですけど、いかがですか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房技術総括審議官 青山豊久君) お答えいたします。
 ゲノムのその作物については、環境省が定めたルールの下で、生物多様性の確保の観点から、科学的な知見に基づいて問題がないことを確認した上で行うということになりますので、そういった視点についても考慮されていくものと考えております。

○紙智子君 環境省の判断ということを受けてということになるんでしょうかね。もしそういうところがはっきりしないままということになると、これ有機農家の人たちはとても不安だと思うんです。
 既にゲノムトマトなんかも開発されていますよね。それで、ゲノム動植物でいうと表示の義務がないわけですよ。で、不安の声が広がっていて、みどり戦略のパブリックコメントに一万七千件の意見が出されたんですけれども、そのうちの九割、一万六千件がゲノム編集への懸念や反対意見だったわけです。
 ゲノム技術を活用した事業を支援するとなると、これ国民的な議論や合意がない下で進めることになってしまって、それはちょっとそうすべきではないんじゃないかというふうに思うんですけど、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) ゲノム編集技術については、品種改良のスピードを速めるなど、画期的な技術であります。また、ゲノム編集技術で得られた農林水産物につきましては、その流通に先立ち、関係省庁との役割分担の下、厚生労働省は食品安全の観点から、農林水産省は環境省が定めたルールの下で生物多様性の確保の観点から、科学的知見に基づき問題がないことを確認しております。
 その一方で、国民の間では不安に感じる方がおられることも承知しております。環境と調和の取れた食料システムは、消費者を始めとする関係者の理解と連携の下に確立されるものでありまして、革新的な技術の開発や実用化についても多くの国民の理解を得て進められるようにしていく必要があります。
 本法律案にかかわらず、農林水産省といたしましては、研究者等の専門家とも連携を取りまして、研究内容等を分かりやすい言葉で伝えるなど、アウトリーチの活動に努めてまいりたいと思います。

○委員長(長谷川岳君) 時間が参りました。

○紙智子君 国民の理解を得ないで進めることはできないということだと思うんです。農業、食料の持続性や環境負荷の低減を図るためにも、化学農薬や化学肥料に依存した現在の農法や慣行農法を見直したことは重要だと。しかし、ゲノム作物が新たな不安を広げていることになれば、生物多様性とか生態系から見ても環境と調和の取れたシステムにならないと思いますので、拙速な支援はしないようにということを求めて、質問を終わります。