<第208回国会 本会議 2022年4月8日>


◇ロシアによるウクライナ侵略を巡る戦争犯罪への認識について/食料・農業資機材の海外依存による影響の現状認識について/政府の食料自給率達成への道筋について/水田活用交付金のカットの撤回について/みどり法案と食料・農業・農村基本法の農政について/みどり戦略と家族農業の具体化について/農業の規模拡大、効率化路線の見直しについて/食料システムに関わる温室効果ガスの抑制について/有機農産物の消費拡大と学校給食への利用促進について

○環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案(趣旨説明)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律案、いわゆるみどりの食料システム法案について質問します。
 法案に先立ち、ロシア軍による残虐な戦争犯罪を強く批判するものです。
 国連のグテレス事務総長は、独立した調査によって責任を明確にすることを求めています。戦争犯罪は、その責任を厳しく追及することが必要です。官房長官の見解を求めます。
 ロシアのウクライナ侵略は、食料や生産資材の高騰を招き、新型コロナ感染症で落ち込んだ経済や経営、国民の暮らしに打撃を与えています。
 国連食糧農業機関、FAOによれば、世界の食料価格指数は二〇年六月以降上昇を始め、今年二月には十年ぶりに過去最高を更新しました。異常気象による不作に加え、コロナ禍による人や物流の混乱などは世界の食料需給の逼迫をもたらしました。
 このやさきに、ロシアはウクライナを侵略しました。世界の小麦輸出量の三割を占めているロシアとウクライナ両国から小麦の供給が滞り、国際価格が上昇し、二〇〇八年の世界の食料危機の水準を上回りました。
 今、世界で食料の争奪戦が始まり、日本への影響は免れません。食料生産に欠かせない肥料、飼料、燃料なども国際価格が高騰し、安定した調達が困難になり、値上げが進んでいます。農業経営を直撃し、生産を更に衰退させかねません。
 今突き付けられているのは、食料、農業資材などを海外に依存した我が国においても、国民の暮らしに打撃がもたらされているという現実です。その認識はありますか。農林水産大臣の見解を求めます。
 岸田文雄総理が今年一月に行った施政方針演説では、経済安全保障を強調しても、食料の安全保障も食料自給率の言葉もありませんでした。
 官房長官、政府として手を打つべきは食料の安定供給ではありませんか。政府が決めた食料自給率目標四五%を早期に達成するための道筋を示すべきではありませんか。
 農林水産大臣、そのためにも、米価の大暴落や生乳の生産抑制に苦しむ生産者に支援するべきではありませんか。生産意欲を奪う水田活用交付金の大幅なカットは撤回すべきです。いかがですか。
 次に、法案に関わって聞きます。
 農林水産省は、法案の下地となるみどりの食料システム戦略を二〇二一年五月に決定しました。
 みどり戦略は、食料自給率の向上にどう関与するのか定かでありません。農政の基本は、食料・農業・農村基本法です。その下で食料・農業・農村基本計画を策定し、食料自給率目標を決めています。基本法とは異質の農政をつくるのですか。
 国連は、二〇一九年から家族農業の十年に取り組んでいます。家族農業をSDGsに貢献する主要な主体と位置付け、家族農業に関する公共政策を策定し、改善して実施することを提起しています。ところが、みどり戦略には、家族農業の十年という言葉がありません。具体化しないのですか。
 以上二点、農林水産大臣に答弁を求めます。
 本法案の目的では、環境と調和の取れた食料システムの確立を図り、環境への負荷の少ない経済の発展を図りながら持続的に発展することができる社会の構築に寄与すると社会像を展望していますが、経済効率を最優先し、国民の命や暮らし、環境を犠牲にしてきた新自由主義政治を変えるのでしょうか。
 そうであるなら、旧来の農政の方向転換が不可欠です。何よりも、大量の化石燃料や水資源の浪費を前提とする農産物の大量輸入からの脱却を目指すべきです。政府の農産物輸出拡大戦略も、地球環境への負荷を軽減するものとは言えません。
 農業の大規模化や効率化ばかりを追求する農政は、環境を悪化させ食の安全や生物多様性を損なってきました。こうした路線を見直すのか、農林水産大臣の見解をお聞きします。
 食料システムとは、農林水産物・食品の生産から消費に至る各段階の関係者が有機的に連携することにより、全体として機能を発揮する一連の活動の総体と定義しました。農林水産大臣、各段階の関係者の中に輸出入事業者は入っているのでしょうか。
 みどり戦略では、二〇三〇年までに、食品企業における持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現を目指すと書かれています。
 本法の第六条において、食料システムに関連する事業者に、生産の仕方、資材及び原材料の調達方法、農林水産物等の流通などにおいて環境負荷の低減を求めています。持続可能性に配慮するために輸出入事業者に温室効果ガス、CO2を抑制するための目標を求めるのでしょうか。農林水産大臣、お答えください。
 また、第四十八条において、環境大臣との連絡、協力を求めていますが、環境大臣は温室効果ガスの抑制を求めるのですか。見解をお聞きします。
 第十六条において、地方公共団体が作成した基本計画は、農林水産大臣に協議し、同意を得ることを求め、その際、農林水産大臣は、環境大臣その他の関係行政機関と協議しなければならないと定めています。
 そこで、地方公共団体が作成する計画に生産者、流通業者、消費者が参加する仕組みはありますか。環境大臣と協議する際、温室効果ガス削減目標に合致した計画になるのですか。農林水産大臣及び環境大臣の答弁を求めます。
 有機農業についてお聞きします。
 みどり戦略は、有機農業を全農地の二五%、百万ヘクタール実現など意欲的な目標を掲げました。
 私は有機農業推進議連に参加していますが、二〇〇六年に有機農業を推進する法律が成立しました。総生産量に占める有機農産物等の割合は、当時、米では〇・一三%でしたが、直近では〇・一%に下がり、増えている野菜でも〇・一九%から〇・四六%に増えているだけです。なぜ有機農産物などを増やせなかったのですか。
 有機農業推進法に基づく基本方針は、二〇三〇年までに有機農業の取組面積を六・三万ヘクタールに拡大する計画を示しています。そして、みどり戦略は、その後二十年で百万ヘクタールまで拡大するといいますけれども、法律で具体的な手だては示されていません。
 有機農業には、土壌微生物機能、生物農薬など自然の力を引き出す農法への転換が不可欠で、技術を習得するには時間も労力も掛かります。所得は農薬や化学肥料を投入する従来の農法よりも不利な現実があります。
 農林水産大臣、有機農業を広げる指導員や担い手の育成、生産者の所得への支援が必要ではありませんか。
 有機農産物の消費拡大も必要です。地方公共団体が作る基本計画は、有機農業の推進計画等との調和が求められています。公共調達として学校給食への国産有機作物の活用、利用促進が望まれていますが、政府としての支援を求めます。農林水産大臣、そして文部科学大臣の答弁を求めます。
 食料危機に直面しつつあるときに政治に求められているのは、自給率の向上を国政の柱に据えて農業を再生することです。効率優先ではなく、人と環境に優しい持続可能な農業の再建のために力を尽くすことを述べて、質問といたします。(拍手)

   〔国務大臣金子原二郎君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) 紙議員の御質問にお答えいたします。
 食料、農業資材の価格の高騰についてのお尋ねであります。
 昨年来、穀物相場のみならず燃料や肥料原料などの価格が上昇している中で、今般のウクライナ情勢によりまして国際価格が更に高騰しています。
 原油価格高騰対策については、燃油、燃料油価格の激変緩和対策を講ずるとともに、農林水産省としても、漁業や施設園芸におけるセーフティーネット施策、対策の充実や、省エネ機器の導入に対する支援策の拡充などを実施しているところであります。
 さらに、総理から策定指示のあった原油価格・物価高騰対策総合緊急対策において、現下の状況をしっかりと対応できるよう、必要な対策を検討してまいります。
 次に、米価、生乳、水田活用の直接支払交付金についてのお尋ねがありました。
 米の当面の需給と価格の安定に向けては、産地、生産者の保管や長期計画的な販売を支援できるよう、十五万トンの特別枠などを用意しております。
 生乳の需給は緩和している状況を踏まえ、生産者や乳業メーカーでは需給改善に向けた取組を行っているところであり、農林水産省としても消費拡大等の取組を後押ししているところであります。
 また、水田活用の直接支払交付金は、水田における主食用米から他の作物への作付け転換を支援するためのものであり、その趣旨を徹底するための今回の措置は撤回は困難でありますので、御理解をいただきたいと思います。
 次に、みどり戦略と食料自給率の向上との関係、家族農業についてお尋ねがありました。
 食料の安定供給の確保は、国の最も基本的な責務の一つであり、食料自給率については、その向上を図ることを旨として国産農産物の消費拡大、生産基盤の強化等、食料・農業・農村基本計画に掲げる施策を講じているところです。
 また、気候変動等による農林業への影響が拡大する中で、将来にわたり食料システムの持続性を高めていくことが重要であり、今から環境負荷低減に取り組む必要があると考えています。
 このため、本法律案では、農林漁業の持続的な発展、食料の安定供給の確保を前提に、生産性を維持できるような技術の開発、普及や、農林水産物の流通の確保等の取組を促進していくことにより、基本法とも矛盾するものではないと考えています。
 また、家族経営については、我が国の地域の農業生産を支える存在として重要な役割を担っていると認識しており、その重要性について国際社会で認識を共有することは意義深いものであると考えております。こうした観点から、みどりの戦略においても、規模の大小や経営の状態にかかわらず、意欲ある取組を後押ししてまいります。
 次に、農政の方向性についてのお尋ねがありました。
 近年、気候変動が拡大する中で、食料システムの持続性を高めるため、農業においても環境負荷低減に取り組み、その持続的な発展を図っていくことが重要であります。
 こうした観点から行う健全な作物を育てる土づくり等の取組は、農業生産の生産基盤の強化、ひいては食料の安定供給の確保に資するものと考えており、従来の施策と併せて講じていくことが重要と考えています。
 次に、食料システムにおける輸出入事業者との位置付けについてお尋ねがありました。
 本法律案では、農林水産物・食品の生産から流通までの過程において環境負荷の低減を図ることを目指しているため、農林水産物や食品の輸出入を行う事業者も食料システムの関係者に含まれております。
 次に、輸出入事業者の温室効果ガスの抑制の目標についてのお尋ねがありました。
 輸出入を行う際には、流通等における環境負荷の低減を図るため、その流通段階における省エネ化や消費者段階における地産地消の取組等を促進していくことが重要です。
 ただし、環境負荷の低減の取組は、農林水産業、食品産業の持続的な発展と食料の安定供給を図るために行うものであります。そのため、輸出の取組や食料の輸入それ自体を否定するものではなく、お尋ねの輸出入事業者のみを対象に温室効果ガスを抑制するための目標を定めることは現時点で考えておりません。
 次に、基本計画の策定に関する現場の関係者の参加、温室効果ガス削減目標との関係についてのお尋ねがありました。
 本法律案においては、国が定める基本方針において、地方自治体が作成する基本計画の基本的な事項として地域における合意形成についても記載することとしており、地域の実情に応じて、お尋ねの現場の関係者の意見も踏まえながら作成できるようにしてまいります。
 また、基本方針は、地球温暖化の防止を図るための施策に関する国の計画と調和が保たれるものでなければならないこととしています。そのため、基本方針に基づき地方自治体が作成する基本計画についても、国が定める温室効果ガスの削減目標に向けた施策と整合性の取れた計画となるものと考えております。
 次に、有機農業についてのお尋ねがありました。
 日本国内の有機農産物の取組面積が依然限定的である要因としては、温暖湿潤な気候のため除草等の労力が掛かる等の生産面での課題のほか、有機食品が身近で購入できない等の流通や消費面の課題があると考えております。
 今後、有機農業を抜本的に拡大していくために、有機農業指導員の育成や技術習得支援による担い手の育成、環境保全型農業直接支払交付金による生産者支援に加えまして、令和三年度補正予算からは、新たに地域一体となって有機農業の拡大に取り組む市町村への支援を行うこととしています。
 また、市町村が学校給食に有機食品を活用することは、安定した消費先の確保や地域住民の理解の醸成にも有意義であり、農林水産省としてもこのような市町村の取組を支援してまいります。(拍手)

   〔国務大臣松野博一君登壇、拍手〕

○国務大臣(内閣官房長官 松野博一君) 紙議員にお答えをいたします。
 ロシア軍による戦争犯罪の責任追及についてお尋ねがありました。
 ロシア軍の行為により、ウクライナにおいて多くの市民が犠牲になっていることを極めて深刻に受け止め、強い衝撃を受けています。多数の無辜の民間人の殺害は重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪であります。断じて許さず、厳しく非難します。
 こうした残虐な行為の真相は徹底的に明らかにされなければならず、ロシアは戦争犯罪の責任を厳しく問われなければなりません。我が国としても、戦争犯罪が行われたと考えられることを理由に、ウクライナの事態を国際刑事裁判所に付託しており、同裁判所の検察官による捜査の進展を期待しています。
 議員御指摘のグテーレス国連事務総長の独立した調査を求める発言も踏まえつつ、引き続き、国連を含む国際社会と緊密に意思疎通を図りつつ、対応をしてまいります。
 食料安全保障についてお尋ねがありました。
 国民に対する食料の安定供給を確保することは、経済安全保障の観点からも重要であり、輸入が国際情勢等の様々な要因に左右されることを踏まえれば、国内で生産できるものはできる限り国内で生産し、食料自給率を向上させていくことが重要です。
 このため、デジタル技術の実装など、農林水産業の成長のための投資と改革を更に進め、担い手の確保、農地の集約化を図りつつ、国際情勢の変化や災害にも負けない足腰の強い農林水産業を構築し、食料自給率の目標達成を図ってまいります。(拍手)

   〔国務大臣山口壯君登壇、拍手〕

○国務大臣(環境大臣 山口壯君) 紙智子議員から温室効果ガスの抑制についてお尋ねがありました。
 本法律案では、農林水産大臣は、環境と調和の取れた食料システムの確立のための施策の実施に当たり、環境保全に関連する場合には、環境大臣と緊密に連絡、協力する旨が規定されています。
 環境省としては、こうした規定も踏まえ、農林水産省と緊密に連携し、輸出入事業者を含む食料システムに関連する事業者における温室効果ガスの排出削減の取組を促進してまいります。
 また、本法律案では、農林水産大臣が、農林漁業に由来する環境負荷の低減を図るために行う事業活動の促進に関する基本計画に同意しようとする際、環境大臣に協議する旨が規定されています。
 この規定に基づき、協議に当たっては、温室効果ガス排出削減目標も念頭に置き、環境への負荷の低減につながるよう、農林水産省とよく連携してまいります。(拍手)

   〔国務大臣末松信介君登壇、拍手〕

○国務大臣(文部科学大臣 末松信介君) 紙議員にお答えをいたします。
 学校給食への国産有機作物の活用、利用促進についてお尋ねがございました。
 有機農産物の活用につきましては、一部の地域において、学校給食で有機栽培米等の農産物を使用したり、有機農産物を活用した食育の取組が行われたりしていると承知をいたしております。
 食品の選定につきましては、有機農産物の生産状況や、栄養教諭、保護者など関係者の意見、地域の実情を踏まえまして、学校給食等の実施者である学校設置者が判断すべきものでありますが、文部科学省としましては、有機農業の拡大を支援する農林水産省とも連携しつつ、有機農産物を活用した学校給食や食育の事例の発信、共有など、必要な取組を行ってまいります。(拍手)

○議長(山東昭子君) これにて質疑は終了いたしました。