<第208回国会 農林水産委員会 2022年4月5日>


◇水産基本計画 MSYについて/レジームシフトについて/複合的な漁業について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 政府は、三月二十五日に水産基本計画を閣議決定しました。今日、この問題について質問したいと思います。
 漁業法が改正されて、水産庁は新たな資源管理の推進に向けたロードマップ、目標を示しました。基本計画には、ロードマップに基づいた水産資源管理の着実な実施を進めていくことが重要である、MSYベースの資源評価を実施してきており、今後も高度化を図るとあります。
 このMSYというのはどういうものでしょうか。説明お願いします。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) お答え申し上げます。
 MSYとは、日本語で最大持続生産量と訳されております。これは、水産資源のような天然資源は、漁獲で資源が減りますと、それを回復させようという回復力が働きます。ですから、一定の水準まで資源を減らすと回復の割合が最大となると。このときの漁獲の可能量をMSYと称しております。
 国際的には、国連海洋法条約第六十一条三におきまして、沿岸国の自国水域の資源管理の項において規定されておりますし、欧米ではこの達成を目指した管理が行われております。国内的には、既に平成十三年に制定されました水産基本法第十三条におきましてMSYのことが規定されております。さらに、平成三十年に成立いたしました新漁業法におきましては、資源管理は持続的に生産可能な最大の漁獲量、つまりMSYの達成を目標とし、数量管理を基本とするということで規定されております。

○紙智子君 今、ちょっと説明あったんですけれども、長期にわたる平均的漁獲量と、それから、これ事前にお聞きしている中で、再生産の関係、つまり親子、ここから導き出される確率、あくまで推計、予測ということだと思いますけど、違いますか。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) これは、先生、将来の予測は全て推計値となっております。この推計は、過去の親の量と発生した子供の量を、基づいて経験的に算出されたものでございます。

○紙智子君 もう一つ聞くんですけど、水産基本計画では、レジームシフト等の海洋環境変化に加えて、地球温暖化を始めとした地球規模の環境変化は今後も継続する、水産資源に多大な影響を及ぼす可能性が高いというのが書いてありますけれども、このレジームシフトというのは何なのかということを説明してください。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) レジームシフトとは、気温や風などの気候要素が数十年間隔で急激に変化することを申します。ただ、気候に限らず、海洋資源の分布、生息数の変化といった自然現象全般、生態系に関しても用いる概念と伺っております。

○紙智子君 レジームシフトというのは気候の周期的な変動に対応して、漁獲量の長期的な変動が起きる現象だというふうに受け止めているんですよね。
 そこで、レジームシフトに加えて、環境の変化、温暖化が課題になって今おります。国連の気候変動に関する政府間パネル、IPCCは、地球温暖化が生態系や暮らしに影響を与えて、気温の上昇幅が大きいほど生物の絶滅の危険が高まることを予測しています。例えばサンゴの白化、それから水産生物の産卵場や回遊経路の変化などが起こっているということだと思います。
 このMSYは、気候変動や温暖化に対応した考え方なんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) MSYの算出、つまり、資源評価におきましては、親と生まれてくる魚の量や魚の年齢ごとの成長や死亡の関係などを推定いたしますので、気候が変動又は環境が変わりますと、当然そういった要素もMSYの推定値の中で組み込まれて推定されます。したがいまして、MSYという概念は環境変動に従いまして変動するものだというふうに認識しております。
 ただ、平均的な量で管理いたしますので、実際の管理におきましては、これは日本だけでなく外国も含めまして、五年ごとにMSYを達成する水準及びMSYの量の見直し、レビューを行っておると承知しております。

○紙智子君 いや、聞きたい中身というのは、MSYという、この推計というか、ことの中に、今非常に問題になっている気候変動や温暖化に対応する、その確率でという考え方が、これがこのMSYに含まれているのかということなんです。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) 気候変動の要因を計算式の中には入れておりませんが、その結果として現れる現象がMSYの計算式の中に組み込まれております。

○紙智子君 ちょっと、もう一回ちょっと、済みません、分かりやすく言ってください。

○委員長(長谷川岳君) 端的に。長官。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) 申し訳ございません。
 結果として現れる現象が資源評価の中に組み込まれます。ですから、例えば、昔は百匹魚がいたのが今は十匹になったということであれば、その十匹という変化が計算式の中に入ります。

○紙智子君 結果となった変化がその中に現れるという、ちょっとそこがもう一つよく分からないんですけど。
 このMSYの考え方で、この資源の評価や管理をする手法というのが漁業者にどれだけ納得されてというか、信頼されているかどうかということが今問われているんじゃないかと思うんです。
 改正漁業法はMSYに基づく新たな数量の管理を導入をして、TACですね、漁業可能量、漁獲可能量による管理が今進められているわけです。TAC魚種というのは、令和五年度までに漁獲量ベースの八割に拡大するというふうになっています。
 しかし、北海道でいいますと、TAC導入をしてからもう二十年間なんですね。今日に至るまで漁獲や魚価の面で制度の恩恵がないと、浜で成功体験が一切聞かれていない、MSYは現場が肌で感じている資源管理と懸け離れてびっくりさせると、こういう意見が実は漁業者だけじゃなくて水産関係者にもあるんですよ。
 この意見についてどう思われますか。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) お答えいたします。
 MSYというのは、資源評価で科学的に出されます。それとその値を用いた漁業管理をどうするかというのは別のものだと思っていただければと思います。
 例えば、今委員が御指摘されました北海道でTACの実感がないというのは、スケトウダラの日本海北部系群の結果を御指摘されているんだろうと思いますが、これは資源評価の結果、科学者が算出した漁獲可能量をはるかに超えたTACが設定されたために資源が減少したということでございます。
 その結果、そういう反省に立ちまして、新しい資源管理では、科学的に算出された漁獲可能量よりTACを増やさないという原則で管理を行っておりますので、既に二〇一五年からそのような管理を行っておりますので、TACの増加及び資源の増大というのも見られておりますので、北海道の漁業者、担当の方々も、これはスケトウダラの日本海系群は成功体験談の方に入っていくという認識を持っていただけると期待しております。

○紙智子君 そうですかね。
 いや、水産庁のMSYに基づくTAC管理に現場は納得していないんですよ。というのは、昨年の六月に北海道の漁業協同組合会長の会議が、会長さんたちが集まる会議が開かれていて、そこで決議が上がっているんですね。
 スケソウダラについてこう書いています。道が主催する漁業法改正に関わる実務者担当者会議において、ガイドラインに関わる具体的運用について協議が行われていたにもかかわらずと、令和二年四月九日の規制改革推進会議の議論を受けて、国がガイドラインについて協議してきた内容から一方的に変更を加える動きを示したと。あるいは、スケソウダラTAC設定に関わる説明会等において、漁業者が拙速に進めないように求めたにもかかわらず、国は令和二年からMSYに基づく新たなTACに踏み切ったというふうに書いているんですよ。今年一年の意見交換会でも、ここでは不満や疑問が出たようなんですね。
 ホッケで見たらどうかというと、ホッケは、道北系群の資源管理については、本道を代表する混獲魚種であると。TAC管理にはなじまないということが明確であるにもかかわらず、ロードマップにおいて第一グループとして位置付けられたと。ホッケについては平成二十四年から、道や道総研の厳格な指導を受けて、漁獲圧力の三割削減の自主管理を実施して、近年、資源回復の明確な効果が出ている。その一方で、地元研究機関が、現段階においては魚種の生態上、TAC管理の前提となる精度の高い資源評価は困難であると明言をしていて、TAC管理が強行されることによって漁場現場は混乱しているというふうに言っているんですよ。
 さらに、クロマグロに至っては、二〇二一年四月から二〇二二年の三月において、本道における小型魚の当初の配分がない状況というのは変わりなくて、操業停止に追い込まれた漁業者がいるんです。
 水産庁は、資源管理の手法等、ロードマップに示した目標は変えないというふうにずっと言っているわけで、現場からこういうふうに疑問や不安、怒りも出ているのに、水産基本計画のこのロードマップに従ってずっと進めていこうということでいいのかと。一体、誰のための資源管理なんだと。現場と懸け離れた計画になるんじゃないのかというふうに思うんですけど、いかがですか。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) お答えいたします。
 スケトウダラの新しい資源管理に基づくTACの設定のときは私自身が説明に参りまして、北海道の組合長会議の皆さん方の同意を取り付けてまいりました。さらに、ロードマップの前後にも私自身が説明に上がっております。
 先ほど申しましたスケトウダラ日本海北部系群の過去の管理の在り方も率直に説明いたしまして、こういう問題があったからこういう結果になったんで、これからはこういうふうにしますというところもかなり率直に説明させていただいておりますし、また、そういったことで、随分水産庁は変わったなというようなコメントもいただいております。
 ホッケにつきましては、ホッケとかなんとかを問わず、混獲魚種だから資源管理をしなくていいとかいうものではないと思います。混獲であろうが専獲であろうが、資源に悪影響を与えるようなものであればちゃんと管理はしていかないといけないということかと思います。
 クロマグロにつきましては、これは国際的に見て物すごく資源が乱獲の水準にございましたので、二〇一四年の当時はCITESで国際的な取引が一切禁止しようというような動きがあった中での厳しい措置を導入したわけでございまして、御承知のように資源は回復しておりますし、さらに、北海道の中では、いまだに水産庁と訴訟中の案件ではございますけれども、実際の運用に当たりましては、漁獲枠の都道府県間の融通なんかも図りまして、かなり現場の方々が困らないようなことも入れております。こういったことも含めて、資源管理、つまり水産業の成長産業化の基礎となる資源、漁獲量の増大に向けて努力してまいりたいと考えております。

○紙智子君 まあクロマグロも回復してきたという話はあるんだけど、北海道でいえばクロマグロの国際約束、このTAC枠を優先してやっているので一匹も捕れなかったという事態があるんですよ。漁師は生活できなくなってしまっていいのかということが声として上がっていると。だから、操業停止に追い込まれたときの救済策がないと、やっぱり漁業続けることはできないと思うんです。とにかく我慢我慢だけでは漁師はいなくなってしまうと思うんですね。
 水産基本計画で、TAC管理の導入後、見直しに当たってはステークホルダーの会合を開催するというようになっています。しかし、漁業者が求めているのはステークホルダー会議の決定ではなくて、その前に漁業者の納得が必要だというふうに言っているんですよ。だから、ステークホルダー会議で決まったので理解してほしいし協力してほしいということでは、これスケジュール先にありきになってしまうんじゃないかというふうに思うんです。
 ステークホルダー会議のこの前の段階の行政手続というのはどうなっているのか、お聞きします。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) お答えいたします。
 新しい漁業法では、TACの導入の際に必要な事項というのは、水産政策審議会の意見を聴かねばならないという項目はございます。ただ、その前に、法律事項ではございませんが、関係者に広く意見を聴くという観点でステークホルダー会合を開かせていただいております。
 さらに、ですから、ステークホルダー会合というのは、漁業者、水産加工業者及び消費者なども広く参加して、それぞれの立場で自由に意見が言える場として開催しております。そういったことでございますので、ステークホルダー会合を開いたイコール決め打ちということではございません。
 さらに、委員御指摘のように、これから新たなTAC魚種を導入するわけでございますので、これまでTAC管理になじみのない漁業者が漁獲している水産資源が議論の対象となりますことから、水産資源ごとにMSYベースの資源評価結果が公表された後、水産政策審議会資源管理分科会の下に設置した資源管理手法検討部会を開催し、関係する漁業者等に参考人として出席いただき、水産資源の特性や採捕の実態、漁業現場等の意見を踏まえて論点や意見の整理をすることとしております。
 このほかにも、要望に応じて各地に赴き、資源評価結果などの説明をし、関係漁業者に理解を求めているところでございます。

○紙智子君 何かいろいろやっているような話なんだけど、だったらどうして納得しない声があるのかなと思うんですよね。
 国連は、今年二〇二二年を国際小規模漁業年というふうに決めました。スローガンは、規模は小さいが価値は大きいということですね。水産庁は漁業の成長産業化というふうに言うわけですけど、私はやっぱり沿岸漁業を主人公にした、つくり育てる漁業が大事だと思うんです。漁師がなりわいとして生活できて、水産加工を含めて地域経済が成り立つ漁村の地域をつくるためには、やっぱり資源管理を進めるにしても、漁師や関係者の納得が必要だと思います。
 水産基本計画では、海洋環境の変化への適応ということで、複合的な漁業等への新たな操業形態への転換を推進するとあります。この複合的な操業形態というのはどういう意味でしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 神谷崇君) お答えいたします。
 水産基本計画におけます複合的な漁業とは、漁獲対象種、漁法の複数化、複数経営体の連携による協業化や共同経営化、兼業などによる事業の多角化などを指しております。例えば、サンマ棒受け網漁業において、サンマだけでなくマイワシを漁獲するなど、単一魚種のみに頼らない漁業を想定しております。
 農林水産省といたしましては、基本計画の内容を踏まえ、対象魚種や漁法の複数化、協業化など、状況に応じた操業形態への転換などに必要な施策の検討を行ってまいります。

○紙智子君 一隻の船で複数の魚種を捕るマルチ漁業を促進するということなんですけれども、これ水産庁は、従来、漁船や漁法ごとに対象魚種を限定してきたと思うんですね。だから、これ方針転換になるのかなと思うんです。
 マルチ化が進んでいくと資源の取り合いにならないのかと。北海道では、大臣許可の沖合大型漁船向けの不漁対策という印象が強いという声が出ています。大型の多目的船を持つ業者のみが勝ち残れるんじゃないのかと。小規模な沿岸の漁業の装備では採算性が低いという意見が出ています。沿岸漁業よりも大臣許可の大型船を優先する政策ではないのかということが出されているわけなんですけど、ちょっと時間切れになってしまって、もう時間終わりになりましたので、また続きは次にやりたいということで、終わらせていただきます。