<第207回国会 農林水産委員会 2021年12月22日>


◇コロナ禍による生乳廃棄の危機について/乳製品の在庫対策について/牛乳、乳製品の消費拡大について/米価暴落に対する政府の対策の効果について/水田活用の直接支払交付金の見直しについて

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 十二月の二十日に、私ども日本共産党国会議員団として金子農林水産大臣に酪農、畜産の申入れを行わせていただきました。まずは大臣、御対応いただきましてありがとうございました。
 この農水、農林水産委員会は、六月の十日以来半年ぶりの質疑ということになります。課題がたくさんある中で、半年間も委員会開けていないということ自体が大変責任が大きいというふうに思っております。今日は、酪農、畜産価格の質疑なんですけれども、特にコロナ禍での価格決定についてということでは二回目なんですね。
 酪農についてお聞きします。
 牛乳の消費量が落ち込む年末年始にかけて、生乳廃棄の懸念が高まっています。業界団体の試算によると、五千トン廃棄される可能性があるということです。酪農家は、国の政策に合わせて、この間、規模拡大、増頭、増産を進めてきたにもかかわらず、廃棄ということになったらこれ絶望するし、また将来に不安を持つわけです。酪農家は、生乳というのは水道の蛇口を開けたり閉めたりするわけにいかないんだと、生き物なんだと言われます。
 五千トンもの生乳廃棄が懸念されているわけですけれども、こういう酪農家の不安に、大臣、どのようにお答えするでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) コロナ禍で生乳の需給が緩和傾向で推移している中、生産者団体において、年末年始の生乳の出荷抑制の取組や、来年度の生乳生産について抑制的な目標が決定されたことは承知しています。
 こうした取組や生産目標については、生乳廃棄を生じさせないこと、生産基盤を守っていくことを重視して慎重に議論し、決定されたものであると理解しています。
 農林水産省といたしましても、生産者や乳業メーカー等の関係者と連携を密にして、生乳需給の安定を図るとともに、酪農が安心して生産に取り組めるよう対応してまいりたいと思います。
 以上です。

○紙智子君 やはり、生乳の廃棄を避けるために、国としても需給調整に乗り出していっていただきたいと思います。
 そこで、在庫の対策についてお聞きします。
 北海道では、乳製品の過剰在庫の解消に向けて、生産者は生乳一キロ当たり二円負担をして八十億円積んでいると。さらに、下半期もキロ当たり二十四銭を負担して、これホクレンも半分負担するということをやって、総額で九十億円の出口対策を自助努力でこれやっているわけです。それでも在庫が積み上がると。日もちしない生乳こそ、やっぱり今回補正予算に入れて生産現場に強いメッセージを出すべきだったと思うんです。
 報道によりますと、この生産者団体、乳業メーカーが連携して、脱脂粉乳の在庫を削減するために二万トンを飼料用などで処理するとしています。農水省もこれ後押しすべきではないでしょうか。

○政府参考人(農林水産省畜産局長 森健君) お答え申し上げます。
 コロナの影響によりまして、牛乳・乳製品の在庫が高水準にあるということで、昨年来、農水省といたしましても、国家貿易における輸入枠数量を最低数量にとどめることで輸入量を抑制することに加えまして、国産品を活用する取組等を支援をしてまいったところでございます。
 こうした中、御指摘ありましたとおり、農林水産省も参加する中で、全国の生産者と乳業者で協調して在庫を削減、低減する方策について議論が行われてきたというところでございます。
 本年十二月に入りまして、この取組、スキームに対します関係者の合意がおおむね得られたと。これを踏まえて、現在、農林水産省としても必要な対策、後押しの対策を検討しているという状況でございます。

○紙智子君 聞くところによると、輸入している飼料用の脱粉は三万トンあるというふうに聞いていますけれども、是非これ最大限国産と置き換えるべきだというふうに思うんですね。
 それから、国産チーズの置き換えもあると思うんですよ。
 北海道内では消費拡大に向けて自治体で様々な取組を行っています。幕別町というところは牛乳消費拡大キャンペーンに取り組んでいて、十二月十五日から来年の一月十四日まで、牛乳一リットルパック五枚一口として牛乳贈答券一枚と交換できるということをやっていたり、それから、鶴居村ってありますが、鶴居村とか標茶町でも村民や世帯に対して牛乳券を配付して、それでもって取り替えられるように、何とかこの困難を乗り越えていこうということで努力されているんですね。
 食料支援とか官公庁の食堂での活用も含めて消費拡大の支援に乗り出すべきではないかと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) コロナの影響によりまして生乳・乳製品の業務需要が回復し切っていない中で、各地域や団体が消費拡大に取り組まれていることは承知しております。
 農林水産省としては、令和三年度補正予算において、コロナの影響を受けている農林水産物等について、地域の実情に応じた新たな販路開拓の取組を支援することとしております。乳製品についても、こうした事業の活用や、乳和食のレシピなど自治体でも活用できるコンテンツの提供など、引き続き自治体等の関係者と連携を密にして地域独自の取組を支援してまいりたいと思います。

○紙智子君 是非農水省としてできることは何でもやるという意識を持って対策を検討していただきたいと思います。
 それから、在庫が増えたのはコロナの影響だけなんだろうかというふうに思うわけです。
 先月、十勝に行ってお話を聞いてきました。農水省は、TPP対策として規模拡大を要件とする畜産クラスター事業で増頭・増産体制を進めてきました。酪肉近代方針ですね、この中では、二〇三〇年には生乳の生産量を七百八十万トンにするとして、生産量を増やしてきたわけですよね。ところが、今度は生産抑制を生産者迫られているわけです。酪農家からは、規模拡大のアクセルと生産抑制のブレーキを両方踏むように言われているようなものだというふうに言うんですね。
 規模拡大を条件にした増産政策というのは、コロナを経験してこれ行き詰まっているんじゃないのかと。一度立ち止まってこれ見直すべきではありませんか。

○政府参考人(農林水産省畜産局長 森健君) お答え申し上げます。
 内外の需要に応じました牛乳・乳製品の安定供給の実現に向けまして、御指摘の酪肉近の方では、この生乳生産量を令和十二年度に七百八十万トンまで拡大する目標を昨年三月に設定をしたところでございます。これを踏まえ、畜産クラスター事業等によりまして、酪農家等の生産者の収益性の向上の取組を支援をしているということでございます。
 新型コロナの影響でこの生乳の需給の緩和というのが生じている状況ではありますが、この将来に向けて生産基盤を維持強化していくためには、スケールメリットによります生産コストの低減ですとか、新しい技術、先端技術の導入による省力化など、酪農経営の効率化、高度化を実現することが引き続き必要であるというふうに考えております。
 こうした観点から、引き続き必要な支援は行ってまいりたいと考えております。

○紙智子君 畜産クラスター事業というのは中小家族農業も使いたいと思うんだけども、使えないと。なぜかというと、規模拡大が要件になっていてね、結局、規模拡大を進めても高齢化やあるいは後継者の不足というのは解決していないわけですよ。ですから、もう改めて規模拡大要件を外した方がいいんじゃないかと思うんですね。
 畜産クラスターの事業を使って何億という設備投資をした方もいます。スーパーL資金、これ据置期間が五年間ということで、来年から返済が始まる経営体が多いと聞きました。生産抑制すれば元に戻すのにこれ五年以上掛かるというふうに言うんですね。だから、返済計画が狂ってしまって潰れる酪農家がばたばた出るんじゃないかというふうに聞きました。
 償還期間を延長するなど、柔軟な対応をすべきではないでしょうか。

○政府参考人(農林水産省畜産局長 森健君) お答えします。
 コロナの影響で生乳需給が緩和する中で、御指摘のとおり、これまでの設備投資等に関して今後の債務償還への影響を懸念する声があるということは私どもも承知をしているところでございます。
 こうした新型コロナの影響を受けました農業者の資金繰りにつきましては、農林水産省から金融機関等に対し、既往債務の返済猶予など、条件変更への柔軟な対応を依頼をしているところでございます。さらに、農林漁業セーフティネット資金などで無利子化ですとか実質無担保化等の措置も講じているところでございます。
 引き続き、この農家の資金繰り対策に対して万全を期してまいりたいというふうに考えております。

○紙智子君 コロナを経験して、やっぱり国の役割って問われていると思うんですよね。この苦境を乗り越える対策をしっかり取っていただくように求めたいと思います。
 それから次に、加工原料乳の生産者補給金についてお聞きします。
 十勝のある酪農家は、トラクターなどを含めて軽油を毎年三万リッター使っているんだそうです。リッター当たり三十円上がったら、これ九十万円の負担増になると。輸入飼料も高騰しているし、来年になったら肥料代も上がると。
 そういう中で、北海道としては、この加工原料乳生産者補給金は現行の単価を上回る水準にしてほしいと、交付対象数量も維持するようにということを求めているんですけど、この声を受け止めるべきではないんでしょうか。大臣、あっ、参考人の方ですね。

○政府参考人(農林水産省畜産局長 森健君) 御指摘の加工原料乳生産者補給金の単価につきましては、加工原料乳生産地域での再生産が可能となるように、御指摘の生産コストですね、例えば資材の価格でございますとか、資材コストでございますとか、あるいは一方で、副産物の価格、集乳等のコストに影響を与えます変動要素などを考慮をして、食料・農業・農村政策審議会の意見を聞いて適切に決定をしていきたいというふうに考えております。
 また、総交付対象数量につきましても、飲用牛乳及び乳製品、国産乳製品の需要、需給事情等を考慮をして、これも審議会の意見を聞いて決定するということでございます。
 やはり、こうしたルールにのっとっての適切な決定ということを図っていきたいと考えております。

○紙智子君 あと、その集送乳調整金の問題もあるんですけれども、これはドライバー不足というのが非常に深刻で、ドライバーの確保も含めた長期的な視野に立った政策が必要だと思うので、これは答弁要りません、要望しておきたいと思います。
 それから次に、ちょっと米の話になりますけれども、米価が暴落している問題について聞きます。
 今年は過去最大規模の約六・三万ヘクタールの減反をしましたが、米価暴落に歯止めが掛かっていません。政府は十五万トンの特別枠を打ち出したんですけれども、これは市場隔離効果というのはあるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 金子原二郎君) 今回の対策は、全農などの集荷団体と卸、外食事業者などが連携して行う長期計画的な保管、子供食堂への提供や外食などへの販売促進などを支援し、需給の安定に向けた販売環境の整備を行うものであります。
 本政策により、対象数量である十五万トンについて、主食用米が既存の市場に流通することを一定期間抑制することができるため、その期間内において市場隔離と同等の効果が生じるものと考えています。
 また、本事業は、全農などの集荷団体や卸、外食事業者などが市場に影響を与えないように連携して販売することとしており、保管料の全額について支援を受けつつ、適切な仕向け先及びタイミングを判断して実施されるものと考えています。

○紙智子君 保管の期間が長いということを言われるんだけれども、生産地で聞きますと、保管した後は結局市場に出すわけだから、主食用米の市場に出回るために既存の需要を奪うことになりかねないんじゃないのかと、市場隔離と同等の効果って本当にあるんだろうかという疑問の声が上がっています。
 一番の即効性のあるやっぱり米価の価格暴落を防止する対策というのは、もうはっきり市場を隔離して、政府が買い取って、子供食堂だとかあるいは生活困窮者に対する人道支援、こういう形でやることが一番大事なんじゃないかというふうに言っておきたいと思います。
 それから次に、農水省は、今年六・三万ヘクタールの転作を求めて、来年は今度また更に四万ヘクタールを求めるとしています。減反はこれ二年連続やるってことになると、生産意欲を減退させることになるんですね。
 ところが、その一方で新たな不安が広がっていて、それは米の転作助成の柱でやってきた水田活用直接支払交付金の見直しなんです。今後五年間で麦と大豆などの作付けを含めて一度も水張りをしない水田は交付対象から除外するということです。
 北海道の転作率を言いますと、二一年度で五四・三%なんですよ。見直しによる影響額というのは数百億円に上るというふうに言っています。札幌近郊のある町は、国の方針に基づいて、需要に応じた米作りの推進と併せて麦、大豆の増産を進めてきたと、転作率七五%だと。今回の水田活用の直接支払交付金の見直しが実施されると、今後、水田機能を維持するための取組の停滞や、農家戸数の減少、耕作放棄地が拡大するなど、農業の崩壊につながることが懸念されるという、この請願書を出しているんですね。
 この町だけではなくて、水田活用の直接支払交付金のやっぱりこの唐突な見直しというのが出されて、五年前にも言っているんだというんだけれども、しかし現場には大きな混乱をもたらしているんじゃないでしょうかね。

○政府参考人(農林水産省農産局長 平形雄策君) 水田活用直接支払交付金につきましては、平成二十九年四月の段階で要領を改正いたしまして、水稲の作付けが困難な農地は交付対象の対象外ですよということを明確にしております。今般、このルールを再徹底することとしたところでございます。
 その上で、今回の見直しの中では、畑作物の生産が固定化している農地については畑地化、これを促す一方で、水田機能を維持しつつ、麦、大豆等の転換作物を生産する農地につきましては、水稲と転換作物とのブロックローテーション、これを促す観点から、現場の課題も検証しつつ、今後五年間に一度も水張り、すなわち水稲の作付けが行われない農地は交付の対象としないというふうにしたところでございます。この間に、現場での課題等について検証を進めながら、いろんなお話を伺いながら進めていきたいという、そういう方針であるということでございます。
 一方で、唐突ではないかというお話がございましたけれども、全国会議、これ毎月ほとんど全国をウエブでつないで行っておりますけれども、そういった全国会議ですとか、産地ごとの意見交換会を通じまして、見直しの趣旨の徹底を丁寧に説明しながら、各地において十分な話合いの下、将来の産地づくりに向けた水田利用の検討を進めていただくのとともに、いろんな各地の課題、これを十分お聞きしたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 現場の検証をよくやってというのは、そのとおりやらなきゃいけない話だと思いますよ。なかなかこれ説明が行き渡っていないんだと思います。
 それで、非常に心配している話があったし、ローテーションで回していくんだという話あったけど、水田から畑やって、畑から水田って、そんな簡単にいくものじゃないんだという声も出ているわけですよね。
 それで、これ政府が出した方針なわけですけれども、地域で話し合ってもらいたいというんだけど、丸投げじゃ駄目なんですよ。よく丁寧に聞き取って、実情に合わなきゃいけないと。
 北海道だけじゃなくて、先日、宮城県の農家からも私の事務所に怒りの声が届きました。中山間地域で、米の価格を下げちゃいけないからということで転作を進めながら高齢化などで離農が相次ぐと、そういう中で耕作放棄地をつくっちゃいけないということで点在する水田を借り受けて規模拡大をやってきたと、交付金を受けながらソバの産地もつくってきたと、生産に取り組んできたんだけど対象から外されたら水田は所有者に返さざるを得ないと。米が過剰にならないように国の政策に協力して転作したのに、はしごを外された思いだと言っているんですね。
 やっぱりこういう問題というのは、本当に混乱を引き起こしているわけですから、一旦撤退、撤回をして、もう一回ちゃんと検証すべきだというふうに言いたいと思いますが、大臣、どうでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農産局長 平形雄策君) 委員の御指摘、そういうふうにおっしゃる方もいらっしゃいますけれども、ただ、今までどおりの転換作物の作付けであっても、面積的にはそういうふうにやったとしても、個々ばらばらに転換されていたのではいつまでたっても生産性が上がりませんし、また病気の発生等を生じるものでございます。ここ数年間のうちにブロックローテーションが相当崩れてきておりまして、作付面積以上に生産性が上がらないと、そういう部分もございます。
 そういう中でこういう方針を出させていただいたんですが、その中で各地域ごとのいろいろな課題ございます、そういったものを十分お話は伺いながら、じゃなぜできないのか、課題は何なのかということを明らかにしながら進めていく、こういうふうに方針として持っているところでございます。

○紙智子君 終わりになりますけれども、三年前に国は生産調整廃止して以降、現場にツケを負わせるような場当たり的な対応というのは著しく生産者の意欲を失わせることになるんですね。自己責任を迫る農政というのはやっぱりやめるべきだということを申し上げて、質問を終わります。