<第204回国会 農林水産委員会 2021年5月27日>


◇農林中金のTLACK規制への対応について/ベイルインとベイルアウトについて/農協への奨励金の削減と農業・農村基本計画における総合農協への影響について/改定案が定める経営の合理化について/政府の金融政策、農政と農林中金の経営について/農林中金の経営と組合員の自主性について

○農水産業協同組合貯金保険法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私も法案について質問いたしますけれども、二〇〇八年のリーマン・ショックを受けて、主要な中央銀行、金融監督当局が参加をする金融安定理事会が設置をされました。

配布資料 「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」(FSB)

資料を一枚お配りしておりますので、見ていただきたいですけれども、これ二〇一一年に金融安定理事会が策定した金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性と言われる国際金融ルールです。これ、二〇〇八年のリーマン・ショックで大きくて潰せないというふうに言われた金融機関に大規模な公的資金を投入した反省からできたルールです。目的のところでは納税者負担の回避というのが赤字で書いてありますけれども、そして、各国の規制当局にはベイルインの実行等を求めています。そして、金融安定理事会は、グローバルな金融システム上重要な銀行をG―SIBとして選定することになったわけです。
 G―SIBに選定されるとどうなるのかということで、今回、国際金融ルールに沿って農林中金が行うことと、また政府が行うことということがあると思うんです。農林中金にはTLAC規制、現金化できる資本の積み増しということが求められることになるわけですけれども。
 そこで、農林中金さんに質問をしますけれども、これ、どのように対応されていくでしょうか。

○参考人(農林中央金庫代表理事兼常務執行役員 八木正展君) お答えさせていただきます。
 これも繰り返しになりますけれども、TLAC規制の詳細につきましては、今後、告示、監督指針で定められると認識してございますので、その対応方向につきましては、今後、主務省の御検討を踏まえて検討を進めてまいります。
 また、規制内容次第となりますが、会員からTLAC調達を検討する場合には、会員の収益や財務への影響を十分に配慮して対応してまいりたいと考えているところでございます。

○紙智子君 農林中金の自己資本比率が二三%ということで、これほかの大きなところと比較しても高い、大きいわけですよね、二三%。ですから、TLACに対応するだけの体力はあるというふうに考えてよろしいんでしょうか。

○参考人(農林中央金庫代表理事兼常務執行役員 八木正展君) お答えさせていただきます。
 二〇二一年三月末の農林中金の自己資本比率は、普通出資等ティア1比率が一九・八六%、総自己資本比率が二三・一九%となってございます。これは、自己資本比率規制等を満たすとともに、国際分散投資を安定継続するために必要な自己資本の量を確保している結果でもあります。仮にG―SIBに選定された場合は、自己資本比率規制とは別に、TLAC規制が適用されることになります。そのため、自己資本比率の高低、高い低いにかかわらず、TLAC調達が求められることになると認識してございます。
 農林中金といたしましては、国際的な責任ある金融機関として国内外の規制に対応することは当然なことであり、仮にG―SIBに選定された場合は、TLAC調達を含めて必要な規制に整々と対応してまいります。

○紙智子君 農林中金さんはリーマン・ショックのときに約六千億円の損失を出したわけですよね。しかし、協同組合の言ってみれば底力を発揮して、全国の農協や組合員が一兆九千億円もの支援、資本増強を行ったというふうに聞いているわけです。それで、当時も公的資金投入論もありましたけれども、しかし協同組合の自主自立の原則を貫いたんじゃないかなと思います。
 今、規制改革推進会議などからいろんな農協攻撃とか信用事業への攻撃がある中で、総合事業を行っているJA等を支援する、そういう高い使命感が必要になるんではないかと思いますし、協同組合の自主自立を貫くということが大事だというふうに思います。
 それで、政府の対応をめぐってなんですけど、再びちょっと配付した資料を見てほしいんですけれども、このBのところの当局の権限、ここには、経営陣の選解任などとともに、ベイルインを実行するというふうに書いています。
 金融庁にお聞きするんですけれども、このベイルイン、そしてベイルアウトという言葉について、その用語の説明をしていただきたいと思います。

○政府参考人(金融庁国際総括官 天谷知子君) お尋ねのベイルイン、それからベイルアウトという用語についてでございますけど、これらの用語に確たる定義というものはないものと承知しておりますけれども、ベイルインという用語は、一般的に、金融機関が過少資本や債務超過等に陥った際に、金融機関の株主、債権者に損失を負担させることによって金融機関の資本再構築等を図ることを指すものとして使われております。
 一方、ベイルアウトという用語でございますけれども、一般的に、金融機関が過少資本や債務超過等に陥った際に、金融機関の株主、債権者に損失を負担させることなく、資本注入による資本再構築等を図ることで金融機関を救済することを指すものとして使われているところでございます。

○紙智子君 今の説明のように、ベイルインというのは債権者や株主に負担をさせるということですよね。つまり、自力で再建していくという趣旨だと思います。それから、ベイルアウトについては株主、債権者に負担を負わせないということで、ここは言わば補助とか税金投入などもあるということだと思うんですね。
 そこで、改正案なんですけれども、ベイルインの実行に沿っているかどうかということで、第百十条の十二のところの、貯金保険機構は特定認定に係る農林中金から資金の貸付け等の申込みを受けた場合に、必要があると認めるときは、当該貸付け又は債務の保証を行う旨を決定することができるというふうにあるわけですね。債務保証というのは、これ、日銀から政府保証を付けて借りるということになるわけで、事実上、これ公的資金になります。
 それから、百十条の十七の特定負担金と、それから第百九条の補助ということでいえば、農林中金は、資金の貸付けなどを受けても足りない場合は、先ほども話ありましたけれども、会員である農協等に特定負担金を求めることができると。求めるんだけれども、それでも足りない場合は政府が補助するということを認めているわけですね。つまり、公的資金を認めていると。
 なぜこれ、ベイルインではなくて公的資金を投入することにするんですか。

○政府参考人(農林水産省経営局長 光吉一君) 委員御指摘のとおり、この法律案におきましては、預金保険と同じでございますけれども、費用につきましては、政府保証が付された借入れによりまして、貯金保険機構が金融機関又は日銀から資金調達を行って資金の貸付け等を行うわけでございます。これらの費用につきましては、健全性を回復した農林中金が、貯金保険機構から借入金の弁済や出資買戻しを行って最終的に賄うこととなります。
 なお、その借入金の弁済などができない場合等必要があると認めるときに、農林中金や農協等が納付すべき特定納付金に係る決定というのが行われることになります。
 政府の補助につきましては、法律上書いてございますのは、特定負担金のみで費用を賄うとしたならば、農林中金や会員である農協の財務の状況を著しく悪化させ、金融市場その他の金融システムの著しい混乱を生ずるおそれがあると認められるときに限り、予算で定める金額の範囲内において、貯金保険機構に対し、当該業務に要する費用の一部を補助することができるとしているところでございます。

○紙智子君 改正案は、これ法的ベイルインになっているでしょうか、それちょっとお聞きします。

○政府参考人(農林水産省経営局長 光吉一君) ベイルインにつきましては先ほど金融庁から御説明ございましたけれども、金融機関が過少資本や債務超過等に陥った際に、金融機関の債権者や出資者に損失を吸収をさせ、金融機関の資本再構築等を図るためローンなど債権等を元本削減又は出資転換するものと考えます。
 委員御指摘のいわゆる法的ベイルインとは、この元本削減又は出資転換を法令上の根拠に基づいて強制的に実施するものと考えます。この法的ベイルインにつきましては、金融機関の資金調達や債権者の権利に多大な影響を及ぼすものであり、慎重な検討が必要であることから、預金保険法でもその規定は設けられておらず、今回の法律案においても預金保険法と同様にその規定は設けておりません。

○紙智子君 預金保険法と横並びでという話があるんですけれども、国際的な金融ルールというのは、自力で再建するということになっていると思うんですね。
 それで、公的資金の投入というのはモラルハザードを起こすということでの議論が一九九〇年代の金融ビッグバンの時代からずっとあったと思います。一九九八年の貯金法改正のときは財政・金融委員会で議論されていたようなんですけれども、この附帯決議を見ますと、そこには、安易に政府保証債務の履行が行われることがないようにとか、あるいは安易な救済措置につながらないようにという言葉があるように、かなりやっぱり慎重にこういう公的資金の投入の問題というのが議論されているというふうに思うんです。ところが、今回は、国際金融ルールがベイルインなのに、公的資金問題というのはスルーされているんじゃないかなというふうに思うんですね。
 さて、百十条の十四についてもお聞きするんですけれども、機構は、特定認定に係る農林中金から農林中金の自己資本の充実のための優先出資を引受け等の申込みを受けた場合、主務大臣に対し、主務大臣は総理大臣だと思うんですけど、主務大臣に対し、当該引受け等を行うかどうかの決定を求め、主務大臣は、農林中金の経営の合理化のための方策、経営責任の明確化のための方策の実行が見込まれる場合に当該引受け等を行う旨の決定をするものとするというふうに書いてあります。
 この経営の合理化とありますけれども、これはどういう合理化を求めることになるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省経営局長 光吉一君) 委員御指摘のとおり、主務大臣は、農林中金から優先出資の引受け等を行うかどうかの決定を求められたときは、農林中金が提出いたします計画の確実な履行等を通じて、経営の合理化のための方策、経営責任の明確化のための方策、この実行が見込まれること等といった全ての要件に該当する場合に限り決定をすることとしています。
 具体的には、例えば、計画の履行などを通じまして、人員削減や店舗統廃合によるコスト削減、委員の、いや、失礼いたしました、役員の外部登用や経営陣の刷新等によるガバナンスの抜本見直しの実行が見込まれるかどうかなどを踏まえて決定することとなることが想定されます。
 これは、機構による出資の前提といたしまして、農林中金にも経営の健全性のための措置を着実に履行してもらう必要があることなどによるものでございまして、預金保険法と同様の要件を定めているところでございます。

○紙智子君 農林中金を対象になんですけれども、やっぱり支援を受けるのだからリストラをしてもらうんだと、そういうことになると、単位農協などが主役の系統組織や協同金融にも国が介入することになっていくんじゃないかなというふうに思います。
 それで、もう一方、農林中金には利益をJAに還元をして経営安定化支援を行うという使命があるわけですけれども、これ、一九九〇年代の金融ビッグバンを経て低金利の時代に入って以降、農林中金は国内で運用益を確保することが難しくなって海外での投資にだんだん傾斜をしてきたと、で、ローン担保証券、CLO、レバ・ローンに手を出すようになってきたということです。
 リーマン・ショックは、トリプルAの商品も、さっきトリプルAで確保しているからという話があって、大丈夫だって話だったんだけど、リーマン・ショックのときはトリプルAの商品さえも投売りが進んで、連動してクレジット資産の価格も下がって、農林中金は損失を出したわけですよね。それなのに、どうしてレバ・ローンに手を出すんだろうかという疑問が出されています。
 また、農林中金は二〇一九年から奨励金の削減計画を実行しているわけで、さっきもちょっと森さんが新潟の話ありましたけど、新潟のある農協では三億円の奨励金が削減されると。人件費に換算すると一割の職員減らすことになるし、十六の支店を三支店に削減するので、そうなると九市町村のうち農協がなくなる市町村が出てくると。中山間地域において唯一の買物ができる店舗やガソリンスタンドが不採算だといって切り捨てられてしまったら、これ生活できなくなるなと、こんな話も出ていますし、新潟だけではなくて、岩手なんかもやっぱり農協の支店を再編するという話だとか、この間北海道に行ったときは漁協でも支店の再編計画が進んでいるということを聞きました。
 それで、農協や漁協を回っていきますと、やっぱり余り分かって、知らないというか、急な話だとか、それから不便になるんじゃないかとか、いや、組合離れが進むんじゃないかというような不安や不信の声も出ています。
 二〇二〇年の食料・農業・農村基本計画の中には、農協系組織が農村地域の産業や生活のインフラを支える役割などを引き続き果たしながら、各事業の健全性を高めて経営の持続性を確保することが重要であるというふうにしているわけです。それで、奨励金の削減がこれ基本計画で示した総合農協の姿に影響を与えることになるんじゃないのかというふうに思うんですけど、これ、大臣、どうでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 農林中金によりますと、世界的な利ざやの縮小など資金運用環境の好転が見込まれない中で、農協等々の会員とも協議した上で、奨励金を令和元年度から四年掛けて段階的に引き下げていると、ところと承知をいたしております。
 今お話ありましたとおり、農協の事業収支は今後取り巻く環境が厳しさを増すと見込まれる中で、地域農業を支える農業経営の持続性を確保するためには、やはり経済事業の収益力向上を図っていくことが必要であると認識をいたしております。
 農林水産省としましては、農協が将来にわたってその事業を継続していけるように、各農協が中長期の収支等の見通しを適切に立てて、経済事業の収益力向上に取り組んでいく必要があると考えておりまして、この農協系統組織の取組をしっかりと後押しをしてまいりたいと考えております。

○紙智子君 農協を始め系統金融は、これ政府の金融政策や農政に左右されると思うんですね。
 それで、安倍政権が進めてきたアベノミクス、異次元金融緩和で、ゼロ金利で、マイナス金融政策で収益が悪化したということもあるわけです。その一方で、先ほどからもいろいろ議論になっていますけれども、農産物の価格が下がっていて、先行投資しても元が取れないと。だから、投資したいけどお金借りられないなと、農協からお金を借りないという実態もあるわけですよ。
 農産物自由化政策がやっぱり農家の経営を困難にしているという側面もあるんじゃないかと、政府の金融政策、農政が農林中金の経営を困難にしているという側面もあるんじゃないかというふうに思うんですけれども、これ、大臣、どうですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 我が国の農業は、近年、人口減少に伴うマーケットの縮小ですとか農業者の減少、高齢化の進展など、厳しい状況に直面しておりまして、これに対応して生産基盤の強化や担い手の育成確保を進めることが重要であります。
 農林水産省としては様々な取組を進めておりますが、例えば、日本の強みを生かした輸出の拡大ですとか高収益作物等への転換、また、スマート農業の社会実装による生産性の向上や農地の集約、集積化等の施策を講じてきておりまして、こうした政策を通じて農業者の所得向上や農山漁村の活性化を図ってまいりたいと考えておりますが、こうした観点からも、農林水産業の発展に寄与するために、農林中金においても、JAバンク一体となって農林水産業や関連産業への出融資を強化していくことが重要と考えております。
 また一方、農林中金が農林水産業者の協同組織のために金融の円滑化を図るためには、やはりこの出融資だけではなくて、金融市場における有価証券等の運用等によって収益を還元をして、その収益の還元を受けた農協から農業者のサービスを安定的に実施していくことも重要であると考えております。

○紙智子君 せっかくなので、最後に農林中金さんにもう一回聞きたいんですけど。
 やっぱり農林中金の経営というのは、政府の政策や金融情勢にも左右されるだけに、やっぱり農協組合員としっかりと信頼関係を築いて、その自主性を尊重していくということが大事なんじゃないかと思うんですけど、その点について、ちょっと最後に一言だけお聞きしておきたいと思います。

○参考人(農林中央金庫代表理事兼常務執行役員 八木正展君) お答えさせていただきたいと思います。
 農林中金はまさに金融機関ということでございますので、金融機関という枠組みの中で、それぞれの規制であったり、もろもろのものに対応していく必要があるというふうに考えてございます。
 一方で、協同組織の中央機関という側面もございます。農協さんが地域で活躍できるように、また支持されるようにそれを後押ししていく、それも重大な使命だというふうに考えてございますので、この二つをきちっと結び付けて農協系統が繁栄できるように、農林中金といたしましても身を粉にして努めてまいりたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 系統金融は一般の金融機関からは敬遠されがちな組合員が、組合員の相互金融によって営農と生活の改善や向上を図ろうとするのが本来の姿だというふうに思うので、是非ちょっとそのスタンスで立っていただいてやっていただきたいということを最後に申し上げまして、質問を終わります。