<第204回国会 農林水産委員会 2021年5月18日>


◇みどりの食料システム戦略と食料・農業・農村基本計画の違いについて/コロナを経験して安心して食料が手に入るシステムになるのか/食料自給率の向上について/持続可能な食と農のシステムをつくる戦略になっているのか/国連の家族農業の10年の具体化とみどり戦略について/アグロエコロジーとみどり戦略について/みどり戦略と有機農業の取り組み拡大について/ゲノム編集作物について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 農林水産省は、五月十二日にみどりの食料システム戦略を決定しました。SDGsや環境への対応が重視されるようになり、新しい食料システムを提案していく必要があるというふうに説明をされています。
 そこでまず、みどり戦略と食料・農業・農村基本計画との関連性についてお聞きします。
 食料・農業・農村基本法は、食料、農業及び農村に関する施策を総合的、計画的に推進することを目的にしています。そのために食料・農業・農村基本計画を策定し、食料自給率目標も定めています。みどり戦略はこの新しい食料システムになるというふうに言っていますけれども、現在の食料・農業基本計画と何が違うのでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今お話ありましたとおり、食料・農業・農村基本計画でありますが、これは、食料・農業・農村基本計画に基づきまして、基本法に基づきましておおむね五年ごとに閣議決定される政府の方針でありまして、食料、農業、農村に関する各施策の基本となるという性格を踏まえて、中長期的な情勢変化を見通しつつ、今後十年程度先までの施策の方向等を示したものであります。
 一方、みどりの食料システム戦略は、この基本計画に即して生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するために今回策定したものでありまして、本戦略におきましては、イノベーションの創出、これは一朝一夕でなされるものではなくしっかりとした時間軸を設けて技術開発を行う必要があるとの考え方の下で、二〇五〇年に目指す姿を掲げまして、その実現に向けた戦略的な取組方向を示したところでございます。
 この実践を通じて災害ですとかあるいは気候変動に強い持続的な食料システムを構築することによりまして、基本計画で示されました食料自給率の向上ですとか食料安全保障の確立を確かなものにすることにもつながるものと考えております。

○紙智子君 基本計画の方は十年先を見越してというようなことを言っていましたし、みどり戦略はイノベーションで二〇五〇年までと、言ってみれば長期目標ということになるんでしょうか。
 そこで、基本法が目指している国民への食料の安定供給についてお聞きします。
 新型コロナは、世界の食料事情に大きな影響を与えました。国連がSDGsの取組として二〇三〇年までに飢餓人口ゼロと掲げていますけれども、二〇二〇年の七月にFAOは世界の食料安全保障と栄養の現状を公表して、コロナ禍の下で、二〇年にはこれ飢餓人口は最大でも一億三千二百万人増加をし、八億二千万人になる可能性があるということを指摘をしました。
 コロナ禍の下で、日本においてもこれ食料が確保できないという問題が出ていて、各地で食料支援の取組が行われています。今年三月の予算委員会でも私、紹介したんですけど、労働政策研修機構の調査で、一人親家庭の三分の一の人が食料を買えなかったことがあるというふうに答えている現状です。
 現在の基本法、基本計画があってもこういうことが起こっているわけなんですけれども、新しい食料システムはコロナを経験して安心して食料が手に入る食料システムになるのでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 近年の食料・農林水産業を取り巻く状況でありますが、地球温暖化に伴いまして、農産物の品質低下があったり、大規模災害の激甚化が顕在していることですとか、あるいは、肥料原料やエネルギーにつきましては我が国は定常的に輸入に依存しているということに加えまして、今お話あったとおり、コロナ禍でサプライチェーンの混乱が発生している状況であります。
 こうした中でみどり戦略、策定、実践されますと、関係者の行動変容や革新的な技術、生産体系の社会実装が進むことによりまして、災害や気候変動に強い持続的な食料システムが構築されまして、様々な効果が期待されると考えております。
 例えば、環境負荷の低減による持続可能な食料・農林水産業の実現ですとか、あるいは肥料、飼料等の資材やエネルギー、原料の調達における輸入からの国内生産への転換ですとか、あるいは新技術によりまして労働安全性とか労働生産性の向上を通じた農林水産業の働き方改革の実現といった形で、国民の生命や健康の維持に必要な食料の安定的な供給にもつながっていくものと考えております。

○紙智子君 続いて聞きますけど、食料自給率を高めるというのも重要な課題なんで、政治課題、政策課題なんですけど、みどり戦略というのは食料自給率を高めるために何をやるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 青山豊久君) みどりの食料システム戦略につきましては、大臣もお答えいただきましたけれども、農林水産物や肥料、飼料といった、飼料についての輸入から国内資源への転換、地域資源のエネルギー活用など脱炭素社会への牽引、環境と調和した食料・農林水産業の推進や国産品の評価向上による輸出拡大、生産者の裾野拡大など持続的な地域の産業基盤の構築、食品ロス削減や消費者と生産者の交流を通じた相互理解の促進を目指すものでございまして、我が国の食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現していくこととしております。こうした輸入から国内資源への転換、持続的な地域の産業基盤の構築、生産者と消費者の相互理解の促進等を図ることは食料自給率の向上にも寄与するものでございます。
 また、食料自給率の前提となります生産努力目標を達成するためには生産力の向上が重要となりますけれども、具体的に申し上げますと、ドローンやAIを使いました病害虫防除などのスマート農業技術の社会実装によりまして生産現場の労力軽減が図られ、地域内外の多様な人材が農業の新たな支え手となって参画することで生産力の向上が図られることが期待されているところでございます。
 このように、みどりの食料システム戦略の具体化を通じましてサプライチェーン全体を通じた持続可能な食料システムを構築することは、食料自給率の向上にも寄与するものであると考えております。

○紙智子君 基本計画に掲げた食料自給率目標というのは今まで達成したことがないんですよね。みどり戦略で基本計画を後押しすることになるのかどうかということについては注目をしておきたいと思います。
 食料・農業・農村基本法ができて二十年になりますね。しかし、今も多くの課題を抱えているわけです。担い手が不足している、耕作放棄地が拡大するなど生産基盤の弱体化という課題、これが問題になっているわけですし、それから、農山漁村の地域では、生産基盤だけではなくて、やっぱり地域全体に関わる問題で、教育とか医療など生活基盤も大きな課題になっていると。さらに、気候変動など環境危機も課題になっているわけです。
 安倍政権の時代に進めてきた攻めの農政で、これらは解決するというどころか、課題はより一層深刻になっている現状だと思います。今直面している課題を解決をし、持続可能な食と農のシステムをつくる戦略になっているんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) このみどりの食料システム戦略でありますが、期待される効果の一つに持続的な産業基盤の構築を掲げたところであります。
 御指摘のとおり、我が国の喫緊の農業の課題は構造的な生産者の減少あるいは高齢化への対応ということが一つあります。その背景の一つに、例えば斜面での草刈りですとか重いものを持ち運びするときなど労働負荷の高い作業があったり、また水田の水管理や家畜の世話など現場から目の離せない作業があったり、あるいは生産技術の習得に時間が掛かる等の労働特性が挙げられるものと考えております。
 このため、例えばリモコンの草刈り機ですとかアシストスーツ、トラクターの自動操縦システムなどを活用することによりまして女性や高齢者も含めて農業の多様な働き方が可能となるようにするとともに、生産者の裾野の拡大を通じましてこの生産基盤の強化というものにもつなげてまいりたいと考えております。

○紙智子君 もう、ちょっと次々と聞いていきますけれども。
 今、農政の大きな転換が求められていると思うんです。世界では既に新しい動きが始まっています。国連は今、家族農業の十年、これ二〇一九年から二八年ということで取り組んでいますけれども、家族農業、SDGsに貢献する主要な主体というふうに位置付けています。
 みどり戦略には家族農業十年という言葉は入っておりませんが、家族農業十年の決議、ここでは、家族農業に関する公共政策を策定して、改善して実施するということを提起しているわけですね。みどり戦略でこれは具体化しているのかしていないのか、どうなんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今お話あったとおり、国連は二〇一九年から二〇二八年、これを家族の、家族農業の十年と定めております。各国が家族農業に関する施策を進めるとともに、その経験を他国と共有する、またFAO等の国連専門機関は各国による活動計画の策定、展開を先導すること等を求めているわけであります。
 農林水産省としても、この家族農業が世界の食料安全保障の確保ですとか貧困の撲滅等に役割を担っていると認識をしておりまして、このため、家族農業の重要性について国際社会で認識を共有することは意義深いものと考えております。
 その上で、このみどりの食料戦略におきましては、若手の新規就農者、あるいは中山間地域の生産者、中小・家族経営等の生産者の方々にも、方々を含む幅広い関係者との意見交換を行いまして策定をしたわけでありますが、作業の省力化ですとかあるいは作業の安全性向上につながるスマート技術、化石燃料や化学農薬、化学肥料の使用量の低減につながる優れた栽培技術は、これは中小・家族経営も含めてメリットがあると考えております。
 先ほど来申し上げていますとおり、この戦略、これは様々な生産者、事業者、消費者、それぞれの理解の上で実現するものと考えておりまして、中小・家族経営を含む関係者がこの戦略に持続的に取り組むことができるように全力を尽くしてまいりたいと考えております。

○紙智子君 国連はこれ公共政策を策定するようにということを求めているわけなんですけれども、よく、見える化をしようという話、出てきますよね、見える化しようと。今の説明聞いていてもなかなか見えてこないと、具体性に欠けるという感じがするんですけれどもね。
 世界では、家族農業とともに、もう一つ、アグロエコロジーということについて注目がされています。アグロエコロジー、これ一体どういうことなのか、説明してください。

○政府参考人(農林水産省農林水産技術会議事務局長 菱沼義久君) お答えいたします。
 アグロエコロジーとは、土壌の、農業のを意味するアグロという言葉に、生態学を意味するエコロジーという言葉を合わせた言葉と承知しております。
 その上で、国連食糧農業機関、FAOのホームページによりますと、植物、動物、人間、環境の相互作用を最適化するために生態学的な概念と原則を適用することに基づいた考えで、一九二〇年代から科学的な文献に記載されているが、アグロエコロジーという言葉には様々な用途や理解があるとされており、世界的に統一的な定義はないと承知しております。

○紙智子君 アグロエコロジーは、化学農薬、化学肥料、それから遺伝子組換え作物を用いない有機農業や自然農法と技術的に重なる部分もあるんだけれども、有機技術を循環型の経済というふうにいって、広く使われているということですよね。
 それで、みどり戦略ではこれは具体化しているんでしょうか。どう具体化されているんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省農林水産技術会議事務局長 菱沼義久君) お答えいたします。
 農業は、それぞれの地域の気候や自然条件の中で自然循環機能を活用しながら営まれており、それぞれの地域の気候、風土に応じた持続性の追求が重要だと考えております。
 アグロエコロジーにつきましては、先ほど答弁いたしましたが、統一的な定義がないということで、本戦略内での記載はされておりませんが、その戦略に基づき、有機農業の推進だけでなく、化学農薬のみに依存しない次世代総合的な病害虫管理など、生態系の機能に着目した取組を進めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 国連とかFAOでいえば、このアグロエコロジーを推進する動きを強化してきているという実態にあります。それで、みどり戦略を、環境問題だけではなくて、やっぱり国連家族農業十年とかアグロエコロジーとか、そういう角度で具体化を進めていっていただきたいと、求めたいと思います。
 そこで、有機農業についてなんですけれども、有機農業については、まず一つは全農地の二五%で百万ヘクタールに広げる、さっき石井さんもやられていましたけれども。それから二つ目に、化学農薬の使用量を五〇%に減らす、半減すると。三つ目に、化学肥料の使用量三割削減などですよね。
 そこで、まず聞きたいのは、今まで有機農業が広がらない、その要因というのはどう分析しているんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 日本国内の有機食品の市場規模でございますが、過去八年間で四割拡大しております。その期間内に有機農業の取組面積も約四割拡大してきております。
 しかしながら、日本国内の有機農業の取組面積は、二〇一八年時点で二万三千七百ヘクタールでございまして、全耕地面積の〇・五%というところでございます。欧米に比べると進んでいないという状況にはあるところでございます。
 この要因でございますけれども、まず一点目に、生産面におきましては、やはり労力が掛かること、それから収量や品質が不安定であることなど技術的な課題があることに加えまして、有機農業に取り組む農家の育成や産地づくりの取組というものが不十分であったことが挙げられると思います。それから、二点目といたしまして、流通とか消費の面でございますが、消費者への情報伝達や理解の醸成、物流の合理化による流通コストの低減、加工需要の拡大などを含む販売機会の多様化などの取組が不十分であったことによるものと考えております。

○紙智子君 二〇〇六年にこの有機推進法ができて、このとき会長が、議連の会長が谷津さんで、その時代から、とにかく有機議連で議論して、もっと有機農産物が出回るようにしようと、相当そういう意味では意欲的にやってきたはずなんだけど、でも、この十年間なかなか広がっていないという実感があるんですよね。日本有機農業学会が有機農業に関する法律や支援制度が体系化されていないということを指摘しています。政策支援が弱かったというのが一つ要因にはあるんじゃないのかと、政策支援ですね。
 それで、日本で有機JAS認定を取得している農地面積が二〇一八年現在で一万八百五十ヘクタールと、二〇一三年九千九百三十七ヘクタールだったですから、五年間掛けて増えたのが約九百ヘクタールだけです。日本の耕地面積は約四百万ヘクタールですから〇・三%で、今言われた〇・五%というのは有機JAS認定を取得していない有機農業が行われている農地、これを含めてということですよね。それでも、今言われたように二万三千七百ヘクタールということです。
 これを全農地の二五%、百万ヘクタールまでどうやって広げるのかという、さっきもちょっと石井さんが聞いていましたけど、今のこういう、この間ずっと何年も掛けてなかなか増えてきていない中で、これを一気に増やそうというのはどうやってやるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 有機農業の取組拡大でございますけれども、先ほど答弁いたしました課題を踏まえつつ対応していくことが必要と考えておりますが、まずは、令和二年の四月に有機農業の推進に関する基本的な方針で定めました二〇三〇年までに六万三千ヘクタールに拡大するという目標を実現していきたいと考えておりまして、このための取組でございますが、近年、米とか根菜類など有機農業で安定的に生産できる品目が出てきております。こうした品目でトップランナーとして有機農業を実践している農業者の方の先進的な取組を横展開いたしまして、有機農業に取り組む農業者を増やすということが一つでございます。
 また、有機市場の拡大も必要でございまして、今、小売店とか飲食店などで国産の有機食品を応援していただける国産有機サポーターズ、こういった取組もしております。
 こういった取組も通じまして更に国民運動の展開をしてまいりたいと思いますし、また輸出促進にも取り組むということを進めてまいりたいと考えておりまして、これによりまして二〇三〇年までに六万三千ヘクタールに拡大するという目標をまず着実に実現してまいりたいと考えております。
 さらに、その先でございますが、品種開発ですとか生物農薬ですとか除草ロボットあるいはスマート施肥システムなど、こういった有機農業を取り組みやすくする様々なイノベーションを順次創出いたしまして、二〇四〇年までに農業者の多くが有機農業に取り組むことができる次世代有機農業技術といったものを確立してまいりたいと考えているところでございます。
 さらには、国内外におきます更なる市場の創出ということで、普通の農家の方が経営の一つの選択として有機農業に取り組むことができる環境をつくると、こういったことで二〇五〇年までに有機農業の取組面積二五%ということを目標にしているということでございます。

○紙智子君 ちょっと時間なくなっちゃったので、まとめて聞きます。
 食の安全に関わるんですけど、有機農業で遺伝子組換え、ゲノム編集の技術をどう扱うのか、それから、遺伝子組換えの餌を食べた家畜のふん尿から作られる堆肥や油かす、こういったものをどういうふうに扱うのかということが一つと、それから、中間まとめのパブコメがやられていて、そのゲノムの意見が非常に多かったと聞いています。一万七千あった、パブコメですね、そのうち一万六千がゲノムに関してだと。流通に不安だ、新しい技術に不安だという意見です。
 それで、みどり戦略では、この革新的な技術をやってということで実用化をしていくということなんだけれども、科学的な知見に基づく合意が形成されることが重要だというふうにしているんですけれども、ゲノム作物というのは合意形成はされているのかどうか、ちょっとこの点についてだけ最後にお聞きしたいと思います。

○政府参考人(農林水産省農林水産技術会議事務局長 菱沼義久君) ゲノム編集技術につきましては、今まで合意を取るために、大学、高校、消費者を対象とした出前授業だとか現場の見学会、ホームページを通じた科学的知見に基づいた情報発信をしてきたところでありますけれども、御案内のとおり、先ほど、パブリックコメントでたくさんの意見が出たというようなことでございます。
 こういったことから、本戦略の最終報告の取りまとめでは国民理解の促進を明示し、当該技術に関して国民への情報発信、双方向のコミュニケーションを丁寧に行うことでこれから科学的な知見に基づく合意が形成されるよう努めてまいることを考えているところでございます。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) JASにつきまして御質問がありましたので、お答えをいたします。
 有機農産物JASの告示におきまして、原材料の生産段階において組換えDNA技術が用いられていないものに限ると規定されております。
 一方で、委員御指摘の家畜ふん尿の堆肥や油かすにつきましては、有機農産物JASの告示の附則におきまして、組換えDNA技術が使用されていないものが入手困難な場合である場合につきましては組換えDNA技術が使用されているものも肥料として使用できるということになっているところでございます。

○委員長(上月良祐君) おまとめください。

○紙智子君 時間過ぎましたので、これ、まだまだ議論しなきゃいけないと思いますので。
 終わります。