<第204回国会 農林水産委員会 2021年5月11日>


◇畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律に対する反対討論

○畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律案に対する反対討論を行います。
 本法案は、規制改革推進会議や二〇一九年六月に閣議決定された規制改革実施計画に基づき、畜産業を取り巻く国際経済環境の変化等に鑑み、その国際競争力の強化を図ることを目的に法定化するものです。
 畜舎は、建築基準法の適用を受け、規模等に応じて建築確認や審査が必要となることから、中小・家族農家からは、住宅等ではなく畜舎に適用するのは厳し過ぎる、経営継承する上で過剰な投資は避けたいという要望が出されています。当然の要望だと思います。
 しかし、本法は、持続的な中小・家族経営を応援するのではなく、機械化を図りながら牛や豚などを増頭、増産を進めるために三千ヘクタールの畜舎まで建築確認や審査を不要にするもので、国際競争力のある大規模経営、企業的経営の支援が中心的な目的になります。
 本法に反対する理由は、畜舎で働く畜産農家や労働者の安全が確保されないからです。特に問題なのが、震度六強から七では倒壊するおそれが否定できないとされるB基準の畜舎を認めるからです。畜舎基準法は生命、財産を守る基準であり、積雪、風圧、水圧、地震等に対し安全な構造でなければならないと定めています。農林水産省は、B基準で建てても避難訓練を行い、災害時には避難経路を確保するから安全は確保できると言いますが、本当に大丈夫でしょうか。
 気象庁は、震度六強の地震では、はわないと移動できないほどの揺れになると注意喚起をしています。それなのに、なぜ倒壊するおそれが否定できないB基準を認めるのか。避難路を確保したからといって、倒壊すれば安全が確保できないのは明らかです。倒壊すれば、畜産農家、経営者の自己責任にしてはなりません。
 第二に、農林水産省が設置した新たな畜舎建築基準のあり方に関する検討会で出た異論が酌み尽くされていないからです。検討会では、建築基準を緩和したところで使い捨てのような牛舎を建てることに意味があるのか、社員を守らなければならない、安全基準を動かすのは慎重であるべきだなどの異論が噴出しました。それなのに農林水産省は、地震で壊れない畜舎を造るか、それとも壊れるかもしれない畜舎を造るのは経営者の選択制だと妥協を図り、押し切りました。コスト削減の名で人命を軽視するのではなく、人と環境に優しい農業、畜産業こそが求められていることを指摘し、反対討論とします。

○委員長(上月良祐君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより採決に入ります。
 畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(上月良祐君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、田名部さんから発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代さん。

○田名部匡代君 私は、ただいま可決されました畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律案に対し、自由民主党・国民の声、立憲民主・社民、公明党、日本維新の会及び国民民主党・新緑風会の各派並びに各派に属しない議員須藤元気さんの共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律案に対する附帯決議(案)

  我が国の畜産・酪農経営は、畜産クラスター等の地域の関係者が一丸となった取組の成果として、乳用牛、肉用繁殖雌牛の飼養頭数が増加に転じる一方、担い手の高齢化、後継者不足は深刻さを増しており、さらには、我が国の畜産・酪農経営は、国際的な競争に直面している。そのため、中小・家族経営を中心とする国内生産者を着実に支えていく必要がある。
  畜産・酪農経営を維持・発展させるためには、生産基盤及び国際競争力の強化が喫緊の課題であり、省力化機械の導入や増頭・増産等の取組を推進するため、畜産業の経営実態に合った畜舎等の建築等をできるよう措置し、畜舎等の建築に係る負担を軽減することが急務である。
  よって政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 技術基準、利用基準を定める主務省令の制定に当たっては、畜産農家はもとより、建築士をはじめとする専門家の意見を十分に踏まえ、関係者の十分な理解と納得を得た上で各基準を策定すること。また、畜舎建築利用計画の作成・申請においては、手続きが煩雑なものとならないよう留意すること。
 二 畜産農家の畜舎等の建築を含めた総合的な経営判断に資するため、本法律案に基づく新制度による畜舎等の建築の経済的な優位性が明らかとなる事例等を畜種ごと等きめ細かく示すこと。また、建築に係る負担が低減された場合においても、財政支援を含め各支援策の削減は行わないこと。
 三 家畜の能力が引き出され、家畜が健康になり、生産性の向上や畜産物の安全につながるアニマルウェルフェアに配慮し、動物の愛護及び管理に関する法律を遵守した家畜の管理の普及促進のための指導、支援を充実させること。
 四 常に地域・現場の声に耳を傾け、生産基盤・国際競争力の強化に資する畜産クラスター事業等の施策を的確に実施すること。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。

○委員長(上月良祐君) ただいま田名部さんから提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(上月良祐君) 多数と認めます。よって、田名部さん提出の附帯決議案は多数をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。