<第204回国会 農林水産委員会 2021年5月11日>


◇畜舎等特例法の安全性の確保について/なぜ、畜舎だけを緩和するのか/規制改革推進会議の要望と改正案との関係について

○畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 畜産、酪農の現場を歩きますと、中小の農家から、堆肥盤一つ造るにも建築基準が厳しくて負担が重いということなど、畜舎の建築コストを削減するために建築基準制度の緩和を求める要望というのが出されてきました。それで、経営を継続する、あるいは継承するという上でも、過剰な投資は避けたいというのはこれ当然の要望だというふうに思うんですね。ただし、それはやっぱり安全性が確保された上でということだと思います。
 それで、建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定め、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進を資することを目的というふうにしています。今回新たに作るこの畜舎等特例法で、この安全性というのは確保されるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今お話あったとおり、建築基準法は、建築物の構造等に関して最低の基準を定めて、これにより安全を確保すると、こういう考え方を取っているわけでありますが、畜舎については、先ほど申し上げましたが、平家が中心で構造が簡素なものが多い、あるいは、人の滞在時間が短い、防疫上の観点から第三者がみだりに立ち入ることがない、規制が掛けられている等々の特性があります。これを踏まえて、滞在時間の制限ですとか避難経路の確保等の畜舎の利用に関する安全確保のための基準を設けることが可能であります。
 新制度では、このような利用に関する基準を設けることとしまして、この基準と構造等に関する技術基準との組合せによって畜舎等としての安全性が確保されるという考え方を取っておりまして、利用基準を遵守することでこの技術基準を建築基準法の基準よりも緩和しても安全性が担保できるものと考えているところであります。

○紙智子君 そこで、今話がありましたように、この新法で利用基準と技術基準、ソフト基準、ハード基準と言われていますけれども、これを省令で定めるということになっていますよね。そこで、先ほども話出ていましたけど、A基準とB基準が示されています。それぞれのこれハード基準、地震を想定したときの基準について説明をお願いします。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 新制度におきますA基準とB基準につきましてのハード基準につきましてでございますけれども、A基準につきましては、技術基準につきましては建築基準法に準じた基準ということでございまして、地震に対する考え方といたしましては、建築基準法と同様に震度五強程度の地震で傷が付かない、損傷しない程度の強度とするということを考えているところでございます。また、B基準の技術基準につきましては、震度五強程度の地震の場合に損傷が生じても畜舎としての利用には問題が生じない程度の強度とすることを考えているところでございます。

○紙智子君 A基準は、私説明聞いたときに、震度六強から七の地震では倒壊しないというふうに聞いたんですけど、そして、B基準は、五強程度の地震では損傷は生じたとしても倒壊しないけれども、震度六強から七の地震では倒壊のおそれは否定できないと聞いたんですけど、そういうことでいいんですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 A基準、B基準でございますけれども、先ほど申し上げたような考え方でございます。
 ですが、この具体的な考え方につきましては、具体的にはその部材に設けられております建築基準法でいう強度でございますけれども、これをいわゆる安全係数を掛けないという形にするということでございまして、震度六強から七の地震に対しましてでございますけれども、A基準におきましては、震度六強から七の基準でも建築基準法と同様の基準でございますので倒壊はしないということが保障されている基準という形になりますけれども、B基準の場合は、この震度六強から七につきまして余裕を持たせた強度計算をするわけではございませんが、ごくまれに発生する震度六強に対してもぎりぎりの強度は持っているということでございます。部材の基準強度に設けられている強度で計算をするということでございますので、倒壊する前提の基準というわけではございません。

○紙智子君 非常に、何というか、ぎりぎりという表現だったり、不確かなんですよね。
 私、レクチャーのときにあらかじめ聞いていたのでいうと、A基準は震度六強から七の地震では倒壊しないけれども、B基準の場合は、震度五程度で、これは倒壊はしないけれどもひびが入ったりするけれども、六から七ということになると、これは倒壊のおそれは否定できないということだったわけですよ。そういうことだと思うんですよね。
 それで、ちょっと二、三やり取りをしたいと思うんですけど、衆議院で我が党の田村貴昭議員が、震度六というのはどういう揺れなんだというふうに気象庁に聞きました。そうしたら、気象庁は、震度六強の揺れにおける人の体感としては、行動は、立っていることができず、はわないと動くことができない、また、揺れに翻弄され動くことができず、飛ばされることもあるというふうに答弁されているんですよ。
 そうなると、B基準でこれ人命というのは守れるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 新制度では、利用に関する基準、これを遵守することで、構造に関する技術基準を緩和しても両者相まって畜舎としての安全性が担保される、確保される基準ということでございます。
 緩和された構造の基準、B基準でございますけれども、具体的には部材の強度基準に、基準強度に設けられている安全係数を設定せず、部材の持つ強度を満度に使うという形でございまして、余裕を持たせた強度ではないということでございますが、ごくまれに発生する地震、震度六強から七に対してもぎりぎりの強度は持っているというふうに考えているところでございまして、倒壊する前提の基準とはなっていないところでございます。
 なので、このため、その地震の揺れが収まった後に速やかに避難できるよう、このB基準におきます利用基準におきまして、畜舎内の整頓を行うことによりまして災害時の避難経路を確保する、また災害による被害の防止、軽減に資する避難訓練等の取組をやると、こういったことを定めるということを検討しているということでございます。

○紙智子君 実際に耐震の実験というのを、強度の、あれやったのかなというふうにちょっと聞きながら思ったんですけどね。地震で倒壊するおそれがある畜舎で、これ避難経路を作ったとか訓練しているから大丈夫だというふうに言えるんだろうかと思うんです。先ほど藤木さんも熊本で実際に体験された話をされたんですけれども、二〇一六年の熊本地震でいうと震度七の地震ですよね。それが四月十四日に来て、その後一日置いて十六日に連続して来たわけですよね。それで、地震は一回で収まるわけでもないと、それなのになぜB基準で倒壊する可能性があるこの畜舎を認めるのかと。
 ちょっとその耐震の強化について、強化の実験やったのかどうかということと併せて、いかがですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 耐震の実験をやったというわけではございません。
 構造の基準のB基準でございますけれども、先ほど申し上げましたように、安全係数を設定しないで部材の持つ強度を満度に使うということでございます。余裕を持たせた強度でございます、持たせた強度ではございませんので、そのごくまれに発生する地震、震度六強から七に対して倒壊するおそれが否定できないという言い方もしておりますけれども、これは余裕を持って倒壊しないと保証できるものではないということでございまして、そういった地震に対してもぎりぎりの強度は有しておりまして、倒壊する前提で設定した基準というわけではございません。また、畜舎におきましては、一般の住宅と異なりまして屋根材が極めて軽いもので造られておりまして、一般の住宅と比べて倒壊しにくいという性格もあるというふうには考えているところでございます。

○紙智子君 実際の実験とかやっているわけでもなく、いろいろ余裕を持たせているからという話があるんですけど、非常に不確かなんですね。
 それで、B基準の、しかも三千平方メートルもの畜舎でこれ本当に大丈夫なんだろうかと。確かに、一千平方メートルのところの、ところまで緩和してという話はありましたけど、いきなり三千平方メートルの畜舎まで来ていて大丈夫なのかと。
 地震によって畜舎が倒壊したり、中にいる牛が暴れて人的な被害が出るということになったらこれ大変だと思うんですよ。その場合に、使用者の責任というのはどういう責任を果たすことになるんですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今ほど御議論いただいておりますとおり、新制度におけるいわゆるB基準でありますが、これは畜舎内の滞在時間の制限、あるいは畜舎における避難経路の確保等の厳しい利用基準ですね、ソフト基準と技術基準、ハード基準の組合せによりまして安全性を担保する仕組みでありまして、従業員がいる場合は、この認定計画実施者となる畜産経営者が従業員に利用基準を遵守させることで安全性を担保することになります。
 具体的には、B基準を選択した畜産経営者が畜舎等がB基準で建築されたことを従業員に対して周知徹底をする、また、B基準の畜舎で建築されたことを従業員の目に付く場所に掲示する、年に一回程度、従業員の避難訓練を行う等の対応を取ることとしまして、従業員が災害時に適切に避難等を行うことができるようにすべきと考えております。
 新制度の普及に当たりましては、従業員を使用している畜産経営者に対しまして、従業員が利用基準を遵守するのは雇用者の責任である旨をしっかりと周知してまいらなければならないと考えております。
 なお、従業員に人的被害が生じた場合の補償責任につきましては、これは様々なケースが考えられることから一概にはお答えできませんが、一般論としては、例えば労働基準法においては労働者が業務上負傷した場合についての補償の規定が定められており、これに基づきまして使用者による補償が行われるものと考えております。

○紙智子君 とにかくB基準でできているものだということを徹底しなきゃいけないということなんですけど、実際に揺れが起こったときに、立っていられないような状況の中でどうやって回避するのかということなんかもこれ対応できないんじゃないかと。そして、雇用の責任ということでいうと、労働基準法に照らしてということになるんでしょうけれども、これは使用者の自己責任になってしまうんじゃないかと、まあ選択するわけですからね、選択する責任ということになるわけですから、それで本当にいいのかというふうに思うわけです。
 畜舎は牛だけじゃないですよね。閉鎖性の養鶏施設や豚舎もあります。家畜もその中には入っていると、機材も入っていると。そういうB基準の閉鎖的施設で事故が起きたときに、その場合の使用責任というのは誰が果たすんですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 今、大臣の先ほどの答弁の中にもございましたけれども、畜舎や鶏舎についても基本的な考え方は今大臣から答弁したものと変わりません。B基準を選択した畜産の経営者が従業員が災害時に適切に避難等を行うことができるようにすべきであるというふうに考えているところでございます。
 なお、その閉鎖型の鶏舎や豚舎につきましてはその避難経路が限られているケースがあると考えておりますので、この畜舎の中の整頓などを行うことによりまして避難経路を確保するということが特に重要であると考えておりますので、こうしたことを徹底することによりまして従業員の安全の確保を図ってまいりたいと考えているところでございます。
 また、具体的に従業員に人的被害が生じた場合の補償責任につきましては、先ほど大臣から答弁したものと一緒でございます。

○紙智子君 すごく甚だ疑問なんですけれども、それと併せてもう一つですけれども、農業関係の建物というのは農産物や農機具を入れておく倉庫もあるわけですよね。なぜ今回、畜舎だけを緩和するということにしたんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 この法律案でございますけれども、畜舎につきましては、ほとんどのものが平家であって、簡素な構造であるなどの構造上の特徴を有しているということ、それから、家畜伝染病予防法の関係とか、ということからの畜舎を含む区域は、衛生管理区域として必要のない者が立ち入らないよう措置を講ずることとされている、こういったことを前提といたしまして、安全確保のため畜舎等の利用の方法に一定の基準を設けることが可能だということから建築基準法の特例として措置できることとしたものでございます。
 お尋ねの倉庫につきましては、平家だけではなく二階建て以上の建物もあるということ、それから、先ほど申し上げたような衛生管理区域としての立入りが制限されるものでもないというようなことでございますので、畜舎などと前提が異なっているということから新制度の対象としていないところでございます。
 ただ、なお、畜舎の中に付随的に設けられる機械や餌の保管庫、こういったものは畜舎等の施設として本法律の対象となるところでございます。

○紙智子君 用途が違うということなんだと思うんですけれども、安全であることが大切だということは言うまでもないと思うんですね。
 なぜ、畜舎だけ特別扱いにするのかということについて言いますと、やっぱり中小の家族経営の要望に沿うというよりも、これ経過を見ると、規制改革推進会議の議論によって進められてきたということがあるんじゃないんだろうかというふうに思うんですね。
 まず、規制改革推進会議が緩和の要望を出しています。次いで、政府が規制改革実施計画、これ二〇一九年に載せていると、そして、農林水産省として新たな畜舎建築基準等の在り方に関する検討会、これ二〇二〇年、去年ですね、二月にやっているわけです。しかし、この検討会の議論、いろいろ皆さん多くの意見を出されていますけれども、多くの慎重論が出されているわけですよね。
 例えば、肉牛協会の方は、初めからこの議論は無理があると思っていた、どこで何があるか分からない時代だと、規制改革会議の議事録を見たが、あれは大多数の農家の声じゃない、企業的に大きくやっている方が、更に大きくするのに問題があるという点から議論が始まっているんじゃないか、中小家族経営を大事にしなければならないときなのにと、こういう意見。
 牧場の方は、このような目先のコストカットがどれだけ経営に本当にプラスになるのかと正直疑問だった、建築基準を緩和したところで、使い捨てのような牛舎を建てることが意味があるのかと、自分で建てた牛舎が自己責任で潰れて、牛も死んで自分も死んだ、しようがないねと笑って済む人はいいけど、でも雇用している人は絶対それは言えない、社員を守らなきゃいけない。
 建築士の方は、現行法でも畜舎基準はかなり緩和されている、専門家からしても正直限度だと思っている、正直なところ、ぎりぎりいっぱいで、それを多少見直したところでコストに与える影響はいかほどのものなのかと、建築の要件で大きなのは生命及び財産を守るということだ、人間が滞在するのが少ないからという理由というのが一番びっくりしたと、などなどいろいろ出されているわけですけれども。
 しかし、農林水産省としては、選択制にするということで、これ妥協点を図ったんじゃないのかと、押し切ったんじゃないのかと思うんですけれども、大臣いかがでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 御指摘の検討会の件でございますけれども、二〇二〇年三月三日の第二回の検討委員会におきまして、建築の専門家である委員の方々などから畜舎の構造等の基準について、建築基準法の告示で限界まで緩和されているため、これ以上の緩和の余地はないのではないかなど様々意見をいただいたところでございます。
 そういった様々な意見があったことを踏まえまして、取りまとめに向けまして、建築の専門家の先生を含めまして、それぞれの委員と綿密に調整を行わせていただきました。その上で中間取りまとめ案をまとめて、この内容につきまして全ての委員から御理解をいただいておるところでございます。
 第三回の検討委員会は新型コロナウイルスの影響によりまして書面開催で行われたということでございまして、五月十一日に第三回検討委員会ということでございますが、これにおきまして全ての委員から書面で同意をいただいているということでございます。
 なお、この中間取りまとめ案の内容でございますけれども、各委員と綿密に調整を行った結果、新築、増改築の際に畜産農家が新たな制度の基準又は建築基準法による従来の基準、これを選択できるということに加えまして、新制度におきます利用基準につきましてはそのソフト基準と、つまり利用基準というものを入れまして、これと構造に係る技術基準、この組合せによって安全性を確保するというやり方。さらに、その技術基準の緩和につきましては、建築基準法では部材の基準強度に安全係数が掛けられていますけれども、この新制度のB基準においてはこれを設定せず、部材の持つ強度を満度に使うところまで緩和をすると、こういった内容で御理解をいただいたというところでございます。

○紙智子君 御理解いただいた選択制に対しては異論はなかったんだというふうに言われるんだけど、私も一瞬、選択制ということだから、選ぶんだからいいのかなと一瞬思ったんですよ。でも、考えてみたら、選択制ということは自分で選んだ責任ですから、結局自己責任になってしまうのかなということで、それはやっぱりどうかというふうに思ったわけです。
 それで、畜舎等特例法をなぜ作るのかというと、第一条のところで、畜産業を取り巻く国際経済環境の変化等に鑑み、その国際競争力の強化を図ることを目的にしているわけですよね。この間、TPPなど自由化路線が続く中で、国際価格と競争できるようにするために規模を拡大し、コストも削減すると。中小・家族経営というよりも企業的経営を支援することになるんじゃないかと思うんです。
 しかし、コスト削減の名で人命が軽視されたっていいのかというふうにも思っているんです。人と環境に優しい農業や畜産業こそが今求められているんじゃないかと思います。
 最後に、大臣の答弁を求めます。

○委員長(上月良祐君) 時間が参りましたので、答弁は簡潔にお願いします。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) はい。
 この制度では、利用に関する基準、そして技術に関する基準、これが相まって人命の安全性を確保するということにしておりまして、その人命の安全を軽視するような緩和を行おうとしているわけではございません。
 農家からの要望なども踏まえましてこの法律案を整備したところでありまして、畜産農家の負担を軽減をして我が国畜産業の振興を図ってまいりたいと考えております。

○委員長(上月良祐君) おまとめください。

○紙智子君 はい。
 農家の要望に応えることは大事なんだけれども、やっぱり生命、財産を守る、守れないような規制緩和はすべきでないということを申し上げて、質問を終わります。