<第204回国会 農林水産委員会 2021年4月27日>


◇RCEP協定 ASEANの中心性ついて/関税撤廃率について/影響試算について/中国からの輸入食品の違反事例について

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。答弁は極力簡潔にお願いいたします。
 今日、RCEP協定について質問します。
 RCEPの交渉会合等は会議日程が公表されず、何が議論されているのかよく分からない状況で進んできました。
 私、交渉会合が開かれるという情報を得て、各国の交渉関係者と市民団体の意見交換会に何回か参加をしたことがあります。意見交換会では、TPPとは違ってバランスを取ろうとしているという意見や、一部の国がルールを押し付ける交渉になっているという批判もありました。テーマ的には、地球温暖化の問題ですとか、それから医薬品に関わる問題、それから小規模農業、企業による種子の私物化の問題、ISDSなどについても意見交換が行われました。
 RCEP交渉は二〇一二年の十一月に始まったんですが、立ち上げのときの共同宣言には、地域経済統合の過程におけるASEANの中心性とASEANのFTAパートナー諸国のより広く深い関与に際しての利益を確認し、あっ、認識しとあります。このASEANの中心性ということについて、どういう意味なのか教えていただきたいと思います。

○政府参考人(外務省大臣官房審議官 田島浩志君) お答えいたします。
 RCEP協定は、我が国とともに、RCEP協定は、我が国とともにASEANが推進力となって交渉が進められて合意に至ったものであります。このような認識は、我が国のみならず参加国との間で広く共有されているものと考えており、委員御指摘の共同声明にもそのような認識が反映されていますし、昨年十一月の地域的なRCEPに係る共同首脳声明でもそのような認識が反映されております。
 委員お尋ねのASEAN中心性とは、地域の枠組みにおける議論をASEANが域外国を巻き込む形で推進していくことを意味する概念でありまして、このRCEP協定は、後発開発途上国を含めて参加国の発展段階状況が大きく異なる中でも、物品、サービスにとどまらず、投資、知的財産、電子商取引なども含めて新たなルールまで盛り込んだものでありまして、この地域の望ましい経済秩序の構築に向けた大きな一歩になるものと考えています。
 このように、枠組みにおける議論をASEANが関係国を巻き込む形で推進し、様々な困難を乗り越えて署名に至ったこと自体がASEAN中心性の増進に寄与していると考えております。

○紙智子君 ASEANが全体を、いろんな条件がある中でそこの、主導的にというか、やっていくという意味なんじゃないのかなというふうに捉えています。
 それで、RCEP参加国には、今もお話ありました格差があります。一人当たりの国民総所得は、トップの約六万ドルから五千ドルにも満たない後発開発途上国まで含まれているということです。私、この発展段階などで相違がありますから、ASEANの中心性という言葉を聞いたときに、東アジアに新しいルールを作るものというふうに思って注目をしていました。ところが、日本は、TPPが二十一世紀型の通商交渉なんだとして、TPP水準のバリューチェーンの構築を求めてきたんじゃないんでしょうか。
 先日の参議院の外交防衛委員会で、参考人質疑が行われました。参考人からは、RCEPの特徴は、新しい国際分業だとかサプライチェーンの構築、強靱化が容易になるというように言われました。このASEANの中心性に配慮した互恵的な協定になっているんでしょうか。

○政府参考人(外務省大臣官房審議官 田島浩志君) お答えいたします。
 先ほどお答え申し上げましたとおり、RCEP協定は、我が国とともにASEANが推進力となって交渉を進められ、合意に至ったものであります。このようなASEAN中心性に対する認識は、我が国のみならず参加国の間で広く共有されているものと考えております。
 また、RCEP協定の意義は、各国による関税の削減、撤廃の面だけではなくて、原産地規則や税関手続などの共通ルールの整備や、投資環境にまつわる知的財産、電子商取引などの分野における新たなルールの構築にもあります。
 RCEP協定により、ASEANを含め世界の成長センターであるこの地域と我が国のつながりがこれまで以上に強固になり、これを通じて我が国及びASEANを含む地域の経済成長に寄与することが期待されるものと考えておりまして、ほかの参加国、参加各国もまたそのような認識を共有していると考えております。

○紙智子君 互恵的な協定になったんでしょうかというふうに私聞いたんですよね。そこがすごく気になるところで、RCEP協定について幾つかの論評が出されています。
 エコノミストは、工業製品を人件費の安いところで組み立てることができる加工拠点として使えるとか、国境を越えて最適分業体制をしきたい企業にとっては使い勝手がいい協定だという意見が出ています。一方、インドが離脱したことについては、ASEANに進出した日系企業が巨大なマーケットを抱えるインドへアクセスしやすくするものだったので、インドの離脱に対して失望の声が大きいと。互恵的な協定というよりも、企業のための協定になるんじゃないかというふうに感じるわけですよね。
 そして、農林漁業の影響についても聞きたいと思うんですけれども、日本の農林水産物の関税撤廃率は、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランドは六一%、中国は五六%、韓国は四九%であると公表していますけれども、現行のこれ関税率の、関税の撤廃率というのは何%なんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 森健君) お答えいたします。
 RCEP協定の交渉開始に際しましては、中国及び韓国に対しては、既に無税でありました品目の割合については二一%となっております。
 お尋ねのASEAN等につきましては、ASEANとの経済連携協定につきましては既に五二%が関税撤廃というふうになっておりますが、個別の個々の国とはまた別々にEPAを結んでおりますので、それぞれの国によって数値が異なっております。

○紙智子君 ASEANはもう既に関係結んでいるところがあるから余りあれなんですけど、中国と韓国が今回新しくということですから、中国、韓国に対して、二〇%からそれぞれ五六%、四九%に増えるということですよね。
 それで、日本の関税撤廃、削減の約束が公表されていますけれども、これ品目、タリフラインは幾つあるんでしょうか。また、関税率が一〇%以上の品目というのは幾つあるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 森健君) お答えいたします。
 RCEP協定におきます農林水産品の総タリフライン数については二千六百二十ラインとなっております。このうち、いわゆるMFN、最恵国税率が一〇%以上のタリフラインは八百二十二ラインとなっております。八百二十二ラインとなっております。

○紙智子君 つまり、関税率一〇%以上の品目が八百二十二あるということですよね。結構あるわけですよね。
 それで、TPP11や日欧EPA、日米貿易協定などメガFTAが発効しているのに、更に自由化が進みますと、これ日本の農林漁業への影響というのが心配されるのは当然だと思うんです。企業はコストを削減するために安い農林水産物、加工原料、加工食品を効率よく調達したいというふうに思うわけですよね。ですから、関税率や為替相場や価格を見ながら調達先を変えるんだと思うんです。
 そこで、影響試算について聞きます。
 TPPの影響試算は、関税率一〇%以上かつ国内生産額で十億円以上の品目、農産物では十九品目、林水産物では十四品目で影響試算を出しました。そこで、TPPで影響試算を出した品目に沿って一〇%以上の品目を関税撤廃、削減約束の一覧表で見たんですよね。
 そうすると、例えばASEAN、オーストラリア、ニュージーランドに対しては現在一七%、七・九%の生鮮ブドウが将来的には無税になると、それから一七%の生鮮リンゴも無税になる。それから、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド、中国に対して今二三・八%のパイナップル、二五・五%のオレンジジュースが無税になる。RCEP参加国に対して二九・八%の調製した桃は無税になります。将来的に無税になるかんきつ類が結構あるわけですね。それから、穀物類では、RCEP参加国に対して二一・三%のそば、小麦の混合の粉が無税になると、二〇%のバレイショの粉も、一四%のインゲンマメの調製品も無税になる。水産物では、ASEAN、オーストラリア、ニュージーランド、中国に対して一五%のモンゴウイカは無税になる。RCEP参加国に対して一〇・五%のタラのフィレ、ウナギ、一〇%の昆布かずのこ、これが無税になると。
 まだまだいっぱいあるんですけど、今紹介したのが関税率が一〇%以上の品目の一部ですよ。TPPのときには影響試算しているのに、なぜRCEPではこの影響試算を出さないんでしょうか。農水大臣に聞きます。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今個別の品目、幾つか御言及いただきましたので、必要であればまた答弁をさせたいと思いますが、いずれにしても、RCEPにおける関税については、重要五品目は撤廃除外をして、関税撤廃率は近年締結された二国間EPA並みの水準としたと。
 また、今いろいろ品目を挙げて言及をいただいたわけでありますが、国産と競合関係にある品目ですとか生産者団体が国産の巻き返しを図りたいとする品目、あるいは関税撤廃の対象外、品目はですね、関税撤廃の対象外とするとともに、譲許した品目ですね、今いろいろ御言及いただきましたが、譲許した品目につきましても、用途や価格面で国産品と明確にすみ分けができている、あるいはRCEP参加国からの輸入実績がゼロ又はごく僅かなもの、締結済みのEPAと同水準の関税率であるもの等々から、特段の国内農林水産業への影響はないと考えておりますので、影響試算は行う予定はないということでございます。

○紙智子君 全然納得できないですよね。
 関税率が一〇%以上の品目が二千六百二十品目の中で三分の一もあるんですよ。今からでもこれやっぱりちゃんと影響試算出すべきじゃないんですか、大臣。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 青山豊久君) 大臣からお答えいたしましたように、用途や価格面で明確にすみ分けができているとか、それから、実際の輸入実績がごく僅かな品目でございますので、特段の影響がないということで……(発言する者あり)特段の影響がございませんので、影響試算を行うということではございません。

○紙智子君 もう全然それじゃ納得できないですよ。
 農水省は、TPP11、それから日欧EPA、日米貿易協定が発効して農林水産物への影響があるということを認めて影響試算を出したわけですよね。それなのに、RCEPはどうして試算しないんですか。いや、影響がないという試算があるんですか。だったら、それだって出すべきだと思いますよ。影響試算がなければ、大体にして対策だって打てないじゃないですか。いかがですか。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 青山豊久君) 交渉において特段の影響がないように交渉結果を得られたというふうに考えておりますので、影響試算を行うということではございません。

○紙智子君 もう意味分からないですよね。やっていただきたいです、しっかり。それで、やっぱりみんなが見て、ああ、なるほどなと納得できるようにすればいいじゃないですか。生産者は、既に自由化が進んでいるのに、更なる自由化が日本農業に与える影響を心配しているわけです。今からでもやっぱり影響試算は出すべきだと。
 そして、本会議のときにも言いましたけれども、中国及び韓国に対して無税品目の割合というのは、対中国で八%から八六%になるわけです。対韓国でいうと一九%から九二%に上昇しますから、これ、日本から中国、韓国に工業製品を輸出する企業にとってはこれは大きなメリットになるんだろうと思うんですね。企業の利益のためにこれやっぱり農林水産物を差し出したんじゃないかというふうに言わざるを得ません。
 それで、次にちょっと食の安全についても聞きたいんですけれども、過去には中国で生産したギョーザなどが問題になりました。
 厚生労働省にお聞きしますけれども、二〇一六年以降の輸入食品の届出件数、輸入重量、違反件数、そのうちの中国の違反件数について、ちょっと時間がなくなってしまうので、一六年のときと直近の二〇一九年ということでそれぞれお答え願いたいと思います。短くお願いします。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 浅沼一成君) お答えいたします。
 二〇一六年度につきましては、輸入届出件数が二百三十四万件、輸入重量が三千二百三十万トン、違反件数が七百七十三件、このうち中国の違反件数が百八十一件となっております。
 二〇一九年度につきましては、輸入届出件数が二百五十四万件、輸入重量が三千三百二十七万トン、違反件数が七百六十三件、このうち中国の違反件数が百八十五件となっております。

○紙智子君 あれっ、二〇一六年は百八十二と言いました。二百二じゃなかったでしたっけ、中国の違反件数。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 浅沼一成君) お答えいたします。
 二〇一六年度につきましては、中国の違反件数が百八十一件となっております。

○紙智子君 ちょっと年数を追ってずっと調べてみると、大体中国が一番この違反件数が多いんですよね。次いでアメリカなんです。この二国が断トツに多くて、三桁超えている違反件数なんです。
 それで、中国からですね、違反件数のその中身、特徴についてどういうものがあるのか、説明してください。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 浅沼一成君) お答えいたします。
 中国からの輸入食品等における違反事例といたしましては、例えば微生物規格の不適合、農薬の残留基準の不適合、添加物基準の不適合、指定外添加物の使用、器具、容器包装、おもちゃの材質規格の不適合等が確認されております。

○紙智子君 これ、今すごく専門用語で言っていたからイメージが湧かないんですけど、違反した品目で幾つかあるんですけれども、例えば揚げたピーナツからアフラトシキンという、これカビ毒ですね、毒性のあるカビ毒が出てきたとか、それからニラ、ブロッコリー、タマネギなどから農薬が検出されている、それから二枚貝などから大腸菌などの基準値を超えているものが出てきているという違反があるわけです。
 それで、輸入食品の検査割合なんですけど、一九九〇年には一七・六%だったんですけれども、二〇一〇年には一二・三%に下がり、二〇一九年には八・五%ということで、この三十年前の今半分に検査率が下がってきていると、割合がですね、ということなんです。
 RCEP協定でも、これ貿易の円滑化、迅速化が求められているわけで、現在の検査率が八・五%程度ということになると、検査体制を抜本的に拡充すべきではありませんか。

○政府参考人(厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官 浅沼一成君) お答えいたします。
 我が国食品の安全に関する基準に適合しない食品が輸入されないよう、全国の港や空港の検疫所で、食品添加物、残留農薬、遺伝子組換え食品等を検査するためにサンプルを取って行うモニタリング検査や、このモニタリング検査の結果を踏まえて、食品衛生法の違反の可能性が高いと判断された食品を対象に輸入者の経費で全量を留め置いて検査をする命令検査など、違反のリスクに応じた検査を実施しているところでございます。
 厚生労働省といたしましては、今後の輸入食品の増加の可能性を踏まえまして、検疫所の職員の資質向上、必要な職員や検査機器の確保等、適切な監視、指導を徹底するための体制整備を図り、引き続き輸入食品の安全性の確保に万全を期してまいりたい、検査の充実を図ってまいりたいと考えております。

○紙智子君 横浜の検疫所に見に行ったことありますけど、大変な作業ですよね。前処理から含めて検査に至るまで、大変なやっぱり重労働というか、こなしながら精いっぱい頑張っているんだけれども、やっぱり足りないと思うんですよ。もっとやっぱり体制強化して、そして国民の口に入るものが安全でなければいけないということでは、是非こういう体制を強化していただきたいというふうに思います。
 RCEP協定は情報が少なくて、国民的な議論というのが不足していると思うんです。情報公開、そして丁寧な説明ということをちゃんとこれから後もやっていくように求めまして、私の質問を終わります。