<第204回国会 農林水産委員会 2021年4月20日>


◇農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略について/農林水産物の輸出入について/輸出における生産者のリスクについて/生産者が投資を受けた場合のリスクについて/投資が可能となる漁業生産組合について

○農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 農業法人投資円滑化特措法の改正案についてお聞きします。
 本法に基づく投資対象は農業法人に限定されていましたが、今回、大幅に拡大されています。それは、農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略を進めるためで、リスクを取って輸出に取り組む事業者に投資対象を拡大するものです。
 事業者にリスクを負わせてまで、なぜ輸出を促進するんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) お答えをいたします。
 国内の食市場が縮小する一方で、世界の食市場は今後大幅に拡大することが見込まれております。こうした中、農林漁業者の所得向上を図るためには海外のマーケットを獲得していくということが重要であると考えております。
 以上でございます。

○紙智子君 国内の市場が縮小する、で、海外が増えるという話されていて、いつも聞くと人口減少があるんだということを言われるんですね。果たして本当にそうなんだろうかと。本当に日本の食品市場というのは、人口が減少しているから縮小していくんだろうかと。安倍政権以来取られてきた輸出拡大政策で、農林水産物の輸出も増えているけれども、輸入も増えているということなんじゃないでしょうか。
 二〇一三年と二〇一九年の農林水産物の輸出入の金額をそれぞれお答えください。

○政府参考人(農林水産省大臣官房総括審議官 森健君) お答えいたします。
 農林水産物の輸出につきましては二〇一三年以降、年々増加しておりますが、二〇一三年が五千五百五億円、二〇一九年が九千百二十一億円となっております。ちなみに、最新の二〇二〇年は二〇一九年を上回る九千二百五十七億円となっております。
 また、農林水産物の輸入につきましては二〇一三年以降、増減が見られるところでございますが、二〇一三年が八兆九千五百三十一億円、二〇一九年が九兆五千百九十八億円となっております。ちなみに、最新の二〇二〇年は二〇一九年を下回る八兆八千九百四十二億円となっております。

○紙智子君 二〇一九年のところまでというふうに言っていたんですけれども、二〇二〇年の話もしてくれました。
 それで、輸出農産物は今の話で見ても二千七百四十二億円増加したのに対して、輸入農産物は四千五百八十一億円も増大していると。輸出額よりも千八百三十九億円上回っているということです。人口が減少して消費が減少するということになったら、これ輸入も減るんじゃないかというふうに思うわけですけど、ところが、輸入は増えているわけですよね、人口が減っても。
 日本の食品市場は人口減少によって縮小しているんではなくて、輸入自由化路線によって輸入農産物が増加をして、国内の農産物の市場は縮小を余儀なくされてきたんじゃないでしょうか。大臣、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今御答弁させていただきましたとおり、二〇一三年と二〇一九年の比較では農林水産物の輸入額、増加をしているわけであります。一方で、国内の農業総産出額を見ますと、二〇一三年は八・五兆円、二〇一九年では八・九兆円となっておりまして、四千億円以上増加をしておりますので、輸入も増加をしておりますが、これは必ずしも国内農業が影響を受けたというわけではないと考えております。

○紙智子君 輸入が増えて、影響を受けていないという話ですか。それはどうなんでしょうかね。
 輸出拡大実行戦略では、輸出する体制を構築するために輸出産地をリスト化をするわけですよね。産地形成に必要な施設整備などを重点的に支援すると。グローバル産地づくりということで、これを推進しているわけです。言わば輸出のための産地づくり、工業製品でいえば輸出拠点づくりです。グローバル産地に輸出を増やす目標を立てさせて、輸出額の目標が大きいところを重点的にこれは予算を付けるということになっています。
 例えば、牛肉などが重点品目に挙がっていますけれども、畜産農家が育てた和牛というのは輸出に回されると。で、日本国民は輸入の牛肉を食べる、こういう構造が広がるんじゃないんでしょうか。こういうことでよろしいんでしょうかね、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 先ほどお話ありましたとおり、今後、人口減少によりまして国内の食市場縮小していくと見込まれます中で、アジアを中心に世界の食市場の規模は大きく拡大すると見込まれておりますので、国内生産を維持拡大するためにも、この高品質といった日本産の強みを生かした輸出拡大が必要だと考えております。
 また、輸出拡大に向けましては、農業生産基盤の整備ですとかスマート農業の加速化等、これは生産性の向上などの国内生産基盤の強化を進める必要があります。これは、このような取組は国内供給における競争力の強化にもつながるわけであります。
 国内農業の生産基盤の強化を図ることによりまして、国内の安定供給と輸出の拡大、これは両立していくものと考えておりまして、しっかりと各施策を進めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 そういうことを聞いたわけじゃなくて、輸出でどんどん出していこうと、逆に、そうすると、自給率が今でさえも三八%なわけですから、じゃ、国内で食べるやつはもっと輸入するのかという話ですよ。そういう逆転現象が起きてくるんじゃないですか、それでいいんですかということを聞いたわけですよ。どうですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) いや、ですから、その点につきましては、先ほど申し上げましたとおり、輸入額も増加をしておりますが、農業総産出額というのは二〇一三年から二〇一九年で四千億円以上増加をしておりますので、必ずしも国内農業が影響を受けるというわけではないと考えているということであります。

○紙智子君 ちょっとなかなかかみ合わないんですけど、やっぱりコロナ禍で食料の安全保障ということが今すごく問われているわけですよ。そういう中で本末転倒なんじゃないかというふうに思うわけです。
 それで、私、三月の予算委員会で、コロナ禍で飢餓人口の増大が想定されると、予想されている中で、食料を海外に依存していいのかということで大臣に伺いました。大臣は、輸入品からの代替が見込める小麦や大豆などの国産農産物の増産や加工食品、外食、中食向けの国産原料の切替えに取り組んでいくというふうに答弁をされました。
 農産物を輸出する前に、これ輸入品を国産に置き換えるということを重視すべきなんじゃないですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今お話ありましたとおり、この食料の安定供給というのは国家の最も基本的な責務でありますので、この国内農業の生産基盤を強化をして、輸入が多い農林水産物の国産品への切替え、これを進めていくことは重要であると考えておりますので、このため、今お話しいただきましたとおり、大豆や小麦等の国産農産物の増産ですとか、あるいは加工、外食、中食向けの原料の国産への切替え、あるいは畜産物、リンゴ、ブドウ、イチゴなどの果実の増産等々を進める。さらには、食と環境を支える国民の理解の醸成が必要なので、そのことを伝える新たな国民運動などの展開も通じて、この農林水産物の国産品への切替えに取り組んでまいりたいと考えております。

○紙智子君 国産に取り替えるという話はいいと思うんですけれども、それで、JA全中がアンケートをやっていますけれども、コロナ禍を経て食料安全保障への関心を持っているというのが六割ですね、それとともに、国産の商品をこの間積極的に購入しているというのが七割など、これ国産食料への意識も高まっているということが明らかになっています。
 是非、農水省として、国産農産物や食品の消費拡大の取組も推進していただきたいと思います。
 次に、牛肉の輸出を例にしながらちょっと具体的に聞きますけれども、畜産物の輸出に当たっては、輸出先の規制やニーズに対応するため、生産者、輸出事業者、食肉処理事業者が共同で輸出に取り組むとしています。
 それで、牛肉を輸出する場合に、海外で拠点となる現地の子会社の設立とか、輸出先国での保管施設や物流設備の整備、それから運転資金などの資金が必要になってくるんじゃないかと。海外での設備投資などの資金が必要なので、今は外国法人に対しての出資規制というのは出資総額の五〇%未満となっていますよね、今はね。それが今回の法改正で制限がなくなるということです。
 和牛農家が輸出先の国に子会社を設立をして投資を受けたと、ところが価格競争が激化して、そういう中で撤退を余儀なくされたという場合、これは誰がリスクを負うことになるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 本法案は輸出を含めた新たな事業に取り組む事業者に対しまして出資という形で資金調達の後押しをするものでありますので、御指摘の投資事業有限責任組合による投資リスクにつきましては、資金面では組合員全体が負うと、また業務執行面では当該組合の無限責任組合員が投資に係る責任を負うことになります。
 また、言及いただきました今般の五〇%の海外投資規制、投資割合に対する規制の特例措置でありますが、これは輸出先国のコールドチェーン構築等の我が国の農林漁業や食品産業の事業者の持続的発展に寄与する投資について、投資事業有限責任組合の柔軟な資金運用を可能としたものであります。
 他方、御指摘のとおり、一般的に海外の投資というものはリスクが高いということであります。投資を行う投資主体につきましては、対象国のマーケットですとか社会慣習、規制等に関する知見が不可欠と考えられますので、本特例の活用に当たりましては、当該投資事業有限組合の運営を行う者の人員体制ですとか海外投資の実績等を確認することとしており、加えて、その投資が日本の農林漁業の利益に資することを担保するために、承認組合が外国法人に投資するに当たりましては、我が国の事業者との資本関係や取引関係があること、我が国の事業者の持続的な発展に寄与することについて確認を行うこととしているところであります。

○紙智子君 今、長くいろいろ答えていただいたんですけれども、要するに、出資金を返却できる経済力が法人に残っている場合は返却することになるけれども、法人にその余力がなければ投資会社がリスクをかぶることになるということですよね。ですよね。一言確認します。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) 投資がうまくいかなかった、事業がうまくいかなかった場合のその処理でございますけれども、それは持分に応じて責任を負うということになります。

○紙智子君 投資会社がなければリスクをかぶるということになるんだと思うんです。
 それで、海外市場で販売先を失ったこの畜産農家というのは、その後販売先ってどうするのかなと。どう確保するんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) 輸出に当たっては、このマーケットインの発想に立ちまして、輸出を行う事業者が自ら販売先を開拓しているということになると思います。しかしながら、新たに海外で販路開拓を行う際には、継続的に購入してくれる取引先を開拓する、あるいは安定した輸出につなげるためには試行錯誤が必要というふうになっております。このため、この法律も活用して資金の供給を行うということになります。
 それから、販路の開拓という点では、農林水産物・食品輸出プロジェクト、GFPによりまして、輸出事業者とのマッチング支援、それからジェトロによる商談会や海外見本市への出展の支援、こうしたことで事業者等の海外での販路拡大というのを支援しているところでございます。
 こうした支援によって自ら海外で販路を開く意欲ある生産者の選択肢を増やすというのがこの仕組みでございますし、輸出プロジェクトなど、予算事業の支援によりまして販路開拓を支援してまいります。

○紙智子君 要するに、失敗した場合は、販路を新たにほかの国にするとか探さなきゃいけなくなると。それ誰がやるのかといったら、何というんですか、畜産農家自身がやらなきゃいけなかったり、そこの関連する業者がやったりということなんだけど、どっちにしても大変なことですよね、試行錯誤しながらだから。すごい大変なことだなと思うんですよ。みんなで輸出にチャレンジしようという掛け声はいいんですけれども、失敗したらどうするのかと。
 生産者の所得は本当に上がるのかということも心配です。投資の促進に関する検討会では、農産物の輸出を進めていくためには、輸出先国のニーズに合う商品をコストを掛けずに大量に供給していくシステムが不可欠であるというふうに指摘しています。輸出体制に生産者が組み込まれてしまうと、これ品質だけでなく、価格的にもニーズに合わせざるを得ません。それでは農産物が買いたたかれることにもなるんじゃないでしょうか。どうでしょう。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) 輸出の拡大につきましては、今後縮小していく国内の食市場という状況にありますので、拡大する海外の食市場を狙い、マーケットを獲得していくというのが輸出の拡大の趣旨でございます。
 その際に、安売りをしてですね、極端なことを言えば、赤字でも売り続けるというようなことというのは本来の輸出拡大の趣旨にそぐわないものでございますので、農林水産省あるいは政府を挙げての支援の中で輸出拡大が農林漁業者の所得の拡大につながるように各般の支援を行ってまいりたいというふうに考えております。

○紙智子君 投資家は、資金を運用して利益を上げて何ぼの世界ですよね。規制改革推進会議農林水産ワーキング・グループの専門委員である齋藤一志さん、先ほど森さんも紹介されていましたけど、庄内こめ工房代表取締役ですけど、出資を受けたアグリビジネス社の配当要求が余りにも強くて、利益が百万円出たら全額優先配当をしてくれというふうに要望されて、頭にきて株式を全量買い戻したと、経営する別会社では、大手の商社より出資を受けたんだけれども、三年連続、あっ、三期連続赤字で出資金を引き揚げられたと、これが現実だというふうに言われているわけです。
 利益がどんどん出て配当がすぐ来るとか、大幅な取引増にはつながることがないと資本を引き揚げられてしまうんだと、そういうことを言って、法人経営がこれ投資会社に左右されていくことになるんじゃないかと心配をするんですけど、大臣、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) この投資につきましては、これはあらかじめ当事者間で契約した投資契約に基づいて行われるものと考えておりますが、本法に限らず、一般的に、投資は、投資主体が投資先の議決権を保有をして資金を供給をする、そして経営に参画することによって投資先の成長を図ることを目的とするものでありまして、一方で、その投資を受け入れる法人等についても、その投資によって事業に係る知見やノウハウを有する者を受け入れて経営向上につながるといったメリットがあるわけであります。
 一方で、御指摘のとおり、農林漁業と食品産業の持続的な発展を図るということをこの本法は目的とするものでありますので、農林漁業法人への投資につきましては、農林水産省が投資主体の投資事業計画を審査をして、適切と認められるものを承認することとしております。
 したがって、専らその投機的な利益だけの追求を目的とする投資を行う投資主体は承認を行わないということとしております。その上で、承認を受けた投資主体につきましては、運営状況の把握のための定期的な報告を求めることですとか、あるいは必要に応じて改善命令を発することなどを通じて適切な監督を行って、国の関与により適切な運営が確保されるように努めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 この事例のほかにも、実は、輸出に取り組む農業法人が投資会社から配当を強く要求されて、配当を支払うと自社の利益を確保できないために借金してまで株を買い戻したという話も聞いているんですよ。ほかにもあるんですよ。
 農家の経営が投資家に左右されていいのかと思うんですね。農家には、やっぱり国民への食料を安定供給するという大事な役割があるんだと思います。この法改正によって、投資会社は漁業生産組合への投資が、出資が可能となって、漁業者でなくても組合員になることができます。
 漁業生産組合は、漁業者が協同して自らの経済的、社会的地位の向上を図るための相互扶助組織です。組合は、所有と経営と労働の一致を理想として、労働の協同化のために参加する者を組合員としてきました。今回、投資会社が組合員となって経営に介入すれば、漁業生産組合の性格は変質するんじゃないでしょうか、これも一言答えてください。

○委員長(上月良祐君) 時間が参りましたので、簡潔にお願いいたします。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) はい。
 今般の改正によります承認会社による投資の目的は、農林漁業法人等の自己資本の充実を促進をしてその健全な成長発展を図ることにありますので、農林水産大臣の承認を受けた事業計画に基づいて投資が行われることから、これら農業生産の協業を助長し、共同の利益を増進するという漁業生産組合の目的にも合致するものと考えております。

○委員長(上月良祐君) 時間ですので。

○紙智子君 時間ですので、終わります。