<第204回国会 農林水産委員会 2021年3月25日>


◇間伐特措法改正案 京都議定書の森林吸収量目標について/改正案と間伐特措法の理念について/特定苗木の森林のCO2吸収源対策の効果について/特定苗木と鹿の食害について/特定植栽促進区域と造林未済地について/特定植栽促進区域の造林について/自伐型林業と森林・山村多面的機能発揮対策交付金について/自伐型林業と山村振興、森づくりについて

○森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 森林吸収量についてまずお聞きします。
 京都議定書の第一約束期間の森林吸収量の目標を達成するために間伐を集中的に実施することが効果的であるとして、二〇〇六年当時の年間間伐面積三十五万ヘクタールに対して二十万ヘクタールを追加することで年間五十五万ヘクタール、二〇〇八年から二〇一二年の六年間で合計して三百三十万ヘクタールの間伐を実施する必要があるとされてきました。
 この第一約束期間の森林吸収量の目標三・八%というのは達成されたんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) お答えを申し上げます。
 我が国は、二〇〇八年から二〇一二年の京都議定書第一約束期間において、森林吸収源対策により、五か年間の平均で一九九〇年度の温室効果ガスの国全体量の排出量比三・八%に相当する四千七百六十七万二酸化炭素トンを確保することとしておりました。
 この目標に向け、平成二十年に成立した森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法に基づく措置も活用して間伐等の森林整備を着実に実施した結果、期間平均で四千八百二十一万二酸化炭素トンを確保し、目標を達成することができました。

○紙智子君 次に、第二約束の期間ですけど、森林吸収目標ですね、吸収量目標は達成できるんでしょうか。
 第二約束期間の間伐面積の年平均目標というのは達成されていません。なぜ当初の計画どおりに間伐が進んでいないんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) お答えを申し上げます。
 京都議定書第二約束期間の間伐目標面積である年平均五十二万ヘクタールに対して、二〇一三年度から二〇一八年度までの間伐実績の平均は約四十四万ヘクタールにとどまっているところでございます。
 この原因としては、議論もございましたけれども、間伐対象地の奥地化等に伴う間伐コストの増大や間伐の収益性の低下から、森林所有者が経営意欲を持てないことなどが挙げられると考えております。
 このため、本法に基づく間伐等に対する支援を引き続き継続するとともに、施業の集約化、路網の整備の加速化、列状間伐の実施による間伐コストの低減や、奥地等の条件不利地については、森林環境譲与税も活用し、市町村による公的な間伐を実施することができるようにしてまいりたいというふうに考えております。
 なお、吸収量につきましては、我が国の人工林の高齢級化に伴い近年減少傾向で推移しておりますけれども、先ほどもお話を申し上げました伐採木材製品の算入というようなことも合わせて、最新の二〇一八年度の実績は四千七百二万二酸化炭素トンと、二〇二〇年の目標を上回っている状況にございます。

○紙智子君 目標どおりに間伐を進めることが必要だというふうに思うんですけれども、ところが、改正案は、間伐への支援が不十分なのに、特定母樹の苗木の植栽を促進するというふうに言っているわけです。
 植栽するために主伐を進めることになるということになると、この元々の間伐特措法の理念が変わるんじゃないのかなと思うんですけど、いかがでしょう。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) お答え申し上げます。
 本法案は、我が国森林による二酸化炭素の吸収作用の保全及び強化を図るため、間伐等の推進に加え、主伐された林地においては成長に優れた苗木を用いた再造林を促進しようとするものでございまして、主伐を促進しようとするものではございません。
 また、平成二十年の法制定時から間伐又は造林の実施を促進することを目的としているところでございまして、今回新たに導入する特定植栽に関する措置は、この造林の実施を成長に優れた特定苗木により促進するものでございまして、本法の理念が変わるということではございません。

○紙智子君 変わらないと言うんですけれども、ちょっと名前と違ったふうになるんじゃないかなという危惧があります。
 特定母樹の苗木の植栽を推進することで、森林のCO2吸収源対策にはどれだけ効果を見込んでいるんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) 特定の苗木は、在来系統の品種と比較して一・五倍以上の成長を示すものは指定されている特定母樹から育成された苗木でございまして、成長量が一・五倍という場合には吸収量に対しても一・五倍と考えられます。
 特定苗木による再造林を進めていくことにより、在来品種に比べて森林吸収量の増大が図られるものと考えております。

○紙智子君 何かね、これがすごくよく分からないんですよね、本当に。どのぐらい吸収するのかというのがよく分からないままで来ているんですけど。
 これまで、苗木の新芽を例えば鹿に食べられる、それで木が育たない、だから造林が進まないという問題もありました。北海道もエゾシカがすごく増えているというのもあって、芽も食べるし皮も食べちゃうんですけど、林野庁からはエリートツリーは成長が早いために鹿の食害を減らす効果が見込めるというふうに聞いたんですね。
 エリートツリーは通常の苗木よりも一・五倍以上成長が早いといっても、鹿は芽を食べるのをやめるわけじゃないわけですよね、生きていくために必死ですから。今、鹿が増えて問題になっているんだけれども、なぜこれ食害が軽減されると言えるんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) 植栽した苗木が鹿に食害されるというようなことで、樹木が育たない、あるいは生育が阻害されるということが起こっておりますので、森林整備事業において防護柵、あるいは防護のためのチューブ、そういうものの設置を支援しているところでございます。
 鹿は、北海道はやや大きいわけでございますけれども、鹿の口が届く高さというのがございまして、これ、北海道では約二メートルぐらいというふうに、ここ、こうでございます。通常二メートルに樹高が到達するまでには、通常の品種であれば五年以上を有するところでございますけれども、エリートツリーは三年で到達するということでございまして、その間、防護柵、そういうもので守ることによって、早く育ってその後はそういう防護柵の措置が必要でなくなるという、そういう効果があろうというふうに思っております。

○紙智子君 それがよく分からないんですよね。鹿の首の高さが、だから、届くか届かないかという話。それぐらい早く、スピード速く成長するということだと思うんだけど、何かトトロの世界を思い出してしまって、もう一夜にしてわあっと、こう木が伸びてくる印象なんですけれども。それで、鹿が一匹だったらあれだけれども、たくさんいるわけですよ、もう群れを成していますからね。だから、やっぱりそれなりに、いろんな鹿がいますからね、食べていくわけですよ。本当よく分からないなと思うんです。
 私は、昨年、委員会の質疑で造林未済地が増えていることを指摘をしました。林野庁に聞きますと、これ三年置きの調査なので、改善されたかどうかというのを把握できていないというふうに言いました。これでは、把握できていないということですから、特定植栽促進区域が造林未済地になるんじゃないのかなというふうに心配するわけですけれども、いかがですか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) 造林未済地の調査につきましては、大変、都道府県の方にお願いを申し上げまして、その負担もあることも含めて、三年に一回の調査を行っているところでございます。
 この造林未済地、平成二十六年度の八千九百十六ヘクタールから平成二十九年度の一万一千四百四十四ヘクタールということで増加をしているところではございますけれども、この特定植栽区域における伐採の跡を、事業計画をきちっと事業者に立てて特定苗木の植栽計画を出してもらって、そこに支援をしていくというスキームでございまして、造林未済地になるというようなことはないものと考えております。

○紙智子君 まあ、未済地になることはないというんですけれども、やっぱり特定植栽促進区域が造林未済地になったならば、これは森林吸収源対策に反することになると思うんですね。
 林業者の方は、山づくりの観点から、エリートツリー一辺倒になるのは困るというふうにも言っているんです。何というの、山のつくり方というのは一律じゃないですよね。和歌山のある森林のところでいうと、物すごく年輪の密集した木を作っているんですよ。本当に目が細かい、質のいいものを作るということで、そういうふうな山づくりというか、木を作っているところもある。だから、一部で取り入れられるならいいけど、これがあちこちで一律どこでもとなると困るよなって話をされてもいるんですけれども。
 特定の植栽促進区域の造林というのは、これ、エリートツリーに限定されることになるんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) お答え申し上げます。
 特定植栽促進地域は、エリートツリー等の特定苗木の植栽に適した地域をあらかじめ指定し、特定苗木の植栽を促進するものでございますけれども、区域内の植栽が特定苗木に限定されるものではございません。今委員おっしゃられましたように、経営者の意思決定ということになろうかと思っております。
 また、特定苗木につきましては、成長が早いということでございまして、密度を減らして植栽するようなこともできますけれども、早く育つことによってコストの低減効果もあろうというふうに考えております。
 また、今、年輪の話がございましたけれども、早く育つことにより、長く時間が掛かる、年輪が密なものを育てるに当たっても、とても長く掛かるものを短縮することもできるというふうに考えております。

○紙智子君 やっぱり山づくりというのは林業者によって様々だと思うんですね、考え方も違うし。エリートツリーの植栽のこの推進で、多様な林業がそれでもって縛られることがないようにしていただきたいと思います。
 それから、この後はちょっとまた話が変わるんですけれども、自伐型の林業についてお聞きしたいと思います。
 自伐型の林業は、長伐期多間伐施業で、持続可能な環境保全型の林業を実践しています。昨年、北海道の自伐型の林業推進協議会の皆さんが管理をしている札幌市にある手稲山を見に行ってきたんですね。そこはミズナラとかイタヤカエデとか非常にたくさんの樹種から成る広葉樹林なんですけれども、自伐型の林業の方は、皆伐など過度な伐採はせずに、必要最小限の間伐で良い木を残すということで山全体の価値を上げているんです。
 それで、この自伐型林業への支援策で、森林・山村多面的機能発揮対策交付金というのがあるんですけれども、この交付金は間伐とかつる切り、それから雑木木の刈り払いとか、作業路の敷設などに活用されています。
 それで、間伐材は、炭焼きなどにも利用したり、それから枝葉については、へえと思ったんですけど、枝葉については、札幌市の円山動物園があるんですけど、そこの象などの餌として供給するなど、森林資源として有効に活用されているんです。無駄なく使っていこうという考え方に立っているんですけど。
 それで、ちょっと資料をお配りしたんですけれども、それを見てほしいんですけれども、現在、北海道では七十九団体、全国では千百七十六もの団体がこれを活用しているわけですけれども、予算額が平成二十五年の三十億円から半減しているんですよね。それで、なぜここまで減額されているんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 本郷浩二君) 森林・山村多面的機能発揮対策交付金につきましては、今委員おっしゃられたような様々な山村地域のコミュニティーの維持、活性化をさせるために、地域住民や森林所有者等により構成される活動組織が実施する森林の保全管理等の地域活動に対して一定の費用を支援するものでございます。
 予算のより効果的、効率的な執行の観点から支援メニューの整理を行っていることに加え、平成二十八年度行政事業レビュー公開プロセスでは、整備の優先順位が決まっていない、事業効果が不明であるなどの理由から事業全体の抜本的な改善又は廃止との評価結果であり、この結果を踏まえ、平成二十九年度は抜本的な見直しを行いました。
 活動効果を受益する地方公共団体が一定の金額を負担すべきと考えられることから、地方公共団体の支援を促し、このような支援を行われる活動について優先採択をすることとしており、このことにより国からの支援の減額を補い、活動に必要な金額を確保することにつなげているということでございます。

○紙智子君 やっぱり足りないという話が出ておりまして、やっぱり森林が保つ地球環境保全機能などの多面的機能を発揮させるためには、地域の森林を適正に維持管理する方々への支援を充実させる必要があるんじゃないかと思うんですね。交付金はその大きな役割を果たす重要な支援策だと。もうちょっと丁寧に拾っていただきたいんですね。よく見てほしいと思うんですよ。
 それで、協議会の方は、林業従事者を始めいろんな方たちで構成されているんですけど、飲食店を経営されていた方とか会社経営だった方とか地方議員の人とか地域おこし協力隊の方とか、とにかく多様な職種の方がこの山づくりに参画しているんですね。地域の森林を守るために大事な活動をしています。一定数の会員が存在する組織では、現状の、一つのこの組織に対する交付金の上限額でいうと五百万円なんですけれども、五百万円では少な過ぎるということで要望が出されているんです。
 この交付金の予算の拡充について検討すべきではないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 御指摘の交付金につきましては、これは地域住民による森林の保全活動、管理活動を始めとした幅広い取組を支援するものでありまして、活動の実態を踏まえてできる限り多くの活動組織を支援するために、一定の上限額、今五百万という話ございましたが、これを設定をしているところであります。
 また、支援に当たっては、地方公共団体による支援を促しており、国からの支援と併せて活動に必要な金額を確保することとしているところでありますが、農林水産省としては、引き続き、活動の実態や活動組織の要望等現場のニーズを踏まえまして、活動組織が実施する森林の保全管理等の地域活動の支援に取り組んでまいりたいと考えております。

○紙智子君 この自伐型林業の取組を通じて、これまで五千人以上の方が研修を受けて、地域おこし協力隊の方が地域に定住をして林業従事者として独立するなどの新しい林業の担い手が生まれています。自伐型林業を支援する地方自治体も五十三自治体に広がっているんですよね。森林所有者と地域に密着した自伐型林業者をマッチングする事業を始め、支援策も予算化されています。
 私は、昨年、北海道の北竜町というところで、林業をやりたいということで移住してきた若い夫婦に会ったんですけれども、この夫婦は自伐型林業の研修を二年間受けていて、挑戦してやっていきたいんだというふうに言っていました。町で長年林業に携わってきた長老の方が、若い後継者がこうやって町に、若い人がいないところに来て定着してくれたら本当に有り難いし、応援していきたいというふうに言っていました。
 是非、国として自伐型林業を山村振興や森づくりの担い手としてきちんと政策に位置付けて支援をすべきではないかと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 自伐型林業につきましては、今先生からお話あったとおり、きめ細かな路面整備ですとか丁寧な間伐などにより、木材やチップ原料ですとか、あるいはバイオマス原料の搬出、販売に取り組んだり、あるいは林業とアウトドアのガイドをやって複合的な経営をしながら地域に密着をするというような事例も出てくるなど、地域林業の活性化ですとか、あるいは山村振興を担う重要な主体の一つであると考えております。
 このため、農林水産省としては、例えば、この自伐型林業を行う者を含む地域住民、あるいは森林所有者による里山林等の保全利用のための共同活動ですとか、あるいは、実施に必要なチェーンソー等の資機材の購入等の取組に対して支援を行うとともに、この自伐林家ですとか、あるいはこの林業を行う者に対する整備に対しては美しい森づくり基盤整備交付金等で支援をしているところでありますが、今後ともこうした施策によりまして自伐型林業への支援を行ってまいりたいと考えております。

○委員長(上月良祐君) おまとめください。

○紙智子君 はい。
 終わりになりますけれども、やっぱりカーボンニュートラルを実現するということでいえば、森林が有する地球環境保全機能を発揮させることが重要だし、長期を見据えた持続的な山づくりが必要だと思うので、皆伐促進の林業の成長産業化ではなくて、環境保全型の林業への転換を求めて、質問を終わります。