<第203回国会 農林水産委員会 2020年12月8日>


◇加工原料乳生産者補給金の単価と集送乳調整金について/肉牛の在庫保管対策について/生乳の流通改革について/牛のヨーネ病について

○農林水産に関する調査
(畜産物等の価格安定等に関する件)
(畜産物価格等に関する決議の件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 最初に、畜産物価格の問題から聞きます。
 今年は新型コロナウイルス感染症拡大で、国民生活も日本経済も大きな影響を受けました。外食需要、インバウンド需要が落ち込んで、保存が利かない生鮮食品は加工品以上に大きな影響を受けました。
 生乳は、小中学校の一斉休校に伴って学校給食用牛乳への出荷が止まったために、酪農への影響が心配されました。この点では、指定団体を始め関係者の御努力と政府の支援によって生乳を破棄することなく乗り切ることができたということです。農協を始め関係者の機動的な対応に敬意を表したいと思います。同時に、指定団体は需給調整に大きな役割を果たしてきました。その重要性が確認できたんじゃないかと思います。
 政府のコロナ対策全体には感染拡大防止策など異論があるところですけれども、新型コロナ感染症の拡大が続いている中で今年のこの畜産価格の決定がどうなるのかということは、畜産関係者は注視していると思います。かつて経験したことがないコロナ禍での価格決定なので、経営的にはもちろんですけれども、畜産業を励まして、やはり優れた農畜産物を広く国民的に知ってもらって広げる対策が必要だというふうに思います。
 新たな酪農・肉用牛近代化方針は、十年後の生乳生産量を七百八十万トンにするというふうに明記しました。北海道では増頭して、生乳四百万トン時代が到来したと言われています。政府の方針に沿って増頭しているさなかのこの新型コロナによる需要の減少ということであります。
 加工原料乳生産者補給金は現行水準を下回らないということ、それから集送乳調整金は、ドライバー不足なども言われていて続いていますので、現行水準を上回る設定にしていただきたいということを求めたいと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 加工原料乳生産者補給金等につきましては、この補給金単価は加工原料乳の生産地域の再生産が可能となるよう生産コストの変動や物価動向を考慮して、そしてもう一つの集送乳調整金単価につきましては、あまねく集送乳の確保が可能となるように集送乳に要するコストの変動や物価動向等を考慮して、これはいずれも食料・農業・農村政策審議会の意見を聞いて決定することになりますが、本年度についてもこれらのルールにのっとって決定をしていくことになりますが、今御指摘のあった状況があります。生産者が安心して生乳生産に取り組めるように、また輸送コストも上昇する中でもこれ確実に集送乳が行われるように、適切な算定に努めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 令和元年、二〇一九年の牛乳生産費が公表されましたが、搾乳牛一頭当たりの全算入生産費は前年度よりも増加しています。現行水準以上の設定を求めたいと思います。
 次に、新型コロナで生乳は保存の利く乳製品に仕向けました。そのために、バターや脱粉、脱脂粉乳共に在庫量も増加していると思うんです。新型コロナの収束が見えない中で、脱脂粉乳の飼料用等での活用や、脱脂粉乳、バターの輸入品との置き換えなどの対策が必要ではないですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 委員御指摘のとおり、今年の三月から六月にかけまして、学校の休校とか緊急事態宣言の関係で、業務用の牛乳製品の需要が減退をいたしております。学校給食の関係もございます。この中で生乳廃棄を極力回避するということで、何とか回避をしようということで、長期保存が可能なバターや脱脂粉乳に仕向けてまいりました。その結果でございますが、十月末の時点でバターの在庫数量は三万八千トンございます。それから、脱脂粉乳の在庫数量は八万トンと、前年を大きく上回る水準になっているところでございます。
 こうした中でございますけれども、バターにつきましては、一つは年末のクリスマスの最需要期をこれから迎えるところでございまして、需要の増加が見込まれることがございます。それから、国家貿易、輸入枠数量につきまして、二万トンから一万四千トンに六千トンを削減をいたしました。
 それから、脱脂粉乳の方でございますけれども、これも国家貿易の輸入枠数量について、四千トンから七百五十トンに三千二百五十トン減らしました。さらには、今年の四月、第一次補正予算と同時に措置をいたしましたALICの事業で、脱脂粉乳の在庫につきまして、これを飼料用等に活用するということで価格差を支援をするという事業を今行っているところでございまして、これで今後約二万トン程度が消費される見込みでございます。八万トンの在庫数量のうち二万トンが消費されますとほぼ適正在庫数量という形になるということでございますので、今後ともこの需給動向を注視しながら必要な対応を検討してまいりたいと考えております。

○紙智子君 それでは、肉牛についてもお聞きします。
 今年九月の牛肉の枝肉卸売価格が、和牛でキロ当たり二千八十七円ですが、交雑種で千三百五十一円、乳牛は九百二十三円です。和牛に比べて交雑種と乳牛の価格というのは戻っていないんですね。保管対策など必要ではないでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 新型コロナウイルスの影響でございますが、外食とかインバウンド需要の減少に伴いまして和牛肉の需要が低下をいたしまして、在庫が積み上がって枝肉価格が下落をしたということでございます、まずは。
 それに伴いまして交雑種や乳用種の価格も連動するようなことでございまして、こういう中で、まずは枝肉価格下落の主な要因でございます和牛肉の在庫解消に向けまして、和牛肉の保管在庫支援緊急対策事業というものを措置をいたしまして、和牛肉の保管料とかを支援するとともに、販売促進という形で取り組んだところでございます。
 それから、国産農林水産物の販売促進緊急対策事業というものにおきましては、学校給食とか子供食堂に供給する場合の支援でございますけれども、これにつきましては、和牛のみならず、交雑種や乳用種につきましても支援の対象として取り組んだというところでございます。
 こうした取組あるいは経済活動の回復等によりまして、今年の十一月時点の交雑種と乳用種の枝肉価格でございますが、前年同月に比べまして、それぞれマイナス二・六%、マイナス三・五%の水準まで回復してきているところでございますが、引き続き価格の動向に注視してまいりたいと考えております。

○紙智子君 北海道では、この乳牛とか交雑の牛肉というのは多いんですよね。それで、やっぱり低い状況が続いているということですから、是非これ以上下がらないようにしっかりと対策を打っていただきたいと思います。
 次に、生乳の流通改革についてお聞きします。
 二〇一八年度から加工原料乳生産者補給金制度が変わって、指定生乳生産者団体の一元集荷が撤廃されました。指定団体以外の流通が可能になった結果、昨年十一月には、群馬県の生乳卸、ミルク・マーケット・ジャパン、いわゆるMMJが北海道の九戸の酪農家から集乳を停止をして、大量の生乳が破棄されるという事態になりました。
 安倍前総理は、二〇一六年の十一月七日に開かれた規制改革推進会議で、生乳の流通改革は酪農家が販路を自由に選べ、流通コストが削減できる公平な事業だというふうに言っていたわけなんですね。
 今回、生乳が廃棄されたと。流通改革は、これ、生産者にとってはリスクがあるんじゃないですか、大臣。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 北海道におきます集乳停止による生乳廃棄でございますけれども、これにつきましては、昨年冬から今年の春にかけまして、北海道で一部の集乳業者の集乳停止によりまして生乳廃棄が生じたものでございます。
 農林水産省といたしましても、その当該集乳業者を始め、生産者が属する組織あるいは生産者に対して聞き取りを行いました。その結果、その集乳業者からは、生産段階で生乳への異物混入が原因でこの受入先、販売先の乳業者から生乳の受入れを断られた生産者がおりまして、その生乳が廃棄されたといった報告を受けましたが、一方で、生産者の側からは、異物混入は事実でありますけれども、既に改善しておりまして、その後はその集乳業者を経由せずに乳業メーカーへ出荷して受け入れられているというお話をいただいたところでございます。
 この生乳廃棄の事例につきましては、この廃棄された生乳の費用をどちらが負担するかということについて論点となっておりまして、契約当事者間の取引上の問題であるというふうに考えております。

○紙智子君 異物混入というお話されるんだけど、異物混入は九件のうち三戸だけなんですよね。
 それで、安倍総理は、所得が増やせる改革だとも言っていたわけです。しかし、実際にこれ生乳を廃棄した場合に、これで農家の所得が増えるなんというふうには思えないわけで、これで農家の所得増やせるということなんですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 生乳が廃棄された場合に農家の所得が増えるということではございませんけれども、農家の所得そのものにつきましては、生乳の需給ですとか、あるいは生産資材価格等の要因により変動するということでございますけれども、農林水産省といたしましては、この改正された畜安法によりまして、生産者の方々には、出荷先を自由に選べる環境の下、創意工夫による所得増大の機会、こういったものを生かしていただくということを期待しているところでございます。

○紙智子君 何か、異物混入されていたから問題で、今はそれは変えてちゃんと元に戻っていますよみたいな説明されるんだけれども、ちょっと違うと思うんですよね。
 生乳のこの需給の安定、あるいはこの畜産経営の安定、これを目指した改正畜安法の趣旨からいっても、これ逸脱する事態だと思うんです。そして、制度の信頼性をやっぱり揺るがす、そういう、現場に混乱を招いたということでもあると思うんですね。
 安倍前総理の肝煎りで進められた規制改革推進会議が主導した改悪だというふうに思うんですけれども、これについてやっぱり点検もし、検証を強く求めておきたいというふうに思います。
 それから、昨年に続いて、ヨーネ病の対策についても聞きます。
 北海道でヨーネ病の感染拡大が止まっていません。二〇一九年の発生状況は全国で千六十六頭だったんですが、そのうち北海道は九百四十五頭で、三百二十戸で発生しました。
 市場で購入した牛から陽性反応が出て殺処分をした事例も発見されています。ヨーネ病の潜伏期間は、発症するために時間が掛かるわけです。牛の市場取引の段階でヨーネ病の感染牛を発見をして感染拡大を防止する対策が必要ではありませんか。

○政府参考人(農林水産省消費・安全局長 新井ゆたか君) お答え申し上げます。
 牛のヨーネ病、慢性的な下痢によりまして牛が痩せ細り、乳量が低下するといった被害を起こす病気でございまして、委員御指摘のとおり、発生まで、発症するまでの期間が六か月から数年と長く、急性疾病に比べまして管理が非常に難しいという特徴がございます。
 ヨーネ病の検査につきましては、家畜伝染病予防法に基づく定期的な検査によりまして感染牛を摘発するとともに、農場への導入牛によって疾病の持込みを予防する対策として、ヨーネ病の清浄農場からの牛の導入や、検査して陰性が確認された牛の導入というものを指導しているところでございます。
 委員御指摘の検査、事前検査でございますけれども、牛を導入する前に行う検査を徹底していくということも有効な手段であるというふうに考えておりますので、農林水産省といたしましては、家畜生産農場衛生対策事業におきましてその検査費用を支援しているところでございます。

○紙智子君 通過菌対策という問題もあるんですけど、遺伝子検査でふん便中のヨーネ菌の遺伝子が基準に満たない量の場合は、これ患畜扱いはしないわけですよね。しかし、北海道のようにヨーネ病の発生が増えている地域、遺伝子量が少ないというふうには言っても、やっぱり感染拡大を防ぐ対策というのは強化すべきなんじゃないかと思うんですよ。
 それで、感染が多発している地域は、これ、やっぱり集中的な感染防止策を取っていただきたいということを求めておきたいと思います。これに一言お願いします。

○政府参考人(農林水産省消費・安全局長 新井ゆたか君) 発生農場におきます高リスク牛、今お話がありました遺伝子検査の結果、検体中に一定量未満のヨーネ菌遺伝子が確認されたもの、それから患畜と疫学的に関連が高いもの、エライザ法による検査で陽性となったもの、これらの高リスク牛につきましては早期更新というのを進めているところでございます。
 この高リスク牛の淘汰を強化するために、農林水産省といたしましては、当該家畜の評価額から健康畜として利用可能な畜肉等の金額、いわゆる出荷額を控除した額の三分の二というのを支援しておりまして、これらを御活用いただきたいと思っております。

○紙智子君 引き続きしっかり対応していただきたいと思います。
 では最後に、吉川貴盛元農水大臣の疑惑についてお聞きします。
 報道によれば、三回に分けて現金の授受が行われたというふうになっています。一回目は二〇一八年の十一月とされています。この時期というのは、OIEのアニマルウエルフェアの二次案が提示をされて、それを受けて十一月十二日に日本養鶏協会と国際養鶏協議会が当時の吉川農水大臣に要請書を提出した月です、十一月。それから、二回目は二〇一九年の三月に大臣室で二百万円と。現金授受の前の二〇一九年の一月は、日本がOIEに対して巣箱と止まり木の義務化をやめるようにコメントを提出した、まあお礼の疑いもあると。三回目は二〇一九年の八月に百万円。これ、七月には、八月の前、七月に日本がOIEにコメントを提出した直後なんですね。このとき日本のコメントというのは、ケージで飼う養鶏の密飼いを認めないとする二次案に問題があるとするアメリカのコメントに賛同する中身だったわけです。
 こう見ていくと、献金をしている時期というのは、要望を受け取った時期、あるいは日本がコメントを出した時期に符合してくるんですね。OIEにコメントを出すに当たって、吉川大臣から何か指示があったでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) 捜査に関わることでございますので、コメントは差し控えたいと思います。

○紙智子君 こういう今の系列、時系列で符合するという話をしたんですけれども、係争中のことだということなんだけれども、コメントを大臣が一人で勝手に判断して出すということはちょっとないと思うんですね。当然、コメントを出すときには議論があったと思うんですけど、農水省で議論はあったんですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) OIEにコメントを出す際に当たりましては、例えばOIEの二次案に対するコメントを出す場合にはOIEの連絡協議会というものを開催をしているところでございまして、平成三十年十二月十九日あるいは令和元年の六月十七日、二回開催しておりまして、消費者関係の方、あるいは学識経験者の方、そして産業界の方、生産者の方、そういった方々が入っていただいて御意見をいただきまして、それを踏まえて農水省として意見を提出したというものでございます。

○紙智子君 要望を受け取ったということは、これは間違いないんだと思うんですよ。そういう受け取った事実はあるんだと思うんです。
 それで、日本養鶏協会が出している日鶏協のニュースというのもあるんですよ、業界のニュースが。そのニュース見ますと、二〇一九年の二月号にアニマルウエルフェア対策協議会発足という内容があると。同協議会では、二〇一八年十一月十二日に吉川農水大臣に要望書を提出し、十二月二十日には農林水産省の畜産振興課長、動物衛生課長に要望書を提出し、政治行政へ力強く働きかけましたと書かれているんですね。力強くというのはこれどういう力なのかというふうに思うんですが。そして、更に続けて書いてあるのは、二〇一九年の一月十一日には、こうした協議会の活動が功を奏し、OIEの採卵鶏のアニマルウエルフェア条項の修正二次案に対する力強い反論が農林水産省からOIEに提出されましたとニュースに書いてあるわけです。
 これ、もしかして、裏金で政治がゆがめられた疑い出てくるんじゃないのかと、そういう疑念というのがどうしても起こってくるんですけれども、こういう重大な疑念に対して大臣はどう思われますか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 捜査活動に関することについてはコメントは差し控えさせていただきますが、その上で、御指摘の件につきましては、アニマルウエルフェアに関するOIEへのコメントについては、その検討に当たっては、養鶏の生産者団体、消費者団体や学識経験者等の多くの方から出された意見を踏まえて、多様な飼養形態を認めるべきとの旨のコメントを提出しているということでありまして、妥当なものだと認識をしております。

○委員長(上月良祐君) 時間が参っておりますので、おまとめください。

○紙智子君 疑念が出ているわけですから、やっぱりちゃんと農水大臣として責任を持って調べるべきだと思うんですよ。
 そして、加えて言うならば、西川元農水大臣の問題も、先ほどありましたけれども、現在は内閣官房参与で、身分は一般職の非常勤公務員だと、その担当は農林水産省の振興となっていると。これ、利害関係者であるアキタフーズからクルーザーで接待を受けていいのかという問題もある中で、私は、やっぱり歴代の大臣二人が関わっていたとすれば、これ深刻な問題だと思います。
 疑惑の解明には、是非ともこれ、吉川氏と西川氏御本人から話を聞くべきだというふうに思いますので、是非、参考人として委員会に、閉会中ということになるかもしれませんけれども、出席を求めたいと思いますけれども、いかがでしょうか。

○委員長(上月良祐君) もう時間が参っておりますので。(発言する者あり)
 ただいまの件につきましては、後刻理事会にて協議をいたしたいと思います。します。

(略)

○委員長(上月良祐君) 本件に対する質疑はこの程度にとどめます。
 田名部さんから発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代さん。

○田名部匡代君 私は、自由民主党・国民の声、立憲民主・社民、公明党、日本維新の会、国民民主党・新緑風会及び日本共産党の各会派並びに各派に属しない議員須藤元気さんの共同提案による畜産物価格等に関する決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    畜産物価格等に関する決議(案)

  我が国の畜産・酪農経営は、畜産クラスター等の地域の関係者が一丸となった取組の成果として、乳用牛、肉用繁殖雌牛の飼養頭数が増加に転じる一方、担い手の高齢化、後継者不足は深刻さを増しており、特に、中小・家族経営においては経営継続の危機にさらされている。こうした事態に対処しつつ、輸出目標の実現に取り組むため、新たな食料・農業・農村基本計画並びに新たな酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針を踏まえた生産基盤のより一層の強化や次世代に継承できる持続的な生産基盤の創造が急務である。また、規模の大小を問わず、生産者の生産性向上等を強力に支援するとともに、より多くの若手が就農を目指す魅力ある労働環境を構築することが重要な課題となっている。
  このような中での新型コロナウイルス感染症の拡大は、畜産・酪農経営に大きな影響をもたらしている。また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)等のEPAが発効、締結又は署名され、我が国の畜産・酪農の将来に対する懸念と不安を抱く生産者も多い。
  よって政府は、こうした情勢を踏まえ、令和三年度の畜産物価格及び関連対策の決定に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 新型コロナウイルス感染症による畜産・酪農経営への影響を克服するため各種支援策を強力に実施すること。また、新型コロナウイルス感染症の影響により乳製品在庫が高水準にある中、酪農経営の安定と牛乳・乳製品の安定供給の確保が図れるよう、非需要期における国産乳製品の需要拡大等の取組に対し、機動的な支援を講ずること。さらに、近年頻発する大規模災害に対応するため、飼料穀物の備蓄をはじめとする配合飼料の安定供給のための取組や施設での非常用電源設備の導入を支援すること。
 二 高病原性鳥インフルエンザ、豚熱の感染拡大防止は、現下の家畜伝染病の防疫上、最重要課題である。そのため、各種対策を強力に推進し、農場における飼養衛生管理基準の遵守の徹底を図り、感染リスクを低減させる取組を支援すること。また、高病原性鳥インフルエンザ等の発生農場及び移動・搬出制限を受けた農家に対する万全の支援を行うとともに、風評被害対策に万全を期すこと。アフリカ豚熱については、水際での防疫措置を徹底すること。これらの措置を着実に進めるため、地域の家畜衛生を支える家畜防疫員や産業動物獣医師の確保・育成を図ること。
 三 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定(日EU経済連携協定)、日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定(日米貿易協定)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定等が、我が国畜産・酪農経営に与える影響について、輸入実績など統計データを基に、分析を行い、これを公表すること。また、新たな国際環境下において、関税削減等に対する生産者の懸念と不安を払拭し、生産者が経営の継続・発展に取り組むことができるよう、実効ある経営安定対策を講ずること。その際、実施した施策の効果を検証し、適宜必要な見直しを行うこと。
 四 加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金の単価及び総交付対象数量については、中小・家族経営を含む酪農家の意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。また、期中における一方的な出荷先の変更により集送乳の調整に混乱を来す事例は減少傾向にあるが、生乳取引の安定や適切な需給調整が図られるよう、引き続き、必要な措置を講ずること。
 五 肉用子牛生産者補給金制度における保証基準価格等については、中小・家族経営を中心とする繁殖農家の経営努力が報われ、営農意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。
 六 世界中で評価の高まっている和牛肉等の輸出拡大に向け、生産・流通・輸出事業者が連携したコンソーシアムの組織化・販売力の強化や、輸出先国・地域の衛生条件を満たす食肉処理施設等の整備を促進するとともに、輸出先国・地域の輸入規制への対応については、政府一体となって、戦略的かつ迅速に進めること。また、国産畜産物の需要拡大等に対応するための施策を継続的に措置すること。
 七 中小・家族経営をはじめとした地域の関係者が連携し、地域一体となって収益性の向上を図る畜産クラスター等について、引き続き、現場の声を踏まえた事業執行に努めつつ、収益性向上等に必要な機械導入や施設整備、施設整備と一体的な家畜導入等を支援すること。また、乳業工場・食肉処理施設の再編整備、国産チーズの競争力強化に向けた取組等を支援すること。
 八 酪農経営など、特に中小・家族経営にとって不可欠な存在であるヘルパーについては、その要員の育成や確保・定着の促進のための支援を行うとともに、外部支援組織の育成・強化を図ること。また、ロボット、ICT、IoT、AI等の新技術の実装を推進し、生産性向上に加え労働負担の軽減等を図るとともに、次世代を担う人材を育成・確保するための総合的な対策を実施し、既存の経営資源の継承・活用に向けた取組を強力に支援すること。さらに、畜産GAPの普及・推進体制の強化を図るための指導員等の育成やGAP認証取得等の取組を支援すること。
 九 家畜のストレスや疾病を低減し、畜産・酪農の生産性や畜産物の安全性を向上させるため、アニマルウェルフェアに関するOIEの科学的知見に配慮して、適切な飼養スペースの確保等家畜の飼養管理の普及を図ること。
 十 資源循環型畜産の実践に向け、家畜排せつ物処理施設の整備や堆肥等の利用推進等の取組を支援するとともに、これらの取組に資する微生物の活用など新技術の活用を図ること。
 十一 家畜能力等の向上を図る取組を一層支援すること。また、家畜改良増殖法及び家畜遺伝資源に係る不正競争の防止に関する法律に基づき、関係者の長年の努力の結晶である和牛遺伝資源の適正な流通管理及び知的財産としての価値の保護強化を図ること。
 十二 輸入飼料に過度に依存した畜産・酪農から国産飼料に立脚した畜産・酪農への転換を推進し、飼料自給率の向上を図るため、優良品種の普及、気象リスクに対応した飼料生産、水田等の活用、放牧を支援するとともに、大型機械による飼料生産を可能とする草地整備等を推進すること。また、畜産・酪農経営の安定に資するよう、配合飼料価格安定制度の安定的な運営を図ること。
 十三 国際社会において、SDGsに基づく環境と調和した持続可能な農業の促進が求められていることを踏まえ、地球温暖化防止や生物多様性保全等の環境負荷軽減に取り組んでいる生産者を力強く支援すること。
 十四 原発事故に伴う放射性物質の吸収抑制対策及び放射性物質に汚染された稲わら、牧草等の処理を強力に推進すること。また、原発事故に係る風評被害対策に徹底して取り組むこと。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願いいたします。

○委員長(上月良祐君) ただいまの田名部さん提出の決議案の採決を行います。
 本決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(上月良祐君) 全会一致と認めます。よって、本決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。