<第203回国会 農林水産委員会 2020年12月1日>


◇種苗法の一部を改正する法律案に対する反対討論

○種苗法の一部を改正する法律案(第二百一回国会内閣提出、第二百三回国会衆議院送付)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、種苗法の一部を改正する法律案に対する反対討論を行います。
 反対する第一の理由は、自家採種を認めた第二十一条の二項と三項を廃止し、育成者と農業者の利益のバランスを崩し、国の役割を放棄するものだからです。
 一九九八年、UPOV九一年条約に沿って種苗法を改正したときに、農林水産省は、種苗の育成する側と使う農業者の側の一種の調和点だと答弁していました。
 二〇〇九年に農林水産省生産局知財課が編集した逐条解説種苗法では、九一年UPOV条約は、育成者と農業者の利益の調和を図り、育種活動の自由、自家増殖の例外を容認する等農業の実態に即したものである、普遍的な制度となっていると解説しています。
 また、農林水産省は、海外流出を防ぐには海外において品種登録を行うことが唯一の対策だと言ってきました。従来の見解にも反します。生産者の自家増殖の事実上の禁止は、成長戦略、輸出戦略を進めるためです。
 農林水産省の知財課長は、検証・評価・企画委員会産業財産権分野会合で、自家増殖が認められている分野で民間の参入が阻害されていると言っています。ここに本当の狙いがあるのです。
 改正案には育成者権の濫用を防止する規定はありません。育成者権のみが強化され、種苗会社の力が強くなれば、企業による種苗の支配が強まることになります。日本の育種力の発展は育成者と生産者と試験場の共助です。種苗の生みの親は試験場、育ての親が生産者だと言われています。自家採種の事実上の禁止は、農業者を種苗の単なる利用者、消費者にするもので、農業の多様性も生産者の創造性も奪うことになりかねません。
 反対する第二の理由は、生産者の負担を増やすものだからです。
 農林水産省の自家増殖に関するアンケートでは、三割もの生産者が種苗購入費を削減するためと答えています。新たに許諾料の支払が求められれば、生産者の負担が増えるのは明らかです。種苗代は、都道府県が開発した種苗より、国の農研機構が十倍から二十倍、民間では百倍もの高額なものもあります。農研機構が高額な許諾料を取ることは通常ないと言いますが、独法化以来許諾料を上げているのです。説明責任は果たされておりません。
 国際社会は、食料・農業植物遺伝資源条約を始め、種の権利、農民の権利を求める動きが広がっています。改正案はこの流れに逆行するものです。種苗法改正案の廃案を求めて、反対討論とします。

○委員長(上月良祐君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより採決に入ります。
 種苗法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手をお願いいたします。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(上月良祐君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、田名部さんから発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代さん。

○田名部匡代君 私は、ただいま可決されました種苗法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党・国民の声、立憲民主・社民、公明党、日本維新の会及び国民民主党・新緑風会の各派並びに各派に属しない議員須藤元気さんの共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    種苗法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)

  我が国の優良な登録品種は貴重な知的財産であり、これを適切に保護し、農業者の所得向上と地域の発展に寄与することが強く求められている。また、近年、我が国の優良な登録品種が海外に流出し、他国で生産され第三国に輸出される等、我が国からの農林水産物の輸出をはじめ、我が国の農林水産業の発展に支障が生じる事態が発生している。これらの課題に対処するため、育成者権の強化を図ることが求められている。一方で、育成者権の強化が農業経営に悪影響を与えるのではないかとの懸念にも十分配慮する必要がある。
  よって政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。

 一 我が国の優良な植物新品種の海外流出の防止を目的とした育成者権の強化が、農業者による登録品種の利用に支障を来したり、農産物生産を停滞させ食料の安定供給を脅かしたりしないよう、種苗が適正価格で安定的に供給されることを旨として施策を講じること。
 二 稲、麦類及び大豆の種苗については、農業者が円滑に入手し利用できることが我が国の食料安全保障上重要であることに鑑み、都道府県と連携してその安定供給を確保するものとし、各都道府県が地域の実情に応じてその果たすべき役割を主体的に判断し、品種の開発、種子の生産・供給体制が整備されるよう、適切な助言を行うこと。
 三 各都道府県が、稲、麦類及び大豆の種子の原種ほ及び原原種ほの設置等を通じて種子の増殖に必要な栽培技術等の種子の生産に係る知見を維持し、我が国の農業競争力の強化を図ることを目的として、こうした知見を民間事業者に提供するという役割も担いつつ、都道府県内における稲、麦類及び大豆の種子の生産や供給の状況を的確に把握し、必要な措置を講じることができるよう、環境整備を図ること。
 四 稲、麦類及び大豆については、品種の純度が完全で優良な種子の供給を確保するため、原原種の採種ほ場では育成者が適切な管理の下で生産した種子又は系統別に保存されている原原種を使用するよう指導すること。
 五 種苗法に基づき都道府県が行う稲、麦類及び大豆の種子に関する業務に要する経費については、従前と同様に地方交付税措置を講じること。
 六 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、都道府県等の試験研究機関が育成した登録品種に関する通常利用権の許諾については、その手続等が有機農業をはじめ農業者の負担になることのないよう、適切に運用するとともに、これらの公的試験研究機関に対してガイドラインを提示する等により、その周知徹底を図ること。
 七 農業者が意図せずに、育成者権者の許諾を得ずに登録品種の自家増殖を行い、不利益を被ることを防止するため、農業者に対して、制度見直しの内容について丁寧な説明を行うこと。
 八 公的試験研究機関が民間事業者に種苗の生産に関する知見を提供する場合においては、我が国の貴重な知的財産である技術や品種の海外や外国企業への流出を防止するため、適切な契約を締結する等十分留意するよう指導すること。
 九 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センターのDNA分析等の技術開発の促進や品種保護対策役の人員体制の拡充等を図るとともに、税関等の水際対策を強化すること。
 十 登録品種の種苗の海外流出の防止に当たっては、ホームセンター等の販売員等が意図せずに登録品種の種苗を外国人に販売すること等により不利益を被ることを防止するため、ホームセンター等に対して、制度見直しの内容について丁寧な説明を行うとともに、国において適切な運用を図ること。
 十一 海外での品種登録の取組を支援し、推進すること。
 十二 新品種の開発は、利用者である農業者の所得や生産性の向上、地域農業の振興につながるべきものであることに鑑み、我が国において優良な植物新品種が持続的に育成される環境を整備するため、公的試験研究機関による品種開発及び在来品種の収集・保全を促進すること。また、その着実な実施を確保するため、公的試験研究機関に対し十分な財政支援を行うこと。さらに、これらの施策を推進する立法措置に関する国会における議論に資するよう、必要な情報を適時適切に提供すること。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をよろしくお願いいたします。

○委員長(上月良祐君) ただいま田名部さんから提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(上月良祐君) 多数と認めます。よって、田名部さん提出の附帯決議案は多数をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。