<第203回国会 農林水産委員会 2020年11月26日>


◇第21条の自家採取の規定の削除について/海外流出防止と育成者権の強化について/作物別の経営コストに占める種苗費の割合の増加について/

○種苗法の一部を改正する法律案(第二百一回国会内閣提出、第二百三回国会衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 種苗法は、農作物の新しい品種を開発した人や企業に種苗の生産や販売する権利、育成者権を認めるとともに、農業者が収穫物の一部を種苗として使う自家増殖を認めています。これはUPOV九一年条約に沿った対応だと思うんです。
 一九九八年に種苗法を改正したときに、当時、高木賢農産園芸局長は、種苗の育成する側と使う農業者の側の一種の調和点だというふうに答弁されています。
 二〇〇九年に農林水産省の生産局知財課が編集をしている逐条解説というのがあるんですね、種苗法。これは、九一年UPOV条約は育成者と農業者の利益の調和を図り、育種活動の自由、自家増殖の例外を容認するなど農業の実態に即したものである、普遍的な制度となっているというふうに説明しているわけです。
 政府はこれ、育成者と農業者の利益のバランスを取ってきたんだと思うんですよ。ところが、今回、第二十一条の自家採種の規定を削除をしてバランスを変える必要があるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) 今ほど来議論がありましたとおり、例えば山形県の紅秀峰の種苗等が流出をした、こういう事例が出てきたわけでありますが、現行法でもこの自家増殖されました登録品種の種苗を海外に持ち出すことは育成者権の侵害になりますが、登録品種の増殖実態の把握ですとか疑わしい増殖の差止め、あるいは刑事罰の適用ですとか損害賠償に必要な故意や過失の証明が困難となることから、海外持ち出しの抑止が困難となっております。
 また、この法改正によりまして育成者権者が海外持ち出し不可の条件を付した場合には、正規に販売された種苗の持ち出しはできなくなる結果、農業者個人の種苗が狙われることが懸念をされますので、育成者権者の許諾を必要とすることとしたわけであります。
 他方、一般品種については、農業者は許諾後、許諾料も必要なく自由な栽培が可能であること、また登録品種についても、これはいつまでも権利を認めるものではなくて、育成者権者の存続期間が満了すれば一般品種となり、誰でも自由に利用ができるようにしております。
 このように、種苗法の枠組みの下では、農業者による自由な種苗の利用と農業の活性化につながる品種開発の促進のための新品種の保護の双方について配慮がなされていると考えております。

○紙智子君 海外流出を防ぐ手だてというのは、農水省自身が、これ何度も出ていますけれども、海外において品種登録を行うことが唯一の対策だと言ってきたわけですよね。それから、衆議院の質疑では、流出を完全に止めることは難しいという答弁をされているわけですよ。ですから、海外流出を防止するためというふうに言うんだけれども、これ本当に説得力はないなと思います。
 種苗法の一九九八年改正以降、種苗が海外に不当、不法に持ち出されて海外で生産されて逆輸入してくるので日本農業に大きな打撃を与えるんだという議論は、これ当時から何度もされてきたと思うんですね。それで、二〇〇五年の改正の前には、農水省の植物新品種の保護の強化及び活用の促進に関する検討会がやられて、そこで自家増殖を見直そうという話が出ましたけれども、反対の声も多く寄せられて、これ見送られたと。それから、二〇〇七年の改正のときも議論になったんだけれども、このときも見送りになりました。
 当時、農水省の生産局長は、さっき質問されましたけど、山田修路さんが答弁席に立っていたわけで、山田さんは、当時、農林水産省としては、これまで自家増殖を原則として自由にしてきたという理由があるというふうに言って、その一方で、検討会の報告もございますから関係者の意見聴取も行っていきたいという答弁を当時されていたわけなんですね。
 海外流出論というのは以前からある議論です。その中で、政府は冷静に育成者と農業者の利益のバランスを取ってきたんだと思うんですよ。近年でいえば、この新品種の育成者の権利を適正に保護するというのはこれ当然だと私も思います。これは余り反対はないんだと思うんですよ。
 その保護の仕方というのはいろいろ世界では議論されてきていて、近年でいうと、アメリカのように新品種を特許として保護する国がある一方で、欧州諸国のように、植物の特性には美的感覚や味覚や人間の嗜好によって評価を異にすること、それから、植物の新品種の育成には枝変わりとか、それから突然変異とか、こういう発見によるものもあることから特許になじまないとする国もあるわけです。各国でこの植物の新品種を保護するルール化を進める動きが進んできて、それで九一年のUPOV条約になっているんだと思うんですよ。
 今回の改正というのは、これは育成者権のみを強化する改正じゃないかと。農家が種を使いたければ許諾料を払うように求めると、違反する者は裁判で争うと、まさにこれアメリカ的な仕組みを目指すものになるんじゃありませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 野上浩太郎君) まず、この優良な品種の海外流出を防止するためには、各段階で、生産、流通等々で対策を講じることが重要であります。品種の開発者にあっては品種登録を海外でも適切に行うことや、あるいは種苗の流通業者にあっては販売条件の表示や伝達を適切に行うこと、また、生産者にあっては許諾に基づいて自家増殖を行っていただくことを求めることとしておりまして、それぞれの段階で取り組んでいただくものであります。
 その上で、この今回の種苗法改正といいますのは、育成者権者の保護をしっかりと適切にやっていくことによりまして育成者の品種開発を後押しするものでありますが、このことによりまして農業者の求める高付加価値な品種が生産をされていく、さらに生産性の高い品種なども開発をされていく、その産地が形成をされて地域の農業が活性化をしていく、これはまさに農業者のための改正だというふうに思っております。

○紙智子君 まあ、そういうふうに答えるかなと思っていましたよ。育成者をちゃんと保護すれば回り回って農民のためになるんだというような議論だと思うんだけど、私は、やっぱり育成者権と生産者との間に、アメリカのように何でも裁判で争って、ある意味、対立と憎しみを持ち込むようなことというのはやっぱりいいのかと思うんですよね。
 それで、元種苗課長の松延洋平さん、この方は新聞や雑誌でいろいろ発言していますけれども、種苗の生みの親は試験場だが、育ての親は農家なんだと、自家増殖を原則禁止にすれば農家育種は廃れてしまって、結果的には日本の育種力は低下につながると言われているんですよね。
 育種の、種苗の発展というのは育成者と生産者の共助なんだと思うんですよ。農家の育種の発展には試験場や農業改良普及所が大きな役割を発揮してきたと思うんですね。だけど、その予算と人員はどんどん近年削られてきていて、育種力の低下を招いているんだと思うんですよ。そういうところを見なきゃいけないと思うんですね。
 政府は、本来、育成者とこの農業者の利益のバランスを取る役割を取ってきたんだと思うんですね。ところが、これ、一方の権利のみを強調するということはバランスを欠くことになって、これ政府の役割放棄になるんじゃないかと思うんです。
 育成者の権利のみを強化したらどういうことになるのかということで、ちょっと配らせていただいた資料を見てほしいんですけれども、これは作物別の経営コストに占める種苗費の割合です。

配布資料

 単位は十アール当たりということで、米、大豆、麦、いわゆる主要農作物ですが、これは公的品種だと思います。十年間で見ると、米は三・九%から四・四%、大豆は六・二%から七・八%、小麦は五・四%から六・四%と、経営費に占める種苗費の割合が増えています。まあ、この数字自体がそんなに高くないのかなというふうに思う人もいると思うんですけど、徐々に徐々にこれ上がってきていると、増えてきているということが分かると思うんですね。
 それから、野菜の方を見てください。統計上はたくさんありましたので、これ絞りました。露地の大玉トマトは六・九%から一四・九%で二倍強。施設大玉トマトは、平成二十一年七・二%から八・二%。それから、露地のキュウリは平成二十四年の六・四%から一三・一%に倍加しています。
 なぜこれだけ増加しているのか、どう分析されているのかをお聞きしたいと思います。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) お答えをいたします。
 米、それから大豆、小麦というのが左の方にございまして、そこにつきましては、経営費、経営コストに占める種苗費の割合というのが増加をしているという御指摘でございます。ただ、一方で、種苗費自体を見ますと、ほぼ変わらないというようなことが見て取れるのではないかというふうに思っております。これは、経営費がいろんなコスト削減努力を続ける中で全体的に下がる中で、種苗費につきましては変わらないことから、ウエートが少し上がったというふうになるのではないかというふうに見ております。
 野菜につきましては、今、米、大豆、小麦につきましては種苗費自体がそんなに変わらないというふうに申しましたけれども、確かにこの表で見ますと、種苗費自体が徐々に上がっているということが見て取れます。これは我が省の統計部が統計を取っておりますので、統計部に確認をしたところ、これは統計的な調査客体、調査をする対象が変わったことなどによってこの統計上の数字というのが変わってきているというふうに聞いたところでございます。

○紙智子君 だから、野菜は生産費の調整やめているんですよね。だから、ばらつきが出てくると思うんですよ。それから、野菜は経営に占める種苗費の割合をこれ系統的には把握できなくなっているんです、今。ただ、それでも米、麦、大豆に比べると種苗のコストの比率が野菜は高くなっていますよね。
 それで、農研機構は、民間と耐病性品種、つまり病気に強い品種などの共同研究を進めています。民間と共同研究しても、これ種苗代を安く抑えることというのはできるんだろうかと思うんですね。
 二〇一八年、種子法が廃止をされて、事務次官通知や農業競争力強化支援法で公的機関の知見を民間事業者に提供するように求めているわけですよ。言わば野菜の共同研究は米や麦、大豆の先取りになるんじゃないかと。米でも、今、業務用米の種というのは公的機関と民間の共同研究が進んでいるといいます。
 民間への知見の開放、規制緩和が進みますと、これ、主要農作物の分野でも公的品種が後退をして民間品種が主流になるんじゃないかと。そうすると、野菜の種と同じように経営費に占める種苗コストが増加することになるということがあるんじゃありませんか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 太田豊彦君) お答えをいたします。
 今回の種苗法の改正につきましては、開発の主体を公的機関から民間企業に移行させるというものではございません。そうした中で、公的機関につきましては、生産現場のニーズなどを的確に把握をいたしまして、高品質なブランド品種あるいは地球温暖化に適応した品種などの開発に取り組んでおります。こういったところで極めて重要な役割を担っているというふうに認識をしております。
 このため、農林水産省といたしましては、品質開発期間の短縮を可能とする育種基盤技術の開発、気候変動への対応などといったニーズに応じた品種の開発、地域ブランド品種を開発するための育種素材の提供、こういったことに活用できる試験研究費の確保に努めているところでございます。
 一方で、民間企業が供給する種子の中には都道府県が供給する種子と比べて高いものもありますけれども、これらの種子につきましては、収量が多く生産物の販売収入が多くなる、こういったような理由によりまして農業者自身の経営判断で選ばれているところでございます。
 既に、この野菜、ありましたけれども、多くの民間の開発品種が利用されている野菜におきましても、種苗代により農業者の経営が困難になっているという、こういった実態はないと承知をしておりまして、むしろ多くの優良な品種の開発が進められることによりまして農業者の選択できる品種が増えているというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 公的なものから民間にだんだんこう流れが変わっていったら、やっぱり経費に占める種苗のコストというのは増加するんじゃないかというふうに聞いたわけですよね。ちょっと今の回答では、そこのところが釈然としないわけですよ。
 種苗コストが増えていったら影響を受けるのは農家なんですよね、生産者なんですよ。それを、通常は考えられないとか考えにくいというようなことは、これ主観的なことであって、絶対そんなことないっていうんだったら、それにふさわしい資料をちゃんと出してほしいと思うんですね。
 私、登録品種の種代や許諾料について各地で聞いてきました。秋まき小麦の登録品種の価格は、種子一袋当たり、都道府県の試験場が開発したものは十五円、農研機構が開発したのは七十円から七十五円と五倍前後なんですね。バレイショでは、試験場が三円から四円、農研機構の価格は十倍から二十倍だと、民間だと百倍にもなっているわけです。
 どの種を使うかというのは農協や農家の選択なんだ判断なんだというんだけれども、それでも、都道府県の試験場が開発した種苗よりも農研機構や民間ははるかに高いというのが実態なんですよ。許諾料は利率が決まっていて、この売買金額に率を掛けるというふうに聞きました。消費税の計算のようなやり方なんだと思うんですけれども。
 農研機構が高くなっていったのは、これ独立行政法人になってからだと聞きましたけれども、そうなんじゃないですか。

○政府参考人(農林水産省農林水産技術会議事務局長 菱沼義久君) お答えいたします。
 農研機構は、いろいろと知恵を集積をしまして様々な品種を今作成しております。例えばシャインマスカットというのが非常に有名になりまして、非常ないい値段で売れているということでありますので、そういった高付加価値のものがあるような農作物についてはやはりそれなりの値段で売られているといったことだと思っております。
 以上です。

○紙智子君 答弁になっていないなというふうに思うんですよ。
 それで、利用許諾書を交わしていて、なかなか、農研機構のを聞いても、夏からずっと聞いているんだけど出してこないわけですよね。それで、相手先と契約しているからだというんだけど、契約書を出してもらったらただし書があって、その中には出せるものもあるんですよね。
 農研機構のこの種苗代というのは通常国会のときから求めてきたわけですけれども、依然として提出を拒んでいると。許諾制にしても高くなることは通常ないとか考えにくいとかという期待感を言うんじゃなくて、やっぱり農家負担は増えないんだというんだったら、ちゃんと分かる資料を出してほしいと、改めてこれを申し上げておきたいと思います。
 種苗代は、農研機構よりも民間はもっと高くなっています。この種苗の知見を外資を含む民間事業者に提供することになれば、公的品種から民間品種が主流になる可能性があると。これまでの質疑で海外流出を防止するための改正だというふうに言っても、これ、どれだけ効果があるのかということもよく分かりません。農家の負担は増えないといっても、客観的な資料もちゃんと出てないと。これでは納得できないと思うんですね。
 最初に言いましたように、二〇〇五年、二〇〇七年の改正前は生産者や関係者の意見を聞いて立ち止まったということがありました。種苗法の論点の原点というのは、育成者と農業者の利益のバランスなんだと思います。
 私のいる北海道の北海道新聞が社説書いているんですけど、農家負担の懸念も消えず、継続審議を検討すべきだという社説出しました。意見書や請願もたくさん今出ています。毎日のように電話も来ます。農水省は誤解があるんだと言っていますけれども、誤解はまだ解けてないと思うんですね。徹底審議をするように強く求めて、質問を終わります。