<第200回国会 農林水産委員会 2019年12月5日>


◇TPP11、日米貿易協定などの大型貿易協定による生産者への打撃は明らかだと指摘/酪農家が安心して生産に取り組める生産者補給金の単価設定を求めた/都府県の酪農家が減少していることを指摘し、畜産クラスター事業の規模拡大要件の撤廃を求めた/北海道で増加傾向にあるヨーネ病の検査頻度を増やすべきだと要求/自主淘汰(殺処分)に対する支援を充実するべきだと主張/北海道の家畜保健所の獣医師が欠員になっていることを指摘し、体制強化を求めた

○農林水産に関する調査(畜産物等の価格安定等に関する件)(畜産物価格等に関する決議の件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、加工原料乳の生産者補給金についてお聞きします。
 TPP11、日欧EPAが発効し、全く不本意ですけれども、今後、日米貿易協定などによって安価な乳製品の輸入量の増加が考えられます。農水省が公表している日米貿易協定とTPP11を合わせた牛乳、乳製品の生産額への影響試算、ここでは、バターや脱脂粉乳は一キログラム当たり四円から八円の減少、チーズは最大四十円減少するとしています。酪農家の皆さんが今後の経営に不安を覚えるのは当然だというふうに思うんです。
 こういう大型貿易協定による生産者への打撃というのは明らかですから、やっぱり安心して生産に取り組める補給金の単価設定が必要だと思うんですけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 委員もよく御存じのとおり、この補給金の単価についてはルールがございます。このルールを守らなければなりませんが、食料・農業・農村政策審議会の意見もまた聴かなきゃいけないことも御存じのとおりです。
 しかし、我々は政治家でありまして、ここは委員会でありますので、様々な国内の農家の、畜産農家の不安に寄り添わなければいけないという状況にあるということは私も十二分に自覚をいたしております。このタイミングで生産者補給金をどうするかということは、生産者の皆さん方は極めて注目しておられると思いますので、しっかりその点は考えさせていただきます。
 しかし、主な変動要因として、例えば飼料費とか乳牛の償却費とか労働費とか副産物とか乳量とかいろいろありますけれども、全部は言いませんが、そのうち三つが下げ要因で二つが上げ要因ということになっておりますので。しかし、計算式は計算式として、審議会の意見は意見として聴きながら、最終的には、自分のところで責任を持って最終的な結論を財務ともしっかり交渉してやらせていただきたいと考えております。

○紙智子君 先日、これ、北海道の農業団体の方から、原料乳を運ぶ大型トラックのドライバー不足という話をお聞きしました。何とかならないかという声です。北海道の酪農の方からも、これ、定年を迎えたドライバーさんが集荷に来るんだけれども、若い人がいないためにやめるにやめられないと話しているというんですね。
 こういうドライバーの方に生産現場は支えられているんだなということを改めて思うわけですけれども、今でもドライバー不足というのは深刻ですけれども、五年先、十年先ということで考えると、生乳の流通が維持できるのかと。ですから、集送乳の調整金の単価設定も含めて、これ、ドライバー不足などによる輸送コストの高騰などの集送乳の経費についても、上昇を考慮するなどの必要な支援が求められるんじゃないかというふうに思っております。ここは、ちょっと要望というか、是非考えていただきたいというふうに思いますので、よろしくお願いしたいと。
 それから次に、指定団体が果たす役割についてもお聞きします。
 改正畜産経営安定法、畜安法と言っていますけれども、二〇一八年の四月から施行されて、指定団体以外に出荷する場合も加工原料乳の生産者補給金を受け取ることができるようになりました。
 それで、九月四日付けの日本農業新聞によると、生乳の飲用需要が増える夏場については指定団体に出荷するんだけれども、冬場は、価格も高いんですけれども、やっぱり飲用乳向けということで指定団体以外の業者に供給するという、二股ですね、二股出荷、いわゆるいいとこ取りという、さっきも話がありましたけれども、そういうケースが増えているというふうに言っています。北海道のある町の話聞いたんですけれども、そこでも、二股出荷が十件から二十件に増えているという話があるというふうに聞きました。
 二股出荷が増加すると、これ、指定団体が果たしてきた今までの需給調整の機能、この機能を果たせなくなるんじゃないかというふうに思うわけで、これについての対策はどのように取っておられるでしょうか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 水田正和君) お答えいたします。
 委員御指摘の新たな加工原料乳補給金制度でございますけれども、これは、補給金の申請に当たりまして月ごと、用途ごとの年間の販売計画の提出を求めております。つまり、年間契約を生産者の方と指定団体の方でしていただくという形になっているところでございます。ところが、一部の酪農家において、この契約に反して、年度の途中で生産者が一方的に、今出している事業者とは別の事業者に数量を変更するといったいわゆるいいとこ取りというものが発生をしているところでございます。
 このため、農林水産省としては、問合せ窓口を設置して、又は関係者にQアンドAをお示しするとともに、今年の九月には適正な生乳取引について生産局長通知を出しまして、その中で、このいわゆるいいとこ取りが指定事業者が契約を拒否できるような正当な理由に該当するんだということを確認できる確認書のひな形、こういったものをお示しをしておりますし、制度改正の趣旨を分かりやすく周知するためのパンフレットをお示ししまして、現場で活用していただいて、こういったいいとこ取り、年度途中での恣意的な一方的な生産者の出荷先の変更といったものがないように取り組んでいただきたいというふうに考えているところでございます。
 引き続き、制度に関する現場からの御意見を踏まえながら、適正な運用に努めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 この問題というのは、畜安法の審議のときにもう既に指摘していたんですよね。心配されていたことなんですよ。やっぱりそうなったかという事態であって、これは、やっぱり全量委託の原則がなくなったら、生乳の取引や酪農家の公平性を確保してこういう生乳の需給を安定させる機能が弱体化していくと。自分さえ良ければいいということになってくると、やっぱりこれは、元々協同組合ということでお互いに支え合いながら、状況を見ながらやってきた、そういう体制が崩れるということになるんですよね。やっぱりその辺のところは明確にしていかなきゃいけないというふうに思うんです。
 もう一つ、都府県の酪農をどう維持発展させるのかというのも大きな課題になっているんです。
 それで、八月二十一日に政策審議会の畜産部会でヒアリングに出席したホクレンの瀧澤副会長がこう言っていますよね。都府県の生乳生産量の減少が続く中、飲用向けの安定供給を図るため、生乳移送の船舶を入れ替えたが、ドライバー不足等、需要に応じた輸送は困難になりつつあり、都府県の生乳生産基盤の立て直しが重要だと。また、日本乳業協会の西尾会長からも、北海道から都府県への生乳移送量は年々拡大し、ほぼ限界に達している、都府県酪農の生産基盤強化は我が国の酪農、乳業にとって最大の課題なんだと発言されています。
 北海道から見ても、やっぱり都府県が元気でないと、たくさんやっぱりお産して子牛が生まれると、それを引き取ってもらって育てるという、こういう循環ができていたわけですよね。だから、これがやっぱり崩れても困るわけで、そういう意味では、やっぱりこの問題はすごく大事だと思っているんですけれども、大臣、このことをどういうふうに受け止めておられますか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 私は自民党の酪政会の幹事長をずっとやっておりまして、特に、都府県酪農は中小規模の方々が多いということもあって、乳価自体はいいので経営自体はまあ悪くはないと、しかし、高齢になって、なかなか休めない、そして、ヘルパーをお願いしたいけれどもヘルパーもなかなか確保できない、総量として足りない、そして、担い手を探すけれども担い手もなかなかいない、そして、装置も手当てしたいと思うけれども都府県ではなかなか装置の手当てもできない、自分のところで自給飼料の調達も難しいということで、地理的な要件も非常に都府県は厳しいと思います。
 しかし、北海道と南北戦争という時代もありましたけれども、今は二割ぐらいが都府県にもう逆に出していただいているという状況に今なっておるので、是非ともその都府県酪農をもう一回元気にしたいという気持ちはすごく強く持っています。
 そのためには、ヘルパーであったり、それからAIであったり畜産クラスターであったり、いろんなことを総動員しなければなりませんが、先ほどちょっと触れました税制も含めて、総合的な対策を講じないとなかなかこれは厳しいと思いますけれども、妊娠牛、初妊牛のサイクルとかそういうことも含めて、日本全体の酪農を守るためにも都府県の酪農をもう一回立て直さなきゃいけないという問題意識は強く持っております。

○紙智子君 今、この酪農家を国としてもどう支えていくのかということが問われていると思うんですね。都府県の酪農家は、この十年で、一万五千二百七戸だったのが九千七十戸まで減少しているということなんです。
 その中で、関東で酪農を営む方からお話を伺ったんですけれども、家族四人で乳牛の親牛三十頭、子牛で三十頭を飼って、家族経営で飼養可能な頭数で経営をしていると。飼料も、堆肥も作って土づくりにもこだわっていて、牧草やトウモロコシも可能な限り自給するということで頑張っているんですけれども、全ての牛に名前を付けて、一頭一頭家族同様に育てているんですね、愛情を掛けて。
 家族の経営で現状を維持して経営をする方が今畜舎を更新したいという場合に、この畜産クラスター事業の施設整備の規模拡大要件でこれは除外されてしまうんですね。規模拡大要件というのはこの際もう撤廃して、家族経営を始めとする全ての農家の人、頑張っていこうという意欲ある人たちを利用できるような制度にすべきではないかと思うんですが、いかがでしょう、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) この事業は、大綱が定められてからもう五年でありますので、見直しの時期に来ていると思います。そして、規模拡大要件というのは大きなハードルでありますが、この場で撤廃するとは申し上げませんけれども、これは考えなければならないと、是非とも考えなければいけない大変重要な今私たちに突き付けられている政策課題だと思っております。
 ですから、先ほども申し上げましたように、地理的要件もあり、なかなか規模拡大は難しい、しかし、規模を拡大しなくても頑張っている人をじゃ助けなくていいのかというところに立ち返ると、それは違うのだろうというふうに私は思っております。ですから、このことについてはしっかり取り組ませていただきたいと思います。

○紙智子君 考えたいというところはもう一歩進んでほしいなというふうに思うんですけれどもね。
 やっぱり全国どこでも、この規模要件が厳し過ぎるという声出ているんですよ、今までも、藤木先生のところだってそうだと思うんですけれども。やっぱりこの際決断をしなきゃいけないんじゃないかと。そうしないと、どんどん減ってきているわけですから、都府県は。是非そこのところは決断していただきたいなと。
 都府県の酪農は、限られた土地で家畜を飼うということや家畜のふん尿処理の問題などでも、この規模拡大一辺倒の支援ではかみ合わないというのがあるわけであります。先ほど紹介した家族経営の循環型の酪農経営も、生乳生産を支えている全てのやっぱり酪農家が支援を受けられるようにすべきだということを強調しておきたいと思います。
 それからもう一点、ちょっとヨーネ病についてお聞きをしたいと思います。
 ヨーネ病というのは、ヨーネ菌による腸の病気で、感染すると、長い潜伏期間を経て慢性的な下痢症状を起こして、衰弱して死に至る病気ということだと思います。北海道の日高地方で二〇一三年頃からこのヨーネ病が増加しています。えりも町では、今年、三百八十七頭の牛が殺処分されました。飼養頭数の一割もの被害になると。ある農家は、市場で購入してきたF1牛、これ、十四頭買ってきたんだけど、全部陽性反応が出て殺処分したようなんですね。これ、大臣、どう思われますか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) それは、畜産経営にとっては非常に大問題だと思います。
 先生の通告をいただいて少し調べさせていただきました。市場の名前は言いませんけれども、いわゆるこれが公設市場ではないということだけは申し上げておきます。公設じゃないんですよ。公設というのは、都道府県とかがしっかり関与したものが一応公設という縛りになっておりますので、当該市場については公設という範囲にはまだ入りません、だからといっていいわけではありませんが。やはり我々としては、定期的な検査を行って感染農場をしっかりと把握した上で、摘発農場については高リスク牛を早く更新しなさいということを指導しているところであります。
 そして、農林省として一番やらなきゃいけないと思っていますことは、陰性の農場証明の取得、これができていないところがたくさんありますので、やはりここを、証明を取ったところから、清浄農場というふうに我々は呼んでおりますが、そこからやっぱり導入していただくようにしていただくことも大切ではないかと思っております。
 そして、ヨーネ病対策につきましては、家畜生産農場衛生対策事業の内数ですけれども、北海道で大体一億近く今お金を使いまして、検査費の二分の一であったり採材を取るときに一頭四百四十円とか、それから謝礼金、現地評価調査をする場合に獣医師さんに対して謝礼金を支払うとか、これも定額ですけれども、いろんな淘汰費用も含めて、淘汰の場合は三分の二を出させていただいております。これも御利用いただいてこのヨーネと闘っていかなければならないと思っております。

○紙智子君 ヨーネ病の検査について聞きたいんですが、F1の肥育牛はこれ検査対象になっているでしょうか。

○政府参考人(農林水産省消費・安全局長 新井ゆたか君) お答え申し上げます。
 ヨーネ病に関しまして、法に基づく定期検査の対象といたしましては、乳牛の雌、それから種雄牛とその同居牛というのを必須の条件にしております。これに加えまして、北海道におきましては肉用の繁殖牛も加えているというふうに聞いているところでございます。F1の牛自体は対象にしておりませんけれども、子牛の段階で感染をするということでございますので、乳牛の雌を対象にしていることによって必要な部分をカバーしているというふうに考えております。

○紙智子君 今の話ですと、雄の和牛と雌の乳牛、この交雑種がF1という、北海道の場合はそれが多いんですけれども、検査対象ではないと。やっぱり検査対象として見直すべきじゃないのかというふうに思うんです。
 それと、出荷する前の農場検査はしているようなんですけれども、個々の牛が感染しているかどうかというところまではこれ分からないと。安全な牛を出荷するような対策にしなきゃいけないというふうに思うんです。知らないで買ってきたら全部陽性だったというわけだから、これ、出た方は大変なわけですよね、淘汰しなきゃいけないわけで。
 検査の周期についてお聞きするんですが、ヨーネ病の法定検査は五年に一度なんですよね。北海道はヨーネ病の発生が増加傾向にあるわけですけれども、これ、五年に一度ではなくて検査の頻度を増やすべきではないかと思うんですけど、いかがでしょうか。

○政府参考人(農林水産省消費・安全局長 新井ゆたか君) お尋ねいただきました検査の頻度についてでございます。
 検査の頻度につきましては、最低でも五年に一度、全頭検査をするということになっております。北海道におきましても五年に一度というふうに聞いております。他県におきましては、その頻度を変えてというところもあるというところでございます。
 これにつきましては、やはり本病が潜伏期間が長いということ、それから農場に出向いて検査をする、あるいは検査費用が掛かるということでございますので、その辺の病気のリスクと、それから農場の負担を考えて、最低で五年に一回としているところでございます。
 これにつきまして、仮に頻度を高めて検査ということをしていただいた場合には、これは、伝染予防法に基づいて必要な額を国がお支払いするということになっております。

○紙智子君 ちょっと五年は長いんじゃないかというのが現場でも出ていて、是非三年ぐらいにしたらどうなのかなということなんです。
 ヨーネ病の対策は、患畜の場合は殺処分で、便から菌が発見されるだけだったら、これ通過菌というふうに言って、殺処分は求められないんですよね。それで、自主淘汰というのは、これはやってもいいことになっていて、その場合の評価額三分の二の支援というのを先ほど大臣も言われたんですけれども。
 二つお聞きするんですが、通過菌というリスクを抱えながらなぜ殺処分にしないのか、それからもう一つは、自主淘汰を認めるのであれば支援を充実させるべきではないか、この二点、簡潔にお願いします。

○政府参考人(農林水産省消費・安全局長 新井ゆたか君) ヨーネ病の診断基準は、専門家の議論を踏まえて設定をしております。
 遺伝子検査におきましてふん便中のヨーネ菌の遺伝子の量が一定以上検出されたものを患畜というふうに判断をいたしまして、御指摘がありましたとおり、ヨーネ菌の遺伝子が検出されたものの基準には満たない遺伝子量であった場合には患畜と判断をしておりません。これは、遺伝子量が基準に満たない場合は牛の体内でヨーネ菌が増殖していないと考えられ、感染拡大の危険性が高くないことから、直ちに殺処分する必要はないということで判断しているところでございます。
 しかしながら、このように遺伝子が微量に検出された牛につきましては、今後、本病の発症によりまして乳量の低下等、農場の生産性に影響を及ぼすということが考えられますので、ヨーネ病対策要綱におきまして、自主的な早期更新、いわゆる自然淘汰を推奨しております。この場合には、家畜生産農場衛生対策事業において、当該家畜の評価額の三分の二から健康畜として利用可能な畜肉等の金額、いわゆる出荷額を控除した額を上限として支援しているところでございます。

○委員長(江島潔君) 時間ですので、まとめてください。

○紙智子君 はい。
 時間になりましたので、最後、一言申し上げたいんです。
 ヨーネ病を早期発見して蔓延防止をするためには、体制を充実させる必要があるんですよね。特に獣医師が不足しているんです。北海道の家畜保健所で二十七名欠員が出ています。農業共済組合も、事務費の負担が減らされて人数の確保が難しくなっているということなので、是非とも体制強化をやっていただきたいということを最後に申し上げまして、本当は聞きたいんですけど、時間がないので、これで終わります。

○委員長(江島潔君) 本件に対する質疑はこの程度にとどめます。
 徳永君から発言を求められておりますので、これを許します。徳永エリ君。

○徳永エリ君 私は、自由民主党・国民の声、立憲・国民.新緑風会・社民、公明党、日本維新の会及び日本共産党の各派共同提案による畜産物価格等に関する決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    畜産物価格等に関する決議(案)

  我が国の畜産・酪農経営においては、飼養戸数の減少が続いている。一戸当たり飼養頭羽数は増加を続けているものの、担い手の高齢化、後継者不足は深刻さを増しており、畜産物の安定供給のためには生産基盤の強化が必要不可欠な状況にある。特に、経営継続の危機にさらされている中小・家族経営を強力に支援するとともに、より多くの若手が就農を目指す魅力ある労働環境を構築することが重要な課題となっている。
  また、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定(日EU経済連携協定)が発効し、日本国とアメリカ合衆国との間の貿易協定(日米貿易協定)が締結される中、我が国の畜産・酪農の将来に対する懸念と不安を抱く生産者も多い。
  よって政府は、こうした情勢を踏まえ、令和二年度の畜産物価格及び関連対策の決定に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。
 一 CSF(豚コレラ)の豚等及び野生いのししにおける感染拡大防止は、現下の家畜伝染病の防疫上、最重要課題である。そのため、野生いのしし対策を強力に推進し、豚等への感染リスクを低減させるとともに、ASF(アフリカ豚コレラ)のアジアにおける感染の拡大を念頭に置き、飼養衛生管理の水準を更に高めるための取組を強力に支援すること。常に、家畜伝染病の脅威を深く認識し、水際検疫徹底を図るとともに、豚等の所有者と行政機関及び関係団体との緊密な連携を確保し、実効ある防疫体制を構築すること。予防的ワクチンを接種した豚等の安全性については、正確かつ適切な情報の提供を行うとともに、不適正な表示に対し適切に指導を行うこと。これらの措置を着実に進めるためにも、地域の家畜衛生を支える産業動物獣医師の育成・確保を図ること。
 二 多発する自然災害による畜産・酪農の被害への支援対策を充実・強化すること。特に、被災した機械・畜舎の再建・修繕・再取得や、停電に伴い発生した乳房炎の治療、家畜の死亡・廃用に伴う新規の家畜導入等の支援を行うこと。
 三 規模の大小を問わず、地域農業・地域社会を支える多様な畜産・酪農の生産基盤の維持・拡大を図るため、組織的な生産体制の整備、畜産物の付加価値の向上、良質かつ低廉な飼料等の供給等の取組を通じて、魅力ある持続可能な経営が実現できるよう、地域性を踏まえた実効性のある施策を実施すること。
 四 CPTPP、日EU経済連携協定、日米貿易協定が、我が国畜産・酪農経営に与える影響の実情については、統計データ等を常に注視し、分析を行い、これを公表すること。また、新たな国際環境下において、関税削減等に対する生産者の懸念と不安を払拭し、意欲ある生産者が経営の継続・発展に取り組むことができるよう、経営の安定を図ること。その際、実施した施策の効果を検証し、適宜必要な見直しを行うこと。
 五 加工原料乳生産者補給金・集送乳調整金の単価及び総交付対象数量については、中小・家族経営を含む酪農家の意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。
   また、期中における一方的な出荷先の変更により集送乳の調整に混乱を来す事例等が発生していることを踏まえ、将来的な酪農家の所得確保や集送乳合理化等の観点から現行制度を十分に検証するとともに、こうした事例が生ずることのないよう必要な措置を講ずること。
   さらに、近年、ひっ迫している生乳の需給状況について長期的に見通し、酪農経営の安定と牛乳・乳製品の安定供給の確保が図られるよう、国の主導により各般の取組を一層推進すること。
 六 肉用子牛生産者補給金制度における保証基準価格等については、中小・家族経営を中心とする繁殖農家の経営努力が報われ、営農意欲が喚起されるよう、再生産の確保を図ることを旨として適切に決定すること。
 七 酪農経営を支える酪農ヘルパーについては、その要員の確保や育成、酪農家の傷病時利用に際しての負担軽減、利用組合の組織強化への支援を行うこと。また、酪農家や肉用牛農家の労働負担軽減・省力化に資するロボット・AI・IoT等の先端技術の導入、高度な経営アドバイスの提供のためのビッグデータ構築を支援すること。さらに、これらの施策との連携を図りつつ、畜産・酪農への就農を経営ステージに応じてきめ細かく支援する総合的な対策を強力に展開すること。
   また、持続的な畜産・酪農構造の実現を図る観点から、畜産GAPの指導員等の育成、普及・推進体制を強化すること。
 八 我が国及び世界での国産畜産物の需要に対応し、畜産・酪農の収益力・生産基盤・競争力を強化するため、畜産農家を始めとする関係者が連携する畜産クラスター等について、中小・家族経営にも配慮しつつ、地域の実情に合わせて地域が一体となって行う、収益性向上等に必要な機械導入、施設整備、施設整備と一体的な家畜導入、バイオガス発電等による家畜排せつ物の有効活用、環境負荷軽減の取組等を強力に支援すること。加えて、外部支援組織の活用、家畜能力の向上、繁殖基盤の強化、乳業工場・食肉処理施設の再編整備、国産ナチュラルチーズ等の競争力強化に向けた取組等を支援するとともに、これらの施策等により食料自給率の向上を図ること。
 九 我が国固有の財産である和牛の精液や受精卵については、その流通管理の徹底を図るとともに、遺伝資源の知的財産的価値の保護を強化すること。
 十 国産飼料の一層の増産と着実な利用の拡大により畜産農家の経営安定を図り、飼料自給率を向上させるため、気象リスク分散等による粗飼料の安定的な収量確保、飼料生産の効率化、放牧、国産濃厚飼料の生産拡大、未利用資源の利用、有機畜産物生産の普及を支援するとともに、飼料生産の基盤整備を推進すること。また、配合飼料価格安定制度については、畜産・酪農経営の安定に資するよう、同制度に係る補填財源の確保及び長期借入金の計画的な返済を促すことにより、制度の安定的な運営を図ること。
 十一 国産畜産物の輸出に当たっては、統一マークの活用等により、日本ブランドを前面に立てた販売戦略、国産畜産物の強みを活かす調理技術等の普及を行うとともに、世界での国産畜産物需要の増加に対応できる生産基盤を構築すること。
   また、輸出先国・地域の衛生条件を満たす食肉処理施設等の整備を促進するとともに、輸出先国・地域の食品安全に関する規制への対応については、政府一体となって、戦略的かつ迅速に進めること。
 十二 原発事故に伴う放射性物質に汚染された稲わら、牧草及び牛ふん堆肥等の処理を強力に推進するとともに、永年生牧草地の除染対策、原発事故に係る風評被害対策に徹底して取り組むこと。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○委員長(江島潔君) ただいまの徳永君提出の決議案の採決を行います。
 本決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕

○委員長(江島潔君) 全会一致と認めます。よって、本決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。