<第200回国会 農林水産委員会 2019年11月19日>


◇輸出が地域経済の循環にも役立っているとしたうえで、輸出拡大のための関係閣僚会議において、菅官房長官の「農産品輸出を一元的かつ戦略的に推進するための司令塔組織を設置する」との発言に言及し、官邸主導の農政が進められるのではないかと批判/西日本豪雨で被災した愛媛県のミカン農家の「輸出の前に、押し付けられた輸入をまずやめるべきだ」「輸出促進法はかなり懸け離れている気がする」との声を紹介し、多くの生産者の声ではないかと指摘/食料自給率を向上させるための本部、地産地消を推進するための本部、家族農業を支援する本部をつくることこそ必要ではないかと主張

○農林水産物及び食品の輸出の促進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 十一月十二日に日米貿易協定案を私取り上げました。私が、日米貿易協定附属書Tにアメリカ合衆国は将来の交渉において農産物に関する特恵的な待遇を追求するという規定があるが、こういう言葉を使っているのはほかの協定にあるのかと聞きましたところ、江藤大臣は、私が知っている範囲では、日EUの中にもこのような同様の表現が入っていると言われました。私は、じゃ資料をいただきたいというふうに要求しましたら、後ほど資料をいただいて説明を受けました。
 そこで、外務省にお聞きするんですけれども、ほかの経済連携協定の再協議規定において農産物に関する特恵的な待遇を追求するという表現、言葉を使った協定はありますか。あるかないかをお答えください。

○政府参考人(外務省大臣官房参事官 曽根健孝君) お答えいたします。
 御指摘の規定でございますけれども、将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求するという意図が米国にあるということを単に記載したものでございます。
 その上で申し上げますと、我が国がこれまで署名、締結した経済連携協定の中で、農産品の再協議という趣旨で追求するという表現を用いた規定はございません。

○紙智子君 ないということであります。
 それで、江藤大臣が日EUの中にもこのような同様な表現が入っていると言われた答弁は、これは誤解を招くと、正確じゃないというふうに思います。それはお認めになりますよね。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) シークという単語がそのまま使ってあるということではなくて、再協議一般について、ですから、言葉そのものについては委員の御指摘が正しいと思います。

○紙智子君 認めていただきました。
 そこでお聞きするんですけれども、ほかの経済連携協定の再協議規定、これはあるわけですよ。再協議規定というのはあると。
 例えば、TPPは、効力を生じる日の後七年を経過する日以降に協議する、協議するとなっているんですね。TPP11も協議するなんですよ。日EU・EPAは、効力発生の日の属する年の後五年目の年に見直しの対象になるというふうになっているわけです。
 ところが、日米貿易協定は、協議ではなくて、アメリカは農産物について特恵的な待遇を追求するというふうになっているわけです。これ、アメリカに対してやっぱりTPP水準を超えた権利を与えた規定だと思われませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) いや、余り私はそのようには受け止めておりません。
 先ほども、シークという単語をどのように訳すかでちょっと議論がかみ合いませんでしたけれども、探し求めるということは、探さなきゃいけないんですから結構不確実性の高いものではないかと私は英文からは直接読み取っている。私の都合のいいように読んでいるんじゃないかと言われるかもしれませんけれども、単語は単語として読み解かせていただいているところでございます。

○紙智子君 解釈を聞いたわけじゃないんですよね。実際にTPP水準を超えたというふうには思わないということなんですか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 先ほども申し上げましたけれども、自由化率も低く抑え、米も抑え、その他の部分についても、SGについては御議論があるかもしれませんが、全体を見て、私はTPPの水準の枠の中に収まったと、そう評価しております。

○紙智子君 このTPP、TPP11もさっき紹介しましたけど、実際の言葉は、効力を生じる日の後七年を経過する日以降に協議すると、それから、TPP11も協議するというふうに今まで言っていたものですから、それをやっぱり超えるものになっているというふうに私は思うんですよ。
 これは、私はやっぱりアメリカに対しては特別な権利を与える非常に異常な、そういう協定になっているというふうに思うわけでありまして、やっぱり農水大臣なんですから、閣内の中でも最も農家の人たち、そういう現場の実情を分かって、その立場で発言しなきゃならない農水大臣ですから、そこは、もう余りにも理解が早過ぎると、すぐ受け入れるんじゃなくて、しっかりとそういう農家の立場に立って発言をする大臣であってほしいということを改めて申し上げておきたいと思います。
 それで、次なんですが、輸出促進法の質疑に入りたいと思います。
 我が党は、輸出に反対するものではありません。私の出身地の北海道においても、ホタテやナマコなどを輸出して生活を支えて、地域経済の循環にも役立っているというのもあります。それから、東日本大震災で被災した漁業、水産加工業者は販路を断たれてしまったと、そういう中で新たな販路の先を探して輸出にも取り組んでいる人もいると。米を輸出している農家もいます。それでも、やっぱり今回の輸出促進法に対して厳しい意見も聞くわけです。
 そこで、法案について確認したいんですけれども、安倍政権は、日本再興戦略二〇一四で、二〇二〇年に農林水産物・食品の輸出額一兆円を目標に掲げました。そして、安倍総理が本部長を務める農林水産業の地域の活力創造本部、これは、農林水産業・地域の活力創造プランを決定をしました。提出されているいわゆるこの輸出促進法は、この方針に沿った立法化ということになるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 日本再興戦略には一兆円、それから活力創造プランには更に三〇年の目標まで書き込まれておることは重々承知をいたしております。
 しかし、私もずっと自民党の中におりまして、官邸にいた時期もありますけれども、総理に申し上げているのは、数字ではありませんと、結局は日本の農業の生産基盤をいかに強くするか、農業の魅力を増して担い手をいかに確保するかが一番の眼目ですということをずっと言い続けてきたつもりであります。
 この法案を提出するに当たって、この二つのものに、言っていることの内容を実現するために出した法律ではこれはありません。もう何度も申し上げましたけど、目的のところに、農林水産業及び食品産業の持続的な発展に寄与することを目的とすると、これを目的としてやっているわけであって、何兆円を目的とするとか、そういうことではございません。

○紙智子君 これ、実際上は、安倍政権が本部長を務めている地域活力の創造本部、それから農林水産業の地域の活力創造プランという、そういう全体の中で出されている、その政策をやっていく上で輸出も含めて出されているものなんじゃないんですか。それを進めるための具体的なものとして出されている法律じゃないんですか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) いや、別に総理とけんかするつもりはないんですけれども、プランを進めるためとかいうことではなくて、この中にも輸出の促進は書いてあります。先ほどから答弁させていただいているように、出口戦略の一つとして外にマーケットを求めていかなければならない。先生からも御指摘ありましたけど、もう二〇三〇年には海外の食品のマーケットというのはとてつもない規模で拡大をしていく、そこに向かって我々が何ができるのか、そして農家の所得向上にどうやってつなげていくのかということを考えた上でこれは提出した法案でございまして。
 かぶっている部分はあるかもしれません。だけど、これを総理大臣が本部長で作ったから、じゃ、それを我々が下請のように、総理の御意向に従って、じゃこういう法案をお出ししましょうと、そういうようなものではありません。

○紙智子君 大分ちょっと、あらかじめいろいろやり取りしたのと違う答弁だなと思っているんですけれども。
 安倍政権は、生産対策においては担い手に政策を集中し、これまで、農協法や農業委員会法や農地法や従来の制度を岩盤だというふうに言って次々改悪をしてきたわけです。その農政の柱に輸出が入っていると、今までも。ですから、法律案には、農林水産物・食品輸出本部をつくって、本部は政策の企画立案、事務を行う、言わば国家プロジェクトとして輸出を進めるというものだというふうに理解しているわけです。
 それで、農林漁業者や自治体の自主的な取組を支援するものになるのかというふうに疑問も思うんですが、今年四月、菅官房長官の下に、これは輸出拡大のための関係閣僚会議が設置されました。六月の会議で菅官房長官は、農産品輸出を一元的かつ戦略的に推進するための司令塔組織を設置するというふうに言ったわけです。またしても、これ官邸の主導の農政が進められるのかと。司令塔ですから、これ、指令する側と指令を受ける側があることになるわけで、じゃ、指令を受けるのは誰になるんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) お答え申し上げます。
 今先生おっしゃったように、農林水産物・食品輸出促進を担う司令塔組織を創設すべきということが関係閣僚会議で提言をされまして、それを受けまして、この法案によりまして本部を設置することとしてございます。
 一方で、御懸念の方は、きっと、都道府県が責務があって、この司令塔組織があたかもその都道府県に何か新しい仕事を指示するような形でなるのではないかということでございますが、都道府県等につきましては、まさに生産者の要望あるいは地域の特産物に通じていまして、地域の実情に応じて輸出促進を図ることができるということで、この法案におきまして、輸出を円滑化する手続の整備等の施策を講ずる責務を有するというふうに定めたところでございます。
 なお、国は、地方自治法に基づきまして自治体の自主性、自立性を尊重するということになっておりまして、輸出本部が本法案に基づきまして都道府県等に何ら指示を出すというものではないというふうに考えております。

○紙智子君 閣僚会議で菅官房長官はこういうふうにも言っているわけですね。法案では、農林水産省に本部をつくり、実行計画を作り、都道府県は速やかに実施する体制を構築すると、つまり、都道府県に速やかに実施するように求めているということですね。法案には都道府県等の責務の規定があるわけですけれども、この都道府県は、政府の指令を出すことになるということになるんじゃないですか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) 今申し上げましたように、司令塔組織が何か都道府県に命令するというわけでなくて、この司令塔組織というのは、どちらかというと、先ほど、各省縦割りとか、いろいろな手続が各省でばらばらにやっているのでいろいろな手続に時間が掛かっているとかということがありましたものですから、農林水産大臣を本部長とするその司令塔組織をつくるわけでございますが、そこは、都道府県に指示をするということじゃなくて、都道府県のちゃんと意見も聞きながら、しっかり地域の実情に応じて様々な、例えば輸出証明書だとか認定だとか、そういうことをしっかりやっていくということでございます。

○紙智子君 二〇一六年十月に農林水産省は、食育活動及び国産農林水産物・食品に関する意識・意向調査というのを公表していますよね。ここで、農林水産物、食品、飲料について国産かどうかの重視度合いアンケートというのをやっている、とても重視する、重視するを合わせると六七・五%、国産農林水産物が多く使用されている加工食品、総菜と外食の飲料等を利用すると答えた人は八六%と。
 自治体では、国産品を使用することで地産地消とか食育を進めています。そこに輸出促進法で国から輸出の指令が出ると、県を挙げて地産地消に取り組んでいるときに、例えば輸出促進するということで国が命令をすると、指令をすると。そうなったら、地産地消とやっていたのが、この輸出を優先するということが迫られるということが出てくるんじゃないかと思いますけれども、局長、いかがですか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) お答え申し上げます。
 今委員御指摘のとおり、地域農業の振興のためには、輸出促進のみならず、やはり食育だとか地産地消、こういう取組も当然重要でございまして、都道府県等におきましてもしっかり推進をしていただきたいというふうに考えているところでございます。一方で、大臣からも御答弁されましたように、まさに輸出促進というのも、当然、地域の農業の振興、持続的な発展のためには必要なものでございますので、これも都道府県にはしっかり担っていただきたいというふうに思っております。
 ただ、事務負担が増えるんじゃないかという御懸念だと思いますので、農林水産省としても、なるべくその事務負担が増えないように、例えば輸出証明書の申請等の手続をシステム化する、そして簡単に事務を行える環境を整備するだとか、あるいは都道府県の体制整備にしっかり支援をしていくということでやっていきたいというふうに考えております。

○紙智子君 ちょっと次に質問しようと思っていたところも答えてしまったので。
 要するに、輸出証明書を発行するために省庁の枠を超えて調整するというのと、輸出目標を達成するように指令するというのは違うと思うんですよね。司令塔でないというのであれば各省庁の調整だけでいいのではないかというふうに思うわけでありまして。
 それで、今ちょっと紹介あったけれども、都道府県の責務規定があって、これは、輸出証明書の発行、それから生産区域の指定、加工施設の認定などは専門性が問われると聞いています。法令や運用上の解釈が整理されていなければ混乱も生じるかもしれないということでは、運用上整理、業務量の増加に合わせて都道府県の支援を是非していただきたいということを改めて申し上げておきたいと思います。
 昨年、西日本豪雨で被災した愛媛県のミカン農家の方がこう言っているんですね。輸出の前に、押し付けられた輸入をまずやめるべきだと、私たち過疎地の現状からいえば輸出促進法はかなり懸け離れている気がすると、これは一九九〇年のオレンジの輸入自由化で大変な苦労をされた農家の声です。
 これが多くの生産者の思いではないかというふうに思うんですけれども、大臣の認識、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 知識が足りなくて間違った答弁をするかもしれませんが。
 もちろん、そういう気持ちは私の気持ちの中にはあります。やはり牛肉、オレンジ自由化から長い歴史の中で、日本がこの自由貿易圏の中で生きていく中で、交渉すると、どうしても我々が交渉の場面で差し出さなきゃならないのは農林水産であったというのはもう歴史的な事実だと思います。
 それから、MA米とかにしても、いろんな御意見があります。日本がこれだけ米の生産が過剰になってくる時代において、いつまでMAを入れるんだという御意見もごもっともな御指摘だと思います。しかし、それを、じゃ、なしということにするにはどれだけの外交努力が要るのか。私の記憶が正しければ、そのときに合意をした全てのWTO加盟国、一国残らず合意を得なければ、たしか、それをほごにするというか元に、白紙に戻せないというルールはあったというふうに記憶をしております。
 ですから、そういう気持ちは強く持っております。ですから、先ほどから申し上げているように、それができないにしても、輸入品によって日本のマーケットが取られている部分を国産品で取り返す努力をすることを一生懸命やらせていただければというふうに考えております。

○委員長(江島潔君) 質問をおまとめください。

○紙智子君 はい。
 今、大臣、自分の中にもあるということを率直におっしゃったと思います。
 それで、農林水産省には今食育を進める本部があるというふうに聞きました。本部をつくって政府を挙げて農業の振興に取り組むということであれば、是非、食料自給率が戦後最低になったわけですから、省庁の枠を超えてこの食料自給率を向上させるための本部をつくって、あるいは地産地消を推進するための本部をつくって、あるいは家族農業を支援すると、こういう本部をつくってやることこそが必要ではないかということを最後に申し上げまして、質問を終わります。