<第200回国会 農林水産委員会 2019年11月12日>


◇日米貿易交渉 米はTPPの合意の際に、SBSの運用ルールを見直し、加工用の6万トンの輸入枠が残っていると指摘/SBSの運用ルールの見直しは、日米合意でなくなったのかと追及/当時のTPP枠として、米国ライス協会は16万5千トンの受入れを求めていたが、SBS米としての輸出が可能ではないかと指摘/SBSの運用の見直しもやめるよう求めた/米国は、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求すると明記しており、非常に高圧的な規定だと批判した

○農林水産に関する調査

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今年九月の日米貿易交渉の合意を受けて、安倍総理は、日米双方にウイン・ウインの結果を得たと言いました。一方、トランプ大統領は記者会見の会場で、カウボーイハットをかぶったアメリカの農業団体を集めて、アメリカの農家にとって巨大な勝利だと言いました。日米貿易交渉の合意がどういう合意だったのかを象徴する場面だと思います。
 そこで、今回の合意について北海道新聞が書いているんですが、日本車への追加関税を突き付けられて二国間交渉に応じ、来年の大統領再選に向けたトランプ氏に成果をお膳立てしようとしたかにしか見えない、脅しに屈し妥協を重ねるのでは通商交渉とは呼べないというふうに報じたんです。
 この選挙のお膳立て、通商交渉とは言えない、この指摘を大臣はどう受け止めますか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) トランプ大統領がどのような御発言されたかについては私の立場で申し上げることは避けさせていただきますが、どのような御発言をされるかはトランプ大統領の御自由、トランプ大統領の評価ですから、それは御自由にやっていただければいいと思います。それについて我々がセンシティブになる必要もないのではないかというふうに思っております。
 ウイン・ウインかどうかについては、全体を見なければ評価ができませんので申し上げませんが、しかし、農林水産品について言えば、先ほど藤木政務官からもだったかな、ありましたけど、12のときに八二%の自由化率だったのが三七%に抑えられ、それから六万五千五トンとか、ハードは譲りましたけれども、ハードについては撤廃ですけれども、ソフトについては、チーズについて守ったとか、それから四十二品目については撤廃若しくは関税削減の成果を得たとか、いろいろ我々としても農林水産分野だけ見ても評価できる部分はあるので、決してアメリカさんのためにやりましたというものではないと思っております。

○紙智子君 今年五月の連休の後に、トランプ大統領が日本に来ました。日米首脳会談のときに、トランプ大統領は安倍総理と二人並んでいるときに、二国間の交渉では私はTPP水準には縛られないというふうにおっしゃっておりました。さらに、七月の参議院選挙の後に大きな成果を発表できる、成果を発表することができると思うと述べたんですね。
 この間の経過見ますと、安倍総理はトランプ大統領に交渉内容の発表を参議院選挙の前じゃなくて後にしてくれと先送りしてもらって、選挙が終わったら今度は安倍総理がトランプ大統領の再選に協力するという流れじゃないかと。北海道新聞が通商交渉とは言えないというふうに言ったわけですけれども、この指摘というのは、実は多くの農家の人たちがそういうふうに思っているんじゃないかというふうに思うわけです。
 そこで、ちょっと米についてお聞きします。
 政府は、今回の交渉において米は除外されたということを成果として言っています。しかし、日米の米の交渉というのはそんな簡単なものなんだろうかというふうに思うんですね。
 ちょっと配付した資料を見てほしいんですけれども、これはTPP農林水産物市場アクセス交渉結果と題する資料のうちの米の交渉の結果です。



TPPの合意の際に、日本が国別のTPP枠七万トンを受け入れると同時にSBSの運用ルールを見直したんですね。
 この資料の大きな括弧のくくりのところの(注)の米印の一を見てください。我が国は、既存のWTO枠のミニマムアクセスの運用について見直すこととし、既存の一般輸入の一部について、中粒種・加工用に限定したSBS方式を六万トンに変更する予定というふうに書いてあります。
 予定はこれ実際運用で見直しされているわけですけれども、このSBSの運用ルールの見直しというのは今回の日米合意ではなくなっているんでしょうか。これは農水統括官。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) 御質問いただきました米の既存の七十七万トンのWTO枠の中に、中粒種であって加工用に限定した六万トンのSBS枠を設定するというこの運用の見直しにつきましては、国内の需要動向に即した輸入や実需者との実質的な直接取引を促進するために我が国の自主的な措置として実施することとして、TPP、いわゆるTPP12の大筋合意の際に公表したものでございます。
 今回の日米合意では、先生御指摘のとおり、米は除外を確保したところでございまして、この措置についてアメリカとの間では何ら具体的な協議を行っておらず、約束もしておりません。

○紙智子君 つまり、ここの表で見ると、ここの下の部分はなくなっているんですけれども、上のここの部分というのは残っているということですよね。何ら協議していないわけだから、残っているということですよね。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) 済みません、ちょっと上のところというところの……(発言する者あり)先ほど申し上げたとおり、この中粒種・加工用の六万トンの輸入をする、SBS枠に、SBSに変えるということについては何ら具体的な協議も行っておらず、約束もしてございません。

○紙智子君 ですから、協議も行っていないし約束もしていないから、そのままそっくり残っているという意味だと思うんですよ。つまり、SBSの運用の見直しというのは残っていると、生きているということですよね。あっ、いいですか。

○国務大臣(農林水大臣 江藤拓君) 統括官が申し上げたことで全てでございますが、この委員御指摘の部分についてはTPP12のときに入っていたものだというふうに理解をしております。その中で、条約の中に当然これ入るようなものではありませんし、それからサイドレターの中にも入ってはございません。ということですから、文章の中で正確にそれコミットしたものではありませんけれども、しかし、国として見直しを行うということを発表しておりますので、12の段階ではそれは生きておりますが、今回は日米の交渉で、米については調製品についても全部除外ということで最終合意に至っておりますので、御指摘はちょっと当たらないのではないかなというふうに思っておりますが。

○紙智子君 いや、交渉して、要するに、今回米は除外したんだと言っているわけだけれども、これTPPのときの合意で、これについてもなくなっているんですか、そうしたら、今回の交渉で。除外になったんですか、これ。そうじゃないでしょう。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) 約束はしていないということでございます。

○紙智子君 約束していないと言うんだけど、協議の中ではこれは入っていないわけですよ。だから、これは残っているということでいいんですよね。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 私の理解度が低いのかもしれませんが、協議をしておりませんので、何もお約束をした事実もございませんので、そういうことでございます。

○紙智子君 この表で見ると、ここの白い部分の国別枠はなくなったんだけど、この黄色い部分については、あっ、色付いていないか、まあいいや、これはそのままなんですよ、交渉していないので。そういうことなんですよね。つまり、SBSの運用の見直しについては引き続き残っているということだと思うんですよ。
 アメリカのライス協会は元々十六万五千トンを日本に受け入れるように求めていましたから、これTPP枠の、当時ですよ、七万トンと、SBSの運用ルールの見直しが六万トンということだったので、輸入が可能になったので、最大で十三万トンの輸入が可能になったんです、当時、TPPのときはね。今回の交渉において、TPP枠七万トン、この別枠という七万トンは除外されたと。アメリカは、SBS米として輸出することは、しかし、この上の部分がある以上は可能なんじゃないですか。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) SBS方式での輸入、WTOの枠内でのSBS方式での輸入は既存のSBS枠十万トンを輸入をするということでやっておりまして、こちらの今先生から御指摘のある六万トンについて輸入をするということにはしておりません。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) なかなかお答えが難しいなと思ってちょっと悩んでおりますが、例えば、今回、林野部門、それから水産部門については全くアメリカに譲許いたしておりません。ということであれば、これも全部残っているというような先生の御理解なんでしょうか。

○紙智子君 米について言っているんですよ。今回、米は除外したという話はどこの話かというと、この国別枠で五万トンから七万トンというのがありますよね。これはオーストラリアはあるんだけれども。これについては今回は除外するってなったのは確かだと思うんですよ。だけど、元々WTO枠であったこれについては見直しの措置をとって、それは今回アメリカとは何の交渉もしていないので残ったままということだというふうに私何回もこの間やり取りしているんですから、そういうことですよ。
 それで、ちょっと時間なくなっちゃうから言うんだけれども、表向き米を除外したというふうに言っているんだけれども、既にSBS米という形で加工用の輸入の窓口は開けている、開いているということなんです。アメリカは、TPP枠のような形をつくらなくても、このSBSという形で使えば日本への米の輸入を増やすことはできるというふうに思っているんじゃないかと。日米合意で米は除外したというのであれば、それだったらこのSBSの運用の見直しもやめるべきじゃありませんか。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) 先生御指摘の中粒種・加工用のSBSの運用でございますけれども、現在の情勢を踏まえますと、実施すべき状況であるというふうには考えておりません。

○紙智子君 どういう意味ですか。ちょっと分かるように言ってください。

○政府参考人(農林水産省政策統括官 天羽隆君) 実施すべき状況とは考えておりません。

○紙智子君 擦れ違っているんですよ。実施すべき状況であるかないかって聞いていないんです。要するに、これは消えていないので、使う気になったら、日本が自主的に、そういうことが必要だとなったときは使えるものとして窓口が開いているんじゃないかということを言っているわけです。
 それで、このSBSの運用のルールの見直しがやっぱりTPPの農林水産市場アクセス交渉の結果の一つとして公表されているというのが肝腎なところで、アメリカの要求というのは決して米の関税率削減じゃないんですよ。アメリカの要求というのは輸入枠を拡大したいという要求なんです。日本がSBS米の運用ルールを見直したということは、今後、アメリカに言ってみれば付け入る余地を与えるというか、アメリカが要求しようと思ったらするんじゃないかというふうに思うわけです。
 それで、日米貿易協定の附属書のTについて聞くんですけれども、附属書のTで日本の国の関税及び関税に関する規定、第B節日本の関税に係る約束というところに、アメリカ合衆国は、将来の交渉において、農産物に関する特恵的な待遇を追求することを定めています。この規定の意味について説明してください。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 大角亨君) 御指摘の規定につきましては、TPP等においても一般的に置かれているものでございまして、特に新しいものとは考えておりません。

○紙智子君 ちゃんと答えてくださいよ。意味聞いたんですよ。どういう意味ですかと聞いたんですよ。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 大角亨君) 附属書T、第B節第一款五は、アメリカ合衆国は、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する、ウイル・ビー・シーキングでございますので追求する旨規定しておりまして、将来の交渉において米国にそのような意図があるという認識を単に記載したものであると考えております。

○紙智子君 単に記載したものだと言うんだけれども、附属書Tというのは日本の関税などに関する規定なわけですよね。アメリカは農産物に関する特恵的な待遇を追求すると。主語はアメリカ合衆国、アメリカが追求すると。これはアメリカの意思を表したものですよね。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 大角亨君) アメリカ合衆国は、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求する旨規定しておりまして、将来の交渉において米国にそのような意図があるという認識を単に記載したものでございます。
 本規定は協議の開始や結果を予断しているものではございませんで、これをもって日米合意がTPPより後退しているとの指摘は当たらないものと考えております。
 いずれにしましても、我が国の国益に反するような合意を行う考えはございません。

○紙智子君 アメリカの意思、特恵的な待遇を追求するという、こういう規定というのはほかの協定にあるんでしょうか。余り見たことないんですけど。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 大角亨君) 他の経済連携協定は、一般的に協定の中で日本と契約国の間で再協議を行うと明確に規定されておりまして、TPPや日EU・EPAなどでは再協議を行う時期についても明記されております。
 他方、今回の日米貿易協定では、日米両国が再協議を行うという規定ではなく、米国側の姿勢として、将来の交渉において、農産品に関する特恵的な待遇を追求すると規定しているものでございまして、日本に対して何ら義務を課すものではございません。

○紙智子君 追求するという相当きつい言葉ですよ。こういう言葉を使っているのはほかの協定にあるかと聞いたんですよ。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 手元に物がございませんけれども、私の知っている範囲では、日EUの中にもこのような同様の表現が入っているというふうに記憶しております。

○紙智子君 じゃ、ちょっとそれは後日、資料は出していただきたいと思います。EUだけですか。まあいいや。ちょっと次に行きます、ちょっと時間が迫っているので。
 それで、私、非常に高圧的な規定だというふうに思うんですけれども、大臣、そう思われませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 日本も、外交交渉は国益と国益のぶつかり合いですから、アメリカとしても追求するでしょうけれども、我々も追求させていただきたいと思っています。

○紙智子君 日本のやつが、英文になっているやつにはそれが、そういうことを書いているんでしょうかね。まあちょっとそれは今日は答弁求めませんけれども、そこを是非後でいただきたいと思います。
 それで、要するに、これ追求するという言葉の意味は、調べてみると、目的を達成するまでどこまでも追い求めるという意味なんですね。つまり、アメリカに、アメリカはこれ手に入れるまではどこまでも追求するという権利を与えることになるんじゃないですか。こんな規定を日本はよしとしたと、約束したということになるわけですけれども、何でそんなアメリカに対して権利を与えるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 江藤拓君) 私は交渉を直接担当してはおりませんが、英文で見るとウイル・ビー・シーキングということになっておりますので、将来に向かって追い求めていく。でも、どこまでも追求して、最後まで諦めないぞという意味はあのシークには入っていないのではないかというふうに思います。

○紙智子君 いずれにしても、こういう表現でもって対等、平等と言えるのかなというふうに思うわけです。非常にそういう意味では強烈な、そういうことを日本に対して迫ってきている協定を日本はよしとして書き込んだと。
 で、アメリカは米を諦めるとは言っていないんですね。米は除外されたという言い方で問題にならないようにしているんだけれども、これは一時しのぎにすぎないんじゃないかというふうに思うわけです。
 TPP対策室の澁谷政策調整統括官は、九月の二十五日の記者会見で、マスコミから今後の交渉を進めるに当たって農産品のカードはあるのかと聞かれて、農産品のカードがないということはないというふうに言っていると。で、今後の交渉で七万トンが復活するかもしれない。日本政府は、これTPP水準まではのむと言っているわけだから、協定発効直後に、もし発効直後に米のTPP枠を求めてきたら、これ拒否する理屈というのはあるんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 大角亨君) 今回の共同声明では、今後どの分野を交渉するのか、その対象をまず協議することとしておりまして、今後の交渉の内容はこの協議の中で決まっていくこととなるものでございます。
 このうち、関税に関する事項については、協定に更なる交渉による関税撤廃で合意しております自動車、自動車部品を想定しており、それ以外は農林水産品を含め想定してはございません。

○委員長(江島潔君) 時間ですのでおまとめください。

○紙智子君 はい。
 自動車という話があるんだけれども、これは分からないですよね。何をその交渉対象にするかということも含めてやっていくわけですし、やっぱりこのWTO以来、日本はアメリカの要求に応じて米の輸入をやってきたわけで、これ本当に、輸入機会の提供であったミニマムアクセス米にしても七十七万トンとなっていますけれども、そのうちの三十六万トンはアメリカ枠で固定されていて、で、何で固定化しているのかということも含めてよく分からない、どういう交渉を今までやってきてこういうふうになってきているのかってよく分からないので、そういうことを経過も含めてしっかりと説明していただきたいということを最後に申し上げて、質問といたします。