<第198回国会 農林水産委員会 2019年6月11日>


◇クロマグロ漁師の経営と生活を守る対策を求めた/スルメイカの資源減少で漁業経営が困難な状況を示し、5月6月の幼魚のスルメイカ漁を禁止するなど対策を求めた/ゲノム編集技術と種子の品種登録について/ゲノム作物、ゲノム食品は、国民的議論が必要と主張/棚田の支援対策の強化を求めた

○農林水産に関する調査(ゲノム編集技術により得られた農林水産物等に関する件)(水産資源管理に関する件)
○棚田地域振興法案(衆議院提出)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 沿岸クロマグロ漁についてお聞きします。
 水産庁が昨年、沿岸漁業者との十分な議論も同意もないまま始めたクロマグロの資源管理によって、沿岸漁業者のなりわいと生活を圧迫しています。昨年三月二十九日に当委員会で、漁業者の経営と生活が成り立つ見通しがあるのかというふうに聞きましたら、長谷水産庁長官は、収入安定対策、漁業共済と積立ぷらす、クロマグロ資源管理促進対策によって漁業者の経営安定を図りたいというふうに答弁をされました。
 あれから一年過ぎたんですね。北海道の漁師はこれでは生きていけないというふうに言っている。先日、国会に漁業者の皆さんが要請に来られましたけれども、各地の沿岸漁業者は経営も生活も安定していないというふうに言っているんです。なぜこういう漁業者から意見が出ているんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) クロマグロの資源管理につきましては、沿岸漁業の経営の負担を軽減するために、先生からも御紹介いただきましたように、クロマグロ漁獲の一定以上の削減に取り組む沿岸漁業者を対象に、漁業収入安定対策事業の特例として、基準収入が平成二十九年の水準から下回らないように措置したのに加えまして、定置網においてクロマグロを放流するための漁具改良等の技術開発や魚群探知機等の機器導入、放流作業に伴う経費の支援、さらにはクロマグロの大量来遊の際に休漁せざるを得ないような場合の補償を行っているところでございます。
 このような中、昨年漁期におきまして、夏場に捕り控えたところ、単価の高い冬場に来遊がなく配分量を十分に活用できなかったことなどから、経営が安定しないという声、あるいは自由に漁獲できればもっと収入があったのにという声があることは事実でございます。このような声が上がるのも、これまでの漁業者の努力の結果、クロマグロ資源が回復基調にあり、このことについて漁業者も実感しつつあるからと考えております。
 水産庁といたしましては、これらの支援策を通じてクロマグロの資源が本格的に回復するよう、これからも努めてまいりたいと考えております。

○紙智子君 私、なりわいと生活が実際どうなっているのかというふうに聞きましたし、それつかんでいるんでしょうか。千葉では廃業した漁民もいるんですよね、この間。沿岸漁民は、クロマグロを生かしていて沿岸漁民を殺すのかという声を言っているわけです。
 クロマグロの第四管理期間は三月に終了しました。それで、小型魚の漁獲枠の消化率ということで見るとこれは六六・四%だと、沖合は六七・六%、沿岸が七六・二%ということで、漁獲の枠に対しての消化ということですから、残している、枠が三〇%前後も残っているということになるわけですよね。ところが、一方、この沿岸漁業と同じ場所に大臣許可の巻き網が入ってきて、一度に五十トン、七十トンということで捕っていく事態が発生しているわけです。
 今年の経営と生活をどう成り立たせていくのか、こうした課題を抜本的に解決する対策が必要じゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 沿岸漁業に対しましては、本年度も収入安定対策などの経営への負担を軽減するための対策を引き続き講じていくこととしております。また、水産政策審議会資源管理分科会の下に設置されたくろまぐろ部会からの指摘を受けまして、我が国の漁獲可能量の有効活用を図るように配分量の融通に関するルールを定めまして、本年四月には国が仲介して、大臣管理漁業、これ巻き網漁業ですけれども、これと知事管理漁業、沿岸漁業との配分量の融通を実施したところでございます。
 このような対策を引き続ききめ細かく講じていく中で、回復しつつあるクロマグロ資源を本格的に回復させることこそが抜本的な対策であると考えておりまして、水産庁といたしましては、一日も早い資源の回復のために、沿岸漁業者と沖合漁業者が一体となった資源管理の取組を推進してまいりたいと考えております。

○紙智子君 資源を増やしていくというか、管理は大事なんだけれども、やっぱり今どうするかという、今のこのなりわいとか生活の実態を踏まえて今どうするかということで手を打つ必要があるんじゃないかということなんです。若い漁師が沿岸クロマグロ漁を継続して、やっぱり漁村地域で生活できる対策を是非とも取るように強く求めておきたいと思います。
 続いて、沿岸イカ釣り漁についてもお聞きします。
 スルメイカの資源が減少して、沿岸イカ釣り漁業経営というのは極めて困難な状態だと。
 そこでお聞きしたいのは、青森の太平洋側で、底引き網漁で小さなスルメイカの子供、幼魚を捕っている実態、これつかんでいますか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) スルメイカの資源は、産卵場である東シナ海の水温等、海洋環境の変化に加えまして、外国漁船の影響もあって、平成三十年の我が国のスルメイカ漁獲量は三万七千トンと、不漁であった平成二十九年の漁獲量に比べても約七割という状況でございます。
 そのような厳しい状況にある中で、スルメイカについてはTACによる管理を行っておりまして、沖合底引き網漁業はそのTACの範囲内で資源管理に取り組みながら安定的な操業に努めているところではありますけれども、先生から御紹介いただいたように、八戸になるわけでありますけれども、五月から六月にかけて小型のスルメイカが漁獲される実態があることについては承知しております。

○紙智子君 自然の減少というのはあるんだけれども、漁獲圧力を掛けるような船に対しての規制というのはやっぱり必要じゃないかと。成魚になる前に幼魚を捕ってしまったら、不漁になるのはもう当たり前のことなんだと思うんですね。
 五月から六月、幼魚のスルメイカ、この漁を禁止するなどの対策が必要ではないんでしょうか。いかがですか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 沖合底引き網漁業の操業はTACの範囲内で行われておりまして、そのこと自体、資源に問題があるものではないと考えておりますけれども、スルメイカの寿命は一年でございます。成長が早いことから、資源が減少しているこの状況において、資源の有効利用のために、小型個体の漁獲を抑制して少しでも大きくして単価の高い形で漁獲できれば、底引き網の漁業者の方の経営上も意味があると考えますし、釣り漁業者の方たちとの調整上も、これ意味があるというふうに考えております。
 このために、沖合底引き網漁業者に対しまして小型個体を狙った操業を控えるよう指導はしておりまして、小型個体を目的とした操業は行わない、あるいは、一揚網、一網当たりの小型個体の漁獲量が一定割合を超えた場合には漁場を移動するといったような取組を行っていただいているところでございます。

○紙智子君 そういうふうに説明されるんですけど、実際にはやっぱり守られていないということが現にあるんですね。だから、やっぱり厳しくやらないと本当にやっていけなくなるという、そういう現実があるんだということを、そうだそうだという声も出ているんですけど、厳しく是非これはやっていただきたいんですよ。
 大臣が許可する漁業というのは、沿岸漁業に対して極めて大きな影響を与えているんですね。沿岸漁業、漁村地域がやっぱり元気でなければ、地域そのものが大変なことになってしまうわけで、それから、今、マイワシとかサバの資源が回復しつつあるということも言われているわけですから、この大臣許可漁業の在り方も検討していただきたいと、そのことを求めておきたいと思います。
 次に、ゲノム作物、ゲノム食品についても聞いておきたいと思います。
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会が、三月二十七日にゲノム編集技術を応用した食品の食品衛生法における取扱いの報告書をまとめました。今年の夏にも解禁されるという報道がされています。
 それで、ゲノム作物が認められれば、これ種子生産がどう変わるんだろうかというふうに思うんですね。主要な種子の扱いは、これ種子法が廃止をされました。農業競争力強化支援法によって、都道府県が開発した種苗の知見を民間企業に提供することになったわけです。そうすると、都道府県からこの知見の提供を受けた企業というのは、ゲノムの編集技術によって新しい品種を作り品種登録ということができることになるんじゃないかと思うんですけれども、そうなんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) お答え申し上げます。
 植物の新品種につきましては、種苗法上、区分性、すなわち既に知られた他の品種と形状や耐病性等の特性が区分できること、それから均一性、同一世代で特性が全て均一であること、それから安定性、その品種の種苗を何世代増殖してもその特性の全部が安定して次世代に伝わることなどの要件を満たすものが品種登録を受けることができるとされているところでございます。
 他方、当該品種がいわゆるゲノム編集技術によって開発されたか否かを含めまして、どのような技術が育成過程で用いられたかについては品種登録の要件とはなっておらず、品種の登録は可能であると考えております。

○紙智子君 基本的には可能であるという答弁だったと思います。
 それで、企業は、都道府県が長年掛けて開発してきた品種を手に入れたら、ゲノム編集技術によって新しい品種を手に入れることができると。つまり、企業は、品種の開発期間もコストも短縮して非常に効率よく品種改良を行うことができるようになると。で、そういう企業の種子支配が強まる傾向が生まれるかもしれないというふうにも思うんですね。その辺、いかがでしょうか。そういう可能性もあるんじゃないかということですけれども。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) さっき申し上げましたように、先生御指摘のように、競争力支援強化法では都道府県から民間事業者に対して知見を出していくということになってございますので、その一つとしてそのようなゲノム編集技術につきましてもあり得ないことではないと思いますが、これから、先ほど消費者庁も答弁されたように、そういうものを含めましてしっかり検討していくものだというふうに考えております。

○紙智子君 非常に不安もたくさんあります。
 それで、そもそもゲノム作物、ゲノム食品に対する国民の理解というのは余り広がっていないと思うんですね。開発者は、リスクはゼロでないというふうに言っていると。消費者の中に未知の食品への不安もあります。生態系への影響も懸念されていると。ヨーロッパでは、欧州司法裁判所が二〇一八年の七月に遺伝子組換えと同様に規制するという判断を下しているんですね。
 大臣、最後にお聞きしたいんですけれども、ゲノム編集作物あるいは食品の理解というのは、これ国民的に広がっているというふうに思われますか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) ゲノム編集技術で得られました農林水産物の規制上の取扱いについては、食品の安全性の観点からは食品衛生法を所管をする厚生労働省、生物多様性の観点からはカルタヘナ法を所管をする環境省において、それぞれの必要な措置を検討してきていると承知もいたしております。法律の対象外となるものにつきましても、使用に先立ち、食品の安全や生物多様性への影響など情報提供を受け国で公表するなど、一定の管理を行うこととされたと承知もいたしております。
 一方で、このゲノム編集技術につきましては、新規の技術でもあり、国民の理解を更に広め、深めていくことが重要であることから、農林水産省といたしましても、関係省庁と連携をして説明会などのリスクコミュニケーションを行うなど、正確な情報提供等に努めてまいりたいと思っております。もとより、食料の安全、安心の所管でもあります農林水産省でもございますので、しっかりと情報提供というのはやっておかなければならないと、このようには今の段階では申し上げさせていただきたいと思います。

○紙智子君 やはり国民の理解という点では広がっていないという認識だと思います。まだまだ分かっていないというように思います。そうである以上、やっぱり急ぎ過ぎず、ちゃんと国民的な議論が必要だと思いますので、そこをしっかりやっていただきたいということを申し上げておきたいと思います。
 もう時間になりますけど、棚田の問題は、先ほども森ゆうこ議員からも話がありまして、私もちょっといろいろやっている方に話を聞いたんですけれども、百選、棚田百選に選ばれている棚田でも先行きが非常に厳しい状況だという話がありました。
 やっぱり支えていく対策としては、本当に担い手がいないと。で、水管理が上流の方でできなければ、水流れてこないと棚田そのものはやっていけないということも含めて、やっぱり総合的な、本当に地域全体どうするのかという対策がなかったら、もう小手先では大変なんだと、もう棚田百選自身が大変だという話もありますので、そこはしっかりと強化していただけるようにということを申し上げて、質問を終わります。

○委員長(堂故茂君) 本日の調査はこの程度にとどめます。

    ─────────────

○委員長(堂故茂君) 次に、棚田地域振興法案を議題といたします。
 提出者衆議院農林水産委員長武藤容治君から趣旨説明を聴取いたします。武藤衆議院農林水産委員長。

○衆議院議員(農林水産委員長 武藤容治君) ただいま議題となりました法律案につきまして、提案の趣旨及び内容を御説明申し上げます。
 本案は、棚田地域における人口の減少、高齢化の進展等により棚田が荒廃の危機に直面していることに鑑み、貴重な国民的財産である棚田を保全し、棚田地域の有する多面にわたる機能の維持増進を図ろうとするもので、その主な内容は次のとおりであります。
 第一に、基本理念についてであります。
 棚田地域の振興は、棚田地域の有する多面にわたる機能が維持され、国民が将来にわたってその恵沢を享受することができるよう、棚田等の保全を図るとともに、棚田地域における定住等並びに国内及び国外の地域との交流を促進することを旨として行わなければならないこととしております。また、棚田地域の振興に関する施策は、農業者、地域住民等が地域の特性に即した棚田地域の振興のためにする自主的な努力を助長すること並びに多様な主体の連携及び協力を促進することを旨として講ぜなければならないこととしております。
 第二に、棚田地域の振興に関する基本方針等についてであります。
 内閣総理大臣は、棚田地域の振興の意義及び目標に関する事項、棚田地域の振興に関する施策に関する基本的事項等を内容とする基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めることとしております。また、都道府県は、基本方針を勘案し、あらかじめ関係市町村の意見を聴いた上で、棚田地域の振興に関する基本的な計画を定めることができることとしております。
 第三に、指定棚田地域振興活動計画等についてであります。
 主務大臣は、都道府県の申請に基づき、棚田等の保全を図るため、棚田地域の振興のための措置を講ずることが適当であると認められること等の要件に該当する棚田地域を指定棚田地域として指定することとしております。指定棚田地域を管轄する市町村は、当該市町村のほか、農業者、地域住民、特定非営利活動法人等から成る指定棚田地域振興協議会を組織することができ、同協議会が作成した指定棚田地域振興活動計画について、主務大臣の認定を受けることができることとしております。また、国は、同協議会に対し、指定棚田地域振興活動計画の作成及びその円滑かつ確実な実施に関し必要な情報提供、助言その他の援助を行うよう努めることとしております。
 第四に、支援等の措置についてであります。
 国は、認定棚田地域振興活動計画に基づく指定棚田地域振興活動を支援するため必要な財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずることとし、国及び地方公共団体は、棚田地域振興活動を担うべき人材を育成し、及び確保するために必要な措置を講ずるよう努めることとしております。また、国は、毎年度、当該年度に実施する指定棚田地域の振興に資する事業について、その内容を取りまとめ、公表することとしております。
 第五に、棚田地域振興連絡会議についてであります。
 政府は、関係行政機関の職員をもって構成する棚田地域振興連絡会議を設け、棚田地域の振興に関する施策の総合的かつ効果的な推進を図るための連絡調整を行うこととしております。
 なお、この法律は、公布の日から起算して二月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとし、令和七年三月三十一日限りでその効力を失うこととしております。
 以上が、本案の趣旨及び主な内容であります。
 何とぞ、御審議の上、速やかに御可決くださいますようお願い申し上げます。

○委員長(堂故茂君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。
 これより質疑に入ります。──別に御発言もないようですから、これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 棚田地域振興法案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(堂故茂君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。