<第198回国会 農林水産委員会 2019年6月4日>


◇林野庁のアンケートでは、木材加工・流通業者が国有林の取扱量を増やしたい理由として新規エネルギー需要施設への供給をあげていると指摘/TPPや日EU・EPAで木材価格の上昇が見込みにくい中、川下事業者の要望に合わせて経営転換が迫られると指摘/所得率を上げながら輸入材を国産材に置き換える実効性ある対策が必要だと主張

○国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、樹木採取区と樹木採取権についてお聞きします。
 樹木採取区は、一か所当たり数百ヘクタール規模で、十か所程度をパイロット的に指定します。この事業に参入しようと思う大規模林業経営者は、まず公募に際して手を挙げると。そして、昨年成立した森林管理経営法で目指す林業経営者であるかどうか審査をされることになります。つまり、いきなり国有林に参入できるわけではありません。国有林に参入できる大規模林業経営者は、民有林を補完する者で、国有林と民有林を一体的に経営する事業者です。
 全国十か所程度を指定するということなんですけれども、参入する経営者というのは十者程度になるということなんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 牧元幸司君) お答えを申し上げます。
 委員御指摘のように、当面十か所程度を指定する考えでございますこの樹木採取区についてでございますけれども、森林資源の状況のみならず、全国的なバランスを考慮いたしまして区域を指定するということを検討しているところでございます。
 現在の国有林の立木販売の入札におきましては、特段の地元要件等を設けていないものの、そのほとんど、九割は地元事業者が落札をしているというような状況に鑑みますと、この樹木採取区についても基本的にはこういう地元の業者が落札をするということで、仮に、例えば複数の樹木採取区を同一の方が権利を取得するということは想定をしていないところでございますので、十か所程度の区域につきましては、各々別の事業者が権利を取得するものというふうに考えております。
 なお、複数の事業者から成りますところの協同組合等の法人に樹木採取権が設定をされるということも想定をされるところでございますので、例えば十数業者とか二十業者とかの協同組合がこの樹木採取権を設定されるということも考えられるわけでございますので、実質的に関与する事業者の数は十者程度よりは多くなるものと考えているところでございます。

○紙智子君 できるだけちょっと簡潔に御答弁お願いしたいと思います。
 五月三十日の日に、国有林の供給量が増えて価格が冷やされるんじゃないかというふうにお聞きしました。大臣は、樹木伐採権の設定を受ける者については、木材需要の開拓等を行う川中、川下事業者と安定的な取引を確立することを要件とすることによって、民有林の木材供給の圧迫と木材価格の下落を回避するというふうに言われました。
 それで、川中、川下事業者と連携すると言われるんですけれども、川中、川下の事業者でも、これは意欲と能力があれば国有林に参入できるんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 牧元幸司君) お答えを申し上げます。
 意欲と能力のある林業経営者の選定に当たりましては、この素材生産や造林などに関しまして一定期間の事業実績を有すること、また素材生産に関しまして生産量を一定の割合以上で増加させる目標を有しておりますこと、また最近の事業年度における経理状況が良好であること、また労働安全衛生教育に取り組んでいることなどの要件を全て満たしている必要がございますけれども、川中事業者等でございましても、素材生産などの川上の事業も行っており、かつこれらの要件を満たせば、樹木採取権の設定対象になり得ると考えているところでございます。

○紙智子君 林野庁は、国有林野事業における木材供給に係るアンケートを実施をされております。木材加工流通業者へのアンケート、素材生産者へのアンケートはあるんですけれども、川下事業者へのアンケートというのは行ったんでしょうか。

○政府参考人(林野庁長官 牧元幸司君) お答えを申し上げます。
 委員から御指摘のアンケートでございますが、これは平成三十年八月に実施をしたものでございます。その当時、平成二十九年に行った民間事業者からの改善提案も踏まえまして、新たな森林管理システムの円滑な実施に向けまして、川上事業者であります意欲と能力のある林業経営者が一定期間、安定的に国有林の立木を伐採する仕組みを検討していたところでございます。この検討を進めるため、直接伐採を行います川上事業者と、川上事業者の直接の取引先となります川中事業者の意向を具体的に把握することが必要というふうに考えまして、本アンケートを行ったところでございます。
 なお、本アンケートでは川下事業者は対象としていないところでございますけれども、川上、川中事業者の意向を把握したことによりまして法案の具体化に役立ったものと考えております。

○紙智子君 川下のアンケート、どうして取っていないのかなというふうに思ったんですけれども、川下の事業者のアンケートがないと、住宅メーカーやバイオマス事業者の実情とか、どういう要求があるのかというのはなかなか分かりづらいんですよね。
 ただ、今回、このアンケートから一定程度動向は読み取れるというふうに思うんですけれども、木材加工や流通業者がなぜ国有林の取扱量を増やしたいのかと。これ当たり前のことなんですけれども、需要が多い商品への供給を増やしたいというのが一番目です、一番ですね。二番目は、新規のエネルギー需要施設への供給というふうになっているわけです。それで、林業経営者は川下事業者の要望に沿った木を切り出すことになるわけです。資本力のある大手が川上、川中と連携することもあれば、業界を再編して参入することも可能になると。
 需要の多い商品への供給もありますけれども、バイオマス事業者に国有林が提供されるんじゃないかと思うんですけど、いかがですか。

○政府参考人(林野庁長官 牧元幸司君) お答えを申し上げます。
 今回の新たな仕組みにつきましては、今後、供給量の増加が見込まれます国有林材の一部について導入をしておりまして、これまでの供給量に当たる部分は現行の入札による方式を引き続き行っていくことから、まずは地元事業者の需給が圧迫するということは想定をされていないところでございます。
 また、地域の産業の振興につながるように、樹木採取区につきましても、地域の意欲と能力のある林業経営者が対応できる規模等を基本としているところでございまして、本法案につきましては、まずは大企業を優先するものではなくて、地域の林業経営者の育成にもつながるものであるということを御説明をしておきたいと思います。
 なお、今回の材につきましては、川中、川下事業者と連携をしている者について対象にするわけでございますけれども、御指摘ございました、全てバイオマスに流れるのではないかという御指摘でございますけれども、私どもといたしましては、この利用につきましてはあくまでもカスケード利用、建材に使えるものは建材として利用し、そういったものに使えないものについてバイオマスに利用するという利用が基本でございます。
 また、樹木料の設定につきましては市場価格よりも高い価格というものも想定をしているところでございまして、そのような観点からも、全てがバイオマスに流れるということは想定をされないと考えております。

○紙智子君 カスケード利用という、これは方針ということではあるんですけれども、しかし、木質バイオマス発電は、再生可能エネルギーの固定価格買取り制度が導入されて以降、発電施設がすごく増えているんですよね。しかし、地域の資源の実態を無視した整備が進められて、一部で輸入燃料への依存や、製材品に利用できる良質材などが燃料にされる問題が指摘をされているんですね。良質材が利用されかねないんじゃないかという、これは今の現実、そういうふうになってきつつあるというふうに思います。
 さて、前回の質問で、林業関係者の中で冷やし玉という言葉を使って言われていたんですけれども、紹介しました。国有林の供給を増やすこと、TPPや日EU・EPAで木材価格の上昇が見込みにくい中で、この川下事業者の要望に合わせた経営転換が迫られることになるんじゃないかと。
 これ大臣にお聞きするんですけれども、農業、漁業というのはこれまで、これは生産者の所得を増やすためなんだというふうに言ってきたと思うんですけれども、改革ということを言ってきたんですけれども、林業では所得を増やす改革というふうにはなかなか聞いていないんですけれども、そういうふうに言わないんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 林業におきましては、森林所有者が自ら林業経営を行う形態、自伐林業等でありますけれども、この中山間地域におきまして重要であるものの、森林所有者のほか、森林組合や立木を伐採する素材生産事業者、植栽を行う造林事業者などが連携することで全体として林業経営を担う形態が大宗となっている状況にございます。このため、林業政策におきましては、林業の成長産業化を掲げて各種政策に取り組んでいるところでありまして、その中で、林業従事者や森林所有者の所得確保を図ることが重要であると考えております。
 一方、林業従事者の平均所得は年間三百万円でございまして、全産業の従事者の平均所得約四百万円には達しておりません。このため、森林経営管理制度の運用による森林経営の集積、集約化、さらにはICTを活用した施業の集約化、路網整備や高性能林業機械の導入、さらには生産流通構造改革の推進や新たな木材需要の開拓等によりまして、林業の成長産業化を進めて林業従事者等の所得の向上を果たしていく考えでございます。

○紙智子君 市場開放の危険性ということでいうと、国際価格と競争する生産体制にならざるを得ないんですよね。だから、なりわいとして成り立たなくなっていくということだというふうに思います。
 それで、もう一つ大臣に対しての質問なんですけれども、国有林の公益的機能についても議論がありました。特に、伐採した跡地に植林義務がないということから、荒廃につながるんじゃないかという問題です。どういう国有林をつくっていくかということが問われていると思うんです。
 参考人質疑の中で、泉参考人が、国有林を、決して民有林行政への支援や木材増産等が国有林の使命ではないんだと、しかも五十年という短伐期再造林方式では多面的機能が保てないという話がありました。平成十年に、これは鉢呂さんも質問されていたんだけれども、一九九八年の国有林野事業の改革のための特別措置法、ここでは国有林の公益的機能の維持増進を旨とする管理経営への転換を掲げています。政府は、複層林業、長伐期施業その他の森林の公益的機能の維持増進を図るための森林施業を積極的に推進するというふうにしているわけであります。
 五十年の短伐期再造林方式というのは、これ、特措法の理念に反対するんじゃないでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 平成十年に制定をされました国有林野事業の改革のための特別措置法第五条第一項において、公益的機能の維持増進を旨とする管理経営への転換が規定をされました。それと同時に、当時の国有林野法が国有林野の管理経営に関する法律に改称されまして、同法第三条において、国有林野の管理経営の目標は、国土の保全その他国有林野の有する公益的機能の維持増進を図るとともに、あわせて、林産物を持続的かつ計画的に供給し、及び国有林野の活用によりその所在する地域における産業の振興又は住民の福祉の向上に寄与することにあるものとするとされたところでございます。
 その後、平成二十五年にこの国有林野事業の改革のための特別措置法は廃止をされましたけれども、国有林野事業の実施に当たりましては、国有林野の経営管理に関する法律に基づき策定する国有林野の管理経営に関する基本計画に沿って、公益重視の管理経営の一層の推進に努めているところでもございます。
 具体的に申し上げますと、森林の公益的機能の維持増進のためには、多様な樹種、林齢による森林が配置されていることが望ましいことから、森林の自然条件、社会的条件に応じて、五十ないし六十年程度を伐期とする施業のみならず、長伐期施業や複層林施業など、多様な森づくりを今進めているところでもございます。

○紙智子君 ちょっと時間になったので、もう一問だけ最後に質問をします。
 林業は最も早く国際競争を迫られた業界です。国際価格が安くて輸入に依存する傾向が続きましたけれども、日本の山は森林の資源量が増加してきていると。輸入を国産に置き換えることは大事だと思います。そこで、所得率を上げながら輸入を国産に置き換える実効性ある対策が必要だと思いますので、最後に大臣のその点についての見解を求めたいと思います。

○委員長(堂故茂君) 簡潔に御答弁願います。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 我が国におきましては、木造建築の九割以上が住宅でありますものの、実需者の求める品質や性能に応じた木材製品が供給できておりません。おおむね五割が外材となっていることから、住宅分野における国産材の利用促進が最も重要だと考えているところでございますので、ツーバイフォー工法の部材ですとかで国産材の活用ができるような技術開発や普及に今取り組んでおりますので、これらを通じまして、輸入材から国産材への転換を強力に進めてまいりたいと思います。

○紙智子君 終わります。