<第198回国会 沖縄及び北方問題に関する特別委員会 2019年5月15日>


◇日ロ外相会談の報道に触れ、交渉経過について/旧ソ連が領土不拡大の原則を破って、千島を占領した不公正をただす外交交渉が大事だと主張/2016年のロシア200海里水域でのサケ・マス流し網漁の禁止にともない、試験操業では漁業経営が回復していないとして、対策を要望した

○沖縄及び北方問題に関しての対策樹立に関する調査(沖縄及び北方問題に関しての施策に関する件)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、北方問題について質問いたします。
 五月十日に日ロ外相会談が行われました。翌十一日付けの新聞報道では、外相会談、平和条約めぐり交渉、日ロ隔たり埋まらずと報道されています。六月の大筋合意断念というふうに書かれています。
 隔たり埋まらずというのは、ラブロフ外相は、第二次世界大戦の結果を日本が確認する必要があるというふうに語り、さらに日米同盟の存在、米国のミサイル防衛システムについて触れて、島に米軍基地が建設される事態を念頭に置いていると見られると。
 これに対して河野大臣は、立場の隔たりを克服できたわけではないが、未解決の困難な問題を乗り越え、真のパートナーシップを築くことが双方の戦略的利益であるというふうに呼びかけて、日ロ領土問題が解決されていないため平和条約が締結されていないんだというふうに述べたということなんですけれども、この報道は、ほぼそういうことだというふうに理解してよろしいでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 交渉の内容に関することを公に申し上げるのは差し控えたいと思いますし、別に報道陣が外相会談の中に入っていたわけではございません。

○紙智子君 あと、二〇一六年の十二月なんですけれども、プーチン大統領が来日して、山口県、東京での首脳会談を行いました。安倍総理は、七十年間一ミリも領土問題は動かなかった、互いの正義を語るだけではいかないんだと言って、新しいアプローチを取るというふうに述べました。新しいアプローチというのは、過去にのみとらわれるのではなく、日ロ間で北方四島の未来像を描き、その中から双方に受入れ可能な解決策を探し出すという未来志向なんだと述べて、北方四島における日ロ共同経済活動を行うということですよね。
 つまり、いきなり平和条約を交渉ということではなくて、共同経済活動に関する協議開始が平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得るんだということを言っていて、それが方針だったというふうに思うんですけれども、それはそういうことでよろしいんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 共同経済活動は、日ロが共に北方四島の未来像を描き、その中から双方が受入れ可能な解決策を見出していくという新しいアプローチであります。その実現に向けた取組を通じ、北方領土問題の解決、そして平和条約の締結にたどり着くとの考えの下、ロシアとの交渉を進めてまいりました。
 引き続き、この長門での合意を着実に進展させ、領土問題を解決して平和条約を締結するという基本方針の下、粘り強く交渉してまいりたいと思います。

○紙智子君 これは、私の問いに対して、ほぼそういうことだなという答弁だったと思います。
 それから、昨年九月にウラジオストクで大きな変化がありました。プーチン大統領に、年末までは、前提条件なしで平和条約を結ぼうと呼びかけられて、安倍総理は、これはテレビで報道されていましたけれども、その場では特に何も言っていなかったと、反論していないと。
 平和条約を結ぶということは国境の画定をする、意味することですから、条件なしでということになると、これは領土の要求を日本が放棄することになってしまうわけです。そこで安倍総理は反論せずに、それどころか、十一月、この年の十一月、シンガポールで、平和条約締結後、歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとする一九五六年の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速させることで合意したと。新聞報道では、日本側は、従来の四島返還ということではなくて、二島返還を掲げればロシアも軟化して交渉が動くんじゃないかと、そう考えたんじゃないかという、まあ新聞報道ですけれどもね。
 これは、さきに言いましたけれども、共同経済活動を進めて領土問題の解決に結ぶというその方針から見ると、二島でもいいから領土返還についても進めようという二本立てに変わったかのようにも見えるんですけれども、どうなんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 新聞報道の一々にコメントすることは差し控えます。

○紙智子君 まあそういう回答なのかなと思いますけれども。しかし、これ、国内全体の国民が本当に注目して見ているわけですし、元島民の皆さんも含めて強い関心を持って見ていることですから、そういう木で鼻をくくったような答弁ではちょっと困るんですよね。
 それで、一九五六年の宣言を基礎として平和条約交渉を加速させるという表現は、新しいアプローチ以降、それまで使っていなかったんじゃないかなというふうに思うんです。ところが、今年に入って、一月中旬の外相同士の話合いで溝が表面化したと。それはなぜかというと、ロシアが北方領土の歴史認識ですとかどちらに主権があるかということを持ち出したということで、入口で対立したということが言われているわけです。
 経過を見ますと、さきの大戦の結果を日本は認めるべきなんだと、これはラブロフ外相は一貫して言っているんですよ。そういうラブロフ外相の発言を含めて、ロシア側というのは一貫して立場を変えていないんじゃないんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 交渉の内容に関わることを公の場で申し上げるのは差し控えております。

○紙智子君 安倍総理は、七十年間一ミリも領土問題動かなかったということでもって、で、新しいアプローチなんだと言ってきたわけですけれども、じゃ、この二年間、一ミリでも動いているんですか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 交渉内容に関わることをお答えするのは差し控えております。

○紙智子君 ロシアの主張は変わっていないんですよ。ロシアの主張変わっていないのに、この間は日本側だけが何か動いているかのように、安倍政権の外交の成果を上げるために、何か今にも実現するかのように宣伝していたんじゃないのかという気さえしてくるんですね。
 それで、なかなか思うようにいかないとなると、今度は、ロシアを刺激しないように、二〇一九年版の外交青書から北方四島は日本に帰属するという言葉、この表現を削除したと言われているわけです、さっきもちょっと質問ありましたけれども。これ、なぜ削除したんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 先ほど御答弁申し上げたとおりでございまして、政府の法的立場に何ら変わりはございません。
 その上で、外交青書というのは当該年度に係る我が国の外交活動を総合的に勘案して作成をしているものでございます。

○紙智子君 質問したことに、聞いていないんですよね。なぜ削除したのかと、削減したのかということで、法的立場に何ら変わりないという話なんだけれども、なぜ削減したのか、そこのところにしっかり答えていただきたいと思います。

○国務大臣(外務大臣 河野太郎君) 先ほど申し上げたとおりでございまして、外交青書というのは当該年度における我が国の外交活動を総合的に勘案して記載をするものでございます。

○紙智子君 そうだとはしても、これ、北方四島は日本に帰属すると、主権に関わる大事な政府の認識を書いているものだと思うんですよ。それを削ったということは、これ、外交青書だとしても、まあ白書のようなものだと思うんですけれども、非常に大きな問題ではないのかなというふうに思うんです。
 それで、新潟大学の袴田茂樹教授が新聞紙上でこう言っているんですね。プーチン大統領は、初めから二島さえも返還するつもりはないと断言すると。それはなぜかというと、プーチン大統領自身が二島の引渡しというのは主権の引渡しを意味しないんだと語っていると。プーチン大統領がそういうことで語っているのに、安倍総理は、これまで一ミリも進まなかったということで新しいアプローチの経済協力を提案したというのは、これはロシア側に誤ったシグナルを送ったことになるんじゃないかと言っているんですね。
 安倍総理は、正義だけをお互いに言っても解決しないと、原則論だけ言っても進まないんだということを言ってきたわけだけれども、そもそもこの原則論、原則って一体何なんだということですよ。
 これ、領土問題の根本というのは、やっぱり領土不拡大という、あのさきの大戦の戦後処理の大原則を踏みにじって、当時、アメリカとロシア、当時はソ連ですかね、イギリスがヤルタで協定を、秘密協定をやったと。その中で千島の引渡しを決めたと、日本抜きに勝手に決めたわけですよね。それを押し付けてきて、サンフランシスコ平和条約に盛り込んで、それを、日本政府として、当時、千島列島の放棄を日本自身が宣言をすることになったと。
 この、やっぱり、本来守らなければいけなかった領土不拡大の原則を破ったという、この不公正を正して、国際社会全体を納得させる論立てで正面から交渉を行うということがやっぱり大事なんじゃないかと。一体、これまで政府はその正面からの議論をどれだけやってきたのかということを私は常々疑問に思っているんですね。過去のいろいろ議事録見ても、国会の中でやり取りすると、一体どういう交渉をやってきたんだというふうに言っても、ここに関わる部分というのはないんですよ。こういうやっぱり問題の根本のところを正面からやるという点でどうなのかということを私は問いたいと思うんですけれども、しかしながらちょっと時間が、次の問題もあるので、これはここにとどめて、また引き続きということでやりたいと思います。
 それで、もう一つお聞きしたいことなんです。これ、ちょっと漁業に関わる問題であります。
 先日、我が党の畠山和也前衆議院議員が根室を始めとした隣接地域を訪ねて、いろいろ懇談してきました。その話を伝えてくれたんですけれども、平成三十一年、二〇一九年の日ロサケ・マス漁業交渉も行われたと。平成二十八年、二〇一六年のロシア二百海里水域、ここでのサケ・マス流し網漁が禁止されたことに伴って、今代替漁法を検討してやっているわけです。その取組の現状と、今年も含めて今後どのようにするつもりなのかということについて、水産庁からちょっと説明いただきたいと思います。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 神谷崇君) お答えいたします。
 サケ・マス流し網漁法の代替漁法といたしまして、曳き縄漁法の可能性を探るために、済みません、曳き縄漁法の可能性を探るために、水産庁では、技術開発及び試験操業を平成二十八年度より実施してまいりました。これまでの技術開発等によりまして漁獲量は増加してまいりましたものの、サケ・マス漁業が使用しております流し網漁法の採算の水準には残念ながら届いておりません。
 したがいまして、今後は、これまでに開発してまいりました曳き縄漁法の技術をこれまでと、曳き縄漁法の技術をこれまでとは異なる漁場で試すことにより、新たな可能性を見出すべく試験操業を行う予定としております。

○紙智子君 これは補助金も国からも出して、補助事業で二十七年、二十八年、それから二十九年、三十年という、そこのところはどうなんですか。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 神谷崇君) 補助金につきましては、平成二十八年から三十年まで実施してきております。今後につきましては、また引き続き実施の予定となっております。

○紙智子君 是非、そこのところはよく現場の状況を見ていただきながらやっていただきたいと思います。
 それで、やっぱり試験操業によって漁業の経営が回復してきているのかというとそうではないですよね。期限が切れて補助がなくなると、これ経営上困難を来すんじゃないかというふうに思いますし、現地では、このほかにも海産物の増殖事業をやっていることを始めとして、やっぱり漁業の振興のための様々な取組をやっているわけでありまして、やはり安定的な経営が行えるように、水産庁として、継続あるいは新規で、この後、その全体も含めてどのような対策を進めておられるでしょうか。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 神谷崇君) お答えいたします。
 水産庁では、サケ・マス流し網漁業の代替漁業といたしまして、サンマ棒受け網漁業とサバ・イワシ棒受け網漁業の実証化の支援をしておるところでございます。
 サンマ棒受け網漁業につきましては、平成二十八年から平成三十年までの三年間実施いたしました。平成三十年には、水揚げ量、水揚げ金額ともほぼ目標を達成したことから、今漁期の操業から本格的に公海のサンマ操業を実施する予定となっております。
 一方、サバ・イワシ棒受け網漁業につきましても平成二十八年から実施しておりますが、平成三十年には数量ではほぼ目標に達しましたが、単価が低迷し、厳しい状況にございます。この件につきましては、北海道庁とも協力しつつ、本年も引き続き実証化の取組をフォローアップしていく予定としております。

○紙智子君 是非継続して進めていただきたいというふうに思います。
 それともう一つ、現場から出されてきている声に、日ロの地先沖合交渉ですね、これが三十年ぶりに、昨年の十二月に本来妥結するべきものが妥結できないまま、今年四月に妥結したと。ところが、そのためにマダラ漁、一月、二月なんですけれども、マダラ漁の漁期を逃してしまったというのがあって、現地の漁業者からは、いや、こういうことがこれからないようにしていただきたいんだと、水産庁にもしっかりとやっていただきたいんだという声が訴えられたんですけれども、これをめぐって、これ、ちょっと沖北担当大臣も言ってほしいし、水産庁の方からもちょっと言っていただきたいんですけれども。

○政府参考人(水産庁資源管理部長 神谷崇君) お答えいたします。
 日ロ地先沖合漁業交渉は、委員御指摘のように、例年十二月に妥結しております。その内容に従いまして、翌年一月、二月と十一月、十二月にマダラなどを対象とする底はえ縄漁業がロシア水域での操業を行っております。
 今回の交渉は、ロシア側との協議が調わなかったことから、異例ではございますが、漁業者の事前の理解も得つつ、越年して協議を継続いたしました。その結果として、一月、二月の操業を断念せざるを得なくなったものでございます。
 次回の交渉におきましては、漁業者の操業機会をしっかり確保できるよう臨んでまいりたいと思っております。

○紙智子君 根室では一年通じて漁のサイクルがあるんですよね。冬、一月、二月はマダラと。この時期のマダラというのは本当においしい、いいものなんですね。マダラで、春から夏にかけてはサケ・マスと、夏から秋にかけてはサンマということで、こういう循環をやっていて、根室沖のこの沖合漁業のサイクルが非常に大事で今までやってきて、この漁業経営とそれから船に乗る乗組員の人たちがそういうことでつないでやるので、年間雇用、通年雇用ということに結び付くということと、さらに水産加工やトラック運送だとか関連業も全部、経済影響が出てくるんですね。この年間サイクルが破綻すると大変だということを言っています。
 ちょっと最後に宮腰大臣にお聞きしたいんですけれども、根室の大地みらい信用金庫というのがあって、信用金庫なんですが、毎年やっている根室管内の景気動向調査、平成二十九年、百三十五回目の調査をやっているんですけれども、それ見ますと、全業種総合で、根室管内の、総合というのは売上げで、収益DIとあるんですね、DIというのは景気の広がり具合を示す指数ということなんですけど、売上げ・収益DI、これが共に悪化していると。地域別で見ても、根室市、管内の四町共に売上げ・収益DIが悪化、後退というふうになっていて、七月から九月の水産業は、これ二十九年ですからね、水産業は、主要魚種であるサンマやアキサケの記録的な不漁により稼働は低調、原料不足からコスト負担も増加をし、売上げ・収益の景況感というのは低調だというふうに書いてあるんです。
 これまでも、根室隣接地域というのは北方領土返還運動のやっぱり拠点の地域ということで、そこも自覚して地域の皆さんが本当に頑張って取り組んできておられるわけで、そういう地域の経済が落ち込んで大変になるということではやっぱりよくないと。本当に元気になっていかなきゃいけないということを考えると、非常にやっぱりそういう経済のこと含めたバックアップしていくということが大事だと思うので、やっぱり領土返還運動のそういう全体として進めていく観点からも、是非、宮腰大臣に、しっかりこの後もその後押しをしていくということで、激励になる、そういうメッセージというか、思いを込めて語っていただければと思います。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策) 宮腰光寛君) 委員御指摘のとおり、北方領土問題の解決のためには、北方領土返還運動の原点の地であるこの北方領土隣接地域において安定した地域経済が構築をできて自立的に発展していく、その環境をしっかりと整備をしていくということが極めて重要であるというふうに考えております。それには地域の基幹産業である水産業を始めとする産業振興が不可欠であると考えております。
 以前、若いときに根室管内お邪魔したときには、管内の水産業あるいはその関連の生産額は約年間六百億円と聞いておりましたけれども、最近は低位で低迷しているという状況にあります。これは国際漁場をだんだん失ってきたことと無縁ではありません。
 先ほど先生からいろんなお話がありました。サケ・マスの試験操業の継続、さらには地先沖合漁業における合意時期の問題、これは年間を通じて回していくということになると、間違いなく、タラ、サケ・マス、さらにはサンマと、こういう形で年間通じて漁があるということがこれは極めて重要でありまして、そういうことを交渉の中でしっかり勝ち取っていくということが必要ではないかというふうに思っております。
 また、昨年、全会一致で成立をいたしました北方領土問題等の解決の促進に関する法律におきまして、地元の要請を踏まえ、基金については取り崩して活用するということを可能にしていただきました。本年四月から施行されまして、北海道から提出された事業計画に基づきまして、本年度、種苗放流、漁場造成等の水産業振興事業、歴史と自然の資料館整備等の施設整備事業を始め、総額四億二千三百万円余が隣接地域振興等に交付されることになっております。
 引き続き、改正北特法の趣旨を踏まえ、関係機関とも連携の上、水産業を始めとする隣接地域の振興にしっかりと取り組んでまいりたいというふうに考えております。

○委員長(石橋通宏君) 紙さん、時間が来ておりますので。

○紙智子君 ありがとうございました。これで終わります。