<第198回国会 国土交通委員会 2019年4月18日>


◇「明治以降の歴代日本政府がアイヌの権利を侵害し、土地、生活、自然を破壊したことを反省し、謝罪を求めた/国連宣言に反対したオーストラリアやカナダの政府でも、その後反省し謝罪しているが、なぜ日本政府は謝罪をしないのかと迫る/先住民族の権利に関する国連宣言の趣旨を、新法案に明記すべきだと主張/研究と称しアイヌの遺骨が盗掘・保管されている問題で、有識者の指摘を紹介し、国連宣言が認める権利として法案に盛り込むべきだと主張

○アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず、私、国土交通に所属しているわけではないんですけれども、こうして質問の機会をいただいたこと、そして質問の時間帯も御配慮いただきましたことに心から感謝を申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。
 それで、早速質問いたします。
 アイヌ新法案が国会に提出されたのが二月十五日です。衆参で一度の視察と関係者からの意見聴取を行って、法案の質疑、僅か三時間、参考人質疑は行われておりません、それで採決までということなんですけれども。国連宣言と〇八年の国会決議に基づいて、あれから十年たって初めてアイヌ新法という形で審議をされるわけです。アイヌ民族の皆さん自身は、法案の中身もまだ分からないままで決めてしまうのかと言っています。国会議員の中でも、十分中身を知らないまま採決をしようとしているんじゃないかと。私、率直に言って、そもそもこういう扱いでいいのかなということを強く感じております。
 政府は、二年前から、現地を訪問してアイヌの方々に説明をし、意見交換したということです。しかし、そこで出された意見がどのように扱われて、どういう理由で反映されたのか不透明です。一昨日の視察で、アイヌ新法として初めて議論されるのに、アイヌの当事者の意見を広く拾い上げる点では不十分であるという意見も、指摘もありました。しかも、アイヌ新法に対して撤回を求める意見が、例えば少数民族懇談会ですとか紋別アイヌ協会、アイヌ政策検討市民会議、アイヌ民族の権利を取り戻すウコチャランケの会などから上がっています。
 そこで、国土交通大臣、この撤回を求める意見が次々出ているということはなぜだと思われますか。

○国務大臣(国土交通大臣 石井啓一君) 本法案につきましては、国会提出後も衆参の国土交通委員会で現地視察や関係者からの意見聴取を行うなど、丁寧な議論がなされてきたものと承知をしております。また、本法案に対しまして、多くのアイヌの方々から早期成立を求める意見もあると承知をしております。他方、先住民族の権利に関する国際連合宣言に従って権利を保障していない、過去についての国の謝罪がないことなどの意見もあると承知をしております。
 国連宣言につきましては、先住民族に係る政策の在り方の一般的な国際指針と認識をしており、その採択に当たり、我が国は一定の留保条件を付けましたが、賛成票を投じたところであります。
 この国連宣言は、検討の過程で各国の様々な先住民族の意見を取り入れたことから、前文において、地域ごと及び国ごとに先住民族の状況が異なること、国及び地域の特殊性、多様な歴史的及び文化的な背景の重要性が考慮されるべき旨が明記をされ、また法的拘束は有しない性格のものでございます。したがいまして、宣言の内容を全て実施すべきものではないと考えております。
 本法案におきましては、国会決議におきまして国連宣言の関連条項を参照しつつとされていることを踏まえまして、先住民族の文化に関する権利、差別を受けない権利、国民の理解の促進、土地資源に関する権利の規定を参照いたしまして、この趣旨に対応する措置を盛り込んだところでございます。
 このため、国連宣言に示されている国の果たすべき責務につきまして、憲法との課題整理を図る必要があるものを除きまして、本法と関連法令によりおおむね措置されているものと考えているところでございます。

○紙智子君 質問したことに余り答えられていないというように思うんですけれども。
 それで、やはり、先住民族のアイヌの声実現の実行委員会という、ここにいっぱいいろんなアイヌの方たちがいるんですけれども、この間、政府と合計七回のチャランケ、意見陳述というか、意見を出してきたと。声は伝えてきたけれども、法案に意見が反映されていない、疲れたという話がありました。そういう中で撤回を求めるということが出ているのはある意味当然ではないかと思うんです。
 それで、その撤回を求めている理由が何かというと、法案でアイヌは先住民族と認めながら、国連先住民の権利宣言及び国際人権規約の趣旨に従って自己決定権や自決権並びに土地権など先住民族の古来持っていた権利など、アイヌが求めている具体的権利については触れていないと。明治政府の、一八六九年以来、北海道百五十年と言われているんですけれども、歴代の政府は、アイヌモシリ全土を持ち主なき土地として取り上げて、開拓移民に土地を与えてしまったと。土地、生活、自然など、全てを破壊したことを反省して謝罪すべきであるという意見なんですね。
 それで、一昨日の八重洲の視察で、二人の先生からも、アイヌに対する過去の歴史的不正義を謝罪すべきだということ、あるいは、民族共生ということを進めるためにも、まず必要なことはアイヌ民族への謝罪だと述べられました。私も同感なんです。
 政府のこの厳粛に受け止めるという答弁ではやっぱり納得しないということで、やっぱり謝罪すべきじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○国務大臣(国土交通大臣 石井啓一君) 我が国が近代化する過程におきまして、法的にはひとしく国民でありながらも差別をされ貧窮を余儀なくされたアイヌの人々が多数に上ったという歴史的事実につきましては、政府として厳粛に受け止めております。
 その上で、平成二十年の衆参両議院による決議におきましては、アイヌの人々が先住民族であるとの認識の下に、総合的な施策の確立に取り組むことを政府に求めております。
 そのような決議の指摘を踏まえ、本法律案におきまして、アイヌの人々が先住民族であるとの認識を示し、またアイヌ施策については、従来の生活向上策や文化施策に加え、産業振興、観光振興、地域振興など、総合的な施策の確立に取り組むこととしております。
 今回の法律によりまして、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができ、その誇りが尊重される社会の実現を図り、もって国民が相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指してまいる考えであります。

○紙智子君 政府の答弁が厳粛に受け止めるという話なんだけれども、やっぱり厳粛に受け止めるでなくて、謝罪すべきではないかというふうに聞いているわけですよね。
 明治以降、日本政府は、戸籍法を制定してアイヌ民族の独自の風習を禁じたんです。日本語を強制したと。そのため、アイヌ民族は言語や文化を奪われて、さらに、アイヌ民族の食べ物であるアキサケも、一本捕っても逮捕されるという事態になったわけです。そればかりか、アイヌの遺骨の盗掘や放置、アイヌのサケ漁への不当介入など、重大な人権宣言に対して謝罪も反省もしていないんですね。
 諸外国はどうかというふうに見ると、例えばオーストラリアでは、アボリジニの子供たちを集落から引き離して収容した過去の同化政策、日本も同化政策を取ったんですけれども、これを謝罪したと。カナダやアメリカも謝罪をしました。これらの国は国連宣言に反対したんですよ、あの当時ね、反対したと。しかしながら、その後、その態度を反省して、謝罪をして、先住民族の権利を認める取組を進めているわけです。
 なぜ日本は謝罪をしないんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房アイヌ総合政策室長 橋本元秀君) 我が国といたしまして、その近代化の過程におきまして、法的にはひとしく国民でありながらも差別され貧窮を余儀なくされたアイヌの方々が多数に上ったという歴史的事実について、政府として厳粛に受け止めております。
 なお、本法案を作成する過程におきましては、私どももアイヌの方々と多数意見交換を開催、実施しております。その中で、いろいろな意見、御要望をいただいたところでございます。確かにその中で、謝罪を求める、そういった意見もございましたけれども、民族の共生に向けて、国民の理解を深め、未来志向で物事をしっかりと進めるべきであるという意見が強かったと、そのように承知しております。
 政府といたしましては、今回の法律によりまして、未来志向の下、アイヌの人々に寄り添い、アイヌの人々の要望にできる限り対応しながら、共生社会の実現に向けてアイヌ政策を総合的に推進してまいりたいと、そのように考えている次第でございます。

○紙智子君 やはり過去のことではないんですよね。いまだにアイヌであるということを言えないまま生活している人たちがいるわけです。そういう歴史的な政府の政策に反省も謝罪もないと。政府としてのその真剣な謝罪がないということは、やっぱり国際社会の中で日本が先住民族の権利問題で後れを取っている根本だというふうに思います。
 法案の中身についてもお聞きします。法案に先住民族の権利に関する国連宣言が生かされていないと思うんです。国際情勢に鑑みという表現ではなくて、国連宣言を踏まえと明記すべきだという意見も出されました。
 二〇〇八年の国会決議は、先住民族の権利に関する国際連合宣言が我が国も賛成する中で採択をされた。これはアイヌ民族の長年の悲願を映したものであり、同時に、その趣旨を体して具体的な行動を取ることが国連人権条約監視機関から我が国に求められているというふうに書いているわけですよ、決議に。国際情勢に鑑みてということではなくて、国会決議にも書いてあるこの国連宣言の趣旨を体して、あるいは踏まえてとなぜ法案に書けないんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房アイヌ総合政策室長 橋本元秀君) お答えいたします。
 本法案の目的規定でございます第一条において、近年の先住民族をめぐる国際情勢に鑑みと、そのように規定しております。これは、本法案が、先住民族の権利に関する国際連合宣言の採択のほか、各国の先住民間の交流が活発化するなど、幅広い内容の先住民族に関する国際動向に鑑みて立案されたということによるものでございます。
 なお、本法案の提案理由説明におきましては、国際連合において先住民族の権利に関する国際連合宣言が採択されるなど、国内外において先住民族への配慮を求める要請が高まっていると、そのように申し上げているところでございまして、先住民族をめぐる国際情勢について国際宣言の採択が含まれることを明確化していると承知しております。

○紙智子君 なかなかちょっと理解し難いんですよね。やっぱり一般的なそういう、まあいろいろな情勢ということはあるんだけれども、鑑みてと書いたとしても、やっぱり国連宣言の趣旨を体してということを入れるべきだというふうに思うんですよね。
 それで、国会決議という言葉も入っていないということなんでありまして、衆議院の議論で、その国連宣言の条項で本法案に取り込まれているのは何かという質問がされて、それに対して政府として三つ答えています。一つは差別を受けない権利、二つ目は国民の理解促進、三つ目は先住民族の文化に関する権利というふうに三つだけ答えているんですけれども、国連宣言、そんなの四十六条あるわけですよね。その中で三つが答えられているということなんだけれども、ちょっとやっぱりそれ自体もあるわけだけれども、自己決定権については入っているんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房アイヌ総合政策室長 橋本元秀君) 先住民族の権利に関する国際連合宣言に記載されている自決権や自治の権利、こういった内容につきましては様々な見解があり、共通理解が図られているものではないと承知しております。
 これらの権利につきましては、国の在り方の根幹に関わるものであるという見解に立てば、我が国の憲法との課題整理を図る必要があり、法律に規定することは慎重であるべきと、そのように考えております。
 他方、政府といたしましては、アイヌの人々の意見を尊重しつつ施策を推進することについては重要であると考えており、本法案の基本理念におきまして、「アイヌ施策の推進は、アイヌの人々が民族としての誇りを持って生活することができるよう、アイヌの人々の自発的意思の尊重に配慮しつつ、行われなければならない。」と、そのように規定しているところでございます。

○紙智子君 宣言の三条の中で、自決の権利に基づき、政治的地位を自由に決定し、並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求するというのがあります。尊重という言い方でいうとやっぱり弱いというように思うんですね。アイヌ民族が誇りを持って生活できるという源泉は何かという議論もありました。
 それで、政府は、文化振興法に焦点を当てて、今回の法律で文化振興に資する環境の整備ということが入ったんだというふうに言います。文化継承すること自体がなりわいにつながるというようにおっしゃっているんですけれども、例えば農業とか漁業とかですね、なりわいというのは、これは文化を継承するものなんでしょうか、そのためのものなんでしょうか。生活のためではないかというように思うんですけれども、大臣、この点はいかがでしょうか。

○国務大臣(国土交通大臣 石井啓一君) アイヌの方々からは、アイヌ文化の伝承が担い手のなりわいとなるような施策など、自立的、安定的なアイヌ文化の振興等を可能とするための環境整備も求められておりまして、このため、本法案におきましては、アイヌ施策の定義に、アイヌ文化の振興等に加えて、アイヌ文化の振興等に資する環境整備が含まれることを明記をした上で、アイヌの人々の民族の誇りや尊厳の保持のため、本法律案により新たに創設する交付金制度により、各地域の創意工夫に基づく地域振興、産業振興、観光振興の取組を国として支援をしようとするところであります。
 この新交付金によりまして、アイヌの人々のなりわいに資する施策について、例えばアイヌ文化のブランド化やアイヌ文化に関連した観光プロモーションなどに対する支援を行うことによりまして、アイヌ文化の伝承に携わる人々のなりわいにつながるような取組を支援をしてまいりたいと考えています。

○紙智子君 私は、ちょっと発想が逆転しているんじゃないかなというように思うんです。文化を継承するためになりわいがあるんじゃなくて、なりわいがあって文化が生まれるんじゃないかと。私が直接聞いたアイヌの方の意見は、サケの採捕は、儀式のためではなく、なりわいとなるように認めてほしいという声なんですね。つまり、元々あった権利の回復ということでもあり、国連宣言の十一条にも原状回復を含む救済が書かれています。
 それから、もう一つ、アイヌの参加権についても、国連宣言の二十三条で、自らに影響を及ぼす問題、経済的、社会的計画を展開し決定することに積極的に関わる権利をうたっているんですけれども、国の指針を作る段階からアイヌの参加権というのはうたわれていないというように思うんです、言っていないと思うんですね。衆議院の質疑の中で我が党の塩川議員が、生活支援や生活向上を法案に盛り込む考えはないのかというように質問したら、それは地方公共団体がやることだというように言われているわけです。アイヌに寄り添うということであれば、やっぱりアイヌの施策そのものを国のその施策策定段階から参加を検討すべきだということを、これは指摘にとどめますけれども、求めておきたいと思います。
 次に、アイヌ民族の遺骨問題についてもちょっとお聞きします。
 この問題を、私、初めて聞いたときはもう物すごく驚いたんですね。つまり、自分のうちの墓が掘り起こされて勝手に遺骨を持っていかれたらどう思うかと。これ、びっくりする話なんですけれども、これ、大臣、もし大臣のところがそうだったらどう思いますか。

○国務大臣(国土交通大臣 石井啓一君) 一般に、先祖の慰霊を行う上で遺骨は大変重要なものであります。仮に先祖の遺骨を墓から勝手に持っていかれたとすれば、これは大変遺憾なことと思います。

○紙智子君 そうなんですよね。あり得ないというように思うんですけれども、ところが、アイヌの遺骨は研究のためだということで持ち去られたんですね。
 オーストラリア国立大学名誉教授のテッサ・モーリス・スズキさんという方は、遺骨の収集というのは、帝国時代、植民地主義的な負の遺産であるということから、返還運動というのは必然的に歴史認識を問うことにつながる、だから、遺骨を取り戻すための運動というのは、先住民族の権利、先住権のうちで中核を成す問題だというように言っているんですね。アボリジニとされるマンゴ人の遺骨は、一九七〇年代に発掘されて大学に持ち込まれたんですが、アボリジニの返還運動によって、二〇一七年です、やっと、ふるさとに返還されたと。返還までの長い間に変化したことは、奪った学者が自らのその行為を反省したということです。日本ではどうかというと、裁判が行われて、裁判で判決が出されるまで、アイヌ民族が訴えても大学は動かなかったと。
 国連宣言の十二条は遺骨の返還に対する権利を有すると書いてあって、なぜこれを法案に入れていないんでしょうか。

○政府参考人(内閣官房アイヌ総合政策室長 橋本元秀君) 大学等に保管されておりますアイヌの方々の遺骨などを返還することにつきましては、アイヌの方々の尊厳や精神文化の尊重に関わる重要なことと、そのように認識しております。
 政府といたしましては、遺骨等の一日も早い返還を希望するアイヌの方々の御希望を踏まえまして、迅速かつ柔軟に対応できるよう、順次遺骨の返還についてのガイドラインを策定し、手続を進めてきているところでございます。

○紙智子君 ガイドラインというのは拘束力がないんですよね。遺骨問題はアイヌ新法にやっぱり入れるべきだし、この点も日本は遅れていると、立ち遅れているというふうに思います。
 それで、先日視察をやったときに、東北学院大学の名誉教授の榎森進先生が、本法案は、まあ決まるんだろうけれども、国際的に見ると恥ずかしいと、追って国連宣言でうたっている先住民族の諸権利を法制化する旨の文章を加筆することを是非やるべきだというふうに言われたんです。
 本当に、真にアイヌの人たち、民族が誇りを持って生きられる社会を実現するためにも、附則の見直しの規定がありますから、是非、五年を待たずアイヌの皆さんの声を反映させた見直しをしていただきたいということを最後に申し上げまして、質問を終わります。

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○委員長(羽田雄一郎君) 他に発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(羽田雄一郎君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、青木君から発言を求められておりますので、これを許します。青木愛君。

○青木愛君 私は、ただいま可決されましたアイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案に対し、自由民主党・国民の声、立憲民主党・民友会・希望の会、国民民主党・新緑風会、公明党、日本維新の会・希望の党及び無所属クラブの各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案に対する附帯決議(案)

  政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講じ、その運用に万全を期すべきである。

 一 過去の国会決議や本法等に基づくアイヌ施策を推進するに当たっては、我が国が近代化する過程において多くのアイヌの人々が苦難を受けたという歴史的事実を厳粛に受け止め、アイヌの人々の自主性を尊重し、その意向が十分反映されるよう努めること。
 二 「先住民族の権利に関する国際連合宣言」の趣旨を踏まえるとともに、我が国のアイヌ政策に係る国連人権条約監視機関による勧告や、諸外国における先住民族政策の状況にも留意し、アイヌの人々に関する施策の更なる検討に努めること。
 三 アイヌ文化の振興等に資する環境の整備に関する施策の推進に当たっては、アイヌの人々の実態等の把握に努めるとともに、国、地方公共団体等の連携の強化を図ること。
 四 アイヌの人々に対する差別を根絶し、アイヌの人々の民族としての誇りの尊重と共生社会の実現を図るため、アイヌに関する教育並びにアイヌへの理解を深めるための啓発及び広報活動の充実に向けた取組を推進すること。あわせて、本法第四条の規定を踏まえ、不当な差別的言動の解消に向けた実効性のある具体的措置を講ずること。
 五 アイヌの人々の民族としての誇りの尊重と我が国の多様な生活文化の発展を図るため、アイヌの人々の生活支援及び教育支援に資する事業や、存続の危機にあるアイヌ語の復興に向けた取組、アイヌ文化の振興等の充実に今後とも一層努めるとともに、アイヌの人々が北海道のみならず全国において生活していることを踏まえて、北海道外に居住するアイヌの人々を対象とする施策の充実に努めること。
 六 本法に基づく措置、とりわけ交付金制度については、本法の目的に沿ってアイヌ施策を適正かつ効率的に推進するため、制度の適切な運用を図ること。あわせて、市町村によるアイヌ施策推進地域計画の作成に当たり、アイヌの人々の要望等が十分に反映されるよう、適切な指導を行うこと。
 七 本法において特例措置が設けられる認定アイヌ施策推進地域計画に係る地域団体商標の取得を契機に、アイヌ文化のブランド化の確立や販路拡大などの産業振興を図るため、交付金制度の活用や国等からのノウハウの提供等により、アイヌの人々の自立を最大限支援すること。
 八 内水面におけるさけの採捕や国有林野における林産物の採取といった本法の特例措置に関し、アイヌにおいて継承されてきた儀式の保存又は継承等を事業の目的とする趣旨に鑑み、関係機関との緊密な連携の下、アイヌの人々の視点に立ち、制度の円滑な運用に努めること。
 九 国内外においてアイヌの伝統等に関する理解が一層深まるよう、民族共生象徴空間への誘客促進に向けた広報活動やアクセスの改善等を図ること。また、民族共生象徴空間に関し、適切な運営が図られるよう、指定法人に対する指導監督に努めること。
 十 本法の施行後、本法の施行状況について適時適切に検討を行い、その結果に基づき得られた課題に関し、必要な措置を講ずること。なお、その際にはアイヌの人々の意見を十分踏まえること。

   右決議する。

 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○委員長(羽田雄一郎君) ただいま青木君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(羽田雄一郎君) 全会一致と認めます。よって、青木君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。