<第198回国会 農林水産委員会 2019年4月11日>


◇オレンジの輸入自由化で、生産基盤が弱体化し国産原材料が手に入りにくくなっており、加工業者は値上げをせざる負えなくなっていると指摘/日欧EPAの発効で国産チーズが影響を受けることになるが、生乳生産も生産基盤の弱体化につながるのではないかと質した/歯止めなき輸入自由化をやめ、地域の農業を振興し地産地消を進め、食料自給率を高めることこそ必要だと主張

○特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正する法律案(内閣提出)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 法案について質問いたします。
 特定農産加工法は、農産加工品の輸入自由化によって競争関係にある国内の特定農産加工業者の経営を支援するために一九八九年に制定をされて、今回で六回目の延長となります。
 前回の改正以降、日欧EPA、そしてTPP11などの発効が相次ぎました。国内の農産加工業者が置かれている現状について、まず大臣の御認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 特定農産加工業は、地域における基幹的産業といたしまして地域農業に対して安定的な販路を提供するとともに、地域の雇用、所得機会の確保等を通じまして地域経済の活性化に大きく貢献をしております。
 一方で、今御指摘のありましたTPP11及び日EU・EPAなどの国際環境の変化等によりまして、特定農産加工業者が生産する加工品の生産量が横ばいで推移する中で輸入量は一貫して増加傾向にあるなど、依然として厳しい状況にあるものと認識をいたしております。

○紙智子君 国産品が横ばいの中で輸入が増えているということの厳しい状況という話がありましたけれども、そういう中でこの支援制度というのがどういう効果を果たしているんでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) 農産加工品の関税の引下げや撤廃によりまして農産加工業者の経営に支障が生じるおそれがあるというふうに認識しております。
 このため、本法による金融及び税制上の支援措置は、このような支障が生じるおそれのある特定農産加工業者に対しまして経営の改善を促進するということを目的としております。また、本法に基づく計画の承認に当たりましては、地域農産物の利用拡大等によって、地域農産物の利用の促進又は地域農産物の特色を生かした農産加工品の生産の促進に資するものであることということを要件にしておりますので、本制度は国内農業の発展にも資するものであるというふうに考えております。

○紙智子君 特定農産加工業者が融資、そして事業所税、この特例の支援を受けるためには、経済改善計画などを立てて都道府県知事の承認を得ることになっていますけれども、この要件、承認要件について説明を願います。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) 今委員が御指摘いただきましたように、本法におきまして、都道府県知事が経営改善計画を承認をいたしますが、その承認に当たりましては要件がございまして、一つは、計画の達成される見込みが確実であることと、それから、地域の農産物の利用の促進又は地域の農産物の特色を生かした農産加工品の生産の促進に資するものであること、それから、売上高又は経常利益の伸び率として年平均一%を上回る目標を定めるものであることということについて都道府県において審査を行っているところでございます。

○紙智子君 農業加工業者が地域の農産物を利用することによって地域農業が維持発展していくということは、やっぱり大事なことだというふうに思うんです。そういう意味では、引き続き、これ農業生産加工業者への支援とともに、そのやっぱり基となる地域農業の活性化というところをしっかりと施策を講じていただきたいというふうに思います。
 次に、輸入自由化、ミカンの産地に与えた影響についてお聞きしたいと思います。
 愛媛県のミカン農家は、オレンジやオレンジ果汁の輸入自由化によって、例えば温州ミカンの価格低下に苦しんで、加工仕向けや中晩柑類への転換で生き残りをこれまで図ってきたわけです。
 それで、三年前になるんですけれども、ポンジュースで有名な愛媛の株式会社えひめ飲料の松山工場に調査に行ったことがあるんです。工場で生産される果汁の原材料の実は九割近くが県内のミカン農家から搬入されているというふうに聞きました。
 一九八九年の特定農産加工法の制定以来、この愛媛県の温州ミカンの収穫量、それから販売農家戸数がそれぞれどういう状況になっているのかということをお聞きしたいと思います。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 愛媛県の温州ミカンでございますが、収穫量につきましては、一九八九年産の三十一万五千三百トンから二〇一七年産の十二万三百トンへ減少、経営体数につきましては、一九九〇年の二万八百三十五戸から二〇一五年の七千九十二戸へ減少してございます。
 温州ミカンにつきましては、昭和四十年代後半から過剰基調となりまして価格が暴落したことから、オレンジ及びオレンジ果汁自由化前の一九七五年から廃園の促進や高品質な中晩柑等への転換を進めまして、需給の均衡を図ってまいりました。近年におきましても、食生活の多様化等もございまして温州ミカンの消費量自体も減少し、国内生産とともに輸入も減少してございますので、収穫量や経営体数の減少は国内の需給構造の変化によるところが大きいものというふうに考えてございます。

○紙智子君 今御説明ありましたけれども、一九八九年以降、この同じ年の収穫量三十一万五千三百トンを上回った年がないんですね。ずっと下がってきていると、減少傾向が続いているわけです。愛媛県のミカン農家は、一九九一年からオレンジの輸入自由化で安価な輸入オレンジとの価格競争にさらされて、廃業する農家もたくさん出たということなんですね。
 それで、えひめ飲料のさっき紹介した松山工場は、最盛期が二十万トンのミカンを受け入れていて、工場で五十台の搾汁機、五十台の搾汁機を二十四時間フル稼働していたという話なんですね。ところが、三年前に訪問したときには、温州ミカンで一万トン、中晩柑を加えて二・五万トンまで減少していると。十六台の搾汁機で八時間稼働ということを見ても、もう収穫量としては本当に激減しているんだなということを実感いたしました。
 ミカンの果汁の搾汁量のピークというのは、一九七九年で二十二万八千トン、近年は二万トン前後ということで、十分の一まで減っているということなんですね。二〇一八年には、ポンジュースの原材料となる国産の温州ミカンの生産量の減収などを理由にして、十一年ぶりだそうですけれども、十一年ぶりに値上げをせざるを得なかったということです。
 それで、輸入自由化の結果、やっぱり生産基盤の弱体化を招いて国産の原材料が不足する事態ということになっていると思うんです。今回、日欧EPAの発効で、例えば国産チーズが大きな影響を受けることになるわけですけれども、これ酪農家の離農が相次ぐ中で、生乳生産もやっぱりミカンと同じように生産基盤の弱体化につながるんじゃないかというふうに思うんですけれども、これは大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 牛乳、乳製品に関する日EU・EPAの合意結果において、例えばチーズでありますけれども、ソフト系は横断的な関税割当てとし、枠数量は国産の生産拡大と両立できる三万一千トンの範囲にとどめるとともに、ハード系でありますけれども、これは十六年目までという長期の関税撤廃期間を確保いたしております。そういった処置も獲得をしたところでございます。
 他方、チーズやホエーの関税削減や撤廃によりまして、長期的には加工原料乳乳価の下落も懸念をされることから、総合的なTPP等関連政策大綱に基づきまして、省力化機械の整備等による生産コストの削減ですとか、あるいは品質向上などの酪農の収益力、生産基盤の強化を推進をしていますとともに、経営安定対策といたしましては、生クリーム等の液状乳製品を加工原料乳の生産者補給金制度の対象に追加もいたしております。そして、単価も一本化をいたしておりまして、これらによりまして万全の対策を講じていくことといたしておりまするけれども、こういったことを踏まえまして試算をいたしましたところ、引き続き生産や農家所得が確保されて、国内生産量は維持されると見込まれているところでもございます。
 引き続き、酪農家の方々の不安や懸念を払拭をしていかなければなりませんので、新たな国際環境の下でも安心して再生産に取り組めますように、対処をしっかりしていく考えでございます。

○紙智子君 国内の生産者は何とかしようと思って頑張ってはいると思います。そして、今お話しされたんですけれども、TPPも日欧EPAも、これ、政府は影響が出ないようにいろいろ対策を打つんだと、だから大丈夫だということが話をされているんですけれども、現場の生産者は本当に不安でいっぱいですし、先行きがなかなか見通せないということも言っておりますから、そういうやっぱり状態であるということもちゃんと受け止めるべきだと思います。
 次に、食品製造業における国産食材と輸入食材との関係について聞きます。
 農水省が産業関連表を基に作成をしている食品製造業に投入される食材の金額の推移という資料がありますね。それで、これは食品製造業が加工食品を生産するために原材料として用いる食材の金額を国産の農林水産物と輸入とに分けて、一九八〇年から二〇一一年まで五年間ごとに集計して記載しているものです。二〇〇〇年以降は輸入の農林水産物が増加をしていると、で、国産の農林水産物が減少しています。ですから、二〇一一年、平成二十三年と二〇〇五年と、平成十七年ですか、比較しても、国産の農林水産物の金額というのはマイナス五・四%、一方、輸入の農林水産物の金額は二四・四%増加しているわけです。
 国産の農林水産物がこれ輸入に置き換わってきている理由は何でしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 塩川白良君) 委員の御指摘のとおり、産業連関表によりますと、二〇〇五年から二〇一一年にかけまして、食品産業事業者が使用する国産農林水産物の金額が五・四%減少する一方で、輸入品の金額が二四・四%増加しているところでございます。
 これは、近年、食の簡便化あるいは外部化志向を背景に中食、外食の量が増加している中で、これらの業種におきまして、コスト面あるいは取扱いのしやすさという面から輸入原料を使用する事業者が多くなっていることが要因の一つではないかなというふうに推測しているところでございます。

○紙智子君 今、そういう原因じゃないかということで、要するに、コストを下げようと思うと、どうしても輸入に置き換えるということになっているということがあるわけですけれども、そうすると、特定農産加工法の目的というのは、これ、国内の加工業者に対して、農産加工品の輸入に係る事情の著しい変化に対処して経営改善を促すものだと。まあ必要ではあると思うんですけれども、しかし、この間の輸入自由化によって国内の農業生産に大きな打撃を与えてきたということは言うまでもないし、やっぱり本当は国産を増やそうという意図からいうと、そうなっていないと。
 改めて、やっぱり歯止めなき輸入自由化というのは、このまま、そこは放置したままやるということになる、ならざるを得ないということで、そういう輸入自由化ということではやっぱりストップを掛けなきゃいけないというふうに思うわけですよ。今求められているのは、地域の農業を振興して、地産地消を進めて食料自給率を高めるということを本当にやっていかないと大変じゃないのかなというふうに思います。
 それと、ちょっと話は少し角度変わるんですけれども、昨年、西日本豪雨災害が発生をして、愛媛県の宇和島市の吉田町のミカン畑が崩壊した場所を視察をしました。ミカン畑の斜面に設置をされた農業用のモノレール、これ、土砂に埋まったり流されたりして被害を受けたわけですけれども、このモノレールの修理を行う業者も少なくて、当時は収穫を間近に控えて、順番待ちでいつになるか分からないという声も出されていたわけです。
 果樹、茶の産地の再生支援対策があるんですけれども、これで行った取組と効果について報告をしていただきたいと思います。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 昨年七月の西日本豪雨によりまして、今おっしゃった宇和島を始めとした愛媛県のかんきつ産地では、土砂崩れによります樹園地の崩落に加えまして、農道の寸断、収穫物運搬用モノレールの破損等の被害が発生いたしましたので、先生御指摘のとおり、崩落を免れた園地でも収穫が危ぶまれておりました。
 このため、私ども、被災農業者向け経営体育成支援事業によりましてモノレール復旧を支援いたしますとともに、モノレール工業協会に対しまして被災地へのモノレール技術者の優先的な派遣を要請してまいりました。また、モノレールの復旧が間に合わない園地については、今御指摘ございました果樹・茶産地再生支援対策によりまして、人力による運搬も想定をいたしまして、収穫物の運搬作業を行うために必要な雇用労賃、運搬補助機材のレンタル経費等の支援を措置してまいりました。
 これに加えまして、農家自ら修復作業を行う等の産地の懸命の努力、また収穫ボランティアの活躍によりまして、多くの産地で収穫物の運搬が可能となりまして、愛媛県の平成三十年産の温州ミカンの出荷量は前年産と同程度確保されるなど、徐々に復旧が進んでいる状況でございます。
 農林省といたしましては、果樹農業の復興には長い時間を要しますので、生産者の方々が希望を持って産地の再生に取り組めますよう、今後も引き続き、現場の状況をよくお聞きしながら、継続的に支援を行ってまいります。

○紙智子君 今、継続的な支援をやるということだったわけですけど、被災されたミカン農家の方からは、農地の復旧には公的補助が付いて有り難かった、しかしながら、現在も山林の倒木や土砂の流出がまだそのままになっていて、山林所有者の負担に頼らなければならないと。で、山林の復旧が進んでいないというふうに言ってもいるんですね。
 西日本豪雨の災害の山林復旧への支援というのは期限は終了したというふうに聞いているんですけれども、その後の台風被害も含めて、山林所有者が不明で手が付いていない、手付かずになっている場所が多くあるというふうに聞いています。このような民有林に対してはどのように復旧を進めていくんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 豪雨や地震等によりましてのこの林地の崩壊や土砂の流出等の山地災害が発生をしました荒廃森林において、再度の災害を防止して、国民の生命、財産を保全するため、治山事業による復旧整備も実施をしているところでございます。所有者が不明な荒廃森林につきましても、森林法第四十五条の受忍義務等の規定に基づきまして治山事業を実施することが可能でございます。
 いずれにいたしましても、関係自治体と連携をしながら必要な復旧対策をしっかり進めてまいりたいと思います。そして、国民の安全、安心の確保に努めてまいりたいと存じますので、具体的な箇所が御指摘をいただけますれば即座に対応もしてまいりたいと思います。

○紙智子君 是非お願いをしたいと思います。
 昨年の八月の日本農業新聞で、近隣産地の若手農家でつくる団体が、この宇和島市の吉田町のミカン農家を支援しようということで、ボランティアで摘果作業を行うとか、助け合いで産地を必死で守っているという報道がありました。
 産地を維持する上で様々な課題があるんですけれども、やっぱり地域が一体となってこの愛媛のミカン産業を守りたいということで頑張っておりますので、引き続き被災地の復旧復興への支援を求めて、質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。

○委員長(堂故茂君) 他に発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。
 これより討論に入ります。──別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。
 特定農産加工業経営改善臨時措置法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。

  〔賛成者挙手〕

○委員長(堂故茂君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。