<第197回国会 2018年12月8日 本会議>


◇漁業法等一部改正案に対する反対討論

○漁業法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 会派を代表して、漁業法等一部改正案に対する反対の討論を行います。
 冒頭、一言述べます。
 堂故茂委員長は、農林水産委員長解任決議案が否決された直後に、野党にこれ以上言ってもかみ合わないなどと暴言を吐き、漁業法の採決を主導しました。森ゆうこ議員の質問権を奪いながら、何ら反省しない委員長の運営に強く抗議します。
 漁業法等一部改正案は、安倍総理が七十年ぶりに改正すると公言したのに、僅か八時間四十五分で採決をした政府・与党の強引な国会運営にも強く抗議するものです。
 改正案に反対する第一の理由は、現場を置き去りにしているからです。
 電話帳のような厚さ、これが漁業法改正案の通称です。しかも、関連法案の改正は四十七本にも及びます。それなのに、漁業法の質疑は八時間四十五分でした。質疑が尽くされたとは言えません。
 吉川貴盛農林水産大臣は、漁業者の理解が進んでいるのか問われて、これまでも漁業関係者との意見交換を行ってきた、現場の漁業者の皆さんとの信頼関係を大切にしたいと述べられました。しかし、政府が主催した説明会に参加した沿岸地区の漁協は七十七組合だけです。九百五十五ある漁協の僅か一割にも達していません。まさに現場置き去りです。これでどうして漁業者との信頼関係が築けるというのですか。
 私は、夏以来、漁協を訪問して政府の説明会の様子を伺いました。説明会は一方的だった、現状と変わらないと言われたが内容は分からなかったと言われます。全国沿岸漁民連絡協議会等の諸団体が国会で漁業フォーラムを開きましたが、内容を知らない漁民、漁協も多く、自分たちの意見を述べる機会もないという要望を受け取りました。戦後の漁業制度を根本からひっくり返し、漁業、地域経済の形を変える改悪はやめるべきです。
 反対する第二の理由は、浜に対立と混乱を持ち込むからです。
 目的から、漁業者及び漁業従事者を主体という言葉も、漁業の民主化という文言も削除し、漁業権の優先順位も漁業調整委員会の公選制も廃止すれば、漁業による利益を地域に広く行き渡らせる漁業法の骨格が骨抜きになります。
 一九五〇年、水産庁は「漁業制度の改革」を編集し、漁業法を制定した理由を述べています。そこでは、民主化に触れ、生産力の基礎はあくまで尊い人間労働である、働く漁民がその家族を含めて、憲法の言葉を借りるなら、健康にして文化的な生活を維持し、明日のために、あるいは将来にわたって必要な労働力を再生産し得るような条件を確保しない限り、真の意味での生産力の発展も社会の進歩もあり得ないと書いているんです。ここに、漁業者及び漁業従事者を主体と漁業の民主化を定めた意味があります。
 参考人質疑で赤間廣志参考人は、仙台で行われた政府説明会で目的規定について聞かれました。そのとき水産庁は第一条は変えないと明確に述べた、それなのに目的を変えた、憤りを感じると述べられました。関係者をだまし討ちにするのですか。
 漁業権の優先順位を廃止することも重大です。私は、水産庁に、水産政策の改革案を出す前に漁業権の優先順位の廃止を求める要望や意見書が出たのかと聞いたところ、長谷成人水産庁長官は、水産政策の改革を公表する前に優先順位の廃止を求める意見書は提出されていないと答弁しました。それなのに、なぜ廃止するのですか。
 香川県議会は、十月十二日に水産政策の改革における慎重な検討を求める意見書を提出し、漁協が第一順位になっている特定区画漁業権が廃止されれば、漁協は個別に漁業権を付与された漁業権者との調整に関与できなくなるとの意見書を政府と国会に提出しています。地方議会の意見書が出ているのに真摯に耳を傾けないのですか。
 漁業権の優先順位を廃止した上で、漁場を適切かつ有効に活用しているという新しい基準が作られました。政府は、適切、有効に活用するという規定を使って、漁業権は守られるかのような説明をしています。本当にそうなんでしょうか。一度企業が漁業権を手に入れればどうなるでしょう。適切、有効という基準に合えば、資本力を生かし経営発展を広げることができます。そうなれば、長期的に漁業権を独占することができるのではありませんか。
 漁業権を設定する際に必要な海区漁場計画には、新たに農林水産大臣の助言と指示が明文化されました。我が国の生産力の発展を図るために国に従うように求めています。企業が良好な漁場を求めて参入すれば、沿岸漁業者が追い出される可能性があります。ましてや、財界から、漁業権は既得権益になっているとして法制度などを整理するように圧力を掛けている下で、適切、有効を基準にすれば、規制緩和論者がその基準の緩和、廃止を求めてくるのは明らかです。
 漁業調整委員会の公選制を廃止することは、漁業者の被選挙権を奪う暴挙です。二〇一六年に選挙がありました。立候補者五百二十七名、当選者五百十六名です。知事の任命制に変えても透明性を図ると言いますが、その基準は明らかではありません。選挙になれば、候補者が水産政策を掲げ、議論が広がります。公選制こそ透明性が図れる制度ではありませんか。
 濱本俊策参考人は、六月二十五日に全国海区漁業調整委員会連合会として水産庁に要望したと言われました。要望の第一は、委員の選出方法や委員構成を見直す必要性はなく、漁業法の目的は堅持するとしています。こうした要望を抹殺する改正案は容認できません。
 第三に、強権的な仕組みが導入されているからです。
 国と都道府県の責務を定めたことに加え、漁業計画に農林水産大臣の助言と指示を新たに明文化しました。我が国の生産力の発展を図るための助言、指示ですから、国の政策に従うことを求めています。政府が漁業の成長産業化を掲げ、企業による養殖産業の新規参入を掲げている下で、漁場が企業本位に変質されることになります。
 第四に、大型船のトン数規制を撤廃するからです。
 乱獲を防ぐために取られてきた漁船のトン数規制をなくし大型化を進めれば、沖合漁業と接する沿岸漁業の資源が減少する懸念は払拭されません。
 第五に、資源管理のために導入する漁獲割当て制度、IQに沿岸漁業者の同意を得ることが明記されていないからです。
 今年、沿岸漁業者の意見も聞かずに導入した太平洋クロマグロへの漁獲規制の反省がありません。
 国際社会は、二〇〇七年から八年の世界的な経済危機に直面し、穀物の国際価格が高騰し、世界的な食料危機に直面しました。これが契機となって小規模家族農業が見直され、国連は家族農業の十年を呼びかけ、国連食糧農業機関、FAOの責任ある漁業のための行動規範も、漁獲規制が必要な場合には資源の持続的利用のためになりわい漁業や沿岸小規模漁業を維持するように求めました。
 規制緩和の流れに歯止めを掛け、浜と漁業者が主役になれる政策転換こそが必要であることを主張し、反対討論とします。(拍手)

○議長(伊達忠一君) これにて討論は終局いたしました。

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○議長(伊達忠一君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。

   〔投票開始〕

○議長(伊達忠一君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。

   〔投票終了〕

○議長(伊達忠一君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数         二百三十七  
  賛成            百六十五  
  反対             七十二  
 よって、本案は可決されました。(拍手)