<第197回国会 2018年12月4日 農林水産委員会>


◇冒頭、拙速な採決はせず、慎重審議を求める/水産庁の説明会に参加した漁協数が77と少なく、漁業者置き去りとしか言いようがないと批判/漁業権の優先順位の廃止を求める意見書は出されておらず、香川県は優先権の継続を求めていると指摘

○漁業法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日から漁業法等の一部改正案の質疑が始まります。
 それで、ちょっと冒頭申し上げたいんです。先ほどもどなたか言われましたけれども、そもそも七十年ぶりの大改革というふうに言われるこの漁業法を、臨時国会という短いこういう期間の中で出すこと自体が本当にどうなのかというふうに思います。それで、臨時国会の会期は十二月十日までなんですよ。それまでに成立させようということになったら、参議院の農林水産委員会の定例日は火曜日と木曜日ですから、今日を入れるとあと二回なんですよね。これは拙速な採決は絶対しちゃいけないと、慎重に審議するように求めたいと、まず思います。
 近年の重要法案、いわゆる本会議で趣旨説明をして質疑を行う登壇物ということで振り返ってみますと、農協法の改正案は、委員会質疑が二〇一五年の七月九日に始まったんですね。採決は八月二十七日なんですよ。だから、質疑時間は二十四時間、参考人質疑を二回やって、そして地方公聴会も一回やって、視察もやりました。去年と今年の通常国会では政府が八本も九本も法律を出してきたと。種子法の廃止法案では、審議が全く不十分だという批判がもう後もずっと各方面から出されています。本会議登壇物ということでいうと、今年、卸売市場法などのものがありましたけれども、これは農協法に比べると質疑時間は減らされましたけれども、それでも参考人質疑と視察もやっていたんですよね。
 ですから、このまま十二月十日の会期内で通そうということになったら、これ出口先にありきになってしまうんですよ。そんなことではやっぱり国会審議が軽視されることになると思うんです。何より、漁業に関係する漁業者、現場の皆さんにとっても、これ大変失礼なことになるというふうに思うんですけれども、まず、大臣、このことについて、この在り方ということで大臣の見解をお聞きしたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 私も何度も申し上げてきているのかもしれませんけれども、かつて世界一を誇りました我が国の漁業生産量、今やピーク時の半分以下にも減少いたしております。また、漁業者の減少ですとか高齢化も進んでおります。このような中で国民に水産物を安定供給をするという使命を果たしていくためには、我が国の水産政策の改革は待ったなしの状況にあると考えているところでもございます。
 漁業現場における動きに関しましては、先日の参考人、これ衆議院でありましたけれども、全国漁業協同組合連合会の岸会長からも、我々JFグループとしても漁業再生への大きな転換期が今であると認識をしており、今回の改革が浜の明るい将来を切り開くものとなるよう、自らの課題として組織を挙げて取り組んでいく決意と御発言もあったところでもございます。
 こういったことから、本年六月に取りまとめた水産政策の改革の内容をなるべく早く法制化する必要があると考えまして、臨時国会に関連法案を提出をするということにしたところでございます。
 この改革の検討に当たりましては、これまでも様々な機会を通じて漁業関係者との意見交換を行ってきたところでありまするけれども、今後とも現場の漁業者の皆さんとの信頼関係を大切にしながら、さらには御意見を伺いながら進めてまいりたいと、こう思っております。
 また、御指摘をいただきました国会の運営についてに関しましては、国会でお決めになることでもありますのでお答えは差し控えさせていただきたいと存じますが、政府としては国会に対しまして引き続き真摯に対応してまいりたいと存じます。

○紙智子君 真摯に対応していきたいと考えているということなんですけれども、やっぱり国民の代表たる国会でちゃんとやっぱり役割を果たさなきゃいけないと。もう不十分なまま通すと一番困るのは現場なんですよね。しっかり役割を果たさなきゃいけないというふうに思います。
 それで、漁業法改正案を閣議決定したのが十一月六日なんですよ。私、その日に水産庁から説明を受けました。しかし、出されてきたのは、そのとき法案概要と参考資料だけで、要綱もなければ新旧対照の条文もなかったんですね。立法事実に関わる資料を要求していたわけですけれども、それも出されないと。こういうのを国会軽視と言うんじゃないですか、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 今まで、先ほどもお答えの中で申し上げておりまするけれども、今日まで数次にわたって関係者の皆さんにも御説明をしてまいりました。それで法案を提出をさせていただいたところでございまして、今現在参議院でも御議論をいただいているところでございますので、国会の件に関しましてはお答えは差し控えさせていただきたいと思います。

○紙智子君 国会軽視と言うほかないんですよね、このやり方というのは。種子法もそうでしたけれども、やっぱり議論を避けるわけですよ。それで、私は、これは安倍政権の言ってみれば特徴だと思うんです。何より問題なのは、関係者が置き去りになっているということなんです。置き去りですよ。
 夏以来、私も漁協に行って説明会の様子を聞きました、どんなふうに説明されましたかと。説明会はあった、そこに呼ばれたと、だけど一方的だったと、現状も今までと変わらないと言われたと、だけど内容は分からなかったという感想なんですよ。
 中には紛糾したところもあるというふうに聞いているんですけれども、国会では、全国沿岸漁民連、連絡協議会などが、諸団体が国会の中でフォーラムもやりました。そこに参加したんですけれども、与党の議員さんも来られていました。内容を知らない漁民、漁協もすごく多くて、自分たちの意見を述べる機会もないという発言がされていました。説明も少ないし、理解が進んでいるとは言えないわけです。七十年ぶりの抜本改革を説明しただけで、説明しただけで分かるのかということです。
 水産庁に確認しますけれども、これ漁協、漁業協同組合は全国幾つあるのか、水産庁が主催した説明会の場所、参加した漁協の数を教えてください。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) まず、漁協の数でございますけど、沿海地区の漁協の数は、平成三十年三月一日現在でありますけれども、全国合計で九百五十五ということでございます。
 本年六月から十月末までの間に全国各地で九十九回の説明会等を実施してきたことにつきましては御説明しておりますけれども、そのうち水産庁主催のブロック説明会は全国で六回行いまして、この水産庁主催の説明会に出席した漁協の数は、これは業種別漁協を含めまして七十七組合、漁連の数は二十七連合会ということでございます。

○紙智子君 ですから、九百五十五の漁協中、参加したのは七十七ですよね。そうすると、八百七十八もの漁協が参加していないということなんですよ。
 漁業法改正案が閣議決定されたのが十一月の六日と、漁業法改正は、ここに積んでありますけど、電話帳のようだということが言われているわけですけれども、漁業法の改正に合わせて改正される法律というのは四十七にも及ぶわけですよね、たくさんあるんですよね。私たち日本共産党の国会議員団、地方議員も含めて、この間、漁協を訪問しています。ある漁協では、分厚い法案がぼんと届いたと、しかし、法律の専門家ではないからすぐには分からないというふうに言っているんですね。中には反対を表明する人もいると。私も、この概要と新旧の対照の条文を持って説明に行きました。漁業法の目的がこんなふうに大きく変わるというのは知らなかったと、責務というのも知らなかったという意見が出されましたよ。
 そこで、大臣、そして副大臣、政務官、水産庁長官にお聞きしますけれども、この改正案の閣議決定以降、十一月六日以降、漁協に行って話を聞かれましたか。お一人ずつお答え願います。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 私の場合は、閣議決定以降は国会の日程もございまして、直接説明には出向いてはおりません。
 しかしながら、いろいろな関係者がおいでになられますので、そういった機会を通じて御意見はお伺いをいたしているところでもございます。

○副大臣(農林水産副大臣 高鳥修一君) 紙委員にお答えをいたします。
 私の実家がございます糸魚川市能生地区というのは典型的な漁港、漁村でございます。県内唯一の水産学校である海洋高校がありまして、同級生や知人にも漁業に就業している人が多く、私も港の行事に参加したり、それから日頃から要望会を開いているところであります。
 閣議決定後でありますが、そのような中でも地元の漁協の方々と意見交換を行いました。その中で、今回の漁業法改正についても話題にいたしましたが、これはもう個々の漁協の実情にもよるんだと思いますけれども、特に反対の声は出ず、念のため、念のため別の機会に漁協に対して再度確認をしましたが、地元でも理解し、賛成の方向ですという回答を得たところであります。

○大臣政務官(農林水産大臣政務官 高野光二郎君) お答えさせていただきます。
 十一月六日の閣議決定以降に関しましては、政務官室におきまして、例えば高知県漁港漁場協会やかつお・まぐろ漁業推進道県協議会等、全国の漁業団体がお越しになってきていただいたときに、IQだとか、TACだとか、漁業権についてどういうお考えをお持ちですかという聞き取りをさせていただいておりました。資料も提出をさせて、お伺いをさせていただいておりました。
 また、土曜日、日曜日は必ず地元の高知県に帰ってあちこち回っておりますので、漁業関係者であるとか、首長さんであるとか、議長さんであるとか、そういった方々に、フルパッケージではないですが、私が説明できる部分と全国的に危惧をされている部分について御説明を申し上げ、意見交換をさせていただいております。
 その中でも、大勢は反対ではなくて、資源管理型の漁業をすべきであるということを皆さんおっしゃっておりました。
 以上です。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 私も、出向くことはできずにおりますけれども、日々訪ねてこられる漁業者の方に対しまして説明をし、意見をいただき、全国の漁協青年部の方たちもこの間長官室来られて、一時間そういう意見交換、説明をしたところでございます。
 それから、済みません、先ほどの質問に関連して、水産庁が主催したブロック説明会以外に、全漁連や県漁連、県庁などが主催した説明会を加えますと、沿海地区漁協九百五十五組合のうち四百十一組合の方に説明を行っております。四百十一で十分だというつもりで言っているつもりではございません。これからも説明を尽くしてまいります。

○紙智子君 よく知っています。それ、漁協が主催してやったやつですよね。水産庁でと聞きましたので。
 それで、今ちょっと聞いても、副大臣と政務官は回って歩いたという話なんだけれども、理解されているかどうかと、末端までということになったら、そうじゃないんじゃないでしょうか。私は、やっぱり七十年ぶりと言われる大改革というふうに言っているわけですから、やっぱり全然これじゃ置き去りだというふうに言わざるを得ないと思うんですね。
 それで、五月二十四日に水産庁として水産政策の改革案を出しました。私、本会議でも、この規制改革推進会議が答申を出す前、答申が六月三日ですから、その前の五月二十四日に水産政策の改革案を公表したと。この改革案はどこで議論したんですかと聞きました。大臣の答弁は、節目節目で全国の説明会等において検討状況をお示ししましたと言われました。私は、改革案を公表した後のことを聞いたんじゃなくて、公表する前にどこで議論していたのかということを聞いたんですよね。是非ちょっとこれをお答えいただきたいと思いますが。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 今回の改革は、水産政策の実施に責任を有する農林水産省が、これまでの政策の実施を通じて漁業者からいただいた様々な意見を踏まえて主体的に検討したものでございます。その際、水産政策審議会においても議論していただき、改革案を取りまとめたところでございます。

○紙智子君 水産審議会でも議論していただいたというんですけれども、企画部会に出されていたのは水産改革の方向という二枚ぐらいのペーパーだけで、議事録を読んでも議論は出てこないんですよね。企画部会にまとまったペーパーが出されたのは五月二十四日の前ではなくて、九月十九日だと思うんですよ。しかも、水産政策審議会は、ホームページを見る限り、昨年の八月三十日以降の議事録というのは掲載されていないんですけど、ないんですよ。
 つまり、その漁業、水産問題を取り上げたというのは、これ規制改革推進会議水産ワーキング・グループだけだったんじゃないんですかね。規制改革推進会議はこれ議論するところではないわけですよ。規制改革推進会議は規制緩和を求めるところですね。水産庁は、規制改革会議の圧力に屈して、まともな議論もしないで、五月二十四日以前にこの改革案をまとめたんじゃないんですか、長官。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) そのような認識は持っておりませんで、農林水産省の中で、中でも議論を尽くしながら考え方をまとめていったということでございます。

○紙智子君 先ほども言いましたけれども、水産審議会の中でこれ議論されたんですか。されていないんじゃないですか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 概要、二枚紙とおっしゃいましたけど、概要について報告をし、御意見を伺ったということでございます。

○紙智子君 私に聞こえているところでいうと、水産改革案は密室で議論されたんだという話も出てきているぐらいですから、そういうふうに言われても仕方がないんだと思いますよ。
 なぜそういうことになっているのかというと、これはやっぱり安倍首相が十月の所信表明のときに、七十年ぶりに漁業法を抜本的に改正しますと大きな風呂敷を広げたわけです。総理質疑がありませんから、総理が一体現場をどこまで知っているのかということも定かじゃありません。はっきりしていることは、常々自分がドリルになって岩盤を打破するんだというふうに言っていますから、TPP等市場開放、自由化に合わせてこの国内の農林水産業の形を打破するということだけなんですね。
 国際競争力の強化、漁業の成長産業化ということを強調しています。まさに自由化に合わせて漁業法等を変えるということなんじゃないんですか。大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 七十年に一度の漁業法の改正でございます。今様々な御指摘を賜ってまいりましたけれども、かつて我が国の漁業生産量というのは世界一を誇っておりました。今やあのピーク時の半分に減少しておりまして、漁業者の減少ですとか高齢化というものも進んでまいりました。
 このような中で国民に水産物を安定供給するという使命を果たしていかなければなりません。そのためには、我が国のこの水産政策の改革は待ったなしの状況にあると考えているところでもございまして、漁業現場における動きに関しまして、これはもう何度も、先ほども御答弁で申し上げたところでもございまするけれども、全国漁連の岸会長からも、今改革が必要だと、大きな転換期が今であると認識をしているんだと、今回の改革が浜の明るい将来を切り開くものとなるように、自らの課題として組織を挙げて取り組んでいく決意との御発言も頂戴をいたしたところでございます。
 このようなことから、本年六月に取りまとめた水産政策の改革の内容をなるべく早く法制化する必要があると考えまして、臨時国会に法案を提出をさせていただいたところでございます。
 これまでも様々な機会を通じて関係者との意見交換も行ってきたところでもありまするけれども、今後とも現場の漁業者の皆さんとの信頼関係を大切にしながら、御意見を伺いながら進めていかなければならないと承知をいたしているところでございます。

○紙智子君 今そういうふうな話もあるんですけど、実際は、先ほど来ずっとやり取りされているように、現場には理解が進んでいない中で、やっぱり置き去りの状況というのがあるわけですし、それがどうしてそうなっているかというと、やっぱり安倍総理自身の掲げている政策、これは私は向いている方向は沿岸漁業を振興しようというふうには到底思えないというふうに思うんですね。
 ちょっとその上に立ってなんですけれども、次に目的と責務の問題についても質問したいと思います。
 この目的規定を今回変更し、責務ということも出てくるわけです。それで、現行法は、目的に漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用、漁業の民主化ということを規定しているわけです。この主体ということと民主化ということはどういう意味なのか、この規定した理由を水産庁長官に説明していただきたいと思います。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 昭和二十四年の現行漁業法の制定当時、自ら漁業を営まない羽織漁師と言われた者による漁場利用の固定化といった慣行の解消が大きな課題であったということでございます。
 このため、現行漁業法において、漁業者を主体とする漁業調整委員会を創設し、委員会制度の運用によって民主的な漁場の利用を目指すこととしたことから、目的規定にも、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって水面を総合的に利用し、漁業の民主化を図るということが定められたところでございます。基本形として、十五名のうち九名はこの漁業者及び漁業従事者の委員ということが現行法でございます。
 その後、漁業調整委員会は、漁業の許可や免許に当たって都道府県知事に意見を具申するほか、漁業調整のための指示を行うなどの重要な役割を果たしてきた結果、今日のように、水面の適切な活用や民主的な漁場の利用形態の構築に大きく寄与してきたものと評価しております。

○紙智子君 それで、その主体ということと民主化ということを削減、なぜ削減したのかと。私の本会議質問に対して大臣は、当初の目的である民主的な漁場は実現した、漁業調整委員会の制度は定着しているというふうに答えました。主体ということですとか民主化というのはそれだけの意味なんでしょうか。
 戦後、一九五〇年に水産庁が編集して「漁業制度の改革」という本が出されていますよね、長官よく御存じだと思います。そこでは、民主化に触れて、こう言っているんですね。生産力の基礎はあくまで尊い人間労働である、働く漁民がその家族を含めて、憲法の言葉を借りるなら、健康にして文化的な生活を維持し、明日のために、あるいは将来にわたって必要な労働力を再生産し得るような条件を確保しない限り、真の意味での生産力の発展も社会の進歩もあり得ないと書いているんですね。当時、こういうふうに水産庁で作っているんだなというふうに思ったんですけれども、そう書いている。
 だから、主体とする漁業調整機構の運用、漁業の民主化を定めたんじゃありませんか。もう一回、長官お願いします。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 実は、その「漁業制度の改革」に携わった当時の担当の方からも、私、二十年ほど前かな、直接お話を、当時のことも伺っております。だから、当時の雰囲気もお聞きしているところでありますけれども、当時、敗戦を迎えて、GHQの占領下の話でいろんな苦労話もお聞かせいただいたんですけれども、先ほど言いましたような羽織漁師と言われるような者による漁場利用の固定化といったものについての解消をすると、それで一旦漁業権についての補償をした上で、白紙に還元した上で新しい秩序をつくるという意味での、優先順位の方はそういう話であったんですけれども、そういうものの推進力として、この漁業調整委員会の制度を定めたというふうにお聞きしたところでございます。

○紙智子君 やっぱりこの深いところに流れている精神ってね、やっぱりここに立って当時つくられたんだということを私たちは改めて思うわけですよね。そうしたときに、今、安倍総理は、憲法解釈を変えて、簡単に変えて戦争法を強行すると。今度改憲発動するというふうに言っていますから、今の政権の性格が強く出た改正案だと思うんですよ。
 それは、新たに責務を規定したことにも表れているというふうに思うんですね。第六条に新たに責務を定めました。必要な措置という言葉が出てきます。現行法にはなくて、これは公権力を行使できる規定だと思うんですよ。生産力を発展させるために必要な措置を講ずるとありますけれども、この必要な措置というのは一体何を意味するんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 第六条の必要な措置でございますけれども、水産資源の保存及び管理を適切に行うとともに、漁場の使用に関する紛争の防止及び解決を図るために国及び都道府県が漁業法の規定に基づいて講ずることとされている措置を指すものでございます。
 なお、第六条の規定は、国及び都道府県が有する責務を確認的に規定したものでありまして、本規定によりまして国や都道府県に新たな権限を与えるものではございませんけれども、知事に対して漁場の使用に関する紛争の防止及び解決を図るという責務を確認したという趣旨でございます。

○紙智子君 そこもちょっとよく分からなくて、新設されているんですけれども、確認の意味で書いたと、新たな権限を持たせたわけじゃないと言うんですけれども、いや、本当にそうなんだろうかなと。
 それで、必要な措置を講ずるために国と都道府県の見解がもし分かれたときというのはどうなるんですか、どうするんですか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 必要な措置の具体例としては、水産資源の保存及び管理を適切に行うために必要な措置として、資源管理基本方針の制定ですとか漁獲の可能量の設定、あるいは、漁場の使用に関する紛争の防止及び解決を図るために必要な措置としては、漁業の許可ですとか漁業権の免許ですとか、県の場合ですと県の規則で採捕に関する制限又は措置というようなものを想定しておりますけれども、この漁場の使用に関する紛争の防止というようなことに関して言えば、基本的には沿岸の例えば漁業権、漁場に関する話であれば、そこはまさに県知事さん、県が管轄している水域、基本的にそういうことだと思いますので、国と対立するというか、ぶつかるというようなことは通常は考えられないというふうに思います。

○紙智子君 通常は考えられないと言うんだけれども、実際、例えば沖縄のように、県は駄目ですと言っているけど国はやりますという場面も出てくることだってあるんだと思うんですね。
 資源評価とか資源管理で意見が違ったら、これはやっぱり国に従ってもらうということですよね。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 資源管理で広域の魚種の管理ということであれば、資源評価でありますとか配分でありますとか、丁寧に関係者の理解を得ながらやるというのは当然の前提だと思いますけれども、最終的には、そこの資源管理、全体としての漁獲量はこの程度にしなきゃいけないという部分については国の意向で進めていかないとうまく進まない性格のものだと思います。

○紙智子君 そういうことだということですね。
 それで、第六条なんですけれども、漁業生産力を発展させるということが前提になっています。現行法では、沿岸漁業は民主化する、生産力を発展させるのは許可漁業によるところが比重としては大きいと思います。
 そこで、漁業生産力を発展させることが責務になればどういうことが可能になるのか。例えば、沿岸地域で、あるいは沿岸と沖合の接する地域で大規模養殖を推進することが生産力を発展させることになると知事が判断すると、そのときにもし紛争が起こったら、これ話合いではなく何らかの公権力の行使が可能になるんじゃありませんか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 漁業生産力については、現行法の中にもあるわけでありますけれども、一定の水面全体における漁業の生産力を意味しているものでございます。一般論として、漁業生産を高めていきたいということがありますし、地域の産業なり地域を盛んにしていきたいという中で漁業法の運用をしていくんだと思いますけれども、そういう中で、もし利用されていない漁場があったり、知事に課されている責務の結果、その紛争が防止できるような手当てをした上で生産力を高めていけるということであれば、そういう取組をしていただきたいというふうに考えているところでございます。

○紙智子君 なかなかちょっと分かりづらいんですけれども、沿岸地域で漁協、沿岸漁業者の同意を得ずに必要な措置は行わないという法律上の担保というのはないんじゃないかと思うんですけれども、農水省としての見解を示していただきたいと思います。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 漁業権の漁場の設定ということであれば海区漁場計画というものを立てていくわけでありますけれども、海面の総合的な利用を推進するとともに、それぞれの漁業権が漁業調整その他公益に支障を及ぼさないように設定されなければならないというふうに規定されることになります。また、海区漁場計画の作成や免許を行う際に、地元の漁業者を主体とする海区漁業調整委員会の意見を聴くことともなっております。
 このため、周辺で操業する他の漁業への影響を考慮されずに海区漁場計画において新たな漁業権が設定されたり、団体漁業権として設定すべきものが個別漁業権として設定され、さらに企業に直接免許されることは想定しておりません。

○紙智子君 今言われたことというのは法文上のどこに書いてありますか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 漁業調整その他公益に支障を及ぼさないように設定されなければならないというのが六十三条一項第一号でございます。

○紙智子君 漁協、沿岸漁業者の同意を得ずに必要な措置を行わないという公式見解を是非出していただきたいというふうに思います。委員長にお願いしたいと思います。

○委員長(堂故茂君) 後刻理事会で協議いたします。

○紙智子君 やっぱり、いろいろ現場で話を聞くと懸念があると。要するに、いざとなったら強権的なそういう仕組みが発動されるんじゃないかという、そういう懸念が払拭できないということが出されているんですよ。そのことを言っておきたいと思うんです。
 それから、次に優先順位の廃止なんですけれども、漁業権の優先順位、これ廃止すると。沿岸漁業者が地先を優先的に利用するようになったのは江戸時代からだと。慣行的に認められるようになってきたと言われています。明治時代に漁業法ができたときは地先専用漁業権と言われたようです。なぜ江戸時代の慣行を認めたかというと、農業の場合は土地に所有権があるから、ここで農業をやるというふうに言えばもう見えるわけですけれども、漁業の場合は自分の所有地はありません。ここで定置をやる、ここで養殖をやる、ここで魚を捕ると言えば、これ争いになると。そこで、漁業権を、職能的な団体の漁業組合に漁場の利用調整を委ねるということによって、無秩序な漁によって資源がなくなったり、この争いが深刻化しないようにしたわけです。
 ただ、戦前の一時期は、地先漁業の管理と利用調整を国の管理に移したこともあったということなんですが、これ、すぐに破綻したというんですね。それは、旧来の漁業慣行が壊れて現場に混乱が生じて紛争が発生したと。調整するための人手やコストが大変になったからだというふうに聞いています。こういう経験を経て、戦後、漁業権の優先順位をつくったと思います。
 水産庁は、漁業権の優先順位の規定の理由という文書を出していますけれども、共同漁業権、区画漁業権、特定区画漁業権、定置漁業権、どれを見てもキーワードは地元のとか協同組合というのがキーワードになっていると思うんです。優先順位は、漁業による利益を地域に広く行き渡らせると、そういう基本的な考え方に基づいてつくられた仕組みなわけですけれども、この考え方のどこに問題があったんでしょうか。廃止するということは、どこに問題があったんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 委員が言われた江戸時代からの地先専用漁業権というものについては、現在はその系譜としては共同漁業権というものにつながっておりますので、これはその優先順位の話とは関係ありません。今回も従来どおりということでございますけれども、そのほかに、定置漁業権と区画漁業権については優先順位があるわけであります。
 そういたしますと、漁業権の存続期間満了時に優先順位のより高い者が申請してきた場合に再度免許を受けられないために、経営の持続性、安定性を阻害しかねないという問題がございます。また、漁業者の減少、高齢化が進む中で、地域によっては漁場の利用の程度が低くなっている地域があります。今後どのように沿岸漁場の管理や活用を図って地域の維持、活性化につなげていくかというのが大きな課題となっております。
 このため、本法律案におきましては、法律で詳細かつ全国一律に優先順位を定める仕組みを改めまして、漁場を適切かつ有効に利用している漁業者、漁協については、将来に向けて安心して漁業に取り組んでいただけるように優先して免許するという仕組みにするとともに、利用の程度が低くなっている漁場、利用されていない漁場については、地域の実情に即して水産業の発展に寄与する者に免許することとしたいということでございます。
 こうした改正で、現に地域の水産業を支えている漁業者の経営の発展に向けたインセンティブとなるとともに、地域の活性化につながるものと考えております。

○紙智子君 ちょっと今、なかなか頭に入ってこなかったんですけど、優先順位の考え方に問題があったんですかね。そこをちょっと、どこが問題だったか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 漁業権を受けて真面目に、普通にやって、漁業を営んでおられても、五年の切替えの時期が来て、優先順位というものがもう法律で画一的に決まっておりますので、その優先順位がより高い人が、競願といいますけれども、申請をしてくると、この人、真面目にやっていても次に免許が受けれないということが、先ほども五年前の例をお話ししたんですけど、七件だったかな、そういうことが実際に起こっていると。潜在的に、必ずしも優先順位一位の方が多いわけでもないということがありますので、今頑張って真面目にやっておられる方はその次も免許がもらえるという方が意欲を持って投資もしようと、漁業を続けていこうというインセンティブになるというふうに考えたところでございます。

○紙智子君 長官の思いは分かりました。だけど、本当にそれ担保できるかなというのは、はっきり言って今度の改正の中身ではなかなかそこはそう読み取れないんですよね。
 漁業による利益を地域に広く行き渡らせると、これ戦後の民主化の課題だったと思うんです。民主化の削減をするということと優先順位を廃止するということは、これ一体のものなんじゃないかなと思うんですね。
 五月末に水産庁がこの水産政策の改革案を出す前に、漁業権の優先順位の廃止を求める要望や意見書が出ていたんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 六月一日に政府の方針として位置付けた「水産政策の改革について」を公表する前に、御指摘のような優先順位の廃止を求める意見書が提出されているとは承知しておりません。

○紙智子君 公表前にはなかったということですよね。
 それで、香川県議会が十月十二日に「「水産政策の改革」における慎重な検討を求める意見書」というのを出しています。そこでは、漁協が第一順位になっている特定区画漁業権が廃止されれば、漁協は個別に漁業権を付与された漁業権者との調整に関与できなくなると言っています。優先権は、廃止ではなく継続を求めているんじゃないんでしょうか。

○政府参考人(水産庁長官 長谷成人君) 地方自治法第九十九条の規定に基づき、香川県議会から十月十二日付けでそのような意見書が出されております。漁協に免許される特定区画漁業権を継続することというふうに書かれておりますので、それにつきましては、香川県の漁連ですとか漁協の組合長さんですとかとお話ししておりますけれども、漁協に免許されている特定区画漁業権については、適正かつ有効に、まあ普通に使っていただければ継続して免許されるんですよということを御説明したところでございます。

○紙智子君 その優先順位廃止を求める要請などは出ていないと。しかしながら、継続してほしいというのは出ているということですよね。
 それで、十二月議会がこれから地方議会は始まるんですけれども、そういう地方議会から問合せがあるわけなんです。水産庁は、改革内容が知られないうちにこの改革案を通そうというのは、私はやっぱりこれはとんでもないなと、ちゃんとやっぱりよく審議をして、地方議会にもちゃんと納得得るようにしなきゃいけないというふうに思います。
 ちょっと途中になっちゃいましたけれども、時間になりましたので、この続きはまた次回やらせていただきたいと思います。ありがとうございました。