<第197回国会 2018年11月30日 本会議>


◇戦前の反省からつくられた漁業の民主化を規定した漁業法の目的を変え、漁業権の優先順位を廃止するものだと指摘/漁業調整委員の公選制を廃止し、知事による任命制に変えることについて「漁業者の被選挙権をなぜ奪うのか」と批判/乱獲を防ぐために取られてきた漁船のトン数規制をなくし、大型化を進めれば、「沖合漁業と接する沿岸漁業の資源が減少する」と指摘

○漁業法等の一部を改正する等の法律案(趣旨説明)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 党を代表し、漁業法等改正案について質問します。
 総理が所信表明で述べたように、今回の漁業法改正案は七十年ぶりの大改定です。戦後の漁業制度を根本からひっくり返し、漁業、地域経済の形を変えるものにもかかわらず、政府・与党は僅か十時間半の審議で衆議院可決を押し切りました。野党が求めた地方公聴会も拒み、多くの漁業者はその内容をほとんど知らされないままです。
 この異常な国民無視の強権発動に対して、怒りを込めて抗議をします。参議院において、こうした横暴を許さず、徹底した審議を行うべきことを冒頭に厳しく求めるものです。
 まず、農林水産大臣にお聞きします。
 安倍政権は、世界で一番企業が活躍しやすい国にするとして、岩盤規制の打破を掲げて、農協法、種子法、森林経営管理法に続き、漁業の規制緩和を迫りました。
 規制改革推進会議水産ワーキング・グループは、二〇一七年九月に水産庁を呼び出し、漁業の成長産業化に障害になっている要素、規制は取り上げたいと圧力を掛けています。ところが、驚いたことに水産庁は、規制改革推進会議が答申を出す前の五月二十四日に、自ら白旗を上げて水産政策の改革案を出したのです。水産審議会で議論されたわけでもなく、漁業者置き去りです。改革案は一体どこで議論したんですか。明確な答弁を求めます。
 以下、法案について質問します。
 漁業法等改正案の第一の問題は、その目的を変えることです。
 現在の漁業制度は、地元に居住し、生活と労働を一体として、自ら海で働く生産者に優先して漁業権を与えています。
 なぜこうした制度をつくったのか。それは戦前の反省があります。
 漁業法を昭和二十四年に提案したときに、政府は、戦前は、個々の漁業権を中心に漁場の秩序が組み立てられているために、漁業生産力を上げる計画性を持ち得なかった、適当な調整機構を伴わず漁業権を物権としたことの弊害が生まれ、権利者に不当に強い力が与えられたことから、漁場の秩序が漁民の総意によって民主的に運営されなかった、漁業生産力の発展を阻害し、また漁村の封建的な基盤を成していたと説明しています。
 つまり、戦前は、羽織漁師といって、都会に住みながら、船に乗らず、出資者として利益を得る漁業者がいたのです。そこで、行き詰まった漁場関係を全面的に変えるために、漁業法の目的に、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用、漁業の民主化を規定したんです。
 改正案では、漁業者を主体とすることも民主化も削除しました。何が不都合だというのでしょうか。
 また、新たに国と都道府県に、漁場の使用に関する紛争を防止するために必要な措置を講ずると権限を与えました。漁民の総意に基づいて調整してきた浜の秩序に強権的に介入するのですか。
 第二の問題は、漁業権の優先順位を廃止することです。
 戦後の漁業制度は、漁業権を漁協に優先的に与えてきました。改正案は、優先順位を廃止し、漁場を適切かつ有効に活用しているという基準に変えるものです。政府が漁業の成長産業化と称して企業による養殖産業の新規参入を掲げている下で、適切かつ有効に活用すると知事が判断すれば、地元で営んできた漁業者のなりわいが維持される保証はないのではありませんか。ましてや、企業が漁業権を手に入れれば、長期的に漁業権を独占することができるのではありませんか。
 以上、農林水産大臣、お答えください。
 企業が新規参入すればうまくいくということは、既に破綻しています。東日本大震災を受けて、宮城県知事は水産特区を導入し、漁業権を初めて民間企業に与えました。
 水産会社の桃浦かき生産者合同会社は、県から漁業権の免許を受けましたが、その後どうなったでしょうか。桃浦湾産のカキを使用することで商標登録していながら、ほかの湾のカキを流用したり、赤字続きで、二〇一六年度最終で約四千万円の赤字になりました。それだけではありません。水産庁からは四千七百六十万円、厚生労働省からは二千七百五万円もの補助金が出ています。これだけ税金を投入しながら流用問題を起こし、赤字続きです。
 水産特区は破綻したのではありませんか。復興大臣、農林水産大臣、見解を求めます。
 第三の問題は、漁業調整委員の公選制を廃止することです。
 漁業調整委員会の公選制は、戦後の民主化の目玉です。魚種が多く、多様な漁業が営まれていることから、漁場の調整は複雑で難しく、その調整をまずは漁協に与え、漁協のボス支配などうまく機能しないときに漁業調整委員会が必要な指示をするという二段階の構えで民主化を図ってきました。今でも、漁業調整がうまく機能しない県では、漁業者の代表が選挙に立候補して当選し、漁業調整に尽力しています。
 公選制を廃止し、知事による任命制に変えれば、行政の下請機関になるのではありませんか。漁業者の被選挙権をなぜ奪うのですか。
 漁業者主体の目的を変え、漁業権の優先順位を廃止し、漁業調整委員会の公選制も廃止すれば、浜に混乱と対立が生まれるのではありませんか。
 第四の問題は、大型船のトン数規制を撤廃することです。
 遠洋・沖合漁業は、企業による漁船漁業が中心です。乱獲を防ぐために取られてきた漁船のトン数規制をなくし、大型化を進めれば、沖合漁業と接する沿岸漁業の資源が減少するのではありませんか。また、遠洋、沖合の大型船を誰が監視するのですか。
 資源管理、水産資源の管理は重要です。
 政府は、漁獲量配分による資源管理を導入すると言います。それ自体は必要ですが、今年導入された太平洋クロマグロへの漁獲規制は、情報公開も不十分なまま、沿岸漁業者の意見も聞かずに強行されました。北海道は、それによってクロマグロ漁の漁獲枠はゼロです。それも六年間も続きます。クロマグロ漁で生活している漁業者は深刻です。漁獲割当ての配分に沿岸漁業者の意見を反映する仕組みは本法案にはありません。これで割当てを強行すれば存続が不可能になる沿岸漁業者が生まれ、沿岸漁業と漁協の衰退を招くのではありませんか。資源にも最もダメージを与える、国が管理する大規模漁業の漁獲量の抑制から進めるべきではありませんか、答弁を求めます。
 最後に、家族農業、漁業について聞きます。
 国連は、来年からの十年を家族農業の十年と決議し、小規模家族農業、漁業への支援を各国に呼びかけました。また、国連食糧農業機関、FAOの責任ある漁業のための行動規範も、漁獲規制が必要な場合には資源の持続的利用のために、なりわい漁業や沿岸小規模漁業を維持するように求めています。この提起を受けて、日本政府は積極的に推進する立場ですか、お答えください。
 以上、農林水産大臣の答弁を求めます。
 漁業経営の九割を占める沿岸漁業は、藻場、干潟の保全、海洋ごみの撤去、海難、災害救助など、環境や国土を守る役割を果たしています。
 我が党は、浜に混乱と対立を持ち込む漁業法の大改悪を許さず、水産資源を守り、漁業を持続的に発展させるために、徹底審議で本法案を廃案に追い込む決意であることを表明して、質問を終わります。(拍手)

   〔国務大臣吉川貴盛君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 吉川貴盛君) 紙議員の御質問にお答えいたします。
 水産政策の改革案の議論についてのお尋ねがありました。
 水産改革については、現場で漁業を営む漁業者の理解を得ながら進めていくことが必要不可欠であります。
 今回の改革は、水産行政の実施に責任を有する農林水産省が、これまでの政策の実施を通じて漁業者からいただいた様々な意見を踏まえて主体的に検討したものであります。その際、節目節目で全国の説明会等において検討状況をお示ししながら、漁協や漁業者等と意見交換を行うとともに、水産政策審議会で議論をいただき、改革案を検討してきたところでございます。
 漁業法の目的の改正についてのお尋ねがありました。
 現行漁業法の制定当時、自ら漁業を営まない羽織漁師と言われた者による漁場利用の固定化といった漁業慣行の解消が大きな課題となっていたことから、漁業者を主体とする漁業調整委員会を創設し、目的規定にも、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によって水面を総合的に利用し、漁業の民主化を図ることが定められたところです。
 一方、漁業法の制定から約七十年の間の運用によって、当時の課題となっていた慣行は解消され、当初の目的である民主的な漁場の利用形態の構築は既に実現されております。
 このため、現時点でなお漁業の民主化を法の目的とする必要はなく、漁業調整委員会制度が漁業法における基本的な仕組みとして既に定着していることも考慮し、目的規定の改正を行ったところであります。
 都道府県の責務の規定についてのお尋ねがありました。
 御指摘の規定は、漁業生産力の発展を図るため、国及び都道府県が、水産資源の保存及び管理を適切に行うとともに、漁場の使用に関する紛争の防止及び解決に取り組む責務を有することを確認的にそう規定したものです。国や都道府県に新たな権限を与えるものではありません。
 漁業権の優先順位の廃止についてのお尋ねがありました。
 本法案においては、法律で詳細かつ一律に漁業権免許の優先順位を定める仕組みを改め、漁場を適切かつ有効に利用している漁業者については優先して免許する仕組みとし、現に地域の漁業を支えている漁業者の経営安定につなげていくとともに、利用の程度が低くなっている漁場については、地域の実情に即して水産業の発展に寄与する者に免許することとしております。
 また、知事が免許する際は、地域の漁業者が主体となる海区漁業調整委員会の意見を聴くこととしており、知事が恣意的に使用できない仕組みとしています。
 さらに、免許を受けた後も、現行法と同様に漁業権の存続期間を法定するとともに、漁業権者が適切に漁業を行っていないと認められる場合には、知事が漁業権の取消しを含む是正措置を講ずることとしております。このように、一たび漁業権の免許を受けた者が、無条件に漁業権を長期的に独占することはできない仕組みとしております。
 水産特区の取組についてのお尋ねがありました。
 平成二十五年に適用された宮城県の特区については、本年三月、県において有識者による検証が行われたところです。
 この検証においては、復興推進計画の数値目標は達成していないが、新たな技術の導入による製品の差別化等の取組成果は確実に現れてきており、事業を継続することが重要であるとされています。
 農林水産省としても、被災後、漁村としての機能を失っていた可能性のある桃浦地区において、復興特区制度を契機として、企業と連携して漁業生産を回復させ、若い方々の雇用の場が創出されるなど、一定の成果が見られているものと認識しています。
 今後とも、宮城県の指導の下、桃浦地区の復興が進展することを期待をしていきたいと思います。
 海区漁業調整委員の公選制廃止についてのお尋ねがありました。
 今回の選出方法の見直しについては、海区漁業調整委員会が一層適切に漁業調整の役割を果たすことができるよう、漁業者を主体とする委員会の組織、機能をしっかりと残しつつ、地域の実情に柔軟に対応できるよう、公選制から知事の選任制に移行するものです。
 また、知事の選任に当たっては、漁業種類や漁業区域等のバランスに配慮しなければならないこと、漁業者団体等による推薦、募集を行い、その情報を公表するとともに、その結果を尊重すること、都道府県議会の同意を得なければならないこととすることで、現場の意見の反映や手続の透明性を確保しつつ、独立した行政委員会としての機能を維持することとしております。
 今回の改正により、浜に混乱が生じるのではないかとのお尋ねがありました。
 本法案における目的規定や漁業権、漁業調整委員会の見直しの趣旨については、これまでお答えしたとおりです。
 今回の法改正は、現在漁業に携わっている方が引き続き安心して漁業に取り組めるよう将来への展望を示し、地域の創意工夫を生かした浜の活性化につながるものであり、御指摘のような状況は生じないものと考えております。
 漁船の大型化についてのお尋ねがありました。
 漁船の大型化については、生産コストの削減や安全性、居住性、作業性を向上させるため、これを進めていくことは必要と考えております。
 大型化に当たっては、これまでも、適切な資源管理措置により資源への悪影響がないことを確認した上で進めてきているところです。
 本法案では、漁獲量の相当部分に漁獲割当てが導入された漁船についてはトン数規制等の規模の制限を定めないこととしていますが、操業期間や区域、体長制限などの措置を講じていくこととしています。
 また、漁獲成績報告書やTAC報告の提出を義務付けるとともに、衛星船位測定送信機の設置などにより操業状況を監視できるようにしていくことにしています。
 TACの設定に沿岸漁業者の意見を反映することについてお尋ねがありました。
 TACの設定につきましては、本法案の規定による水産政策審議会での諮問やパブリックコメントにより、沿岸漁業者の意見を反映できる仕組みとなっております。実際の運用に当たっては、これらの手続を丁寧に進めていきたいと考えています。
 なりわい漁業、沿岸小規模漁業に関する国際約束の見解についてのお尋ねがありました。
 議員御指摘の規定は、いずれも漁業者、とりわけ小規模漁業者への配慮の重要性を規定したものであると承知しています。我が国は、これらの国際的な枠組みに対し、いずれも合意した上で真摯に対応してきているところであります。
 今後とも、沿岸漁業を中心とする小規模漁業者の安定的な操業や経営安定が確保されるよう、資源管理を含め、水産政策全般にわたって配慮してまいります。(拍手)

   〔国務大臣渡辺博道君登壇、拍手〕

○国務大臣(復興大臣 渡辺博道君) 東日本大震災復興特別区域法に基づく漁業法の特例についてお尋ねがありました。
 本制度は、東日本大震災により壊滅的な被害を受けた地区において、地元漁業者のみでは事業再開が難しい場合に、迅速な事業再開を図るための特例を設けたものであります。
 この特例を活用した桃浦地区では、カキの生産は着実に増加し、地元漁業者の福利厚生も向上するなど、被災地の円滑かつ迅速な復興に寄与しており、本制度は破綻しているとの御指摘は当たらないものと考えております。(拍手)