<第196回国会 2018年5月24日 農林水産委員会>


◇森林経営管理法案及び独立行政法人農林漁業信用基金法一部改正案に対する反対討論

○森林経営管理法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人農林漁業信用基金法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党を代表して、森林経営管理法案及び独立行政法人農林漁業信用基金法一部改正案に対する反対の討論を行います。
 本法案は、安倍晋三首相が戦後以来の林政改革と述べたように、戦後林政を大転換させる法律です。それなのに衆議院では、採決後に法案提出の根拠となる説明資料を書き換え、審議がゆがめられました。参議院では、参考人から、賛成しかねる、もう一度しっかりと検討し直してほしいと言われたのに、政府質疑は七時間のみです。審議は全く尽くされておりません。国会審議を軽視する政府・与党に強く抗議します。
 第一の反対理由は、森林所有者の経営権に介入して強権的に経営の自由を奪うスキームだからです。
 森林所有者に適時に伐採、造林及び保育することを義務付け、伐採等しなければ経営も管理もできないものと烙印を押し、差別と選別を持ち込むものです。また、森林所有者が市町村の経営管理権集積計画に同意しなければ市町村の仕事に支障が出るという理由で森林所有者の経営権も管理権も無理やり取り上げるものです。これは、憲法の保障する財産権や経営の自由に介入するものです。
 第二の理由は、伐採、搬出を行う素材生産者を初めて森林経営の担い手に位置付け、森林所有者を担い手から外すからです。
 お二人の参考人は、森づくりには百年掛かると言われました。短期的利益追求型ではなく、持続的な経営が求められます。素材生産者は、伐採が専門ですから、再造林や保育の補助金が出る間は頑張るが、採算が見込まれなければ撤退する者が出かねません。また、森林所有者に利益が還元される保障もありません。さらに、自由化の影響も考慮されていません。これでは地域に根を張った林業の担い手は生まれません。
 第三の理由は、これまでの森林政策の失敗を棚に上げて、地方公共団体に重い責任を負わせるものだからです。
 参考人から、市町村にはほとんど林業のプロがいないと言われました。林業所有者や素材生産者の選別、経営管理権集積計画の作成、もうからない森林の管理など、最も困難な仕事を市町村に押し付けるもので、国の責任を放棄し、森林を壊すものです。
 第四の理由は、未来投資戦略二〇一七と規制改革推進会議の提言を具体化したもので、安価な木材を確保したいとする大手木材メーカーの要望に応えたものだからです。
 森林所有者は置き去りです。農林漁業信用基金法改正案は、事業規模を拡大する林業経営体のもので、小規模の事業者が排除されかねません。林業の再生は、持続的な林業経営と森林の持つ公益的機能を発揮させることが必要で、そのことに国が責任を持つように強く求めて、討論とします。

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○委員長(岩井茂樹君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。
 これより順次両案の採決に入ります。
 まず、森林経営管理法案の採決を行います。
 本案に賛成の方の挙手を願います。

   〔賛成者挙手〕

○委員長(岩井茂樹君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。
 この際、田名部君から発言を求められておりますので、これを許します。田名部匡代君。

○田名部匡代君 国民民主党・新緑風会の田名部匡代でございます。
 私は、ただいま可決されました森林経営管理法案に対し、自由民主党・こころ、公明党、国民民主党・新緑風会、立憲民主党・民友会及び日本維新の会の各派共同提案による附帯決議案を提出いたします。
 案文を朗読いたします。

    森林経営管理法案に対する附帯決議(案)
  我が国の林業は、木材価格の低迷、森林所有者の世代交代等により、森林所有者の経営意欲の低下や所有者不明森林が増加するなど、依然として厳しい状況にある。このような中、持続可能な森林経営に向けて、森林の管理の適正化及び林業経営の効率化の一体的な促進を図ることは、森林の有する多面的機能の発揮及び林業・山村の振興の観点から極めて重要である。また、森林吸収源対策に係る地方財源確保のため、平成三十一年度税制改正において創設するとされている森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)については、創設の趣旨に照らし、その使途を適正かつ明確にする必要がある。
  よって政府は、本法の施行に当たり、次の事項の実現に万全を期すべきである。
 一 本法を市町村が運用するに当たって、「森林の多面的機能の発揮」「公益的機能の発揮」「人工林から自然林への誘導」「生物多様性の保全」について、十分に配慮するよう助言等の支援を行うこと。
 二 経営管理権及び経営管理実施権の設定等を内容とする新たな森林管理システムが現場に浸透し、林業の効率化及び森林管理の適正化の一体的な促進が円滑に進むよう、都道府県及び市町村と協力して、不在村森林所有者を含む森林所有者、森林組合、民間事業者など、地域の森林・林業関係者に本法の仕組みの周知を徹底すること。また、経営管理実施権の設定に当たっては、超長期的な多間伐施業を排除することなく、市町村が地域の実情に応じた運用ができるものとすること。
 三 市町村が区域内の森林の経営管理を行うに当たっては、その推進の在り方について広く地域住民の意見が反映されるよう助言等の支援を行うこと。
 四 経営管理実施権を設定した林業経営者に対して、市町村が指導監督体制の確立に努めるよう助言等の支援を行うこと。さらに、国は、民間事業者の健全な育成を図るため、森林に関する高度の知識、技術、経営に関する研修計画を企画し、実施すること。経営管理実施権の設定に当たっては、生産性(生産量)の基準だけでなく、作業の質、持続性、定着性、地域経済への貢献、労働安全などの評価基準も重視すること。
 五 森林の育成には、林業労働力の確保・育成は不可欠であり、小規模事業体の経営者や従業員を含む林業就業者の所得の向上、労働安全対策をはじめとする就業条件改善に向けた対策の強化を図ること。
 六 所有者不明森林の発生を防ぐため、相続等による権利取得に際しての森林法第十条の七の二の届出義務の周知を図るとともに、相続登記等の重要性について啓発を図ること。また、所有者不明森林に係る問題の抜本的解決に向けて、登記制度及び土地所有の在り方、行政機関相互での土地所有者に関する情報の共有の仕組み等について早期に検討を進め、必要な措置を講じること。
 七 経営管理権集積計画の策定に当たり、まず前提となる森林法の趣旨にのっとった、林地台帳の整備、森林境界の明確化等に必要な取組に対する支援を一層強化すること。
 八 市町村が、市町村森林整備計画と調和が保たれた経営管理権集積計画の作成等の新たな業務を円滑に実施することができるよう、フォレスター等の市町村の林業部門担当職員の確保・育成を図る仕組みを確立するとともに、林業技術者等の活用の充実、必要な支援及び体制整備を図ること。
 九 市町村が、「確知所有者不同意森林」制度を運用するに当たって、森林所有者の意向等を的確に把握し、同意を取り付けるため十分な努力を行うよう助言等の支援を行うこと。
 十 「災害等防止措置命令」制度の運用に資するよう、国は、災害等の防止と森林管理の関係についての科学的知見の蓄積に努めること。
 十一 路網は、木材を安定的に供給し、森林の有する多面的機能を持続的に発揮していくために必要な造林、保育、間伐等の施業を効率的に行うために不可欠な生産基盤であることから、路網整備に対する支援を一層強化すること。なお、路網整備の方法によっては土砂災害を誘発する場合もあることから、特段の配慮をすること。
 十二 森林資源の循環利用を図るため、新たな木材需要を創出するとともに、これらの需要に対応した川上から川下までの安定的、効率的な供給体制を構築すること。また、適正な森林管理の推進に向けて、その大きな支障の一つである鳥獣被害に係る対策を含め、主伐後の植栽による再造林、保育を確実に実施する民間事業者が選定されるよう支援するとともに、森林法による伐採後の造林命令など他の制度との連携・強化を図ること。
 十三 自伐林家や所有者から長期的に施業を任されている自伐型林業者等は、地域林業の活性化や山村振興を図る上で極めて重要な主体の一つであることから、自伐林家等が実施する森林管理や森林資源の利用の取組等に対し、更なる支援を行うこと。
 十四 地球温暖化防止のための森林吸収源対策に係る地方財源の確保のため創設するとされている森林環境税(仮称)及び森林環境譲与税(仮称)については、その趣旨に沿って、これまでの森林施策では対応できなかった森林整備等に資するものとし、その使途の公益性を担保し、国民の理解が得られるものとすること。
   右決議する。
 以上でございます。
 何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。

○委員長(岩井茂樹君) ただいま田名部君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。
 本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。
   〔賛成者挙手〕

○委員長(岩井茂樹君) 多数と認めます。よって、田名部君提出の附帯決議案は多数をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。