<第196回国会 2018年5月22日 農林水産委員会>


◇参考人質疑/新たな森林管理システムでは、持続可能な経営がなかなかできなくなるのではないか/森林・林業再建に向けて、安定的な財源を

○森林経営管理法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人農林漁業信用基金法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

☆参考人
 山梨県早川町長 辻一幸君
 NPO法人ひむか維森の会代表理事 松岡明彦君
 信州大学名誉教授 野口俊邦君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は三人の参考人の皆さん、貴重な御意見をありがとうございます。
 それで、私の方からは、まず最初に野口参考人からお聞きしたいと思います。
 それで、この今回の法案が、今まででいえば森林所有者が自発的に施業を行う、そこのところを支援する仕組みということだったと思うんですけれども、それを市町村に移して、ある意味公権力を行使して関わって関与していくというスキームに今回なるわけであります。それで、市町村、林業専門職とか、そういう人たちもたくさんいればいいんですけれども、先ほどもちょっと話になりましたけれども、やっぱり相当なことをやらなければいけなくなると。
 先ほど辻町長さんが、本当に市町村がやらなきゃいけないということをおっしゃっておられるんですけれども、実際上は相当厳しいことも言わなきゃいけなくなるし、相当やっぱり山を持っている方との関係でいえば大変だというふうに思うんですね。そういう側面も一つありと。
 それから、今回森林所有者に対する責務というのを決めて、そして市町村の経営管理権ということで、新たなそういう管理権ということで集約、集積を図っていくということになるんですけれども、その中には、さっき辻町長さんが言われたような全くもう所有者分からないというところも中にはあるんだと思うんですけれども、分かっていても、不同意であってもまあ言ってみれば出させるということも含まれていて、ちょっとこれは余りにも強権的過ぎないのかなというふうにも思うんですけれども、ちょっとその辺りの市町村に対する負担の大きさということや、今の問題についてどのようにお考えか、お話しいただきたいと思います。

○参考人(野口俊邦君) 先ほどもちょっと触れましたけれども、一九六四年の基本法林政がスタートして以降、実質上は担い手として森林組合が想定されました。一次林構、二次林構、三次林構と、ずっと林業構造改善事業が行われるたびに、林道を付けること、そしていろんな機械類を森林組合に集中すること、そこの作業班で、実際、主としてこれは植林と間伐、下刈りまでであります。で、主伐は多くは素材業者に任されてきたと。この領域はなかなか森林組合とすみ分けといいましょうか、新植、保育関係中心の森林組合、素材関係は素材業者ということでありました。
 今回は成長産業化ということを国がうたっていますので、成長産業ということのためには切るしかないですね。しかもそれは、先ほどもちょっと指摘がありましたけれども、コスト競争もしなくちゃいけないというふうな状況でやれば、かなり大型化、効率化、生産性ということが大事になってきます。そういうのには森林組合はなかなか向かないということで、新たな担い手を素材業者に指定したいと。しかし、素材業者にいきなりというわけにいかないので、そこに市町村が介在していろんな仕事を請け負っていただくということであります。
 しかし、市町村は、先ほども触れましたように、ほとんどプロとしての職員がいません。ですから、誰がこれやるかとなると、結局は素材業者あるいはもう一つ川下の方の大手の業者がそこに入って、そして効率のいい生産をやるということになってくれば、森林というものはそういう形で保続的、サステーナブルというのを林業では保続経営と言いますけれども、持続可能な経営です、こういうことはなかなかできないのではないかと、市町村にそれを担わせるのも酷ではないかというのが率直な感想であります。

○紙智子君 ありがとうございます。
 もう一点お聞きしたいのは、今度の管理法が森林環境税と言ってみればリンクする形になるわけなんですけれども、それをめぐってもいろんな議論があって、やっぱり、非常に切実な現場の思いというのは、私たちも早川町にも行きまして、本当にその切実な思いというのはよく分かるわけですけれども、それをめぐっての議論ということでは、果たして本当に現場の皆さんが願っていることにかみ合うだろうかというのをしっかりと議論して見ていかなきゃいけないと思っていまして、この点で例えば懸念する問題点などあればお聞かせいただきたいんです。

○参考人(野口俊邦君) 私、レジュメの四ページ目のところに森林・林業再建のための方策というのを、ちょっと簡単なスケッチを出しております。その中に、今、林業に対する安定的財源がないから、何とか千円、六百億円ですか、総額でというものを捻出したいと、それをまた地域でも期待されているという状況であります。
 私は、最も安定的な財源は一般会計だと理解しております。つまり、従来の林業予算はどうだったかというと、一番、ここにも書いていますけれども、ピーク時は一九九三年度ですけれども、一般会計の一%というところまで使われた時期があります。それがどんどん下がってきて、今は百兆円ほどの一般会計があるのに四千億円しか予算が組まれていないと、〇・四%ですよ。もしこれを一%まで戻すとすれば、約プラス六千億であります。
 私は、国民が森林に対して災害防止機能ですとか、あるいは温暖化防止だとか、いろんな期待を持っているということであれば、国税の一%をここに回すことはどうなんだろうという、そこの国民的議論をする方が先ではないだろうかと。また別途財源となれば、今度はこのためにこっちのお金が欲しい、これが欲しいという形で目的税的なものがどんどん出てくれば、国民はこれはもうたまったものではないというふうに思うだろうと私自身は感じております。

○紙智子君 ありがとうございます。
 そうしましたら、次に松岡参考人にお聞きしたいと思います。
 松岡参考人は家業を継がれて、九一年に現在の会社を創設されたんですけれども、県民に対して、先ほどのお話も聞きながら、本当に山が好きで、木が好きでという話もあったんですけれども、県民に対して森林・林業、木材を活用しての普及促進、環境保全ということも行っておられるということであります。
 それで、今回の法案で、木材販売によって得られた収益から民間事業者が負担する経費を差し引いた残りの金額を森林所有者に支払うということになるんですよね。今の材価のままで会社経営の見通しとか採算が合うかどうかということが一つです。
 それからもう一つは、実際に森林所有者から買い取って、それでやっていくという選択肢もあるのかなという気もするんですけど、その辺りのことをどういうふうにお考えかということを二点お聞きしたいと思います。

○参考人(松岡明彦君) 一つ目の質問にお答えします。
 今の材価のままで森林所有者にお金が返せるかと。これも、さっきも話しましたように、その場所によりますよね、場所と林分によりますよね。
 今、宮崎県では、民間の売買、そして公的な山、国有林とか公社とか、いろんな山あるんですけど、それが入札で、私も買っているんですけれども、大体立方当たり四千円ぐらいですね。ヘクタール当たり二百万から三百万ぐらいになるわけですね。だから、十分、まあ十分かどうか分かりませんけれども、ある程度の値段は出せるような状況が宮崎ではあります。でも、全然もう札も入らないみたいな、今度の法案では、何ですか、市町村が直接経営しているような山になると思うんですけれども、これも、どんな場所が市町村が管理するのか、それにもよりますけれども、相対的には宮崎の場合には立木代は出せると思われます。
 それと、二番目の質問、素材生産業者が買い取ったらどうかという、買い取るのもあるかということですね。
 今でも民有林の売買におきまして、土地ごとじゃないと売らないよと、それなら立木売りますという話も結構ありまして、土地ごと買ったところに関しまして、私も買っていますけれども、そのまままだ立てていたり、切らずにですね、それから、切った場合には必ず再造林しています。これ、認証事業体といいますか、ひむかの会員に関しては、ほとんどそういった土地ごと買い取った場合には植林はしています。
 これ、野口先生もおっしゃったように、素材生産業というのは、とにかくコストを下げるために高価な機械を買って、昔はもう雨の日は休んでいたんですけど、今機械の中ですから、雨の日でも動かせるわけなんですね。非常に厳しい状況なんですけれども、でも、植えなくちゃいけないとか買わなくちゃいけないと、そういうことになれば、今後その事業体の体制を、すぐにはなかなか難しいです、そういった体制に持っていけることは可能だと思っております。買い取る面積のその大きさにもよりますけどですね。

○紙智子君 ありがとうございます。
 それじゃ、辻参考人にお聞きいたします。
 みんなで視察に行きましたときに私も一緒に行って、それで、やっぱり町長さんはもうこの町は山で行く、生きていくしかないということで腹をくくっておられるので、もう本当にそこに対する情熱を持って取り組んでこられているなということでは非常に私たちも感銘を受けましたし、本当に必死に頑張っているという姿をまざまざと見せていただいたわけなんですけれども。そういう中で、やっぱり、何というんでしょうか、その基となるやっぱり立木の価格というのがすごく大事だという話もして、山を見せていただきながら、ここにある木は、これをつくるためにどれだけの経費が掛かって、そして切ったら一体どれだけの売上げになるのかということで採算をお聞きしたら、まあ赤字になるという話もされていたと思うんですね。
 私、実は北海道でこの間、ある農業高校生と話する機会があって、その高校生が言うわけです。北海道の木はトドマツとかカラマツとか単価が安い木ばっかりだと、だからやっぱり採算が合わないので、なかなか手を入れたいけれども入れられないという面があって、自分は山が好きだし、将来木で仕事したいんだけれども、そこがやっぱり大変で胸が痛むという話を高校生がしていて。いや、そういうことを考えている高校生がいるということ自体うれしかったんですけれどもね。
 そういうやっぱり基本となるところで、何というんですか、対策というんですか、いろいろ御苦労もされてきていると思うんですけれども、それをやっぱり打開していくというためには国に対してどうすべきかということを、お考えのことをちょっとお話をいただければと思います。

○参考人(辻一幸君) 国に対してはいろいろ要望することがこれからこの制度が出てくると付いていくと。先生方にもお願いしながら、その内容を拡大していくようなことが進んでいくと思うんですけれども。
 取りあえず、うちの町の現状を見ていただいて、私は、事が始まるには、あの放置されている森林をまず生き返らせること、整備をすることが、立木をお金に換えて素材生産をしてということはまだまだ次の段階であって、我々がする使命というのは、とにかく放置されている、分からない、不在のあの森林を整備することが行政の仕事じゃないかと、一連の整理内容を整えながらしていくことが大事なことじゃないかなということを今一番思っております。
 だから、制度が出たら、まず放置されている、荒廃している森林の整備に、人材育成をしながらあるいは専門家の知恵を借りながらそれに手を着けて民有林の整備をしていくということがまずというようなことをうちの町では考えながら、そこから新しい循環をつくっていくよりほかないなということを思います。
 あわせて、私どもの町は森林組合を単独で今日まで存続してきました。それは、山と森林の町だけにそれが地域にとって必要だと思うからこそ、森林組合の統合、合併は私は町長の権限ですることをやめました。山梨県には六十四の市町村がかつてあって、どこの市や町にも森林組合が存在をしたわけですけれども、この統合計画の中で、今は山梨県に十一の森林組合しか存在しない中で、零細とはいいながらも早川町は山の町であって、森林組合がこの町からなくなったら山としての生きる価値がなくなるという中で、町が支え続けて、人材をも確保しながら、特殊林産物なんかも作りながら森林組合を残してきて、町と一緒になりながら今存続しているわけですけれども、こうしたところに人材を求めながら役場が関わっていくという、こういう考え方の中で今いるわけですけれども。
 取りあえずはその放置されている、そして個人の所有の分からない林地を整然とさせながら、まずそのことによって、手を着けながら、森林をしっかりした木にしながら、そこから新しい循環がどういうように生きていくかということはこれからも探っていかなきゃならぬ課題だろうと思いますし、そういう地域が多いと思います。

○紙智子君 ありがとうございました。