<第193回国会 2017年6月6日 農林水産委員会>


◇畜安法の改正で、酪農家の所得が増えない/暫定措置法の廃止は、指定団体の機能に風穴あけるもの/指定団体が担ってきた一元集荷多元販売が崩れると生乳の需給調整が崩れる。

○畜産経営の安定に関する法律及び独立行政法人農畜産業振興機構法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 農業競争力強化プログラムと今度のこの畜安法改正案についてお聞きします。
 プログラムの牛乳、乳製品の生産、流通等の改革というのがありますけれども、加工原料乳生産者補給金制度の改革、それから乳価交渉の改革、酪農関連産業の構造改革、国家貿易の運営方式の改革、酪農家の働き方改革というふうに五つ改革が挙げられています。この改革というのが生産者の所得を向上させる、所得を上げる改革なんでしょうか、まずお聞きします、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 今回の補給金制度改革は、指定団体のみ補給金を交付するという現状の方式を見直させていただきます。出荷先等を自由に選べる環境の下で、生産者による創意工夫を促して所得を増大させることを目的としたものでございます。
 具体的には、改正法案によりまして、生産者の生乳の仕向け先の選択肢が広がり、自ら生産した生乳をブランド化することができますし、加工販売する取組など、創意工夫による所得向上の機会が創出しやすくなるというように考えております。現在の指定団体である農協、農協連につきましても、生産者の選択に応えるために流通コストの削減や乳価交渉の努力を促すというような方向付けもできるのではないかというように思っております。また、これまで補給金をもらえないため、飲用向け一辺倒だった方々を乳製品向けにも計画的に販売する方向に誘導することができ、これによりまして、冬場等の飲用牛乳の不需要期の廉価販売に歯止めを掛けることができるのではないかというように考えております。
 加えて、新たに導入される年間販売計画におきまして乳製品仕向けの経営戦略を明確にすることによって、より消費者ニーズの高い用途や付加価値の高い国産乳製品の製造が促進される結果、乳業メーカーが得られる利益を基とした乳価の形成が期待されるものというように考えるところでございます。

○紙智子君 いろいろとお答えいただいたんですけれども、所得向上の機会を創出しやすくするというお話だったと思います。それで、五つの改革の中で生産者の所得向上という言葉が直接出てくるのは、二つ目の乳価交渉の改革の部分です。
 プログラムには、農協等は自らの合理化を含め、中間流通コストや物流コストの削減を進め、生産者の所得がより向上するように対応するというふうに言っていて、所得を上げるのは農協等に任せるものになっているわけですね。
 JA、農協関係者は、乳業メーカーと量販店の取引価格の決定においては、量販店の価格交渉力は強くなっているというふうに言われているわけです。畜安法を改正することで、乳価の交渉力というのは強くなるんでしょうか、お答えください。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 近年、我が国の飲用牛乳需要が減少傾向にある一方で、生クリームやチーズなどの乳製品の消費は今後も増加が見込まれております。消費者ニーズに対応すれば酪農経営は発展の可能性を秘めているわけでございまして、そのためにも、特色ある牛乳、乳製品の生産による付加価値の向上など、酪農家が創意工夫を生かせる環境の整備が重要であるというように思っております。こうしたことを踏まえて、本法案により、補給金の交付対象を拡大するとともに、現在の暫定措置法に基づく制度を恒久措置として位置付け直すこととさせていただきました。
 また、本法案において、生乳の受託販売や買取り販売を行う事業者につきまして、新規参入者であっても、既存の農協、農協連であっても、生産者の選択に応えるための乳価交渉の努力を促すことになるというように考えるところでございます。
 こうしたことを担保するために、生産者に対しまして価格や数量といった販売実績や販売コスト等の報告を義務付けさせていただいているところでございまして、加えて、新たに導入されます年間販売計画において、乳製品仕向けの経営戦略を明確にすることによって、より消費者ニーズの高い用途や付加価値の高い国産乳製品の製造が促進される結果、乳業メーカーが得られる利益を基とした乳価交渉に結び付くものというように考えているところでございます。

○紙智子君 乳価交渉力は強くなりますかって聞いているんですけど、今のお話聞いているとよく分からないですね、これは。
 この間、農業競争力強化支援法の議論をしてきたわけですけれども、業界再編が農業機械等の独占価格やあるいは農産物価格の買いたたきを防止するのかというと、そういう効果がないことが明らかになったと思います。牛乳や乳製品の生産や流通等の改革についても、酪農関連産業の構造改革として量販店等の不公平な取引は公正取引委員会が監視するんだというようなことが書かれているだけなわけです。
 畜安法の改正で、今回の改正で、酪農家の所得を上げるためにこの価格競争力が強くなるんでしょうかね、そこが一貫した疑問なんですけれども。例えば、北海道の札幌市は、大消費地なわけですから飲用乳が売れるわけですよ。一方、釧路や天北の方は飲用よりも加工向けが多くなっていると。指定生乳生産者団体は、共販を通じて生産者の結集を高めて、交渉力を持ってきたわけです。この改正によって、飲用乳をもっと増やしたい酪農家が指定団体から抜けて自由にやりたいんだと、創造力を発揮して特色ある乳製品も作りたいということが起こり得るんだと思いますよ。
 それから、場合によっては第二の指定団体のような団体も生まれることになるかもしれないと。そういう団体が増えてくると、乳価交渉力は逆に弱まることになるんじゃないんでしょうか。衆議院の参考人質疑の中で清水池参考人は、制度の改正によって生乳販売の環境がより競争的になると思う、一般的には販売競争が強まればこれ生産者の乳価というのはむしろ低下するんだ、所得は下がるんじゃないかということを指摘されているわけですよ。
 この改正案、本改正案で指定生乳生産者団体を廃止して酪農家の所得というのは上がるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 全量を買い入れるいわゆる一元集荷多元販売という考え方は、確かに小さな酪農家の価格交渉力を上げてくることができました。
 しかし、現在、消費者ニーズが多様化しておりまして、それに全量買取りが応えていくことができるかというと、先ほど御指摘もございましたが、一つのタンクに自分のかけがえのない牛乳を全部一緒にしてしまうということを嫌がる生産者、そして自らの生乳の加工品を高く売りたいという創意工夫がある生産者、こういった人たちが消費者のニーズに応えて付加価値の高い、とんでもない高い価格を付けたとして、それがまた売れるという新しい市場の在り方になりますれば、私は、一般的に考えれば、そうした工夫をする余地がある分野での価格というのは自然に私は上昇基調になってくるというように、消費者は考えていくだろうというように思っております。その意味において、世界の傾向からすれば、消費者ニーズに合う生産システムというようなことがひいては強い農業に関連してきているという農業環境でございます。
 そんな意味で、今回の指定生乳制度の補給金の改革案、畜安法の改正案、こういったものは所得を向上させる大いに私は環境整備になるだろうというように思っておるところでございます。

○紙智子君 まあ、市場の要請というかニーズが変わってきているからそれに応えられるのだという話をされているんだけれども、果たしてそうなのかと。私は一貫して、酪農家の所得がこれで上がるのかどうかというところが今回本当に問われていると思うんです。
 それで、今、最初のところのお話にあったように、小さな酪農家の収入を上げていくことにこれまでの一元集荷多元販売、ここが機能を果たしてきたという話もされたと思うんですね。メーカーとの交渉をやっていく上では大きなやっぱり意味を持っているというふうに思うんですよ。
 それで、なぜ、加工原料乳の生産者補給金暫定措置法、いわゆる暫定措置法を廃止するんでしょうか。指定団体制度には四つ、今まで言われてきましたけれども、一つは輸送コストの削減、それから二つ目に条件不利地域の集乳、三つ目に乳価交渉力の確保、四つ目に飲用向けと乳製品向けの調整という機能を持ってきたわけですよね。この機能を強化しているのが暫定措置法だったというふうに思うんですよ。
 暫定措置法の第七条第二号、第三号、同法の施行規則の第五条の意味について、政府参考人に説明していただきたいと思います。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 今御指摘ございましたとおり、現行の加工原料乳の暫定措置法では、生産者は指定団体を通じまして補給金の交付を受けることとされておりまして、この仕組みに、農協、農協連合会の販売事業の機能を活用強化した輸送コストの削減、条件不利地域の集乳、乳価交渉力の確保を図る、また補給金を通じまして飲用向けと乳製品向けの仕向けの調整の実効を担保するという機能がございます。
 暫定措置法の施行規則五条でございますけど、これは、指定団体の要件といたしまして、取り扱う生乳量が地域内で生産される生乳の二分の一超を占めていること、こういうことを要件といたしまして集乳力の確保を図ってきたところでございます。

○紙智子君 今お話しされたんですけれども、暫定措置法の第七条第二、第三というのは集乳シェアについて定めていると思うんですね。
 それで、農林法規の解説集があるんですけれども、この中では、指定要件というのは販売生乳の五割以上、今二分の一と言いましたけれども、集乳するというふうにされているために、一地域に一団体というふうになるわけですよね。それで、このことが各地域に一つの指定生乳生産者団体を設けて、これに生産者補給金の交付を行われることによって生産者補給金の適正な交付が行われるようにするとともに、一元集荷による生乳共販体制を整備をして用途別の適正な価格形成を行わせるということを狙いとするというふうに解説で書いてあるわけですよ。
 つまり、指定団体による一元集荷多元販売があるから、酪農家の価格競争力の強化や集送乳の合理化や効率的な需給調整につながるんだというふうに思うんですね。
 それから、暫定措置法の施行規則第七条の第一項の意味についても説明をお願いします。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) 暫定措置法の施行規則の方の第七条第一号でございますけれども、これは、いわゆるプール乳価の義務付けということで、背景といたしましては、この暫定措置法ができた当時に混合乳価ということで非常に混乱が生じてございました。これを用途別の価格に変えるということを徹底するといいますか、そちらの方向に仕向けるためにこのプール乳価を指定要件としているというところでございます。

○紙智子君 この規定はプール乳価を定めたと、そのとおりだと思うんですけれども。
 これも解説によると、指定団体は一元集荷多元販売を行うものであり、その販売先の多数の乳業メーカーから受け取った乳代を一括してプールし、それを委託者に対して、委託者ごとの生乳の数量や規格のみを基準として分配すると。これは、一つは、共販事業というのが、共同による経済的な力をバックにして、より有利に農産物を販売しようというもので、当然、代金の共同計算を前提にしていると。二つ目に、酪農家の相互間の公平を期すために、用途別や搬入工場別に勘案してプール計算をせざるを得ないということによるものであるというふうに解説をしているわけです。
 つまり、指定団体の共販率を高めることを通じて、生乳の共販機能、例えばプール乳価と共同計算、有利な農産物との販売、価格交渉力を強めることになるんだというふうに思うんですよ。
 だから、暫定措置法が廃止されるということになると、指定団体が持っているこういう機能が発揮できなくなるんじゃないですか、大臣。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 改正法案では、生乳を加工向けに仕向けやすい環境を整備するということから、対象を農協に限定せずに、指定団体以外に出荷した生産者にも補給金を交付することとしてございます。
 先生が先ほどおっしゃった機能のうち、輸送コストの削減、乳価交渉力の強化につきましては、指定団体も含めて各々の対象事業者がその行う販売事業の一環として当然に行うべきものというふうに考えてございますし、条件不利地域の集乳につきましては、指定事業者に対して集送乳調整金の交付をこの法案で措置してございます。また、飲用向けと乳製品向けの仕向けの調整の実効性につきましては、引き続き加工仕向けのこの補給金を通じて担保することということとしてございます。
 このため、農協に限った法制上の機能強化を行ってございませんけれども、現在の指定団体は、新制度におきましても、指定生乳生産者団体として申請による指定を受けまして、補給金及び集送乳調整金の交付を受けて、その機能を発揮していくものというふうに考えてございます。

○紙智子君 余り変わらないんじゃないかというようなお話なんだけど、私はそんなことないんじゃないかと思いますよ。
 平成二十八年の四月八日の規制改革会議で、全量委託、一括集乳で共同販売等を基本とする指定団体を核とした流通構造の下では、生産者による品質向上、ブランド化へのインセンティブ等が湧きにくいというようにしているわけですね。品質を向上させるために、これ既に生産者は衛生管理を含めて懸命に努力をしていますよ。物すごく、現場に行って話聞くと、厳しいですよ、衛生管理含めて。いい品質のものをということで既にもう努力をされてきているわけですよ。だから、インセンティブとか湧きにくいというのは、これ現場の努力を知らない人の意見じゃないかと思うんですね。
 そして、規制改革会議は、補給金の交付条件として、販売を行う農協等については、生産者に対しその意に反して全量委託や全量販売を求めないことを補給金交付の条件とすると。全量委託はやめろと、まあ言ってみれば要求しているわけですよ。つまり、実質的には、これ指定団体が発揮した機能に風穴を空けるというところが改正案の目的なんじゃないんでしょうか、大臣。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) 今全量委託の関係ございましたので、私の方から御説明させていただきます。
 まず、全量委託といいますか、まず、指定団体と農家との関係は個々の契約で決まっているということになりますけれども、ただ、受託の規定等については、これまで生産局長の通知で模範的な受託規程例というものを定めて、先生がさっきおっしゃったとおり、委託者が出荷し、またその取り扱う生乳を特別の条件を付さずに団体に出してくる場合でなければ、原則として団体は委託を引き受けないことを規定するとともに、契約例におきまして、委託者は団体の受託規程を承認の上、生乳の全量を特別の条件を付さずに委託する旨を規定してございます。これはあくまでも規定の例で、今でも強制をすれば多分独禁法違反ということになろうかと思いますけれども、こういう生産局長通知の規程例を参考に、当事者間で双方合意の上、生乳取引契約を締結しているというのが現状でございます。
 今回は、そこの部分委託を認めていくといいますか、全量無条件委託という原則を外すということでございますので、より生産者が創意工夫に応じた様々な所得向上の機会が創出しやすくなると、そういうふうに考えているところでございます。

○委員長(渡辺猛之君) 紙智子君、時間が参りましたので、質疑をまとめてください。

○紙智子君 はい。
 部分委託の需給調整にどういう影響が出るかということを含めてもっと質問したいわけですけど、時間来ましたので、暫定措置法を畜安法の母屋に移すという話がこの間説明されているんだけれども、暫定措置法の肝腎な骨格というのは移すのではなくて廃止するわけですよ。農協が果たしてきた四つの機能を強化する法的位置付けが弱まると思うんですね。指定団体が担ってきた一元集荷多元販売が崩れると生乳の需給調整が崩れるというふうに思います。この改革というのは、一連の農協改革、私たちは農協解体と呼んでいますけれども、その一環だということを指摘をして、次にまた質問したいと思います。
 終わります。