<第193回国会 2017年5月9日 農林水産委員会>


◇農業資材の独占価格、量販店による農産物の買いたたきに効果がない/地域経済・雇用に影響

○農業競争力強化支援法案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 先日、ようやっと主要農作物の種子法に関する資料が出されました。法律を廃止してからの提出だったわけです。種子法を廃止するのは、都道府県が開発した品種は民間企業が開発した品種よりも安く提供することが可能だと、都道府県と民間企業では競争条件が同等でないという理由だったわけです。小麦は、公的機関が育成した品種の三十キロ当たりの価格が七千六百五十円と、民間企業の価格はというと、これ七千六百五十円ということで、同じなんですよ。大豆は民間企業の価格は出てきませんでした。
 ですから、種子法を廃止してから聞き取りを行ったということだったんですけれども、まともな調査もしていないのに、どうして都道府県が開発した品種は民間企業が開発した品種よりも安く提供することが可能だというふうに断定するのかというふうに思います。非常にこれは国会審議を軽視した態度だというふうに言わざるを得ません。
 競争力強化支援法について今日は質問なんですけれども、先日参考人質疑が行われました。やはり一番問題視されたのは、農業者に対する努力義務の規定です。田代参考人は、農業者の努力で解決できないからというふうに言っているにもかかわらず、法案が農業者の努力を書き込むのはいかがなものかというふうに感じたと指摘されたんですけれども、全く私と同感ですよ。
 この問題は前回質問する予定だったんですけれども、与党議員からも削除を求める意見が出されましたので、今日はコスト削減の問題を質問します。
 農業の所得を増やすためには資材コストと流通コストを下げる必要があるんだと、そのために本法で業界再編を促進するというふうに言われているわけです。農業者は農産物を生産するために農業資材を購入すると、そして農産物の出荷になるわけです。参考人からも指摘があったんですけれども、入口のところで、農業資材や農業機械の価格が高過ぎるんだと。それから、出口のところでいうと、農産物の価格が買いたたかれるということで長い間苦しんできたと。歴史的に見れば、交渉力を付けるために農協が共同の購入をし、共同の販売を行うと。農家の所得を向上させる役割を実は果たしてきているわけですね。
 そこで、農業機械なんですけれども、参考人の方から六条のコンバインは一台一千四百万円だという話がありました。政府は、日本では大手四社による寡占状態にあるから価格が高い、韓国よりも高いと分析をしたと。つまり、これ不当に価格をつり上げているという分析なんでしょうか。端的にお答えください。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 日本と韓国のトラクター、コンバインにつきまして、それぞれ馬力と条数が全く同じものを比較いたしました。その結果、日本製が韓国製よりも二割から六割程度高いという状況がございました。この要因として、私ども二つあると思っております。
 一つは、日本では主要四メーカーの出荷額が八割を占めてシェアが固定しているということに対して、韓国では、例えば輸入機のシェアが四割を占めるなど、メーカー間での競争が働いていることが要因の一つではないかと思っています。
 また、日本国内の農業機械は自動制御機能等が標準整備されました高機能な農業機械である一方、韓国などで販売されております日本製の農業機械はその国の販売環境に合わせて基本性能のみのシンプルな機械であること、これらも要因ではないかというふうに考えてございます。

○紙智子君 そういうふうに理由言われるんですけれども、この競争力強化プログラムの中で、農業機械について寡占状態になっているのでベンチャー企業を含めた企業の新規参入を推進するとしているんですけれども、参考人が紹介した一台千四百万円するコンバイン、この価格は新規参入でどの程度安くなるんですか。

○政府参考人(農林水産省生産局長 枝元真徹君) お答え申し上げます。
 農業機械の価格がどの程度下がるかにつきましては、本法案に基づく取組が個々の事業者の自主的な取組によることから一律に見込むことは困難でございますけれども、農業者が少しでも安い農業機械を調達できるようにするには農業機械メーカー側の取組が不可欠というふうに考えてございます。
 そのためには、一点目としては、今御指摘あった異分野メーカーの新規参入等による競争の促進を図るほか、部品や仕様の共通化ですとか、メーカー間での互換性の確保の促進、あと、最低限必要な機能、装備のみを備えたシンプルな農業機械や高耐久な農業機械の製造販売、あと、農業機械を始めとする価格の見える化の推進、これらを推進していく必要があるというふうに考えております。
 例えば、具体的な事例として申し上げますと、異分野メーカーの取組では、ブルドーザーの耐久稼働時間がトラクターの約二倍以上あること、また、春から夏は農業機械として利用いたしまして、農閑期には建設用の機械として利用するということで、稼働率を高めるというようなことで機械コストを、これはコストでございますが、約三分の一にするということを現在実証中でございます。
 また、シンプルな農業機械の事例でございますが、コンバインについてはアクセルの自動制御機能等を省いたモデルを販売されましたけれども、これで価格が約二割低減しているところでございます。
 今後、新規参入の促進と併せまして、このような取組が実施されるように機械メーカーの団体に設置されております部会に農林省も参画した上で様々検討を行うなど、農業機械の価格の引下げに向けた環境を整備してまいりたいと存じます。

○紙智子君 結局、一千四百万のコンバインが幾らになるのかということについては全然言っていないわけですよ。そういう努力はするという話はするけれども、幾ら安くなるのかということは言われないんですよね。
 韓国は安いと言うんだけれども、確かに六条コンバイン、日本の価格で約一千四百万だと、韓国は九百四十万というふうになっていますよ。賃金もこれあるわけですね。最低賃金でいうと、農水省の資料では、時給で日本は約八百円、韓国は時給約六百円と低いわけです。ですから、これ、金額だけで一概に比較できないという面もあるんですね。
 それから、同時に、農業機械は寡占状態にあるから新規参入を進めるというふうに言っているわけですけれども、肥料は会社が多過ぎて非効率だというわけですよ。企業を増やしたら競争が働くといって、企業が多いと競争が働くはずなのに非効率だと。これ本当に理解に苦しむ、物すごく御都合主義じゃないかなと思うんですね。
 そこで、肥料、飼料、農薬について聞くんですけれども、肥料や配合飼料、農薬を製造するためには多くの原料を海外から調達をしています。ですから、世界的な需給状況や為替などの影響を受けることになると。一ドル百円だったものが円安で百二十円になったと、調達価格が二十円上がったとします。そうしたら、法案では資材コストを引き下げて農業者の所得を増やすんだと言っているんですけれども、これ、調達価格の値上がり分というのはどこが負担することになるんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 今般の法案でございますけれども、国際競争に対応できる生産性の確保を図るための業界再編の推進、また法規制及びその運用の見直し、さらには農業資材価格の見える化の推進等を通じて肥料や飼料の製造費の低減を推進することにより価格の引下げを図ることとしております。
 他方で、御指摘のように、肥料、飼料はその原材料を海外に依存しております。資材価格は原料価格の動向に影響を受けざるを得ないわけでございますが、肥料につきましては、例えば海外の鉱山の山元との関係強化、あるいは新興国での鉱山開発を通じた輸入相手国の多元化、土壌診断に基づき、輸入依存率の高いリン酸、カリ成分を抑えた肥料の使用の推進を図るとともに、飼料につきましては、原料の輸入相手国の多元化、あるいは飼料増産総合対策事業などの実施による飼料自給率の向上の推進、さらには配合飼料価格安定制度による農業者への補填を引き続き図っていくことを通じて、原料価格の変動による農業者への影響をできる限り緩和するよう努力をさせていただきたいというように思っております。

○紙智子君 もっと単純に、どこが負担するんですかと、上がった分はと聞いたわけですよ。調達価格が上がったら、負担は結局農業者にも転嫁されるんじゃないかと。国際相場や為替動向によって、農業の産出額が増えても、これ、農業所得が減るということはあるわけですよ。
 地域で営農を支えてきた中小の肥料や農薬のメーカーを再編したら農村地域の姿がどうなるかということについてもちょっと質問したいんですけれども、日本は南北に長いわけですね。地域の気候や土壌条件を踏まえて、地域に根差した中小メーカーと協力しながら農産物の品質が保たれて、消費者の利益の増進や農業振興に大きな役割を果たしてきたと思うんです。参考人質疑では、地域で日常的に顔が見える、実際に顔を突き合わせて資材を買ったり機械を扱ってもらったり農産物を出すところを相談すると、こういう人たちも含めて地域の大事な構成員だという話がありました。こういう業界を再編、リストラすると、これは政府が掲げる一億総活躍にも反するんじゃないかと思うんです。
 そこで、本法案の第三十二条ですけれども、業界再編をすれば中小メーカーで働く労働者を解雇、首切りすることもあるから国は就職をあっせんすると、中小企業は新たな経済的な循環への適応の円滑化を進めるとしているわけです。本法で農業関連企業のリストラ、撤退を求めながら、農村地域の工業導入法を改正をして農村地域に一般企業を誘致すると。本当にこれ、ちぐはぐな政策だと思うんですよ。
 農業を基幹産業と位置付ける自治体にとっては、農業の振興と地域の営農を支えてきた農業関連企業の発展とは一体のものですよ。業界再編と称してリストラを迫れば、これ、地域経済と雇用にも大きな影響が出るんじゃありませんか。大臣、お答えください。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 本法案で考えておりますのは、農業者と共存共栄の関係にある農業生産関連事業者の皆さんが、事業再編の取組に対する支援を通じて生産性の向上など体質強化をまずは図ろうとするものでございます。このように、本法案が農業者を支援する考え方を持つ農業生産関連事業者が生産性を向上して持続的に発展していくための措置をかなえることができるならば、地域経済の将来の発展につながるものというように考えております。
 一時的に労働者の雇用への影響が多少ありましても、長期的に見れば、私ども、農業者と共存共栄の関係の皆さんが体質強化を図られれば、将来の農業の、私は、持続可能性、体質強化そのものを図ることができるというように考えるところでございます。

○紙智子君 共存共栄で体質強化と言うけど、そうならないと思いますよ。もう混乱すると思いますね。なぜ国がこういう地域が混乱するようなことをするのかというふうに思います。
 加えて、十七条なんですけれども、主務大臣は、事業再編又は事業参入の促進に関する指針、実施指針を定めると。実施指針は、経済事情の変動により必要が生じた場合は変更するというふうにあります。衆議院で我が党の畠山議員が質問したわけですけど、これに答えて、経済事情の変動とは、国内の規制の改正、貿易ルールの変更など、農業生産関連事業を取り巻く環境が大きく変わったと認められる場合というふうに答えられました。
 法案が、規制改革推進会議の思惑やEPAとかFTAだとか、貿易ルールの変更に合わせることになったら、これ、農業を基幹産業と位置付ける自治体の地域振興に重大な影響が出るんじゃありませんか、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 御指摘の本法案第十七条第三項における実施指針の変更理由とされる経済事情の変動と申しますのは、世界経済の変動により農業資材の原料となる素材の価格や農産物価格の大幅な変動が起こるなど、農業生産関連事業を取り巻く経営環境が大きく変わったと認められる場合を想定しております。
 この実施指針を変更する場合でございますが、業種ごとに関係業界と丁寧に意見交換を行うというようにしておりますし、パブリックコメントで広く意見を募ることによりまして、個々の業界の実態を踏まえたものになるよう、策定作業を進めていく考え方でございます。
 いずれにしましても、こうした実施指針等の規定、あるいは変化に対応できる農業について、我々はフォローアップをしながら、しっかりとした資材価格の低減による所得向上を図っていくという覚悟でございます。

○紙智子君 私は、やっぱり地域の営農計画とか振興計画がFTAやEPAによって大きく変わる危険性があるというふうに思います。TPPのアフターケア法というふうに田代参考人が指摘されたとおりだと思うんです。
 次に、出口の問題ですけれども、農産物の生産物価格についてお聞きします。
 お米はスーパーなどでは目玉商品として安値で販売されることがありますけれども、お米以外でも生産者には量販店などから買いたたきに遭うこともあると言われています。第十二条に、農産物の卸売又は小売業については、適正な競争の下で効率的な農産物の流通が行われることになるよう、事業再編又は事業参入を促進するとあります。農業競争力プログラムには、量販店等による安売り競争の状況から脱却すると、量販店等は農業者の再生産の確保を考慮し、双方がウイン・ウインな関係維持というふうに書いてあります。
 本法でウイン・ウインの関係が確立をされて、買いたたきはなくなるということなんでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 多数の量販店等による安売り競争、こうしたもので価格の引下げ圧力が強い状況にあるというような我が国の小売業界の実情があるとするならば、そこも含めて事業再編や改革の必要があるというように思っております。この法案で流通業者の自主的な事業再編等を後押しする支援措置を講ずることとなっておりますが、多数の量販店等による厳しい競争環境が緩和されることとなるように措置をしていくつもりでございますし、安売り競争からの脱却が進みますれば、消費者の多様なニーズに応えつつ、農産物の品質に応じた適正な価格での販売といったビジネスモデルも構築されていくだろうというように思っております。
 また、農業者が量販店等のバーゲニングパワーに対して交渉力を高める必要がございます。販売先の選択肢を幅広く有していることがそのためには重要でございまして、農業者が様々な販売ルートのサービス内容あるいは取引条件等を比較検討して有利な販売先を選択できるような環境整備に努めることが必要だろうというように考えております。また、量販店等の不公正な取引、優越的地位の濫用、こういったものにつきましてはしっかりと公正取引委員会等と監視をしてまいりたいというように思っております。

○紙智子君 公正取引委員会が監視するのは当然だというように思うんですけれども、公正取引委員会が動き出すところまでいかない、で、泣き寝入り状態という、そして量販店が提示する額をのまざるを得ないという状況なのが現実だと思うんですよ。なぜこの本法で買いたたきがなくなるかというのは、さっぱり分からないですよ。恐らくこれ、そう簡単になくならないと思いますよ、今まで続いてきているわけで。量販店の買いたたきが防止できないのであれば、流通を簡素化することで農家の手取りを増やすことになるんだということなんだけれども、その手段として産直なんかもあると思うんです。今度、その十三条で、国は農産物の直販を促進するための措置を講ずるとなっているんですね。農業者に直接販売を促進したら、農協の共同販売が弱まるんじゃないかと。つまり、これ、農協を通すなということにもなるんじゃないかと。
 逆に充実させるような規定はあるのかということも聞きたいと思いますが、いかがでしょうか。

○政府参考人(農林水産省食料産業局長 井上宏司君) 農産物の流通につきましては、農業者の所得の向上を図るという観点からは、流通マージンを最小限に抑える、あるいは自ら販売価格等の取引条件を設定できるという意味で直接販売を促進することは重要と考えてございますけれども、様々な流通ルートにはそれぞれ特性がございます。
 直接販売を行うというふうにした場合には売れ残りのリスクを生産者が自分で取ることになるとか、産品の品質の管理を自分が責任を最後まで持つといったようなことがございますので、直接販売を促進する取組と併せて、今回の法案でも規定をさせていただいておりますけれども、農業者が自らの判断で販売ルートを選択ができる、有利な販売ができるようなルートを選べるような環境の整備にも取り組むこととしておりますし、また、中間流通におきましてもその機能がより一層効率的に発揮ができるように、今回、事業再編等に対する支援措置も設けさせていただいているところでございます。

○委員長(渡辺猛之君) 時間ですのでおまとめください。

○紙智子君 はい。
 時間なくなりましたけど、農業者は大手から資材価格をつり上げられたり買いたたかれたりしてきたわけです。そういう経験から協同組合をつくって、共同購入、共同販売を進めてきたと。これは取引交渉力を対等に近づける大きな手段だったわけです。参考人からも本法が農協改革に結び付いているんじゃないかという指摘がありましたが、実質的な農協外しじゃないかという懸念はやっぱりますます大きいと、そのことを指摘して、質問を終わります。