<第192回国会 2016年12月8日 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会>


◇牛・豚肉は7割も関税撤廃/サイドレターを廃止することはない(岸田文雄外相)

○環太平洋パートナーシップ協定の締結について承認を求めるの件(第百九十回国会内閣提出、第百九十二回国会衆議院送付)
○環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律案(第百九十回国会内閣提出、第百九十二回国会衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 この間、我が党は、TPP委員会の役割やISDSの危険性、薬価、民泊問題、遺伝子組換えの表示や添加物の規制緩和などを取り上げてきました。それで、今日は、非関税措置に関する日米並行交渉の書簡、いわゆるサイドレターと、TPPと農業問題について質問いたします。
 非関税措置に関する日米並行交渉で確認した書簡、いわゆるこのサイドレターについてお聞きします。
 岸田外務大臣は、サイドレターについて、これは日米双方に受入れ可能な形でまとめたのがサイドレターですというふうに言われました。そこで、改めてサイドレターの性格について確認をいたします。国家間の約束になるもので、これは誠実に履行しないといけないと、また、これを履行するための取組は既に始まっているという理解でよろしいでしょうか。簡潔にお願いします。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 御指摘のサイドレターですが、まず、国際約束を構成しない文書であって、法的拘束力を有しないというのがこの文書の性格であります。
 そして、中身についてですが、我が国のこれまでの取組や今後自主的に行う取組、これを確認したものであります。

○紙智子君 国際約束ではないんだという話をされるんですけれども、でもやっぱり誠実に履行していこうと、既にそうした取組が始まっているということでよろしいですか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 法的拘束力はありません。そして、内容については、既に我が国が行っている取組、そして今後我が国として、我が国の企業等に対する利益など、そういった観点も総合的に勘案して自主的に行う内容、これを取りまとめたという文書になっています。

○紙智子君 日米並行交渉は、二〇一三年の四月に確認をし、その後十二回行われてきました。今年二月に書簡が交わされました。
 ちょっとパネルを見てください。(資料提示)
 日本側の書簡では、九分野についてアメリカ合衆国との対話に取り組む用意がありますと書いています。それから、アメリカ側の書簡は、対話を行う見通しを歓迎しますとあるわけですね。九分野というのは、ここにあるように、赤い字で書いてあります、保険、透明性・貿易円滑化、投資、知的財産権、規格・基準、政府調達、競争政策、急送便、衛生植物検疫です。
総理、これ、アメリカが何かを用意するというのはなくて、日本が用意しますと、で、アメリカが歓迎するというように言っているわけですね。なぜ九分野もわざわざ用意する必要があるんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 御指摘のように、これは対話に取り組む用意がありますという記述があります。これは、何もこの分野において何か協議を行うとか、こういった内容ではありません。対話を行って両国の間でしっかり意思疎通を図る、こういった内容を記しているものであると理解をしております。

○紙智子君 アメリカのトランプ氏はTPPからの離脱を表明したということでは、これ発効の見通しがないわけですけれども、このサイドレターは生き続けているんでしょうか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) このサイドレター、今、内容において、先ほど申し上げましたこれまでの取組、あるいは今後自主的に行う取組、これを確認したものであります。そして、このサイドレターにおいては、TPPが発効するまで等の記述がなされているわけですが、これは実施の期限を記したものであります。
ただ、逆に、これ実施の期限が到来しないということになったならば、そもそも我が国が今日まで行っていることでありますので、これを逆に廃止するということはないと思っておりますし、自主的にこれから行うということでありますから、このタイミングについても、我が国が自主的にタイミングを考え、実施していくことになると考えております。

○紙智子君 つまり、生きているということですよね。
 それで、九分野のうち保険では、アメリカの要求に応えて全国の郵便局でアフラックのがん保険の販売を認めた上、今後新たな要請に基づいて行動を実施することが確認をされていると。また、投資分野では、わざわざアメリカの投資家や利害関係者が介入できる仕組みをつくりました。
 そこで、衛生植物検疫、SPSについてなんですけれども、もう一度ちょっとパネルを御覧ください。一の収穫後の防カビ剤、いわゆるポストハーベストですけれども、厚生労働省は、農薬及び食品添加物の承認のための統一された要請及び審議の過程を活用することにより、合理化された承認過程を実施すると書いています。薬事・食品衛生審議会における審議の過程においては、農薬・動物用医薬品部会及び添加物部会が合同で審議を行うとあります。
 塩崎大臣は、防カビ剤の使用については、アメリカでは収穫前も収穫後も関係ない、日本では収穫後の防カビ剤使用は禁じているので、収穫後は日本では食品添加物として扱っているんだと。この扱いの違いを簡略化して一緒に扱うというふうに答えられているんですけれども、なぜ簡略化するのでしょうか。簡潔にお願いします。

○国務大臣(厚生労働大臣 塩崎恭久君) 御指摘の、かんきつなどに使われる防カビ剤でありますけれども、米国では、収穫前後を問わず、今お話しいただいたように農薬として扱っておりますけれども、我が国では、昭和四十六年以降現在に至るまで、収穫後に使用されるものは食品添加物として扱ってまいっております。このため、サイドレターにおいて、防カビ剤について引き続き収穫後については食品添加物として取り扱うことを前提に、収穫前の農薬の承認手続と収穫後の食品添加物の承認手続を効率化するということにしたものでございます。
 具体的には、収穫前及び収穫後に同じ防カビ剤を使用するものについて、それぞれ農薬と食品添加物の部会で審議をしていたわけでありますが、これを合同で開催をすることとし、それから、農薬と食品添加物それぞれの申請を一つの申請として提出することを可能とすることによって手続を迅速化することを考えているわけでございます。
 したがって、審査の簡略化や食品安全に関する基準の緩和を行うものではないというところが一番大事なところでございまして、基準の緩和は行っているわけでは全くありません。今後とも、防カビ剤については科学的根拠に基づいて適切に対応していきたいというふうに思います。
 なお、農薬と食品添加物の部会においては、従来よりそれぞれの専門性のある審議を行ってきていただいておりまして、これを合同で開催したとしても、引き続きそれぞれの委員が専門性を持って審査をすることには変わりはないわけで、審査が簡略化されるものとの懸念は当たっていないということでございます。

○紙智子君 基準が変わるわけじゃないという話されたんだけれども、日本では、ポストハーベスト農薬は食品添加物として扱われると。添加物部会で審議をされてきたわけです。農薬は農薬・動物用医薬品部会で扱っていると。部会の位置付けに応じて二つの部会で慎重に審議をしてきているわけですよね。アメリカはポストハーベストとか農薬なんかは一体で審査をしてきたと。ここでアメリカのやり方とかアメリカの企業に合わせた審査にする必要はないというふうに思うんですよ。
 その下の二を見てください。食品添加物は閣議決定を誠実に実施するとあるんです、誠実に実施すると。なぜアメリカのために誠実に実施しないといけないんでしょうか。そして、その下の三のゼラチン、コラーゲン、ここでは輸入規制を緩和したというふうに、日本自ら規制緩和したことをアピールしているわけですね。
 日本は、TPP交渉に入るために、既に牛肉の輸入できる月齢を二十か月から三十か月に緩和するなど、いわゆる入場料を払ってきたわけですよ。そして、並行協議では、アメリカの長年の要求、積み残しの課題を解決するためにこれ九分野も差し出しているんじゃないかと、こう言われても仕方がないんでしょうか。総理、いかがですか。

○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 済みません、二点御質問いただきましたので、一点目のこの誠実にという部分について私の方からお答えさせていただきます。
 御指摘の部分、これは我が国が国際汎用添加物の指定に関し、二〇一二年七月十日付けで既に行っていた閣議決定を実施する旨を確認したものであります。そして、この誠実に、フェースフリーという言葉ですが、この文言、これ国際的な文書において一般的に使用される修飾語であり、その有無によって実質的な内容を変更させるものではないと理解をしています。
 今申し上げましたように、これは我が国の閣議決定に基づいて行うわけですから、我が国政府として自分たちのこの閣議決定、誠実に実施する、これは当然のことでありまして、結果として何ら問題はないと考える次第であります。

○紙智子君 わざわざ誠実にと言う必要はないんじゃないのかなと、我が国のことを決めるのにというふうに思います。
 それで、トランプ氏は二国間交渉を強めると言っているわけです。これ、生きているということで、サイドレターは二国間交渉の足場になるんじゃないかということでいえば極めて有害だということを指摘を申し上げておきたいと思います。
 次に、TPPと農業についてお聞きします。
 国会決議は、農林水産物の重要品目は除外するというふうになっているわけです。三月七日の私の質問で除外を求めたんですかと言ったら、安倍総理は除外というこの区割りはないみたいなことを言いました。全てのものをテーブルにのせて行うのが原則になっているから、初めに重要品目を外してほしいと言ったらTPP交渉に参加できなかったんだと言われたわけですよ。しかし、交渉に入っても除外は求めていないわけですよ。だから、農家だけではなくて、どこに行っても国会決議は破られたと言われるんです。いまだに国民は納得していないんじゃありませんか。いかがでしょうか。大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 除外という概念は一般的なものとは考えておりません。TPP協定の関税に係る品目ごとの約束において、この区分、カテゴリーは用いられていないわけでありまして、TPP協定……(発言する者あり)分かりました。
 関税撤廃の例外を数多く確保したことや国家貿易措置とか差額関税制度、いわゆる除外概念に代わる措置が国会決議、特に営農を継続するというその冠に沿って実質的に除外という概念のその成果は得られたものというように考えておるところでございます。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 国会決議に沿うものかどうかは最終的には国会において御判断をいただくものでございますが、ただいま農林水産大臣からも答弁をさせていただきましたように、政府としても、我々は国会決議の趣旨に沿うものであると、このように考えております。

○紙智子君 全く納得できないんですよね。だって、除外言っていないんですから。除外というのは外してほしいということですよ。それ言わないで、例外を確保したから守ったなんていうのは、それを言っているのは皆さんだけですよ。
 この間、参考人質疑でおいでくださった中で、今日、東京新聞にも載っていましたけれども、作山さんという方は、実は農水省で事前協議のときの交渉官だったと。その方も、初めから除外などできないのは分かっていた、それなのに国会決議に入れたのは疑問だと指摘されているんですよ。当事者がそういうふうにはっきり国会決議違反明確だというふうに指摘しているんですよ。しっかり受け止めていただきたいと思います。
 それで、あなた方は、この関税撤廃の例外を認めさせることができたといって約束を守れたというふうにすぐ議論をずらそうとするわけです。
そこで、重要五項目のパネルを見てください。
 これの上の方は、これ五項目のタリフラインなんですけど、五百九十四項目、赤い字のところですね。タリフラインというのは関税品目、関税を課すことができる品目のことです。例えば米のタリフラインは五十八ありますけれども、玄米とか精米、穀物調製品、あられ、煎餅など、ラインがあります。タリフラインの数は全体で五百九十四ありますけれども、このうち百七十を撤廃すると。撤廃率は二八・六%となっています。米は二五・九%の撤廃率。牛肉を見てください。牛肉は七三・六%なんですよ、残るのは四分の一だけ。豚肉においては六七・三%、半分以上が撤廃なんですよ。
 何でこれで国会決議を守ったと言えるんでしょうか、総理。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 言わば無傷の品目はないという御指摘だろうと、このように思うわけでありますが、一つの品目に関税割当ての枠内と枠外の複数の税率が設定されている場合、双方共に変更を加えなかった品目がないため、守り切れた品目は一つもないという御主張がこの委員会においても度々展開をされてきているわけでございますが……(発言する者あり)しかしながら、政府としては、そのような機械的な基準でその品目を守ったかどうかを判断することは適当でないと、こう考えているわけでありまして、例えば枠外の高率関税を維持するために枠内の輸入枠を増やすなど、国内生産に影響を与える重要なタリフラインに影響が出ないよう措置をしておりまして、言わば実際に生産者に影響が出るかどうかということにしっかりと注目をしながら交渉し、そして勝ち取ってきたわけでございまして、品目全体として影響が出ないようにしているわけでございまして、そういう意味におきましては、我々はしっかりとこの国会決議に沿う交渉ができたと、このように考えております。

○紙智子君 影響が出ないようにとおっしゃいましたけど、ちょっともう一度、表を見てくださいね。関税撤廃率が七三・六%になるわけですよ。この牛肉の関税撤廃ということですけれども、ラインが五十三ある、そして関税撤廃三十九と。撤廃するもの、例えば牛タンなどは関税率を初年度に半減する。牛肉調製品のミートボールは、現在の関税率五〇%ですけれども、撤廃と。関税を残すという牛肉は、現在関税率三八・五%、これを十六年目には九%まで削減すると。
 二〇一〇年度のTPPの輸入実績を見てください。これ、農水省は最近の資料を出さないので少し古いんですけれども、二〇一〇年度の関税を削減するのと関税撤廃するものの、削減と撤廃ですね、この輸入実績は合計すると二千四百二十三億円です。
 TPP協定で関税を撤廃、削減するわけですから、これ、輸入額も輸入量ももっと増えるんじゃありませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) まず、牛肉においてタリフラインの撤廃率が高いということでございますけれども、これは、そのラインだけで見れば、機械的に見ればそうかもしれません。しかし、農家が生産するという上におきまして考えていく必要がございます。
 まず、輸入実績が極めて少ないもの、それから国産品と代替性が低いもの、こういったものについて撤廃したわけでございまして、先ほど御指摘がございましたタンとハラミ、例えばタンは需要の三%しか国内で生産されておりませんので、タンを食べるためにはほとんど輸入に頼らざるを得ないという実情がございます。また、ハラミは一〇%しか国内生産がありません。こういう二つしかないようなものにつきましては、撤廃しても何ら国内生産に影響はないというように思えるわけでございまして、さらに牛肉の調製品、ミートボールにつきましては、輸入品が牛肉本体に比べてごく僅かでございます。
 そんな意味で、生産者の目から見てこの撤廃が妥当かどうか、適切か否かということを判断してきたわけでございます。

○紙智子君 大きいもの少ないもの、確かにあると思いますけれども、影響はやっぱり大きいんですよ、全体として。
 牛肉は、一九九一年に自由化されて、その後、ウルグアイ・ラウンドを受けて関税を自主的に引き下げたと。自由化と関税率の削減によって牛肉輸入率が増加をして、価格が安い輸入牛肉が出回ったことで国産の割合が低下した。農家は、自由化後で、五年間で三割減少した。これは実は農水省が当時分析した中身です。さらに、関税による一定の国境措置がなければ国内生産は壊滅的な影響を受けるんだと、そこまで言っているわけですよ。そこまで言ってきたのに、今回の影響試算というのは、生産量の減少率ゼロ%、生産減少額は最大で六百二十五億円と。これを信じてほしいというのは余りにも無理があるんじゃないかというふうに思うんですよ。
 私は、TPPについて、北海道で酪農家やあるいは肉牛の農家や自治体関係者とずっと懇談していますけれども、十勝地方で約八百トンの肉牛を飼っている肥育農家というのは、ホルスタインの雌から生まれる雄の子牛を引き受けて育てると。肉質では輸入肉に負けない自信と誇りを持って生産しているわけなんですね。関税が下がってホルスタインと競合する輸入肉が増えれば、価格が下がってホルスタインでは経営が成り立たなくなると言われるんですよ。酪農家はホルスタインの雄牛を肥育農家に育ててもらう、畑作農家は酪農家から堆肥を提供してもらって逆に麦わらを提供すると。だから、肉牛の生産者と酪農家と畑作農家は連携し共同しながら生産をして地域を守っているわけですよ。肉牛生産者の経営が成り立たなくなったら、これ、地域の共同が崩れることになるんですね。
 世界では牛肉の需要が急激に伸びて買い付け競争とか価格競争が一層激しくなっている中で、このTPP協定というのは畜産経営を国際競争に放り出そうというものだと思うんですよ。アメリカの全米肉牛協会は、日本への輸出は倍に増えるというふうに喜んでいるわけですね。それから、オーストラリアは、日豪EPAで不十分だった内容が改善できて、日本への輸出が期待できると言っているわけですよ。言わば、TPP参加国の中で、日本への輸出をアメリカとオーストラリアが競い合う状況が生まれたとすると、これは日本の畜産経営や地域農業の共同が崩されていくんじゃありませんか。総理、見解を求めたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 特に牛肉については、我々としましてはきめ細かに対応をさせていただいております。特に体質を強化してもらう、これによってブランド化が進んだり国際競争力が付けられたりするような施策でございます。畜産クラスター事業を強化する、生産コストを削減する、また、受精卵移植の計画的な活用により乳用種から肉用種への転換、先ほど御指摘のとおりでございます。また、マルキンの法制化等につきましても、これはその対策を講じることとしております。
 そして、大事なことは、輸入の量が増えることのないようにということを我々も念掛けておりまして、特に、発効後、セーフガードにつきましては五十九万トンでセーフガードが発効されるわけでございます。今の生産量、輸入量が五十三・六万トンですから、一〇%の増加で発動されるわけでございます。今現在は一七%でございますから、言わばTPP発効の方がセーフガードがよりきつくなる、パーセントが低くなるということで、国内生産を守っているわけでございます。
そして、セーフガードは年二%ずつ増えるわけでございますが、最終的に十六年目までこのセーフガードは続いておりまして、七十三・八万トン、過去最高の輸入量を、これを上限にしております。つまり、過去最高の輸入量ということは生産者が経験をした輸入量でございまして、この経験した輸入量が上限となるわけでございますので、このセーフガードがある限り、私は過度な、輸入量が予測に反して増えるということはないというように思っております。

○紙智子君 急速に増えないとかいろいろ言うんですけれども、輸入は確実に増えるんですよ、増えるんです。そして、輸入、一旦入ってくると、価格下落には歯止めできないんですよ。セーフガードやったって価格下落は止められないんですよ。しかも、十六年やった後四年間発効しない場合は、セーフガード、廃止ですよね、なくなるんですよ。
 もう一つ、ちょっと豚肉の話もしたいのでパネルを見てほしいんですけれども、関税撤廃には四十九のラインのうち三十三ライン、撤廃率は六七・三%。日本は、高い豚肉に課している四・三%の従価税を一年目に半減し、十年目以降は撤廃すると。低価格の豚肉に課している従量税は、現行一キログラム当たり四百八十二円を、一年目、百二十五円に下げて、十年目以降は五十円に下げると。二〇一〇年のときの撤廃、輸入の実績というのは約二千八百億円です。関税率二〇%の税金掛けていても二百三十億円分輸入されていた豚カツの関税も撤廃と。TPPで更に輸入肉が増えて打撃を受けるんじゃないかと。
 一言どうですか。長くならないように。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 豚肉の輸入のライン撤廃については、国産品との代替性が低いものについて撤廃しております。
 しかし、TPP諸国からは、恐らくオーストラリアから入るだろうと予測されておりますが、既にこの部分につきましてはタイ産のものがオーストラリア産に代替されるというように予測しております。その意味においては、豚肉の輸入によって、低価格部位についてこれが影響を受けるということはありません。
 そして、国産豚肉で作られた豚肉調製品、特にハム、ベーコン、ソーセージ、こういったものについては既にかなりの国際競争力と差別化が図られておりまして、これにつきましては輸入には決して負けないというようになっております。

○紙智子君 そう言いますけど、私、現場を回って歩きますと、本当にもう批判が相次いで出されています。
 千葉の養豚団地に行きました。ここは、母豚五百頭、年間の出荷頭数は一万頭を超える大規模なところです。畜舎を建てたときの借金がまだあって、価格下落、低下した場合は、再生産できなくなったらもう立ち直れないと言われていました。TPPによって関税が下がって安い豚肉が海外から入ってきたらとてもやっていけない、TPPは何とか止めてほしいというふうに訴えていました。これ、TPPをやめることが農家の声に応えることだと思いますよ。
 国会決議違反と試算のいいかげんさというのは、農民の怒りと不信感を広げているわけです。北海道から九州、全国各地を私、歩いて調査してきました。改めて、生産現場の影響の大きさを痛感しました。重要五項目の影響はもちろんなんですけれども、野菜とか果樹についても影響が大きいわけです。
 愛媛のミカン農家を訪ねました。温州ミカンや伊予カンなどのかんきつ類は全国一の生産規模です。愛媛のミカン農家は、一九九一年のオレンジの自由化のときに安い輸入オレンジに押されて、一九九〇年には十三万九千七百戸あったんですけれども、二〇一〇年には五万七千二百戸まで減りました。輸入自由化後、生き残りのために品質改良の努力をしてきたけれども、それでも離農は止められない。農家戸数が半減しています。
 政府は、温州ミカンと輸入オレンジは差別化が図られている、国産ミカンの果汁は品質が高いから影響ないんだと言うと。しかし、ミカンにしてもオレンジにしても果汁にしても、結局これ、六年後には関税が撤廃されるわけですよ。輸入オレンジがこれまで以上に入ってくれば、国産ミカンの果汁の価格も下落して離農が進みかねない。
 ミカンは、苗木を植えてから実がなるまでの間は五、六年たつわけですけれども、六年目に関税撤廃に、なくなると言われたら、これ続けるかどうかためらうというふうに言っているんですね。ミカンというのは愛媛の基幹産業ですよ。TPPで関税が撤廃されれば更に影響を受けて、地域経済や地域雇用を壊すことになるんじゃないでしょうか。総理、いかがでしょうか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 関税撤廃が原則という中において、TPP交渉の中で、国産ミカンと同じかんきつ類であるオレンジについては、国産ミカンが最も出回る時期である十二月から三月に適用されている三二%の関税について、即時撤廃を回避をしまして、段階的に削減した上で八年目に撤廃をすることとされました。その上で、関税削減期間中に輸入量が一定量を超えて増加した場合は関税を引き上げるセーフガード措置も獲得しました。
 加えて、国産ミカンは、食味や食べやすさが輸入オレンジとこれは異なるわけでございまして、ミカンはすっとむけるんですよ、これ。なかなかオレンジは大変ですからね。差別化が図られていることから、TPPによる国産ミカンへの影響は限定的と見込んでいるわけであります。
 事実、今なぜ私がそういうことを申し上げたかというと、事実、平成三年のオレンジの輸入自由化の際に国内ミカン生産が壊滅するのではないかと、こう言われておりましたが、そのようなことはなくて、現在でも高品質なミカンの生産は続いているわけでございまして、こたつに入りながら食べるのはやっぱりミカンだなということでもあろうと、こうも思うわけでありますが。
 他方、関税撤廃によって長期的には国産ミカンについて価格の下落も懸念されることから、総合的なTPP関連政策大綱に基づいて、高品質な果実の安定生産を可能にする生産システムや生産コスト削減につながる高性能な共同利用機械の導入、外食業者や加工業者による国産ミカンを活用した新商品の開発等を支援していくこととしておりまして、今回の補正予算にも必要な経費を計上したところでありまして、引き続きこれらの対策を着実に実施をしまして、ミカン農家が安心して営農を継続できるように万全を期していく考えでございます。

○紙智子君 ミカン農家の方はそんな安閑としていませんよ。本当に必死の思いで、どれだけ大変な思いをしてきたか、今まで、WTO以降もですね。そして、それを一生懸命生き残って、必死の努力続けて今まできたわけですよ。その努力というのは本当に大変なものだということを私は思いましたよ。そういう中で、今、先祖から受け継いだその土地を自分の代で切らすわけにいかないという、涙ながらにそういう話を訴えられたんですよ。そういう気持ちを本当に分かっているのかということを言いたいと思いますよ。それで、どこを歩いても、農業は日本の宝だと、農業を目指す若い人たちの希望が本当に生かされるように、誇りを汚さないようにしなければいけないと私は訴えたいと思いますよ。
 最後になりますけれども、各地、農業地域を歩きますと、農政に対する批判が出されますよ。一つはTPP、もう一つは規制改革推進会議への批判です。
 安倍総理はかねてから、日本を世界で一番企業が活躍しやすい国にする、そのために、その障害となる岩盤規制を自分がドリルになって破壊すると言ってきた。そのために、農業改革、農政改革について、現場からは、改革といいながら、狙いは農協潰しなんじゃないのか、地域の助け合いの役割まで壊そうというのか、協同組合が自主改革への議論を進めているのに何で部外者から横やりを入れられなければならないのか理解できないと、こういう声が出されているのを、総理、どう思いますか。

○国務大臣(農林水産大臣 山本有二君) 規制改革推進会議、これにつきましては、この間、十一月に意見が取りまとめられまして、全農等とも合意の上で今後の農政の展開方法を農業競争力強化プログラムとして取りまとめることができました。引き続き、農協の自己改革あるいは生乳流通の改革、こういった意欲を受け止めて、今後、JAグループと一緒になって更なる生産者の所得向上に努めてまいりたいというように思っております。

○紙智子君 安倍総理、お答えになっていないんですけれども。
 安倍総理は、改革推進会議に出席して、それで、そういう意見が出ているということに対して、私が責任を持って実行するというふうに言ったら、農家の人たちは一層不安になるんじゃないですか。農業者のためと言うけれども、本当は企業が活躍しやすい国づくりのために農政改革をやろうとしていると。全農や農協は単協や農業者を組合員として、自主的な組織なわけですけれども、協同組合なわけですけれども、外からあれこれ指示するというのはこれは不当な介入だと、協同組合を理解していない異常な議論だと思いますよ。
 農政改革というのは、農業をアメリカの多国籍企業と農業の大企業のもうけの場にするTPPと一体の農業改悪だと。これは私は絶対許すわけにいかないと思います。一部の多国籍企業の利益のために国民を不幸にするようなTPPの推進には断固反対を表明して、質問を終わります。