<第190回国会 2016年3月7日 予算委員会>


TPP協定には農林水産物の重要5品目の「除外」なし/政府試算でたらめ/国会決議違反は明白

○平成2016年度一般会計予算(内閣提出、衆議院送付)
○平成2016年度特別会計予算(内閣提出、衆議院送付)
○平成2016年度政府関係機関予算(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 TPP協定の署名が二月五日に行われました。政府は、明日にもこの協定と関係法案を提出しようとしております。TPP協定には全面的な関税撤廃に進んでいく仕組みが入っておりますから、これは、私たちは認めることはできません。断固反対です。
 TPPは、農業だけではなく地域経済、雇用、医療・保険、食の安全、知的財産権など、国民の生活、営業に密接に関わる分野で日本の国民の利益と経済主権をアメリカや多国籍企業に売り渡すものです。しかも、秘密交渉ですから、交渉内容も分からず、国民に様々な不安の声が上がっています。
 私たちは、TPP対策本部をつくり、北は北海道から南は九州まで調査をしてきました。全品目で九五%、農林水産物で八一%、重要品目でも三〇%も関税を撤廃するもので、これは国会決議違反である、あるいは国会決議との整合性が図られていないと怒りの声が上がっています。
 そこで、総理にお聞きいたします。
 安倍総理は、施政方針演説で、「TPPによって農業を続けることができなくなるのではないか、多くの農家の皆さんが不安を抱いておられます。」と述べながら、「二年半にわたる粘り強い交渉によって、国益にかなう最善の結果を得ることができました。」と述べました。しかし、農家の不安を払拭して国益にかなう最善の結果になったのでしょうか。
 まず、このパネルを見ていただきたいんですけれども、(資料提示)協定内容についてお聞きします。
 これは国会決議の抜粋ですけれども、この線を引いたところを御覧ください。「米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などの農林水産物の重要品目について、引き続き再生産可能となるよう除外又は再協議の対象とすること。十年を超える期間をかけた段階的な関税撤廃も含め認めないこと。」というふうになっているわけです。
 これ、例外ではないんですね、例外ではなく除外と、決議は除外となっているわけですけれども、除外はできたんでしょうか。

TPP決議文

○内閣総理大臣(安倍晋三君) TPP交渉においては、厳しい交渉の結果、重要五品目を中心に、農林水産品の約二割について関税撤廃の例外を確保したわけであります。さらに、関税割当てやセーフガード等の有効な措置を獲得しました。国益にかなう最善の交渉結果が得られたと考えています。
 昨年十一月には、総合的なTPP関連政策大綱を取りまとめました。意欲ある農業者の不安を払拭し、希望を持って経営に取り組むことができるようにすることで確実に再生産可能となるよう、引き続き、交渉で獲得した措置と併せて万全の措置を講じてまいります。
 交渉結果が国会決議にかなうかどうかは、最終的には国会で御審議いただくことになると思いますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えております。

○紙智子君 例外と言いましたけれども、除外できたんですかとお聞きしたんです。もう一度お答えください。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)石原伸晃君) 除外という言葉、区分はTPP協定にはないということは紙委員も御承知のことだと思います。
 平成二十五年二月の日米首脳によります共同声明では、TPP交渉に参加する場合は全ての物品が交渉の対象とされる、すなわち、日本の米もアメリカのピックアップトラック等々も入るわけでございます。その際、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないということが確認されましたので、我が国はTPP交渉に参加したと。その上で、全ての物品を交渉のテーブルの上にのせて、先ほど総理が御答弁されましたように、交渉が行われ、政府としては、今委員が御質問のところにございます国会決議等を踏まえぎりぎりの交渉を行ってまいったと。
 TPP協定においては、関税に係る約束について除外というものはございませんが、その一方で、別段の定めということにより関税撤廃の例外を設ける措置は協定上認められている。ですから、委員が御指摘されましたように、農作物においては二割、全体では五%を例外として関税撤廃から排除することに成功したということで、国益にかなった決断ができたと総理が御答弁をしたのでございます。

○紙智子君 今、明確に除外はないと言いましたよね。重大な問題ですよ。国会決議の重みも何と捉えているのかという話ですよ。
 それで、除外というのはどういう意味かということなんですけれども、次のパネルを御覧ください。
 これは日豪EPAの協定文書です。これ全部じゃない、抜粋ですけれども、これには除外規定があるわけですね。
 それで、附属書のところを見てください。赤線のところです。(v)、表の四欄に「X」を掲げた品目に分類される原産品は、(a)から(u)までに規定する関税に係る約束の対象から除外されると。これ、除外がされるという規定があるわけですよ。そして、その下のところに、Xは除外ですから、Xは何かといったら米ですよね。米は除外と。これ、日豪のEPAのものですよ。
 その下、御覧ください。日本がこれまで結んだEPAの各国との除外規定がどうかということを調べました。そうしたら、これ、シンガポールは書き方は違うんですけれども、シンガポールから含めて、メキシコ、マレーシア、ずっと、これは除外規定がちゃんとあるんですよ。ありと書いてあります。しかも、主な除外品目というのは、いわゆるTPPで言っているところの重要品目五品目、米麦それから牛肉、豚肉、砂糖、でん粉など、これらは含まれているんですね。ですから、除外規定がある。ところが、TPPにはないということですよね。もう一回お答えください。

オーストラリアとの協定

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)石原伸晃君) 先ほど、二十五年二月の日米首脳によります共同声明を説明させていただきました。
 TPPというのはそもそも例外なき関税撤廃ということが大原則である、しかし、例外なき関税撤廃ということであるならば私どもはこの交渉に入ることはできない、そういう中で日米の両首脳が、テーブルにはのせます、ただ両国とも互いにセンシティブなものがあるということを確認して、例外として日本の場合は重要五品目の国家貿易制度あるいはセーフガードの創設等々の成果を勝ち得たわけでございます。
 そんな中で委員の御指摘は、そうならば、EPAの中には除外というものがあるけれども、じゃ、国会決議違反ではないかということをお尋ねになられているんだと思いますけれども、くどいようですけれども、全ての物品を交渉のテーブルにのせて交渉が行われた、政府としては国会決議等を踏まえぎりぎりの交渉を行ってきた、その結果、協定上認められている別段の定めにより関税撤廃の例外を設ける措置を確保し、その結果、重要五品目を中心に関税撤廃の例外をしっかりと確保いたしました。したがって、交渉に入る際に全ての物品を交渉のテーブルにのせたことが、そのもの自体が委員が今御指摘されております国会の決議違反になるとは考えておりません。

○紙智子君 総理、例外、しっかり例外と言いましたけど、しっかりしていようがしていまいが、例外と除外は違うんですよ。例外というのは関税の見直しの対象になるけれども、除外というのは見直しの対象からは外れるんですよ。国会決議に例外というふうには書いていないわけです。政府は国会決議を後ろ盾にTPP交渉をやってきたと言っています。そもそも除外をしてほしいということを要求したんですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) これは、言わば除外というこの言葉が、例えば十二か国の中で定義としてこれはあるわけではそもそもございません。
 我々としては、先ほど来、石原大臣が答弁をしているように、TPP協定では、関税に係る約束について除外という区分は持ち合わせておりませんが、協定上認められている別段の定めとして、我が国の関税率表において関税撤廃以外の内容を定めることによって関税撤廃の例外措置をこれは確保しているわけでありますから、関税撤廃の軌道に乗ることはない、つまり軌道に乗っているものからはもうそれは外されているということでありまして、そこに乗ることはないということは申し上げておきたいと思います。

○紙智子君 今聞いたことは、要求したのかと聞いたんですよ。今の話だと、最初からテーブルにのっていると。ということは、最初から除外してほしいということをおっしゃっていないということですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 交渉の中身についてはこれは申し上げることはできませんが、これはそれぞれの国々の交渉においては、中身については申し上げることができないという中においてこれは交渉をしているわけでございますので、この場において申し上げることは差し控えさせていただきたいと、このように思いますが、しかし、今申し上げましたように、この関税撤廃のもうレールにはこれ乗っていかない、そこから外したということについてはこれは間違いないと、こう思う次第でございまして、私どもといたしましては国会決議に沿うものであると、このように考えております。

○紙智子君 ちょっとおかしいですよね。テーブルに今はのっていない、ということは最初から要求しなかった、しかし国会決議は守っているって、おかしいじゃないですか。国会決議は除外と書いてあるわけですよ。これは本当にちぐはぐですよ。しかも、交渉内容については触れられないと言ったけど、もう原則じゃないですか。国会決議に書いてあることを後ろ盾にして交渉したと言う以上は、そこのところは交渉内容は言えませんなんというのは、本当におかしい話ですよ。
 それで、ちょっともう一つパネルを見てほしいんですけれども、これTPPの、下の方ですね、TPPの文書、協定文書が下の方です。
 第二の四条のところ、赤線のところを見てください。ここでは、まず一のところに、線のところだけ言いますけれども、「現行の関税を引き上げ、又は新たな関税を採用してはならない。」。二番目のところには、「漸進的に関税を撤廃する。」と。この一、二のところで、引き上げちゃ駄目、撤廃するという仕組みがここに書いているわけですよ。そして、三のところでは、「関税の撤廃時期の繰上げについて検討するため、協議する。」。つまり、繰り上げるということは加速するということですよね。こういう仕組みが入っているのがTPP協定の中身なわけですよ。
 これ、安倍総理、TPPは最初から野心的だからテーブルの上に全部のせなきゃいけない、野心的な協定だからそもそも除外が盛り込めなかったということなんですよね。確認します。

除外規定の仮訳文

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)石原伸晃君) この議論はかなり衆議院でもさせていただいたんであるわけですけれども、除外という区分はないんです。それがないというんであることがけしからぬというのであるならば、交渉には入らないということになってしまいます。しかし、日米の首脳の間で確固たる確約を取ったわけであります。くどいようでございますけれども、全ての物品が交渉の対象である、そしてTPP交渉参加に際しまして一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではない、すなわち例外なき関税撤廃ということを求めるものではない。
 そんな中で、これは総理が既に御答弁をいただいておりますけれども、TPP協定上別段の定めがある場合を除くことが認められており、我が国においては、交渉の結果、関税率表に重要五品目を含む多くの産品に関する関税撤廃の例外措置を確保したわけでございます。したがって、いずれ関税撤廃される、今委員が御指摘された関税撤廃されるじゃないかということという御指摘は当たらないというふうに私どもは解釈をさせていただいているわけでございます。

○紙智子君 例外を繰り返し言われる。別段の定めがあるのを除いてはと言って、だから例外確保できたというふうに説明をされるわけですけれども、やっぱり除外とは違う、国会決議に反していると。
 総理、この除外規定がないということは、全て関税に関して見直しの対象になるということですよ。今まで日本が結んだEPAよりも、WTO農業協定よりも、後戻りのできない関税撤廃に突き進む協定だということがあります。これ明らかに国会決議違反ではありませんか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)石原伸晃君) 本当にくどいようでございますけれども、原則的に関税を全て撤廃してしまうというような交渉には我々も入らない、そこは一緒だと思っています。委員は、その除外という言葉がTPP協定にないのがけしからぬ、国会決議にあるじゃないかという御指摘だと思うんですけれども、本当にくどいようなんですけれども、この協定の別段の定めがある場合を除くとしっかりとしてあって、例外措置を確保して、我々はこの重要五品目については再協議にも応じないわけであります。除いて、応じないわけでございます。ですから、それをしっかり守ったということにおいては主張は一緒なのではないかと思っております。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 再協議はこれはありますが、しかし、協議をしても、この合意というのは全体のこれはバランスで成り立っているわけであります。この全体のバランスの中で既に我々は合意をしているわけでありますから、言わば再協議をしても日本の国益を害するものについては合意はしないということは明確に申し上げたいと思います。

○紙智子君 幾らそういうふうに言っても、米国は何て言っているか。米通商代表部、去年の十二月ですけれども、管轄下にある、この米通商代表部ですね、貿易のための農業政策諮問委員会というのがあります。ここの報告の中では、我々はどの物品も除外されなかったことに留意し、TPPの適用範囲を称賛すると喜びの声を上げているわけですね。
 日本は結局、私ども共産党は、最初から原則は、これはもう例外なき関税撤廃だと、だから入るべきでないとずっと言ってきたわけですよ。途中まで自民党は、選挙公約でも例外なき関税撤廃が前提だったら入らない、反対だと言っていたけれども、例外が認められると。ここで例外というふうに言い方を変えて言ったけれども、決議に照らして見るならばこれは除外なんですよ、あくまでも。それにやっぱり違反しているということを言わざるを得ないと思います。
 それで、農産品で八一%が関税撤廃、必ず守ると言ってきた農産品重要五品目も、五百八十六品目ありますが、その中の百七十四品目、三割も関税撤廃ですよ。そのほかにも野菜や果物など、ほとんどが関税撤廃ということが大きな衝撃を与えているわけです。政府が幾ら例外を確保したと言っても、JA、農協組合長のアンケートでも九二%が決議は守られていないと答えているし、今年二月に開かれたJAの全国青年大会の特別決議では、国会決議実現とは程遠く、到底納得いかないと、こういうふうに言っているわけですよ。この声を受け止めるべきだと思います。
 次に移ります。
 影響試算についてお聞きします。
 アメリカは二月五日の署名から百日掛けて影響試算を出すそうですけれども、日本は署名する前に、まだ文書も出ていないうちから、農林水産物についての影響試算を出しました。農林水産省が行った試算は、全国の農林水産業者を唖然とさせています。
 政府は、関税削減等の影響で価格低下による生産額の減少が生じるものの、中略して、農家所得が確保され、国内生産が維持されるものと見込むとしています。政府は、三年前の二〇一三年のときに出したものでいうと、試算は三兆円の農林水産物の生産減少額が出されていたわけですね。ところが今回、千三百億円から二千百億円と大幅に縮小しているわけですよ。
 価格は下がって生産額も減るのに、農家の所得は一応あるんだと、生産量は維持されるんだというふうに説明しているんですね。食料自給率への影響も変化ないと。これ全く分からないですよ。どうしてこんなに違うんですか。

○政府参考人(農林水産大臣官房総括審議官 佐藤速水君) お答え申し上げます。
 前回の平成二十五年三月の統一試算では、全ての関税が即時撤廃され、追加的な国内対策も行わない、輸入品と競合する国産品は原則輸入品に置き換わるという極めて単純化した前提を置いて、その結果といたしまして、農林水産物の生産額が三兆円程度減少するというふうに試算を行ったところでございます。
 今回のTPP交渉の結果では、重要五品目を中心に関税撤廃の例外等を措置したところでございます。また加えて、政策大綱に基づき、体質強化対策等を講じることとしたところでございます。
 このようなことを踏まえまして、今後、国内対策によりまして、生産コストの低減、品質向上による輸入品との差別化、収益性の向上等が図られると、結果として、意欲ある農林漁業者の再生産が確保されて国内生産量が維持されるということで、減少額を千三百億円から二千百億円というふうに試算したところでございます。

○紙智子君 前回は撤廃するということを前提だったけれども、今回は例外が認められたと言うんですよね。そして、対策を取るからだと言うんですよね。
 それで、ちょっと具体的に見てみます。
 これは十九品目の農林水産省の試算から作った表ですけれども、農業産出額は八兆五千七百四十八億円。その黄色い帯のところを見てください。これは、十九品目の産出額の合計が約五兆八百七十三億円。これについてはゼロ%、生産量減少率がゼロ%だと。そして、その下の十九品目以外の産出額の合計が三兆四千八百七十五億円ということですけれども、この十九品目のところはその減少額が八百七十八億円から千五百十六億円というふうになっているわけです。
 それで、ちょっと一番上のところの、表の上を見て、米のところありますね、米のところは農業産出額は一兆七千八百六十四億円と。それで、米はこの後、別枠で七万トン以上の米が入ってくるのに、実際にこの生産減少額はゼロ億円ですよ。それで、生産量の減少率はゼロ%だと。
 もう少し下にあります牛肉見てください。六千五百二十四億円が産出額ということなんですけれども、これについても、関税率を三八・五%から九%まで下げていくということがはっきりしているわけですけれども、それにもかかわらず、生産減少額は三百十一億円から六百二十五億円と。これ、二年前の試算のときには三千六百億円の減少というふうに言っていたわけですよ。しかも、この生産量の減少率ゼロでしょう。
 これは一体何なんだと。現場の皆さんにとっては本当に驚きでいっぱいなわけです。いかがですか。

農産物品目の生産減少額表

○政府参考人(農林水産大臣官房総括審議官 佐藤速水君) 牛肉につきましては……(発言する者あり)

○委員長(岸宏一君) 傍聴席の方も静かにしてください。

○政府参考人(農林水産大臣官房総括審議官 佐藤速水君) 牛肉のうち、今回のTPPの結果を受けまして、輸入品と競合する部分と競合しない部分とに分けて検討いたしました。このうち、ホルスタイン由来のものあるいは交雑種については競合するということで、ここの部分の価格下げは大きく見込んでおるところでございますが、それ以外のものについては競合しないということで、価格の影響は一定程度受けるものの、生産量につきましては、今後対策を講じていくことによる生産性向上、輸入品との差別化等により減少しないと、かように見込んだところでございます。

○紙智子君 農水大臣、ありますか。──いいですか。
 そういうことも答えられないのかなと思いますけれども、そんな説明だから納得できないし、みんなが不信感を抱くんですよ。
 試算の方法を見ますと、全ての農林水産物を対象としたものではないわけです。試算対象品目は、関税率一〇%以上かつ国内生産額で十億円以上の品目である十九品目の農産物、それから、これパネルには入れていませんけれども、十四品目の林水産物に限定しているわけです。なぜ限定して試算したんですか。

○政府参考人(農林水産大臣官房総括審議官 佐藤速水君) 今回の試算につきましては、平成二十五年三月時点での試算とも比較ができるようにするために、前回と同様に関税率一〇%以上かつ国内生産額十億円以上の合計三十三品目を試算対象といたしたところでございます。
 関税率が低い農産物につきましては、為替の影響も大きく、また、十月に行いました定性分析におきまして、関税撤廃の影響は限定的又は見込み難いというふうに見通したことから、今回試算の対象とはしていないところでございます。

○紙智子君 総理は、こういう本当にいいかげんな試算をお認めになったんですか。総理は、多くの農家の皆さんが不安を抱いておられるというふうに認識を語られたわけですけれども、それであったら、たった十九品目の農産物、それから十四品目の林水産物だけの試算では少な過ぎると思われませんか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 先ほど審議官から答弁をさせていただきましたように、平成二十三年ですか、と比較できる、まあ平成二十三年は我が党が与党のときではございませんが、そのときと、そのときに取ったものと比較できるように同じものを取った。他方、それ以外のものについては影響が小さかったという説明をさせていただいたわけでございますが、納得していただけるのではないかと、このように思います。

○紙智子君 全然納得できません。
 農林水産大臣にお聞きしますけれども、これまでさんざん政府が守る守ると言ってきた農産品の重要五品目も三割が関税撤廃になっていますけれども、どういうものが撤廃になりましたか、具体的に言ってください。(発言する者あり)

○国務大臣(森山裕君) 輸入額が非常に小さいもの、あるいは国産農産品との代替性が低いもの、関税撤廃がかえって生産者のメリットになるものということであろうと思いますが、例えば牛タンとか、生きた豚といいますか品種改良等に使う豚は関税の撤廃がかえって生産者のメリットになるというふうに思っております。
 それから、輸入金額が小さいものというのは、カッサバ芋とかあるいは非処理をされたヨーグルトとか、そういうものであろうと思います。

○紙智子君 調製品だとか加工品なんかも入っているんじゃないですか。いかがですか。

○委員長(岸宏一君) まず、総括審議官に答えてもらいます。総括審議官、まず答えて。

○政府参考人(佐藤速水君) 今回の交渉におきまして重要品目五百九十四ラインございますが、撤廃することといたしましたのは百七十四ラインでございます。このうち調製品につきましては……(発言する者あり)入っていると記憶しておりますが、ちょっと確認をいたします。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 今回の農林水産物の試算につきましては、基本的に一次産品に着目した試算となっておりますが、しかしながら、トマトの加工品とか乳製品、水産物の缶詰等につきましては、国産原料を利用した加工品、調製品が比較的多く流通をしておりますので、輸入加工品との競合関係があることから、その影響についても含めて生産額の試算を行ったところでございます。(発言する者あり)いや、だから、今申し上げたとおり、国産原料を利用した加工品、調製品が比較的多く流通しているということでございますので、試算をしたということでございます。

○紙智子君 重要五品目の中の撤廃、三割撤廃した部分のほとんどは調製品ですよ。本当に輸入実績が少ない、影響が少ないと言えるのでしょうか。
 私は輸入実績を調べてみました。牛肉の調製品等が約五十八万トン、牛肉の輸入量が七十三万トンです。豚肉の調製品等は約八十五万トン、豚肉の輸入量は約百二十万トンですよ。影響すると考えるのが当たり前じゃないでしょうか。なぜこれを影響試算に入れていないのか、入っていないんですか、まず。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) 例えば、ハム、ソーセージにつきましては、国産品の主な原料が輸入の冷凍豚肉であることから今回の試算には含まれておりませんが、先ほど申し上げましたとおり、トマトの加工品とか乳製品とか水産物の缶詰等につきましては、国産原料を利用した加工品、調製品が比較的多く流通をしておることから試算を行っているということでございます。

○紙智子君 試算の中に入れているのかと聞いたんです。

○政府参考人(農林水産大臣官房総括審議官 佐藤速水君) お答え申し上げます。
 ただいま森山大臣が答弁いたしましたトマト加工品、乳製品、水産物の缶詰等につきましては、今回の試算に含めております。

○紙智子君 入れてないんですよ、結局、試算に調製品は。今言ったところだけですよ、入れているのは。
 それで、加熱したり衣を付けたものは調製品になるわけです。例えば豚肉に衣を付けて輸入すれば豚カツですけれども、これ調製品です。合意内容を見ていきますと、豚カツの関税は二〇%から〇%に撤廃されます。安い豚カツが入ってきたら、国産の豚肉が輸入される調製品に置き換わると、国産に打撃を与えることになります。
 私、横浜の検疫所に行ってきましたけれども、輸入食品で衣を付けた調製品が入ってきているのを見ました。これがもっと大量に入ってくることになれば、それこそ、国産の原材料を加工したり商品価値を付けたり、ほかの分野と連携して販売を進めていく六次産業化に取り組もうと頑張っているところにも影響を与えることになるんですよ。
 だから、影響は小さいどころか大きな影響を与えると。調製品も含めてこれ全部試算を出すべきだと思いますけれども、総理、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) この三十三品目を対象として影響評価を行ったのは、TPP協定の経済効果分析において、農林水産物については関税など国境措置が撤廃された場合に国内生産への影響が大きいと考えられるものとして行ったのでございます。
 具体的には、関税率が一〇%以上で、かつ国内生産額が十億円以上である三十三品目について生産額への影響評価を行ったところでありますが、これはTPP交渉前の平成二十五年三月の試算と同じ考え方に基づくものであり、比較可能性の観点から見ても妥当なものと考えておりますし、また三十三品目以外の品目は、関税率が元々低かったり用途が限定的で輸入品との競合が少なかったりするものであります。
 昨年十一月に行われた定性的な分析においても、特段の影響は見込み難い、又は影響が限定的と見込まれると評価されているわけでございまして、このため、三十三品目を対象として試算を行ったことが恣意的で実態に合わないとの御指摘は当たらないと考えております。

○紙智子君 影響は低くないです。それで、やっぱりちゃんとこれを全部試算に入れるべきだと、そうじゃなかったら納得できないということですよ。
 もう一つ、ちょっと表の下の方を見てほしいんですけれども、これはJA長野中央会が試算した十九品目以外の生産減少額の一部です。
 そこに品目あるように、全部これ合計しますと産出額は五百三十七億二千二百万円ということになっていて、中央会が試算したやつは減少の影響は七十四億九千万円と。その黄色いラインのところを見てほしいんですけど、ブドウ、ブドウは季節ごとに関税が違うんですけど、これは即時撤廃ですよ。そうしたら、産出額は今百四十五億九千五百万円だけれども、影響額で減少は三十九億二千六百万円ですよ。非常に大きい、一つの県だけでもこれだけ大きな影響があるのに、これは国の試算には全く反映されていないわけですよ。
 こういうのも含めてやっぱりちゃんと反映させるべきじゃないですか。

○国務大臣(農林水産大臣 森山裕君) JA長野グループが長野県の農林水産業に及ぼす影響額を公表したことは承知をしております。このような試算は、前提条件、分析手法やデータの取り方等によって結果は変わり得るものであると考えております。
 例えば果樹について、生果、果汁にかかわらず、関税撤廃による価格低下、生産量の減少が生じ、約三割から四割生産が減少しているとしておりますが、これらの点については、国産品と外国産品の品質格差などの流通実態が十分考慮されていない面があるのではないかと考えております。
 いずれにしても、今後とも各地域に対して合意内容を丁寧に説明を申し上げて、政策大綱に基づく万全の措置を講ずることにより、農林水産業者の不安や懸念を解消することに努力をしてまいりたいと思います。
 また、先生御指摘の長野県においてもブドウについて試算をしておりますが、県産品と輸入品は品質格差が大きく、現状でも二倍から十五倍の価格差があっても県産品への需要が強いことから、輸入品とは競合せず、生産減少額は約四億円と試算をしているところであります。

○紙智子君 とにかく、政府のやった試算を信用していないですよ。何よりも、十九品目についても政府の言うことを丸ごと信じることはできないと、自治体で今自分たちで次々と計算していますよ。それで……

○委員長(岸宏一君) 時間ですから、簡潔にまとめてください。

○紙智子君 明日は、そういう意味では、TPPの関連法案などを閣議決定するということ自身がこんなでたらめの計算やったままでやることは許されないと、これはもう是非中止していただきたいということを強く申し上げて、質問を終わらせていただきます。