<第190回国会 2016年1月20日 本会議>


消費税、社会保障に回らず/被災者が第1の復興予算に/TPP・全交渉文書の公表を

○国務大臣の報告に関する件(平成二十六年度決算の概要について)

○紙智子君 日本共産党の紙智子です。
 日本共産党を代表して、二〇一四年度決算について質問いたします。
 二〇一四年度予算の特徴は、消費税率を五%から八%へ三%引き上げたことです。二〇一四年度決算の税収は、消費税が十六兆二百八十九億円と、前年度から一・五倍に増えています。歳出では、防衛費が五・六%増と突出しました。
 政府は、消費税の増税分は全額社会保障に充てると宣伝してきましたが、社会保障は充実するどころか、年金の減額、七十から七十四歳の医療費の窓口負担の引上げ、介護報酬の削減、生活保護の減額など、社会保障の改悪が行われました。決算を見れば社会保障関係費にほとんど活用されなかったことは明瞭です。総理の見解を求めます。
 アベノミクスは大企業と一部の富裕層には恩恵がもたらされましたが、国民の暮らしと営業は恩恵どころか悪化し、さらに消費税の増税が追い打ちを掛けました。大企業は二〇一三年度、二〇一四年度と二年連続で史上最高の利益を更新しましたが、労働者の平均賃金は横ばいで、物価上昇を差し引いた実質賃金は落ち込んだままです。アベノミクスの円安誘導によって、輸入物価、原材料価格は上昇し、国民生活と中小企業の経営、農業の経営を窮地に追い込みました。内閣府が発表したミニ経済白書は、二〇一四年四月に消費税率を上げてから個人消費は低迷している、増税に伴う物価上昇が実質所得を減少させ、消費を一兆円弱押し下げたと述べました。
 総理、アベノミクスと消費税の増税が景気を悪化させ貧困と格差を拡大したことを認めるべきではありませんか。答弁を求めます。
 それなのに、総理、あなたは消費税を一〇%に引き上げようとしています。暮らしと営業に大打撃を与える消費税一〇%への増税は中止すべきです。答弁を求めます。
 私たち日本共産党は、消費税増税に反対するとともに、応能負担の原則に立った税制改革、大企業の内部留保の一部を活用して、賃上げを始め国民の所得を増やす抜本的な改革など、消費税に頼らないで社会保障の財源を確保し、財政危機の打開に踏み出す別の道を提案するものです。
 今年は、東日本大震災、福島原発事故から五年目を迎えます。被災者が第一の復興が求められています。
 二〇一四年度の東日本大震災復旧復興財源の大きな特徴は、消費税を増税した四月一日に復興特別法人税を廃止したことです。国民には、復興特別所得税として二十五年間、住民税は十年間の上乗せ負担を求めました。企業に求めた復興特別法人税は一年前倒しで廃止し、しかも、その穴埋めに国民の税金を充てました。消費税の増税が被災地の復興にも大きな影響を与えているのに、歳出を見れば、復旧復興とは関係のない防衛省の武器車両整備費など、温存されたままです。
 予算は、被災者が第一の復興に充てるべきです。特に、最も要望の強い医療、介護の負担減免措置を復活させるべきではありませんか。答弁を求めます。
 被災地では今でも十八万人が避難生活を余儀なくされ、災害関連死は三千四百七人に達しています。住まいは今も深刻で、宮城ではまだ五万人が仮設住宅に入居し、六千世帯の行き場所が決まっておりません。岩手県では、災害公営住宅の整備は四三・四%です。商店街の再建に向けて、仮設店舗から本店舗への支援、グループ補助の充実、拡充、小規模事業者への支援などが求められています。
 政府は、五年間の集中復興期間を終了し、被災自治体の自立を求めるとして、来年度から復興事業費の一部を自治体に負担させると言います。これでは進みかけた復興のブレーキになるのではありませんか。答弁を求めます。
 福島原発事故は、住民に苦難を与え、放射能汚染による安全性への脅威は地域経済に深刻な影響を与えています。政府は、福島復興指針を改訂し、福島県内の避難指示区域のうち、放射線量が高い帰還困難区域を除く地域の避難指示をあと一年後に解除する方針です。避難者や事業者の賠償並びに自主避難者を含む仮設住宅の提供が打ち切られます。
 福島を切り捨てるのはやめて、原発事故の被害に対して全ての被災者の暮らしとなりわいを取り戻すまで国と東電の責任を果たすように強く求めるものです。
 TPPについて質問します。
 二〇一三年三月、安倍総理は、環太平洋経済連携協定、TPP交渉に参加すると表明しました。二〇一四年は、国民には情報を示さず、専ら秘密協議に明け暮れました。二〇一五年十月、TPP大筋合意を発表しましたが、農林水産物全体で八割が関税撤廃であり、聖域として断固守るとしてきた重要五品目も三割が関税撤廃です。分かっている内容でも驚くべき公約違反、国会決議違反です。
 一月四日付けの日本農業新聞のJA組合長アンケートでは、国会決議は守られていないと答えたのは九一・六%です。総理は国会決議に違反していることを認めるべきではありませんか。答弁を求めます。
 TPP関係文書は、英語、フランス語、スペイン語で正文が作られますが、なぜ日本語は作られていないのですか。TPPは、日本の国の形を変え、農業、地域に重大な影響を与えます。しかも、TPP加盟国の中で日本は人口も多く、経済規模も大きいにもかかわらず、正文が作られないのは納得できません。なぜ日本語の正文を求めなかったのですか。答弁を求めます。
 総理、国民との約束は守った、国会決議を守ったなどと胸を張って語りましたが、そんな抽象的な説明では何の説得力もありません。農家はもちろん、多くの市民団体や学者、私たち野党議員が出している懸念に答えるべきです。我が党も再三求め、やっと先々週、協定文書、日米の交換文書の暫定仮訳は出されましたが、附属書は出ていません。附属書を含め、全ての交渉文書を公表すべきではありませんか。
 TPPの影響試算について聞きます。
 総理は、二〇一三年に出した試算と今回の試算が大幅に違っている理由を聞かれて、新たな成長軌道に乗ることでGDP十四兆円の拡大が見込まれる、農林水産物については品目ごとに十分精査し積み上げた数値だと答えましたが、これでは答えになっていません。誰も理解できません。なぜGDPが前回の試算から四倍も拡大するのか、農林水産関連への影響は三兆円の減少と言っていたのに、なぜ牛肉、豚肉、乳製品など三十三品目の生産額は一千三百億から二千百億円程度の減少にとどまるのか、具体的で明確な説明を求めます。
 政府は、影響を小さく見せるだけで、まともな検証も行わないまま国会を乗り切ろうとしています。しかし、分かっているだけでも多くの問題点が浮かび上がっています。国民の利益と経済主権をアメリカと多国籍企業に売り渡すTPPの本質が分かれば分かるほど反対世論が広がると確信しています。
 TPPはまだどの国も批准していません。アメリカも議会で承認されるのかも分かりません。日本が批准しなければ発効はしません。これからが正念場です。日本共産党は、徹底的にTPPの本質を国民に知らせ、批准を阻止するために力を尽くす決意を述べ、質問を終わります。(拍手)
   〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 紙智子議員にお答えいたします。
 消費税増税と社会保障についてお尋ねがありました。
 消費税率の引上げは、社会保障制度をしっかりと次世代に引き渡すとともに、国の信認を維持していくためのものであり、増収分は全額社会保障の充実、安定化に充てられます。
 平成二十六年度においては、消費税増収分を活用して、基礎年金国庫負担割合の二分の一への引上げや国民健康保険等における低所得者の保険料軽減の拡充、高額療養費制度の自己負担限度額の引下げ、そして難病対策の充実などを実施しました。
 以上のことから、消費税増収分が社会保障関係費にほとんど活用されなかったとの指摘は全く当たりません。
 アベノミクスと消費増税についてお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、三本の矢の政策によりデフレではないという状況をつくり出す中で、全ての都道府県において有効求人倍率が上昇するとともに税収も増加するなど、全国において明るい動きが見られています。また、特に雇用環境の改善に取り組んだ結果、就業者数は百十万人以上増え、正社員の有効求人倍率は昨年十一月に〇・七九倍と、平成十六年の調査開始以来最高となりました。働き盛りの五十五歳未満では、平成二十五年から十一四半期連続で非正規から正規に移動する方が正規から非正規になる方を上回っており、パートで働く方々の時給も二十二年間で最高の水準となるなど、大きく改善しています。
 一昨年の消費税率八%への引上げが消費に大きな影響を与えたのは事実でありますが、だからこそ我々は、一〇%への引上げを延期し、その間、三本の矢の政策を進めてまいりました。その結果、賃上げも順調に行われ、成長軌道に戻ってきています。
 また、今般の消費税率引上げによる増収分は全額社会保障の充実、安定化に充てることとしており、特に所得の低い方々に対しては、国民健康保険料等の保険料軽減の拡充等を講じています。安倍内閣の政策が貧困と格差を拡大させたとの御指摘は全く当たりません。
 消費税率引上げについてのお尋ねがありました。
 来年四月の消費税率一〇%への引上げは、世界に冠たる社会保障制度を次世代に引き渡す責任を果たすとともに、市場や国際社会からの国の信認を確保するため、リーマン・ショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り確実に実施します。経済の好循環を力強く回すことにより、そのための経済状況をつくり出してまいります。
 東日本大震災に係る復旧復興予算についてのお尋ねがありました。
 御指摘の復興特別法人税の前倒し廃止は、企業収益を賃上げにつなげるきっかけとするために行ったものです。復興財源は決算剰余金を活用して補填しており、復興には支障を生じさせておりません。また、御指摘の武器車両等整備費など全国向け事業については、平成二十四年十一月の復興推進会議において使途の厳格化が図られたところです。なお、医療保険や介護保険については、窓口負担や保険料を自治体が減免した場合にその費用については国が財政支援を行い、自治体の負担が過度にならないよう配慮しているところです。
 安倍内閣においては、引き続き、閣僚全員が復興大臣であるとの意識を共有し、被災者の方々の心に寄り添い、従来の発想にとらわれることなく、スピード感を持って全力で復興を加速してまいります。
 復興事業費への地元負担の導入についてのお尋ねがありました。
 二十八年度以降の復興については、一部の事業について自治体に御負担をお願いすることとしたところですが、御負担をいただくに当たっては、自治体の財政状況に十分配慮しているところであります。被災自治体におかれては、今後とも安心して復興に進んでいただきたいと考えています。
 福島原発事故への対応についてお尋ねがありました。
 ふるさとへ戻りたい、こうした被災者の方々の気持ちを大切にし、安心して戻れるふるさとを一日でも早く取り戻せるよう全力で取り組んでいます。
 仕事がなければふるさとへは戻れません。八千の事業者を対象に、官民で個々に訪問し、相談を受けて、実情に応じた支援を行っています。避難指示が解除された地域に戻られる方に対しては、災害公営住宅の整備等により住宅環境の確保をしっかり行ってまいります。安心して買物や医療・福祉サービスが受けられるよう、地域のニーズに応じたきめ細かな対応を行います。
 賠償の実施に当たっては、個々の被害者の方の状況をよく伺って丁寧な対応を行うよう、引き続き東京電力に対し指導してまいります。
 国会決議との関係についてお尋ねがありました。
 TPP交渉においては、重要五品目を中心に、関税撤廃の例外をしっかり確保し、関税割当てやセーフガード等の措置を獲得しました。昨年十一月、総合的TPP関連政策大綱を取りまとめ、緊急に実施すべき施策を補正予算に計上しました。重要品目が確実に再生産可能となるよう、交渉で獲得した措置と併せて、引き続き万全の措置を講じていきます。
 御指摘のアンケートは、農業者の不安を払拭するための対策の具体的内容が十分明らかでなかった段階で行われたものと承知しています。政策大綱をまとめる過程で現場の声を丁寧に伺い、それを大綱や補正予算に反映しており、かなり現場の理解も進んでいると考えています。
 交渉結果が国会決議にかなったものかどうかは最終的に国会で御審議いただくこととなりますが、政府としては、国会決議の趣旨に沿うものと評価していただけると考えております。
 日本語の正文についてお尋ねがありました。
 日本がTPP交渉に参加した時点で、既に英語のほか多数国間の通商関連条約で正文として採用されることが一般的なフランス語及びスペイン語のみを正文とすることが決まっていました。新たに日本語を正文として追加するよう交渉することは全く現実的ではありませんでした。日本語を正文としない条約については、国会提出に当たり日本語の訳文を作成、提出してきており、TPP協定についても同様の対応をする予定であります。
 TPP協定の仮訳の公表についてお尋ねがありました。
 TPP協定の内容については、大筋合意の直後から協定本体及び附属書の概要資料や関税交渉結果等を公表するとともに、国民への丁寧な説明に努めてきています。現在、協定条文の法的精査が続いており、最終的な条文は確定していませんが、法的精査が最終段階にある協定本体については、取り急ぎ暫定的な仮訳を作成し、先日公表しました。TPP協定の附属書については、法的精査の作業が協定本体よりも遅れていますが、和訳の作業は鋭意行っています。準備でき次第、公表したいと考えています。
 TPP協定の経済効果分析についてお尋ねがありました。
 平成二十五年の試算は、TPP参加予定国の関税が全て即時撤廃され、国内対策を講じないとの前提で、関税撤廃の効果のみを対象としていました。今回は、関税削減、撤廃の効果を交渉結果を踏まえて分析しました。農林水産物については、個別品目ごとに精査し積み上げた数値を組み入れました。その上で、TPPの合意内容が三十章に及ぶ広範なものであることを踏まえ、生産性向上や労働供給増の効果を含め、より包括的な分析を行いました。
 TPP協定はあくまで手段にすぎません。政策を総動員し、事業者や農林漁業者の積極的な行動を促し、最大限の経済効果を実現してまいります。