<第189回国会 2015年8月28日 本会議>


農協法、農業委員会法等/協同組合の原則を踏みにじる官邸主導の改悪/本会議反対討論

○農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業協同組合等の一部を改正する法律案の反対討論を行います。
 安倍総理は、強い農業をつくる、農家の所得を増やすために農業組織を変えると言われました。しかし、地方公聴会、参考人から出された意見は、不信感、疑問、不安ばかりで、与党推薦の参考人からも賛同する意見は出ませんでした。とりわけ、安倍総理は、農家の所得を増やす改革だと強弁しましたが、米価暴落、農産物価格の低迷に苦しむ農家は、所得が増える改革だとは誰も思っていません。
 私は、二〇〇一年から農水委員会に所属していますが、これほど賛成論が出ない改正案は初めてです。農家から見て異質な改正案は、一定時間審議したからといって納得を得ることはできません。農家を置き去りにした改正案を採択することに強く抗議するものです。
 以下、反対理由を述べます。
 反対する第一の理由は、自主自立が基本である協同組合の原則を踏みにじり、官邸主導の改革を押し付けるものだからです。協同組合は自主自立が基本です。農協組織を改革する必要があるなら、関係者の自主性に任せるべきです。
 質疑を通じて明らかになったことは、農業組織の要望から出た改革ではなく、財界、アメリカの要望に応えた改悪案だということです。地方公聴会、参考人質疑において、JA全中で自己改革案をまとめられたJA富山の会長は、改革先にありき、従来の改革とは全く違うと言いました。同じく、JA全中で自己改革案をまとめられたJA広島の会長は、だまし討ちに遭ったようだと発言しました。日本の農業を担う全国青年協議会の会長は、青年部の意見を聞かず、規制改革会議で勝手に進めてしまったため、不満とか不安が染み付いていると言いました。不信感、怒りは収まっていません。
 何のための改革なのか。それは、参考人にも指摘されたように、戦後民主主義を否定する安倍総理の戦後レジームからの脱却、世界で一番企業が活躍しやすい国にするための改革だということです。誰のための改革なのか。それは、農協金融の規制緩和を求めるアメリカと財界の強い要望に応えた官邸主導の改革だということです。
 今回の改正案に対して、国際協同組合同盟、ICA理事会は、脱協同組合化し株式会社にしようとしている、明らかに協同組合原則を侵害するものと懸念を表明し、必要な改革はJA自ら実施するよう対応を求めました。協同組合の育成に携わり、国際基準を策定している唯一の国際機関であるILO、国際労働機関は、各国政府に、協同組合の自治を尊重すること、自治的、自主管理の企業体である協同組合を政策的、法的に支援することを求めています。自主自立であるべき組織に国が過剰に介入することは、協同組合原則をないがしろにするものであり、断固容認できません。
 また、本改正案は、家族農業と地域を支える総合農協に企業の論理を持ち込み、営利企業化を進めるものとなっています。
 農協の目的から非営利規定を削除し、新たに、農業所得の増大、高い収益性を実現し、営利を追求することを求めています。また、組合の理事の過半数は、認定農業者や販売、経営のプロにすることを求めています。既に株式会社も認定農業者になれますので、企業支配が強まる可能性があります。加えて、農協、全農、経済連の株式会社化を促す規定を初めて導入しました。農協に対する全中監査を廃止し、新たに公認会計士監査、企業論理の監査を義務付けました。
 参考人質疑で、会社法の専門家は、この改正案は会社法に近づけたいという意図がすぐ読み取れると言われましたが、家族農業や地域の支えである協同組合を変質させ、株式会社に近づけるものと言わざるを得ません。
 准組合員の事業利用に規制を掛ける見直し規定も問題です。参考人からは、准組合員は、食と農の理解を広げてくれ、我々を応援してくれる存在だ、我々も今まで以上に恩返しをしなければならないとの意見が出されました。また、五年後の見直し規定の削除を求める強い要求も出されました。
 地域の銀行や商店、病院が減り、農産物の直売所、信用、共済事業、ガソリンスタンド、福祉事業など、農協は農村地域において総合的な業務を行っており、なくてはならない存在です。准組合員は農協経営や地域経済の支え手となっているのです。利用を規制すれば総合農協の経営は成り立ちません。財界や大企業が信用、共済事業をビジネスチャンスとして狙っています。規制先にありき、規制することを法律で縛るのではなく、協同組合の自主性に任せるべきです。
 反対する第二の理由は、農地の番人である農業委員会制度を骨抜きにするからです。
 政府は、農業委員選挙は無投票が多い、農業委員会の活動が評価されていないから公選制を廃止すると言います。しかし、根拠にしているアンケートの回答者は、僅か二百人の大規模農家であることが明らかになりました。また、一九五〇年代にも任命制にする改正案が出されましたが、三年間の議論を経て、当時の農水大臣は、農民の意思と希望を反映し得る公選制の長所、役割を認めたと判断し、公選制を維持したことが明らかになりました。法案提出後の五月、北海道農業会議などは、公選制は農業委員会に不可欠との要望を出しています。まともな議論もせず、公選制は廃止すべきではありません。
 公選制を廃止し、市町村長の任命制に変えれば、恣意的な選任になりかねず、既に現場は混乱しています。また、目的規定から農民の地位の向上に寄与する、業務から農業、農民に関する意見の公表、建議を削除することは、農業委員会の農民の代表機関としての権限を奪い、農地の最適化、流動化のみを行う行政の下請機関に変質させるものです。農業委員は、農家の財産、農地の権利を扱います。この改悪では、地域から信頼され、人と農地と地域を守る農業委員会になりません。
 反対する第三の理由は、農地法の一部改正で農地を所有できる法人の要件を緩和し、企業による農業、農地支配を一層進めるものだからです。
 企業はなぜ農業生産法人に参入するのでしょうか。農業技術と農地を持っていない企業にとって、農家を出資母体として、その農家の土地を使うことで初期のコストを圧縮することができます。食品関連企業は食材調達の安定化を図るために参入しています。また、二〇〇九年の農地法の改正で企業はリース方式で農業に参入することが可能になりましたが、千六十社の株式会社が参入し、既に九十社が撤退したことが明らかになりました。農業と農村地域に与えた影響の検証をすることもなく、企業の参入を更に緩和することを認めるわけにはいきません。
 今、多くの農家は、TPP交渉において譲歩案を提案し、妥結に前のめりになっている政府の姿勢を強く批判しています。政府は、農家の声を束ね、TPP反対を訴えてきた農協組織を政治的圧力で解体しようとしています。
 今回の改悪案は、協同組合の自主性を奪い、家族経営を基本にしている日本の農業と農村の将来に重大な禍根を残すものです。農業組織の解体ともいうべき本法案の採択に強く抗議することを表明して、反対討論とします。(拍手)

○議長(山崎正昭君) これにて討論は終局いたしました。

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○議長(山崎正昭君) これより採決をいたします。
 本案の賛否について、投票ボタンをお押し願います。
   〔投票開始〕

○議長(山崎正昭君) 間もなく投票を終了いたします。──これにて投票を終了いたします。
   〔投票終了〕

○議長(山崎正昭君) 投票の結果を報告いたします。
  投票総数         二百三十
  賛成            百五十四
  反対              七十六
 よって、本案は可決されました。(拍手)