<第189回国会 2015年8月25日 農林水産委員会>


農協法を会社(株式会社)法に近づけたいと意図されている/参考人

○農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)
☆参考人
 株式会社はなやか代表取締役全国女性農業委員ネットワーク会長 伊藤惠子君
 青山学院大学名誉教授 関英昭君
 大妻女子大学社会情報学部教授 田代洋一君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、三人の参考人の皆さん、本当に深い示唆に富んだお話、ありがとうございます。それで、聞けば聞くほど、私、やっぱりこれは通しちゃいけないんじゃないかなというふうに、その思いが強くなっているわけであります。
 最初に田代参考人からお聞きしたいと思いますけれども、いろんな角度からこの問題点について指摘をしていただきました。私、その中でも、農業委員会法の改正の問題でお聞きしたいと思っております。
 大きな変更ということでいうと、公選制から選任制に変えることや、それから農地利用最適化推進委員を設けて農業委員会の定数は原則半減ということを言っていることですとか、意見の公表や建議についても削除ということになっております。
 それで、現場からも分かりづらいというふうに言われている話としては、やっぱり最適化推進委員をわざわざ何でつくるのかと。先ほど、伊藤参考人の話の中でも、推進委員と農業委員が一体になってやらせてもらえればという話あるんだけど、分けてやっていくというところも含めて、それだったら元々、この農業委員の皆さんに、もっと強力に役割をというか、大きくして数を増やすとかいうことも含めてやる方がいいんじゃないのかなというように思うわけですけれども、あえてそうではなくてこの最適化に関する指針を定める。
 田代参考人の話の中では、机上の仕事に農業委員がなっていくという話もされたんですけれども、あえてそうではなくて、わざわざこうやって切り離してやっていくということの狙いが何なのかなというのは本当に思うわけですけど、その辺り、田代さんの御意見をお聞きしたいということが一つ。
 もう一つは、准組合員の位置付けの問題で、准組合員の利用規制問題についてなんですけれども、事業の運営原則、組合は営利を目的として事業を行ってはならないという項を削除をすると、農業所得の増大への最大の配慮、高い収益性の実現ということを追加をしたわけですけれども、田代先生は、農業所得の増大、最大限に配慮ということになると准組合員の奉仕は二の次になるんじゃないかというように述べられています。それがどういうことかということをもう少しお話しいただければと。二点、お願いします。

○参考人(田代洋一君) まず、これは私が答えるよりも、やっぱり政府がどういうふうに考えているかということだと思うんですけれども、農業委員の数を減らして推進委員をつくるということですよね。
 その背景には、農業委員は働いていないんじゃないかだとか、こういう誤解があって、伊藤参考人のお話のように、もうそれじゃなくたって一人で何百ヘクタールを対象にしてやらざるを得ない。そういう点で、やっぱり非常に農業委員の数が少ないことが問題なのに、むしろそれはやっぱり農業委員がたるんでいるという形に持っていって、ともかく機動的に決めちゃえと、あんまり熟議をしないで機動的に決めちゃえ、そのためには数が少ない方がいいという、こういうことと、ともかくもう農業委員さんは、先ほど伊藤参考人がおっしゃったように、やっぱり今まで人と農地を守るということだったんだけど、これからやっぱり職を守る、地域を守るといういろんな大切な仕事が出てくると思うんですね。もうそんなことはどうでもいいから、農地利用の最適化だけをやればいい、そのためのいろんな指針だけを作ればいい、こういう観点から農業委員をなるべく減らしていくと。
 だから、本音から言うと、もう農地利用最適化推進委員だけでいいんじゃないかというところまで考えているんじゃないのかなというふうに思うんですけれども、それは、伊藤参考人がおっしゃるように、まさに地域の方々の農地をめぐるいろんないきさつだとか、そういうことを十分熟知している方々がやっぱり現地で働かなければどうにもならないと。
 何で農地中間管理機構に農地が集まってこないのかというと、一口で言っちゃえば、農地中間管理機構に貸すと誰に貸されちゃうか分からない、下手な人に貸されたらもう本当に自分も迷惑だし、人様にも迷惑を掛ける、そこでやっぱり人気がないわけですよね。そういうところは、やっぱり農業委員さんがきちっと配慮をすると。これ、一度地権者の思ってもみない人のところに借りられちゃったということになったら、もう日本の農地流動化政策はそれで終わりですよ。もう貸したら終わりだ、今まさにそういうふうになりつつあると思うんですけれども、そういう点であるかなというふうに思うんですね。
 もう一点の方の農業所得の増大ということは、これは、農業所得というのは正組合員だけですよね、農業所得に関わるのは。そうなってくると、農業所得の増大に最大限努力するということは、正組合員のためだけに最大限努力するということで、准組合員の方はなくなっちゃうという、そういう点で問題だということは一点と、それから、農業所得というのは、これはやっぱり組合員の農業所得じゃなくて、日本農業全体の農業所得ということになりかねないわけですね。その責任を農協に負わせるのかと。この二点から、やっぱり農業所得という言葉だけを使うのは非常に問題であると。組合員の所得なり組合員の福利ということでよろしいんじゃないか、こういうことで申し上げた次第です。

○紙智子君 ありがとうございます。
 では、次、伊藤参考人にお聞きいたします。
 伊藤さんは、農業従事者であり、そして直接施設、それから農業レストランも立ち上げて実績をつくってこられたと。全国女性農業ネットワークの会長もされて非常にエネルギッシュな活躍をされているなと。とりわけ、参考でいただいた中に書いてあったんですけれども、東日本大震災のそれ以降の復興に向けた活動についても非常に頑張って活躍しておられて、その中で、やっぱり女性農業委員が本当に必要だということを言われていて、非常に感動しながら読ませていただきましたし、やっぱり、私も同じ女性として、そういう意識を持ってやらないと、国会議員の中でも女性の割合って非常に日本は低いですから、そういう意味では、意識を持って努力しないと広がっていかないということを改めて思うんですね。
 そういう点で、農業委員としてももっと活躍しやすくするためにはいろんなことがあると思うんですよ。子育てがあったり、介護があったり、家族のことも含めて、そういうことをやろうと思うと、男性もそれはやっぱりフォローするということで意識が変わっていかなきゃいけないし、そういったことを含めてやっぱりもっとどういう支援が必要かということをお聞きしたいのと、もう一つ、やっぱり今回の改正をめぐっては、公選制で出られたわけなんですけど、この後、やっぱり公選制から選任制に変えるという問題や、それから推進委員を設けて農業委員の定数を減らす、これは減らさないでほしいというのはあると思うんですけれども、それから、意見の公表や建議を削除とあるんですけど、これらについてどのようにお考えかということをお聞きしたいと思います。

○参考人(伊藤惠子君) まず一点目ですけれども、やっぱり家族の協力が一番必要ですし、それと、あと周りの理解、そういう女性の社会参画についての周りの理解が、家族とやっぱり周りの理解がないと、なかなか地方では難しいのかなと思っています。
 二点目が、そういう公選制から選任制という今回のあれになったときに、やっぱりある程度の人数が、まあ私たちが危惧しているのは、今、農業委員が半数になるということで、その中でどれだけ女性が今度入れるのかなというのが一番心配なわけなんですね。本当に女性農業委員は、いろんな面で男性にないやっぱり女性ならではの視点と感性でいろんな活動をしています。例えば食育とか婚活とか、いろんなそういう活動をしていて、それが女性がいなくなったらどうなるのかなと。ただ、本当に農地法だけのあれで終わってしまうのでないかなと非常に心配しております。
 なので、やはり枠というかある程度の、市町村長に対して、農業委員を決めるときに女性は必ず入れてほしいとか、何かそういうのを、ちょっと文言を入れてもらえればいいのかなと。枠というか、何というんですかね、言葉ちょっとあれなんですけれども、そういう文言をちょっと入れてほしいなと思います。
 あと、三点目が何でしたか。

○紙智子君 建議がない。

○参考人(伊藤惠子君) 建議ですね、済みません。
 やっぱり建議とかそれは必要であると思います。今回も、私たち農政の方に入っているんですけれども、農政の方で今回の改正案に対しての建議をしたりとか、三十年には転作がなくなるとか、そういう農業面ですか、そういう農業政策についても町に対していろいろと建議をしていますので、やはりそれはちょっとなくしてはならないのかなと私個人としては思います。

○紙智子君 どうもありがとうございます。
 できるだけ反映できるようにしなきゃいけないというのは、本当に私も思うわけです。
 それから、ちょっと時間がありますから、関参考人にもお聞きしたいと思います。
 それで、協同組合のやっぱり根源的なところというか、ずっとお話をいただいて、過去、農協法の問題についてもいろいろと改正、改善が必要だと、そういう内部からのいろんな意見や、これまでそういうことは繰り返しあったということが言われてきました。先日も地方公聴会もやられた際にも、実は農協改革については過去何回も、今までも変えなきゃいけないという話はあったけれども、今回は全く異質だという意見が出されたんですね。
 それで、今回のこの農協法の改正について、やっぱり関参考人から見ると、現場からはそういう声も出ているんですけれども、どんなふうにお考えなのかということと、それから、国際的にも日本の農業協同組合の活動というのは評価されているんだというお話がありました。ICAの原則を大切にした協同組合の発展ということから見て、お話はいただいているんですけれども、今回の中身、出されている法案というのがどうなのかということについて感想をお聞かせいただきたいと思います。

○参考人(関英昭君) 一口で言いますと、この改正案は会社法に近づけたいというふうに意図されている、そう思います。幸いといいますか、私は会社法を長い間勉強してきましたので、その意図がすぐ読み取れます。協同組合法やあるいは非営利法人法、NPO法を含めたそういう制度と株式会社制度の違いがあるにもかかわらず、それをどうも何か一緒くたにしちゃえというような印象を受けます。
 以上です。

○紙智子君 もう一点。

○参考人(関英昭君) もう一点、何でしたか。

○紙智子君 もう一点は、要するに、ICAの原則を大事にした協同組合、日本は忠実にやっているんだと話されたんですけれども、そのことから見ると、今回出されているものというのは全く逆方向を向いているんじゃないかというふうに思うんですけど、その辺のお考えをお願いします。

○参考人(関英昭君) そうですね、逆行しますね。つまり、ICA原則は協同組合原則ですから、株式会社の原則ではありませんので、相反すると思います。
 ついでですからちょっと意見を言わさせていただきますが、先ほどの准組合員にしても、結局これは会社法にはない制度ですね。だから、なくしちゃえという方向に恐らく行くんだろうと思います。とんでもない。
 私、先ほどから場所のゲマインシャフトということを強調していますが、東京や大都市で議論する場合と、地方で議論する、あるいは現場を見る場合では、この准組合員やゲマインシャフトの発想というのは全然違うと思います。
 地方で、正組合員と准組合員の区別は人を見て分かりません。准組合員がどこがいけないかというのはどこから出てきたんでしょう。つまり、議決権もない、あるいは選挙権もないというようなことであれば、それは協同組合陣営に任せたらいいことです。准組合員からそういう要望があれば、それは内部で議論したらよろしいということで、どうも今回の農協法の改正案はICA原則を全く考えていないし、どちらかといえば、明治維新のときの殖産興業に近い、株式会社をとにかく進めようと、そんな気がします。

○紙智子君 ありがとうございました。
 この後また政府質疑ありますので、御意見を生かすことでやっていきたいと思います。本当にありがとうございました。