<第189回国会 2015年8月18日 農林水産委員会>


農協法改正案・賛成している人は見られない/参考人質疑

○農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)
☆参考人
 広島県農業協同組合中央会会長 香川洋之助君
 龍谷大学農学部教授 石田正昭君
 全国農協青年組織協議会会長 天笠淳家君
 元明治大学農学部教授 北出俊昭君

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 参考人の皆さん、今日は本当に貴重な御意見をありがとうございます。
 それで、先日、富山県で地方公聴会がありまして、このときに、やはり今度の農協改革が農業者の所得向上のためだということが銘打たれているんですけれども、しかし、現場から出されてきた皆さんの声を聞きますと、ほとんど所得が増えると思っている人はいないということだったわけですね。それから、今度のその改革、農協法の改正について、准組合員の規定については、これは削除してほしいという要望も現場から出されておりました。農業委員会法の改正について、この新たな農業委員の選任基準の透明化を求めるという意見もありました。
 それで、現状では、衆議院からずっと議論されてきているんですけれども、こういうものにやっぱり応えられていないというか、それでもって納得されていない、むしろ懸念が出されているというのが現状だというふうに思うんですね。
 安倍首相が施政方針演説のときに、世界で一番企業が活躍しやすい国に日本をするんだというお話ですとか、四十年以上続いてきた米の減反は廃止します、民間企業が支障なく農業に参入する時代がやってくるんだ、あと戦後レジームからの脱却というようなことを言われていて、その言ってみれば線に沿って今回のことがやられているんだろうというふうに思うんです。
 それで、幾つかお聞きしたいんですけれども、まず北出参考人に二つちょっとお聞きしたいんですね。
 一つは、富山の地方公聴会で穴田甚朗中央会会長が、過去の流れを振り返ると、農協法の枠内で変えるべきところは、改善しなきゃいけないことがあるということは、これまで絶えずそういう議論はあったと。しかしながら、今回の農協改革というのは今までのと全く違うというふうに言われていて、まずこの農協改革先にありきだという御発言があって、これ非常に印象に残ったんですね。それで、今までの農協改革と全く質を異にするという改革だという指摘について、北出参考人はどう思われるかということが一つです。
 それからもう一点は、非農民的支配ということで、先ほどの最初のお話の中でありましたけれども、非農民的支配と農業、農村改革問題についてお聞きしたいんですね。
 意見陳述の中で、非農民的勢力の支配は具体的には政府による権力支配と換言できますというふうに言われました。それからまた、ILO勧告の話もされたと思うんですね。政府による権限支配というのはどういうことなのか、なぜILO勧告の話をされたのかということについてお聞きをしたいと思います。

○参考人(北出俊昭君) まず第一点なんですけれど、私が先ほど一番最初に申し上げたのと関係するんですけど、今度の農協改革の一番重要な、従来と違う特徴は、政策の策定過程にあるように私は思います。
 従来、先生方も御承知のように、農業政策、農協政策も含めて、その政策が国の政策になる場合は、農林省が主体になって、与党の農林部会とかしかるべきところと話し合った上で、農業団体の意見も聞いて政策をつくっていたと。つまり、ボトムアップ方式ですね。
 しかし、今度の場合はそういう手法ではないんじゃないかと。最初に規制改革会議がありで、そこで決定された問題が、あるいは話し合われて確認された方針が、そのままと言うのはどうかと思いますけれど、国の政策として現在、法案の改正案も出されていると。したがって、トップダウン方式といいますか、そこが私は非常に大きな今度の農協改革案の特徴じゃないかと思っています。
 したがって、現在、現場の意見が十分くみ上げられていない、現場に即して内容が決められていないという意見は、そういうところにも私はあるんじゃないかと。だから、ここのところをどういうように今度考えていくのか、この法案の特徴として非常に大事なところじゃないかと思います。
 それから、第二の非農民的支配の問題、これは非常に議論の分かれるところだと思います。やっぱり非農民といった場合に、今の現状で、先ほども出されているように、じゃ全部農民の方がいいのかという話になってきたり、あるいは農民の人以外でも経営感覚のある人がどんどんやっぱり農村のリーダーになるべきであると、私はそれはそうだと思います。非農民的の人たちの登場といいますか登用拡大というのは、そういう意味では私は多様な需要に応えていくには必要だと思います。
 私は、ここであえて非農民的支配を政府による権力支配と言うのは、先ほど言った、今度の政策の策定過程がどうもボトムアップ方式じゃなくてトップダウン方式ということは、結局政府の協同組合あるいは農業団体に対する介入になってきている、少なくともそういう危険性があるんじゃないかと。
 先ほどお話ししたような農業団体法のときでも、そこではやっぱり、当時の井野農林大臣は、はっきりと、目標は農村、農民挙げて戦争に協力する団体をつくるんだというような意味で農業団体の統合がされたことははっきりしているので、そうあっちゃいけないと、やっぱり協同組合として本来の活動をやっていくことが必要なんじゃないか、そういうように思っています。

○紙智子君 ありがとうございます。
 では、次に香川参考人にお聞きしたいんですけれども、これは実は富山の穴田会長にもお聞きしたことでもあるんですけれども、香川会長も全中で自己改革案をまとめられる、そういう座長をされたということであります。昨年の十一月に自己改革案をまとめられたと、しかし、その直後に規制改革会議の農業ワーキンググループの会議で農協の見直しに関する意見書を出して、全中監査の義務付けの廃止ですとか、准組合員の規制を早期に導入するということを求めたわけです。
 それで、ちょうど総選挙があって、それを前後して政府・与党でも議論が行われて、最終的には、一つは准組合員利用の規制、それからもう一つは中央会の扱い、言ってみればどちらを選ぶかみたいな、こんな議論があったということも、焦点になっていたということも報道されているんですよね。
 それで、二月八日ですね、このときに全中が、報道ですけれども、最終的には折れたという報道があって、はっとして読んだ記憶があるんですけれども、そのときにどういうやり取りがされていたのかということ、自己改革を、先ほど来お話あったんですけれども、尊重されたのかどうかということについて、改めてお聞きしたいと思います。

○参考人(香川洋之助君) そうですね、自己改革と政府といいますか、そことの間で、今年の初め頃からどういうような交渉過程があったかということについては、恥ずかしい話、実際我々も、やっぱり全中の三役といいますか、そこで詰めてきておりますので、そこまでは我々としたらどういう過程でどうなったかというのは聞いておりません。
 ただ、中央会をどうするか、あるいは准組合員をどうするかということについては、中でいろいろと検討して、我々としたらやはり従来どおり中央会も農協法の中で残してもらいたいということがあったわけですが、この中央会問題につきましては、もう既に昨年の四月段階から新たな中央会にすると、昨年のですよ、というような方向性決まっておったので、まあそういう方向性に基づいてされたのではないかというように思っております。
 ただ、准組合員問題につきましては突如と出てきたような感じがしますので、これは絶対我々としたら、今准組合員をどうこうすることについては、何としても我々としたら反対していこうではないかということをいろいろと討議をした経過はあります。
 ですから、よく後から聞くとバーターであったのとかいうようなこともありますが、そこらのいきさつについては、本当、恥ずかしい話、私も座長をそのときしておったですが、詳しいことについては分かりません。

○紙智子君 ありがとうございました。
 次は、石田参考人とそれから天笠参考人にお聞きします。
 富山県で行われた地方公聴会のときに、非営利規定の削除というのは協同組合の否定につながるという意見ですとか、それから准組合員の利用制限は認められないので削除してほしいという意見も出されました。
 この二点について、それぞれから御意見を伺いたいと思います。

○参考人(石田正昭君) 今日もお話ししましたけど、そもそもにおいて、農協法の立て付けでは組合員というのが、十二条だったかな、あって、それは農業者あるいは非農業者というのかな、そういう人を組合員にしました。十六条でその農業者が共益権も自益権も持っている。共益権というのは議決権、投票権で、非農業者は持たないよと、こういう立て付けになっています。したがって、組合員と言った場合には正も准も込みで組合員なんです。そういう立て付けで、例えば、最大奉仕、非営利というのが第八条で言われてきて、そのとおりにやってきたんですよ、今まで。それが、この度はそこを変えようということで七条が出てきているという、事業運営原則が出てきているというふうに理解しています。
 それで、じゃ、そこはどういうふうに読み込むのといったら、結局第二項にこういうこと、農業所得の最大限配慮しなきゃいけないという項が入ってきて、これはただ単純に農業者の所得増大に取り組めばいいというふうな規定としては読めないわけですよ。何でこれを、出てくるのという、何でそこだけ強調しなきゃいけないのということですね。そこに不連続があるということですから、現場は付いていけませんよと。
 しかも、先ほども申し上げましたけど、現在の監督指針でどう書いてあるかというのをお話ししますよ。
 現在の監督指針では、准組合員制度は、農協が農業者のみならず地域住民の生活に必要な生活支援機関としての役割を果たすことが農村の活性化にとって望ましいこと、ここから次ですよ、また、農協としては、事業運営の安定化を図り、正組合員へのサービスを確保、向上する上でも、事業分量を増大することが望ましいことから、地域に居住する住民等についても農協の事業を組合員として利用する道を開くために設けられている。実態としても、農協は、地域に居住する住民の生活に必要な物資の販売、医療、介護サービス等の提供を行うことなど地域社会において重要な役割を担っていると。これ、今、監督指針というのは、簡単に言えば行政庁、都道府県が各農協を検査するときにこれが基本の視点になっているわけですよ。これ、今も生きているんですよ。この今生きているのを完全に否定するわけですよ。現場は付いていけませんよ。
 ただ、奥原さんのあれ聞いて、次にこういうふうにも書いてあるわけですよ。「このことを踏まえつつ、正組合員の減少と准組合員の増加が恒常的となり、正准比率が逆転する農協も見受けられる現状に鑑み、非農業者である准組合員の増加により、その事業運営が農業振興を進める上で正組合員の利用メリットの最大化に支障を来すことのないよう、」、よく言っていますよ、奥原さんは、正准が逆転した、これが大問題だから、その正に原点回帰するために今度は法律を作ったと言っているけれども、もう既にこれは現在の中でも言われていることですよね。
 それで、その次ですよ、重要なことは。「准組合員の加入に際しては、農協制度の目的・趣旨の理解の促進に努めるとともに、正組合員と准組合員との交流の促進等を図っていく必要がある。 併せて、准組合員の意見をどのように事業に反映させていくのかについて工夫していく必要がある。」と、こう書いてあるわけですよ。
 これならみんな納得するわけですよ。今度のメンバーシップ強化、アクティブ・メンバーシップというんですか、それをJAグループがやると。これは当然やらなきゃいけないことで、ここなら付いていけるわけですよ。これを否定しているというのが今度の法律改正じゃないですか。だから、それは現場は付いていけませんよということが私の基本になっています。
 以上です。

○参考人(天笠淳家君) 最初に協同組合の方ですが、私はそこまで詳しく内容については不勉強で存じ上げておりませんので、私からというか若者から思う協同組合の在り方ですよね、そこについては、我々は本当に、出資者、利用者、経営者、その三位一体となっているのがこの農業協同組合だというふうに思っています。これをいかに我々がしっかりと引き継いで、それを後々の後継人たる人間にどういうふうに継承していけるのかということが一番大事だというふうに我々は常々思っています。
 それから、准組合員に対してですけど、我々のやり方の准組合員に対する理解は、食と農の理解促進なんです。それは、地域の農協が、食農教育というものからいろんなものを育むといった意味合いで地域がどうしても必要なんだよ、農業っていろんな多面的機能を発揮しているんだよといったことをどんどんどんどん後追いをするように、地域住民に対する理解と、それから、それがやはり子供たちに教えることによって親御さんたちも少しは食というものについて考えるようになるだろうというふうに思います。子供の食、やはり好き嫌いも随分減りますし、やはり食べ物を食べて笑顔にできるのって農家だけだと思います。
 そういった意味では、私は、そこまで徹底的にやるためには、やっぱり准組合員の方は我々を本当に応援してくれる、それ以上に我々も今度は恩返しをしなければならない、それは次の代を担う小さな子供たちの命をやはり今後も長く継承できるだけのスタンスを通してやっていけるようにしてあげたいということがありますので、その辺はそういった形でやりたいと思います。
 以上です。

○紙智子君 ありがとうございます。
 あと二、三分ぐらい時間があるので、あとちょっと四人の方に一言ずつ話していただきたいんですけど、地方公聴会でもそれから今日のこの参考人質疑でも、改正案を議論をすればするほど懸念だとか、それからやっぱり意見が出されてきていると思うんですけど、そういう状況の中で、私は、とんとんと何か知らないけど採決してもう通ったわというふうにするのはおかしいなと思うんですよ、どう考えても。やっぱりちゃんと出てきた意見をきちっと受け取ってどうするのかということが必要だと思うんですけど、その点で、やっぱりこれを受け取って政府に対してこうすべきということを是非一言ずつお願いしたいと思います。

○参考人(香川洋之助君) 地方公聴会、また今日の公聴会といいますか、我々が言った意見を十分に反映してもらって、政府の方にも十分に伝えるようにやっていただきたいということだけであります。

○参考人(石田正昭君) 手短に答えたいと思いますが、簡単に言えば、これを否決するなんという、難しいと思うんですよ。したがって、私は、是非附帯意見として、七条二項を准組合員利用規制の根拠規定としないということを一文入れてくださいよ。これが重要ですよ。そうしたらかなりの部分不安は除去されると思いますよ。私は皆さんにそれを期待するよ。立法府の議員の方々、あなた方が作る法律なんですから、最低限そこまできちんと入れておいてもらわないと、安心して農協運営なんかできないというのが本当じゃないでしょうか。
 以上です。

○参考人(天笠淳家君) 我々も自己改革の中で農業所得の増大に全力で取り組むということははっきりと言っております。一方で、やはり食と農を基軸として、地域に根差した協同組合として地域の活性化にも取り組んでいく、そういうことも非常に重要だということも思っております。農業者の職能組合としてのやはり我々ですよね、その性格と、それから地域に開かれた地域組合としての両方を併せ持つ協同組合というのが実態なんではないのかなというふうにも思いますので、その辺十分やはり考えていただきたいというふうに思います。

○参考人(北出俊昭君) 富山の地方公聴会の、これは農業新聞にも載っていたわけですけれど、あれやこれや見て、現在の農協法の改正案について賛成している人は見られないんですね、少なくとも私が知る限りでは。
 今までの農協改革、最近でいえば、農協のあり方研究会の報告とかあるいは経済事業の在り方についての検討委員会中間報告とか、いろんな方針が出ているんですけれど、反対意見はあっても賛成意見も見られて、やっぱりこれが一つの方向じゃないかと意見が合ったわけです。だけど、今度は、現場を含めて少なくとも私の知る限りでは賛成している人は見られない。この法案は、このまま通るということは、国政の政策策定の在り方としていいのかと、そこを非常に危惧します。先生方の是非慎重審議をお願いしたいということです。

○紙智子君 終わります。