<第189回国会 2015年8月10日 予算委員会>


TPP、コメ5万トン輸入枠の提供などの譲歩案を示し早期妥結に走る政府の姿勢を追及

○予算の執行状況に関する調査(現下の政治課題について)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は、安倍総理にTPP交渉についてお聞きいたします。
 アメリカで貿易交渉権限を大統領に与えるTPA法が成立したことを受けて、総理は、ゴールテープに手が届くところまでやってきました、日本と米国がリーダーシップを発揮して早期妥結を目指したいと述べておられます。しかし、実際には、七月二十八日のハワイでの閣僚会合において大筋合意ができませんでした。
 なぜ合意できなかったのか。それは、TPPが各国で国民を幸せにするわけではないことが分かってきたからではないでしょうか。米国の国内においてさえも、TPPでアメリカの雇用が海外に流出する不安から、労働組合や市民団体などの反対運動が広がりました。アメリカ議会でも、エリザベス・ウォーレン上院議員は、ワシントン・ポスト紙で、TPPは多国籍企業独り勝ちの貿易だと言っています。
 私たちもずっと一部の大企業だけ栄えて国民は苦しくなるというふうに指摘してきましたけれども、各国でも今、TPPでは国益は守れないという批判が広がっている。だから、これ大筋合意ができなかったのではありませんか。安倍総理、いかがでしょうか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 詳しくは甘利大臣の方からお答えをさせていただいた方がいいと思いますが、先般の七月末のTPP閣僚会合においては交渉は大きく前進したと思います。しかし、この最後の最後の段階になりますとそれぞれの国が自分の主張を更に強くするということも起こってくるわけでございまして、一部の国の間の物品市場アクセス交渉、知的財産分野の一部について各国の利害が対立をし、交渉を終結させるには至らなかったわけであります。
 しかし、TPP交渉はあと一回閣僚会合が開かれれば決着できるところまで来ていると思います。交渉は最終局面が一番難しいわけでありまして、国益と国益がぶつかり合う厳しい交渉が続いています。我が国も、国益を最大限実現し、いずれ国会で御承認をいただけるような内容の協定を早期に妥結できるよう、交渉に全力を挙げていく考えでございます。

○紙智子君 批判の広がりはアメリカだけではありません。合意できなかった象徴的な出来事として医薬品の特許の保護期間の対立という問題がある。アメリカの多国籍企業である製薬会社は、自らの利益を増やすために特許の保護期間を十二年として譲らないということになりました。日本以外のほとんどの国は、人々の命を救うために、新薬と同じ効果でより安価な後発医薬品、ジェネリック医薬品が製造できなくなるので、五年以下でなければ認められないというふうに猛反発をしたわけです。
 各国の国民は多国籍企業の利益を優先するTPPに批判を強めて、矛盾を広げたから合意に至らなかったんじゃありませんか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 臨場感あふれる御説明をいただきましたけれども、現場に立ち会ったのは私でございまして、医薬品に関しては確かに生産国と消費国との間で思いの違いがあります。あるいは、高い薬をそのまま保険収載すると保険会計が膨らんでいくという懸念を持っている国もあろうかと思います。
 ただ、大事なことは、ジェネリックというのは、新薬が開発されないと次のジェネリックって出てこないんです。難病に対して新しい薬が出てくるということは、開発行為が止まらないということが大事なんですね。開発費を回収できるということと、できるだけ早くみんながその薬にアクセスできるということと、そしてしっかり安全を確保するというこの三つを、一番高い次元で接合点を探すということがこの交渉だと思います。
 日本も、生物製剤に関しては情報の開示期間は八年間持っているわけであります。これは、新薬が許可、認可をされて発売をされている中でも、より広く対象として服用したときに、ある一定の限定された臨床対象では発生しなかったような副作用が出てきた場合、それをすぐ薬の改善にフィードバックできるように対応しているわけです。だから、短ければ短いほど薬が安全ということでもないと思います。
 安全で、そしてより効能の高い薬をできるだけ早く欲する全ての国民に届けるということをどう融合させるかの交渉だというふうに思っております。

○紙智子君 私のところにもリアルタイムで、行かれた方からの情報が入ってまいりました。
 それで、まとまらなかった背景には、安価な後発薬、ジェネリック医薬品を待ち望む人たちと、利益を最優先する多国籍企業である製薬会社との対立構図がやはりあると。安全や健康よりも企業や投資家のためのルール作りを主眼に据えるTPPの問題点が浮き彫りになって、やはり国民の命を支える制度を壊すなと新興国を含めて強い批判があるということは、これは明らかだというふうに思います。
 それで、甘利大臣は、合意できなかったことが議長国であるアメリカの根回しが不十分だったからだということを衆議院で述べられました。しかし、そんな簡単なことではないと思うんですよ。
 メキシコは、日米合意は受け入れ難いというふうに異論を唱えた。メキシコは自動車生産国として日本とも関係が深いわけですけれども、日米だけで合意をしてメキシコに知らせなかったと険悪な状況になったということも伝えられているわけですよ。
 また、ニュージーランドのグローサー貿易相も、自動車について言えば、日米合意がメキシコとカナダの要求を考慮していないと。乳製品については、ニュージーランドというのは、これは日本の自動車と同じぐらい大事なんだ、日米の乳製品の合意というのは全くニュージーランドを配慮していないというふうに批判をしているわけです。
 TPPの原型をつくった四か国の中の一つがニュージーランドですけれども、言わば元々の家主と言っていいと思うんですけれども、そのニュージーランドが日米のこの強引さを批判しているわけですよ。こういう問題もあったんじゃありませんか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 乳製品が際限なく日本に入ってくることがあってはならないと思っていますし、また、その点を一番心配されているのは共産党だと思いますが、その共産党から、過大な要求と思われるニュージーランドを後押しする声があるとは思いませんでしたけれども。
 日本がもっと譲れというのがニュージーランドの声なんですよ。我々はそれを阻止したわけであります。(発言する者あり)いや、事実として申し上げているんです。それで、いろいろな情報が入ってくるかもしれませんけど、直接やり合ったのは私でありますから、私以外の人が私以上に正確な情報を持っているとは思えません。(発言する者あり)
 いや、今は質問にお答えしましたけれども、ニュージーランドの要求が過大でないということは私は言えないと思います。日本は、それ以外の国と適切に交渉を進めているんです。ですから、ニュージーランドは日本ともまとまっていませんし、それ以外の国とも乳製品でまとまっていません。
 この場で、どこの国が悪いとかどこの国がいいということを言うつもりはありませんが、今御指摘をされたことは必ずしも正確ではないということは申し上げておきます。

○紙智子君 国民に対しては、議会に対しても何ら情報を出さないで、よくそういうことをおっしゃいますよね。本当に失礼だと思いますよ。国民に対して失礼だと思いますよ。
 それで、長い間、自由貿易か保護主義かという二者択一でこれまでレッテルが貼られていたこともあります。でも、今はアメリカの中でも決してそうなっていないと思うんですよ。アメリカも日本も、今や関税は世界の中では最も低い方の国になっているわけです。ですから、自由貿易か保護主義かの対立ではなくて、問題は多国籍企業の利益優先と国民との矛盾、これが問題になっているということを申し上げておきたいと思います。
 しかも、日本の前のめり姿勢というのは本当にひどいものだと思いますよ。甘利大臣は、八月末頃に次回の会合を持つというふうに言われました。今回の閣僚会議後の記者会見でマレーシアの貿易相は、今回の交渉ではサインしないんだと言っています。ニュージーランドは、二級の合意を受け入れることを避けられたのはよかったというふうに言っているわけですよね。議長国のアメリカは何と言っているかというと、決着させるならば慎重な設定が必要だと言いました。アメリカのアーネスト大統領報道官は三日の記者会見で、TPP交渉の大筋合意見送りについて、オバマ大統領は基準に満たない合意には署名しないと、アメリカ経済の最大の利益となる合意を追求するためなら、合意の遅れなど批判は喜んで耐えるというふうに述べて、安易に妥協する考えはないということを強調したわけですよ。そういう中で、日本だけが先を急いで早く早くと、早く妥結しようと。
 これは結局、ずれ込んで、当初の思惑狂って、来年の参議院選挙の争点になるのを避けたいためじゃないんですか。いかがですか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) さきのマウイ島での会議は、十二か国全てがここで大筋合意に持っていくという決意を持って臨んだんです。一番交渉が遅れていたと報道されていたカナダですら、最終日に我々はその決意で来たんだということを強く主張されました。でありますから、交渉を遅らせた方がいいだ悪いだという議論はなかったということをまず申し上げておきます。
 そして、私が次の会合はちゃんと設定した方がいいと。それは、出席者、最後のプレナリーセッションでほかの閣僚はみんなうなずいておりました、そのとおりだと。アメリカは、次の会合をセットするということについて明言を避けましたけれども、それまでにしっかりと残されている課題を解決をして、次に会合を開くときには間違いなく大筋合意という確信が得られる下地をつくりたいという思いのようでありました。
 でありますから、どこの国もいろんな声はありますよ。全員が全員、百人が百人、TPP賛成という議会の国はないですよ。ただ、全体として、政府を代表して出ている大臣が大筋合意に持っていこうという決意をみんな披瀝しているわけでありますから、バイの会談でもそういう主張ですから、それが本当の声だというふうに思いますし、それが政府を代表した声だと思います。
 我々は、議論が漂流しないように、きちんと期限を定めて、そこに向かってみんなの思いが結集するようにという主張をしているだけであります。

○紙智子君 質問したことに答えておられないなと。結局は、なぜこんなに急いでやるのか、先のことを考えて、自分の都合で言わば考えておられるんじゃないかというふうに思います。
 それで、日本のこの間の譲歩案についてお聞きしたいと思います。
 日本が出したと言われる譲歩案というのは余りにもひどいということで、日本全国で批判が高まっています。甘利大臣は合意していないから交渉内容は答えられないというふうにおっしゃっていますけれども、新聞各紙が報道しています。パネルにしました。(資料提示)
 ちょっと見ていただきたいんですけれども、上から、米については、米国、オーストラリアに輸入枠を設定、米国には七万トンを上限、輸入義務はなしで決着したいと。それから、麦は、事実上の関税のマークアップを四五%削減。牛肉は、現行の三八・五%の関税を十五年目に九%。豚肉は、一キロ四百八十二円の従量税を十年目に五十円、従価税は十年目に撤廃と。乳製品は、米国、オーストラリア、ニュージーランドにバター、脱脂粉乳の輸入枠を設定、生乳換算で約七万トン。甘味資源は、一定の輸入拡大につながる措置を検討。鶏肉は、関税撤廃に向けて調整。クロマグロ、サケなど、関税三・五%は撤廃と。こういうことなんですか。

資料1


○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 先般の会合は各国が大筋合意を目指すという決意をして臨んでいますから、日本といえども、ここに至ってまだ数字は何も出ていませんと言うつもりはありません。
 ただ、何度も申し上げていますように、これはパッケージ合意なんです。全体がまとまって全体がフィックスするという関係にあります。でありますから、途中経過、まだ現状では全体がこれでフィックスしたということではありませんから、ということは、どういう数字が行き交おうと、それが確定したことではありません。ですから、この段階で日本がこういう数字を出して、これが確定したとかしないとかということは、お答えをする段に至っておらないと思います。

○紙智子君 パッケージ合意だから数字については答えられないというふうにおっしゃるんですけれども、甘利大臣は、米は五万トンの譲歩案を出したということを数字を挙げて認めているじゃありませんか。甘利大臣は、七月の定例記者会見で、日本が五万トンという主張をし、アメリカが十七万五千トンという主張をした、それは事実であります、その間の綱引きがずっと行われているわけでありますというふうに認めているじゃありませんか。
 甘利大臣は、これ、五万トンだったらいいと思われているんですか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 日本のそれぞれの分野の主張、それは当然、日本の主張として何も言わないわけにはいかないということは事実であります。そして、交渉事でありますから、お互いが一方的に相手のところに寄っていくというのを交渉とは言いません。しかし、重要五品目、なかんずく米については、まさに最重要中の最重要の案件であります。これを両者の主張で足して二で割るような解決策は取らないということが日本側の基本的スタンスであります。日本側の主張に目いっぱい引っ張ってくるという交渉を続けているところであります。

○紙智子君 私が今聞いたのは、五万トンでもいいとお考えなんですかと聞いたんです。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 我々の方では、幾らならよくて幾らならいけないという現状で申し上げているわけではありません。農水委員会の中で決議があります、再生産可能な道筋を開くこと。そして、今、市場価格が下がってきております、消費量は減ってきております。そういう中で、日本の米の政策に影響を与えないようにどう対処していくかという中でいろいろと交渉を続けているところであります。

○紙智子君 はっきり五万トンという数字を言われたんですよ。ということは、五万トンは入れてもいいということを勝手にお決めになったんですか。それで何とかなるというふうに思われたから言われたんですか。国会決議に照らしたって、これは大変な問題ですよ。いかがですか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) この交渉をしていきますと、必ず各国から言われますのは、日本はホノルル合意ということを承知で入ってこられたんですねと。ホノルル合意というのは、基本的に関税はゼロを目指していくということであります。それを九か国の首脳が合意しましたと、それは日本は御承知なんでしょうということを必ず言われるわけです。
 我々は、それは承知をしていますと。しかし同時に、この交渉に入っていくときに……(発言する者あり)ちょっと待ってください、今しゃべっていますから。入っていくときにですね……(発言する者あり)

○委員長(岸宏一君) ちょっと静かにしてください。
 質問に答えてください。(発言する者あり)
 速記を止めて。
   〔速記中止〕

○委員長(岸宏一君) じゃ、速記を起こして。(発言する者あり)
 ちょっと速記を止めて。
   〔速記中止〕

○委員長(岸宏一君) 速記を起こしてください。

○紙智子君 五万トンでいいとお考えなんですか。

○国務大臣(内閣府特命担当大臣(経済財政政策)甘利 明君) 先ほどから申し上げていますが、私がいいとか悪いとか言うことではなくて、農水委員会の決議に従ってやっているつもりですから、最終的には国会で農水決議に適合しているか抵触しているかを判断をしていただくということですと申し上げています。

○紙智子君 総理、いかがですか。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 重要五品目の中でも米は極めて重要でございます。当然、農水委員会の決議等を踏まえて、国益にかなう最善の道を得るべく交渉を進めているところでございまして、その考え方に立って甘利大臣もTPP交渉を進めていると、このように認識をしております。

○紙智子君 総理の答弁も含めて、全然これはもうなっていないですね。
 米は五万トン入れてもいいなんていう理屈は、生産現場からいえば到底許されませんよ。既に七十七万トン、ミニマムアクセスのお米が入っていて、米の需給を崩してきたわけです。去年も米価が大暴落をしたと。ただでさえ現場は米価暴落に苦しんで、打開に向けて必死に努力しているわけですよ。
 今まで政府は、毎年八万トン米が余っているというふうに言われてきたわけです。それなのに、何でアメリカ、また五万トンも米を入れるのかと、一体何を考えているんだという怒りの声が現場から渦巻いているんですよ。衆参両院の国会決議というのは、農産物の重要品目、除外又は再協議ですよ。除外どころか何でまた新たに増やすんですか。全然なっていないですよ。
 米だけじゃなくて、食料自給率だって、この間五年連続三九%から変わっていないですよ。これ、国益に反するんじゃありませんか、総理。

○内閣総理大臣(安倍晋三君) 食料自給率また自給力について、我々、向上を図るために農政改革も進めているところでございます。今後とも、生産者、消費者双方に安心をしていただく農政を進めていきたいと思っております。

○紙智子君 全くその答弁聞いても誰も納得しないと思いますよ。
 それで、この後の状況について、ちょっと済みません、パネルを出してください。
 日本政府だけが前のめりになっているということを指摘しましたけれども、既にこれ漂流しかかっているんじゃないかと思うんですよ。
 それで、アメリカのTPA法に基づく議会の承認の手続を見ても、九月末頃に妥結できたとしても、署名までは九十日間掛かるわけです。そうすると早くても十二月末と。それから議会に法律を提出する作業をすると、結局、来年の二月、大統領の予備選挙の時期に重なるわけですから、これはもう審議が困難になるということでありまして、そもそも、やっぱりそういう無理なところをもう先走ってやろうとすること自体、問題だと。
 そもそも自民党は、選挙のときにはTPP断固反対、ぶれない自民党と言っていたわけですよ。それで、政権取ったら、公約を破って、今度は国民の審判から逃げようとすると。このようなこそくなやり方で国民を愚弄するようなTPP交渉からは断固撤退を求めて、質問を終わります。

資料2