<第189回国会 2015年8月4日 農林水産委員会>


農協の株式会社化は財界・アメリカの要求/自民党幹部がTPP「大筋合意」を前提に予算要求

○農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案(内閣提出、衆議院送付)

○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 まず初めに、TPPについてお聞きします。
 TPPの閣僚会合が大筋合意がされないまま終了しました。その経緯と今後の取組、取扱いについて、端的に明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) お答え申し上げます。
 先ほども御答弁申し上げましたが、ルールの分野では相当程度の進展が見られたわけでございますが、その中で知的財産の分野の一部については各国の利害が対立して、そこはほとんど進展がなかったという、そういう大きな分野が一つあったということでございます。それから、物品市場アクセス交渉の中で、一部の国の間の特定物品について、これも各国利害が対立をしてうまくいかなかったと。
 ほかにもあるんですけれども、こうした状況の中で、大きな課題について、特に知的財産の大きな課題について全体を終結させるというところまでは至らず、引き続き各国が課題の宿題を持ち帰った上で整理をしてからもう一回集まった方がいいんじゃないかと、こういう経過になったわけでございます。
 八月の末までに残された論点について各国十分な整理をして、その上で再度集まろうというのが各国の共通認識でございます。

○紙智子君 閣僚声明が出されましたけれども、その閣僚声明の中に触れている実質的な進展を成し遂げという、これは何を指していますか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) ルールの分野につきまして、物品貿易とか、物品貿易のテキストでありますけれども、投資とか環境とか金融サービスとか紛争処理などのこれまで未決着だった分野について、三十一のチャプターのうち、ちょっと前文と最終章を除くと残されたのは四つぐらいだというふうに先ほどお答え申し上げましたが、そのぐらいまで多くの分野について交渉を収れんさせるということができたということは事実でございまして、この部分がかなり実質的な進展と呼べる分野ではないかと思います。

○紙智子君 それなのに、なぜ合意できなかったんでしょうか。端的に、本当は合意すると言っていたんだけれども、できなかったというのは何が原因だったんですか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 知的財産の医薬品にまつわる課題が各国の対立が非常に激しいということと、それから物品の交渉、関税の交渉の中で、ある国とそれ以外の国との間の交渉が膠着状態にあったというのが大きな理由ではないかと思います。

○紙智子君 それで、非常に医薬品の激しい対立と、そのほかのことでも膠着状態だったというのが、八月末までにこれ解消するという見通しはあるんですか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 実際に、それ以外の論点は相当収れんをしたというのは事実でございまして、現場に行きますと、やはりかなりのスピードで各分野のものが収束に向かっていたというのは肌で感じたところでございますけれども、そうした中で特定の課題について各国それぞれ課題を持ち帰って、恐らく閣僚会合の前までに様々な手段を使って、二国間の交渉それから少数国の間の協議などが続けられるものだと思います。
 そうしたことを通じて論点を更に狭めていくと、こういう作業を通じて全体の合意に向けた努力をしていくというふうに考えております。

○紙智子君 希望としては合意できるようにしたいということだと思うんですけれども、これによって、仮に八月に合意になったとしても、米国政府も、これTPAに基づいて議会承認手続に入るためには、議会への協定締結の報告、それと経済的な影響評価で三か月掛かるわけですよね。その後に協定の締結ということになって、それは早くても十一月末と。それから議会に法律改正の事項を提出というふうにしていますから、どんなに早く議会に提出しても、これ審議は来年の二月の大統領選挙の予備選挙の時期に重なるんじゃないのかと。事実上できないことになるんじゃないか。ましてや、八月の末に合意ができないということになったら、これTPP交渉は来年十一月の大統領選挙以降になると言わざるを得ないわけです。
 まさにそういう意味では漂流する状況になるんじゃないかと、その点についての認識はいかがですか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 他国の政治スケジュールについて、私がこの場できっと大丈夫だろうということを申し上げるのもどうかと思いますので、あえて申しませんが、ただ、そういうことも踏まえて、今回議長であるアメリカが、今回は一度解散してもう一回集まろうという、そういう判断をされたというふうに考えております。
 いずれにしても、十二か国全員が今回何とかまとめようという機運があったことは事実でございまして、また次回、何とか今月中に集まろうという思いは、これは十二か国共通の思いでございます。

○紙智子君 集まっても、中身が煮詰まらないとなかなか進まないんだろうと思います。
 私は、この事態を見て、いろんな新聞報道もありました、そういう中で、北海道新聞が書いていますけれども、とにかく日本の政府の姿勢がやっぱり際立って目立ったと。それは、各国が自分たちの産業や利益を守るために必死になって譲らない交渉をしている中で、日本だけはもうとにかく前のめりになってどんどん譲歩しているんじゃないか、もうカードも使い切ったんじゃないかということも指摘をしている状況があるわけです。
 私、問題は、政府が何としても大筋合意するんだといって、国会決議があるにもかかわらず、国会決議に真っ向から反する譲歩に次ぐ譲歩をしてきたということ、これはもう本当に問題だと思うんですね。
 米に関して言えば、これ、報道で出ているところでいってもそうだし、報道を超えてというか、甘利大臣自身も発言されていますけれども、最低でも五万トンもの別枠輸入を米国政府に譲歩したと。これに対して米国政府は、十七万トンもの別枠輸入を要求していると。そうしたら今度は、五万トンプラス二から三万トン、これを上乗せすることを検討する案をまた出すと。
 牛肉の関税については三八・五%から九%に時間掛けてやるということだけれども、これだって分かりませんよね、最初にわあっとやるということもあるわけで、豚肉の従量税についても四百八十二円から五十円に引き下げるということを、それぞれ米国政府に約束をしていると。乳製品の低関税枠も七万トン認めると。
 国会決議無視だと、これは。これははっきりそう言える中身だと思うわけで、もう譲歩に次ぐ譲歩というふうに言わざるを得ないわけですよね。養豚協会もその状況を見て、次世代に畜産業を継がせることができないというふうに危機感をあらわにしているわけです。それから、萬歳JA全中会長も、ここの出ている数字が本当だとしたら到底納得できるものではないと怒りの声を上げているわけです。
 これでもまだ国会決議に反していないというふうに言い張るつもりでしょうか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) 私、七月二十七日に出発いたしましたが、その日、たしか午前、お昼前から農業関係者の方が決起集会のようなものを開いて、私、初めてそういう場にお招きをいただいて、挨拶をしろということで、私が申し上げたのは、国会決議というものは片時も忘れたことはないということでございます。各国の交渉の場でこの決議というものを何度となく説明をし、本当に本当にこの決議なのかということを確認するために日本語の原文を見せろと言われたこともあるという話も御披露いたしました。
 その上で、最終的に国会で御承認いただけるような内容にしなければいけないという思いで交渉をやっておりますというのが出発前の私の挨拶でございまして、そういう気持ちでずっとこれまでも交渉してきているということでございます。

○紙智子君 甘利大臣自身が、それまでは、いや、全て新聞報道ですからというふうに言って、実際そんなことは報道の範囲だというふうに言ってきたけれども、もう五万トンという数字も出して、そういうことも含めて、やっぱり今度の交渉で政府の姿勢として、本当に利益を守るとか国会決議を守るというよりも、妥結をとにかく急ごうと、そういう姿勢が見えて、ですから、JAの会長もそうだし、北海道のJAの飛田会長も、やっぱりこれはもう本当に納得できる問題じゃない、もしそれが本当だとしたら大打撃を受けるんだと、北海道の農業そのものがやっていけなくなるということでの声を上げているわけですよ。
 そういうことを、やっぱり現にこういうことが実際報道されているのにもかかわらず、あくまでもそれは報道の範囲ですからといって明らかにしない、まだ決まっていないので言えませんと、この姿勢そのものが私は本当に許されないと思うんですよ。
 それで、さらになんですけれども、合意もしていないにもかかわらず、この合意内容が国会決議に明確に反しているにもかかわらず、稲田自民党政調会長は、いろいろな影響が考えられ、結果を踏まえて対策を取る必要があるんだと、当初予算と事情が変わったならば補正予算の可能性も含めて検討していくと言って、補正予算の準備に取りかかることを表明したと。さらに、西川自民党戦略調査会長も、次にやれば大筋合意ができるという言葉を信じる、それに基づいて、みんなの期待に応えられるような予算編成をしていきたいと。もう見切り発車もいいところなんですよね。
 国会に合意内容を一切報告もしていない。ここに座っている自民党の与党の皆さんは知っておられますか、中身。誰も知らないですよ。知らないにもかかわらず何で予算編成に加えることできるんですか。もう政府・与党は、対策の予算編成進めるというふうに、そんなこと本当にするんですか、決まってもいないにもかかわらず。おかしいじゃないですか。どうですか、農水大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 澁谷さんから今答弁があったとおりでございまして、様々な報道があることは私も見ておりますが、交渉の具体的中身についてはコメントはできないということでございます。全体をパッケージで交渉しておりますので、何か一部分だけ決まったということはないわけでございますので、どの品目についても確定しているものはないということでございます。
 また、国内対策についても報道があったということでございますが、交渉が続いておる状況でございますので、やはりこの段階で国内対策に言及するということは、相手国に予断を与えまして、交渉上不利益を被るおそれがありますので、私からは差し控えさせていただきたいと、こういうふうに思っております。
 TPP交渉いかんにかかわらず、活力創造プラン、それから食料・農業・農村基本計画、これに基づきまして、概算要求の提出は八月末ということでございますので、しっかりとこの検討を進めてまいりたいと思っております。

○紙智子君 パッケージだから申し上げられないと言うんですけれども、農水大臣は、実は中身はもうよく御存じですよね。分かっていますよね

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 何についての中身でございましょうか。

○紙智子君 今回合意をするために、今回、実は大筋合意ということで中身を大体まとめて、そして発表する予定だったと思うんですよ。それができなくなったので言わないだけで、発表する用意をしていたと思うんですけれども。それができないわけだから、もう数字とかを含めて大体固まっているというのは大臣ですから御存じだったと思いますけれども、いかがですか。言えないかもしれないけど、御存じだったですよね。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 大体固まっているという今委員御指摘がございましたけれども、まさにまだ交渉は続いているわけでございます。
 したがって、例えばこういう紙があって、ブランクがあって、そこに数字を入れる形でいろんな準備をするというのはできると思いますけれども、実際に確定するまではこの数字を入れたものというのは存在しないということだと思います。

○紙智子君 いろいろ言われても、主要な人たちは全部分かっていると思うんですよ、恐らくは。そういうことを全く国民にも知らせない、国会議員にも知らせない。知らせないで、どうして国内対策ということで組むんですか。おかしいですよ。おかしいと思われませんか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 私は、先ほど申し上げたように、私から国内対策云々ということは申し上げたことはございませんし、私としては、やはり交渉が続いている段階で国内対策に言及することは、相手国に予断を与え、交渉上不利益を被るおそれがあるので申し上げるべきではないと繰り返し申し上げているとおりでございます。

○紙智子君 平行線になると思いますのでこれ以上は言いませんけれども、ただ、やっぱりこの出てきている数字、報道だけ見ても、到底これは国会決議をもう守っているなんて言えない状況ですから、そういうTPPは、私はもうこれ以上続けるのではなくて撤退すべきだということを申し上げておきたいと思います。
 次に、農協法の一部改正案の問題についてお聞きします。この農協法等の一部改正案の株式会社規定導入問題ということで質問します。
 今回の法改正で、農協が組織変更し、株式会社になることができるということにしています。全農、経済連についても株式会社に組織変更できる旨の規定が導入されました。本来、協同組合として発展すべきものに対して、相互扶助組織である協同組合とは全く異なる、利益追求を目的とする株式会社の規定を導入すること自体が極めて問題です。
 二〇一四年の十月、先ほど儀間先生もお話しされましたけれども、ICA理事会で満場一致で確認された声明で、特に、協同組合組織を脱協同組合化し株式会社にしようとしているが、それは非合理的なプロセスであると、厳しく株式会社化の規定の導入を非難しているわけです。
 そこでお聞きしますけれども、JA及び全農から、この株式会社化の規定の導入が要求されていたんでしょうか、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 特に正式な御要請があったとは承知しておりませんが、農協の事業等、利用者が多様化する中で、事業を適切に運営する観点で、現在でも全農を含めて農協や連合会が事業の一部をその子会社に行わせている実態があるということは、委員も御承知のとおりだと思います。今まで組織を分割して一部の組織を株式会社に組織変更するという方式がなかったものですから子会社とするしかなかったわけですが、今回、分割と組織変更を可能とすれば、この方式も選択肢としては活用されることが十分に考えられるということでございます。
 農協法という組織法制においては、種々の可能性を考慮した上で適切な対応ができるように選択肢を用意をしておくことが我々としては必要であると考えております。

○紙智子君 実際、子会社化の実態があったんだという話なんですけど、私がお聞きしたのは、JA及び全農から、こうした株式会社化規定の導入が要求されたんですかということをお聞きしたんです。要求されたか、されなかったか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 先ほど冒頭申し上げましたように、正式に要請があったとは承知をしておりません。

○紙智子君 JAや全農から要望されてもいないのに、協同組合組織に対して株式会社化規定を入れるということ自身が、今回の法改正の本質を明らかにしているというふうに思うんですね。
 農協が地域のインフラとしての側面を持っているわけですけれども、既に地域農協では、購買事業などでは子会社化してガソリンスタンドなどを経営しているわけです。そこでは、員外利用として二〇%まで認められていると。それを超えて経営が大変になるとか、そういうことは聞いたことがないんですよね。多くの農協というのは過疎地域を含む農村地域で活動をしていて、人口が増える状況ではないわけです。今の員外利用枠二〇%を上回るような利用者が殺到するというような状況じゃないと。必要であれば准組合員になればいいわけですよね。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 農協というのは農業者の協同組織でございますから、農業者を始めとする組合員に事業を利用させる、これが基本でございまして、員外利用規制というのは本質的なものであろうかと、こういうふうに思っております。
 員外利用規制については、都道府県に指導を徹底させる中で、違反が確認された場合はその都度個別に解消するという方針で対応しておるところでございます。信用事業については員外利用規制に抵触するケースもあったと、こういうふうに承知をしておりますので、今の立て付けはそういうふうになっておるということでございます。

○紙智子君 必要だったら准組合員になるということも、実際上はというか、そういうふうに指導されてきているというふうに現場では聞いているんですけれども、いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 准組合員になっていただければ員外利用規制は掛からなくなると、こういうことでございますので、それは望ましいことであろうと、員外利用規制に反するよりはですね、ということではないかと思いますが、実際には、先ほど申し上げたように、員外利用規制に抵触するケース、これもあったということでございます。

○紙智子君 株式会社に変更するか農協のままで各事業をやるかというのは選択なんだというふうに言われてきているんですけれども、農協の株式会社化というのはそんなに簡単なことではないというふうに思うんですね。協同組合組織の原則の放棄になる、農協の営利化になっていくわけですね。営農指導だとか農業者の生活支援のような、まあ言ってみれば利益に余りならないようなそういう活動というのは、結局、利益を追求していきますと切り捨てられていくわけです。それが中山間地や過疎地域であれば、一層深刻な事態を招きかねないというふうに思うんですね。
 それから、全農や経済連の株式会社化については、選択肢どころか、これ、規制改革会議の実施計画ありますけれども、その中では、問題がない場合には株式会社化を前向きに検討するように促すものとする、促すというふうにされているわけです。だから、選択肢どころか、これ、全農や経済連の株式会社化の強制になるんじゃないかと。
 問題がない場合、農水省は全農や経済連の株式会社化を指導するんでしょうか、大臣。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) この規制改革実施計画ではそういう書きぶりになっていたということでございますが、与党取りまとめに至る過程で、この間も別のところでいろいろ変わったところの確認が規制改革会議にもされましたけれども、今の部分についても、今回法制度等の骨格については、その株式会社にできる規定を置くということだけにしておりますので、促すという部分は入っておりません。したがって、極めて中立的に選択肢を用意したと、こういうのが今の立場であるというふうに考えております。

○紙智子君 それでは、確認ですけれども、全農、経済連が株式会社化の検討の結果、経営上問題がないという場合でも、全農や経済連が株式会社化の選択肢を取らずに従来どおり農協でやるというふうに判断しても、政府としてはその判断を尊重するということでよろしいですね。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 全農、経済連には大胆かつ積極的な事業戦略、これを立てた上で、その戦略を進めるために、連合会組織の方がやりやすいか株式会社になった方がやりやすいのかをよく検討していただく必要があると思っております。
 先ほど申し上げましたように、株式会社への組織変更はあくまで選択肢として導入するものでございますので、全農、経済連の会員である農協の判断に反して無理に株式会社化を求めることは考えておりません。

○紙智子君 それで、問題の本質は、信用、共済の株式会社化にあると思います。本法案においては、信用、共済を除くとしていて、本法案での信用、共済の株式会社化というのは除かれているわけですね。
 そこで、今日は法案と与党の取りまとめの関係についてお聞きしたいと思うんです。
 与党の取りまとめを踏まえた法制度等の骨格がありますけれども、ここでは明確に、「農林中金・信連・全共連は、経済界・他業態金融機関との連携を容易にする観点から、金融行政との調整を経た上で、農協出資の株式会社に転換することを可能とする方向で検討する。」としています。それに対する法制度等の骨格の中では、「金融庁と中長期的に検討する。」としています。
 信用、共済の株式会社化について検討を進めるということですよね、これは。そして、このことが農林中金、信連、全共連から要望があったのかどうか。この二点、お聞きいたします。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 農林中金、信連、それから全共連についてでございますが、今お話のありました昨年六月の政府・与党取りまとめにおいて、単位農協の金融事業の負担を軽くする事業方式を提供する。それから、特に農林中金、信連は、単位農協から農林中金、信連へ事業譲渡を行い、単位農協に農林中金、信連の支店、代理店を設置する場合の事業のやり方及び単位農協に支払う手数料等の水準を早急に示す。それから、豊富な資金を農業、食品産業の発展、特に農業、農村の所得倍増に資するよう、全農等とも連携して積極的に活用すると。
 それから、その組織の在り方ですが、経済界、他業態金融機関との連携を容易にする観点から、金融行政との調整を経た上で、農協出資の株式会社、株式は譲渡制限を掛けるなどの工夫が必要、株式会社に転換することを可能とする方向で検討すると、こういうふうに今御指摘のとおりなっておりますが、実際の組織法制ではこの種々の可能性を考慮した上で環境変化に適切に対応できるようにしておくことが必要だと、先ほど申し上げたとおりでございますが、この農林中金等の株式会社化については、政府・与党取りまとめに基づきまして政府として検討を進めた結果、金融行政との調整を要するということを踏まえまして、金融庁と中長期的に検討するということにいたしましたので、結果として法案には入っていないと、こういうことでございます。

○紙智子君 それで、ちょっと二点聞いたわけですけど、農林中金、信連、全共連からの要請はあったのでしょうか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 正式には要請をいただいたと承知しておりません。

○紙智子君 ですから、やっぱり当事者から要望がないにもかかわらず、この信用、共済の株式会社化を要望しているということですよね。
 これは、在日米国の、先ほど来出てきていますけれども、商工会議所ではないんですか。この在日米国商工会議所は、「共済と金融庁規制下の保険会社の間に平等な競争環境の確立を」という意見書の中で、日本政府は成長戦略の一環として二〇一五年の通常国会に農業改革に関する法案を提出するとしているが、その法案の中には以上の点が反映されるべきであるというふうにしているわけですよね。
 大臣も当然詳細を承知しているというふうに思いますけれども、この在日米国商工会議所の影響力というのは非常に大きいものです。USTRとも連携していると。この在日米国商工会議所の意見書というのは米国の多国籍企業の要求を取りまとめたものなわけです。米国政府の要望もつながっているというように思うんですけれども、日本政府としてどのように対応したのか、明らかにしていただきたいと思います。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 今回の農協改革は、農業、農協を取り巻く状況変化を踏まえて、地域農協が農業者のメリットを大きくするように、有利販売、また資材の有利調達といった農業所得の増大につながる事業に創意工夫して取り組むと、これを期待して農協システムの全体の見直しを行うものでございます。
 今、お話のありました在日米国商工会議所は主として政策提言活動などを行う民間団体でありまして、今お触れになりました昨年六月の提言がどういう趣旨でなされたものか、詳細を承知しているわけではございませんが、いずれにしても、今般の農協改革は在日米国商工会議所の提言を踏まえて検討したものではございません。
 信用、共済事業については、貯金や貯金者、それから共済における契約者の保護、それから健全性の確保については、これまでの法改正により、他業態と同様の措置を講じてきておるわけでございます。先ほど申し上げましたように、この与党の取りまとめの中に、単位農協の金融事業の負担を軽くするですとか、農林中金、信連についていろいろ検討すると、そういうことがございましたので、その組織の在り方ということで株式会社化を検討するということになったわけでございますが、そのまま株式会社化した場合に、銀行法、それから保険業法との関係等、金融行政との調整が必要になるということで、調整が付きませんでしたので、引き続き検討することになったということでございます。

○紙智子君 在日米国商工会議所の意向を受けてそのまま聞いたわけじゃないというふうにおっしゃるんですけど、でも、当事者からは要望出ていないのにどうしてこういうことが進むのかなというふうに、どうしても疑問に思うわけですよね。
 それで、ちょっと続けますけれども、農協の株式会社化は実は韓国でも進行していると。調べてみますと、二〇一二年に韓国では農協が株式会社化をしています。農協中央会の下に、農協銀行、農協生命保険、農協損害保険、農協経済持ち株会社、それぞれの株式会社に転換をしているんですよね。
 この韓国での農協の株式会社化というのは、二〇〇七年に妥結をして二〇一二年に発効した米韓FTAの内容に沿ったものなんですね。その中でも、米韓FTAでは、共済事業と保険事業の間で共済事業に競争上の優位性を提供してはならない、実行可能な限り保険事業と同一の規制を適用しなければならないという規定が明記されたんですよ。そこで、この農協共済が農協生命保険や農協損害保険のそれぞれの株式会社になったと。それはまさに米国の保険会社の要望だったと。それが米韓FTAで実現をしたわけですけれども、言わばこの同じ内容が在日米国商工会議所の意見書に明記されているわけです。
 問題は、今TPPのずっと交渉をやってきているんだけど、TPPの金融サービスにおいても同様の考え方、保険事業と同一の規制を適用という考え方が入っているんじゃないかということで、TPPの二十一分野のうち七割分野はもう合意しているというふうに伝えられているわけですけれども、もうちょっと進んでいるのかもしれませんけれども、この金融サービスは既に内容上、日本政府は合意しているんじゃないんですか。それに対応するために、与党の取りまとめで農協出資の株式会社に転換することを可能とする方向で検討するということを決めたのではないんですか。いかがですか。

○政府参考人(内閣官房内閣審議官 澁谷和久君) TPPの金融サービスの分野は、今回のハワイでの閣僚会合で議論がほぼ収れんした分野の一つでございます。この分野は、越境での金融サービスの提供等に関して、内国民待遇、最恵国待遇といったWTO協定と同種の規律を主として規律しているものでございます。
 なお、参考までに申し上げれば、TPPのこの金融サービスのチャプターの中で、協同組合等が行う共済事業等についての規定は現時点では全く入っておりません。その状況で今交渉がほぼ収束に向かっているということでございます。

○紙智子君 もう一つあるんですけれども、TPP交渉と並行的に日米並行協議が行われています。そこでは金融、保険もテーマになっているわけです。
 そこで、ちょっと今度は外務省にお聞きしますけれども、米国政府からこの日米並行協議で、金融と保険で競争条件の同一性、イコールフッティングの要望が出されていますか。現在どういう状況かということを明らかにしていただきたいと思います。

○政府参考人(外務大臣官房参事官 宇山智哉君) お答えいたします。
 非関税措置に関する米国との並行交渉に関する御質問でございますが、二〇一三年に日米間で交換した書簡に従って、御指摘の保険を含む各分野における非関税措置に取り組むこととしております。なお、保険以外の金融サービスそのもの、全体については対象分野とはなっておりません。
 非関税措置に関する米国との並行交渉の具体的内容につきましては、現在、最終局面ではございますが、現在交渉中でもありますのでお答えを差し控えたいと思いますけれども、米側は、この書簡と同時に発表した米国国内説明用に作成した米側ファクトシートというのがございますけれども、その中で、米国が並行交渉において取り組むことを求める事項として、保険分野に関しては日本郵政に関連する対等な競争条件に関する事項のみを掲げているというふうに承知しております。

○紙智子君 つまり、現在並行協議をやっていて、そのテーマの一つに金融、保険が含まれていて、米国政府からはこの競争条件のイコールフッティングが求められているということですよね。

○政府参考人(外務大臣官房参事官 宇山智哉君) お答え申し上げます。
 確かに、保険分野に関しましてこの並行交渉の中で交渉が行われておりますが、その内容につきましてはお答えを差し控えたいと思いますけれども、この対象分野につきまして、米側の発表によりますれば、それは、保険分野については日本郵政に関連する対等な競争条件に関する事項というのが掲げられているということでございます。

○紙智子君 結局、米韓FTAで、韓国では米国政府の要求で共済の競争条件の同一性が持ち込まれたと。共済農協が株式会社化されたわけです。日本では、TPP及び日米並行協議で同様の要求が米国政府から求められて、与党取りまとめでも、農林中金や信連や全共連というのは、経済界、他業態金融機関との連携を容易にする観点から、金融行政との調整を経た上で、農協出資の株式会社に転換することを可能とする方向で検討するということを、金融庁と中長期的に検討するというふうにしたんじゃないんでしょうかね。
 最後に、林農水大臣にお聞きしますけれども、信用、共済の株式会社化、イコールフッティングを進めるということなんじゃないでしょうか。いかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) TPP交渉については、今、内閣官房また外務省から答弁があったとおりでございます。
 国内の状況については、先ほど政府・与党取りまとめとその後の経緯、お話ししたとおりでございますので、先ほどお答えしたように、中長期的に検討をすると、こういうことになっております。

○紙智子君 実際上の今度の農協法の法文には、信用、共済だとかこれは入っていない、除くとなっているけれども、しかしながら、方向性はつくりつつあり、五年後、また見直しということがあるわけですから、そういうこともいずれ考えているんじゃないかというふうにも思うわけです。それについていかがですか。

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 先生がそういうことと言うときに、どういうことを具体的におっしゃっているかちょっと判然としないところもございますが、私は、先ほど申し上げたように、政府・与党取りまとめで、こういうことはしなければいけないということがあって、それに対応した組織形態として株式会社のオプションをつくるかということになっておりましたけれども、なかなか難しい課題もございまして調整が付きませんでしたので、今回は入れないということでございます。
 したがって、こういうことをやるという中に、今、官房や外務省からお答えいただいたような海外との話が入っていたということではございません。

○紙智子君 信用、共済の問題というのは、実はそこのところが狙われているんじゃないのかというふうにも思うわけです。
 それで、今度のこの法案をめぐっては、最初も申し上げましたけれども、やっぱり農協の株式会社化ということが協同組合の組織原則を放棄することになるし、農協の営利化につながると。そういう意味では、繰り返しになりますけれども、営農指導や農業者の生活支援のような、そういう非常にきめ細かにやっていかなきゃいけないんだけれども利益にならないような、そういう分野というのは切り捨てられていくことにつながっていくと。そういう、やはり今度の農協法については、私どもとしてはもうとてもこれは受け入れられないというふうに思います。一層、この問題をめぐってもまた質問、追及していきたいと思います。
 以上で終わります。