<第189回国会 2015年7月3日 本会議>


協法、農業委員会法等/サケ・マス流し網漁の継続を/TPPなど自由化路線を批判

○本日の会議に付した案件
 農業協同組合法等の一部を改正する等の法律案

○紙智子君 私は、日本共産党を代表して、農業協同組合法の一部改正案について質問いたします。
 本題に入る前に、緊急の課題である北洋サケ・マス漁についてお聞きします。
 ロシア二百海里内のサケ・マス流し網漁を禁止する法案がロシアで成立しました。水産業は北海道の基幹産業です。道東地域の根室市は損失額を二百五十億円と発表、北海道経済にも重大な影響が出ます。日ソ漁業協定があるのに、操業の一方的な禁止を容認するのではなく、今後も操業が継続できるよう日本政府は外交努力を尽くすべきです。官房長官、農水大臣に答弁を求めます。
 安倍総理は、就任後の施政方針演説で、世界で一番企業が活躍しやすい国にすると宣言し、昨年は、四十年以上続いてきた米の減反を廃止します、民間企業が障壁なく農業に参入できる時代がやってきますと演説しました。
 戦後レジームからの脱却、岩盤規制の打破を掲げる安倍総理は、今年、六十年も変わらずに来た仕組みを抜本的に改める、農協、農業委員会の改革を断行すると繰り返しました。
 施政方針演説の第一に農政改革を掲げてきたわけですから、本来、この本会議にも総理自ら進んで出席し、説明すべきです。一言申し上げておきます。
 まず、農産物の輸入自由化路線について林農水大臣に伺います。
 総理は、アメリカ議会上下両院合同会議で、二十年前の農業の開放に反対した、ところが、日本の農業は衰えたと述べました。開放しなかったから農業は衰退したのでしょうか。
 一九八〇年代、ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉が始まり、日本はアメリカの圧力に押されて牛肉、オレンジなどを開放しました。九〇年代以降、日本農業の総生産額や農業所得のみならず、兼業所得も加えた農家所得すら低落の一途をたどり、食料自給率も下がり続けました。
 既に日本は十分開放された国です。しかも、価格支持など農業保護政策からの撤退を強引に進めたため、日本農業の成長分野である畜産、果樹、稲作は大きな打撃を受けました。昨年は米価暴落で、所得倍増どころか半減だとの悲鳴が農家から上がっています。こうして日本農業を衰退させた歴代自民党農政の責任をどう考えているのでしょうか。その反省もないまま、更に開放を進めるTPP交渉の早期妥結を図ろうとしています。
 大統領貿易促進権限法、いわゆるTPA法が米国議会で可決されると、総理は、大きな前進だ、日本とアメリカのリーダーシップで早期妥結に力を尽くすと述べました。TPA法の可決を手放しに喜んでいいのでしょうか。TPA法では、農産物貿易について、交渉相手国の関税を合衆国の当該産品と同じかそれより低い水準まで削減する、また、合衆国を不利にするような諸手法を撤廃、例えば遺伝子組換え技術に影響を与えるような表示や制限義務の撤廃を求めています。つまり、アメリカははっきりした目標を示して妥結を迫ってくるのです。現に、米国通商代表部のフロマン氏は、議会はTPAを通じ高い水準のルールを定めることを期待していると、日本などを牽制する発言を行っています。
 これで農産品重要五品目を除外するとした衆参両院の農水委員会決議を守ることができるのですか。自民党の六つの政権公約を守ることができるのですか。甘利TPP担当大臣並びに林農水大臣の答弁を求めます。
 TPP交渉は、一部の多国籍企業のために各国のルールを変えさせ、主権を脅かすものだからこそ反対世論が広がっているのです。日本農業と地域経済を破壊するTPP交渉からの撤退を求めます。
 次に、農政改革について農水大臣にお聞きします。
 衆議院では、審議するほどに、参考人からも、地方公聴会でも、政府の答弁は分からないし、実情にかみ合っていないと疑問が膨らみ、批判が噴出しました。今回の農政改革は、誰のための何のための改革でしょうか。
 規制改革会議が昨年五月に公表した農政改革案が出発点になっています。農業への参入を求める財界は、規制改革会議を足掛かりに、農業関係者の意見も聞かずに改革案をまとめたため、JA全中は抗議の決議を上げました。片や、農協金融の規制緩和を求めるアメリカの在日商工会議所は、日本政府及び規制改革会議と密接に連携し、成功に向けた支援を行うと表明しました。背景に財界とアメリカの要求があることは明らかではありませんか。しかも、全中が自己改革案を発表すると、当時の農水大臣は、政府の考えとずれがあると圧力を掛けました。農業組織を変える今回の改革案は、日本の農業の土台を破壊するものではありませんか。答弁を求めます。
 農協法の改正について質問いたします。
 政府案では、組合は営利を目的として事業を行ってはならないとの規定を削除し、農業所得増大に最大限の配慮、高い収益性を実現に変えました。収益性を上げるために、利益は少なくとも農業の将来に必要な分野を切り捨てることになりかねません。協同組合の性格を形骸化させ、営利企業化を求めるものではありませんか。お答えください。
 なぜ農協改革が農家の所得を増やすことになるのか、いまだに誰も納得していません。安倍総理は施政方針演説で、農家の所得を増やすための改革だと強弁しましたが、林農水大臣は、この改革だけで農家の所得が増えるとは考えていないと私に答えました。参考人からも、中央会制度を改正すれば農業所得が向上するというのは理解に苦しむと言われています。農水大臣、なぜ農家の所得が増えるのか、改めて具体的に示してください。
 准組合員の事業の利用規制の問題も重大です。
 地域の銀行や商店、病院が減り、農産物の直売所、信用、共済事業、ガソリンスタンド、福祉事業などを行う総合農協が地域住民の生活の支えになっています。准組合員は農協経営や地域経済の支え手となっているのです。利用を規制すれば総合農協の経営は成り立ちません。五年後の見直し規定を入れたのは、財界や大企業が信用、共済事業をビジネスチャンスとして狙っているからではありませんか。明確にお答えください。
 農業委員会の公選制の廃止も重大です。
 農地は複雑な歴史と利害、権利関係など重層性を持っています。どこを、誰が、どのように利用するのが一番適切かを最も把握しているのは農業者自身です。だからこそ、耕作する農家の声を反映させ、地域をまとめる合理的な在り方として、農業者自らが代表者を選ぶ公選制という仕組みを取ってきました。公選制から市町村長の任命制に変え、定数も半減すれば、農地の番人である農業委員会の役割が後退するのは明らかです。農業委員会を行政の下請機関に変質させるものではありませんか。答弁を求めます。
 また、法律で保障された農業委員会の農業、農民に関する意見の公表を削除することは、JA全中の社団法人化や建議規定の削除と軌を一にしたものであり、TPP反対の先頭に立ってきたJA全中とともに農業委員会の弱体化を狙ったものではありませんか。答弁を求めます。
 このほかにも解決されていない問題が山ほどあります。出口先にありきではなく、納得できるまで時間を取って質疑を行うように強く求めて、私の質問を終わります。(拍手)
   〔国務大臣林芳正君登壇、拍手〕

○国務大臣(農林水産大臣 林芳正君) 紙議員の御質問にお答えをいたします。
 ロシア水域における流し網漁業の禁止についてのお尋ねがありました。
 本件については、我が国漁業者が操業を継続できるよう、安倍総理からプーチン大統領に対して再三にわたって働きかけを行うなど外交努力を尽くしてまいりましたが、結果的に法案が成立したことは極めて残念であります。
 流し網漁業の禁止により、北海道の道東地域を中心に地域経済への大きな影響が懸念されますので、直ちに担当官を派遣して、現地の状況と関係者の意向を把握し、関係府省と連携しつつ万全の対策を講じてまいる所存です。
 総理演説の趣旨及びこれまでの農政の責任についてのお尋ねがありました。
 総理は、農産品の市場開放が不十分であったことが農業が衰退した原因だと述べたということではなく、この二十年の間に、農業従事者の減少、高齢化が進展したことを申し述べたものと承知しております。
 農政については、これまで、その時々の農業を取り巻く状況に応じて必要な施策を講じてきたものと考えておりますが、近年、生産者の所得の減少や農業従事者の減少、高齢化、耕作放棄地の増加等が進展していることは事実であります。
 その要因として、国民の食生活が大きく変化する中で、例えば米のように、需要が減少する作物の生産転換が円滑に進められていなかったこと、稲作のような土地利用型農業の部門においては、担い手への農地集積が遅れたこと、農産物の価格が低迷する中で、農作物の高付加価値化が実現できなかったこと等の事情があったと認識しておりますが、こうした状況を一つ一つ克服し、国内農業の活性化を図っていくことこそが農政を預かる者の責任であると認識をしております。
 TPP交渉における農林水産委員会決議及び公約の遵守についてのお尋ねがありました。
 TPP交渉においては、平成二十五年二月の日米共同声明において、我が国の農産品にはセンシティビティーがあること、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められないことが確認されました。これを受け、安倍総理はTPP交渉参加を決断したと承知しており、平成二十四年十二月の衆議院選挙で掲げた公約をたがえないよう交渉しているところであります。
 衆参両院の農林水産委員会においては、重要五品目などの確保を最優先することなどが決議されております。TPP交渉に当たっては、この決議が守られたとの評価をいただけるよう、政府一体となって全力を尽くしてまいります。
 TPP交渉からの脱退についてのお尋ねがありました。
 現在、厳しい交渉を行っている中で、交渉からの撤退について言及することは不適切であると考えております。
 今回の改革案は誰のための何のための改革なのかについてのお尋ねがありました。
 今回の改革のポイントは、農業者の協同組織であるという農協の原点に立ち返り、地域農協が自由に経済活動を行い、農産物の有利販売など、農業者の所得向上に全力投球できるようにすることであります。
 このため、地域農協について、農業者のメリットを大きくできるよう、組合の事業運営原則を明確化し、事業を行うに当たっては農業所得の増大に最大限配慮をしなければならないものとすること、理事の過半数を認定農業者や、農畜産物の販売や法人の経営に関し実践的な能力を有する者にすること等の改正を行うこととしたところであります。
 また、連合会や中央会については、地域農協の自由な活動をサポートする観点から見直すこととしたものであります。
 こうした農協改革の検討過程では、与党の検討の場などにおいて、JAグループの関係者のみならず、個人経営、法人経営を問わず多様な農業者からヒアリングを行ってきたところであり、また、本年二月には、JAグループとも協議を重ね、最終的にJAグループの合意を得た上で農協改革の法制度等の骨格を取りまとめたところであります。
 今般の改革は、地域農協が農業者のメリットを大きくするよう、創意工夫して取り組んでいただくことを期待しているものであり、アメリカからの要求によるものであるとか、日本の農業の土台を破壊するものといった指摘は全く当たりません。
 現行農協法第八条の改正の趣旨についてのお尋ねがありました。
 現行第八条の、営利を目的としてその事業を行ってはならないとの規定は、農協は協同組合であるので、株式会社と異なり出資配当を目的として事業を行ってはならないことを意味しているものであります。この趣旨については、現行法第五十二条で出資配当に上限が設けられていることによって担保されており、この点は今回の法改正においても変更しておりません。したがって、農協の協同組織としての性格には何ら変更はございません。
 一方で、現在の、営利を目的としてその事業を行ってはならないとの規定は、そもそも利益を得てはならない、もうけてはいけないとの誤った解釈もされがちでありました。このため、今回の改正では、この規定を削除し、農協が農産物の有利販売等に積極的に取り組むことを促すため、組合は、事業の実施に当たり、農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならないこととするとともに、組合は、農畜産物の販売等において、事業の的確な遂行により高い収益性を実現し、その収益で事業の成長発展を図るための投資又は事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない旨の規定を追加したところであります。
 高い収益性は、外部の経済主体との関係で極力有利に販売したり、有利に調達したりすることを意味しており、利益の少ない分野を切り捨てることを促しているものではありません。
 農協改革と農業者の所得増大との関係についてのお尋ねがありました。
 安倍内閣においては、農業を成長産業とし、地方創生の核としていくため、農林水産業・地域の活力創造プランに基づき、需要フロンティアの拡大、需要と供給をつなぐバリューチェーンの構築、生産現場の強化を産業政策の柱とする農業改革を進めております。
 こうした政策が成果を上げるためには、これらの政策面の見直しと併せて、経済主体が政策も活用しながら自由に経営を展開できる環境を整えていくことが必要不可欠であります。特に、農協改革については、地域農協が意欲ある担い手と力を合わせて創意工夫を発揮し、自由な経済活動を行うことにより、農産物の有利販売に全力投球できるようにすることで農業所得の向上につなげていくことにしております。
 このため、改正法案では、責任ある経営体制を確立するため、理事の過半数を認定農業者などにするとともに、農業所得の増大に最大限配慮するなど、経営目的を明確化し、選ばれる農協とするため、農業者に事業利用を強制してはならないことを規定しているところです。
 また、連合会、中央会については、地域農協の自由な活動をサポートする観点から見直し、特に中央会については自律的な制度に移行することとしたところです。
 今回の改革を契機として、農業者や農協の役職員が徹底した話合いを行い、役員体制をどうするか、販売方式をどうするか等を検討し実践していけば、農協はその力を十分発揮し、農業所得の向上につなげていくことができるものと考えております。
 准組合員の事業利用規制についてのお尋ねがありました。
 農協は、あくまでも農業者の協同組織であり、正組合員である農業者のメリットを拡大することが最優先です。したがって、准組合員へのサービスに主眼を置いて、正組合員である農業者へのサービスがおろそかになってはならないと考えております。一方で、過疎化、高齢化等が進行する農村社会において、農協が実際上、地域のインフラとしての側面を持っているのも事実であります。
 こうした状況を背景として、准組合員の利用規制について議論がされてきたところですが、これまで規制がなかったこともあって、正組合員と准組合員の利用実態が把握できていないこと、今回の農協改革によって農業者の所得向上に向けた成果がどの程度出るか見極める必要があることから、准組合員の利用規制の在り方については、五年間の調査を行った上で決定することとしたところであります。
 准組合員の事業利用規制の在り方について調査、検討するのはこのような背景によるものであり、財界や大企業が信用、共済事業をビジネスチャンスとして狙っているからではないかとの御指摘は当たりません。
 農業委員の公選制の廃止についてお尋ねがありました。
 農業委員会は、農地に関する市町村の独立行政委員会であり、担い手への農地利用の集積、集約化、新規参入の促進、耕作放棄地の発生防止、解消など、地域農業の発展を積極的に進めていくことが期待をされております。
 一方で、農業委員会の活動状況については、地域によって様々であり、平成二十四年のアンケート調査によれば、農業委員会の活動を評価している農業者は三割にすぎず、農地集積などの農家への働きかけが形式的である、遊休農地等の是正措置を講じないなど、農業者から余り評価されているとは言い難い状況も見られるところであります。これは、農業委員の四割が兼業農家であり、担い手など農業経営に真剣に取り組んでいる方が主体となっていないことに起因する面があると考えております。
 これらを踏まえ、今回の法案では、適切な人物が確実に農業委員に就任するようにするため、公選制から市町村長の選任制に改めることとし、この際、市町村長は、あらかじめ地域から推薦を求め、また募集を行い、推薦を受けた者及び募集に応募した者に関する情報を整理、公表し、その結果を尊重して委員を任命しなければならないこととしております。
 また、今回の法案では、委員会としての決定行為を行う農業委員とは別に農地利用最適化推進委員を新設し、担い手への農地の集積や耕作放棄地の発生防止といった各地域における現場活動を農地中間管理機構と連携して積極的に行っていただくこととしたところです。
 これらの改革は、農業委員会が農地利用の最適化の推進をよりよく果たせるようにするために行うものであり、農業委員会を行政の下請機関とするものではありません。
 農業委員会の意見公表の廃止及び中央会の社団法人化等の趣旨についてのお尋ねがありました。
 農業委員会は、農地に関する市町村の独立行政委員会であり、その主たる任務は、担い手への農地利用の集積、集約化や、耕作放棄地の発生防止、解消といった農地利用の最適化の推進ですが、耕作放棄地が拡大するなど、必ずしも十分に機能していない面があります。
 こうしたことから、農業委員会がその主たる業務である農地利用の最適化の推進業務に集中して取り組むことができるようにするため、今般の法案では、意見公表等は法令業務から削除することとしたところです。
 また、全国中央会については、地域農協の自由な経済活動を適切にサポートするという観点から、自律的な組織形態である一般社団法人へ移行することとしたところであり、これに伴い建議の規定もなくなります。
 法的根拠がなくても農業委員会や全国中央会は意見公表等を行うことは可能であり、したがって、今回の改正はTPP反対勢力の弱体化を狙ったものではありません。
 以上でございます。(拍手)
   〔国務大臣菅義偉君登壇、拍手〕

○国務大臣(官房長官 菅義偉君) ロシアにおける流し網漁を禁止する法案についてお尋ねがありました。
 本件につきましては、日本政府として、我が国漁業者が操業を継続できるよう、安倍総理からプーチン大統領への電話を含め、これまでロシア側に累次にわたり働きかけてきたにもかかわらず、この法案が成立したことは極めて残念であります。
 この法律が発効する二〇一六年一月一日以降、ロシア水域での日本漁船によるサケ・マス流し漁はできなくなりますが、日ロ間では日ロサケ・マス協定は引き続き有効であるとの認識であります。すなわち、引き続き我が国水域内におけるロシア系サケ・マスの操業は可能と考えております。
 日本政府としては、同協定に基づく操業を始めとする日ロの漁業協力につき、引き続き適切に対応してまいります。(拍手)
   〔国務大臣甘利明君登壇、拍手〕

○国務大臣(TPP担当相 甘利明君)
 TPP交渉についてのお尋ねがありました。
 米国においてTPA法が成立をした現在、TPP交渉は最終局面を迎えておりまして、国益と国益がぶつかり合う厳しい交渉が続いているところであります。
 衆参の農水委員会の決議をしっかりと受け止め、いずれ国会で御承認をいただけるような内容の協定を早期に妥結できるよう、引き続き全力で交渉に当たります。
 また、さきの衆議院選挙におきまして自民党は、交渉力を駆使して、守るべきは守り、攻めるべきは攻め、我が党や国会の決議を踏まえ、国益にかなう最善の道を追求するという公約を掲げておりまして、この方針に従って全力で交渉中です。
 交渉が最終局面を迎えている中、交渉からの脱退について言及することは国益の観点からも不適切と考えております。(拍手)